戦士の掟は天に刻め

 ホテルの受付にて、三人の男が情報を交換していた。
 一人は、癖の強い黒髪、怜悧な眼差しを宿した瞳、長身痩躯、しかし鍛えられた身体を持つ男。
 その名は天道総司

 もう一人は、白いワイシャツに、黒いロングコートを着た男。
 黒いまとめられた髪に、鼻筋の通った真面目そうな甘いマスクをしている。
 しかし、その瞳には知性と熱さを秘めている。
 彼の名は、結城丈二

 最後の一人は蠍を模した兜をかぶる、威厳溢れる瞳の口髭を蓄えた男。
 身に纏うのは、デストロンの象徴蠍のマークを施した紅い衣装。
 盾と斧を油断無く傍に置いている。
 戦士の名は、ドクトルG。

 話を続ける三人は、動きを止める。
 二回目の放送が、反射する物体に女を映して告げられたのだ。
 その死者を読み上げる甘い声は、その場にいる人物に怒りをもたらすには充分だった。

(加賀美……)
 肩に止まるガタックゼクターが力を失いうな垂れているように、感じた。
 自分は間に合わなかったのだ。
 天の道を行き、総てを司る男。なのに、たった一人戦友の危機に駆けつけてやれなかった。
(アメンボから人間まで、総てを救うと、お前にも言ったことがあるな)
 元は、別の人間に告げた言葉だ。
 だが、加賀美に向かっても言ったことがある。そのときの彼は呆れていた。
 ……今の、自分のように。
園田真理、麻生勝。俺はここから脱出できる能力を持つ。だが、たかが首輪のせいで誰も救えなかった。
お婆ちゃん、俺は本当に天の道を行っていいのだろうか?)
 答えを天は、返してくれなかった。


(風見さん……)
 その放送を聞いたときは、何かの間違いだと思った。
 あの風見が、V3が死ぬなんて、ありえないと思った。
 同時に、頭の中でこれが真実であると、冷酷に告げる。
(神崎士郎に風見さんの死を偽装する理由がない。これはおそらく真実だ。
くそっ! 俺に力があれば……ドクトルGを退ける力がっ!!)
 そうすれば、風見と合流し、彼を助けれたかもしれないのにと、後悔が胸を痛ませる。
 この半日、結城は多くの者を喪った。
 彼ら仮面ライダーの父親と言える立花藤兵衛。
 デストロンを裏切ったとき、風見とともに自分を応援し、支えてくれた珠純子。
 このゲームの無常さを訴え、マシーン大元帥に殺されてしまった園田真理
 彼女が願いを託し、その想いに応えた仮面ライダーキックホッパー、麻生勝。
 そして、共に戦い続け、自分に仮面ライダー四号の名を送った、最高の相棒、風見志郎。
 今の結城丈二は、冷静さを無くし、ただ自分への怒りに震えていた。

「風見志郎が死んだのか」
 ドクトルGが呟き、結城は怒りに頭が沸騰する。
 彼はデストロンの幹部。風見志郎の死を喜ぶのは当然の反応で、予想の範疇。
 だが、自分の想いだけは計算を超えて止まらない。
 風見志郎とともに戦い抜いた十数年は、絆を血を越えた兄弟へと、昇華させていた。
 怒りが顔に出ていたのであろう。天道が肩に手をかける。
 それを払って、右手は静かにライダーマンマスクを取り出そうとした。
結城丈二、奴が死んで喜ぶのが正しい姿なのだろうが……どうにも素直に喜べん。
奴は、俺の手で殺してやりたかった……」
 ドクトルGは自分たちに背を向け、寂しげに呟いている。
 予想外の言葉に、呆気にとられ頭が冷える。
 天道の顔を見ると、同じ感想らしく、視線が合わさった。
「奴に多くの怪人をぶつけたのに、そう思うのもおかしな話だがな。
デーストロンも、二人になってしまったか……」
 ヨロイ元帥も、放送で呼ばれている事を言っているのだ。
 それは、不幸中の幸いだと思っている。奴の毒牙にかかる人間はもういない。
 右手に持つライダーマンマスクを、元に戻す。今は、戦う必要は無い。
 冷静さを取り戻した結城は、そう判断した。
「それでは、先程の話を再開してもいいか?」
「脱出の算段とやらか。だが、現実にできるのか?」
「この空間は、異次元ではあるが、俺がハイパーゼクターを手に入れれば、時空を超えることができる」
「だが、今は首輪の影響で時空を超える能力が制限されている可能性が高い、そういったな。
それなら、数を減らしていった方が効率は良くないか?」
「ドクトルG、それは暴論だ。天道くんの能力に賭けたほうが、生き残れる確率はグッと高くなる。
首輪の方は俺が何とかする。現物をばらして仕組みを理解さえすれば、解除は可能なはずだ」
「それにだ、神崎士郎の言いなりになって何の得がある?
奴のことだ。願いを叶えさせる気など無く、最後に生き残った人物を自分の手で殺すくらい、やりそうだと思わないか?」
「つまり、どの道生き残るには、神崎士郎を殺さないとならないというわけか。
首輪を解除する算段はついているのか?」
「いや、今のところはまったくついていない」
「首輪の解除の算段がついていないだと? それではまったく意味が無いではないか!?」
 ドクトルGが唸るように言うと、天道は紙に文字を書き、自分たちに見せた。
 その間、自分は立ち上がってカーテンを閉め、光を反射する物質にシーツをかぶせる。
『この首輪はおそらく盗聴機がついている。首輪に関する話題は筆談で通すぞ』
 無言で、結城とドクトルGは頷いた。
『盗聴機だと? 何故そう思う?』
『俺と結城が話し合った結論だが、この主催者となるなら、参加者の監視は必須だ。
その手段の一つとして盗聴機が首輪に仕込まれている可能性が高い』
『なら、こうして筆談だけで通せば、密談ができるということか』
『そう甘くは無い。俺と結城は今回の放送で確信したことがある』
『なんだ?』
『神崎士郎は鏡から俺たちを監視できる可能性がある』
『……結城、突飛でもない発想だと、科学者の貴様は思わないのか?』
『最初は半信半疑だった。だから、今回の放送で確かめてみようと思った。
あの放送の女は、鏡から話しかけている。首輪からのホログラムの可能性も考えたが、三人が首輪を向けていない場所にも、あの女が映っていた。
全方位に映すのかとも思ったが、ホログラムを発信できるような装置がついている様子は無い。
となると、結論としては鏡に別世界があって、神崎はそこを行き来することができるということだ。
もっとも、天道くんの時空を超える能力と平行世界の話を聞かなければ思いつきもしなかったが』
「結城、その男を信用するということか?」
 ドクトルGが、敢えて声に出して、自分に確かめるように言う。
 その彼の厳しい視線から真っ向に立ち向かい、重い口を開く。
「ああ、信用できる」
「その男が、仮面ラーイダーである可能性が高いとしてもか?」
 射抜くような視線を、今度は天道に向ける。
 焦りながら結城は天道へ視線を移すと、相変わらず悠然と腕を組む天道がいた。
(しまった。仮面ライダーである可能性が高いことは確かだ。それが無条件に天道くんを信頼してしまった理由でもある。
だが、それはデストロンの一員としては致命的だ。まさかばれてしまったのか?)
 手は汗を握り、再び右手でライダーマンマスクを持つ。
 ゆっくりと、天道の口が開かれた。
「そうだ。俺は仮面ライダーカブト、天道総司だ」
 がたっと音を立て、ドクトルGが立ち上がり、斧を上段に構える。
「待つんだ! ドクトルG!! 天道くんはこの時空から脱出できる唯一の鍵なんだ!」
「それがどうした! 仮面ラーイダーなどと組むなど、俺はゴメンだ!!」
「俺だってそうだ。デストロンと組むなど、本来ならとりたくない手段だ」
「なら……覚悟しろ」
「だが、お婆ちゃんが言っていた。
一見組み合わせの悪い食材と調味料でも、使わなければならない場面があると。
首輪を解除できるなら、デストロンが相手でも手を組む。天の道を行き、総てを司る俺はそれができる」
 その後は、不敵に笑い、無言でドクトルGを見つめているのみだ。
 まるで、お前はどうなのだ?と、挑発するように。
 ドクトルGは、手に持った斧を叩きつけた。
 だが、その刃は天道を斬りつけず、目の前の机を叩き割ったのみである。
「……仮面ラーイダーカブト。貴様と組むのは脱出までだ。それ以降は、俺の手で殺す」
「いいだろう。だが、簡単に殺せると思うな。俺は、最強だぞ」
 男二人の視線が空中でぶつかり、火花を散らす。
 お互い一歩も引かず、ただ闘志を剥き出しにしていた。

