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狛犬はうりん劇場 大蛇様は姉御肌 - (2007/12/31 (月) 19:28:33) の1つ前との変更点
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大蛇様は姉御肌
なんだか久々にお勤めをしているような気がします。おはよう御座います、結です。
今日はお昼からご来客があるのでお勤めも少し早く済ませねばなりません。忙しいです。
いらっしゃるのはご主人のご友人とその神姫でして私も楽しみなのです。待ち遠しくもせっせとお勤めに勤しみます。む、参拝客様がいらしたようですね。
今日は公園に人影も多く何とも賑やかになっています。
「穏やかですね」
竹箒片手に境内を周りながら皆さんに挨拶を。お年寄の方々と談笑したり野良猫達を撫でたりと時間を待ちます。
「ちょっと出かけてくるわね」
「あ、はい。いってらっしゃいまし」
母屋から奥さんがいらっしゃいました。自転車を押してらっしゃるのでお買い物のようです。
「そうだ、今日お見えになるのって確か結さんのお師匠さんだったわね」
そうなのです。いらっしゃるお客様は私の剣術の師匠なのです。オーナーさんが教師をされているので平日はお会いできないのですが今日はお休みだそうで久しぶりに遊びに来られるのです。
「お客さんの好みって判る?」
「えっとですね、豆大福がお好きだった筈です」
「判った、買ってくるわね」
鼻歌を口ずさみつつご近所のスーパーに向かわれました。
「さて」
私はお茶の準備をしておくとしますか。
時刻は正午前、「待ち人来る」です。
「こんにちわ、向島さん。お久しぶりです、湖幸さん」
「よっ」
「久しいねぇ。元気してたかい?」
繋ぎの上半分を腰で結んだ長身の方と着流しの人魚型、向島明さんとパートナーの湖幸(こゆき)さんです。
「いらっしゃい。待ってたよ」
「おう」
「三河さん、結借りますね」
「はいよ。結も楽しんできな」
「はい」
居間に向かわれるご主人と向島さんを見送り私達は縁側の方へと。
「そうそう。春音達セカンドに上がったんだって?」
「先週末の公式戦で昇格されたんですよ。私も応援に行きました」
「そうか、二人も頑張ってるねぇ」
「ですね。湖幸さんはどうですか?」
「そこそこ。皆強いからそうそう戦績は上がらんさね」
そう言って湯飲みを傾けられます。横座りしてお茶をのんでいるのにこの色気は何なのでしょうか。
「アイツも居るしね」
「アロエさんですか。流石は「キング」ですね」
アロエさんとは湖幸さんのお友達で、互いに研鑽し合い高めておられる良き好敵手です。
「それはそうと久々に一本いくかねぇ」
「お願いします。師匠」
藍色の着流しに鱗模様の手甲と肩当、セブンエッジ「天叢雲」を片手にすれば落ち着いた雰囲気の女性から獲物を見据える狩人となる湖幸さん。そ
の視線だけ感じるプレッシャーは「蛇に睨まれた蛙」が如し。刃を手にした右腕がゆっくりと上段に、掌を正面に左腕が突き出され、足は肩幅に開かれ上体だけを横に捻った独特の型。その姿は戦歴の武士を連想させます。
私は房を前に薙刀のような構えで竹箒を向けて相対します。
「さて、いくかねぇ」
「はい!」
互いに動かず出方を待つ、なんて事はなく湖幸さんの斬撃で始まります。
様子見に軽く振るっているであろう筈なのにその一撃は全て重く弾き切れません。回避に徹していてなければ数撃で負けてしまうでしょう。後の先を狙らう隙を待って耐えます。
「ふふっ、回避上手くなったねぇ。でもそれだけではないよね?」
「も、勿論ですよ!」
実際は言葉を紡ぐのも必死です。
逆風の斬り上げを紙一重で何とか避け斬り返しの唐竹を箒を真横に掲げ受けを。刃が到達する瞬間に房を上にして立てその振る勢いで刀身の腹を打付け、ほんの少しだけぶれて剣線をズラせられられればそこは千載一遇の隙!
