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集結・スペシャルタスクチーム - (2007/07/08 (日) 22:29:29) の最新版との変更点
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*● 神姫のお仕事。(海底編) ●
**◆ 第一話 「集結・スペシャルタスクチーム」 ◆
―――――某国、某所、某建設会社。その役員会議室。
決して小さくは無い。中堅とはいえ多国籍企業、それなりの設備を備えている。
豪華なテーブルの周りに配置された革張りの椅子には、各部門の責任者が座している。
そして一番奥には一人の老人。その威圧感から普通の人間でない事は一目で解る。
「海洋開発部長、経緯を説明したまえ」老人が口を開いた。
「かしこまりました」
老人の言葉に答えて初老の男が立ち上がった。その顔は心なしか青ざめている。
「当部門に於ける今期最大のプロジェクトは、インドネシアとマレーシアを繋ぐ
海底ケーブルの埋設実験工事です。ご存知の通り、この工事は太平洋横断ケーブルの
テスト工事でもあり、これを受注・成功させれば、自動的にこの大プロジェクトも
請け負う事が出来たはずでした」
「前置きはいい!なぜ工事を受注出来なかったのか、原因を言え!!」
老人の鋭い一喝に、男は慌てて説明した。
「工事の入札に於いて……我々は……ギリギリの数字を出したと自負しております。
ですが……ライバル社が……我々の30パーセントの値段を出してきたのです!」
会議室がざわめく。いくら入札価格とはいえ、それだけ差がつく事は通常ありえない。
「それは低入札禁止条項に抵触するのではないのかね?」
「いえ……ライバル社が提出した事業計画では……確かに利益が出る事になっています」
「何だと……どんな事業計画だったのだ、それは!」
「それは………これをご覧下さい」
男は立ち上がると老人の傍に立ち、ポケットから取り出したモノを目の前に置いた。
それは、一体の人形だった。
「こんにちは!私は天使型の神姫・スーラと言います!よろしくお願いします!!」
呆気に取られる会議メンバー。やっと口を開いたのは老人だった。
「これが……この人形が何だというのだね………?」
「これは日本で流通している『神姫』という機械人形です。連中は……ライバル会社は、
この玩具を工事に用いる事で大幅なコストダウンを実現したのです!」
まじまじと人形を見つめる老人。
「こ……こんな玩具が……こんな物に我が社は負けたと言うのか!!!!」
老人は人形を掴むと渾身の力で投げつけた。壁に激突し、悲鳴と共に動かなくなる人形。
暫くして落ち着いたのか、やっと老人が話し出した。
「いや、負けた訳ではない。こんなものが成功するはずが無い…………
連中が失敗すれば、まだ我が社にもチャンスがある…………!」
老人は、邪悪な笑みを浮かべた。
(―――――物語は3ヶ月前に遡る―――――)
【12月中旬:佐伯裕子の場合】
それは都内の有名ホテルで開催されているだけあって、本格的な立食パーティでした。
「教授会」の会合というのは建前で、実は単なる忘年会らしかったのですが……
さすがに知識人の集まりともなると、それだけで場の雰囲気が違ってきます。
タキシードに身を包んだ男性が近づいて来ました。年の頃は30歳ぐらい。
「すまない佐伯さん、準備に手間取ってしまったよ」
「いえ、私も着替え終わったばかりですから」
「すごいな、日本人でこんなにドレスの似合う女性は初めて見たよ」
「そんな……誉めたって何も出ませんよ!」
この男性は西条進さん。2年前に大学に招かれた助教授で、現在は第7研究室の責任者を
務めています。テーマは「人間に代わる労働力としての神姫」。
「すまないね。助手を引き受けてくれたからって、こんな事まで付き合せちゃって…」
「いえ、私も教授会というものに興味がありましたから」
「教授会とは分野に拘らない有識者の集まりだからね。私の目的には丁度良かったんだ」
「……プロジェクトに協力してくれる人が見つかるといいですね」