 全員が出発の準備を整えている。
 やがて、天道が結城に話しかけてきた。
「結城、シャドームーンはどうする?」
 突然の問いに、結城は戸惑う。
「俺としては、ここで殺す事を進める」
「……珍しく同意見だ。結城、奴は始末しておけ」
 天道に、ドクトルGが同意を示している。
 その言葉にまた、迷う。
(ここでシャドームーンを殺すのは正しいことなのか? 他に道は無いのか?
風見さん、おやっさん、何が正しいのか、俺に教えてくれ)
 だが答えは返らない。
 天道の先を促すような視線が自分を貫く。
 早く結論を出し、氷川たちと合流しなければならない。
 刹那の葛藤を乗り越え、結城は答えた。
「シャドームーンはここに置いて行こう。彼は襲われなければ、戦いを挑まないはずだ」
 この結論に、二人は呆れを含んだため息をつく。
 現実主義者の二人なら、当然の反応だ。
 それでも、結城はこの決断を変える気は無い。そして、二人にシャドームーンを殺させる気は無い。
 例え、それが間違っているのかもしれないとしても、自分の判断ミスで命を奪うのは嫌なのだ。
「分かった。だが、本当にそれでいいんだな?」
「ああ、何かあったら、俺が責任を取る」
「その言葉、忘れるな」
 言い放たれ、荷物を手にホテルを後にする。
 扉が静かに閉じられ、外の眩しさに目を細める。
 コンクリートで舗装された道を、三人は進んだ。


(どうにか、丸め込めたな)
 天道は、ドクトルGの物腰を注意深く観察する。
 仮面ライダーと名乗ったのは、彼を怒らせ、冷静さを失わせて挑発に乗りやすくするためだ。
 そして、真理の訴えを聞き、闇を切り裂いて、光をもたらす決意のためでもある。
 怒らせたはずのドクトルGは、もう冷静さを取り戻していた。
 武人としての佇まいは隙が無く、勝つのが容易でないのが伺える。
 それに、黒い化け物との戦いで見せた、カニレーザーとしての戦闘能力の高さ。
 あれとまともにぶつかって、無傷でいられる気がしない。
(我ながら天の道を行くものと思えないほど、弱気な考えだな)
 自嘲し、歩み続ける。
(ひより、どこにいるかは分からないが、必ず見つけ出す。それまで頑張って耐えてくれ。
もっとも、ひよりと合流する前にドクトルGをどうにかしないとな)
 いつものように自信が湧き出て、目の前の道を不敵に見つめる。
 加賀美の死に動揺はしているが、決して表には出さない。
 悲しむことは、いつでもできる。しかし、ひよりを救い、多くの人間を救うには、一分一秒でも無駄にはできない。
 だから、彼は天の道を進み続ける。
 ヒーローとして、存在するために。

 天道は知らない。
 今、探している人物が、ひよりとともにいる事を。
 結城丈二は、氷川の正義感に目が行き、ひよりの存在を天道に伝えるのを失念していたのだ。
 それが、天道の大切な者と知らずに。
 誰が悪いというわけではない。
 ただの不幸なすれ違い、それだけであった。


 茶髪の整った顔に、スカイブルーのダウンジャケットを着る男を担ぐ者が一人。
 黒い長髪に、誠実そうな、穏やかな顔を苦悶に歪ませている。
 鍛えられた長身は警察官の制服に身を包み、ナイフでそぎ落としたように無駄な肉はついていない。
 彼の名は、氷川誠。いまだに逃げる事を知らない男だった。
 氷川はリュウガをもう一つのベッドへと寝かせる。
 盛大なため息を、疲労感とともに吐き出す。
 やがて放送を告げる甘い声が聞こえる。
 不快感を示す氷川に構わず、響く声で殺し合いを奨励する。
 その様子に、反吐が出そうになった。
 振り向き、リュウガの顔を見つめる。
(あの時、城戸さんが僕とひよりさんを襲ったのはきっと、自分の力を制御できてないからなんだ。
アギトの津上さんと一緒、最初は大きすぎる力を制御できないで襲っただけ、そうに決まっている)
 神崎士郎に立ち向かった、勇敢な姿を思い出す。
 彼は徹底抗戦を掲げていた。その理由も、きっと戦える力を根拠にしているからだろう。
(城戸さんが起きたら、僕たちを助けてくれた男の人がどうなったか、聞きださないと。
……もし殺したというのなら、僕が一緒に彼の罪を背負う)
 氷川が思い出すのは、少女の命をかけた放送。
 力の無い少女の訴えとひよりの奮闘が、自分に力を与えここまで歩ませた。
 最も悲しむことはある。
「仮面ライダーキックホッパー、麻生さん。あなたは死ぬべき人間では無いはずなのに!?」
 放送で知ってしまった、残酷な現実。
 このゲームに抗う者は全てこうなると、脅されているような気がした。
 だが、まだ挫けるわけにはいかなかった。
(麻生さんと再び戦いの無情を訴えたヒビキさんがまだ生きている。彼と合流をしなければ)
 まだ希望は残っている。
 自分は戦わなければならない。
 例え、仮面ライダーでなくても。
(そういえばここに来る途中、コンビニがあった。みんなが目を覚ます前に食料でも調達してこよう)
 扉を開け、外へ飛び出す。
 周りに人がいる気配は無い。
(みなさん。僕はすぐに戻ってきます。ですから、今は安静にしていてください)
 心の中で呟いて、彼は街へ出て行った。


(恵理! 待ってくれ!)
 暗闇の中、一人の男が走っていた。
 短髪に整えられた眉、怜悧な瞳、長身を黒いロングコートに身を包んだ彼の名前は、秋山蓮といった。
 蓮は死にかけのはずの恋人に声をかける。
 しかし、彼女は振り返らず、ただ遠ざかるのみ。
 必死に走るが、一向に距離が縮まらない。
 気の遠くなる時間を、走り続けたころ、ようやく恵理は立ち止まる。
(恵理……)
 呟きながら、彼女の肩を優しく掴む。
 すると、恵理は振り返った。
 こちらを向いてくれたことに、蓮はホッとする。
 久しぶりに、愛する彼女を確認できると思うと、焦りは消えて、喜びが生まれた。
(なっ!)
 しかし、こちらを向いた恵理は、血まみれとなっていた。
(蓮、私の闇を切り裂いて、光をもたらすって、言ったのに……)
 瞬間、彼女は崩れ、泡となり蓮の手をすり抜けていった。
(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 シーツを跳ね除け、蓮は跳ね起きた。
 悪夢としか言いようが無い。このゲームに優勝しなければ、夢は現実のものになってしまう。
 痛みに身体が悲鳴をあげる。それを無視して、ベッドから降り立った。
 そして……
「城戸ッ!!」
 傍のベッドで、同じように寝息を立てる男。
 蓮に借金のある人間で、仮面ライダー龍騎、城戸真司
 起きれば彼は、自分に殺し合いを止めるように訴えるだろう。
 椅子にかけてある、自分のロングコートをとり、思わず飛び出す。
 蓮は、城戸と話をしたくなかった。
(俺は優勝をするんだ! 恵理のために!! 城戸、お前と関わる気は無い!!)
 彼は行く当ても無く、街を駆け抜ける。
 それは、まるで悪夢から逃げるように見えた。

