42-655「エイプリルフール」

これはキョンと出会う前、中学1年から2年へと進級する春休みのことだ。

私は13歳。立派なミドルティーンで、思春期真っ盛り。「今とは違う」人間だった。
今の私は男性と男言葉で話すという奇妙な習慣を持っているが、その頃はそんなことはしない「普通の女の子」だったのだ。
そして、13歳の普通の女の子がそうであるように、私は恋愛の虜になっていた

中学1年の終業式の後。
「サキちゃんと村上くんってお似合いのカップルだよねー」
女友達が私に言う。ちなみにサキちゃんというのは私のあだ名である。苗字の佐々木からとってそう命名された。
「そうかな。私なんかで村上くんと釣り合ってるか自信ないけど・・・」
私の彼氏である村上くんは1年にして野球部のピッチャー兼4番。さらに、眉目秀麗で性格も良い。
ちょっとお調子者すぎるところもあるが。
だが、そんな彼は女子に大人気である。
「ほんと1日でいいから村上くん貸してほしいなぁ・・・・。あっ、サキ、村上くんのおむかえだよ」
彼が私の教室の出入り口から顔を出してキョロキョロしている。私のことを探しているのだろう。
今日は野球部が休みなのだ。
私を見つけ、手でこっちに来いよ、と合図する。
「じゃあ、私は村上くんと帰るから」
そう言って、クラスメートに別れを告げて村上くんのもとへと行く。

「いつもの場所で待ち合わせてたでしょー?なんで教室まで来るのよ。恥ずかしいじゃん」
「ごめん、ごめん。早くサキの顔が見たくってさ」
村上くんは屈託のない笑顔をみせる。
ふふ。そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃん。でも、そんなこと言ってもダメなんだからね。
私たちが待ち合わせるのは、あそこしかないんだから。
そこは帰り道から少し外れたところ。街全体を見下ろすことの出来る丘の少し開けた場所。
あまり知られていない場所。
そして、私と村上くんを恋人にした特別な場所。
私たちは付き合いだしてから学校のある日は毎日、そこで待ち合わせて家に帰った。
部活が終わった後に彼と見るそこでの夕暮れは声を失うほど美しいものだった。
実際に、そこで景色を見てから別れるまで一言もしゃべらないことがあったほどだ。
「今日もあそこ行こうよ」
村上くんに話しかける。彼は前を向いたまま、
「んー」
と言った。最近の彼はこういう曖昧な返事が増えてきている。「あー」とか「んー」とか「おー」とか。
まったく困っちゃうんだから。私の話、ちゃんと聞いてよね。倦怠期かしら?
「あー、聞いてるよ。でも、今日はそういう気分じゃないんだよなあ。昼だから夕暮れもないし」
そう。
そして、別れるまでの会話は私から彼への問いかけとそれへの彼の曖昧な応答で終始した。

春休みになった。
私はクラスメートの女友達と遊んだり、エラリー・クイーンの小説を読んで過ごした。
彼とのデートはなかった。というのは、彼をデートに誘っても部活が忙しいといって断られたからだ。
彼のそっけなさは私を不安にし、小説を大量に読破させた。

そして、4月1日。
私はあの丘にいた。
前日に村上くんから呼び出されたのだ。
『明日、大事な話があるからあの場所で会おう。時間は、そうだな、部活があるから夕方の6時半くらいに来てくれ。じゃあ』

6時10分くらいについた。妙にそわそわしてしまったので少し早く来てしまったのだ。
まだ20分もあるよ・・・。どうしよう。
持ってきた小説を読もうとする。しかし、落ち着かないので結局やめる。
「大事な話・・・・か」
そう呟いて、夕暮れを眺める。
そこからの景色は相も変わらず美しかった。

