70-235「佐々木さんのキョンな日常 最終章 真相~再生その3~」

 二次試験二日目。
 K大会場に来たのは、俺、長門、古泉、そして涼宮。
 佐々木は此処の試験会場ではなく、インドネシア国立大学のキャンパスで試験を受けている。
 そこの大学とK大は提携しており、インドネシア・インターナショナル・スクール高等科に在籍した佐々木は、
帰国子女枠での受験が可能だった。高等科で優秀な成績を収めていた佐々木は、特別推薦ももらい、ほぼ、合格
を決めたようなものだった。
 佐々木と同じ学生生活を送るには、今回の二次試験、是が非でも通らねばならない。
 俺は全力を尽くした。

 「たぶん大丈夫と思いますよ。」
 試験終了後、古泉の実家にお邪魔して、採点を行ったのだが、ネット速報も駆使し、二重の確認を行った結果、
とりあえず、俺達4人とも、推定される合格ラインを超えているようだ。
 滑り止めの私立大は、(佐々木も含め)全員合格しているので、とりあえずK大が合格しなくても、浪人するこ
とはないが(あと、後期日程をK大は一部の学部で採用している)やはり行き先はK大一本のみ。
 最後まで何があるかわからないが、とりあえず、一旦は皆で「お疲れさまでした」である。

 「皆さんお疲れさまでした」
 橘のねぎらいの言葉を受けて、俺達は古泉家が用意したご馳走を前に手を合わせる。
 橘は一足早く、女子大に合格していた。俺達は橘におめでとうと、祝福の言葉を掛けた。
 五人でワイワイがやがや楽しくしゃべりながら、俺達は料理に舌包みを打った。
 いま、この場には居ないが、四月から、佐々木が戻ってきて、こんな光景を眼にする事が増えるかもしれない、
と俺は思った。

 古泉の家から俺達の住む町まで、古泉の父親の秘書・森さんがわざわざ俺達を愛車のBRZに乗せて送ってくれた。
 「どうもすみません」
 「いいのよ。気にしなくて。それじゃ、今日はしっかり休んで試験の疲れを取りなさい」
 優しいお姉さんの様に微笑んで、森さんは俺達に手を振ったあと、BRZを発進させた。
 「とりあえず、二人を送って行くよ」
 最初に長門を送り、その後涼宮を送ることにした。

 長門と別れたあと、今度は涼宮の家に向かう。
 「すっかり遅くなっちまったな」
 「まあ、どうせ明日休みだから、大丈夫でしょ。それにしても、六日後には卒業式よね」
 涼宮が言うとおり、六日後には卒業式だった。
 「キョン、あんた、ちゃんと卒業式の答辞、考えているの?」
 実を言うと、俺は卒業式で、卒業生代表で答辞を読むことになっていた。本当は生徒会長をした国木田がふさわしい
と思っていたのだが、成績優秀者(確かに、最後の学内試験で国木田を抜いて総合一位にはなったが)として選ばれた
らしかった。
 「ちゃんと考えているよ。少し佐々木に協力してもらっているけどな」
 佐々木は俺が答辞を読むことを伝えると、自分のことのように喜んでくれた。

 「もうすぐ佐々木さんが帰ってくるのね」
 「ああ。あっちの卒業式は俺達の二日前に卒業式があるらしい。その足で日本に戻ってくるそうだ」
 すでに荷物はほとんど日本に送ったらしい。親父さんや母親は、少し遅れて帰国するそうだ。
 「佐々木さん、北高の卒業式を見に来るわけ?」
 「そうだよ。二年前、あいつが日本を立つ時、俺と佐々木の間で交わした約束だからな」

 涼宮の足が止まった。


 佐々木さんがキョンの側にいない二年間、あたしは随分キョンと仲良くなった。
 文芸部の活動も、SOS団の活動もどちらも面白かった。二年の文化祭の時は、校内バンド大会に皆で参加
して、キョンとのダブルボーカルで多いに盛り上がった。体育祭のペア競争は優希に譲ったけど、ダンスは
キョンと組んで最高の気分だった。
 勉強もしたし、皆で旅行にも言った。二人きりではなかったけど、不思議探しをやったり、遊びにも行った。
 充実した学生生活。私が望んでいたもの。好きな人が傍にいてくれる楽しさ。

 佐々木さんに宣戦布告した、一年生の秋。あの日の事は良く覚えている。
 ”人の心は変わるものよ”
 だけど――

 結局、あたしはキョンの心を手に入れることは出来なかった。
 二人の強い絆。離れていても、お互いを思う心。
 優しさと愛する心は別のもの。
 それをあたしは知った。
 そして、もうすぐ佐々木さんは帰ってくるのだ。

 「どうした、涼宮?」
 「あ、な、何でもないわ。でもよかったじゃない。あんたの勇姿を佐々木さんに魅せられて」
 「失敗しない様にしないとな」
 キョンが笑い、あたしもつられて笑う。
 でも、ほんとは少しだけ、泣きたい気分。

 「それじゃな、涼宮」
 キョンは家まで送ってくれて、そう言って来た道を引き返していった。
 自分の部屋に戻り、服を着替える。
 机の上に眼をやると、二年の夏休みに行った旅行の時の写真に気付く。キョンを真ん中に、右にあたし、左に
佐々木さん、後ろに古泉君と優希が写った写真。
 ”皆合格できるといいな”
 試験前にキョンがそんな事を言っていた。
 何となく、私達五人は合格しそうな気がする。そして、4月からは同窓生として、新たな学生生活が始るのだ
ろう。
 「大学では負けないんだからね!」
 写真の中の佐々木さんの姿を見て、あたしは新たな闘志が湧き上がり、思わずそう叫んでいた。

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最終更新:2013年04月29日 14:17
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