 蓮は知らない。
 傍で眠る男が、城戸真司でない事を。
 そして、城戸真司が近くにいる事を。


「乾さん、怪我の方はどうですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
 気遣うように声をかけるのは、城戸真司
 リュウガと同じく、長い茶髪に端正な顔、中程度の背丈に、スカイブルーのダウンジャケットを着込んでいる。
 答えたのは、草加雅人
 城戸と同程度の背丈に、黒いジャケットとジーンズを穿いた、ラフな格好をしている。
 黒髪の下にある、濃い眉毛の下には、狡猾さを隠した、穏やかな瞳があった。
 乾巧と名乗っている彼は、城戸に疑われないよう対応しているのだ。
 ここ、喫茶店で休んでいるのは理由がある。
 草加の怪我の具合を、城戸が気遣ったのだ。
 それに、殺しに向かうなら、ある程度体力を回復させたかった。
「さっきの女はふざけやがって!? 何がまた会いましょうね☆だ!!」
 怒りを示す城戸に表面上同意する。
 なぜなら、今の自分は『乾巧』で、闇を切り裂き、光をもたらす『仮面ライダーファイズ』だからだ。
 他人を騙すなど、得意分野である。
「俺は、間に合わなかったんだな。麻生さん……」
「乾さん……」
 悲痛な声が聞こえ、城戸に見えないように笑みを浮かべる。
 真理を見殺しにした罪人は、死んだのだ。
 喜ばないはずが無い。
 同時に残念に思う気持ちもある。
(麻生、奴はできれば利用したかった。そして、真理を死なせた事を後悔させ、俺の手で惨たらしく殺したかった)
 だが、死んでしまったのはしょうがない。
 真理を見捨てた罪人は、腐るほどいる。
 そいつらを殺す手段を考えていると、城戸が立ち上がった。
「乾さん、コーヒー入れてきます」
「ああ、ありがとう」
 気分転換をしようと、気遣ったのだろう。城戸が厨房の奥へと消える。
 お人好しの馬鹿めと内心吐き捨ていると、足音がかすかに聞こえ、振り返る。
 外を見ると、秋山蓮の姿を見つけた。身を隠し、様子を伺う。
 必死に何かから逃げるような様子で、こちらに気づく余裕はないようだ。
 やがて、彼はこの場から駆けて行った。
「コーヒーできました」
「ああ、ありがとう」
 礼を言って受け取る。
 草加は今の状況を整理し始める。
(秋山は警察官の制服の男と、あの人間に化けている女と一緒にいたはずだ。
なら、あそこは無力な人間と、怪我を負った化け物がいるだけか)
 コーヒーカップに口をつけ、黒い液体を少量流し込む。
 舌に痺れるような苦味が走り、頭を覚醒させる。
 ミルクや砂糖など、この苦味を薄れさせるものは入れない。
 その行程を二、三度繰り返し、中身の液体を半分ほどにして、城戸へ身体を向ける。
「城戸くん、出発しようか。それで、提案があるんだが、二手に別れないか?」
「……え? なぜ?」
「探し出す効率を高めるためさ。彼らに多くの人を犠牲にさせないために、二手に別れて発見できる確率を高めよう」
「でも、そんな事をしたら乾さんが危ないんじゃ……」
「危険は承知の上だ。だが、もう一人でも犠牲にするわけにはいかないんだ。
真理が願いを託した、麻生さんのように……」
「乾さん……。俺も、これ以上人が死ぬなんてゴメンです。
だから、乾さんも無茶をしないで下さい。これが守れるなら、二手に別れましょう」
「ああ、約束する。君は向こうを探してくれ。俺はこの方向を行く」
「分かりました。本当に、無茶をしないで下さいね!」
「ああ、必ず再会しよう!!」
 笑顔で、城戸と別れる。
 彼の姿が消えるのを確認すると、先程とは違う種類の笑みを草加は浮かべた。
(城戸、そこに行けば秋山と再会できるぞ。まったく、馬鹿な奴ほど利用しやすい。
騙した甲斐は無いが、これで相打ちをしてくれればありがたいな。
どの道、戦った後ならボロボロのはず。勝ち残ったのが誰にせよ、満身創痍のところを殺す。
俺が乾巧と名乗った事を知っている奴に、長生きをしてもらっては困るからな)
 偽名を名乗った相手は、使い捨ての駒に過ぎない。
 シャドームーンの圧倒的な姿を見て、彼のような強者にぶつけるための手駒を増やす手段。
 そのため、南を置いてきぼりにしたのは少し痛いが、再会すればどうとでも丸めこめ、敵にぶつけれる。
(それにしても……)
 放送の事を考える。真理の死は、あの時に認識した。
 だが、北崎の名が呼ばれているのは、さすがの草加にとっても意外だった。
 このゲームの開始当初なら、自分の手で殺せなかった事実に憤ったかもしれない。
 だが、今は違う。どんな手を使っても、優勝する必要がある。
 北崎が死ぬなら、誰が殺したとしても構わない。今だから、そう考える。
 やがて身を翻し、舗装された道路を進む。
 彼の心に、狂気の刃を持って。


「僕たちを助けてくれた、あの人がいない!」
 氷川が民家に戻ったとき、ベッドにいるはずの短髪の青年がいなくなっていた。
 食料を新たに詰めた、デイバックを一瞬取り落としそうになる。
「どこに行ったんだ……」
 荷物を置き、民家を飛び出す。
 彼に礼を言わなければならない。
 そしてもし、ゲームに乗っているなら、命に代えても止めなければならない。
(それが、戦う力の無い、仮面ライダーで無い僕の役目なんだ!)
 無力さなど、何度も噛み締めた。
 氷川が廃墟となった街並みを恐怖せずに進み続けるのは、まだ希望を失っていないからだ。
 目の前で人が死んだ。
 誰も守れなかった。
 理不尽な要求を突きつける強者に、ただ従うだけだった。
 守るべき者に、守ってもらってしまった。
 希望は、銃弾に叩き折られた。
 足は震え、呼吸は荒い。
 それでも、誰かを救うことを、諦めきれない。
 氷川は逃げない男だ。この、絶望しかないゲームにおいても、希望を捨てずにいるのは、そういった彼の性根からだ。

 氷川誠は知らない。
 彼もまた、仮面ライダーの資格がある事を。


 市街地を、隠れるようにして進む男が一人。
 やや小柄な身体、ベージュのコートを着込んでいる。黒い癖の無い豊かな髪に、厳しい眼差しを手元のセンサーへ向けている。
 彼の名は相川始。このゲームの、そしてバトルファイトのジョーカーだ。
 首輪探知機の反応は三つ。常にこの反応から隠れるようにして、屋根伝いに街を進む。
 右手には、ハートのA・チェンジマンティスを持っている。
 動きが止まるのをひたすら待つ。
 その瞬間、カリスへ変身し、上からトルネードを撃ち抜くためだ。
 やがて、センサーの光点が一つ増える。
 動きが、止まった。念のため、数分待つ。
 相変わらず動きは無い。
「変身!」
 カードを腹のバックルへ通す。

 ――Change――

 水飛沫のような、黒い変化が収まると、銀の胸部アーマーにハート型の瞳を持つ、黒い戦士が顕在する。
 変身した驚異的な視力で、目標を見据える。
 人影を目に入れると、僅かにカードを持つ手が震えた。
 人を殺すのが怖い。それは、ヒューマンアンデッドと剣崎から譲り受けた、博愛の精神からもたらされた。
 だが、放送の前に対峙した剣崎の姿を思い出す。
 彼は、自分のために刃を受ける事を、簡単に決意した。
 疑い、殺そうとした、破壊をもたらす化け物でしかない自分を救うために。
 熱を帯びていた心が、金属のように冷えていく。
 化け物となり、友を勝者にするため、自らの心を凍らせているのだ。
 最早、カードを持つ手は一分のブレも無い。
 バイザーの溝口に、カードを立てる。視線は、人間へと向けている。
 弓状の武器、カリスアローに一枚のカードを通す。

 ――Tornado――

 小規模の竜巻が、人を殺す殺意を乗せ、放たれた。


「あそこで人影が動かなかったか?」
 天道が呟くと、残り二人は警戒して動きを止める。
 やがて、現れた男に、結城が反応する。
「氷川くん! 無事でよかった!」
 自分の名前を何故知っているのか?という顔をしている。
 徐々に、氷川に驚愕の感情が広がっていった。
「その声は風見志郎! どういうことだ? あなたは放送で呼ばれたんじゃ……」
「それについては謝ることがある。俺の名は結城丈二
風見志郎の名を名乗ったのは、君を警戒してだ。すまない」
「警戒だと……そんな理由で、僕とひよりさんを騙したのか!!
おかげで、彼女がどんな目に遭ったと思っているんだっ!!」
 ひよりという名に、天道は神速の動きを見せた。
 結城の襟を掴む氷川に、必死の形相で迫る。
「おい! ひよりは今どこにいる!」
「あなたは誰なんですか?」
「俺の名は天道総司。あいつの、ひよりの兄だ!」
 氷川が息を呑み、今度は天道を見つめ返す。
 やがて、天道の腕を強い力で掴んだ。
「ひよりさんのお兄さん、早く彼女に会ってやってください!
彼女は今怪我をしているんです。それに、少し落ち込んでいて……」
「分かった。案内しろ」
「はい、こちらです。でも……」
 氷川が結城とドクトルGを不信の瞳で見つめる。
 彼らをひよりの元へ案内していいのか、迷っているのだろう。
「安心しろ。結城は信用できる」
「あなたがそういうなら……」
 警戒心を完全に解くことはできないようだ。
 だが、結城と一緒にいさせ、自分が解いてやればいい。
(こうも早く、巡り合うとは)
 安心を多く含んだ、ため息を漏らす。
 加賀美の時とは違い、今度は間に合った。
 そう、悲しくも確信した時だった。

