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引きこもりと神姫:6-2 - (2012/08/02 (木) 12:03:49) の最新版との変更点
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次第に開けていく視界、その瞬間にかける風と、水が高いところから落ちる音。ステージ『渓流』だ。木々の間に流れる川には少し大きめの岩が露出し、木の幹が横倒しになってバリケードのようになっている場所もある。
(シリア、どう?)
(こっちは問題ないよ)
武装セットを出してもらいながら、相手のデータを確認した。
戦乙女型、アルトアイネス。かなり大きな鎧のようなアーマーを着けている。武器は小剣に大剣、さらにそれを柄の部分で連結した双剣の3種。ウェポンプールには武器はない。
(そもそも遠距離戦は想定していない。近距離戦型か)
(とりあえず、ボレアスとゼピュロス出しておくね)
二爪とランチャーが姿を現す。遠距離戦を想定していないなら、何かしらの対策があるとは思うが、やってみる価値はある。
さらにデータを読み進めていくと、相手がリアライドであることがわかった。
神姫のライドには2種類の型がある。私のような『ノーマルライド』。そして、相手のような『リアライド』だ。
前者は体をマスターが動かし、火器管制やバーニアなどを神姫に担当してもらう。変わって後者は、その逆。体は神姫が動かし、その他をマスターにやってもらうのだ。
つまり、ライドシステムの出来る前の神姫とマスターの関係を崩さずより親密にしたのがリアライドと言うわけだ。
ま、それはそれとして。
(シンリーさん、さっきの勝負でもあんな感じだったのかな?)
(だったら、余計に油断出来ない)
あの状態で相手を捌ききったのだろう。なおさら油断など出来るはずがなかった。
(最初から、手加減する気なんてないけどね)
(前から思ってたけど、樹羽ってバトルになると性格変わるよね)
(……そう?)
中空に現れるバトル開始を告げるスクリーン。
『Ready……GO!』
バトルが始まり、スクリーンが消える。私はバイザーを下ろした。カメラを通して見る世界には残りの時間と残存HPが示してある。
(飛ぶよ、シリア)
(任せて)
短い意志疎通。それだけで形となる。広がる双翼。後は、大地を軽く蹴るだけ。
(行くよ)
ふわりと浮かび上がる。この感覚にもだいぶ慣れた。
ある程度飛んだ辺りで相手を視認。それでも、ボレアスの射程には十分入っている。
私は銃口を相手に向け、トリガーを引いた。上下2本の銃口から出た光の帯は、容赦なく相手に迫る。が、それは相手に当たることはなかった。当たる直前で相手の副腕が動き、その腕についた盾で防いだのだ。
いや、これだけなら別に驚きはしない。驚いたのは、相手が一切こちらを見ていないことだ。
(あの状態で、防いだ? なるほど、とことん近距離戦型ってことか)
もはや射撃など見なくてもガード出来るというパフォーマンスなのだろう。なら乗ってみようじゃないか。
(樹羽、やっぱり性格変わってるよ)
(……そう?)
どうにも熱くなりすぎてしまうらしい。とりあえず様子見するのが吉だ。
私は高度をあげて、しばらく相手の出方を見た。
東雲榊は冷汗をかいていた。リアライドの形式をとっている彼は、副腕の操作もやっている。つまり、先程のボレアスの一撃を防いだのは彼なのだ。
(シンリー、せめて相手は見てくれよ)
彼の目は、神姫と共有している。よってシンリーの向いている方向にしか向けないのだ。
先程のボレアスを防げたのは、相手と自分の大体の距離に、相手の武器の弾速、あと勘だ。
(マスター……めんどくさい)
(あのな……動いてないんだから楽だろ。それとも動くか?)
(それもめんどくさい)
(おいおい……)
基本的にマスターに従順である彼女たちだが、こういったこともまれに起こる。
(せめて相手は見てくれ、出来れば多少は動いてくれると助かる)
(嫌だ、めんどい)
こうなっては仕方がない。どんな計器より、やはり頼れるのは自分の目だ。だがまあ、今は計器に頼らざるを得ない。
(シンリー、一応『ロッターシュテルン』は出しておくぞ)
シンリーの手に小剣を展開する。が、それを掴もうとすらしない。軽い音と共にロッターシュテルンが地面に落ちる。
(それもめんどくさいのか……)
もはやシンリーは答えない。一瞬棄権を考えたが、秋已にあんな大見栄切ってしまった手前、今更棄権するわけにもいかなかった。
(休符だらけの勝負だな、これは……)
榊は黙って大剣『ジークムント』を副腕に展開した。
(やっぱり動いてこない。近付く気すらない?)
