『軍艦大戦争マーチ』
──黒森峰女学園を打ち破った、あの歓喜も。
──装填手として、主砲へ砲弾を送り込んだ、あの感触も。
──初めてⅣ号戦車に乗り込んだときの、胸の高鳴りも。
──選択科目の希望用紙に、震える手で『戦車道』と書いた日のことも。
──あんこうチームの四人と囲んだ、いつもの学食の味も。
ひとつ思い出すたびに、秋山優花里は脳内で照準を合わせた。
人気のない街を、行くあてもなく、とぼとぼと歩きながら。
砲撃。爆散。
次。
砲撃。爆散。
「J型のここがまたいいんですよぉ……砲塔旋回用の補助エンジンを廃止して、そのぶん燃料タンクを増設して……」
──砲撃。
「それに、やっぱりⅣ号は足回りですよねぇ……片側八個の小さな転輪が、二個ずつボギーを組んでずらーっと並んでる、あの感じ……」
──砲撃。
「でもやっぱり、一番は長砲身の7.5cm砲ですかねぇ……! 初期型の短砲身も、あれはあれで……」
──砲撃。
戦車のことだけを考える。
戦車のことだけを喋る。
大好きなもので、頭の中をいっぱいにする。
思い出が入り込む隙間など、ひとつも残さないように。
そうしなければ────、
…
……
………
『わ、私! 秋山優花里と言います! お話は聞いております、西住殿!』
「え?! に、西住殿……」
………
……
…
「っ……!!──」
「──え、えふ、に型から……。──」
「──F2型から、……長砲身砲が採用されて……そのF2型も後にG型へ名称が変更されて…………」
脳内を覆っていた煙幕が晴れた時。
無理矢理消したかった記憶には、たった一発も命中していなかった。
その周囲の地面ばかり穴だらけにして、砂漠のど真ん中に浮かぶ巨大なスクリーンのような『思い出』には、一発も。
「…………変更、……されて」
優花里は思う。
これでは、パンツァー失格だ、と。
脳内に浮かぶ『思い出』を敵戦車に見立てるなら、これ以上ないほど好条件の射撃だった。
戦場は砂漠のど真ん中。遮蔽物もない。しかも標的はひとつではなく、無数にある。
ましてや相手は動きもしない。砲煙も砂塵も、対戦車ミサイルが飛んでくる心配さえない。
それで一発の直撃もなく、周囲に着弾痕を増やしただけ。
こんな砲撃では、勲章どころか叱責ものである。
「…………」
いや。そもそも自分は装填手なのだ。
命中させられなくて当然ではないか。
照準を合わせ、撃つのは砲手の仕事なのだから。
そんな当たり前のことに今さら気づいて、優花里は自嘲する。
こんな時に、自分はいったい何を考えているのだろう、と。
──なら、どうして。
──あのときだけは『命中』したのか。
「…………あ、『Ⅳ号戦車……F2型』」
いつからそこにいたのか。
考え事をしながら歩いているうちに、優花里は一軒のおもちゃ屋の前まで来ていた。
ショーケースの向こう。
『戦車の模型』を見つけた瞬間、その名前だけは考えるより先に口から出た。
ほんの少しだけ。優花里の目にいつもの光が戻る。
「……長砲身の、7.5cm KwK40……」
ぶつぶつ呟きながら、ガラスケースに張り付いて模型を眺める。
吐息のたび、目の前のガラスが白く曇った。
その向こうでは、月明かりを反射して、ニスの塗られた小さな装甲が鈍く光っている。
周りには、GIジョーめいた兵士の人形や、ヘリコプターの模型なんかも並んでいた。
だが、今の優花里の眼中にはない。
「いいなぁ……これ。欲しいなぁ……」
「砲身の感じもちゃんとしてますし……履帯も細かいなぁ。これ、どこのメーカーでしょう……」
店先に掲げられた『OPEN』の看板にさえ気づかず、優花里は飽きることなくⅣ号を眺め続けた。
分かっていた。
これが、現実逃避だということくらい。
銃声も。引き金を引いた指の感触も。
撃たれた直後、みほの姉が何を言いかけて倒れたのかも。
嫌になるほど、鮮明に覚えている。
それでも今、秋山優花里を『秋山優花里』でいさせてくれるものは、戦車しかないから。
──つまり、
──彼女にとって戦車とは、『精神のエネルギー』にも等しいものだった。
「……見るだけなら……いいですよね。……十五万かぁ。……高いなぁ──」
そう言いかけた折。
「……え? ……………あれ?」
何かが、光った。
『戦車』。
その周囲に並べられていた『兵士の人形』。
そして、その頭上に吊るされた『ヘリコプターの模型』。
ほんの一瞬、その輪郭が奇妙な閃光を帯びたように見えた。
見間違いだろう。優花里はそう結論づけ、再びⅣ号へ視線を戻そうとした。
その時。
「えっ────」
ザッ。
小さな軍靴が、一斉に鳴った。
ショーケースに並んでいた兵士たちが、一糸乱れぬ動きで優花里へ向き直り。
全員が、一斉に敬礼した。
【支給品説明】