「散れ!!」

 今まで黙っていた、ドクトルGが叫んだのは。
 氷川を抱えて、横に飛び退いた。

 竜巻が唸り、コンクリートを砕いて破片を飛び散らせる。
 抉られた道路は、土をむき出しにしている。
「天道さん!」
 氷川の焦りを混ぜた声が聞こえる。
 血まみれの左腕が焼けるように痛む。
 彼を庇った代償だ。
「この程度の痛み、問題はない」
 強がり、正面を睨む。
 やがて、赤いハート型の瞳を持つ、黒衣の鎧の戦士が現れた。
 戦士は、無言で刃を構えている。
 カブトゼクターを手に構える。
 しかし、天道を制するように、眼前には斧が現れた。
「とっとと尻尾巻いて逃げろ」
「どういうつもりだ?」
「フン。ヨロイ元帥も死んで、ここにいるデーストロンは俺と結城の二人のみ。
なら、なんとしてでも生き残って、ここから未知の技術を持ち帰るのが、首領に対する一番の手柄だ。
その技術を活用できる結城と、ここから脱出できる能力を持つ貴様をまだ死なせるわけにはいかない。
だが、勘違いをするな!」
 大声を出して、斧を天道の首筋に当てる。
 咽に冷たい金属の感触が当たる。
 しかし、恐怖に乱れることは無い。
 なぜなら、天の道を行き、総てを司る男だからだ。
 ドクトルGの厳しい眼差しを、真っ向から返す。
「あくまで、脱出するまでだ! それまで、貴様の首を預けてやる。
分かったな。仮面ラーイダーカブト!」
 天道はカブトゼクターを収め、不敵な笑みを浮かべた。
 その瞳には、強敵を認める色が宿っている。
「言っただろ。俺は最強だとな。お前に倒せるかな?」
「デーストロン幹部を舐めるな。結城、こいつを見張っていろ。すぐに追いつく」
「あ、ああ……」
 結城が肩を貸し、走り出す。
 後ろで仁王立ちをし、黒衣の戦士と対峙するドクトルGを少しだけ振り返って視界に入れる。
(熱さの中に冷静さがある。ああいった奴が一番手ごわい。ドクトルG、敵ながら面白い奴だ。
生き残れば、V3とやらに代わって相手をしてやる。だから……)
「まだ、死ぬなよ」
「フンッ!」
 ドクトルGが鼻を鳴らす。
 天道は笑みを浮かべ、ひよりへ向かって駆け抜ける。


 三人が遠のいていく気配を感じる。
 結城に監視を任せたものの、疑念は完全に溶けたわけではない。
 だが、それと同時に思うところがあった。
(結城は、甘いだけではないのか? ゆえに、ただの駒にすら気にかける。
幹部『候補』であり続けたのは、冷徹になりきれないからかもしれん。
それなら、今までの不可解な行動も説明がつく。まったく、世話の焼ける男だ)
 それはデストロンに身を置く者にとっては、唾棄すべき感情だ。
 帰ったら、鍛えなおす必要があると考える、ドクトルGに敵が迫る。
 黒衣の戦士の刃を盾で受け止め、凄まじい力に押される。
 上手く力が入らないことに、結城が制限について話していた事を思い出した。
 厄介なことだと唸って、敵の腹を蹴り飛ばす。
 突き飛ばされた敵に向かって、盾で姿を隠す。
 泡が吹き出て、自らの身体を作り変えていく。
「アバラ――――!!」
 現れた姿は、紅い衣装そのままに、鋼色の蟹を模した仮面にレーザーの発射口を持つ怪人。
 その名はカニレーザー。デストロンの勇者・ドクトルGの真の姿だ。
 異形といえる姿に、敵は恐れを示さない。
「クックック、この姿を見ても、動揺せずか……」
 自分に勝てる、そう言っているように見え、地面を踏み砕いた。
「いいだろう。このデーストロンの勇者、ドクトルGが相手をしてやる。かかってこい!!」
 斧を向け、雄雄しく叫ぶ。瞳には、ただ敵を映すのみ。
 その威圧感に、風が吹き荒れる。
 威風堂々と斧を構えるその姿、まさにデストロンの勇者に相応しかった。


 大通りを駆け抜け、三人は目標の民家を目指す。
 元は歓楽街であったであろう街並みを越え、やがて激闘の痕跡を残す廃墟へ出てくる。
 鉄筋は剥き出しになり、砕けたコンクリートの破片が辺りに散らばっている。
 うどん屋の看板が、焼け焦げながら静かに倒れていた。
 店の上半分は吹き飛んでおり、内装は黒焦げである。
 雑貨ビルは窓ガラスが全て吹き飛んでいる。
 目標は近くなっていた。
 天道の腕から滴り落ちる血が、灰色のコンクリートに血の跡を染み付かせていく。
 致命傷ではないが、すぐにでも手当てをしないと、最悪左腕が使えなくなる可能性がある。
 結城が何度か手当てを提案して、氷川が同意する。
 しかし、天道は頑なに拒む。
「ひよりの元に駆けつけるのが先だ。手当てはその後でいい」
 よほど妹が心配なのだろう。
 大粒の汗が額に浮かんでいるが、涼しげな表情はそのままだ。
 強大とも言える精神力に呆れる。
 しかし、仮面ライダーの多くはやせ我慢をする者が多かった。
 自分もその一人だが、それを忘れてつい微笑む。
 彼は、天道総司は仮面ライダーに相応しい男だと、結城は確信した。
「あそこです。あそこに、ひよりさんはいます」
 氷川に向き、頷く。彼に信頼はしてもらえていない。
 それも当然である。駆けながら聞いた話では、シャドームーンは約束を守ってくれたが、ひよりに無理をさせ、殺戮者二人に襲われたらしい。
 彼が怒るのも無理は無い。自分の判断は、結果的に二人を危険に晒したのだから。
(風見さん、俺は仮面ライダーに相応しいのでしょうか?
俺の判断が、何の罪も無い二人を危険に晒したんです)
 死人は答えない。プルトン爆弾のとき、自分はギリギリのところで助かったが、今回の風見志郎の死は真実だろう。
 風見志郎がいない。襲われたことと、ドクトルGの意外な態度にしばらく抑えていた喪失感が蘇った。
 力の無い自分に、歯噛みをする。
「天道さん、そろそろひよりさんがいる民家が見えてきます!」
 氷川が、嬉しそうに声をかけてくる。
 彼があの場にいる理由は先程聞いた。
 消えた短髪の、黒いロングコートの青年を探していたらしい。
 天道を案内し終わったら、一人でも探しに行くといっていた。
 だが、そうはさせない。探しに向かうのは、自分一人でいい。
 彼を再び危険な目には遭わせたくない。
 そう願っていると、白い民家が見えてきた。
「あそこです! あそこに……」
 彼の言葉は最後まで出なかった。
 代わりに、地面を火花が走り、爆発音がその場で轟く。
 威嚇射撃だろうか? 怪我を負った者はいない。

 ――カシャッ、カシャッ

 聞きなれた、無機質でありながら威厳を持つ、銀の足音が静かな廃墟に響く。
 振り向くと、太陽の光を反射する、銀の光沢を持つ金属で身を包み、黒いベルトの中央には緑の石が埋め込まれていた。
 石と同じ色を持つ両瞳に、黒いクラッシャーが存在する姿は、まるで仮面ライダーのようだった。
 右腕のエルボートリガーは砕け、腹にはドリルによる刺し傷が残ってはいる。
 しかし、多くの催眠時間は、彼に回復の暇を与え、傷はふさがりつつあった。
「お、お前は……」
 氷川がその姿を認め、呟く。意外な再会に、驚いているのだろう。
「見つけたぞ! 風見志郎!」
 シャドームーンが声をかける。どうやら、自分を探しに来たらしい。
 目的は、見当がついた。
「俺に仕返しをしにきたのか?」
「あのまま負けたままなど、俺の誇りが許さん! 変身しろ、風見志郎!!」
 両拳をあわせて、作り上げた長短二振りの剣を持ち、右手側の長剣を自分に向けた。
 ため息をつき、ライダーマンマスクを取り出す。
 これは、自分の判断ミスだ。
 あの時、天道やドクトルGに言われた通りに殺しておけば、天道や氷川を危険な目に遭わせることは無かった。

 ――その言葉、忘れるな――

 決意できなかったときの、天道の言葉が蘇る。
 忘れるわけが無い。自分が責任を取るため、天道たちに逃げるよう促そうと振り返ると、
「シャドームーン、選手交代だ。俺が相手をする」
 ベルトを巻いた天道が、カブトゼクターを構えて自分たちの前に立ちふさがった。
「な!? 天道くん!」
「ひよりと氷川を頼む。こいつは、俺が倒す」
「その言葉を忘れるなといったのは、君だぞ!」
「ああ、だから氷川とひよりを守って、首輪を解除する手がかりを掴んでくれ。変身!!」
 彼は叫んで、銀のベルトの中央に紅いカブトゼクターをセットする。

 ――HENSIN――

 ベルトから泡のように、銀と紅の金属が精製され、銀の鎧を着込んだ戦士を形成する。
 青い単眼、額にVの字のアンテナ、胸部は赤い銀のアーマーを持つ戦士、仮面ライダーカブト・マスクドフォームが、姿を現した。
「ガタックゼクター。すまないが、しばらく彼らとともにひよりを守ってくれ。
結城、もし俺を見失ったら、一番高いビルの屋上に向かってくれ。四回目の放送までには駆けつける。乾という仮面ライダーファイズもそこに来る」
 ガタックゼクターと呼ばれた機械が頷くような動作をし、自分の肩に止まる。
 その様子を静かに見つめていたシャドームーンが、無言でカブトとの距離を一瞬で詰めた。
 紅い刀身で太陽の光を反射させ、風を唸らせカブトに迫る。
 火花が散るが、シャドームーンの剣はカブトの斧に受け止められていた。
 シャドームーンは左手の剣で突きを入れる。剣の先端を、紙一重でカブトがかわし、敵の腹に蹴りを入れようとしている。
 だが、その蹴りは空振りする。しかし、それは予想通りだと言わんばかりに、カブトは斧を持ち替え、銃のように構えて引き金を引いた。
 銃弾が発射され、シャドームーンが後方に飛び、三発の銃弾を回避する。
 敵は着地し、二人は対峙して睨みあう。
「いいだろう。全力を出せる十分間、今はお前に使ってやる。だが、手負いの状態で俺に勝てるかな?」
 どうやら、天才的な戦闘センスで、シャドームーンは制限に気づいたらしい。
 強大な相手を目の前に、カブトが鼻を鳴らし、天に指をむける姿が眼に入る。
 怪我をものともしないその姿、自分の知る仮面ライダーとダブって見えた。
「太陽に向かって勝つと宣言するとは無謀だな。シャドームーン」
「……貴様も太陽の化身を語るか」
 空気が張り詰め、乾いた風が通る。
 二度目の激突と同時に、結城は氷川を掴んで、民家へと駆け出した。