小剣と大剣を展開して以来、目立ったアクションは一切ない。やはり神姫の調子が悪いのだろう。
(今がチャンス?)
(かもね、シンリーさんには悪いけど、絶好の的であることは確かだよ)
さっきのもマスターがぎりぎりでフォローが間に合ったという感じであった。
つまり、今相手は計器でしかこちらの様子がわからない筈。
(エウロス2本。何かあるかもしれないから後ろから行こう)
両手に剣を持ち、相手の後方で高度を落とし、地面に水平に飛ぶ。そして、相手の無防備な背中に向かってエウロスを突きだした。
堅い物同士がぶつかり合う鈍い音がする。だが刃は相手に届いていない。
当たる寸前で現れた赤いバリアに阻まれたのだ。これは既存のバリアじゃない。
(ならっ!)
その場に着地し、数発切る。が、やっぱりバリアはビクともしない。
その時、相手がゆらりと動いた。
「鬱陶しいなぁ……もうっ!」
足元にあった小剣の先を踏みつけ、僅かに浮かんだそれを掴むと、すさまじい速度でなぎ払われた。ぎりぎりで離脱する。そのまま距離を取り、岩陰に隠れる。
(つ、追加バリア?)
シリアの声色がこわばる。確かに追加バリアなんて聞いてない。
確か、アルトアイネスの鎧に10ヵ所ある赤いクリアパーツは、小型のコンデンサ――つまり発電気だったはずだ。それを利用し、各所で独自の電力を供給し、高機動が可能になるというもの。それをバリアに使うなんて……。
(なんと言うか、荒いね)
(うん、なんか無茶苦茶だよ)
今だって、相手は追って来る気配はない。あくまで迎え打つ気だ。今度はシンリーも少しは動いてくるだろうが、やはり問題はあのバリアだ。耐久力が設定されているのか、はたまたある一定以下の攻撃は無効化してくるドリームオーラなのか。
(どっちにしても、大火力をぶつけるしかない)
(でも、ボレアスのフルチャージでもあれを突破できるかどうか……)
前回のイーアネイラのように、相手がバリアを張れない状況であれば、ボレアスのフルチャージショットも致命傷なのだが、今回はさらに追加バリアがある。突破は難しいだろう。
(なら、アレが使えるかも)
(アレ……?)
(テンペスト)
三種の武器にリアテイルパーツを組み合わせた大型ランチャー。それが『テンペスト』だ。その威力は――まだ試したことはないが、柏木さん曰く「まさに戦隊モノのとどめの一撃」クラスらしい。とりあえず一撃でボレアスのフルチャージを軽く越える攻撃力は出るらしい。あくまでらしい。
(でも、アレでもチャージしないとキツイんじゃ……)
(だから、軽くバリアを削いでから)
両手の剣を持ち上げて見せる。耐久値の上限が決まっているなら、これをする価値があるだろう。
(じゃあ、さっそく……)
(ちょっと待って)
ブースターを起動させようとするシリアを止める。
(ちょっと、すごいこと考えた)
----
another view
東雲榊
----
(頼む、相手を見てくれ。じゃないとジリ貧になってこっちが負ける)
(……わかった)
なんとかシンリーを説得し、視界を確保した。ようやくこれで戦える。
その時、岩陰から相手がタイミングよく飛び出してきた。大丈夫だ、迎撃出来る。
近付いてきた頃合いを見計らって、大剣を振る。が、ブースターで細かく回避される。
(シンリー!)
(むっ……)
シンリーは手にした小剣を振る。これも当たらない。相手の剣が迫る。それをバリアでガードする。
(そこだっ!)