「大丈夫さ!自分の論文を売り込むのはフリーだった頃から得意なんだ!」
プロジェクト……それは来年予定されている『東南アジア海底ケーブル工事』の事です。
彼はこの工事に神姫達を協力させる事によって、従来とは比較に成らないぐらいに
効率の良い施工を行おうとしているのです。
この実験に協力してくれる工事業者は見つかったのですが、どうしても技術的に
バックアップしてくれる人が見つからなかったのです。
工事の入札まで2ヶ月。それまでに幾つかの技術的問題を解決しなければ……
「それで、目的の人は出席していたんですか?」
「そうだ!本命中の本命、武神大学の佐久間教授が来ていたんだよ!」
「あ……あの『建機のダウンサイジング理論』で神姫に協力させていた……」
「そうそう!『あくまで神姫の安全を第一に考えて』っていうヤツだよ!!」
西条さんは立場上「人間の代わりとしての神姫」を研究していますけど、
実際は「パートナーとしての神姫」の可能性を模索しています。その考えを理解してくれる
可能性がある佐久間教授には、以前から注目していたようです。
早速ある一角に向かう西条さん。そこには6人程のグループが出来ていました。
「あの……佐久間教授でしょうか?」
自分の名前を呼ばれた50代後半の男性が反応した。
「皆さんちょっと失礼…………確かに佐久間ですが、貴方は?」
自己紹介をする西条さん。私の事も助手として紹介しました。
「おお、君が西条君か!君の論文は拝見させてもらったよ!
私は『何かを犠牲にする』とか『身代わりにする』なんて考え方が大嫌いでね!
だから君の神姫を大切にしようとする「隠れた本音」に共感していたんだよ!」
「解っちゃっていましたか……それでは単刀直入にお願いします!」
西条さんはプロジェクトの事、敢えて危険な状況を設定する事によって、逆に神姫の
安全を図る研究を進める事を説明して、その協力をお願いしました。
「喜んで協力させてもらうよ!……しかし来年はずっと南米に行ってしまうからな……
そうだ、助手の藤宮を専属で手伝わせよう!」
「藤宮さん……教授の論文で度々お手伝いをしている方ですね!」
「ああ、腕は確かだよ。彼女を筆頭に研究室全体でバックアップさせてもらおう!」
「すばらしいです……ありがとうございます!!」
「佐伯さん、今日はお疲れ様!」
ホテルから帰る車の中で西条さんが言いました。その目は少年の様にキラキラしてます。
「西条さんこそ……それに良かったですね、これで何とかなりそうです!」
「ああ。後は入札用に計画書を完成させないとね!」
「良い計画書を作りましょうね。絶対に入札に勝ちましょう!」
【同日:倉内恵太郎の場合】
「マスター、いい加減落ち着いてください」
研究室の中をウロウロしていると、相棒のナルに窘められてしまった。
「これが落ち着いていられるか!何で裕子先輩、あんなヤロウとパーティになんて!!」
「ですから七班の研究室のお手伝いだと……」
「だから何で他所の研究室が裕子先輩に手伝いを頼むんだよ!!」
「私の装備の修理で燃料電池をお願いに行って、その時に意気投合したみたいですね」
「裕子先輩、変に気を使ってヤロウの言いなりになってるんじゃないだろうな……」
それから部屋の中を何百往復しただろうか。やっと裕子さんが研究室に帰ってきた。
今は普段着を着ている。ドレスはスーツケースの中か。……見てみたかったな。
「あら恵太郎くん、本当に待っててくれたの?」
「当たり前じゃないですか!ずっと心配だったんですから!」
「そう、そんなにプロジェクトの事を心配をしてくれてたのね!」
そんな訳無いです。貴女の事が心配だったんです。
「多分大丈夫でしょうね。来年の夏には私もマレーシアに行かないと。西条さんと一緒に」
「ええっ!?裕子先輩も現地に行くんですか!!??」
「当たり前じゃないの。私は助手なんだから。……そうだ、空いてる時間に泳げるわね。
水着の用意もしなくちゃ。そろそろ来年の新作が発表される頃だし、丁度いいわね」
水着!!!!新作!!!南の楽園!!!あのヤロウと一緒に!!!!!!!