 リュウガが目を覚ますと、氷川の姿が無かった。
 白い壁で囲まれた、やや広めの民家を見渡す。
 デイバックが五つ置いてある。
 自分の物と、氷川たちの物なのだろう。
 秋山蓮の姿は見えない。城戸と間違われ、話しかけられる心配は無いと、少し安堵する。
「お前……氷川がどこに行ったか、知らないか?」
 女の声に振り返る。名前は確か、日下部ひよりといったはずだ。
「いや、知らない」
「そうか」
 短いやり取り。二言だけで、会話といえない交わりは終わった。
 沈黙が民家を支配し、やけに重たい空気が流れる。
(氷川とも、似たような感じになったな)
 もともと鏡の世界の存在でしかないリュウガが、人との交流の術を知るわけが無い。
 おまけに、ひよりはこちらを向こうともしない。嫌われたのだろうか?
 ため息とともに重苦しさを吐き出すと、ドアに近いデイバックの口が開いているのが見えた。
 近付いて、パンを二つ取り出し、一つをひよりに放り投げる。
「食っておけ。そろそろ昼も過ぎているだろう」
「僕はいい」
「食わないと、身体が持たないぞ」
「いいと言っているだろ! 放っておいてくれ!」
 急に怒鳴られ、目を白黒させる。
 自棄になっているよなその姿に呆れてしまう。
 理由は知らないが、放って置くわけにも行かず、デイバックを手に近寄る。
「食うんだ。こいつは、おそらく氷川が危険を冒して、俺たちのために調達したものだ。
無駄にするのは、奴の気持ちを踏みにじることになるぞ」
 リュウガにとって、精一杯誠意を込めた説得をする。
 彼女は渋々と受け取ったパンの袋を開け、ゆっくりと食べる。
 その様子に安心し、自分もパンをかじり始める。
 手の平サイズのパンが、一かじり、二かじりと小さくなっていく。
 リュウガが完食したとき、ひよりはまだ半分も食べていなかった。
 またも、沈黙がやってくる。何か話題が無いかと、頭の中を探す。
「そういや、氷川が戻ってくるの遅いな」
「何かあったんだろう。どうせすぐに戻ってくる」
 またも、完全に話が終わってしまった。
 女にしては無愛想な物言いに、自分の事を棚に上げてもう少し愛想を良くできないのかと思う。

(女といえば……神崎優衣は今どうしているのだろう)
 神崎士郎が絡むなら、彼女が関わらないはずが無い。
 自分の産みの親ともいえる彼女を救うため、神崎士郎は例外なくライダーバトルを何度も繰り返している。
 彼女が会いたい友達をかたどって作られた存在。城戸真司の影で、紛い物。
 それが自分だ。しかし、不思議と神崎優衣を嫌う気持ちは無い。むしろ、できるなら彼女の助けになりたいとすら、思っている。
 城戸真司と融合する時に言った、「神崎優衣を救うため」も嘘ではない。
 本気で、彼女を救ってやりたいと、願った。
(まったく、俺は何を考えている。この女と神崎優衣を重ねているのか?
馬鹿らしい。どこも、似たところは無いじゃないか)
 自嘲し、頭を振る。正直、自分の目的を見出せてはいない。
 城戸真司を取り込むとは決めているが、正直その後どうしようかと考え、迷ってしまった。
 もしかして、自分には未来が無いのか?という思いが生まれ始める。
 リュウガは何も持たない。神崎士郎のように救わねばならない妹も、城戸真司のような純粋さも、秋山蓮のような必死さも。
 神崎士郎のいいなりになって、『ジョーカー』を演じているのはそれ以外にすることが無いからだ。
 今までなら、城戸真司を取り込んだ後は、そのまま参加者を減らしていけばよかっただろう。
 実際そう思っていた。だが、リュウガは目の前にいる少女を殺すことができない。
(神崎は何を考えて、こんな娘を参加させたんだ?)
 奴の考えていることは、相変わらず分からない。
 以前のライダーバトルは戦う力を持つ者しか参加していない。だが、この殺し合いを通して、望月博士や、真理とかいう拡声器を使った女など、戦う力を持たない者も参加している。
 目の前のひよりもそうだ。その事実が、なぜかリュウガの心に漣を立てていた。

 三十分ほど経った時、轟音が轟き、天井の埃が僅かに降ってくる。
 即座に反応して、カーテンを開けて窓から外の様子を伺う。
 いつの間にか、ひよりも傍で外の様子を見ている。
「ッ!! あいつ……天道!」
「知っているのか?」
 リュウガの問いに、ひよりは沈黙を返す。彼女は唇を噛み締め、ドアへ走り出す。
 しかし、傷が痛むのだろう。足を崩して、倒れる。
「おい、無茶をするな」
「離してくれ。あいつを、天道を助けるんだ」
「……なんでそんなに必死になるんだ。自分の怪我も痛むのに」
 それは、ひよりだけに問いかけたわけではない。城戸真司に、麻生に、誰かを助けようとする人々全てに問いかける。
 リュウガは知りたかった。あのとき、氷川やひよりを守るために立ち向かった、自分の感情の名を。
「……だから」
「ん?」
 聞き取れず、彼女に顔を寄せる。すると、一瞬緑色の、異形の姿が浮かんで消えた。
「僕は、化け物だから。あいつの妹である資格が無い化け物だから、せめて誰かを助けたいんだ」
 涙を浮かべ、ひよりが呟いた。消えていくような声に、一人の女性の声が重なる。

 ――お兄ちゃん。ごめんね――

 彼女、神崎優衣は自分の存在を厭い、他の誰かを救うため、兄を救うため、自ら命を断った。
 ひよりも兄を救うため、自分の怪我の具合を無視して戦いに向かおうとしている。
 その姿に、助けになってやりたいと望む自分がいる。これではまるで、城戸真司と変わらない。
 それがやけに、心地よかった。
「いいんだ。今は、休んでいて」
 首筋に手刀を当て、気絶させる。彼女の身体は軽かった。
 暖かな体温を手に、正面を見据える。
「神崎、聞こえているな? 俺は『ジョーカー』をやめる。文句があるなら、オーディンでも爆破でも何でもしろ。相手をしてやる」
 ひよりを抱きかかえ、ドアへ向かう。戦場が近い事を、肌で感じる。
 苦悶の表情を浮かべる彼女に、無意識に優しい表情を浮かべた。
(安心しろ、日下部ひより。俺がお前の兄を助けてやる。
それで、お前の事を化け物呼ばわりするようなら、俺が殴る。本当の化け物は、俺だけだ)
 ドアノブに手をかけ、捻る。開けられたドアの正面には、ちょうど氷川と知らない男がいた。
「城戸さん!」
「状況はある程度掴んでいる。氷川、ひよりを連れて行け」
 ひよりを手渡し、カードデッキを掴もうとして、考え直しオーガドライバーを手に取る。
 ドラグブラッカーの怪我を案じたのだ。
「あのシャドームーンは強い。今は彼女を連れて逃げ出すべきだ」
「あそこで戦っているのはひよりの兄なのだろう? なら、俺が助ける。
すぐに追いつくから、今は離れていろ。いいな」
 真面目そうな男と、氷川に言い放ち、オーガドライバーを腰に巻いて、黒い装飾の携帯を取り出す。
 指で押すエンターコードは0・0・0。スタートボタンとともに、電子音が天に響いた。

 ――Standing By――

 携帯を折りたたみ、地面を蹴って走る。
 待機音を引き連れ、右腕を上げて彼は叫んだ。

「変身!!」

 ベルトに携帯を差し込み、金のラインがリュウガの胸元で丸を作りながら包む。
 金の光が廃墟を照らし、黒い装甲を形成していく。
 金で縁取りされ、胸と額に紅い宝玉を輝かせ、マントを翻しオーガとなったリュウガは、赤い瞳でシャドームーンを睨みつけた。