相手の動きが止まったところへ大剣を振る。しかしそれも予想していたのか、すぐに離れられ剣は空を斬った。そこからさらに右へ左へ細かく動く相手。
(くそっ、ちょこまかと……)
大剣を振ろうにも、相手の動きが速すぎて捉えきれない。シンリーも相手を見るだけで精一杯なようだ。相手が視界から消える。バリアを全面に張るのと、衝撃が来るのがほぼ同時だった。すぐに視界が動くが、すでに相手の姿はない。
衝撃が右から、あるいは左、上から来る。レーダーを見る、視界が役に立たない以上、計器に頼るまでだ。
だが、俺は困惑した。計器がぶっ壊れたのかと思った。
(な、なんだよこりゃ……)
レーダー上で、自分の周りを物凄い速さで飛び回っている影が一つ。相手のエウクランテだ。だが、この速度は尋常じゃない。
周りからくる衝撃はさらに激しさを増し、全方向から毎秒7発単位で攻撃されている。
(レールアクションか? 違う、ならレーダーに最初から映らないはずだ……)
次の瞬間、強い衝撃が上から来た。それを最後に、相手は離れていく。だが、同時に強いエネルギー反応を後ろから感知した。
(後ろだ、シンリー!)
視界が後ろに回る。その瞬間、視界が真っ白に染まった――。
----
another view end
----
速度を落とさず相手に向かっていく。相手が構える。大丈夫、かわせる。相手の大剣が振られる。だが、私はかわさない。かわそうとしない。やることは、プースターを起動させるだけ。
大剣が迫る。その瞬間にブースターを起動する。すると、体が上に浮かび上がる。
(次、右!)
(っ!)
シンリーの手が動く。それを右に避ける。そして、私はエウロスを突き出す。が、やはりバリアに阻まれた。
それをみこしてか、すぐに大剣が動く。かまわない、私はブースターを入れるだけだ。
体が後ろに引っ張られる。
(次に行くよ!)
今度はブースターを細かく入れる。体が左右に揺れる。続けて長く、短く入れ、相手の後ろに回る。そこからエウロスで再び突く。またブースターを入れ、左、また右、時に上に移動しながら、相手のバリアを削っていく。
私はさらにブースターを入れる。視界が目まぐるしく動くが、不思議と相手は見失わなかった。
そして、若干高く上がりそこから一気に振り下ろす。そしてブースターを一杯に入れて相手から離れる。
(いくよ樹羽!!)
一度リアテイルパーツとエウロスをしまう。そして、ボレアスを中心にエウロス、ゼピュロス、リアテイルパーツを展開する。
(テンペスト、起動確認! システムオールグリーン!)
大地を踏みしめ、相手に銃口を向ける。
「「発射っ!!!!」」
銃口から解放されたエネルギーの奔流は、相手の体をいとも容易く飲み込んだ。爆煙すらあがらない。
テンペストを撃ちきると、落とす勢いで置いた。以外と重い。確かにこれは5人で支えて撃つ物だ。
相手を見る。相手はまだ立っていた。副腕が神姫の体を覆うように守っている。あれでノーダメージな訳がないけど。
(守り切られたの……?)
(でも、バリアは消えた)
相手を覆っていたエネルギー反応が消えた。あの赤いバリアはもう使えないだろう。
(決めに行く、エウロスを……)
(待って、相手の様子がおかしい……)
見ると、相手の肩が僅かに震えていた。そして、
「あは……はははは」
笑った。
「あははははははははははははははははっ!!!」
奇跡的にやられていなかった。ただし、バリアはもう使えない。
(シンリー、お前大丈夫か?)
腕と肩のコンデンサのエネルギーを全部バリアに使ったから、ダメージは最小限に抑えられた。
だがシンリーは予想外にも笑った。ダメージで妙な事になったんじゃないだろうな?
(ごめんごめんマスター、ボクは大丈夫)
いつものシンリーの声だ。明るくて、ハツラツとした声。
(ねぇ聞いてマスター。ボク、ついに新曲のイメージを思いついたんだ。一見無理だって思ったことでも、地道に努力すれば乗り越えられるって言うの! 王道だけど、それ言ったらみんな王道だもんね!)
一気に巻くし立てる。ああ、いつものうるさくてやかましいシンリーだ。
(ったく、遅いっての。じゃ、ちゃんと動いてくれよ)
(うん、任せてよ!)
シンリーはやる気になっている。これなら、行けるだろう。
相手はかなりの機動力がある。なら、対抗するまでだ。
(『ノインテーター・フリューゲルモード』起動!)
