セピアがかった世界。民家の一室。どこにでもある高校生の部屋――――
人の気配は何もしない。家の中は、誰一人として居なかった。
――――否。街の形あれど、街に生命体と呼べる者はひとつとして存在していない。
スーパーに展示されている魚も肉も野菜も、いつまでも腐敗せずにその場にある。時間という概念すら存在しているかすら怪しい。
一人の少女が、高校生の部屋に入る。
部屋の学習机の上に置かれた、紫と青色のハードカバーの本。そして二対の携帯電話。
彼女は携帯電話の電源を入れた。
『diary』
8:00
長門が俺の部屋に来た。
青い携帯電話の画面に浮かんだメッセージ。
『diary』
8:00
長門さんが、キョンの部屋に来た。
紫の携帯電話の画面に浮かんだメッセージ。
彼女は画面を見ずに、二冊の本を開いた。青いハードカバーの本に記された記述を確認しているようだ。
佐々木に会えた。
紫色のハードカバーの本に記された記述。
キョンに会えた。
記述を確認し終えた彼女は、二冊の本を閉じ、小脇に抱え…虚空に呟いた。
「また、文芸部室で……。」
ビシリ、と音がし、空間にヒビが入ってゆく。卵の殻を破るように、空間が崩壊した……。
最終更新:2013年04月29日 13:22