※死にネタ注意
※FF3世界、浮遊大陸脱出直後の水の世界。
「絶景かな絶景かな。」
ハルヒが上機嫌に飛空挺から空を見る。
剣と魔法の世界。俺達SOS団という俺とハルヒが立ち上げたグループは、クリスタルから選ばれたなぞほざかれ、なし崩し的に旅に出た。
幼馴染みの長門、鍛冶屋の娘の朝比奈さん、サスーン王国の古泉を仲間にし、旅に出たわけだが……
亀やら鼠やらメデューサやらサラマンダーやら骸骨やらをぶちのめし、世界の時間が止まっているなんて戯言を聞かされ……
今まで俺達が生きてきた世界が、空に浮いた世界だという眉唾物の話が事実だという、まさに仰天ものの世界だ。
久しく会っていないが、あの理屈好きの奴なら、この世界を何というのか。よく長門と本を読んで、話をしていたな。
「なかなか絶景ですねぇ。」
「風が強い。」
帽子を押さえる古泉と長門。
「ふええー!髪が痛んじゃいます!」
フードを必死に抑える朝比奈さん。
鎧を着込んだハルヒは、上機嫌に空を見ている。バカと煙は高い所が好き。言い得て妙だな。
「しっかし殺風景な。一面海しかないじゃねぇか。」
下を見ると一面の海。
「地上の7割は海。しかし、これは明らかに異常。」
長門の言葉に、ハルヒは興味をそそられたらしい。エンタープライズを着水させ、下を見る。
「……海の下に、何かあるように見えない?」
ハルヒの言葉に、皆が海を覗く。
「……わかりかねますね。朝比奈さんはどうですか?」
「……うーん……」
結局、何かあるに違いないんだが、それが何かはわからん。
「キョン、あんた潜りなさいよ。」
「お前が潜れ。鎧の重さで、良い感じに沈むだろ。」
言い合いをしていると、長門が前方を指差した。
「……島。難破船も見える。」
島に上陸し、難破船に入る。そこにいた人物を見て。俺と長門はこの世界以上に驚いた。
「佐々木……」
そこには、青白い顔をして難破船のベッドに横たわる佐々木がいたからだ。
「佐々木!」
「朝比奈みくる。ポーションを。」
俺と長門は佐々木に駆け寄り、ポーションを含ませた。顔色が戻り、佐々木はゆっくりと息をつく。
「疲弊されていたようですね。」
「何ともなくてよかったです。」
古泉と朝比奈さんは、安堵の声をあげている。ハルヒは実に不機嫌だ。
「ふん!今日はここで野宿ね。有希!聞きたい事があるからこっちに。キョン!あんたは食料を調達して!」
「はぁ?」
看病してやんねぇといけねぇだろ!