『バッド・カンパニーのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』
……虹村形兆のスタンド『バッド・カンパニー』。
歩兵二十名に戦車二両、三機の戦闘ヘリからなる、ミニチュアサイズの軍隊型スタンドである。
小さいからと侮るなかれ。ライフル、地雷、戦車砲、ミサイルと、見た目通りの火力を備えている。
………
……
…
◆
「ああぁあ、そうだ! そうだ分かった!!! 分かりましたぁあああああ!!!!」
砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。
砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。砲撃。爆散。
爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。
爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。
撃て。撃て。撃て。撃て。撃て。
撃っていればいい。
撃っているあいだは、何も考えなくていい。
秋山優花里の背後を、一個軍隊が行進する。
いつ『DISC』を自分の頭へ差し込んだのか、優花里自身にも記憶はなかった。
まほを撃ち、逃げ出した直後。錯乱の最中、支給品を弄っているうちに無意識に使ってしまったらしい。
ただ、今となってはそんなことさえどうでもいい。
歩兵二十。戦車二両。戦闘ヘリ三機。
右へ砲撃。左へ掃射。正面へミサイル。
「分かった!!! 分かりましたよ森口……も、もぐち先生ぇえええええええええええええ!!!!!!──」
「──そうですもん、そうですもんねぇえ!!!! これは殺し合いじゃない!!! 『戦車道』ですから!!!!!──」
「──戦車道で死人なんて、出たことありませんもんっ!!!! 安全装置でちゃーんと守られてるんですから!!!!──」
電柱が裂ける。
アスファルトが弾ける。
電線が千切れて、バヂッ、バヂヂヂヂッ、と青白い火花を撒き散らす。
構うものか。
弾薬?
補給?
兵站?
知ったことか。
こいつらを動かすのはガソリンでも軽油でも弾薬庫でもない。
秋山優花里の『精神』だ。
だったら今だけは、腐るほどある。
それに、あの銃声だって。
あの倒れた身体だって。
あの赤だって。
全部、『試合』だ。
そういうことにしてしまえばいい。
「だ、だだ、だって、仮に人が死んでみてくださいよ!?? ……そ、そんなの、戦争じゃないですかぁあああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!」
全軍、一斉射。
爆発。
爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。
彼女は狂っていた。
いや、違う。狂ったふりをしていた。
そうでもないと、もうやっていられないのだから。
だから、叫ぶ。
──だから、撃つ。
────だから、笑う。
「パンツァアアアアア…………ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
今の優花里に、この軍隊を人へ向ける勇気などない。
誰かに「君は悪くない」と言ってほしいわけでもない。
「仕方なかった」と許してほしいわけでもない。
「僕が支えるから」なんて、優しい言葉が欲しいわけでもない。
ただ、たった一言。
──『一緒に確認しに行こう』という言葉が。一番欲しくて。
「全軍、準備ぃいいいいいい!!──」
「──あ……あんこ、チィィィィィム!!! 指揮官・秋山優花里がぁ……今!! 命令します!!!!──」
「──目標……前方ォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!──」
「──最高だぜぇえええええええええええええええアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
現実を見れば、一番楽になれるのは自分だというのに。
──全軍。
出撃、開始。
【E-6/一日目/黎明】
【秋山優花里@ガールズ&パンツァー】
[状態]:パニック
[装備]:コルト・ガバメント、バッド・カンパニーのスタンドDISC@ジョジョ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて。
1:とにかく攻撃する。
2:とにかく攻撃する。
3:とにかく攻撃する。
4:とにかく攻撃する。
5:とにかく、
最終更新:2026年09月21日 21:50