「はぁっ!!」
打ち付けた箒をそのままの剣線で円を描き脇腹に一撃を・・
「ふっ!」
柄下の刃の無い部分を掴み振り戻した刃で防がれ押し戻されます。
「ふむ。後の先のキレも上がっているねぇ」
楽しそうな口調でもその眼は変わらずです。私ももう一度箒を構えます。
「今まではこれくらいで音を上げていたのに、自主トレでここまで腕を上げているとは驚きだよ」
言って構えると左手を柄に。ちょっ、本気で来るのですか!?
「今日は少し攻めを強めるとしよう」
「は、はい!」
構えが変わった湖幸さん、今の攻方では一撃すら耐えれません。
箒を左手に腰溜に右手を鯉口の上を掴みます。
「ほぉ」
逆手居合いの構えに湖幸さんの眼が細められます。受けられない攻撃なのなら後の先を取るより攻勢に出るべきと判断したのです。腰を落とし左脚を前に右脚を引きます。狙うは一撃、胴への一線です。
「せいっ!!!」
「!!」
今までにない速度と重さの袈裟懸け、対して前にステップして抜き放ちます!
「ふぅ。このお茶いい味だねぇ」
「はい、新茶だそうです」
縁側に戻り奥さんに用意していただいた豆大福(神姫用)を頂いています。
「最後のは最近覚えたのかい?」
「そうですよ。ご主人がご覧になっていた映画の剣術を元に研鑽した結果です」
「成る程。うん、良い一撃だったよ」
「ありがとう御座います」
先程の稽古での最後、湖幸さんの一撃に対した私の居合い。その刃は避けた筈の刃がその剣線を曲げた斬り返しで手甲を傷付けるだけに留まりました。変わりに湖幸さんの刃が私の首筋で止まり終わりとなったのです。
「手甲を持っていかれるとは、そろそろ免許皆伝かねぇ?」
「そんなまだまだですよ。湖幸さんの技は目標なのですから」
「ふふふっ。ありがとう。でもアタシの剣術は「邪険」だからね。そこは忘れないでおきな」
「はい」
湖幸さんの剣術は普通のそれとは違いもっとこう格闘術を含んだもの、戦国から続く正式な剣術とは違う為「邪道の剣」とされるものだそうです。
「しかし、あのへたれたお前さんがここまで強くなるなんてねぇ。時間は早いものだよ」
一年半前、私がご主人の下へ来て間もない頃の事です。バトルに興味のあるものの経験はなく戦術もまだまだな私達は草バトルで大敗が続いていました。「気にするな。学び取る事もあったし」と慰めて下さるご主人、でも私は自身の不甲斐なさに落ち込んでいました。
「お前さん。一歩って小さいと思うかい?」
そう声を掛けて来られたのが湖幸さんでした。
その言葉の意味はその時は判りませんでした。でも幾度かお会いし、話、その雄姿を見て私はお願いしたのです。
「お願いします!」
「・・・答え見つかったかい?」
優しげな目ではなくバトルの時の眼でそう聞かれましたっけ。
「百里の道も一歩から。だと思います」
「そう。ならお前さんのオーナーに聞いてくるといいよ。明日から暫く通う事になりそうだしねぇ」
夕暮れの喫茶スペースでの事、私が湖幸さんに弟子入りした時の事です。
それから神社にて稽古を付けて下さいました。自分にあった戦術が見付かるまでの数ヶ月の間殆ど毎日です。
「少しずつでも前へ。そう教えて下さったのは湖幸さんじゃないですか」
「そうだったね」と微笑まれています。さっきまでの威圧はない落ち着いた感じの優しい目です。
今では稽古を付けて頂く事もなくなりました。でもこうして偶に手合わせして下さるのですよ。今でもこれからも湖幸さんは私の師匠なのです。
「時に、結」
「はい?」
「最後の豆大福貰っていいかい?」
(好みではなく大好物ですね)
至福の笑みの湖幸さん、さっきまであれ程の気迫を放っていた方とはとても思えません。
「ところで湖幸さん」
「なんだい?」
「口の回り真っ白ですよ」
「あらら」
好物を目の前にしては子供っぽくなるのは人間も神姫も同じなのですね。
そんなうららかな午後でした。
現在装備
巫女服 ×1
仕込み竹箒 ×1
玉串ロッド ×1
御籤箱ランチャー(改) ×1
灯篭スラスター ×2
リアユニット賽銭箱 ×1
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