「古泉くんとみくるちゃんで看病してあげて。二人ともケアル覚えてるでしょ?顔色が悪くなったら、ポイゾナもね。」
……ああ、そういう事かよ。ちっ。
外に出た俺は……角が生えた蛙やら気持ち悪い蜥蜴やらに追われながら、なんとか自生している椰子の木を見つけ、近くにいた椰子ガニや椰子の実を収穫した。
ハルヒが椰子を取ると、キングスソードでまっ二つに。片方を長門に渡すと、椰子の実の汁を飲んだ。
「……幼馴染みなんですって?」
「幼馴染みってよりは、まぁ……親友だな。一緒にいたのは、一年位だったが。」
「ふーん。ウルなんて辺境に何の用だったのかしら。」
お前の地元のカズスも充分辺境だろうが、馬鹿が。
「涼宮さん、佐々木さんが目を醒まされましたよ。」
古泉がハルヒに声をかける。ハルヒは軽く舌打ちすると、古泉の所に向かった。
「ここは……長門さんに……キョン?僕は一体……」
佐々木が身を起こす。
「私達も驚いた。まさかあなたがここにいるなど、思ってもいなかった。」
長門の言葉に佐々木が頷く。
「僕は、水のクリスタルを祀る巫女の末裔でね。ウルには、風のクリスタルを見るために行っていたんだ。
キミ達と別れた後……クリスタルの様子を見に行ったんだけど、クリスタルが暴走し、大地震に巻き込まれてね。気付いたら、今さ。」
まぁ、何にせよ……助かって良かったな。
「全くだ。しかし、キミ達がクリスタルに祝福を受けるとはね。」
「成り行きだ。」
「くっくっ。変わらないね、キョン。」
佐々木は目を細めて笑った。
「そろそろいいかしら?」
ハルヒ達が部屋に入る。ハルヒはイラついた表情だ。
「あなた達を、クリスタルは選んだのね。……とても大きな光を感じるわ。」
「あっそ。悪いけど、それについても説明してくれない?水のクリスタルを祀る巫女なら、この水の世界も説明出来るでしょ?」
お前……。俺がハルヒに詰め寄ろうとすると、佐々木は俺の手を握った。
「説明するわ。この世界は……」
この水の世界は、水のクリスタルを、魔王ザンデという奴が暴走させて作った世界らしい。
「まだクリスタルに光は残っているはず。……私も一緒に連れて行って。」
話を聞いたハルヒが、舌打ちをしながら言った。
「……特別だからね。言っておくけど、あんまりイチャつくなら、海に叩き落とすわよ?キョン。」
こいつは……。
難破船で一夜を過ごし、俺達は佐々木を乗せて水の神殿に向かった。
「……キミが、クリスタルに選ばれるとはね。」
「俺だって予想外だ。お前が引っ越した後に、カズスからハルヒと朝比奈さんが来て、サスーンから古泉が来てな。
ハルヒが、皆で不思議探索をしようと言って、洞窟に入ったら、このザマだ。」
やれやれ、と肩を竦める。
「くっくっ。……僕としては運命を感じるがね。
僕は水のクリスタルの巫女。それが定めであり、僕はこのままキミに会う事なく過ごすと思っていた。
……再びキミに、長門さんに逢えて嬉しいよ。親友。」
エンタープライズが船から飛空挺になり、高度を上げる。
佐々木が道案内の為にハルヒの横に行き、俺は武器の手入れをする。
シーフである俺の得物は、ナイフ。何故か嫌な宿命を感じる武器だが。
「……俺だって、お前にまた会えて嬉しいさ。」
長門だけが知っている、佐々木が引っ越した後にへこんでいた俺。また会えたら思いを伝えるんだ、と誓っていたんだが……
やはり俺は、とことん不器用に出来ているようだ。
水の神殿のクリスタルは砕けてはいたが、輝きは失っていなかった。
奥の水の洞窟に入り、佐々木が洞窟にかけられた封印を解く。
「行くわよ。」
ハルヒが先陣を切り、俺は最後列から奇襲を警戒する。
「キョン。」
佐々木が声をかけてきた。
「僕は、水のクリスタルの巫女だと言ったよね。それが定めだとも。
クリスタルが輝きを取り戻し、世界が元に戻ったら、僕はお役御免になるはずだ。その時は……」
「ああ。またウルに来い。長門も待っている。」
「…………そうだね。」
やはり、俺はとことん不器用に出来ているな……。
水のクリスタルの間に入り、佐々木が祈りを捧げる。水のクリスタルは輝きを取り戻した。
「…………。」
ハルヒは面白くなさそうだが、何をこいつはそんなに怒っているのかね。肩を竦めたその瞬間。
「キョン!危ない!」
佐々木が俺を突き飛ばした。慌てて振り返ると……
胸を矢に刺し貫かれた佐々木の姿があった。
ハルヒの目が驚愕に揺れ、朝比奈さんの目が潤む。古泉が目を見開き、長門の目が危険な光を帯びた。
ストップモーションのように、いや、実際は一瞬だったのだろう。佐々木が倒れた。
「佐々木……」
「…………キョン…………」
佐々木が奥を指差した。指差した方角から、怪物が姿を現す。
「光の戦士すら殺す、呪いの矢を避けるとは運の良い奴め。」
ぎり、と口唇を噛み締める。呪いの矢?殺す?つまり……佐々木は助からない……?