 ――Complete――

 ベルトのミッションメモリーを取り出し、オーガストランザーへと装着する。

 ――Ready――

 光が刃を作り上げ、上段に振り上げる。
「うおおぉぉぉぅぅぅ!!」
 雄たけびを上げ、銀の王子へと振り下ろした。
 しかし、傷が痛んで音速の振りが僅かに鈍る。敵は剣を後方に飛び退きながら避け、光線を発射した。
 光が腹を焼いて、火花を散らす。たたらを踏むと、右隣に屈強な戦士が並び立った。
「一瞬、乾が来たかと期待したな」
「誰のことだ? まあいい。とっととひよりのところに行け。こいつは俺が相手してやる」
「いや、俺が相手をする。お前こそひよりを守っていろ」
「左腕を怪我しているのだろ? 動きで分かる」
「お前の方こそ戦ったばかりだろう? 連戦は身体にこたえるようだな」
「どちらでもいい。まとめて相手してやる」
 言い争う二人に、シャドームーンが告げた。カブトの口の減らなさに辟易していたオーガは、早くこいつを倒して無理矢理連れて行けばいいと考え、剣を構える。
 並び立つカブトは、カブトゼクターの角を浮かせ、銀のアーマーをせり上がらせた。
「キャストオフ」

 ――Cast Off――

 ゼクターの角を反転させると同時に、アーマーが高速で飛び出し、カブトの顎から角が上がっていく。
 青い単眼を複眼に変え、瞬きながら電子音を発する。

 ――Change Beetle――

 電子音に応えるように、オーガは剣を構えて敵を睨みつける。
 天の道と並び立つ、帝王となった龍。その姿はまさしく、

 ――闇を切り裂いて、光をもたらす――

 仮面ライダーだった。

 リュウガは知らない。
 ひよりと優衣が持ち、彼がひよりを守る事を促した感情の名を。
 それは、『献身』。
 人を思いやり、尽くしてやりたいと願う、心の強さだった。
リュウガ@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-5】
[時間軸]:劇場版登場時期。龍騎との一騎打ちで敗れた後。
[状態]:中程度の負傷。迷いは無い。オーガに変身中。
[装備]:リュウガのカードデッキ。オーガドライバー(オーガストランザー付属)。コンファインベント。
[道具]:なし。
[思考・状況]
1:シャドームーンを倒し、ひよりと天道を再会させる。
2:自分の今の感情の名を知りたい。
3:神崎に反抗。
4:城戸を取り込むかどうかは、保留。
[備考]
※ドラグブラッカーの腹部には斬鬼の雷電斬震の傷があります。
※津上、小沢、木野の情報を得ました。
第二回放送を聞き逃しています。

天道総司@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-5】
[時間軸]:ハイパーゼクター入手後。
[状態]:中度の疲労、全身に軽い打撲、左腕に重傷。カブトに変身中。
[装備]:カブトゼクター&ベルト。カブトクナイガン。
[道具]:食料など一式。
[思考・状況]
1:シャドームーンを倒す。
2:結城と氷川とひよりを逃がし、後に合流。
3:一刻も早く、乾、あきらと合流する。
4:全てが片付いたら、加賀美を埋葬しに行きたい。
5:ドクトルGが生き残るようであれば、V3に代わって決着をつけてやってもいい。

【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-5】
[時間軸]:RX27話以降。
[状態]:戦闘中。右腕のエルボートリガー破損。腹にドリルによる刺し傷。しかし、いずれの怪我も問題ない程度に回復。
[装備]:シャドーセイバー
[道具]:なし
[思考・状況]
1:目の前の二人を倒す。
2:風見志郎(結城丈二)に借りを返す。
3:RXを探し出し、決着をつける。
[備考]
第二回放送を聞き逃しています。

 氷川と結城は、ひよりを連れて廃墟を抜け、やがて団地の並ぶ住宅街へと出てきた。
 振り返ると、戦っている三人の姿は無い。氷川は何の力にもなれない自分に、無力さを噛み締めた。
(僕は何もできない。天道さんとひよりさんを会わせることも、城戸さんの助けになることも。
僕は無力だ。せめてG3さえあれば)
 握る拳が痛い。爪が皮を破り、血がにじみ出る。
「氷川くん。とりあえずどこか落ち着けるところで彼女の怪我を診よう。早く手当てをしないといけない」
 俯いていた顔を上げ、結城を睨みつける。そんなこと、言われなくても分かっていると。
 ゴーストタウンと化した街には、音と人の気配は無い。駐車場を越え、三人は適当な部屋へ向かおうとした。
 青い空がやけに眩しい。忌々しげに太陽を見ていると、青い点が眼に入った。
 いや、あれは……
「危ない!」
 とっさに結城を突き飛ばす。青い虫型メカが高速で迫ってくる。
 身を捻り、自分もかわそうとしたが、メカの爆発に巻き込まれ、壁に身体を叩きつけられた。
「氷川くんッ!!」
 結城の叫び声が聞こえる。パラパラとネックレスが砕け落ち、黒く焦げている身体が眼に入る。
 ああ、間に合わない。そう思考しながら、意識が闇へと落ちる。
 あの機械は以前自分たちを襲ったもの。殺戮者が近くにいて、自分たちを殺そうと狙っている。
 ひよりが危ないと強く思うが、身体に力が入らない。ただ無念しか浮かばず、氷川は意識を手放した。


 氷川が倒れるのが目に見える。爆発するタイミングが早かったため、まだ生きているが、重傷であることは変わらなかった。
 発射されただろう場所を見つめると、黒いジャケットを着た男がいた。
 持っている円盤状の武器を向け、先程の虫型メカを大量に吐き出してくる。肩に止まるガタックゼクターに似た爆弾は、殺意を乗せて襲ってきた。
「ヤー!」
 ライダーマンマスクを掲げ、装着する。青いマスクに、赤い複眼が二つ。触覚が二本存在して、逆Vの字に銀と緑と赤が彩る。
 口元は露になり、怒りの感情をダイレクトに表現していた。全身は黒のスーツに包まれ、胸部は赤のプロテクター、白のグローブとブーツを着用している。
 黄色いマフラーをなびかせ、仮面ライダー四号・ライダーマンが仁王立ちした。
「ネットアーム!」
 カセットアームにより変化した右腕が、ネットを噴出し青いクワガタメカの群れをまとめて取り囲む。
 続けて、もう一つのカセットアームを取り出し、装着した。
「マシンガンアーム」
 薬莢が飛び出し、マシンガン特有の連続的な発射音が住宅街に響いた。
 銃弾は爆弾に穴を穿ち、盛大な爆発音が轟く。
 破片が降る中、降りてきた男と対峙する。
 男は携帯のボタンをいじったかと思うと、先程のオーガの変身過程と同じように待機音を引きつれ回転させて収める。
「変身」

 ――Standing By――
 ――Complete――

 携帯が男のベルトに納められ、黄色いラインが身体を走る。紫の瞳をX状に黄色いラインが角を形作っていた。
 黒銀のアーマーに黒い強化スーツをつけた戦士がライダーマンの目の前に立ちふさがる。
「その姿、天道くんが乾くんから聞いていた、仮面ライダーカイザ、草加雅人か。何故こんな事をする?」
「ほう、乾に会ったのか。クックックック……」
 嫌な笑い方をする。結城は怒りに沸騰する頭の、冷静な部分で思った。
 仮面ライダーにしては、邪気を放ちすぎている。
「君は、あの真理という少女の放送を聞いていたのだろう! 彼女に期待されていただろう! なのに何故!!」
「真理の名をお前たちが口にするな! 真理を見捨てた罪人のお前たちがなァ!」
「罪……人……?」
 怨嗟の降り積もった言葉を向けられ、ライダーマンは胸が痛んだ。
 自分は、仮面ライダーなのに真理を救うことができなかった。その事を怨んで、自分を殺そうと狙ったなら、仕方ないと思う。
 しかし、草加はひよりと氷川をも殺そうとした。罪の無い人を殺されるのを見逃すのは、仮面ライダーとして、許すわけには行かない。
「確かに俺は罪人かもしれない。だが、何の罪の無い人の死を望むのなら、お前は倒す。
カイザ、お前は仮面ライダーではない!」
「ほざけ! 真理さえ生き返れば、どうなったっていい!!」
 カイザがミッションメモリーをカイザブレイガン付け、刃を精製する。

 ――Ready――

 逆手に剣を構え、自分と対峙する。ライダーマンは、悲しみに満ちた表情でカセットアームを取り出した。
「パワー……アーム」
 カイザが駆け出し、剣を上段から振り下ろす。
 パワーアームで受け止め、ふと考えた。
(ガタックゼクターはどこに行ったんだ?)
 しかしそれも、カイザの猛攻に霧となって消える。
 剣を斬り結ぶ音が、辺りに響いた。


 ガタックゼクターは飛ぶ。この辺りにある、加賀美の死体へと。
 ガタックゼクターは鳴いて、泣いていた。ひよりを守るために、自分が出来る最大限の事をしなければならない。
 そのために、新たな資格者を選んでしまった事を、悲しくなった。加賀美を裏切ったような気がして、加賀美の期待に応えたような気がして、相反する二つの感情に、泣いていた。
 高速で飛んで、瞳を瞬かせ、浮かぶ光の軌跡の残像は、涙の無い機械の涙に見えた。
 新しい資格者は、加賀美に負けないくらい絶望に立ち向かっている。その事を嬉しく思いながらも、加賀美にもう会えないのが強調され、悲しかった。
 やがて加賀美の死体が見えてきた。顎で加賀美の銀のベルトをはずし、取ろうとして躊躇する。

