反撃
朝日の照りつける荒野を歩く銀色の体躯を持つ者と、それに続く人の姿をした二人。
氷川は前を歩くシャドームーンに話しかける。
「すいません、もう少しゆっくり歩いてもらえませんか?」
連れ立っているひよりは、シャドームーンの移動速度に付いていくのに精一杯といった様子で息を荒げている。
だがシャドームーンは氷川の言葉に反応はおろか、足を遅らせようともしない。
「返事位してくれたっていいでしょう!」
「止めろ、大声を出すな……」
思わず声を荒げる氷川を、ひよりが制止する。
「すいません……しかしあなたは歩き詰めで相当疲れているはずです。ペースを落とすか休むかしないと体が持ちません」
「ぼくなら大丈夫だ」
その言葉が強がりである事は、ひよりを見れば明らかだ。
「なんでそんなに無理をしてまで、あいつに付いて行こうとするんです?」
シャドームーンに聞こえるのも構わず、ひよりに詰め寄る。
「お前はあいつが信用出来ないのか?」
「当然です。あいつは風見さんの出方によっては、僕達を殺すと言ったんですよ?」
「あいつが人間じゃないから信用出来ないのか?」
「べ、別にそういう事ではありません……!?」
ピ~ン♪ポ~ン♪パ~ン♪ポ~ン♪
『はぁ~い、皆さんおはようございまぁ~す。』
天から響き渡る音声に、氷川の気勢もシャドームーンの歩みも止まる。
(小沢さんも津上さんも、木野さんも無事か……)
氷川は知り合いが死亡者として名を連ねなかった事に胸を撫で下ろし、次の瞬間に自己への嫌悪が沸く。
(僕は何をホッとしてるんだ!もう6人も……いや、最初のホール死んだ人を含めれば7人も死者が出た事になる
……それにもしかしたらその中には、僕達を助けてくれたギターを持った男も含まれているかもしれない……)
氷川の心が虚無感に押し潰されそうになる。
(……そうだ、今は考え事よりも放送内容を書き取らないと)
そして押し潰されそうな心を使命感で支える。もう何度そうしただろう。
再び歩き始めるシャドームーンを追いながら、地図と名簿の死亡者と指定されたエリアにチェックを入れる。
(ここからは市街地に入る。道が舗装されている分歩くのは楽になるだろうが、より敵と遭遇する危険性が増す……)
氷川は重い足取りで、物言わぬ銀色の背中を追った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「君はこのディスクの使い方が分かるかな?」
「そんなもの、知る訳無いだろ」
蓮と草加は照明の落ちたファミリーレストランの中で、純子の荷物にあった支給品を確認していた。
「それより何でこんな所で、のんびりしてるんだ?」
「ここなら中からは外の様子が見えやすく、外からは中の様子は見えにくいと思ってな」
「そんな事は聞いてない。ヒビキとかいう奴と、E-4で合流する約束はどうするつもりだ?」
「ヒビキに会いには行かない。あいつには俺の嘘がばれる可能性があるからな。
E-4で合流する約束をしたのは、あいつを市街地に留める為だ。
しかしあんな約束を気にしていたなんて、君も人が好いんだな。少し心配になってくるよ」
「……何が言いたい?」
「さっきの放送を聞いた時も、随分動揺したみたいだったが?」
蓮は放送を聞いた時に自分に芽生えた感情を反芻する。
珠純子の名を聞いた時の悔恨、そして
城戸真司の名が呼ばれなかった事への―――安堵。
(死ぬべき人間が死んで、いずれ倒すべき人間が生きていたというだけだ……)
「今の俺に迷いは無い、相手が誰であれ……倒す」
「『殺す』だろ。そこの所を、ちゃんと分かってるのかな?」
「いいかげんにしろ!ここでお前と戦ってもいいんだぞ」
草加は激昂する蓮を鼻で笑う。
「分かってくれていれば、いいんだけどな。それよりあれを見ろ」
草加が顎でさした方に見えたのは、こちらに気付かず三人が一組になって歩く姿。
遠目にも明らかに歩き疲れた男女と、遠目にも威風が伝わってくる銀色の体躯を持つ者。
「君が変身出来たら、ナスティベントであいつらの動きを止めてくれ。
俺はその隙にマイザーボマーを撃ち込む。その時の対応であいつらの内、何人が戦闘力を持つかが分かる
そいつだけに的を絞って攻撃する。もし全員が戦闘力を持っていれば撤退する」
大通り真ん中を歩く三人を、建物の陰から窺いながら作戦を打ち合わせる。
「撤退する必要等無い。後ろの二人は相当疲弊している、ここであいつらをまとめて潰す」
「勇ましいな。ならこの場も君が先行し、俺は後詰って事でいいかな?」
「相手は三人だぞ?一人で行ったら囲まれる危険性が有る」
「援護してやるさ、俺にはカイザブレイガンとゼクトマイザーが有る。君と一緒に行くより、柔軟な戦い方が出来るだろ?
