68-334「佐々木さんのキョンな日常 迷い猫」

 長かった梅雨もようやく終わり、夏本番がいよいよ近づいて来た7月の初めのことだった。
 放課後、一人で先に文芸部室に向かい、扉を開けるとそこには先客がいた。

 「ミャア。」
 小さいが、元気そうな声で鳴く、掌に載せられるような子猫。
 何でこんなところに、子猫がいるんだ?どこから入り込んだ?
 子猫は俺の顔を見ても、逃げ出す様子もなく、むしろ何か催促するようにミャアミャア鳴いて、俺の傍によって
来た。よく見ると、こいつは三毛猫のようだ。純粋かどうかわからんが、毛並みはそれっぽい。
  困ったな、何かこの猫にやる物はないかな。
 俺が考え込んでいると、ふと視界に冷蔵庫が飛び込んできた。最近、佐々木の親戚から貰った2ドアの中古品だが、
氷も作れるし、物は冷やせるし、便利なものだ。ディスカウント店の安売り開店セ-ルに、国木田と並んで買ったオ-
ブントースタや単機能電子レンジと並び、我が文芸部の三種の神器となっているが、その中に、アイスコ-ヒ-を作る
ために買っていた牛乳が入っていたはずだ。
 だが、待てよ。子猫に牛乳はまずかったんじゃなかったかな。何か昔そんな話を聞いたような、、

 とりあえず、牛乳を取り出そうと思い、冷蔵庫の扉を開けると、そこには子猫の絵がついた紙袋があった。
 俺が首をかしげながら袋をあけてみると、そこには子猫用の餌と思しきキャットフードが入っていた。
 ふむ。俺はそう呟く。
 この状況から想像するに、この子猫は入り込んだのではなく、誰かが部室に連れてきたのだ。昨日は猫はいなかった。
 佐々木は俺と一緒に朝登校したので、俺と佐々木は除外。となると、長門か朝倉か国木田だが、まあ、国木田は考え
にくい。
 となると、長門か朝倉だな。二人がきたら聞いてみよう。

 そんなことを考えていると、佐々木が部室へ入ってきた。
 「キョンお待たせ、、、ん?どうしたんだい、その子猫は?」
 さあな。多分長門達が何か知っていそうだが、聞いてみないことにはわからん。
 「ふうん。それにしても可愛い子猫だね。」
 そう言いながら、佐々木は子猫を静かに抱き上げ、何度か頭をなでると、今度は机の上に置き、指を動かして子猫をじゃれ
させ始めた。
 猫じゃらしを追いかけるように、子猫は佐々木の指を追いかけ遊んでいる。そんな様子を見て、佐々木もご機嫌になったのか、
歌を歌いだす。佐々木の好きな洋楽の、題名は忘れたが、たまに口ずさむ曲。
 微笑みを浮かべ、子猫をあやす姿は、まるで子猫の母親のようだ。
 気がつけば、俺も一緒に佐々木と子猫を遊ばせていた。


 その後長門がやって来て、話を聞くと、子猫はやはり長門が連れてきたものだという。一昨日の夕方、長門がマンションの駐車場
で見つけたのだという。どうやら、誰かが捨てていったらしい。そうでなければここまで人になついてはいない。
 長門のマンションではペットを飼うには許可がいる。しかも市の条例で、ペットの飼い主は届け出をしなければならない。
 とりあえず、その日は少し餌をあげて立ち去ったのだが、子猫は次の日も同じ場所にいたらしい。
 このままだと、捕まって保健所に引き渡される可能性もあったので、学校に連れてきたらしい。
 だけど、結局問題は何一つ解決していないのである。

で、それからどうなったか?
 結論から言えば、その子猫は俺が引き取ることになった。
 遊んでいて情が移ってしまったのか、それとも佐々木にうまく言いくるめられたせいかわからんが、まあいいだろう。
 長門が喜んでくれたんで、良しとしよう。

 喜んだのは長門だけでなく、我が妹も大喜びだった。なんでも猫がほしいーなと思っていたそうで、そこに俺が猫を連れて
帰ってきたので、妹ははしゃぎまわっていた。
 おい、妹よ。おもちゃじゃないんだから、生き物はもう少し丁寧にあつかえよ。

 ところで、この子猫、三毛猫だろうと書いたが、どうやらそのようで、しかもオス猫だった。
 佐々木に昔、三毛猫の雄は大変珍しいと聞いたことがったが、ひょっとするとこいつは文芸部の幸運の招き猫になるかも
しれんな。、
 ただ、その幸運の招き猫候補に、我が妹が”絶対これがいい”と言って付けた名前は”シャミセン”という、猫にとって
はとんでもない悪い名前だった。

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最終更新:2012年12月01日 17:40
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