 ――もうやめようか。別に、天道は新たな資格者を選べとは言っていない――

 これを外せば、加賀美との繋がりは完全に断ち切られてしまう。それが怖くなった。
 つい、これを持たずに引き返し、ただ援護するだけでいいのでは?と考えてしまう。
 弱い考えだ。それは、魅力的なほどに。
 それほどまでに、三十五年前からの結びつきは強かった。
 数瞬の逡巡。やがて、ガタックゼクターはベルトを掴んで、再び飛んだ。
 ひよりを守る。それは、天道と加賀美の共通の願いだ。
 それを無視して、自分の欲望を優先させるようでは、加賀美のパートナーとしては失格だ。
 彼は強かった。例え、強敵に襲われても、友が殺し合いに乗っていても、逃げずに立ち向かい続けた。
 その姿を、相棒の自分が汚すわけにはいかない。
 ガタックゼクターは飛ぶ。来た道を戻って。
 ガタックゼクターは鳴いて、泣いていた。


 ぼんやりとした頭で、手に何か固い感触が当たるのを、氷川は感じた。
(これは何だ?)
 耳元に何かが鳴く音が聞こえる。焦げた皮がバリバリと言いながら剥がれていくのが感じる。
 激痛を感じながらも、思考は霧がかかったようにはっきりしない。
 手探りで感触を確かめると、何かのベルトのようだ。鳴き声が、それを巻けといっているように感じた。
 銀のベルトを腰に巻き、氷川は見えてないが、ベルトの中央が瞬いた。
 身体に力が沸いて出てくる。痛みが幾分和らいだ。これなら、
(僕は、戦える!)
 目を見開き、まだ痛む身体に鞭を打って立ち上がる。
 足は震え、視線は定まらない。それでも、氷川は立ち上がる事をやめない。
 ガタックゼクターが、右腕に収まった。おそらく結城が変身した姿だろう、ライダーマンが押されている。
 彼は、自分たちを守るために戦ってくれた。疑った自分が恥ずかしくなる。
 ひよりが近い。彼女とライダーマンを救うため、氷川はふらつきながら近寄った。
「やめろ!」


 ライダーマンはカイザの剣を辛うじて受け止めた。
 疾風の四連撃、受け止めるのが精一杯だった。その彼に、カイザは容赦なく蹴り飛ばす。
「どうした? 君は、仮面ライダーなんだろ?」
 馬鹿にしたような呟きに、クッと唸って、ロープアームを取り出す。
「ロープアーム!」
 ロープがカイザの足を掴んで、引き倒す。しかし、転んだカイザは受身を取って、ベルトの携帯を銃に変えて光弾を放った。
「ガッ!」
 ライダーマンが痛みに身を捩じらせている隙に、カイザはロープを切り裂いて、間合いを一瞬で詰める。
 腹に拳を叩き込まれ、身体をくの字に曲げる。その自分の胸に鋭い蹴りが突き刺さり、吹き飛んでコンクリートの壁を砕いて地に伏せる。
「フン。もう終わりか?」
「ま、まだだ……」
「何をそんなに頑張るのかな? こんな化け物を庇ってさ」
 ひよりを指して、カイザが嘲笑する。その言葉に、ライダーマンが疑問を浮かべた。
「化け物?」
「知らなかったのか? その女は人間に化けている化け物だ。仮面ライダーは化け物を守るものなのかな?」
 カイザは咽奥で笑い、ひよりに近寄ってくる。ライダーマンはマシンガンアームを向け、銃弾を放った。
 カイザは横の飛び退いて、銃弾をかわす。
「何をするのかな?」
「彼女の兄に守るように頼まれている。それに、姿形は人を人として証明する手段じゃない」
「じゃあ、何が人を人とするのかな?」
 ライダーマンの心に浮かぶのは、異形の姿に変えられても人を守る事をやめなかった、十人の戦士。
 自分たちがいる限り、まだ見ぬ戦士がいる限り、死なせはしない。ライダーマンには意地が残っていた。
「心だ!」
 ライダーマンの答えに、カイザは呆れ、頭を振って剣を構える。
 ひよりを殺して、返す刀で自分を殺すつもりなのだろう。そうはさせない。
 ライダーマンは全身に力を溜める。その時だった。
「やめろ!」
 突如、氷川の声が聞こえたのは。驚き、振り返ると銀のベルトを巻いた彼が、ふらつく身体でカイザを睨みつけている。
 先程より、幾分回復しているようだが、そのことに驚くよりも、まだ動ける状態でないことに気が行く。
「氷川くん! 無理をするな!」
「結城さん。いや、ライダーマン! ここは、無理をする場面です!」
 言い放ち、氷川が左手を腰に当て、ガタックゼクターを掴む右手を前に突き出す。
 徐々に手前に引いていく。ライダーマンは知らないが、その姿は、彼が憧れ、ともに並んで戦った戦士、アギトの変身ポーズだった。
「変身!!」
 叫んで、左手は左腰を叩き、右手はガタックゼクターをベルトの中央へとセットした。

 ――HENSIN――

 カブトと同じく、泡のように青と銀の金属が精製されていく。黒いスーツの上に、銀の鎧を着込んだ、青い仮面ライダー。
 肩に大口径の銃をセットし、赤い瞳にはカイザを映している。
 加賀美新の想いを受け継ぎし戦士、仮面ライダーガタック・マスクドフォームが、氷川の力となって現れた。


 ガタックゼクターは、加賀美の声が聞こえた気がする。
 その声は、優しく彼に礼を言っていた。
 ガタックゼクターは鳴いて、泣いていた。
草加雅人@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-4】
[時間軸]:ファイズ終盤。
[状態]:背中に切り傷。参加者全員への強い憎悪。カイザに変身中。
[装備]:カイザドライバー(カイザブレイガンのみ付属) 、ゼクトマイザー。
[道具]:ファイズアクセル、三人分のデイバック(佐伯、純子、草加)
    ディスクアニマル(ルリオオカミ、リョクオオザル、キハダガニ、ニビイロヘビ)
    マイザーボマー(ザビー、サソード、ホッパー)
[思考・状況]
1:目の前の三人を殺す。
2:ゲームの参加者の皆殺し。
3:目の前のライダーの変身者が違うことに若干疑問。
4:秋山蓮城戸真司生き残ったほうを始末する。
5:更に頼れる仲間を集める。
[備考]
※珠純子の死を秋山蓮に擦りつけようと考えています。
※自分のことを乾巧と偽っています。展開に応じて、臨機応変に対応。
※ゼクトマイザーは制限により弾数に限りがあります。
※目の前の出来事で、青いライダー(加賀美)が死んだ可能性に気づき始めています。

結城丈二@仮面ライダーV3】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-4】
[時間軸]:仮面ライダーBLACLRX終了後。
[状態]:若干の負傷。ライダーマンに変身中。
[装備]:カセットアーム
[道具]:トランシーバー(現在地から3エリア分まで相互通信可能)、名簿を除くディパックの中身一式
[思考・状況]
1:カイザを倒す。
2:一刻も早く、氷川くんとひよりの手当てをする。
3:天道、及び乾巧と合流する。
4:首輪を外すために必要な情報をもっている人物と首輪と同様のテクノロジーをもつ道具を探す。
5:同一時間軸から連れて来られたわけではないことを理解。ドクトルGを利用することを模索。

氷川誠@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-4】
[時間軸]:最終話近辺
[状態]:全身に重度の火傷。疲労大。ガタックに変身中。
[装備]:拳銃(弾一つ消費)・手錠等の警察装備一式(但し無線は使えず)
    ガタックゼクター&ベルト。
[道具]:ラウズアブゾーバー、トランシーバー、但し書きが書かれた名簿
    ラウズカード(ダイヤの7と9、クラブの8と9、スペードの3)
    ファイズショット。デザートイーグル.357Magnum(4/9+1)
    デイバック五人分(氷川、ひより、リュウガ、岬、明日夢)
[思考・状況]
1:目の前のカイザを倒す。
2:何としてでも二人を守る。
3:木野薫天道総司、城戸(リュウガ)、小沢澄子、津上翔一との合流。
4:此処から脱出する。
5:短髪でロングコートの青年を探す。
6:ラウズアブゾーバーを知る人物の捜索。
[備考]
結城丈二への猜疑心は、かなり和らぎました。

日下部ひより@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-4】
[時間軸]: 本編中盤 シシーラワーム覚醒後。
[状態]:右肩に重傷。気絶中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:気絶中。以下は気絶前の思考。
2:天道を助けたい。
3:天道と戦っていたのはもしかしてシャドームーン?
[備考]
第二回放送を聞き逃しています。
※フライパンはF-7の道路に放置してあります。