君が怖いって言うなら、後ろで遊んでてもらうしか無いんだがな?」
蓮は無言で草加を押しのけて前に歩み出て、窓ガラスに向きカードデッキを掲げた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
氷川は突如前方から叩きつけて来た衝撃波から、ひよりを庇うように覆いかぶさった。
(…超音波か?……くそっ…耳鳴りが…)
ちょうど氷川達の盾になる位置に立っていたシャドームーンが、前方を飛ぶ蒼い蝙蝠に向け手元からビームを放つ。
蝙蝠がビームを回避すると、衝撃波が弱まった。
(あいつが超音波を放っていたのか?よし、今の内に……)
氷川はひよりの手を引いて、路地に入り込む。
その直後シャドームーンが居た付近を中心に、爆発が巻き起こる。
氷川とひよりは吹き飛ばされるように、先程の道路と路地を隔てて平行に走る道路に飛び出る。
「……だ、大丈夫ですかひよりさん?」
「ぼくよりあの銀色を助けに行かないと!」
「駄目です!あなたが行って一体何がで………!!」
氷川はひよりの遥か後方で、男が何かの機械をこちらに向けるのを見付ける。
その機械から虫の様な物が、無数にこちらへ発射された。
(駄目だ、あんなものとても避けきれない!せめて彼女だけでも守らないと…)
氷川がひよりの盾になろうとするが、衝撃波のダメージが抜け切らない為素早く動けない。
次の瞬間ひよりの背中から、翅が生え広がる。
「………ひよりさん?」
驚愕する氷川の前で、ひよりが飛来する虫の爆発を遮った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
爆発による粉塵が晴れぬ間に、シャドームーンの背後からナイトが切り掛かる。
上段からの振り下ろしを横にかわされ、即座に振り上げた剣をスウェー気味に後ろへかわされ
胴への突きに変化させるも手で横に払われる。
(大した反応の速さだ。だがあの青いライダーのように規格外の速さという訳ではない)
そこからさらに横薙ぎに切り込むが、シャドームーンはエルボートリガーでそれを弾いた。
「何っ!?」
ナイトは剣を落としそうになり、慌てて後ろに飛び退きながら体勢を立て直す。
今度はシャドームーンからエルボートリガーで切り掛かった。
何合か切り結ぶ内に、ナイトは押され体力が削られていく。
ナイトは考える。スピードでは互角でも、一撃一撃の重さは相手の方が上、真っ向から打ち合えば不利。
「ダークウイング!」
横合いから蝙蝠の
モンスターが、シャドームーンに突っ込んで行く。
シャドームーンは片手のエルボートリガーで剣を受け止めながら、もう片方の手から放つ電撃で蝙蝠のモンスターを捕らえる。
その手をナイトに向けると、蝙蝠のモンスターも牽引されナイトに体当たりする。
ナイトは飛ばされながらベルトからカードを取り出し、それをバイザーに収める。
『SWORDVENT』
立ち上がりながら天より降りてくる大剣を受け止め、突きを放つ。
エルボートリガーで受けられるも、先程までのように力負けはしない。
そのまま鍔迫り合い形に持っていき、大剣の柄の方で掬い上げる様にシャドームーンの腕を撥ね上げる。
(もらった!)
