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『redo』






───真人。君の言う呪術とやらは個性とも違う力らしい。実に興味深い。

───だが、正直な所『個性』ではない、未知の力というのは半信半疑な部分があってね……

───君の無為転変とやら、一度見せてくれないだろうか。例えば、この余計な事を喋る鏡に。

───そうかい、やはり魂があるのか。であれば………君ならば分かるだろう?

───つまらないネタバレをされては、折角の鏡の見せ場を奪ってしまう。

───だから、そう……願いを叶えやすい様にしてやってくれ。


『ま……待て、やめごぉおおおぼおおおおおお──────ッ!
……………ッ!─────ッ!?!?………………』


───ありがとう。君の力は本物だった。君は僕の事をどうでもいいと思っているだろうが……

───僕は君を評価しよう。君への協力は惜しまない。何かあったら連絡すると良い。


◆



───さて、少し出てくるよ。


時刻は5時前に差し掛かったころ、バーの出入り口の傍で死柄木はセリュー・ユビキタスにそう告げた。
当然、セリューは渋った。危険だ。正義の徒として自分も行く。死柄木先生だけ行かせるには。
そういう類の言葉をマシンガントークで囀り、引き留めようとする。
だが柔和な笑みを浮かべて、死柄木は首を横に振った。
悪いが、君はともかくしお君を爆弾の処理じみた事に付き合わせる訳にはいかない。
まさか彼女だけを置き去りにする訳にもいくまいしね、と。


「この呪霊という…君の言う危険種のような怪物が見境があるとは思えない。
それに、とても強い力を持っている様だからしお君を連れていると危険だ。分かるね?」


それは、しおの支給品に入っていた黒い団子の様な珠だった。
特級呪霊という怪物が封印されているらしい。それを人のいない場所で安全な形で処分する。
死柄木はセリューにそう告げた。


「で!でしたら私が………」
「いや、僕が適任だろう。僕に対してはしお君は人見知りをしてしまうようだし、それに───」


死柄木が言葉に一瞬間を開けると共に、彼の身体が掻き消える。
しかしセリューには反応できなかった。彼女ができたのはただえ?と惚けた事をあげることだけ。
次に感じたのはふわりという浮遊感。目にも止まらない速さで持ち上げられたのだ。
それを理解したのは、地面に向けて押し倒された後だった。
ダンスの演目の様に後頭部を死柄木に支えられた上で。


「───これでも僕は君より腕が立つ。その自負はあるんだ」


死柄木の色素の薄い瞳と、セリューのブラウンの瞳が交わる。
彼はセリューを支える腕とは逆の手を彼女の鎖骨の辺りに添えていたが。
物凄い力だった。比肩するのはきっとエスデス隊長を置いて他にいない。
帝都でも名の通った達人であるオーガに師事し、改造手術を施された自分でも押しのける事ができない。
その事実は、セリューに死柄木に対する畏怖を抱かせるに十分な物だった。


「お、お見それしました……!」


圧倒された様子で声をあげるセリュー。
そんな彼女に対しにっこりと柔和な笑みで死柄木は彼女の身体を引き起こす。
彼女の様な人間は力を示した方が納得させやすい。見立て通りに事は運んだ。


「理解に感謝するよ。ただ、私のいない間に襲撃を受ければ事だ。
君の力を疑っている訳では無いが、何せここは会場の中央。どんな参加者が来るか想定が難しいからね」


だから、ひとまず落ち着けそうな…私の目覚めた場所まで案内しよう。
少しの間待っていてくれと死柄木は告げ、そのままバーの勝手口を締める。
はっと慌ててセリューも飛び出し死柄木を追うが、その時には既に彼は空へと身を躍らせていた。
帝具も使っていないのに、目を丸くして立ち尽くすセリューだったがしおの手前追いかける訳にもいかない。
仕方なくバーへと戻り10分ほど経ってからだった。異変が起きたのは。


「わ……っ!」
「ひゃ…っ!?」


前触れなく黒い泥が更に地面からにじみ出る様に現れ、抵抗を許さずセリューの身体を飲みこむ。
本能的に跳ねのけようとするものの、泥は流動的で上手くいかない。
更に泥が飲みこもうとしているのは彼女だけでなく、入口より奥に控えていたしおをも飲みこもうとしていた。
コロ!と叫び帝具に助力を乞おうとするがそれよりも早くセリューらの視界が、闇へ閉ざされる。