「裕子先輩!!!!!俺も行きます!!!!!手伝わせてください!!!!!!」
思わず俺は叫んでしまった。
「け、恵太郎くん……そこまでプロジェクトの事を…………よし、それじゃ
入札の結果が出てから依頼しようと思ってたけど、もうお願いしちゃうわね!」
こうして俺はスペシャルタスクチームの一員になった。
「マスター、仕事の内容は理解してるんですか?」
「あれ?そう言えば聞いてないな……」
【4月中旬:親方の場合】
今年入った新人は全然ダメだな。どうしても「安全」を軽視してしまう。
事故を起こさない事こそ最大の仕事なんだがな……
「先輩~!クラッシャーの取り付け、終わったみたいですよ~」
「ヘルメットはちゃんと被れ!見学だからって油断するな!」
「は~い、すみません~」
入社してからずっとこんな感じだ。一回ビシっと言わなきゃダメだな…
「流石に厳しいですね。聞いていた通りです」
突然女性の声がした。ビックリして振り向く。
そこには、ヘルメットに作業服姿の若い女性が立っていた。
「何だアンタは?見かけない顔だけど、部外者は立入禁止だぞ!」
「社長さんには許可を貰っています。始めまして、佐伯裕子と申します」
「それで、そのプロジェクトとやらのスカウトに来たって事か」
「ええ。失礼ですけど、その前にお仕事の様子を見せて貰いました」
「品定めって訳か。それで御眼鏡には適ったのかな?」
「はい。今回のプロジェクトの核は「神姫の安全を確保する」なんです。
神姫に詳しく、現場の安全に厳しい人なんてあまり居ませんからね!」
「でも俺、トンネル掘削工事なんてやったことないぞ?」
「今回はみんな初めての事ばかりなので、実験データを取るには逆に好都合です。
貴方には技術的な事よりも、安全に対する心構えみたいな所で貢献してもらいたいです」
まぁいくら技術があっても心構えがダメじゃ話にならないからな。ウチの新人みたいに。
「仕事の内容は安全管理。それとシビルさんに掘削機の副操縦士をお願いします」
「アイツに操縦?そんな事やらせた事ないぞ!?」
「事前に訓練を受けて貰う事になりますね。その様子もデータとして取らせて貰います」
「なるほど、色々考えているんだな。……だけど最大の問題が残ってるぞ」
「それは何ですか?」
「俺が引き受けるかどうかって事」
有意義な仕事だって事は理解できるが、コッチも生活が掛かっているからな。ハイハイと
大学生のお手伝いを引き受ける訳にもいかない。
「俺は社会人だ。学生みたいに遊んでいる訳じゃない。下賎な事だが報酬次第だな」
「当然です。それでこちらが提示できる条件は……
①工事開始までにシビルさんの訓練を10日程度×@30,000円=300,000円
②8月の本工事10日間(予定)に600,000円
③諸経費として100,000円
④交通費別
で、全部で100万円+交通費、でどうでしょう?」
「はい、頑張ります!!!!是非とも宜しくお願いいたします!!!!!!!」
【8月上旬:高槻虎太郎と青葉かすみの場合】
急に藤宮先輩に研究室へ呼び出された。何だろう、大事な話って……
研究室の扉を開ける。中には藤宮先輩ともう一人、凄い美人の女性がいた。
「こんにちは~!……あれっ、コチラの女性は?」
「始めまして。佐伯裕子と申します」
「ああ、あのプロジェクトの助手さんですか!始めまして!!」
ん?それじゃプロジェクトの話か?
藤宮先輩が深刻そうな顔で言った。
「高槻、単刀直入に言うよ。私の変わりにマレーシアに飛んで欲しいんだ」
「だから無理ですって!俺の左手はリハビリ中で……」
白い手袋をした左手を見せる。包帯はもう取れているが、まだ感覚が戻っていない。
「……佐久間教授がアフリカで倒れてね。私はソッチに行かなくちゃいけなくなった」
「き、教授が!?大丈夫なんですか!!?」
「ええ、大事には至らなかったらしいけど……やっぱり心配だからね……行ってくるわ」
「それは……当然ですね」
教授も無理しすぎなんだよな。まぁ体を休める良い機会になるかもしれない……。
「それで高槻。私の後を任せられるような技術屋なんてオマエしか居ないのよ。
何とかお願いしたいんだけど……本当に左手は動かないの?」
「そりゃ動きますけど、作業はまだ無理ですよ……松田さんから頼まれていた
バンディッツの整備だって他人に任せちゃったぐらいなんですから」
「『任せた』!?オマエが?」
ヤバイっ、変な事になりそうな予感……
「え、えぇ。松田さん経由で知り合った技術屋さんがいて、その人にデータを渡して……」
「その人、腕は確かなの?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイぃぃ~~~~~~!