鎧であるノインテーターは、別の姿を持っている。それを解放した。
(さぁ、本当の勝負はここからだ……!)
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次第に開けていく視界、その瞬間にかける風と、水が高いところから落ちる音。ステージ『渓流』だ。木々の間に流れる川には少し大きめの岩が露出し、木の幹が横倒しになってバリケードのようになっている場所もある。
(シリア、どう?)
(こっちは問題ないよ)
武装セットを出してもらいながら、相手のデータを確認した。
戦乙女型、アルトアイネス。かなり大きな鎧のようなアーマーを着けている。武器は小剣に大剣、さらにそれを柄の部分で連結した双剣の3種。ウェポンプールには武器はない。
(そもそも遠距離戦は想定していない。近距離戦型か)
(とりあえず、ボレアスとゼピュロス出しておくね)
二爪とランチャーが姿を現す。遠距離戦を想定していないなら、何かしらの対策があるとは思うが、やってみる価値はある。
さらにデータを読み進めていくと、相手がリアライドであることがわかった。
神姫のライドには2種類の型がある。私のような『ノーマルライド』。そして、相手のような『リアライド』だ。
前者は体をマスターが動かし、火器管制やバーニアなどを神姫に担当してもらう。変わって後者は、その逆。体は神姫が動かし、その他をマスターにやってもらうのだ。
つまり、ライドシステムの出来る前の神姫とマスターの関係を崩さずより親密にしたのがリアライドと言うわけだ。
ま、それはそれとして。
(シンリーさん、さっきの勝負でもあんな感じだったのかな?)
(だったら、余計に油断出来ない)
あの状態で相手を捌ききったのだろう。なおさら油断など出来るはずがなかった。
(最初から、手加減する気なんてないけどね)
(前から思ってたけど、樹羽ってバトルになると性格変わるよね)
(……そう?)
中空に現れるバトル開始を告げるスクリーン。
『Ready……GO!』
バトルが始まり、スクリーンが消える。私はバイザーを下ろした。カメラを通して見る世界には残りの時間と残存HPが示してある。
(飛ぶよ、シリア)
(任せて)
短い意志疎通。それだけで形となる。広がる双翼。後は、大地を軽く蹴るだけ。
(行くよ)
ふわりと浮かび上がる。この感覚にもだいぶ慣れた。
ある程度飛んだ辺りで相手を視認。それでも、ボレアスの射程には十分入っている。
私は銃口を相手に向け、トリガーを引いた。上下2本の銃口から出た光の帯は、容赦なく相手に迫る。が、それは相手に当たることはなかった。当たる直前で相手の副腕が動き、その腕についた盾で防いだのだ。
いや、これだけなら別に驚きはしない。驚いたのは、相手が一切こちらを見ていないことだ。
(あの状態で、防いだ? なるほど、とことん近距離戦型ってことか)
もはや射撃など見なくてもガード出来るというパフォーマンスなのだろう。なら乗ってみようじゃないか。
(樹羽、やっぱり性格変わってるよ)
(……そう?)
どうにも熱くなりすぎてしまうらしい。とりあえず様子見するのが吉だ。
私は高度をあげて、しばらく相手の出方を見た。
----
東雲榊は冷汗をかいていた。リアライドの形式をとっている彼は、副腕の操作もやっている。つまり、先程のボレアスの一撃を防いだのは彼なのだ。
(シンリー、せめて相手は見てくれよ)
彼の目は、神姫と共有している。よってシンリーの向いている方向にしか向けないのだ。
先程のボレアスを防げたのは、相手と自分の大体の距離に、相手の武器の弾速、あと勘だ。
(マスター……めんどくさい)
(あのな……動いてないんだから楽だろ。それとも動くか?)
(それもめんどくさい)
(おいおい……)
基本的にマスターに従順である彼女たちだが、こういったこともまれに起こる。
(せめて相手は見てくれ、出来れば多少は動いてくれると助かる)
(嫌だ、めんどい)
こうなっては仕方がない。どんな計器より、やはり頼れるのは自分の目だ。だがまあ、今は計器に頼らざるを得ない。
(シンリー、一応『ロッターシュテルン』は出しておくぞ)
シンリーの手に小剣を展開する。が、それを掴もうとすらしない。軽い音と共にロッターシュテルンが地面に落ちる。
(それもめんどくさいのか……)
もはやシンリーは答えない。一瞬棄権を考えたが、秋已にあんな大見栄切ってしまった手前、今更棄権するわけにもいかなかった。
(休符だらけの勝負だな、これは……)
榊は黙って大剣『ジークムント』を副腕に展開した。
----
(やっぱり動いてこない。近付く気すらない?)