「………ッ!?……ここは……?」
「地図で言えばC-2の辺りかな。保証はしがたいが、ここならばさっきの場所よりは危険は低いだろう」


無茶をして悪かった。ただ僕の『転送』の個性は使い勝手が途上でね。
僕の元に持って来るか、僕の馴染みの深い人間の元へと送る事しかできないんだ。
目が覚めた途端おんぼろなあばら家が目に入り、状況を掴みかねている二人に死柄木はそう語りかけた。
宮本伊織の魔術工房。施設の名前だけで言えば信じがたいボロ屋が、死柄木の初期開始位置だったのだ。


「では行ってくるよ。時間は、そうだな……遅くとも放送の三時間後、9時には戻ってこよう。
それまではセリュー君も主催の内通者探しでも、人命救助でも、しお君のお守りでも、好きにすると良い。
ここには僕の生徒もいる。できる限り避けるつもりではあるが、ともすれば帰還が遅れるかもしれないからね」


まぁ、生徒がいるというのは後々探す名目で動きやすくするための嘘なのだが。
もし襲撃を受けてこのあばら家を離れなくてはならなくなった際は、A-6の灯台で正午に合流しよう。
死柄木は相変わらず柔和な、しかし有無は言わせないといった視線でセリューを見つめ。
セリューはその眼差しに確かな自分への信頼と、我が身を危険に晒して危険種を処理する正義を視た。
故に彼女は敬礼のポーズを取り、特殊警察イェーガーズとして宣言を行う。


「承知しました!……人命救助、しおちゃんの護衛、そして悪の殲滅!
全てお任せください!シガラキ先生もどうかご武運を!外までお見送りいたします!」


士気は揚々といった様相で、セリューはあばら家の外まで死柄木を送り出そうとする。
頷きつつ、しお君とも少し話をしてから行くから先に出ていてくれるかい?
そう命じると従順そのものの態度で足早にボロ家を後にした。
正しく親ガモに服従する子ガモの如く、だ。
苦笑を浮かべ、懐に仕舞っていた支給品を取り出しながら死柄木はしおへと語り掛ける。


「怯えなくていい。しお君の鞄に入っていた黒い玉の代わりのものをプレゼントしたいんだ」
「プレゼント?」


あどけない顔立ちに、どこか警戒心にも似た感情を浮かべたしおへ。
死柄木は彼女の頭を優しく撫でつつ、しおの手に一枚の鏡を握らせる。
そして、これは魔法の鏡だと童話に出てくる魔法使いのように伝えた。


「これは願いを叶えてくれる魔法の鏡だそうだ。君やセリューが危ない目に遭ったら使うといい。
あぁ、もし僕が怖いなら……他の子に渡して使わせてあげてもいい。きっと喜ぶだろう。ただし………
あげる時以外は誰にもこの鏡のことを伝えてはいけないよ。力が消えてしまうからね」
「ねがい、叶えてくれなくなるの?」
「あぁ。本人が使っていいよとあげた人にしか、この鏡が願いを叶えてくれることは教えてはいけないらしい」


しおの問いかけに対して、人差し指を口に当て微笑を浮かべながら死柄木は頷く。
その言葉にしおはぎゅっと身体を強張らせ、死柄木と鏡を交互に見る。
死柄木先生は……何だか苦い……気がする。でも…渡された鏡はとても綺麗だった。
鏡の力に魅入られたかのように、しおはぎゅっと両腕で鏡を抱きしめて。
そして礼は言わないまでも、ぺこりと頭を下げた。
その様を見て満足げに瞼を細め、死柄木は姉妹に留守番を頼む親の様にしおに告げる。


「セリュー君の言う事を聞いて、いい子にしているんだよ」


その後の彼の表情は、しおには見えなかった。
足早に立ち去る黒の背広に覆われた、広い背中だけしか見えなかったから。
多分、笑っているのだろう。そう思ったけれど。
淡い輝きを放つ鏡を見ていると、さっきよりも死柄木に対する苦味が薄れている。
その事に彼女は気づいていなかった。


「きれい……」


そのまま鏡を見つめて、何を叶えて貰うか考える。
真っ先に思い浮かんだのは最も大切な人。しおに甘い世界を教えてくれた人。
さとうに、会いたい。さとちゃんを、此処に連れて来て欲しい。
そう思ったが、でも『先生』は自分のセリューが困ったら助けてやれとも言っていた。
必然的に、どうしようと思い悩んでしまう。


「セリュー・ユビキタス!無事シガラキ先生のお見送り遂行いたしましたッ!」


結局、結論を出す前に無駄に大きな声でセリューが室内へと戻って来る。
反射的に、さっと近くにあった自分の鞄に鏡を隠した。
セリューのお姉ちゃんのことは好きだけど、話したら鏡の不思議な力が消えてしまうらしいから。
先生の言いつけはきちんと守って、ひとまず願いが決まるまで内緒にしておく。