両手を開いて無防備なシャドームーンの頭部へ、大剣を振り下ろす。
「シャドーセイバー」
シャドームーンの声がしたと思うと、大剣の斬撃が何かに阻まれる。
シャドームーンの右手から伸びた剣の紅い刀身が、大剣を受け止めていた。
そして左半身を少し下げたのを見ると、ナイトは反射的にバックステップを取る。
左手に持った紅い刀身の短剣が、ナイトの脇腹をかすめ装甲を削る。
(なんて切れ味だ!こいつまだこんな切り札を持っていたのか)
長短一対の剣を振るうシャドームーンに対して、ナイトは防戦一方になる。
(援護すると言っていた草加は何をしている?)
最初のゼクトマイザーの攻撃以来、草加からの援護が来ない。
(………成る程…俺を捨て駒にした訳か)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
背中の翅でマイザーボマーを防いだ少女を見て、草加は舌打ちをする。
(何の力も持ってないと思ったが、まさか変身出来るとはな)
路地越しに、ナイトが押されているのが見える。
草加の目論見通りナイトと銀色のライダーが、上手く潰し合ってくれているようだ。
(変身出来るという事は、それなりに戦闘力を持つのだろうが……
まあいい、俺も変身してこいつらを殺したら当初の計画と結果は同じだ)
少女が光に包まれると共に、緑色の異形を表していくのを見ながら草加はカイザドライバーを腰に巻く。
『Standing By』
「変身!」
『Complete』
カイザフォンをカイザドライバーに装填すると、黄色いラインと黒い装甲の戦士カイザが姿を表した。
フライパンで殴りかかってくる緑色の怪物の拳を横に捌きながら、カウンター気味のボディブローを食らわす。
後ろにたたらを踏む怪物を、蹴りで追撃する。
受身も取れず後ろに倒れこむ化け物を見て、カイザはまともな戦闘どころか喧嘩もしたことが無い戦闘の素人だと判断した。
起き上がろうとする怪物に、カイザブレイガンの光弾を撃ち込む。
怪物が立ち上がろうとする度に光弾を受けて倒れる様を見て、カイザは嘲るような笑いを抑えきれない。
止めをさそうとブレイガンとゼクトマイザーを構えた瞬間、怪物の姿が消えた。
(消えた?…いやこれはあの青いライダーと同じ……!?)
状況を分析し終わる前に、カイザの体が吹き飛んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ナイトはシャドームーンが、全く疲れを見せない事に驚嘆していた。
(このままではジリ貧だ。なんとかカードを使う隙を作らないと)
打ち合う中の一瞬の間に、ナイトは身を屈めて足を払うように蹴る。
だがシャドームーンは微動だにせず、逆に蹴り飛ばされる。
地面を転がりながらカードを取り出し、それをバイザーに装填。
『TRICK VENT』
シャドームーンの手から放たれたビームがナイトに着弾する瞬間、ナイトが掻き消える。
次の瞬間シャドームーンの横合いから、ナイトが切りかかる。
シャドームーンはそれを短刀で受け、長刀でナイトの腹を突くもまたもその姿は消えた。
二人のナイトが間合いを取りながら、シャドームーンを挟むと
シャドームーンも何かに気付いた様子で、路上駐車してあるトラックの荷台を背に両手をクロスさせ受けの構えを見せる。
「ハッ!」
荷台の上からナイトが、シャドームーンに飛び掛る。
横に飛んでかわしたシャドームーンの背後から、ナイトが肩口に切り付ける。
「お前が本物か」
肩で受けた大剣片手で掴み、もう片方の手から放たれる電撃でナイト体を捕らえ
そのまま頭越しに、シャドームーンの前方に放り投げた。
起き上がろうとするナイトに、シャドービームが放たれる。
ナイトは咄嗟に大剣を盾にそれを防ぐも、路地まで吹っ飛ばされた。
(……あの銀色のライダー…なんて強さだ…)
起き上がる事もままならないナイトは、ふと路地を挟んで反対の道路を見る。
