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戦うことを忘れた武装神姫-40 - (2008/08/29 (金) 00:26:20) の最新版との変更点
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**戦うことを忘れた武装神姫 その40
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とある土曜、夕刻のムサコ・・・。
両手に新作の神姫用バイクのパッケージを抱えた久遠の胸ポケットに仲良く収まる、遊び終えておねむモードのリゼ・エルガ。
彼らが、夜の模擬戦に向けての準備でにぎわう貸し作業台のそばを通ったとき。
びくっ
突然、エルガが震えた。久遠も明らかに感じられるほどの震えだった。
隣でうとうとしていたリゼは、驚きのあまり胸ポケットの中で姿勢を崩してしまい、じたばたともがいている。
「む。 エルガ・・・どうした? ・・・リゼ落ち着け、くすぐったいから。」
両手の荷を床に置き、久遠は手のひらにふたりを乗せた。
今まで見たこともないような、恐怖におののく顔つきで震え続けるエルガ。
傍らで、やれやれと言わんばかりに、頭を振りつつ顔を上げたリゼの視界に、「それ」はすぐさま飛び込んできた。
自らの背に走る寒気に抵抗し平静を装うリゼ。
-あれは・・・ エルガには・・・いや、エルガだからこそ耐えられない・・・!!
・・・まだ震えるエルガをぎゅっと抱きしめ、エルガだけに聞こえるようにささやいた。
「いいか、あの眼のことは忘れるんだ。ヌシさんにはあたしから伝えるから。大丈夫だよ、あたしたちが、ヌシさんがいつでも居るから。」
リゼの腕の中で、エルガは小さく頷いた。
「んー?」
何が起きているのか今一つ要領をえない久遠と目があったリゼは、エルガを抱きしめたまま、
「怖い夢を見たんだってさ。ささ、もう大丈夫。 早く帰ってバイクで遊ぼうよー♪」
と言った。
「そっか・・・それじゃ急いで帰ろうか。今日はとっことん遊んだからねぇ。」
エルガをだっこしたリゼを、ちょっと引っかかりつつも胸ポケットに納め、両の手に荷を抱えて歩き出す久遠。
「ところでヌシさん、さっき買ったオプションのオフライトせっとだけどさぁ・・・」
久遠に話題を振りつつも・・・リゼは気づかれぬよう、だがしっかりとみつめていた。
すぐ脇の作業台の資材の合間に見え隠れする、獲物に狙いを定めた猛禽類のような、鋭くも残酷な光をたたえた小さな瞳を・・・。
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**戦うことを忘れた武装神姫 その40
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時間はそろそろ18時を廻ろうとする頃。
紫色の初秋の夕暮れを背景に、色とりどりの灯りで飾られ浮かび上がる街。
行き交う人々も、クルマも、すべてが迫る夕闇の街に溶け込み、今日もまたあたりまえの景色を作り出していた。
そんな景色を切り抜く大きなキャンバスのようなショーウインドゥに・・・黒いバイクが風の如く映り込んだ。
今ではすっかり旧式となり、見ることも少なくなった久遠のバイク。
独特のメカノイズに振り返る人はいるものの、やはり都心とあってかさして珍しがって足を止める人もいない。
きれいに整備さた久遠のバイクは、シュラウドにも街の表情を映しこみながら、混みあう国道を軽やかに駆け抜けてゆく。
今宵の久遠は出張帰りであろうか・・・。 ジャケットの胸ポケットからは、マオチャオのエルガがぴょこんと顔を出し、夜風に緑色の髪をなびかせ、大きな翠色の瞳は流れ行く街の光を湛えていつも以上に輝いていた。
ターミナル駅そばの、大きな交差点の信号につかまったときだった。 まるで潮の流れのようにスクランブル交差点を通り過ぎる人間、ニンゲン。 身体を乗り出し、じーっと眺めていたエルガが、
「にゃーさん、おさかなー。」
と、ぼそり久遠に言った。 おねだりする時ともまた違った口調のエルガに、何事かと考える久遠。 どこかに焼き魚の屋台でもあるのか? いや、そんなものはない。 だいたい魚と言っても、この近辺にあるのは海鮮居酒屋くらい・・・。
「んー、おなかすいたか?」
久遠の問いかけに首を横に振るエルガ。
「ちがうの。 にゃーさんが、おさかな。」
何のことやらさっぱりの久遠に、エルガはなんとも楽しそうな笑みと共に続けた。
「バイクに乗って、街の中を駆けてくにゃーさんがおさかな。 にゃーさんはね、ひかりのうみのなかをおよぐおさかななんだよ!」
・・・あぁ、なるほど・・・。
歩行者用の信号点滅を始め、これから進もうとする道が開けつつあるとき、久遠はエルガの言わんとしていることを理解した。
「光の海を泳ぐお魚、と・・・。」
久遠は呟きながらクラッチを握り、ギアを入れる。 その振動はエルガにも伝わり、半身を乗り出していたエルガは再びポケットに身体を深く納めた。
「にゃーさんも、ひとつの光になって、海を作って、海を泳ぐの。 このおっきな街からみたら、にゃーさんはちっちゃな光のひとつだけど、にゃーにとっては・・・みゅぅ・・・その、あのね・・・街よりもおっきな光なの!」
そういうと、顔を赤らめてぎゅっとジャケットに顔を埋めるエルガ。 前を見る久遠はエルガの動きを知ってか知らずか、使い込まれたグローブをはめたままの右手でちょんとエルガのアタマを突付いた。
「それじゃ・・・珊瑚の脇での休憩はおしまい。 ぼちぼち大海原へと泳ぎだそうか。」
信号が変わり、前方には広い道路が・・・いや、海の回廊がひらけた。
「いくぞっ!」
「うにぁー!」
エルガの声にあわせるかのごとく久遠はアクセルをひねり、光があふれる大海原へと再び飛び込んでいった。
透きとおる眼差しで、街を見つめる神姫がいる。
そう、ここにいるのは、戦うことを忘れた武装神姫・・・。
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