諏訪大社の変 ◆vV5.jnbCYw



「逃がしませんよ。時行クン。」

当時の避難先の予定であった諏訪大社からも、大分離れた。
相も変わらず、トガヒミコという少女は、時行にピッタリついてくる。
悪路にも曲がり道にも減速することなく、彼を追いかける。

助けを求めようにも頼重は勿論のこと、仲間であった弧次郎も亜也子も吹雪も玄蕃も、この場にはいない。


そんな中、北条時行という少年は。

(なんということだ……これほど楽しめるとは!!)


今までのどんな時よりも、興奮していた。
逃げを経験しているという、出会ったことのない敵に追いかけられる中、彼の速さはさらに増す。
少年特有の瑞々し気な頬を紅潮させ、勢いよく地面を蹴る。


「時行君、どうしても待ってくれないんですか?」


(楽しい!楽しい!!)

彼女の言葉は聞こえていない。
全神経を、聴覚ではなく視覚のみに注ぐ。
肺に今まで以上の量の酸素を注ぎ込む。
足の親指で、強く強く地面を蹴る。
彼の胸を高鳴らせたのは疲労ではない。未知の敵から逃げるという快感だ。


北条時行は臆病なのではない。
純粋に逃げるのが好きなのだ。
そして攻撃をトガに許してはいるが、斬撃は服や髪の毛を攻撃するのみで、彼自身は刺し傷一つ負っていない。

とはいえ、このままでは相手を振り切ることは出来ない。
たとえ彼の逃げる速さが上がっても、彼女もまたネズミを追いかける猫のような表情で追いかけてくる。
反撃しようにも彼が使える武器は支給されていないし、あったとしてもヒーローと戦い続けた彼女に通用する可能性は低い。


だが、逃げる中でも、反撃の手段は若君の脳内で練られていた。

(丁度良い木だ!!)

目の前に見えてきたのは、手ごろな太さの幹を持つ立木。
そのまま走り続ければぶつかる。ゆえに左か右か、はたまた飛び越えるかしか方法は無い。
しかし時行はあろうことか、足を止めた。
そしてくるりと、追跡者の方を向く。

「逃げるのをやめたんですね。君のカァイイ顔が良く見えますよ。」

トガヒミコはこれ見よがしに口元を歪め、彼の心臓を刺そうとする。


(ああ…晴れた……。)

時刻は未明から黎明へと入り、少し夜は明けて来たと言えど、まだ暗い森の中のはず。
だというのに時行に映る世界は、昼間の草原のように明るく、見通しが良かった。
かつて犬追物で小笠原貞宗の弓の動きを良く見えたかのように、トガの刺突も綺麗に見えた。
まずは右の肘を少し引き、刺す際には少し首を下げ、胴体も前のめりになる。


(今だ!!)

彼女の一撃は、鎌倉時代の矢よりも速かった。
だが、子供特有の柔軟さを生かし、身体を逸らす。
彼女の素早さと、リーチの長い刀のため、それでも脇腹か鮮血が迸る。
本来ならば彼女の突きを、時行の背後の木に深々と当てさせることで、しばらく刀を振れなくさせる策略だった。
その目論見はあっさりと破綻し、彼は致命傷でないにしろ傷を負った。

(まだだ……まだ一手残っている。)


時行の目に入ったのは僅かな間だけだったが、彼女の刀はとても細い。
元々敵の首を斬るために使う者ではないことは知らなかったが、心臓や首と言った急所に受けなければ一発は耐えられると読んでいた。
左手で患部を力強く抑え、血を止める。
そして第二撃が来る前に、大きく跳躍。
元々敵の攻撃を止めるのに使うはずだった樹木を蹴って、もう一つ跳躍。


ただし跳ぶ向きは彼女がいる方向ではなく、その逆だ。
右手で懐から何かを取り出し、上空からトガヒミコ目掛けてぶつけた。
パルティアンショット。もとい、パルティアンスロー。
馬の上からではなく、木の上からの逃げながらの一撃。
諏訪の犬追物で、上空から貞宗の顔面を狙ったの一矢の、投擲バージョンといった所か。