「そ、それは……無論……大切なバンディッツを任せるぐらいだから……」
「その人の名前は!?」
キャぁぁぁぁ~~~~~~っっっ!!!!
俺の携帯をひったくって、青葉さんに電話を掛ける藤宮先輩。
「始めまして。高槻のゼミを任されている藤宮と言います」
電話で事情を説明する藤宮先輩。やがて携帯を佐伯さんへ渡す。
「大雑把な事は話したわよ。細かい話は佐伯さんからお願い」
「解りました」
今度は佐伯さんが色々と説明をする。
「まぁ青葉さんだけ行かせる訳にはいかないからね。高槻も同行してあげてよ」
「彼女、了解したんですか!?」
「それは佐伯さん次第ね」
佐伯さんが電話の途中でコッチに話しかけてきた。
「大筋で了解してくれたんですけど……重大な問題があります」
「いくら何でも急ですからね、やっぱり無理ですよ……それでどんな問題なんです?」
「水着、何色にするかだって」
そんなん知るかぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!
【2日後:橘明人の場合】
待ち合わせの場所は渋谷駅の近くの喫茶店だった。徳田君はまだ来ていない。
「明人さん、この依頼を受けるんですか?」
テーブルの上では神姫素体のノアが不安そうにしている。
「危険な仕事らしいけど、とりあえず話だけは聞いてみるさ」
電話が掛かって来た時は驚いた。まさか徳田グループの御曹司から仕事の依頼が来るとは。
彼の事は覚えている。3年ぐらい前に何度かファーストリーグで戦った事がある。
「ノア、パートナーの桜花の事は覚えているか?」
「……ええ。小細工の全く無い、正統派の剣士でしたね」
ノアと同じタイプ。刃に魂を込めて振るう闘士。
共感と言う訳ではないが、困っているなら助けたいと思ったのも事実だ。
それから30分後。約束の時間より10分早く徳田君が来た。
「お待たせして申し訳ありませんでした。橘さん、電話では失礼しました」
徳田君がカバンを開けると、中からサンタ型の神姫が顔を出した。
「お久しぶりです。パートナーの桜花です」
「あれっ?桜花って侍型じゃなかったっけ?」
「ちょっと大きな事故に巻き込まれましてね。修理の過程でサンタ型になったんです」
「なるほど、それが引退の理由でもあったんだね?」
「……ええ、そんな所です」
暫くは4人で昔話に花を咲かせた。バトルの方針も似ているし、話が弾む。
「それで、本題ですけど……」
徳田君が話を進めた。最初に今回のプロジェクトの説明を受ける。
「随分と大掛かりなプロジェクトなんだね」
「ええ。それで……絶対に妨害が入ると思うんです。これは経験則ですけど、新しい技術で
新規参入しようとすると、既存の企業から徹底的な圧力があるものですから」
「確かに。自分達の将来に関わる事だからね」
「……このプロジェクトに俺の親友が急に参加することになったんです。本当なら俺が直接
ガードしたいんですけど、徳田グループは神姫産業に参入しないって公言してるので…」
「……そういう事か」
意外だな。企業買収で巨大化した企業の御曹司にしては感情的に動いている。
いや、それだけその親友が大切だって事か。
「解った。細かい話は置いといて、この依頼は受けるよ。いいよな?ノア」
「ええ。お二人とも安心して下さい。陰ながらガードさせてもらいます!」
「ありがとうございます!この事は発案者と助手の二人には話しておきます。
それ以外には内密に……無論、虎太郎本人にも」
「了解だ!」
第二話 (作成中) へ進む
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*● 神姫のお仕事。(海底編) ●
**◆ 第一話 「集結・スペシャルタスクチーム」 ◆
―――――某国、某所、某建設会社。その役員会議室。