そして彼がやってくるころには空は暗くなり、かろうじて西の方に淡い明るさが残っているだけだった。
「やー、悪いな。待たせてしまって」
時刻は6時34分。4分遅刻だ。
「いいよ。別に」
6時半をすぎてからの4分間ですっかり気分も暗くなってしまっていた。
息を整えて、彼は空を見る。
「空、暗くなっちまったな」
そうだね。暗くなった。
「付き合おうって言ったの、ここだったよな」
この丘は彼から告白を受けた場所。
「わがままだってことはわかってる。すまん、別れよう」
そして、ふられた場所。
なんとなく予想はしていた。最近の彼の様子は少しおかしかった。
ずっと悩んでいたのだろう。私のことで。
「なんで・・・?」
私は彼をみすえて訊ねる。
「んー・・・・。なんでだろう。俺もはっきり言ってわからないんだ。俺はお前のことが好きだ。
今だってその気持はかわらない。けど・・・・」
けど?
「なんか、最近の俺は他人と一枚、うすい紙で隔てられたような感じをうけるんだ。それに戸惑って・・・・。
そんなに深い付き合いができない気がするんだ。おそらく」
‥‥‥
どういう意味だろう。
深い付き合いができない気がする?おそらく?
私のことは好きなのに。
「はっきり言って、意味わかんないよ」
ほんとに意味わかんない。村上くんは何を考えているんだろう。
「ああ、俺も意味わかんないんだ。だから、別れよう」

そうして私たちは交際を終わりにした。

彼は野球にますます打ち込んで、県で最も野球の強い高校に推薦で進学した。
そして、甲子園で高校を全国4位に導いて、プロ野球に入ることが決定している。

私はそういう複雑なことがあって、男性には男言葉で対応するようになった。


「・・・・という話はどうだろう」
佐々木が笑顔で顔をこてっと横に倒す。
今日は4月1日、エイプリルフールだ。ちなみに俺たちは18歳。
二人ともめでたく大学進学が決まっている。
俺たちはいわゆるデートというものに出かけており、景色のいい場所に来ていた。
時は夕方、街がおそろしくきれいに見える。
「なんというか・・・・圧倒されてしまったな」
なんでこんな話を俺が佐々木に聞かされたのかというと、まさにそういう暇つぶしをしているからに他ならない。
今日はエイプリルフール。なんか面白い話をしようということになった。
片方がお題を出して、それにもう片方が適当に答える。別に嘘でも構わない。
そんな遊びである。
じゃんけんで、佐々木が先に話すことになったのだ。
俺が出したお題は「村上くん」。
中学時代に、佐々木は村上くんと付き合っていたという噂があった。
村上くんは今となっては中学の同学年で最も有名になった人なので興味がある。
そんなことを聞くのはデリカシーがないか、とも思ったが、すでに俺と佐々木の関係だ。
問題もないだろう。そう思って出したお題だった。
「本当の・・・・話なのか?」
一応、確かめてみる。
「今日はエイプリルフールさ」
そういって佐々木はくつくつと変な声で笑う。
「次はキョンの番だよ。わかってるかい?」
「あ、ああ」
そうだ。次は俺の番。さっきの話はまた後でじっくり考えればいい。
「お題は         『涼宮ハルヒ』」

‥‥‥‥
やれやれ。そうきたか。まあ、俺も村上くんの話を聞いたわけだからな。ある意味フェアーだ。
勘弁してほしいがな。
この話は長くなりそうだ。もうこの丘も暗くなってきた。
帰り道、そして一人暮らしの佐々木の部屋で語ってやろう。一晩かけてな。

俺とハルヒはたまたま前後の席になったんだ。たまたまだぞ。おい、なんでニヤニヤしてるんだ。 
そして、自己紹介することになった。俺はフツーな自己紹介だったさ。
「よろしくおねがいしまーす」なんてな。
そして、この後はじめてハルヒの声を聞くことになる。妙な自己紹介でな。妙というかある意味、天才的だった。
ハルヒはこう言ったんだ。
「ただの人間には興味ありません。
この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。
以上                         



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最終更新:2013年04月29日 15:16
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