彼のコントロールや球速など、たかが知れている。
だが、重力を味方につけ、しかも最大限まで集中力が高まった今なら、外せと言う方が無理な話だ。


「ひゃ!?」

べちゃ、という音が最適だろうか。
和紙に包まれた、何か柔らかくて粘っこい物が、トガの顔面に張り付いた。

彼が隠し持っていたのは、カタクリから承ったモチ。
悪魔の実の能力でモチ化した物体の欠片を、諏訪大社に置いてあった和紙で包み、ここぞという時まで持っていた。
彼から離れたことにより、粘着力は落ちているが、それでも目隠しには十分使える。
地面に置いて足に貼り付けさせるか、顔面に投げて敵の視界を奪うか悩んだが、そのやり方で正解だったようだ。


闇の中で、全力疾走することは極めて難しい。否応なく足を遅くしてしまう。障害物の多い森なら猶更だ。
後は、彼女がモチを顔面から剥がすまで、全力疾走すればいいだけだ。

(視界を奪った!後は逃げるだけだ!!)

そのまま猫のように身を翻して着地する。
着地地点として木の前ではなく、トガより離れるために木の後ろへ。

足と体にズキリと痛みが走るが、走れないほどではない。
このまま一気に相手から逃げおおせてしまう。そう考えながら走り出した。




――血鬼術 蔓蓮華
――血鬼術 冬ざれ氷柱

童磨が扇を振ると、同時に氷の人形も扇を振るう。
目の前からは人を服ごと切り裂く氷の蔓。頭上からは鋭利な氷柱。


「雨垂れモチ!!」

だが、カタクリの力は攻守両面において優れている。
モチモチの実の広大な範囲攻撃は、アリの一匹も通さないし逃がすこともない。
カタクリの周りを広範囲に覆ったモチが、氷攻撃を全て防いだ。
すぐに攻撃に転じ、童磨目掛けて突進。


「二方向から攻撃を仕掛けようとしたことが、仇になったな。」

氷像は壊されてもすぐに新手が出てくると分かった以上、わざわざ壊すつもりは無かった。
それよりもさっさと本体を叩けばいい。
武装色の覇気を纏った回し蹴りが、童磨の腹に打ち込まれた。
ただの蹴りには非ず。5mの巨躯から放たれる、大木か大黒柱を振り回したにも等しい威力だ。

鬼の身体が宙へ飛び、2,3度バウンドする。


――血鬼術 凍て曇

カタクリの背後から、彼の分身でもある氷御子が、吹雪を放つ。
だが見聞色の覇気でその攻撃まで見切っていた。

「焼餅!!」

吹雪で眼球を凍らされぬように、両目を閉じる。
そして見えぬ中にいる氷の塊に、炎の一撃を加える。
新手が現れても、その都度融解させていく。


だが、戦線復帰した童磨も扇を振るう。
槍と扇、吹雪とモチ。2つが交差する。
カタクリが突く。童磨が打ち上げる。
再び後退させられるが、今度は凍結した自らの血を散布させる。
氷は次第に細長い形を形成する。蔓蓮華ではなく、別の技だということを、カタクリは見抜いていた。


――血鬼術 寒列の白姫


やがて2本の蔓の先端が膨らみ、2体の女性の姿を形成する。
それらが口の部分から吹雪を吐き出す。
吐息は攻撃だけではない。地面を凍らせる。

「モチ突き!!」


しかし足元まで凍らされる前に、手にした槍が冷たい笑みを浮かべた女性の氷像を砕く。
その槍は、モチ化した腕のおかげで、童磨の首目掛けて走る。
金の扇を広げ、刺突から自身の首を守る童磨。

「お前はおれの力のタネを見切ったと言っていたが、おれも一つ分かった。」

カタクリは童磨の攻撃そのものを厄介だとは思わなかったが、生命力を厄介だとは思っていた。
切っても突いてもへらへらした笑みを崩さない。
攻撃を通さないのではなく、確かに攻撃は通っているというのに生命活動を停止しないのだ。
そして身体に穴をいくら開けても、すぐに塞がってしまう。『焼餅』での火傷も同じことだ。
先ほど脇腹に蹴りを見舞った時、腸を零しながら反撃して来る様には、呆れしか覚えなかった。

