俺たちは放課後、写真部の部室を借りて麻雀勝負をしていた。
なんでこんなことしてんだろうね。
よしっ。これで2-5萬待ちの平和ドラ3聴牌。
巡目も浅いからリーチで抑えてやってもいいのだが、ここはダマで確実に親満を取――
「おや、キョン。もう張ったのかい?
じゃあそれはチーさせてもらおうかな」
「ぅえ!?」
佐々木は透き通った声でチーと言うと俺がそっと河に並べたはずの三萬を持っていく。
俺は精一杯動揺を隠しながら言ってやった。
「い、いいのか?そんなに焦って仕掛けたりして。まだ4巡目だぞ」
「くつくつくつ。君はすぐ顔に出るからね。さしずめ親満辺りでも聴牌したんだろう」
「うっ」
「しかも嘘をつくわけでもないからね。私が考えるに君は麻雀というものに向いてないよ。
・・・っと、ご無礼。それはロンだ。2000点だね」
「なっ!?」
俺は佐々木の手を見て再び驚いた。
4巡目タンピン三色のシャンテンから両面を仕掛けてタンヤオドラ1に・・・
これは――
完璧に読まれている。
いや、それでも・・・それでもどこかに突破口はあるはず――!!
「ご無礼 それはロンだね。18000」
「ご無礼 ツモ。2000は2100オール」
「ご無礼 ロン。48000は48600のラスト」
はい、完敗です。
「・・・で?」
俺は目の前の傀――いや、少女に向かって問いかけた。
「佐々木の望みはなんなんだ?」
――敗者は勝者の言うことを一つだけ、何でも聞かなくてはならない。
なんでそんな約束したかって?
そりゃ、絶対勝てると思ったからな。
なんせ佐々木は今までに麻雀をしたことがなかったんだぞ。
それをちょっと、3分ほどルールブック見ただけであーもコテンパンにされちゃな・・・
よし。もう麻雀はやめるかね。
そう俺が心に誓ったとき
眼前の少女は天使のような、小悪魔のような微笑みを浮かべながら言った。
「では・・・こうしよう」
「いやー。実に楽しかったね」
自転車の後ろで佐々木は勝ち誇っていた。
「佐々木、お前は少し手加減という言葉を覚えたほうがいいぞ・・・」
俺は溜息混じりに言った。
「ん?つまりあれかい。君はこんなかよわい女子に手加減をしてもらってまで勝ちたいわけだ」
「佐々木がかよわい部類に入るかよ。どっちかっつーと強・・・」
「むっ。その発言はセクハラだよ、キョン」
俺の背中が痛い。どうやらつねられているらしい。
「・・・すまん」
素直に謝ると背中の痛みが和らいだ。
ふぅ。世知辛い世の中になったもんだね。
「でもよ」
「ん、なんだい?」
きっと後ろでいつものように微笑んでいる佐々木に俺は尋ねた。
「本当にこんなんでよかったのか?」
――これから私を自転車の後ろに乗せて塾の送り迎えをしてくれないか。
佐々木が頼んだのはこんなことだった。
「もっと他にいろいろあっただろ。まぁ・・・金銭要求されても困るけどな」
「いや」
――これがよかったんだよ。と俺に聞こえるか聞こえないかの声で佐々木は呟いた。
「・・・そか」
俺はそれ以上何も言わなかった。何か言葉に出してはいけないような気がした。
後ろの佐々木も俺と同じ想いだったのか、それ以降塾に着くまで一言もしゃべることはなかった。
ただ一つ変わったことを挙げるとしたら――
彼女の手が俺の腰に回ってきたことかな。
やれやれ。
これじゃ罰ゲームじゃないね。
最終更新:2009年03月14日 23:22