「俺はザンデ様からの命を受けたクラーケン。お前達を抹殺に来た。死ねい!」
「返り討ちにしてやるわ、この外道!」
ハルヒが激昂し、剣を構える。
「……待て。」
どこから、こんな声が出たかはわからない。ただ、ハルヒ達が、俺をまるで化け物を見るような目で見ていた。
俺は佐々木を出来るだけ安楽な姿勢を取らせた。すまん。少しだけ待っていろ、佐々木。
「俺がやる。」
こいつだけは、この手で殺さないと気がすまない。
「みくるちゃん!回復を!」
あたしは、佐々木さんに刺さった矢を抜いた。矢は心臓に達しているけど、みくるちゃんのケアルラなら……
「…………っ!」
傷は塞がっても、また同じ箇所に傷が出来、血が噴き出す。
「有希……古泉くん……」
すがるように二人を見るが……二人も絶望の表情を浮かべるだけだ。
みくるちゃんが必死に回復をしているけど、もう長くは持たない。それは明らかだ。
キョンの絶叫が聞こえる。シーフでは、火力も守備力も足りない。キョンも殺されかけていた。
佐々木さんの口唇が動く。
「私より……キョンを……助けて……」
……自分の命の瀬戸際にも、キョンを思う佐々木さん。……敵わない。あたしは……口唇を噛み締め、キングスソードを握り締めた。有希も氷の杖を握り締めている。
「死ねい!」
クラーケンが触手をキョンに叩きつけようとした瞬間。考えるより早く身体が動いた。
「いぎっ!」
キョンを庇い、被弾する。痛すぎるわよ、これじゃ……!でも、こうしないといてもたってもいられない。
「みくるちゃん!キョンの回復を!」
「は、はいぃ~っ!」
古泉くんがキョンを避難させ、あたしと有希で立ち向かう。キングスソードが一閃し、クラーケンの触手を落とす。
「離れて。……ブリザガ。」
有希が早口で魔法を詠唱した。足元から氷柱が刺さり、クラーケンが悶絶する。
「程よく冷めたところで、次は電気ショックを味わって頂きましょう。サンダラ!」
古泉くんのサンダラが、クラーケンの足元の氷に直撃する。貫かれた部分から通電し、普段より高いダメージを与えたようだ。
あたしはキングスソードでクラーケンの胸を斬りつけた。心臓が剥き出しになった。もう一撃を食らわせようとしたあたしに、クラーケンの触手が直撃する。
鎧がなければ、即死していたであろう一撃。あたしは壁に叩きつけられ……なかった。
回復を終えたキョンが、あたしを受け止めたのだ。
キョンはみくるちゃんにあたしを回復するように言うと、クラーケンに飛びかかった。
古泉くんが、有希が、触手を叩きつけられ、地面に倒れる。大ダメージを受けたようで、二人はなかなか立ち上がれない。
キョンは触手に絡め取られ、キョンがクラーケンの口に運ばれる。
「キョン!」
このままじゃ、全滅する……。あたしの心が絶望に塗り潰されようとした。キョンが手に持つのは……『ボムの右腕』?
