『弱き者、再び獣に遭う』
(キャラ)宮沢鬼龍、ベン
島の夜は、やけに静かだった。
波音がある。風もある。木々は揺れている。
だが、人間の気配だけが薄い。
殺し合いの舞台に選ばれた孤島。
参加者たちは、それぞれ与えられた武器と食料を抱え、森へ、廃屋へ、海岸へと散っていった。
恐怖に震える者。徒党を組む者。最初から殺す気で動く者。
そのすべてを、宮沢鬼龍は退屈そうに見ていた。
IQ200を天才。神の肉体と悪魔の頭脳を持つ怪物を超える怪物。
宮沢鬼龍はそのすべてを退屈そうに見ていた。
「くだらん」
鬼龍は支給されたデイパックを肩にかけることもなく、片手で引きずっていた。
中身を確かめる気すらない。
銃が入っていようが、刃物が入っていようが、毒薬が入っていようが、彼にとっては大差なかった。
武器とは、使う者の器に従う。
弱者が銃を持てば、少しうるさい弱者になるだけだ。
強者が素手で立てば、それだけで兵器となる。
鬼龍はそう考えていた。
森の奥へ進むにつれ、周囲の闇は濃くなっていく。
月明かりは木々に遮られ、足元には湿った落ち葉が積もっていた。
普通の参加者なら、ここで足音を殺す。
奇襲を恐れ、銃口を構え、背後を気にしながら歩く。
だが鬼龍は、隠れない。
獣道の中央を、堂々と歩いていた。
次の瞬間だった。
枝葉が鳴った。
鬼龍の眼が、わずかに横へ動く。
右斜め前方。
高さ二メートルほどの枝の上。
そこに、黒い影があった。
人間ではない。
気配は獣のそれだった。
だが、それはおかしい。
この島に、動物はいない。
少なくとも、主催者はそう説明していた。
危険な野生動物は事前に排除され、島内に存在する生命反応はすべて参加者のものだと。
ならば。
そこにいる猿もまた、ただの獣ではない。
「参加者の一人か……!」
枝の上にいたのは、普通の猿ではなかった。
胸には小型の防弾ベスト。
肩から弾帯のようなものを下げ、両手には短く切り詰められた散弾銃。
そして、その銃口は正確に鬼龍の眉間へ向けられていた。
鬼龍の口元が、かすかに歪んだ。
銃を持たされた見世物ではない。
この猿は、戦場を知っている。
「面白い」
鬼龍が一歩踏み出した。
それを狙いすましたように、銃声が響く。
闇を裂いた散弾が、鬼龍のいた場所を吹き飛ばした。
木の幹が削れ、落ち葉が爆ぜる。
だが、鬼龍はいない。
撃たれる寸前、彼の身体は地面すれすれに沈んでいた。
獣のような低姿勢。
そこから一気に跳ねる。
猿は迷わず二発目を撃った。
今度は鬼龍の進路そのものを塞ぐ射撃。
人間なら、反射的に横へ逃げる。
そこへ三発目を重ねるための誘導。
鬼龍は笑った。
「猿のくせに、射線を作るか」
横へ逃げない。
前にも出ない。
鬼龍は、撃たれた木の幹を蹴った。
砕けた木片が散弾のように宙へ舞い、猿の視界を遮る。
その一瞬。
鬼龍の指が、木片の一つを弾いた。
小さな破片が弾丸のように飛び、猿の銃身を叩く。
銃口がわずかに逸れた。
三発目は夜空へ抜ける。
だが、猿もまた怯まなかった。
散弾銃を枝に引っ掛けるようにして手放すと、防弾ベストを着た小さな影が、闇の中から鬼龍の顔面へ飛び込んだ。
狙いは眼球。
銃だけではなく、急所攻撃も理解している。
鬼龍は首を傾けてかわし、猿の腕を取ろうとした。
だが、掴めない。
猿の身体は柔らかく、軽く、そして速い。
関節の可動域が人間と違う。
鬼龍の掌をすり抜けるように回転し、今度は背後へ回り込む。
直後、鋭い衝撃が走った。
乱暴に振り抜かれた長い腕。
鬼龍は反射的に左腕を差し込み、その一撃を防いだ。
防いだはずだった。
だが、次の瞬間、骨が一発で折れた。
余りの事態に鬼龍の顔にハハと乾いた笑みが浮かぶ。
獣の身体能力は、人間の常識を容易く踏み越える。
筋線維の密度は人間を上回り、瞬間的な膂力は7倍にも及ぶ。
まして、目の前の猿は通常の個体ではない。
武装し、訓練され、戦場を知り、なおかつ獣としての本能を失っていない。
人間が猿を見下ろしていると思っているうちは、決して届かない領域がある。
遥か先を行く猿は、人間にとって師と呼ぶべき存在なのかもしれない。
すなわち、猿先生である。
猿は、折れた鬼龍の腕を見た。
次に、鬼龍の眼を見た。
そして、ゆっくりと散弾銃を拾い直す。
「……やはり獣は侮れんな」
鬼龍は静かに息を吐いた。
猿が銃口を上げる。
鬼龍は半歩だけ後ろへ下がった。
その動きに合わせ、猿の指が引き金へかかる。
次の瞬間、鬼龍は地面を蹴った。
前ではない。
横でもない。
後ろへ。
闇の中へ、一気に身を翻す。
敗北ではない。
戦略的判断である。
少なくとも、鬼龍はそう結論づけた。
だが、それを逃すまいと銃声が響いた。
朱い飛沫が弾ける。
木々を抉る散弾の一つが、逃走する鬼龍の後頭部を容赦なく撃ち抜いた。
「キキィ…………!!」
猿の鳴き声が響いた。
だが、それは勝利の雄たけびではない。
目の前で起きた出来事に対する困惑の鳴き声だった。
鬼龍の体は倒れることはなかった。
多少体勢を崩したモノのすぐに立て直し、そのまま走り続ける。
灘神陰流『弾丸すべり』。
弾丸を滑る様に受け流す奥義。
直撃した凶弾は後頭部から頭蓋を滑り前方へと抜けていく。
気づいたころには鬼龍の姿はすでに森の奥へ消えていた。
猿はしばらく銃口を向けたまま、闇を見つめていた。
やがて、短く鳴く。
森の王は、敵を仕留め損ねた。
だが、追う必要はない。
あの男は危険だ。
次に遭えば、もっと深く噛む。
孤島の夜に、硝煙と獣の臭いだけが残る。
獣を怒らせてはならない。
その教訓を抱えて、宮沢鬼龍は撤退した。
【宮沢鬼龍@タフシリーズ】
[状態]:左腕骨折、頭部負傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:
1:戦略的撤退
2:まずは左腕の処置と支給品の確認を行う。次に会えば、あの獣を殺す。
【ベン@D-LIVE!!】
[状態]:興奮
[装備]:防弾チョッキ、ショットガン
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1
[思考]:人を狩る
1:森を縄張りとして確保し、近づく参加者を殺害する。
最終更新:2026年08月30日 16:40