つい最近までは、おい今年は冬が来ないのかとシベリア寒気団への文句を脳みそに溜め込みつつ
そんな寒気団がやってきて困るのは自分ということに気付き、
気付いた途端日本列島を多い尽くした異常な寒さに、
ようやく体も順応してきた頃、俺は受験という憂鬱の源に対抗するべく
週に3回も学習塾へと足を運んでいるのだった。
「終わったか」
塾がある日はいつも放課後はこいつと共に教室を後にしていたのだが
今日は何やら私事があるらしく、校門で15分ほど待っていた。
「ああ、すまない。しかし、校舎の中で待つという選択肢は浮かばなかったのかい?
こんな寒いのにわざわざ外で待ちぼうけなんて、
僕はキミがそんなに寒さに強いという印象はないんだが」
「寒いのは苦手だね。だが、男と女が真剣に話し合いしてるってところに
俺なんかがいたら場違いだろう、それに下駄箱でもここでも寒さは大して変わらん」
揃って帰り道を歩き始める。
「……………」
互いに会話なく俺の自宅に到着。俺は塾へ行く用意をし直して自転車で出発の用意。
いつもなら、自宅に着くまでに佐々木の口から発せられる中々に興味深い話を聞くことができるのだが
その日は違った。
そして佐々木は大きな目を細くし、口を僅かに歪めて、少し下を向きながら
自分の気持ちをどう表現すればいいのか考えているような表情をこれまで続けていた。
こんな表情の佐々木を見ることは稀だ。
しかし何が彼女の表情、雰囲気をそうさせているのか俺には見当が付いている。
彼女がそんな状態になる時は、必ず男子生徒に重要な話を持ちかけられた後であった。
「気にすることないと思うぞ。向こうだってフラれること覚悟して告白して来てんだ。」
佐々木は男子生徒に告白されるということがよくあった。
まぁ見た目も可愛いほうだし、話も中々面白い。
おおらかなやつなら独特な発言の仕方も気にならんだろうからな。
「それは分かってはいるんだ。
大きな決断をする際に失敗した時のリスクを考えてくるのは当然のことだろう。
でも、いつも思ってしまうんだ。
僕が彼らの気持ちに応えてあげれば、あんな悲しい顔見なくてすむんじゃないか
僕もいちいちこんなこと考える必要もなくなるんじゃないか、ってね」
「まぁ、告白されたことがない俺には中々理解しがたいが、
佐々木自身がこれからも変わらず今まで通りのお前でい続けることが
そいつらにとっても一番嬉しい事だろうよ。」
とりあえず思ったことを素直に言ってみる。
というより俺はこいつに対して嘘がつけない、すぐばれるからだ。
「キョン、キミはそういったアドバイスが非常にうまいね、仕事にしたらきっとうまくいくと思う。」
笑顔を取り戻した佐々木が言う。
「他人の面倒事について色々考えるなんて俺には到底無理さ、
そんなやつにゃ、お前の面白い話でも聞かせてやったほうがよっぽど元気が出るんじゃないか?」
これも本音。こいつの話は聞いていて飽きない、博識で色んなことを知ってる。
古代の遺跡や宇宙理論、やけに難しい化学技術の話に最近流行のファッションの話など、ほんとに幅が広い。
「くっく、僕の話を聞いて楽しんでくれるのはキョンだけさ。
キョンほど熱心に聞き入ってくれる人なんていないよ」
そういえば理論的な話し方をしているのはよく見るが、
佐々木論からくる壮大な話を他のやつに語っている姿は見たことないかもしれんな。
「まぁ、佐々木以外にゃ気の利いたこと思いついても言える自信はないし、考えようとも思わんかもしれん」
「僕も、キョン以外に僕の知識を語るつもりはないよ。事実、半年前からキョン以外にはしていない」
両手を俺の腹に回し、頬を俺の背中に預けているのだろう、温かい。
俺は全身でもたれ掛かってくる佐々木の体温を心地よく感じていた。
終わり
最終更新:2008年01月28日 08:56