だが、他の攻撃は全て身体で受けているというのに、首への攻撃だけは得物で確実に防いでいる。


「お前の厄介な再生は、首を斬られたらもう出来なくなるんじゃないのか?」
「へえ。良く分かったね。」

初めて童磨が、表情を変えた。

「図星か。」
「分かっても、俺の首に攻撃が当てられないなら意味が無いがね。」

そんな話をしている間、童磨の御子が背後から攻撃を放つ。


――血鬼術 蓮葉氷
「無双ドーナツ からの 餅巾着!!」

氷の刃がカタクリに届く前にカタクリは上空にドーナツを生成。
ドーナツの穴から、拳の雨が降り注ぐ。
超スピードで拳を打っているのではない。腕が何本も降り注いでいるのだ。
その拳は童磨が出した氷を全て砕いていく。
だが、童磨本体は暴力の雨の範囲から外に退避する。


そして、すぐに新手の御子が現れる。
これで3体目。いくら氷を砕いても、彼自身を倒さねば話にならない。
正面からぶつかり合っても勝てないと踏んだ童磨は、前線での攻撃を御子に任せ、遠くからの攻撃に専念することにした。


(弱点を知られれば回避と防衛に重きを置き始める……戦術にも長けているという事か。)

カタクリはビッグ・マム海賊団の最高幹部「スイート3将星」の筆頭として、幾つもの戦場で勝利を収めて来た。
だが、童磨は20の時に鬼にしてもらって以来、彼以上に長い間敵を屠り続けてきた。
ゆえに、どうすれば首を斬られないか、どうすれば確実に相手を葬ることが出来るか熟知している。


(こう防衛に回られると面倒だ……はてさて、どうやって首を落とすか。)

童磨の言葉を信用したわけではないが、時行とあの少女のことも気がかりだった。
別の殺し合いに乗った者に襲われれば、彼らとてただでは済まないはずだ。
一度同盟を組んだ以上、勝手に殺されたりすれば、彼の完璧を目指す流儀に反する。


――血鬼術 散り蓮華
――血鬼術 散り蓮華

今度は、二重の氷の欠片の、弾幕攻撃
たとえ鬼殺隊で特に優れた視力を持つ栗花落カナヲでさえ、これは避けられないだろう。

(休む間も与えてくれないということか。)

カタクリもモチを出し、攻撃を弾き飛ばそうとする。


「凪嵐」

しかしその一撃は、カタクリではない者に払われた。
辺りに黒糸の竜巻が吹き荒れ、吹雪を吹き飛ばす。

「味方をしろなどとは頼んだ覚えはない。」
「俺も味方をしろとは言っていない。だがコイツを倒しておきたくてな。」


凶一郎としては、童磨とカタクリ、どちらも異形の姿をしていた。
だが気になったのは、童磨の両目だ。
山の中で戦った雷使いの男と同じ、目玉に数字が刻まれている。
従って、あのいけ好かない奴の同胞はあちらの方だと判断した。

「残念。お腹が空いて来たし、可愛い女の子でも食べて栄養を付けたかったんだけどね。」


そしてその言葉を聞いて、自分の判断が正しかったのだと認識した。

「その言葉を聞いて安心した。俺は遠慮なくお前を殺すことが出来る。」
「うわ、初対面の相手に殺すって、話飛躍しすぎじゃない?
もっとこう、親睦を深めるためにも話を広げるべきだと思うよ。」

互いに笑みを浮かべたまま、毒を吐き合う。

「お前が人を食おうとするからってことも分からないのか?ああ分からないから人を食うなんて愚行に走るんだろうな。」
「酷い話だなあ。友達いないでしょ君。一応俺、万世極楽教の教祖として、愚かな人たちを……」