そこには少女が倒れているのが見えた。
そしてその少女に黄色い刃を向けて近付く、黒い影―――仮面ライダーカイザ。
ナイトに急激に力が湧き上がる。
ナイトは湧き上がる怒りのまま、カイザに向かっていく。
振り返るカイザの背中を、大剣で大上段から斬り下ろした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
シシーラワームの体当たりで吹き飛ばされながら
幾多のスポーツの練習と実戦経験によって鍛えられたカイザの目が、シシーラワームの高速の動きを捉えた。
(あの青いライダーと同じ超加速か、だがこっちは一度そいつを経験してるんだよな)
カイザは体勢を立て直し、シシーラワームの影を捉える。
カイザが横に飛びながら、ブレイガンの刃を横に伸ばすとそれにシシーラワームがぶつかり切り裂かれる。
(速さはあるが動きは直線的で単純だ。ブレイガンの一撃で仕留められない頑丈さは厄介だがそれも時間の問題だな)
シシーラワームが地を蹴ったのを見ると、カイザはまたも横に体を開き伸ばしたブレイガンでシシーラワームを切る。
(馬鹿だな、さっきのは偶然だとでも思ったのか?)
「ひよりさん、敵はあなたの攻撃の軌道とタイミングを読んでいます!」
カイザが氷川の声に気を取られた隙に、シシーラワームが再度地を蹴る。
横に飛ぼうとしたカイザの顔にフライパンが飛んできた。
それをブレイガン払い落とした直後、シシーラワームのタックルで倒され馬乗りになられる
カイザがブレイガンで反撃に出ようとするも、シシーラワームに手首を掴まれる。
シシーラワームはクロックアップが解けたのも構わず、残った手でカイザの顔を殴りつける。
「舐めるな!」
残った手でベルトからフォンブラスター外し、シシーラワームの顔を撃つ。
シシーラワームが怯んだ隙に、足を外し蹴り飛ばす。
(予想以上に厄介だな、このまままともに戦っても負けないだろうが
これ以上消耗したくないからな、ここは搦め手でいくか)
氷川の下へ行き、その腹を殴りつける。
「動くな。こいつを殺すぞ」
倒れる氷川の首筋にブレイガンの刃を当て、シシーラワームに告げる。
「……ひより…さん……僕に構わず…」
「君は黙っててくれないかな?まだ死にたくないだろ?」
「止めろ!お前の言う通りにする」
「ならとりあえず人間の姿に戻って貰おうかな。その姿だとどうも妙な力を使えるらしいからな」
シシーラワームは無言で
日下部ひよりの姿へと変態していった。
「素直だな、そんなに仲間を助けたいのかな?」
カイザはゆっくり首筋からブレイガンを離す。
「人間的感情と言うやつかな?……人間でも無いくせになっ!!」
そしてフォンブラスターをひよりに向け、右肩を光弾で撃ち抜く。
血飛沫を上げ、ひよりの体が崩れ落ちる。
「ひよりさん!!」
(急所は外したか……止めをささないとな)
ブレイガンを向け、ひよりへと近ずく。
「……待て、僕はまだ戦えるぞ…」
声を出すのも精一杯といった様子で、氷川はカイザを制止する。
「安心しろ、すぐに彼女と同じ所へ送ってやるよ」
振り返って氷川を鼻で笑うカイザの背中に、衝撃が走った。
「ぐはっ!」
倒れたカイザの腹に、ナイトが走ってきた勢いで蹴りを見舞う。
蹲るカイザの顔目掛け、ナイトが大剣切っ先を振り落とす。
転がりながらそれをかわし、立ち上がるもその間に間合いを詰められ切り結ぶ形になった。
背中を斬られた痛みの為、先の戦いとは逆にカイザが押される形にになる。
(背中の傷はそれほど深くは無いが、このままでは勝ち目は無い……ん?そうかこいつ……)
「自分の体を良く見てみるんだな!もう随分粒子化が進んでいるみたいだがな?」
ナイトの装甲が硬度を失い粒子と化していく。変身時間の終わりが近付いているサイン
「俺は君より後から変身した!つまり俺の方が余裕があるという事だ!