 カニレーザーにカリスアローの光弾を放つ。盾に遮られ、カニレーザーが地響きを立てながら迫る。
 斧が振り下ろされ、辛うじてかわす。電柱が斬られ、斜めに線が入ると轟音を立て、ほこりを舞い上げながら崩れていく。
 力では到底叶わない。しかし、距離をとればホテルでくらったレーザーが発射される。
 なら、勝る素早さで翻弄して、息もつかせぬ連続攻撃を与えるしかない。
 敵が地面を踏み砕き、こちらを睨んで仁王立ちする。
 その様子に、まるで陽炎で風景が歪んだような錯覚をカリスは感じた。それほどまでに、カニレーザーの威圧感は凄まじかった。
 だが、負けるわけにはいかない。自分の肩には天音の命と、剣崎への恩返しがかかっている。
 例え犬と罵られようとも、殺戮を止めるわけにはいかない。カードを構え、カニレーザーの威圧を真っ向から受け止める。
「この俺は負けるわけにはいかない。偉大なるデーストロンの首領のために!」
「俺も、負けるわけにはいかない! この手には、大切な人の命がかかっているんだ!」
「なら、その刃を持って俺に示せ! 同じ信念を掲げていたV3は俺に一蹴りでよろめかせ、一殴りで膝を震わさせていたぞ!
想いを拳に込めて殴りつけろ! 俺はそれを砕いて、デーストロンの偉大さを証明してみせる!!」
 ズン!とカニレーザーが再び地面を踏み砕く。敵の大きさが一回りも二回りも大きくなった気がした。
 だから、カリスはカードを掴む手に総てを注ぎ込む。生半可な気持ちで勝てる相手ではない。
(面白い。古代のバトルファイトでも、ここまで俺を燃え上がらせた戦いは無かった)
 ジョーカーとしての本能が、カニレーザーに反応し、氷の心が炎に変わる。
 仮面の下の素顔は笑っているだろう。
「こい! 小僧!! デーストロンの勇者が、貴様を粉微塵にしてくれるわ!」
「やれるもんなら……やってみろ!!」
 二人の戦士の激突が、空気を震わせ、窓ガラスを衝撃で割る。
 この戦い、意地と意地のぶつかり合いだった。
【ドクトルG@仮面ライダーV3】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-6】
[時間軸]:死亡後
[状態]:軽症。V3を失って軽い喪失感。カニレーザーに変身中。
[装備]:斧、盾。
[道具]:トランシーバー(現在地から3エリア分まで相互通信可能)
[思考・状況]
1:目の前の敵を殺す。
2:結城丈二に不信感。裏切るような行動を取れば殺す。ただ、甘いだけでは?
3:脱出。もしくはデーストロンのため、絶対に勝ち抜く。
4:天道総司・仮面ラーイダーカブトを脱出までは利用する。その後殺す。
5:それ以外の仮面ラーイダーは皆殺し。
[備考]
※ドクトルGは結城丈二に不信感は持っていますが、デストロンでないとは思っていません。
 単に甘いだけでは?と疑問を持っています。

【相川 始@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地F-6】
[時間軸]:本編後。
[状態]:軽傷。腹部と胸部に切傷。カリスに変身中。
[装備]:ラウズカード(ハートのA、2、5、6)
[道具]:未確認。首輪探知機(レーダー)
[思考・状況]
1:カニレーザーを全身全霊かけて倒す。
2:剣崎を優勝させる。
3:ジェネラルシャドウを含め、このバトルファイトに参加している全員を殺す。
[備考]
相川始は制限に拠り、ハートのA、2以外のラウズカードでは変身出来ません。

Revolution

 『Jacaranda』と書かれた看板を持つ店の駐車場で、蓮は喘いでいた。
 全力疾走してきた疲れが出ており、デイバックの中の水を咽に押し込む。大きくため息をついて、心臓を落ち着かせる。
 恵理の命はもって数日。それまでにこの戦いに勝利し、新たな命を彼女にもたらせなければならない。
 もう一度、水を口の注ぎ込んだ。迷っている暇は無い。
 どうせ城戸はこの殺し合いの途中で命を落とす。なら、相手をせずにそれ以外を殺せばいい。
 誰かに会いたかった。一人でも殺さねば自分は踏ん切りがつかない。

 ――蓮――

 記憶の中の彼女が微笑み、泣きそうになる。あの笑顔をもう一度みたい。もう一度言葉を交わしたい。
 だが、その願いは叶わない。人殺しとなった自分は、彼女の傍にいる資格は無い。
 それで一向に構わない。世界を敵に回しても彼女を救う覚悟はできている。
 それ以外は、――自分の命でさえ――どうなっても構わなかった。
 草加の言うとおり、自分には冷徹さが足りないのかもしれない。次に出会った奴は何があっても殺そう。
 そう決めて、立ち上がった。

「蓮」

 逃げたはずの声が聞こえ、蓮は振り返る。聞きなれた馬鹿の声の主が、燃料の無い車をはさんで存在していた。
 あの後すぐに目を覚まし、自分を追いかけたのだろうと推測した。結局、こいつからは逃げられない運命らしい。
「お前、この殺し合いに乗ったのか?」
 相変わらずの問いに、城戸を眩しそうに見つめた。こんな特殊な状況でも、こいつは何一つ変わらなかった。
 それが、蓮には尊いものに見えた。
 城戸がそう尋ねるのは、自分たちが襲った誰かから聞いたのだろう。険しい顔をしている。
「ああ、乗った」
「何でだよ! この殺し合いには、ライダーで無い人も巻き込まれているんだぞ!」
「知ったことか。恵理を救うためなら、俺は何だってやる」
「蓮ッ!」
 鋭い声が貫く。城戸は俯きながら、懐から一枚のカードを取り出した。
 サバイブのカード。絵柄は、『疾風』だ。
「手塚が、このサバイブのカードをお前に託したのは人殺しの為じゃない。誰かを助けて欲しいからだろ!
何よりも、お前に!!」
「そいつをお前が持っていたのか。ちょうどいい、渡せ」
「今のお前に渡せない」
「なら、殺して奪い取る!」
 蓮は、蝙蝠の紋章が刻まれたカードデッキを、光を反射する車のボディへ向けた。
 真司は悲痛な表情で、同じように龍の紋章が刻まれたカードデッキを掲げた。
「俺は、お前の事を友達だと思っていた」
「ああ、俺もだ」
 蓮の答えが意外だったのだろう。真司は驚きを示している。
「俺には友と呼べる者がいなかった。これからもできることは無いだろう。だから、お前が最初で最後の友だ」
「お前……」
「だから城戸! 俺はお前を殺して、迷いを断ち切る! この殺し合いに完全に乗って、恵理を救う!!」
 もう、それしかない。決意を胸に、自分の声が思いをぶちまける。
 別れは言った。銀のベルトが腹に装着される。
 瞳は、ただ友を映していた。


(蓮、お前……)
 蓮の心の叫びを聞いて、真司は確信した。
 乾の情報は、間違いだった。
 きっと、不幸なすれ違いが起きて、乾が勘違いしたのだろう。蓮は、純子を殺してはいない。
 だが、今の蓮は過去に恵理の命が危ういと告げられたときと、同じ色の瞳をしていた。追い詰められ、悲しい決意の色の、瞳を。
 何よりも、彼に友と認められた自分が止めなければならない。
 銀のベルトが腹に装着される。瞳はただ、友を映していた。
「蓮、もう一度言う。俺は絶対死なない。一つでも命を奪ったら、お前は後戻りできなくなる」
「同じ言葉を返す。俺はそれを……望んでいるとな!」
 決意は充分。対峙する蓮に応えるため、カードデッキを強く握り締める。


 蓮は身体を捻って、右肘を曲げて拳を握りながら天に向け、コートを翻し左に突き出す。
 真司は右腕をまっすぐに左方向に突き出す。

「変身!!」

 二人のどちらが先に叫んだかは知らない。
 一人は迷いを断ち切るため、一人は友を止めるため、想いを込めて叫ぶ。
 その決着がどうつくのか、Jacarandaは興味深げに見下ろしていた。
秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地E-6】
[時間軸]:34話龍騎サバイブ戦闘前後。
[状態]:全身に軽度の負傷。軽い疲労。ナイトに変身中。
[装備]:カードデッキ(ナイト)
[道具]:配給品一式。
[思考・状況]
1:城戸を殺して、ゲームに完全に乗る。
2:優勝して、恵理を救う。
3:サバイブを奪う。
[備考]
第二回放送を聞き逃しています。

城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:市街地E-6】
[時間軸]:47、8話前後。優衣が消えたことは知っています。
[状態]:健康。龍騎に変身中。
[装備]:カードデッキ(龍騎)
[道具]:サバイブ『疾風』
[思考・状況]
1:蓮を止める。
2:乾(草加)たちと合流。
3:ひとりでも多くの人を助ける。
4:戦いを絶対に止める。
[備考]
※草加を巧、ファイズだと思い込んで全面的に信頼。
※神崎はクライシス帝国と手を組んでいると信じています。

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最終更新:2018年11月29日 17:33