小剣と大剣を展開して以来、目立ったアクションは一切ない。やはり神姫の調子が悪いのだろう。
(今がチャンス?)
(かもね、シンリーさんには悪いけど、絶好の的であることは確かだよ)
さっきのもマスターがぎりぎりでフォローが間に合ったという感じであった。
つまり、今相手は計器でしかこちらの様子がわからない筈。
(エウロス2本。何かあるかもしれないから後ろから行こう)
両手に剣を持ち、相手の後方で高度を落とし、地面に水平に飛ぶ。そして、相手の無防備な背中に向かってエウロスを突きだした。
堅い物同士がぶつかり合う鈍い音がする。だが刃は相手に届いていない。
当たる寸前で現れた赤いバリアに阻まれたのだ。これは既存のバリアじゃない。
(ならっ!)
その場に着地し、数発切る。が、やっぱりバリアはビクともしない。
その時、相手がゆらりと動いた。
「鬱陶しいなぁ……もうっ!」
足元にあった小剣の先を踏みつけ、僅かに浮かんだそれを掴むと、すさまじい速度でなぎ払われた。ぎりぎりで離脱する。そのまま距離を取り、岩陰に隠れる。
(つ、追加バリア?)
シリアの声色がこわばる。確かに追加バリアなんて聞いてない。
確か、アルトアイネスの鎧に10ヵ所ある赤いクリアパーツは、小型のコンデンサ――つまり発電気だったはずだ。それを利用し、各所で独自の電力を供給し、高機動が可能になるというもの。それをバリアに使うなんて……。
(なんと言うか、荒いね)
(うん、なんか無茶苦茶だよ)
今だって、相手は追って来る気配はない。あくまで迎え打つ気だ。今度はシンリーも少しは動いてくるだろうが、やはり問題はあのバリアだ。耐久力が設定されているのか、はたまたある一定以下の攻撃は無効化してくるドリームオーラなのか。
(どっちにしても、大火力をぶつけるしかない)
(でも、ボレアスのフルチャージでもあれを突破できるかどうか……)
前回のイーアネイラのように、相手がバリアを張れない状況であれば、ボレアスのフルチャージショットも致命傷なのだが、今回はさらに追加バリアがある。突破は難しいだろう。
(なら、アレが使えるかも)
(アレ……?)
(テンペスト)
三種の武器にリアテイルパーツを組み合わせた大型ランチャー。それが『テンペスト』だ。その威力は――まだ試したことはないが、柏木さん曰く「まさに戦隊モノのとどめの一撃」クラスらしい。とりあえず一撃でボレアスのフルチャージを軽く越える攻撃力は出るらしい。あくまでらしい。
(でも、アレでもチャージしないとキツイんじゃ……)
(だから、軽くバリアを削いでから)
両手の剣を持ち上げて見せる。耐久値の上限が決まっているなら、これをする価値があるだろう。
(じゃあ、さっそく……)
(ちょっと待って)
ブースターを起動させようとするシリアを止める。
(ちょっと、すごいこと考えた)
----
(頼む、相手を見てくれ。じゃないとジリ貧になってこっちが負ける)
(……わかった)
なんとかシンリーを説得し、視界を確保した。ようやくこれで戦える。
その時、岩陰から相手がタイミングよく飛び出してきた。大丈夫だ、迎撃出来る。
近付いてきた頃合いを見計らって、大剣を振る。が、ブースターで細かく回避される。
(シンリー!)
(むっ……)
シンリーは手にした小剣を振る。これも当たらない。相手の剣が迫る。それをバリアでガードする。
(そこだっ!)