決して小さくは無い。中堅とはいえ多国籍企業、それなりの設備を備えている。
豪華なテーブルの周りに配置された革張りの椅子には、各部門の責任者が座している。
そして一番奥には一人の老人。その威圧感から普通の人間でない事は一目で解る。
「海洋開発部長、経緯を説明したまえ」老人が口を開いた。
「かしこまりました」
老人の言葉に答えて初老の男が立ち上がった。その顔は心なしか青ざめている。
「当部門に於ける今期最大のプロジェクトは、インドネシアとマレーシアを繋ぐ
海底ケーブルの埋設実験工事です。ご存知の通り、この工事は太平洋横断ケーブルの
テスト工事でもあり、これを受注・成功させれば、自動的にこの大プロジェクトも
請け負う事が出来たはずでした」
「前置きはいい!なぜ工事を受注出来なかったのか、原因を言え!!」
老人の鋭い一喝に、男は慌てて説明した。
「工事の入札に於いて……我々は……ギリギリの数字を出したと自負しております。
ですが……ライバル社が……我々の30パーセントの値段を出してきたのです!」
会議室がざわめく。いくら入札価格とはいえ、それだけ差がつく事は通常ありえない。
「それは低入札禁止条項に抵触するのではないのかね?」
「いえ……ライバル社が提出した事業計画では……確かに利益が出る事になっています」
「何だと……どんな事業計画だったのだ、それは!」
「それは………これをご覧下さい」
男は立ち上がると老人の傍に立ち、ポケットから取り出したモノを目の前に置いた。
それは、一体の人形だった。
「こんにちは!私は天使型の神姫・スーラと言います!よろしくお願いします!!」
呆気に取られる会議メンバー。やっと口を開いたのは老人だった。
「これが……この人形が何だというのだね………?」
「これは日本で流通している『神姫』という機械人形です。連中は……ライバル会社は、
この玩具を工事に用いる事で大幅なコストダウンを実現したのです!」
まじまじと人形を見つめる老人。
「こ……こんな玩具が……こんな物に我が社は負けたと言うのか!!!!」
老人は人形を掴むと渾身の力で投げつけた。壁に激突し、悲鳴と共に動かなくなる人形。
暫くして落ち着いたのか、やっと老人が話し出した。
「いや、負けた訳ではない。こんなものが成功するはずが無い…………
連中が失敗すれば、まだ我が社にもチャンスがある…………!」
老人は、邪悪な笑みを浮かべた。
(―――――物語は3ヶ月前に遡る―――――)
【12月中旬:佐伯裕子の場合】
それは都内の有名ホテルで開催されているだけあって、本格的な立食パーティでした。
「教授会」の会合というのは建前で、実は単なる忘年会らしかったのですが……
さすがに知識人の集まりともなると、それだけで場の雰囲気が違ってきます。
タキシードに身を包んだ男性が近づいて来ました。年の頃は30歳ぐらい。
「すまない佐伯さん、準備に手間取ってしまったよ」
「いえ、私も着替え終わったばかりですから」
「すごいな、日本人でこんなにドレスの似合う女性は初めて見たよ」
「そんな……誉めたって何も出ませんよ!」
この男性は西条進さん。2年前に大学に招かれた助教授で、現在は第7研究室の責任者を
務めています。テーマは「人間に代わる労働力としての神姫」。
「すまないね。助手を引き受けてくれたからって、こんな事まで付き合せちゃって…」
「いえ、私も教授会というものに興味がありましたから」
「教授会とは分野に拘らない有識者の集まりだからね。私の目的には丁度良かったんだ」
「……プロジェクトに協力してくれる人が見つかるといいですね」
「大丈夫さ!自分の論文を売り込むのはフリーだった頃から得意なんだ!」
プロジェクト……それは来年予定されている『東南アジア海底ケーブル工事』の事です。
彼はこの工事に神姫達を協力させる事によって、従来とは比較に成らないぐらいに