「…?しおちゃん、どうしたの?」
「…なんでもないの。せんせいからお姉ちゃんの言うこと聞いて、いい子にしてるんだよって」
「しおちゃんはもういい子だよ~~~だから、『悪』と会ったら、一緒に根絶やしにしようね!」
「…………うん」



─────セリューくん、分かっていると思うが、内通者にはくれぐれも気をつけるようにね。
─────顔は良く見えなかったが、あれは体格的に男性だったと思う。



しおの頭を撫でながら、セリューはシガラキからかけられた言葉を反芻していた。
無辜の子供を悍ましい蠅の怪物に変え、自分を襲わせた主催の尖兵。掃除する必要のある社会のゴミ。
しおを守ることと同等以上の目的意識で、内通者という悪の排除も進めたい。
だが仮に聞いて回った所で、シラを切られるだけだろう。悪は嘘と言い訳だけは達者だからだ。
それどころか、口封じにセリューやシガラキが怪物に変えられる恐れがある。秘密裏に進めねば。
とは言え、このまましおのお守りをしていたのでは手がかりを得にくい。どうするべきか────


「……ん、どうしたの、コロ?」


素直に過ぎる思考を必死に巡らせていた時。
傍らでコロと遊んでいたしおがコロの変化に気づき声を漏らす。
それに釣られてセリューもコロに視線を移すと、コロはくんくんと鼻を鳴らし鋭い表情を浮かべていた。
この生物型帝具がこんな様子になっている時に、セリューは心当たりがあった。


「……しおちゃん、ちょっとごめん!!」
「え?わっ!?セ、セリューお姉ちゃ────」


多少乱暴になるが致し方なしと、しおを抱えて駆け出す。
コロがこんな表情を浮かべる時、それはどんな時か。
それは───血の匂いを感じ取った時であると、セリューは経験から知っていた。
それ故に彼女はしおを小脇に抱え、コロに先導されながら匂いの方へと突き進む。
目的地は、そう遠くない場所に位置していた。



「────大丈夫ですか!?特殊警察イェーガーズです!!」



駆け出してから、10分程度の距離に立っていた商業ビルの4階。
そこに、その女性は倒れていた。
顔面を殴られたのか鼻血を噴き出し、しかし黒髪の美しい美人だと感じさせる女性。
彼女の脈を確かめながら、セリューは彼女を抱き起した。
そして、大声で呼びかけながら意識を確かめる。


「あ……う……ぁ…………助け、て…………」
「勿論です!ですがその前に…誰にやられたんですか!?貴方をそんな風にしたゴミクズの悪を教えて下さい!」


気道を確保した姿勢を取らせたのち、頬をバシバシと叩きながら悪の所在を問う。
シガラキ先生のお陰で、早速悪の手がかりに辿り着けたかもしれない。
セリューは心中で彼に感謝を述べながら、女性に発言を促す。
その女性が、つい数時間前に1人の少女を撃ち殺し、更に二人の男女を撃ったことも知らず。


「ゔ………け、警察のフリをした男と……髪の長い女の人とウニ頭の男に襲われて………
げほっ……な、なんとか………銃、撃って、ここまで………逃げて……………………………」


プレッシャーから、苦し気にせき込みながら───泉美は無我夢中で目の前の女性に助けを求めた。
殺される、ここで言葉を違えれば間違いなく殺される。
重圧で押しつぶされそうになる中で、無我夢中で言葉を紡ぐ。
保身に支配された脳は黒岩のみならず、自分が撃った…口封じをしたいしほと伏黒すら貶めた内容を。
目の前で助けを求めている相手が、真相を知れば即刻粛清に走る女だとも知らずに。
涙でぼやけ、殴られて朦朧とした意識では気づかない。
今、粛清すべき悪の気配を感じ取った目の前の女がどんな表情を浮かべているのかすら。


────期待しているよセリュー君。君は悪役(ヒーロー)になれる。


見送る最中シガラキから贈られた言葉が脳裏を過り、セリューの全身に使命感という力が満ちる。
しおからは見えない様背中を向けつつ、獰猛な、血に飢えた猟犬の表情で彼女は笑った。
さぁ、決意と憎悪と陶酔が入り混じった、正義を貪る時間を始めよう。


「おっといけない、その前にまず人命救助ですよね!悪の所在も聞かなければいけないですし!」


巨大化させたコロに二人を担がせ、自分は襲撃に備えられるようにしつつ。
シガラキとの待ち合わせ場所である伊織の長屋へとセリューは引き返す。
女神のように明るく朗らかな笑顔の裏に、ドス黒い漆黒の殺意を滲ませて。



