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第1章 狂犬(2.5) - (2007/09/07 (金) 22:38:48) の1つ前との変更点
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~Pick up after~
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剛断粉砕、崩。
「・・・予想外ね。・・でも・・」
箱庭の“惨殺”、否、“破壊”。それを眺めていた闇が、呟く。
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「2時・・・、アトロ達が仕事を終える頃か」
公園のベンチに独り座っていた男は、白い息を吐きながら呟く。傍らには少し薄汚れたミニバッグ。中身は、むき出しの現金に貴金属。
・・・手口は簡単だった。論理プログラムに違法改造を施した神姫に勝手に盗みを働かせるだけ。自分は自宅にさえいればアリバイは成立。目立たない程度に少々の貴金属と紙幣だけ盗ませれば足が着く事もない。今彼は先んじて彼女らが盗んで隠していた盗品を回収し、後は隣町へ向かった彼女達を待つだけという、それはそれは優雅な時間を過ごしていた。
「そろそろ、通信を入れてやるか・・・」
通信、無音。
「・・・ん? 繋がらないのか?」
『本当に、いいご身分よねぇ』
闇、声。
「!? 何だ!!?」
突然、通信機が響く。聞いた事のない声で。
『こんな男の為に、“この子達”が死んだなんて、悲しいわね』
今度は、肉声を聞いた。誰も、自分以外居ない筈の公園で。
「誰!? 誰なんだよ!!」
闇の声、霞む声、僅かな声、しかし確実に聞こえてくる声。だが人の気配どころか、生き物が動いた気配すら、何処にもない。男は動揺する、する他無かった。
闇、幽、揺。
「!!?」
振り向く。誰も居ない筈なのに、ブランコが静かに揺られていた。
闇、転。潰、鳴音。
「うわっ!?」
足下で突然滑り込んだ空き缶を潰す。飛んできた方向を見ても、当然何も、居る訳がない。
「何だよ!! 何なんだよ!! 訳がわかんねえよ!!」
男は叫ぶ。居ないのに、確かに居る、誰かに。
幽、虚、悪寒。
「後ろ!?」
突然に現れた気配に振り向く。
「・・!! ひぃっ!!?」
『ますたLa・・・うさmmmmmimimimimimmmmaaaaa・・・』
声を引きつらせる。其処に浮かんでいたのは彼の神姫、三女クロト。ただし、顔の左側を失い、いびつな機械音に口を歪ませる、グロテスクな死体で。
幽、触、崩落。
「うひゃぁっ!!」
何かが右肩に触れたと思えば胸元に落ちてきた白いモノ。飛び上がって踏んでしまったが、恐る恐る足を上げると、それは罅だらけになった神姫の左腕。
幽、現、虚。
『・・・』
「ひゃあ・・・・!?」
叩、吹飛、砕、崩。
間髪入れず彼の眼前に現れた、足と首のない神姫の躰。それは次女ラケのくびり殺された遺体。思わず振り払うと、傷だらけだったその肢体は粉々に砕けながら消えた。 手に残ったのは冷たい無機質の感触。
幽、浮、闇。
『マスタぁ・・・どうしテ・・私達がこんな目にあウんでスか・・・?・・』
「ああ・・・アトロ?」
最後に現れたのは、長女アトロの真っ二つになった左半分。否、その右半身は切り落とされたと言うより挽き潰されたとでもいうように、粉々の部品がこびり付き、配線が飛び出し、砕けたCSCがむき出しになっている。凄惨と言う他無い、躯。
「ああああぁああああう!!」
取り乱して腕を振り回しながら走る。しかし涙が視界を隠し、恐怖が足を絡め、上手く走れない。
闇、声。
『これがあなたの罪、あなたの咎。神姫の“心”、そして“命”を軽んじた罰。思い知りなさい』
「わわ、わ悪気は無かったんだ・・・。ただ金が無くて、ネットで違法コードを見つけて・・ほんの軽い気持ちだったんだ!!」
『でも、彼女達は死んだ』
「あいつらも俺の為だって言ったら喜んでやってくれて、調子にのって・・・それにその金でパーツを買ってやると特にクロトなんかは飛ぶように喜んで・・ラケやアトロだって顔には出さなくても嬉しそうで・・・だから・・」
『でも死んだ。あなたのせいで。あなたの罪で』
「もうしないっ!! もうしないっ!! こんな事しない!! 神姫も大事にする!!! だから、だからころ・・・」
『罰を受けなさい』
刺突、接触、紫電。
「うああああぁぁっ!?」
崩、昏倒。
刹那、闇から這い出た小さな腕が、彼の首にナイフを突き立てる。ナイフは突き刺さりはしないが、触れた瞬間に青白い火花を疾らせる。男の意識は、そうして・・・消えた。
「・・・結構こういうアホみたいな手の方が、上手くいくのよね」
声と共に、闇が剥げ落ち、黒い肢体、白い幾何学模様を顕わにする。“闇であったモノ”は其の背中へ広がり、その小さな身には余るほどの、豊かな鴉の羽根になる。
【玉座】の真の姿、【ビテンヤシャ】、それは、アニー“ザ・ファナティック”の専用装備。光学迷彩とジャミングにより、何者にも見えず、何者にも聞こえず、何者にも感じない完全ステルスを発揮する、鴉天狗の衣。アニーに“必要不可欠”な鎧。
「後は、こいつの家に先回りして証拠隠滅するだけね」
男を感電、気絶させたスタンナイフ【レテ】を手元で遊ばせながら、意地悪な笑みで呟くアニー。全ては茶番。全ては演出。アニーが亡霊を模して彼を脅かしただけ。しかし、完全なる恐怖に支配された彼は、神姫で窃盗行為など2度と考えないだろうし、神姫の幽霊などという非科学的なもの、そうそう他人にも口外しないだろう。後は男の部屋に残る神姫の痕跡さえ消せば、一連の窃盗が神姫によるものとは判らなくなる。
「でも・・・」
ふいに、物悲しさに振り向く。其処にあったのは、あの“狂犬”の神姫に嬲り殺され、そして、今自分が傀儡のように弄んだ、3人の神姫の残骸。
「“機械”だから証拠が残らないって、皮肉なものよね」
神姫犯罪が世間に露呈すれば、神姫の“心”は問題視されるだろう。処分、とまではいかなくても、安全強化にプロテクトを施す為と、“心を初期化”される可能性は十分にあり得る。何より、G・L《Gender Less》などという“心”の異常を持つ神姫は真っ先に排除されるだろう。自分の、神姫の“心”を守る為、証拠は何一つ残ってはいけない。しかし、“証拠を消せる”という事実は正に神姫の“心”が認められていない証拠であり、“証拠を消す”という行為自体、彼女達の“心”を消す事に他ならない。気乗りなどする筈、無い。
「せめて、“亡霊を装いて戯れなば 汝 亡霊となるべし”くらいに、気が利いた“心”であれば良かったのにね」
その吐露も、冬の闇はただ飲み込むのみ。罪もなく、罰もなく。
[[目次へ>G・L《Gender Less》]]
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