効率の良い施工を行おうとしているのです。
この実験に協力してくれる工事業者は見つかったのですが、どうしても技術的に
バックアップしてくれる人が見つからなかったのです。
工事の入札まで2ヶ月。それまでに幾つかの技術的問題を解決しなければ……
「それで、目的の人は出席していたんですか?」
「そうだ!本命中の本命、武神大学の佐久間教授が来ていたんだよ!」
「あ……あの『建機のダウンサイジング理論』で神姫に協力させていた……」
「そうそう!『あくまで神姫の安全を第一に考えて』っていうヤツだよ!!」
西条さんは立場上「人間の代わりとしての神姫」を研究していますけど、
実際は「パートナーとしての神姫」の可能性を模索しています。その考えを理解してくれる
可能性がある佐久間教授には、以前から注目していたようです。
早速ある一角に向かう西条さん。そこには6人程のグループが出来ていました。
「あの……佐久間教授でしょうか?」
自分の名前を呼ばれた50代後半の男性が反応した。
「皆さんちょっと失礼…………確かに佐久間ですが、貴方は?」
自己紹介をする西条さん。私の事も助手として紹介しました。
「おお、君が西条君か!君の論文は拝見させてもらったよ!
私は『何かを犠牲にする』とか『身代わりにする』なんて考え方が大嫌いでね!
だから君の神姫を大切にしようとする「隠れた本音」に共感していたんだよ!」
「解っちゃっていましたか……それでは単刀直入にお願いします!」
西条さんはプロジェクトの事、敢えて危険な状況を設定する事によって、逆に神姫の
安全を図る研究を進める事を説明して、その協力をお願いしました。
「喜んで協力させてもらうよ!……しかし来年はずっと南米に行ってしまうからな……
そうだ、助手の藤宮を専属で手伝わせよう!」
「藤宮さん……教授の論文で度々お手伝いをしている方ですね!」
「ああ、腕は確かだよ。彼女を筆頭に研究室全体でバックアップさせてもらおう!」
「すばらしいです……ありがとうございます!!」
「佐伯さん、今日はお疲れ様!」
ホテルから帰る車の中で西条さんが言いました。その目は少年の様にキラキラしてます。
「西条さんこそ……それに良かったですね、これで何とかなりそうです!」
「ああ。後は入札用に計画書を完成させないとね!」
「良い計画書を作りましょうね。絶対に入札に勝ちましょう!」
【同日:倉内恵太郎の場合】
「マスター、いい加減落ち着いてください」
研究室の中をウロウロしていると、相棒のナルに窘められてしまった。
「これが落ち着いていられるか!何で裕子先輩、あんなヤロウとパーティになんて!!」
「ですから七班の研究室のお手伝いだと……」
「だから何で他所の研究室が裕子先輩に手伝いを頼むんだよ!!」
「私の装備の修理で燃料電池をお願いに行って、その時に意気投合したみたいですね」
「裕子先輩、変に気を使ってヤロウの言いなりになってるんじゃないだろうな……」
それから部屋の中を何百往復しただろうか。やっと裕子さんが研究室に帰ってきた。
今は普段着を着ている。ドレスはスーツケースの中か。……見てみたかったな。
「あら恵太郎くん、本当に待っててくれたの?」
「当たり前じゃないですか!ずっと心配だったんですから!」
「そう、そんなにプロジェクトの事を心配をしてくれてたのね!」
そんな訳無いです。貴女の事が心配だったんです。
「多分大丈夫でしょうね。来年の夏には私もマレーシアに行かないと。西条さんと一緒に」
「ええっ!?裕子先輩も現地に行くんですか!!??」
「当たり前じゃないの。私は助手なんだから。……そうだ、空いてる時間に泳げるわね。
水着の用意もしなくちゃ。そろそろ来年の新作が発表される頃だし、丁度いいわね」
水着!!!!新作!!!南の楽園!!!あのヤロウと一緒に!!!!!!!