───そして、その間も。しおのデイパックの中で霊界の三大秘宝である暗黒鏡は静かに時を待つ………



【暗黒鏡@幽☆遊☆白書】
オール・フォー・ワンに支給。
霊界の三大秘宝と呼ばれる手鏡で、満月の夜に願いを唱えるとその願いを成就させる力を持つ。
ただし、その代償は願った者の命である。
本来であれば「いいのか!?その願いのために命を犠牲にするというのか!?」とかなり確認してくれる、
親切極まる鏡だが、真人の無為転変により改造されてしまっている影響で確認はしてくれない。
また、願う際には呪文を唱える必要があるが、無為転変の影響により省略できるようになっている。
ただし鏡の力が満ちる満月の夜に願わなければ、何か大幅に補填する要素がない限り願望の成就は、
『必ず失敗する』。その場合も使用者への命の徴収は通常通り行われる。
前提として会場外への脱出や首輪の無力化、参加者の殺害や死亡済み参加者(死亡表記の出た参加者)の蘇生など、脱出や参加者の生死に関わる願いは履行されない。

一度使用すると、再使用可能になるまで12時間使用不能となる。






【C-2 宮本伊織の長屋/魔術工房内/早朝/1日目】
【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:ステインの刀@ヒロアカ、魔獣変化・ヘカントケイル@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、トガヒミコの制服@僕のヒーローアカデミア
[思考]:悪を滅ぼして、正義を示す。
1:シガラキ先生もしおちゃんも、みんなの笑顔も、私が絶対に守ります!
2:さとちゃんさん……置き手紙、ちゃんと読んでくれたかな? 『大丈夫です。しおちゃんは一時的に預かっています』って。
3:まず女性から話を聞き、悪を粛清する。
4:シガラキ先生が帰ってこられるまで、私がしおちゃんを守ります!
5:主催の内通者を探す。シガラキ先生が言うには男性が怪しいとのことだが……怪しい者は見敵必殺!

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:不安(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、暗黒鏡@幽☆遊☆白書、不明支給品×0~2
[思考]:……さとちゃんに、会いたい。
1:……セリューお姉ちゃん、やさしいと思う。
2:コロちゃん、かわいい。
3:…………せんせいがいなくなって、ちょっとあんしん。でもくれたカガミはきれい…
4:カガミに、なにをおねがいしようかな?

【泉美@みいちゃんと山田さん】
[状態]:顔面打撲、疲労(小)、精神疲労(大)、黒岩への恐怖心(大)、意識朦朧
[装備]:スナイパーライフル(残弾数0)@現実、ザ・ハンドのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品×1~2
[思考]:死にたくない。
1:だれか、たすけて──。
※タクシーアプリでマップ内座標を指定して移動する機能を使用できます。



◆



────霊界の巨大資料館に収められている極秘テープですよ。
────それには人間が今まで行って来た罪の中でも最も残酷で非道な物が何万時間と記録されています。
────内容の想像はつきます。普通の人なら五分と保たず人間の見方が変わるでしょうね。
────その内容の過激さ故に、霊界の中でも限られた人しか見る事ができないそうですから。


────目の前で子供を殺された母親を見たことはあるか!?その逆は!?
────殺ってる奴らは鼻歌混じりでいかにも楽しんでますって顔つきだ!わかるか!?
────人は笑いながら人を殺せるんだ!
────お前だってきっとできるぜ! 気が付いてないだけでな!!!!



────ここに人間はいなかった、一人もな。


◆



ぱちぱち、ぱちぱちぱち。
頭の中で、不快な猿共の拍手が響き続ける。
夏油傑が支給品として支給されていたそのテープを見たのは、ほんの気まぐれだった。
『黒の章』という名前と、霊界の極秘資料とだけ書かれた説明書が彼の興味を引いたのだ。
放送前に先行配信された施設で先んじて待ち伏せを行うつもりだったが。
ほんの5分程度時間を割いて、今時珍しいビデオデッキがある民家のリビングでテープの内容を確認しようとして。


結果、彼は地獄を垣間見る事となった。


その中に映っていたのは、天内理子を巡る事件で彼が直面したカルト宗教の醜悪さを煮詰めたような光景。
彼が猿と蔑む者共の醜悪の極みとも呼べる地獄絵図。人間の酷悪の極みと言える営み。
瞼を瞬きでとじる度にサブリミナルのように過る猿共の恨めしそうな眼。眼。眼。
頭の中に、BGMとして絶え間なく拍手が響き続ける。
だが、そんな最中にあっても夏油傑の心は凪いでいた。



────もう、これは私が通り過ぎた場所だ。



もし、生き方を決める前であったなら。
この映像は、恐らく自分に大きな影響を及ぼしていただろう。
それで決める自分の生き方は、今と変わらないものだっただろうが。
猿は嫌い。それが自分の選んだ本音。
それ故に、黒の章が今の選択に影響をもたらす事はなかった。