俺に勝ちたいんなら、勝負を急いだ方がいいんじゃないかな!」
挑発し動揺を誘う。と同時に受けに徹する戦い方に切り替える。
かわし、往なし、受け流す。高い技量を生かしナイトの攻撃を捌き続ける。
「君はそろそろ時間切れなんだろ?残念だったな!所詮君では俺には敵わないんだよ!!」
斬撃に徹していたナイトが、突然体を屈め蹴りで足を払いカイザを倒す。
背中から倒され、痛みでカイザの動きが止まった。
「お前は俺に人を殺せるかと聞いたな?」
カイザに問い掛けながら、ナイトはカードをバイザーに収める。
「今の俺ならお前を殺せる」
『FINAL VENT』
(あの技を使うつもりか!?何時変身が解けるかもしれない状況で)
ダークウイングをマントに変え、天高く飛翔した。
ナイトはきりもみ回転でマントを巻き込みながら、敵目掛け急降下する。
ナイトの全身が刃の鋭さを持つ、銃弾と化す。
カイザがブレイガンとフォンブラスターの光弾を撃ち込むも、飛翔斬の突貫力に全て弾かれる。
そしてその突貫力の突端が、カイザの胸に到達した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
氷川はカイザとナイトの戦いが始まったと同時にひよりを路地に運び、二人の戦いに巻き込まれないように隠れていた。
(ひよりさんは肩の怪我が酷い。何処かベットででも休ませてと……)
自分のシャツを包帯代わりに、ひよりの肩に巻きつける。
とても応急処置と呼べるような対応では無かったが、氷川には他にやりようが無い。
その内に戦いの喧騒が止んだ。
「……どうなったんだ?」
氷川が隠れている路地からは、二人の戦いの様子がよく見えない。
氷川はひよりを隣の道路から電柱の陰になる所に寝かせ、二人の様子を窺いに行く。
(どうやら戦いは収まったみたいだが……あの人は?)
ブティックの前でカードデッキを握り締め、倒れている男を発見する。
(この人は僕達を襲った男じゃない、僕達を助けてくれた人の変身が解けた姿か)
慌てて助けようとするが、警戒の気持ちが生まれ躊躇する。
(確かにこの人は、僕達を助ける形で戦闘に介入してきた。だけどそれだけで味方だと判断出来ない…)
氷川は男を放置しておく事にした。
(今の僕にはひよりさんを助けるのが精一杯だ。とてもこの人を助ける余力は無い)
ひよりのもとへ戻り、彼女を背負ってその荷物を持った時に声は届いた。
――みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!
(この声は!?……拡声器か何かで呼びかけているのか?)
――殺し合えって言われたからって、人を殺すなんておかしいよ!
少女の呼びかけに、氷川は自分が勇気付けられている様な気がした。
おそらくは自分以上に戦う力を持たない少女が、この殺し合いを止めようと懸命に戦っている。
――ファイズは、仮面ライダーは……闇を切り裂いて、光をもたらす!
(早く声のする所へ行かないと、この少女が危険だ!)
一刻も早く少女の所へ向かおうと決意する。氷川がこの戦いの中で始めて見付けた脱出への希望に向けて。
だがその希望は、銃声によって引き裂かれた。
氷川は倒れている男のもとに戻り、ひよりを抱えているのと反対側の肩に男を抱えた。
(僕は警察官だ。それなのにさっきは自分の無力を言い訳に、危機に陥ってる人を見捨てようとするなんて
戦う力が無くても、人間の強さを示す事は出来るはずだ!あの呼びかけの少女のように!
例えこの人が戦いに乗っていたとしても、その時は僕が止めてみせる!)