「裕子先輩!!!!!俺も行きます!!!!!手伝わせてください!!!!!!」
思わず俺は叫んでしまった。
「け、恵太郎くん……そこまでプロジェクトの事を…………よし、それじゃ
入札の結果が出てから依頼しようと思ってたけど、もうお願いしちゃうわね!」
こうして俺はスペシャルタスクチームの一員になった。
「マスター、仕事の内容は理解してるんですか?」
「あれ?そう言えば聞いてないな……」
【4月中旬:親方の場合】
今年入った新人は全然ダメだな。どうしても「安全」を軽視してしまう。
事故を起こさない事こそ最大の仕事なんだがな……
「先輩~!クラッシャーの取り付け、終わったみたいですよ~」
「ヘルメットはちゃんと被れ!見学だからって油断するな!」
「は~い、すみません~」
入社してからずっとこんな感じだ。一回ビシっと言わなきゃダメだな…
「流石に厳しいですね。聞いていた通りです」
突然女性の声がした。ビックリして振り向く。
そこには、ヘルメットに作業服姿の若い女性が立っていた。
「何だアンタは?見かけない顔だけど、部外者は立入禁止だぞ!」
「社長さんには許可を貰っています。始めまして、佐伯裕子と申します」
「それで、そのプロジェクトとやらのスカウトに来たって事か」
「ええ。失礼ですけど、その前にお仕事の様子を見せて貰いました」
「品定めって訳か。それで御眼鏡には適ったのかな?」
「はい。今回のプロジェクトの核は「神姫の安全を確保する」なんです。
神姫に詳しく、現場の安全に厳しい人なんてあまり居ませんからね!」
「でも俺、トンネル掘削工事なんてやったことないぞ?」
「今回はみんな初めての事ばかりなので、実験データを取るには逆に好都合です。
貴方には技術的な事よりも、安全に対する心構えみたいな所で貢献してもらいたいです」
まぁいくら技術があっても心構えがダメじゃ話にならないからな。ウチの新人みたいに。
「仕事の内容は安全管理。それとシビルさんに掘削機の副操縦士をお願いします」
「アイツに操縦?そんな事やらせた事ないぞ!?」
「事前に訓練を受けて貰う事になりますね。その様子もデータとして取らせて貰います」
「なるほど、色々考えているんだな。……だけど最大の問題が残ってるぞ」
「それは何ですか?」
「俺が引き受けるかどうかって事」
有意義な仕事だって事は理解できるが、コッチも生活が掛かっているからな。ハイハイと
大学生のお手伝いを引き受ける訳にもいかない。
「俺は社会人だ。学生みたいに遊んでいる訳じゃない。下賎な事だが報酬次第だな」
「当然です。それでこちらが提示できる条件は……
①工事開始までにシビルさんの訓練を10日程度×@30,000円=300,000円
②8月の本工事10日間(予定)に600,000円
③諸経費として100,000円
④交通費別
で、全部で100万円+交通費、でどうでしょう?」
「はい、頑張ります!!!!是非とも宜しくお願いいたします!!!!!!!」
【8月上旬:高槻虎太郎と青葉かすみの場合】
急に藤宮先輩に研究室へ呼び出された。何だろう、大事な話って……
研究室の扉を開ける。中には藤宮先輩ともう一人、凄い美人の女性がいた。
「こんにちは~!……あれっ、コチラの女性は?」
「始めまして。佐伯裕子と申します」
「ああ、あのプロジェクトの助手さんですか!始めまして!!」
ん?それじゃプロジェクトの話か?
藤宮先輩が深刻そうな顔で言った。
「高槻、単刀直入に言うよ。私の変わりにマレーシアに飛んで欲しいんだ」
「だから無理ですって!俺の左手はリハビリ中で……」
白い手袋をした左手を見せる。包帯はもう取れているが、まだ感覚が戻っていない。
「……佐久間教授がアフリカで倒れてね。私はソッチに行かなくちゃいけなくなった」
「き、教授が!?大丈夫なんですか!!?」
「ええ、大事には至らなかったらしいけど……やっぱり心配だからね……行ってくるわ」
「それは……当然ですね」
教授も無理しすぎなんだよな。まぁ体を休める良い機会になるかもしれない……。
「それで高槻。私の後を任せられるような技術屋なんてオマエしか居ないのよ。
何とかお願いしたいんだけど……本当に左手は動かないの?」
「そりゃ動きますけど、作業はまだ無理ですよ……松田さんから頼まれていた
バンディッツの整備だって他人に任せちゃったぐらいなんですから」
「『任せた』!?オマエが?」
ヤバイっ、変な事になりそうな予感……
「え、えぇ。松田さん経由で知り合った技術屋さんがいて、その人にデータを渡して……」
「その人、腕は確かなの?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイぃぃ~~~~~~!