童磨が全部終わる前に、凶一郎の束ねた糸が、鬼の扇を揺らす。

「話が長いのが、愚かしい証拠だ。」

六美に仇名す者、というかそうじゃない者でも容赦しない彼だが、鋼糸が生き物のように動き出す。
軽口を叩く凶一郎だが、童磨という男の強さはほんの少しの間だけで理解した。
それこそ、山で戦った雷男などとは比べ物にならない。

「誰かは分からんが、さっさと片付けるぞ。」

カタクリもまた、槍を構える。

その瞬間下がっていた温度が、さらに10度以上下がり、地震が起こる。


――血鬼術 霧氷 水蓮菩薩
――血鬼術 霧氷 水蓮菩薩


現実的にはあり得ないような光景だ。
勿論、モチを使って攻撃する5m超えの巨漢や、血を凍らせて散布する鬼など、これまでの光景が現実的だという訳ではない。
だが、この様相はそんな物とは比べ物にならない。
巨大な菩薩像が、2体並んで地面から出て来るのだから。

それらは、荘厳でもあり、沈みかけとはいえ月光に反射して美しく映える。
だが、並みの戦士ならば、氷菩薩を見る目ごと凍結してしまうだろう。


「黒服。さっきの糸の技、もう一度出せるか?」
「ああ。」

しかし、それを目の前にした夜桜家の長男と、シャーロット家の次男は退くことも逃げることもない。
二人の兄は、自分の技を出し、目の前の敵を圧倒することだけを考える。


まずは凶一郎が手元で鋼蜘蛛を、輪を描くように動かす。
その技は童磨のかつての同僚、累が放った血鬼術、刻糸輪転にも通ずるものがあった。
しかし、下弦の伍の技に似た物で、上弦の弐の最強技を御せるだろうか。


だが、そこにはもう一手。


「焼餅!!」


カタクリが再び作り出したドーナツから、炎を纏った拳が現れる。
突き出た拳は、凶一郎の糸の隙間を通り、菩薩像を殴りつけていく。
さらに彼の糸が、カタクリの炎によって温度を上げる。
凶一郎の強さは単純な身体能力や、糸を手繰った攻撃だけでもない。
彼の技は仲間の、そして兄弟の技によって、強化されるのだ。
その熱は、凶一郎が戦った組織『タンポポ』のアカイの力よりも強い。


焼餅と凪嵐の合わせ技、即ち焼餅網とでも言った所か。
絶対零度の空気の中、炎熱の拳の雨と、灼熱の嵐が吹き荒れる。
加熱した鋼糸と、その糸を掻い潜った火拳の嵐は、瞬く間に吹雪を吹き飛ばす。
熱は下がることは無く、氷菩薩を熱と打撃と斬撃で破壊し、そしてその後ろにいた御子も破壊した。

だが、二人の表情は苦々しげだった。


「逃げたな。」
「ああ。」


氷像たちは水蒸気と化し、それが晴れた後に見えるのは、凄まじい技のぶつかり合いで荒野と化した草原だけ。
童磨どころか、虫一匹いなかった。

ひとまず凶一郎はナプタークのもとへ、そしてカタクリも時行と合流しようとする。
だが、この時彼らは知らなかった。
戦っている間、逃走者達がどうなっていたか。




(まさかあれほど手ごわい奴等がいるとはな……)

どうにか逃げおおせたが、顔の半分を焼かれていた。
力を大分使ってしまったため、治癒にはまだ時間がかかる。

童磨が戦いを御子と水連菩薩に任せて逃げたのは、強敵2人を相手にしたくないという理由だけではない。
首を斬られる以外のもう一つの弱点、太陽がもうじき顔を出すからだ。
彼は慎重派な性格でもある。
かつて花柱の胡蝶カナエを殺した時も、彼女から摂取できる栄養よりも、自身の安全を確保した。


(思ったより時間を取られたな……まあそれよりも、朝が来る方が厄介だ。)