自身の体も限界に近いはずだが、二人を抱え歩き出す。
(とにかくこの二人を休ませる所を探さないと、それとひよりさんは医者に診せなければ命に関わる。
何とか木野さんを捜して、ひよりさんを診て貰わないと……)
自分の涙を拭う事もせず蓄積された疲労で足が震えても、今度こそ氷川の歩みは止まらない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
朦朧とする意識で、自身のダメージと周囲の状況を確認する。
(目は…開く……耳も…聞こえる……手と…足はどうだ)
手指と足指を開閉しながら、自分が変身が解けてブティックの床の上で倒れていると分かった。
店の外の煙が晴れて、倒れた蓮に近寄る警察の制服姿の男が見える。
(ショーウインドウから…店内に叩き込まれた訳か………くっ…意識…が……)
もはや思考する事もままならない草加の耳に、その声は届いた。
――みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!
(真理!!?)
意識が急激に覚醒する。
(何処だ!?……この声は放送?…いや、拡声器か!?)
――殺し合えって言われたからって、人を殺すなんておかしいよ!
(やっと見付けたよ真理。今、君の下へ行くからな!)
ほとんど感覚も無かった手足に力がこもり、再び立ち上がろうとする。
だが真理の声は届いても、その言葉の意味は届かない。
(真理、今度こそ俺が君を救ってやる。……君以外の奴は全員殺してな!!)
今でも鮮明に思い返される、流星塾での真理との思い出。
真理だけが俺に手を差し伸べてくれた。真理だけが俺を救ってくれた。真理だけが俺の母親になってくれる。
――ファイズは、仮面ライダーは……闇を切り裂いて、光をもたらす!
(何でファイズの名前が出て来るのかなぁ!君を脅かす闇を切り裂いて、救いの光をもたらすのは俺だけだ!!)
真理の声がもたらした光は、草加を立ち上がらせる。
そして真理の声を覆いかぶさる様に轟く、機関銃の銃声。真理の呻き声も、拡声器を通して聞こえる。
「―――!!!?」
草加には何が起こったのかは、すぐには分からなかった。
銃声によって途切れた真理の呼び掛け、仮面ライダーキックホッパーの怒りの声、それらを繋ぎ合わせて出た結論。
園田真理は撃たれたのだ。
「……う」
機関銃で撃たれ、真理を守ろうとした男の悲しみの叫び、それらを繋ぎ合わせて出た結論。
園田真理は死んだのだ。
「うぅぅゥゥゥゥゥ……」
草加は重力に逆らう力を失い、地に膝をつく。
(真理、真理、真理真理真理真理真理真理真理真理真理真理真理真理)
「ゥゥゥォォォォォォッ……」
全てを失った。戦う理由も、未来への希望も、生きる意味も、草加の心には絶望しか残されていない。
真理の死体を回収して、それをスマートブレインに渡し生き返らせる事は不可能と言っていい。
そして真理の仇であるマシーン大元帥は、仮面ライダーキックホッパーに討たれたのだから。
(……何でお前は真理の傍らに居ながら守れなかった。…何で真理が死んでお前が生きてるんだ!)
絶望に支配された心に、憤怒の炎が灯る。
(仮面ライダーキックホッパーだけじゃない、何で真理が死んで他に生きてる奴が居るんだ!)
このゲームの参加者は誰も真理を守らなかった。そして真理の死によって彼等の生き残る可能性が増えた事になる。
(許せないな。お前等は真理を死に追いやった、この世で最も罪深い罪人なんだよ。
だからお前等には等しく罰を、真理の味わった苦痛を、俺の味わった絶望を与えなければなぁ!!)
増大する憤怒の炎を燃料に、再び立ち上がる力を得る。
(そしてこのゲームに勝ち残って真理を生き返らせてみせる。今更出来ないとは言わせないぞ神崎士郎!
お前を殺すのはその後だ。その時は神崎士郎、お前に最も残酷な死を与えてやる!!)
己が心が生む煉獄の炎を力にして、草加は地獄から立ち上がる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(……俺はここで何をしてるんだ?)
蓮は夢の中で、誰にでもなく問いかける。
(そうだ俺は戦ってるんだ……恵理を救う為に)
――みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!
(………誰だ?…恵理か?)