「そ、それは……無論……大切なバンディッツを任せるぐらいだから……」
「その人の名前は!?」
キャぁぁぁぁ~~~~~~っっっ!!!!
俺の携帯をひったくって、青葉さんに電話を掛ける藤宮先輩。
「始めまして。高槻のゼミを任されている藤宮と言います」
電話で事情を説明する藤宮先輩。やがて携帯を佐伯さんへ渡す。
「大雑把な事は話したわよ。細かい話は佐伯さんからお願い」
「解りました」
今度は佐伯さんが色々と説明をする。
「まぁ青葉さんだけ行かせる訳にはいかないからね。高槻も同行してあげてよ」
「彼女、了解したんですか!?」
「それは佐伯さん次第ね」
佐伯さんが電話の途中でコッチに話しかけてきた。
「大筋で了解してくれたんですけど……重大な問題があります」
「いくら何でも急ですからね、やっぱり無理ですよ……それでどんな問題なんです?」
「水着、何色にするかだって」
そんなん知るかぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!
【2日後:橘明人の場合】
待ち合わせの場所は渋谷駅の近くの喫茶店だった。徳田君はまだ来ていない。
「明人さん、この依頼を受けるんですか?」
テーブルの上では神姫素体のノアが不安そうにしている。
「危険な仕事らしいけど、とりあえず話だけは聞いてみるさ」
電話が掛かって来た時は驚いた。まさか徳田グループの御曹司から仕事の依頼が来るとは。
彼の事は覚えている。3年ぐらい前に何度かファーストリーグで戦った事がある。
「ノア、パートナーの桜花の事は覚えているか?」
「……ええ。小細工の全く無い、正統派の剣士でしたね」
ノアと同じタイプ。刃に魂を込めて振るう闘士。
共感と言う訳ではないが、困っているなら助けたいと思ったのも事実だ。
それから30分後。約束の時間より10分早く徳田君が来た。
「お待たせして申し訳ありませんでした。橘さん、電話では失礼しました」
徳田君がカバンを開けると、中からサンタ型の神姫が顔を出した。
「お久しぶりです。パートナーの桜花です」
「あれっ?桜花って侍型じゃなかったっけ?」
「ちょっと大きな事故に巻き込まれましてね。修理の過程でサンタ型になったんです」
「なるほど、それが引退の理由でもあったんだね?」
「……ええ、そんな所です」
暫くは4人で昔話に花を咲かせた。バトルの方針も似ているし、話が弾む。
「それで、本題ですけど……」
徳田君が話を進めた。最初に今回のプロジェクトの説明を受ける。
「随分と大掛かりなプロジェクトなんだね」
「ええ。それで……絶対に妨害が入ると思うんです。これは経験則ですけど、新しい技術で
新規参入しようとすると、既存の企業から徹底的な圧力があるものですから」
「確かに。自分達の将来に関わる事だからね」
「……このプロジェクトに俺の親友が急に参加することになったんです。本当なら俺が直接
ガードしたいんですけど、徳田グループは神姫産業に参入しないって公言してるので…」
「……そういう事か」
意外だな。企業買収で巨大化した企業の御曹司にしては感情的に動いている。
いや、それだけその親友が大切だって事か。
「解った。細かい話は置いといて、この依頼は受けるよ。いいよな?ノア」
「ええ。お二人とも安心して下さい。陰ながらガードさせてもらいます!」
「ありがとうございます!この事は発案者と助手の二人には話しておきます。
それ以外には内密に……無論、虎太郎本人にも」
「了解だ!」
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