空が白み始めている中、彼が目指すのはここより北。
かつて同じ十二鬼月だった者の住処だった、北の山。


鬼の脅威は、まだ消えない。





【1日目/黎明/C-6・荒野(北)】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(中) 顔半分火傷(再生中) 疲労(大)、しのぶちゃんへの恋心
[装備]:金の鉄扇@鬼滅の刃
[ポイント]:5
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1、皮下真の研究資料@夜桜さんちの大作戦
[思考]
基本:生き残って、しのぶちゃんを蘇らせ、結ばれる。
1:とりあえず太陽から避難できる場所を探す。南の市街地か、北の那田蜘蛛山か。
2:無惨様の為になるであろう『夜桜の血』の情報を探る。
3:苦しむ可哀想な少女(トガヒミコ)を追いかけ、殺して食べてあげる
4:鬼殺隊は始末する。特にあの娘(カナヲ)は厄介だから早急になんとかしないと。
5:何時もの如く、可哀相な参加者は救うために喰らう。
6:他参加者へのポイント譲渡のルールを追加させる。
7:黒死牟殿や猗窩座殿、あと黒死牟殿が血をあげた例の新入りは何処にいるのやら?
[備考]
※参戦時期は死亡後


【C-6/荒野(東)/1日目・黎明】

【シャーロット・カタクリ@ONE PIECE】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:哀絶の槍@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを打破する。
1.北条時行と合流する。
2.殺し合いを打開するための策を考える。
3.モンキー・D・ルフィを死なせるのは惜しい。
4.カイドウ、ドンキホーテ・ドフラミンゴを警戒。
5.黒服(夜桜凶一郎)は頼りになりそうだが…。
[備考]
※参加時期は897話以降。


【夜桜凶一郎@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:健康 疲労(小)
[装備]:鋼蜘蛛@夜桜さんちの大作戦
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:六美達"家族"と共に帰る。羂索は殺す
0:家族との合流。(太陽のこともしぶしぶ家族に含めている)
1:謎の生物(ナプターク)と合流する。
2:宮薙流々、『破滅』(マグ=メヌエク)に興味。
3:家族に手を出しそうないけ好かない奴等(童磨のように)は殺す。
4:カタクリとはどうするか。



「ゼー、ゼー!吾輩をこんな目に遭わせおって!!」


凶一郎とカタクリが童磨と戦っていた頃、ナプタークも歩き始めていた。
置いてきぼりにされた彼だが、またしても獪岳のような男に襲われれば、最悪命は無い。
どうにか彼を追いかけようとしたが、すぐに見失ってしまった。


そんな中、どこかからか何かの音が聞こえてくる。
あの場所で彼が戦っているのではないかと怪しんだナプタークは、方向を変えて走った。
そこへ行ったからと言って、自分に何が出来るわけでもない。
けれど、何もするなと言われて何かしないといけないような気になるのは、邪神も同じだ。

(そうだ、とりあえず戦いを見ておこう!そしてこれからどうすべきか、奴らの戦いを盗んで決めるんだ!!)


そんなことを考えながら、北条時行とトガヒミコの鬼ごっこの場所に走る。
進んだ先に見えたのは。
理解するのに、時間を要する瞬間だった。







少年が、同じ顔した少年を殺していたのだ。





殺された方の少年は、胸に穴を開けて、事切れていた。
「あ、あ………あ……。」

大きく口を開いたナプタークから出たのは、狂乱の咆哮ではない。
驚愕と恐怖が綯い交ぜになった様な、言葉になってない小さな声だった。
それしか出せなかった。


「あらあ?誰ですかぁ?」

少年の言葉とは思えない、女性と思しき口調。


時行がトガヒミコに刺された時点で、勝負はついていた。
彼は急所を刺されなければ問題は無いと思っていたが、それが決定的に間違えだった。

忘れるなかれ。
彼女の持っていた刀は、鬼の血の毒がまだ残っていたことを。
攻撃と同時に、彼の体内に鬼の毒が入りこんだのだ。
彼女の刀のかつての持ち主、胡蝶しのぶが、藤の花の毒を鬼の身体に注入したように。
量は少なかったとはいえ小柄な時行の身体を毒が回り、激痛と共に逃げることは出来なくなった。