――殺し合えって言われたからって、人を殺すなんておかしいよ!
(それでも俺はこうするしかないんだ……恵理を救う為には)
――仮面ライダーは……闇を切り裂いて、光をもたらす!
(そうだ、俺は恵理に光をもたらす為にライダーなった。そしてその為には他のライダーを……)
『一つでも命を奪ったら、お前はもう、後戻りできなくなる!』
何よりも強く恵理を救う事を願った。
だが人を守るためだけにライダーになった馬鹿と肩を並べて戦っている内に、自分の戦う意味さえ揺らぎそうになった。
(それでも…それでも俺は……恵理!)
いまだ夢の中に在る蓮に届いた声は、果たして真理の声だったか?それとも恵理の―――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!
少女の叫びが響き後に続く者が居なくなってなお、シャドームーンは一顧だにしない。
もとより風見志郎との取引などほとんど当てにしていないし、少女の呼びかけにも興味を引く内容は無かった。
――仮面ライダーは……闇を切り裂いて、光をもたらす!
(……仮面ライダー?この女、RXの仲間か?)
シャドームーンは考える、例えこの呼びかけの少女がRXの仲間で無かったとしても
RXがこれを聞けば、必ず呼びかけの主の所へ向かうだろうと。
(俺も行ってみるか、闇雲に捜すよりましだろう)
シャドームーンは進路をC-6に向ける。
続く者も並ぶ者も無くなお、影の王子に惑いは無い。
【
秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-7】
[時間軸]:34話龍騎サバイブ戦闘前後
[状態]:全身に負傷。極度の疲労。気絶。後2時間変身できません。
[装備]:カードデッキ(ナイト)
[道具]:配給品一式
[思考・状況]
1:気絶中につき思考停止。
【日下部ひより@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-7】
[時間軸]: 本編中盤 シシーラワーム覚醒後。
[状態]:右肩に重傷。気絶。後2時間怪人態にはなれません。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:気絶中につき思考停止。
フライパンはF-7の道路に放置してあります。
【
草加雅人@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-7】
[時間軸]:ファイズ終盤
[状態]:全身に負傷。背中に切り傷。極度の疲労。後2時間変身できません。参加者全員への強い憎悪。
[装備]:カイザドライバー(カイザブレイガンのみ付属) 、ゼクトマイザー。
[道具]:ファイズアクセル、三人分のデイバック(佐伯、純子、草加)
ディスクアニマル(ルリオオカミ、リョクオオザル、キハダガニ、ニビイロヘビ)
マイザーボマー(ザビー、サソード、ガタック(小消費)、ホッパー)。
[思考・状況]
1:風見士郎に虚偽の情報を吹き込む。
2:ゲームの参加者の皆殺し。
[備考] 珠純子の死をヒビキか青いライダー(加賀美)に擦りつけようと考えています。
ゼクトマイザーは制限により弾数に限りがあります。
【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-7】
[時間軸]:RX27話以降
[状態]:若干の疲労。後2時間戦闘できません。
[装備]:シャドーセイバー
[道具]:なし
[思考・状況]
1:RXを倒す。
2:RXを探すために周りを利用するのもひとつ。
3:呼びかけの声がした方へ向かってみる。
【
氷川誠@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-7】
[時間軸]:最終話近辺
[状態]:背中に裂傷。極度の疲労。
[装備]:拳銃・手錠等の警察装備一式(但し無線は使えず)
[道具]:ワーム感知ネックレス@仮面ライダーカブト、ラウズアブゾーバ@仮面ライダーブレイド、トランシーバー、但し書きが書かれた名簿
ラウズカード(ダイヤの7と9、クラブの8と9、スペードの3)
[思考・状況]
1:気絶している少女と男を守る。
2:気絶している少女と男を何処かで休ませる。
3:
木野薫との合流。
4:此処から脱出する。
5:
小沢澄子、津上翔一との合流。
6:ラウズアブゾーバを知る人物の捜索。
※
結城丈二を風見志郎だと思っています。また、彼に猜疑心を持っています。
最終更新:2018年11月29日 17:20