69-327『Voice』

塾が終わり、帰りの荷物を用意する。どうやらシベリア寒気団は今年も日本に出兵らしい。
愛用のマフラーは、今日も活躍中だ。後ろに巻く独特のスタイル。皆からもっと可愛い巻き方を習ったが、私はこれでいい。
この武骨な巻き方を私と一緒にしている人は、地球の体調でも心配しているんだろうな。
心配するだけで、なにもしないんだろうけど。
吐く息が空に溶けていく。

「雪か。」

空を見上げれば、雪。深々と降り積もり、明日には雪化粧となるのだろうか。久しぶりに冬が寒い事を思い出した気がする。
「(去年は、こんな事を思わなかったんだけどね。)」
寒いには寒いが、隣に誰かがいた。その誰かさんは卒業以来、連絡してこないが。
「全く罪作りな人だ。」
病院の前の自販機で、コーヒーを買う。手を暖め、ひとすすりすると、どこからか彼の声がした。

「雪……」


どうやら私は、相当疲れているようだ。

「くっくっ。非論理的幻聴とはね。……僕の思考に、ここまでノイズを発生させるのはキミだけだよ。」

身体は寒くて震えているが、何だか少し暖かい。
「(今は、キミの声が聞こえた。それだけでいい。)」
私はコーヒーを飲み干し、家路についた。
中学時代に、隣に当たり前にあった温もりを懐かしく感じながら。

「キョン。今日はとても寒いね。」

雪にかき消されるであろう私の声が、彼に届く事を願って。

その頃の病院の屋上……
「ん?佐々木?」
「エラー。」

END

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最終更新:2013年03月03日 04:55
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