苦労して顔面から餅をはがした後、すぐに彼女は、時行の心臓を串刺しにし、とどめを刺した。
勿論彼の血には毒が混ざっているはずだが、薬があるため、もう怖くは無い。

「何を……やって?」

ようやくナプタークが出せたのは、そんな言葉だった。
宮薙流々の町で復活してからずっと、死者など見ていなかったのだから、当然かもしれないが。
目の前の敵が、善なのか悪なのか。それ以前に異常と思えた。

「見て分からないんですかあ?この子の血を、チウチウと吸っているんですよ。」


その表情に、何の呵責も見えない。
これが人間なのか。
混沌教団と聖騎士団の時代の人間にまで参加させられていたのか。
考えても意味のないことを、考えていた。


だが、痩せても枯れても彼は邪神。
歯向かうというのなら、狂乱の咆哮を浴びせてやろうと考えていた。
しかし、少年の姿を借りた者は、北へと逃げ出した。

ポイントも、変身する相手も手に入れたため、彼女は深追いはしない。
ナプタークの仲間や、カタクリがこの場に来ることを恐れ、いち早く戦場を離れることを優先した。


「ま、待て!!人を殺しておいて何か言ったらどうだ!!」

返事は空しく木霊する。
その場所には、力無く佇む邪神と。
もう逃げることも出来なくなった、少年しかいなかった。




【北条時行@逃げ上手の若君 死亡】




【B-7とC-7の境/1日目・黎明(放送直前)】

【ナプターク@破壊神マグちゃん】
[状態]:困惑(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 天王寺松衛門@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:願い云々に興味はないので早く帰りたい。
1:あいつは……一体?
2:早く凶一郎と合流したい。
3:宮薙流々、マグ=メヌエクと合流したい。



【B-7/1日目・黎明(放送直前)】

【トガヒミコ@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:ダメージ(中) 
[ポイント]:5
[装備]:胡蝶しのぶの日輪刀(時行の血入り)@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2(薬関係は無い) 珠代の薬×5@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに勝利し、自分が普通に生きられる世界の実現をさせてもらう……はずだったけど?
1:今はとりあえず逃げる
2:時行の姿を使い、ヒーローたちを欺く。
3:どうにかして、自分の姿を知っている強者(カタクリ、童磨)を殺しておきたい
4:デク君(緑谷出久)やステ様(ステイン)に会いたい
5:死柄木やマスキュラーは割とどうでもいい。まあ会ったら支援ぐらいはする
[備考]
※参戦時期はアニメ5期終了~超常解放戦線前のいつか
※原作で背中に背負っている背中のボトルにチューブが繋がれた注射器は没収されているため、原作で変身したキャラ(お茶子、ケミィなど)に変身出来ません。


【支給品紹介】
【哀絶の槍@鬼滅の刃】
カタクリに支給された槍
上弦の肆、半天狗の分身体の一体、哀絶が持っていた十字型の槍。
元の持ち主はこの槍から衝撃波を連続して飛ばす『激涙刺突』を使っていたが、このロワでの持ち主にも使えるかは不明。

【珠世の薬と注射針×6@鬼滅の刃】
彼女が改良をし続けた、鬼の血の毒を治癒する薬。
鬼になった物を人間に戻すのに役立つ他、その害を受けた物を治療させることが出来る。
注射針状になっており、注射した者曰く「激痛や脈の狂いが格段に無くなった」とのこと。

【天王寺松衛門@鬼滅の刃】
夜桜凶一郎に支給された鴉。
鬼を滅殺する政府非公式組織『鬼殺隊』の隊士に主に本部からの通達を伝える役割を持つ伝令係の鴉の一羽。
本来は竈門炭治郎に渡された雄の鴉で、優秀だが口が悪い。
現在はナプタークの狂乱の咆哮で操られている。

前話 次話
敬意・涙・チェンソー 投下順 守護る力
敬意・涙・チェンソー 時系列順 守護る力

前話 登場人物 次話
時空を越えた同盟 シャーロット・カタクリ
時空を越えた同盟 北条時行 GAME OVER
Aggressive Heartbeat 童磨
Aggressive Heartbeat トガヒミコ
春嵐 夜桜凶一郎
春嵐 ナプターク 理解から最も遠い感情


最終更新:2025年08月11日 22:46