パチパチパチパチパチパチ。


とは言え。
思いのほか見入ってしまい、他への意識が疎かになっていたのは否定できない。
響き渡る拍手が脳内で作り上げたものではない事に気づいたのは、背後に何者かの気配を感じた後だったからだ。
背後から感じるプレッシャーに全身が硬直し、呪霊を出す事もできず。
しかし誘われるように背後を振り返る。


「秀逸な映像だ。ヒーローが隠し、目を背けたい人の一面が克明に記されている」


振り返った先にいたのは穏やかな表情を浮かべる、白い男だった。猿とは違う。
白髪に色素の薄い瞳。浮かべる微笑。穏やかな雰囲気は聖職者と言われても信じられる。
けれど拍手を終え両手を翼の様に広げるその姿に纏うのは、白とは対極のドス黒い存在感。
その姿を認め硬直から復帰した刹那、夏油は瞬時に低級呪霊を放つ。
考えなど無い。反射的かつ本能的な防衛反応が働いた結果だった。


「───何より、その映像を見て眉一つ動かさない君の事が気に入った」


『筋骨発条バネ化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』+『ダークボール』


そして、小動物を撫でる様に。
夏油が放った低級呪霊38体は一瞬にしてかざされた男の手によって消え去る。
呪霊操術により複数の呪霊の術式を操る事ができる自分の様に。
明らかに、一つ二つでは無い数の術式の気配が感じられた。
同時に直感する。この男を相手取るのであれば、死を覚悟せねばならない事を。


「………僕は君に協力したいんだ、かけなさい」


君が使役している猟犬が真人君と同じ存在(もの)であるなら、私は君に必要な力を提供できる。
そう言いながら男は上着のポケットから黒い珠を取り出し、夏油に見える様に掲げ。
そして持ち掛ける。私の提供する情報を聞いてみないかと。
言葉に対し夏油は返答を返す事無く尋ねる。目の前の得体のしれない怪人を何と呼称すべきか。何者であるのか。
二つの言葉の意味を込めて、「……貴方は?」と、誰何の声を男へと向けた。
そんな夏油に、男は。


「死柄木……いや」


君にはこちらの名を名乗っておこうか。そう一言零し。
ALL FOR ONE。
魔王としての名を告げた。



◆



黒沐死。
特級相当のゴキブリ呪霊。
元は羂索の手によって取り込まれ、夏油傑の肉体の支配下にあったその呪霊は。
異世界の魔王の手により、再び夏油の支配下へと収まった。


(解せないな…この呪霊、既に私が取り込んでいたかのようにすんなりと支配下に収まった)


特級相当の呪霊など、今の自分であれば苦戦はおろか死すら覚悟する必要のある相手だ。
にも関わらず、既に調伏済みの呪霊として問題なく使役できている。まるであつらえたかのように。
ハッキリ言って戦力の大幅な増強が叶った喜びよりも、得体のしれない薄気味の悪さの方が強かった。
とは言え、今は素直に幸運に恵まれたと思うしかないだろう。重要なのはここからなのだから。


「上手くいった様子で何よりだ。丁度こちらもビデオの映像を移す作業が終わった」


黒沐死の呪霊玉を譲る交換条件としてオール・フォー・ワンはビデオの映像を求め、夏油はそれを承諾した。
映像をPCに落とし込み、さらにそこから参加者に一律で支給されたスマートフォンに移す。
オール・フォー・ワンの時代からすれば骨董品に等しい映像機器でありいささか作業には苦労したが。
最終的には人間の暗黒面を記した映像は魔王の手中に収まった。


「…別に構いませんが、そんな映像役に立たないと思いますがね」


殺し合いと言う極限状況下で、この映像を見れば精神の均衡を崩す参加者はいるかもしれない。
だが、かつての自分の様に本音と役割の狭間で揺れている参加者でもない限り。
この映像を見て影響を受けるのは非術師の、命のやりとりを行った事の無い参加者にほぼ限られるだろう。
そして、非術師の猿がこの映像を見て命の授業に乗ったとしても、殺し合い全体に及ぼす影響は小さい。


(そう、悟が見たとしても……………きっとこれで生き方を変えはしない)


想起するのは親友だった、これからもきっと自分は親友だと思い続ける男。
彼も天内理子の一件でカルト宗教の構成員全員を皆殺しにする選択肢を提示したが。
それでも結局やらなかったし、自分と同じ道を選ぶことはなかった。彼は猿共の庇護者である事を選び続けた。
五条悟の存在が、このビデオが及ぼす影響力を夏油傑に否定させる。
既に生き方を決めたものがこのビデオによってそのスタンスを覆すことはないだろう、と。


