『壊れた娘の使い道』
東の区画へ向けて歩を進めながら宿儺は空を見上げる。
夜が白み始めている。渋谷の街並みを模したこの箱庭にも律儀に朝がやってくるらしい。
ふと宿儺の足が止まった。
遠くから爆発音が連続して響いている。
ドン、ドン、ドン、と規則正しく重い音が続く。単発の銃声とは明らかに質が違う。金属同士が擦れ合うような、キャタピラが地面を噛むような音まで混じっていた。
音の方角へ迷いなく足を向ける。
やがて視界が開けた場所に出た。
電柱は根元からへし折れ、アスファルトは無数の着弾痕でクレーターのように抉れている。切断された電線が青白い火花を撒き散らし、ビルの窓ガラスは軒並み割れ落ちていた。まるで戦場だ。それも片方の陣営しか存在しない奇妙な戦場。
その中心に少女が一人立っていた。
癖のある髪を振り乱し、目は焦点を失ったまま虚空を見つめている。彼女の背後には異様な光景が広がっていた。
小さな兵士の人形が二十体。整然と隊列を組み、彼女の号令に従うように動いている。加えて小さな戦車が二両、キャタピラの音を響かせながら地を這い、頭上には玩具のようなサイズの戦闘ヘリが三機、飛び回っていた。
ミニチュアだが本物の火力を持つ軍隊。
小さいとはいえ並の人間を蜂の巣にする程度の威力はあるが、宿儺を相手にするには力不足でしかない。
弱者を狩るという方針に沿って動くなら早々に殺してしまうべきだろう。
宿儺はその場から動かず、瓦礫の陰に半身を隠したまま、十数メートル先の小娘を見据えた。呪力さえ練れば、この程度の間合いなどあってないようなものだ。
「て、敵影確認……! 距離八百……いえ、六百……ッ 撃て! 撃ってくださいぃ!」
号令とともに戦車の砲塔が旋回し、何もない交差点の一角へ向けて砲弾を撃ち込む。アスファルトが弾け、コンクリートの破片が舞う。歩兵の隊列が整然と銃撃を加える先にも、やはり何もない。
ヘリが放ったミサイルが、既に瓦礫と化した建物へさらなる風穴を穿つ。
誰もいない。
彼女は、何もない空間に向かって、全力で軍隊をぶつけ続けているだけだった。
「あはは……あはは、当たった、当たりましたよ西住殿……! これで、これでもう大丈夫……!」
涙と引き攣った笑いの入り混じった声。
宿儺の目が僅かに眇められた。
誰もいない虚空に向けて、延々と砲弾を撃ち込み続けている。
「敵影確認……! 撃て!」
優花里は自分の周りに整然と並んだ兵士たちを見つめ譫言のように繰り返す。
「私が……私が、西住殿のお姉さんを」
更に彼女は涙に濡れた顔で譫言のように何かを繰り返している。西住殿。ごめんなさい。まほ殿を殺してしまった。みほ殿のお姉さんを。断片的な言葉が脈絡もなく漏れ出てくる。
この娘は壊れている。
哀れとは思わない。ただ滑稽だとは思った。
殺意を込めて構えていた宿儺の手が僅かに緩んだ。
興が削がれたわけではない。ただ、少しばかり──思案の余地が生まれたというだけの話だ。
宿儺はその場に立ち止まったまま、しばし、その光景を眺め続けた。
この壊れた小娘は、今もなお誰もいない虚空に軍隊をぶつけ続けている。いずれこの島をさまよい歩く別の参加者と鉢合わせるはずだ。
もし行き会うのが力のない一般人であれば──あの物量の軍隊は有効に機能するだろう。ただの弱者であれば、あの数の弾幕を前にひとたまりもない。
生かしておけば勝手に間引きをしてくれる。
悪くない。悪くはないが──。
冷静に見積もれば、この娘の戦力など、たかが知れている。歩兵二十、戦車二両、ヘリ三機。連携すれば脅威にはなるが、それも武器を持たぬ無力な相手に限った話だ。
もしこの娘がある程度の実力を持つ相手と行き合ったならすぐさま制圧される。
あの物量も狙いを定めて確実に対処できる者の前ではただの的でしかない。
そしてこの娘を制圧した相手が殺し合いに乗っていない甘い性根の持ち主だったとしたら。
きっと殺しはしないだろう。
哀れみ、言葉を尽くし、正気を取り戻させようとするはずだ。
その優しさに触れれば娘は案外あっさりと正気を取り戻してしまうかもしれない。
そういう結末を宿儺は好まなかった。
結局のところ一番手っ取り早いのは自分の手で始末をつけることだ。
この壊れた娘の首を飛ばすなど赤子の手を捻るより容易い。
ただ弱者を一方的に嬲るのは好むところだが、それにしたってあれを単に殺すのでは芸がなさすぎる。
譫言のように繰り返される言葉。西住殿。ごめんなさい。西住殿のお姉さんを──。
この娘の言葉が単なる妄言でないなら「西住」という誰かが、この箱庭のどこかに実在する可能性がある。
宿儺は懐から自身のスマートフォンを取り出して参加者名簿を閲覧した。
西住しほ。
西住まほ。
西住みほ。
途中まで確認すると三つの名が並んで表示されていた。
同じ苗字を持つ人間が三人。しかも下の名にはどこか統一感すら感じられる字面だ。
おそらくは家族。母、姉、妹。あるいはそれに準ずる関係。そして、その一人──「みほ」という名は、たった今、目の前で泣き喚いている小娘の口から、幾度となくこぼれ落ちていた名でもある。
憶測が確信に変わった瞬間だった。
この壊れた娘の知り合いは、間違いなく、この会場のどこかに存在している。それも一人ではない。少なくとも三人。
宿儺の脳裏に一つの絵図が浮かび上がった。
この壊れた小娘を上手く飼い慣らし、手駒として従える。
弱者狩りにも積極的に活用し、娘を一廉のマーダーに育てる。
そうして、この娘が知り合いと鉢合わせる機会が訪れたなら──。
「ケヒッ……」
ただ首を刎ねて終わらせるより遥かに面白い。
【E-6/一日目/早朝】
【両面宿儺@呪術廻戦】
[状態]:呪力消費(中)、術式への制限(自覚済み)
[装備]:なし
[道具]:スマホ、ランダム支給品×0~2(影に格納済み)
[思考・状況]基本方針:塵殺。
1:ヴォルデモート、ゼオンと連帯し、会場の東で弱者を狩る
2:秋山優花里を手駒として従える。
3:術式への制限について情報を集める。
4:最後に女の後ろにいそうな主催と闘るのも悪くない。
5:マハトは殺す。
6:次の日没時にD-3へ向かう。
※参戦時期は25巻。人外魔境新宿決戦開始直前で、所謂"伏黒宿儺"です。
※魔虚羅は一戦闘後自動的に顕現解除されるよう制限されています。
※一度顕現させると次の顕現まで六時間必要となります。
※「大蛇」「虎葬」「円鹿」が「鵺」へ継承され、「嵌合獣 顎吐」に変化しています。
【秋山優花里@ガールズ&パンツァー】
[状態]:パニック
[装備]:コルト・ガバメント、バッド・カンパニーのスタンドDISC@ジョジョ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて誰か助けて。
1:とにかく攻撃する。
2:とにかく攻撃する。
3:とにかく攻撃する。
4:とにかく攻撃する。
5:とにかく、
最終更新:2026年10月03日 10:02