「俺の奢りだ。たらふく食いな。」
クラーケンの口元にキョンはボムの右腕を投げた。
大爆発。クラーケンが仰け反った後、クラーケンは反射的にキョンを離した。キョンは返す刀で、クラーケンの心臓にナイフを突き立てた。
「こんなもので死ぬとでも……!?」
クラーケンはナイフを抜く。先端には……あの矢尻……
「こ、これは……!」
クラーケンが狼狽する。
「お前自身が言った、自慢の呪いだ。精々堪能しやがれ、クズが。」
血を噴き出し、クラーケンが悶絶する。クラーケンが自分で言っていたように、クラーケンが助かる見込みはないのだろう。
「い、嫌だ!死にたくない!死にたくない!」
目に見えて衰弱するクラーケン。キョンは一瞥すると……
「くたばれ。」
とだけ言い、背を向けた。クラーケンが、何度か痙攣し、やがて動かなくなる。あたし達は、勝ったのだ……。
みくるちゃんの回復の中、緊張の糸が切れたあたしは意識を失った。
戦いは終わった。古泉達は、少し離れたところにいる。気遣いのつもりなのだろうか。
「……佐々木……」
佐々木は俺の手を握った。体温を殆ど感じさせない手。もう程無く佐々木は……
「……水のクリスタルの祝福を……」
水のクリスタルが輝き、俺達に光が降り注ぐ。その輝きは、まるで佐々木の最期の命の輝きのようだった。輝きの中、佐々木は俺に言った。
「キョン……世界にまた光を取り戻して。僕は……いつでもキミのそばにいる。…いつだって…キミの………いして……」
輝きが消え、佐々木がゆっくりと目を閉じる。その顔は穏やかだった。
「……佐々木?死ぬな!死ぬなぁ!佐々木ーっ!」
佐々木の目から涙が伝う。……次の瞬間……
佐々木の全身が弛緩した。
「…………」
長門が俺の肩に手を置き、首を振る。
「…………っ!」
冷たくなっていく佐々木を抱き締め、俺はただ泣いた。気持ちを告げれば良かった。少しの勇気があれば良かったのに。
朝比奈さんが、古泉が……長門が泣いた。
ハルヒは意識を失ったままだったが、それは幸いだったと思う。あいつは根が優しい奴だ。佐々木の最期を看取ったら、きっと佐々木に辛く当たった自分を責めるだろうから。
大地震が起きる。
「!」
大きな地震だ。揺れは次第に大きくなり、俺達は壁に叩きつけられる。
「がっ!」
昏倒した俺達は、海に投げ出された。そして目覚めた時……そこは、あるべき世界があった……。
目覚めた後、佐々木の遺体を探したが、どこを探しても見つからなかった。
海洋生物に食べられてしまったのだろうか。
―エピローグ―
魔王ザンデを倒した俺達だったが、俺達はザンデが呼び出した暗闇の雲に、全員殺された。
ドーガとウネが俺達に魂を分け与え、俺達は甦る事が出来たんだが……
ハルヒ達は、ドーガとウネの声が聞こえたという。
しかし、俺の聞こえた声は違った。
『言っただろう?僕はいつだってキミのそばにいる、と。』
きっと、あの水の巫女。俺の魂は、あの水の巫女が分け与えたに違いない。
暗闇の雲を振り払い、世界に夜明けが訪れる。飛空挺で故郷に帰り、俺は一人で村外れに行く。
魔王ザンデの願い。それは世界の破滅だったが……壊すのは簡単でも、無くしたら戻らないんだぜ?
虚無感に苛まされ、俺は空を見た。哀しい位に美しい朝焼けだ。
「くっくっ。」
幻聴だろう。そう思いながら振り返ると……そこにいたのは……
「クリスタルも、粋な事をしてくれる。水の巫女は、人材不足らしくてね。
どうやら、僕は甦る事が出来たらしい。」
絶対に叶わない願い。壊れて元に戻らなかったもの。それが、目の前にある。
「やあ、キョン。」
俺は、その存在を抱き締めた。二度と離さないよう、強く。
「佐々木。」
「なんだい?」
伝えよう。勇気が無かったばかりに伝えられなかった言葉を。後悔しないように。
「俺はお前が――――」
「僕もだよ。」
END
最終更新:2013年04月29日 15:27