「だろうね。この映像を見せた所でヒーロー達が直接的に宗旨替えする可能性は限りなく低いだろう」


オール・フォー・ワンもまた、夏油の言葉を否定しない。
喉元を過ぎればあっさり忘れる者達だからだ。ヒーローという存在は。
過去は消えないというのに、あっさりと忘れて無かったかのように満足げに彼等は笑うのだろう。
だからこそ、自分達悪党(ヴィラン)の存在も消える事はない。


「だが彼等も人の子だ。付け入る歪みは生まれる。
更に無個性の一般市民が見れば、軋轢を生んでくれるかもしれない。何より………」


楽しそうだ。
にっこりと邪気の無い清廉な笑顔で、オール・フォー・ワンは夏油にそう告げた。
何も合理だけを求めるのが人生じゃない。何となく役に立ちそうでも理由としては十分。



「見た事の無い物を見たい。楽しそうだと思った事が本当に楽しいか確かめたい」



それが生きるってことだろう?
オール・フォー・ワンのその問いかけに、夏油は答えを返す事が出来なかった。
そんな夏油を見て、オール・フォー・ワンはこの話題が潮時であると判断。
話を今後の自分達の動きへと転換する。


「……それで?考えてはくれたかい、さっきの僕の話は」
「正直に言って、素直に頷きづらい提案だと言わざるを得ません」


この『命の授業』に反目する者達を制圧し、肯定派のみ残したうえでゲームを放棄する。
そして、その後現れるであろう主催と交渉を行う。全く大胆不敵な最終目標だが。
だが、肯定派のみを残しゲームを放棄した所で主催が現れる確証がない。
それどころかゲームが完全に停止したと見なされれば、その時点で全員の首輪を爆破される危険が伴う。


「なに、別に全て僕の描く絵図のイエスマンになれと要求してる訳じゃない。
もし君がヒーロー気取りたちの掃除が終わった時点で優勝を目指すつもりであれば……
僕は君の意志を尊重しよう。いささか残念ではあるが、その時は改めて殺し合おうじゃないか」
(…………基本の形としては非戦協定。必要に応じて共闘の打診も兼ねているか)


命の授業肯定派として潰しあいは極力避け、必要に応じて『ヴィラン連合』として共闘を行う。
ハッキリ言ってオール・フォー・ワンの最終目標は承諾し難い印象を抱いたが。
短期・中期的方針としては特に拒む理由はないと言えた。強いて言えば名前がダサい程度か。
厄介な参加者の情報共有や、排除のための共闘は夏油もやぶさかではないからだ。
ソリテールと共闘を行うと決めたのも効率的に殺し合いを進めるため。彼女を利用するためであり。
最後に自分が勝てばそれでいい。そのためなら過程の手段には幾らでも目をつぶれる。何より───



「───僕を今ここで敵に回すよりは合理的な判断だと思うが、どうかな?」



心を読まれたかのように。
シャクではあるが、夏油が考えた思考をオール・フォー・ワンは正確にいい当てており。
そして、それ以上は何も語らず視線のみで返答を促してくる。
僅かな間を置いて、夏油は頷きながら視線に応えた。


「………背中を気にしながら戦うのは最小限にしたい。できる限り自由にやらせて欲しい」
「勿論だ。これでも僕は自主性を重んじるタイプだよ。
まぁ、人手がいる作戦行動を行う時は協力を要請させてもらうが…それも内容を聞いた上で決めてくれていい」


共闘と言っても、弱みを見せれば喰らわれる。
目の前の男が行動を制限しようとしたり、服従を迫ってくれば夏油も全力で抵抗するつもりだった。
だが、オール・フォー・ワンは気分を害する様子もなく夏油の出した条件を飲んだ。
余り連れ立っていても効率が悪いし、あっさり狩られる様なヴィランであれば喪ってもさして痛くない。
流石に何も仕事をせず寄生するだけの輩は不要なので、何らかの指示を行う可能性は示唆しつつ。
魔王は呪詛師の出した条件に、首を縦に振って見せた。


「…………分かりました。いいでしょう」


こうなれば、夏油も拒むのは難しかった。
何拍かの間を置いたのち、ゆっくりと首を頷いて肯定の意志を示す。
その姿を見て満足げに笑みを深めたのち、オール・フォー・ワンは手早く夏油と連絡先の交換を行う。
そして、それを終えると二人の邂逅は結びへと移っていく。


「さて、提案に乗ってくれた返礼に役に立ちそうな情報を教えようか。
C-2のエリアに私の教え子がいる。無力な、小さい女の子と一緒にね」


まだヴィランとして羽化した訳ではないが、だからこそ。
私の…シガラキの名前を出せば彼女は信用する。二人纏めて利用するも殺すも容易になるだろう。
どうするかは君に任せよう、夏油に向けオール・フォー・ワンはそう語った。
恐らく嘘ではない。今嘘をついてもこの男にメリットがない。夏油は直感的に理解する。


「……教え子なのでしょう。いいんですか、傍にいなくて」
「それも考えたが……言っただろう?僕は生徒の自主性を重んじるタイプなんだ。
そして、甘やかしたりもしない。何しろ時間も人手も足りないし、試練こそ人を最も成長させるものだよ」


甲斐甲斐しく、手取り足取り悪に堕としていくのも選択肢の一つではあった。
だが、それでは彼女の持ち味…“個性”が活きない。それに私の行動も著しく制限されてしまう。
苦労して出来上がるのが私のイエスマンでは割に合わない。
それが魔王が至った、歪んだ正義の味方へのスタンスだった。



「────私が、貴方の教え子を殺すとは考えないのか」



先ほどよりも強い語気が、不意に口から漏れ出て。
夏油がその事実を認識したのは、既に言い終わった後だった。
しかし幸運にもオール・フォー・ワンに気分を害した様子はなく。
どこか芝居がかった所作で、大仰に腕を組んで片手を顎に添えながら己の所感を述べる。



「そうだな……僕にとっての彼女は、間違いなく一番成長を期待している教え子だ。それは間違いない」

「同時に別の形容を行うなら………彼女はコミックのお気に入りキャラクターと言った所かな」

「心から応援するし期待もしている。彼女がひとかどのヴィランとして大成することを本気で願っている」

「彼女が志半ばで倒れることがあれば、残念だと落胆もするだろう」



そして本当に残念だと言いながらコミックを閉じて、元の生活に戻る。
もしかしたらその日一日は引きずるかもしれない。そんな所かな。
そう男は歌うように、言祝ぐように言い切った。



「────僕にとっての一番の教え子(マスターピース)は、もういるからね」



その言葉を聞いて。
夏油傑は、何故目の前の男が荒唐無稽ともいえる最終目標を定めたのか理解できた気がした。
あぁ、目の前のこの男は、きっと。真剣勝負などしていない。
死にたいとも、敗けるとも考えていないだろうが。
それでも負けても問題ないと思える程度に保険を用意した上で、このデスゲームに臨んでいるのだろう。
負ければ不可逆な死という者と、刺し違えて差し引きゼロという者では必然的に踏み込みの深さも違ってくる。
だからある意味短絡的ともいえる享楽を楽しめるし、大胆なゴールを設定できるのだ。



「……ソリテールという頭の左右に角を生やした少女がいる。私の名前を出せば、彼女も同調するでしょう」
「協力者か。それは有益な情報だ。ありがとう」



この男は、敵に回したくはない。そして、利用できる。
逆に利用され、使い潰される事がないよう適切な距離を保つ必要はあるが。
それでも夏油傑は目の前の男が優勝するにあたって有益な存在だと、その結論に至り。
それ故にもう一人の協力者の情報を目の前の魔王へと譲ることに躊躇はなかった。
全ては非術師の猿共を抹殺し、呪いの生まれない世界。その大義を果たす為に。



───夏油傑は、オール・フォー・ワンと手を結ぶことに決めた。



◆



話は纏まった。
後は放送を聞いて行動を再開するのみ。
悪(ヴィラン)はいつだって先手を打つ働き者なのだ。
それを示す様に、支給品であるガイアファンデーションで死柄木は己の姿を切り替えた。


「その姿は………」
「あぁ、僕が一番惨たらしく死んで───いや、今は我々と同じになって欲しい。そう思っている男の姿だよ」


夏油の視線の先に立つ男。それは先ほどまでと変わる事無く死柄木であったが。
だが、容姿は似ても似つかない姿へと変わっていた。
金の髪がだらりと垂れ下がり、骸骨の様にみすぼらしくやせ細った男。
ともすれば、女子供にすら負けてもおかしくない。そう思わせる貧弱さ。
それは紛れもなく───かつて平和の象徴と崇められた男の、衰えた真の姿(トゥルーフォーム)をしていた。


「ガイアファンデーションが12時間で二人しか変身できないのは残念だったが………
まぁ、それでも僕にとってはこの男に変身できれば十分。擬態系の個性は随分前に失ってしまったからね」


オールマイトには孤立し、絶望し、闇に堕ちてもらいたい。
真人の様に異なる世界から参加者が集められているのであれば、平和の象徴の金看板も使えない。
だから、オールマイトのトゥルーフォームで何人か殺して回れば………
彼は他の参加者から追い立てられ、排斥され、不和や対立を生んでくれるだろう。
その成功率を高めるには、オールマイトを熟知している死柄木自ら動く必要がある。


「後ろでふんぞり返っているだけではなく───
自分の手足も動かさなければ森口先生に失望されてしまうだろう」


この男は、息をするように悪意をバラ撒く。
それを知らしめるように死柄木もまた、対主催の殺戮に動こうとしていた。
『サーチ』の個性により、既に夏油と邂逅するまで何人かの参加者の大まかな位置を彼は補足している。
勿論対象が移動していたり厄介そうな相手は避けるとしても、戦場には事欠かないだろう。



「それじゃあ、また会おう。夏油君」
「…………えぇ、戦果を期待しています」
「お互いにね」



民家を後にし、左右に別れた路地で死柄木と夏油は分かれた。
待ち伏せを行うのは今からでは困難となったが、死柄木からの情報で参加者がいる場所は目星がついている。
であれば、そこまで焦る必要もない。放送を聞きながら向かえばいい。
そう考えつつ、夏油は死柄木との最後の会話を想起していた。



────それでいい。君の夢の為に私を使うと良い。
────僕も僕の夢の為に君を使おう。
────いつだって悪(ヴィラン)とは夢見た世界のために戦う者達なのだから。



それが、二人の最後のやりとり。
大義を背負った若人に対し。
純白の魔王はやはり邪気のない笑顔と共に最後にそう告げて。
かくして二人の人類の敵の邂逅は、一つの結びを迎えた。






【G-4/早朝/1日目】
【オール・フォー・ワン(死柄木全)@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康(青年姿)
[装備]:変身自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!(変身者切り替え可能まで6時間)
[道具]:基本支給品一式、黒の章(スマホにDL済み)@幽☆遊☆白書
[思考]:オールマイトを『悪』へ堕とし、その反応を心から楽しむ。
0:そろそろヴィランらしく仕事(マーダー)をしようか。自分の手も動かさないとね。
1:『ヴィラン連合』を結成する。
2:ヒーロー気取りや一般人を皆殺しにして、ゲームそのものを停滞させる。
3:ゲームが止まったあと、何人か僕に譲ってもらえないか、主催者と直接商談をする。……損はさせないさ、森口『先生』。
4:『悪』以外の参加者は、当面セリューの試験に利用する。ただ、甘やかしはしない。私が次を託すマスターピースはもういるからね。
5:セリュー、ならびに彼女の精神的支柱である神戸しおとコロは、不要になり次第殺させる。
6:『みんなが笑顔になれる世界』と、『悪に染まった世界』。僕は両立できると思うよ、オールマイト。
7:黒の章を見せたい。誰でもいいから面白いリアクションしてくれそうな子に見せたい。

※ガイアファンデーションは制限により12時間で変身できる参加者の数は2人までとなっています。
※2人に変身すると12時間経過するまで変身対象を切り替える事は出来ません。
※現在は自分の全盛期の姿と、オールマイト(トゥルーフォーム)を選択しています。
※夏油傑と連絡先を交換しました。


【夏油傑@呪術廻戦 懐玉・玉折】
[状態]:健康
[装備]:黒沐死@呪術廻戦
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:優勝する。
1:オール・フォー・ワンから伝えられた場所の近辺で猿共を殺す。
2:ソリテールとは合流時間、場所を決めた上で別行動。
3:一先ず合流時間まで参加者を殺害する。
4:ソリテールの成果次第で今後の扱いを判断する。
5:比名子(あの少女)、呪霊の食いつきが良かったが……。
6:オール・フォー・ワンとは直接敵対はしないが、できれば参加者を減らした後何処かで死んでほしい。
※両親殺害後、五条の元から立ち去って以降の参戦です。
※ 合流場所、時間は後続の書き手にお任せします。
※オール・フォー・ワンと連絡先を交換しました。


【黒の章@幽☆遊☆白書】
夏油傑に支給。
今まで人間が行ってきた最も残酷で非道なものが何万時間も記録されているビデオテープ。
数分でも視聴すれば人間に対する考えが逆転してしまう。

【黒沐死@呪術廻戦】
羂索が支配していたゴキブリ呪霊。等級は特級。
特級術師である乙骨とも渡り合う白兵戦の能力と、一度倒しても単為生殖を成し遂げ復活する生命力を備える。
なお、制限により単為生殖で生まれた子の黒沐死も呪霊操術の影響を受ける。





前回 キャラ 次回
054『Home Sweet Grave』 056『第一回放送』
028『せいぎのIF』 AFO
028『せいぎのIF』 セリュー
028『せいぎのIF』 しお
046『猿を探せ!』 夏油
027『ウサギとカメ』 ココロちゃん

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最終更新:2026年10月12日 21:43