相手の動きが止まったところへ大剣を振る。しかしそれも予想していたのか、すぐに離れられ剣は空を斬った。そこからさらに右へ左へ細かく動く相手。
(くそっ、ちょこまかと……)
大剣を振ろうにも、相手の動きが速すぎて捉えきれない。シンリーも相手を見るだけで精一杯なようだ。相手が視界から消える。バリアを全面に張るのと、衝撃が来るのがほぼ同時だった。すぐに視界が動くが、すでに相手の姿はない。
衝撃が右から、あるいは左、上から来る。レーダーを見る、視界が役に立たない以上、計器に頼るまでだ。
だが、俺は困惑した。計器がぶっ壊れたのかと思った。
(な、なんだよこりゃ……)
レーダー上で、自分の周りを物凄い速さで飛び回っている影が一つ。相手のエウクランテだ。だが、この速度は尋常じゃない。
周りからくる衝撃はさらに激しさを増し、全方向から毎秒7発単位で攻撃されている。
(レールアクションか? 違う、ならレーダーに最初から映らないはずだ……)
次の瞬間、強い衝撃が上から来た。それを最後に、相手は離れていく。だが、同時に強いエネルギー反応を後ろから感知した。
(後ろだ、シンリー!)
視界が後ろに回る。その瞬間、視界が真っ白に染まった――。
----
速度を落とさず相手に向かっていく。相手が構える。大丈夫、かわせる。相手の大剣が振られる。だが、私はかわさない。かわそうとしない。やることは、プースターを起動させるだけ。
大剣が迫る。その瞬間にブースターを起動する。すると、体が上に浮かび上がる。
(次、右!)
(っ!)
シンリーの手が動く。それを右に避ける。そして、私はエウロスを突き出す。が、やはりバリアに阻まれた。
それをみこしてか、すぐに大剣が動く。かまわない、私はブースターを入れるだけだ。
体が後ろに引っ張られる。
(次に行くよ!)
今度はブースターを細かく入れる。体が左右に揺れる。続けて長く、短く入れ、相手の後ろに回る。そこからエウロスで再び突く。またブースターを入れ、左、また右、時に上に移動しながら、相手のバリアを削っていく。
私はさらにブースターを入れる。視界が目まぐるしく動くが、不思議と相手は見失わなかった。
そして、若干高く上がりそこから一気に振り下ろす。そしてブースターを一杯に入れて相手から離れる。
(いくよ樹羽!!)
一度リアテイルパーツとエウロスをしまう。そして、ボレアスを中心にエウロス、ゼピュロス、リアテイルパーツを展開する。
(テンペスト、起動確認! システムオールグリーン!)
大地を踏みしめ、相手に銃口を向ける。
「「発射っ!!!!」」
銃口から解放されたエネルギーの奔流は、相手の体をいとも容易く飲み込んだ。爆煙すらあがらない。
テンペストを撃ちきると、落とす勢いで置いた。以外と重い。確かにこれは5人で支えて撃つ物だ。
相手を見る。相手はまだ立っていた。副腕が神姫の体を覆うように守っている。あれでノーダメージな訳がないけど。
(守り切られたの……?)
(でも、バリアは消えた)
相手を覆っていたエネルギー反応が消えた。あの赤いバリアはもう使えないだろう。
(決めに行く、エウロスを……)
(待って、相手の様子がおかしい……)
見ると、相手の肩が僅かに震えていた。そして、
「あは……はははは」
笑った。
「あははははははははははははははははっ!!!」
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奇跡的にやられていなかった。ただし、バリアはもう使えない。
(シンリー、お前大丈夫か?)
腕と肩のコンデンサのエネルギーを全部バリアに使ったから、ダメージは最小限に抑えられた。
だがシンリーは予想外にも笑った。ダメージで妙な事になったんじゃないだろうな?
(ごめんごめんマスター、ボクは大丈夫)
いつものシンリーの声だ。明るくて、ハツラツとした声。
(ねぇ聞いてマスター。ボク、ついに新曲のイメージを思いついたんだ。一見無理だって思ったことでも、地道に努力すれば乗り越えられるって言うの! 王道だけど、それ言ったらみんな王道だもんね!)
一気に巻くし立てる。ああ、いつものうるさくてやかましいシンリーだ。
(ったく、遅いっての。じゃ、ちゃんと動いてくれよ)
(うん、任せてよ!)
シンリーはやる気になっている。これなら、行けるだろう。
相手はかなりの機動力がある。なら、対抗するまでだ。
(『ノインテーター・フリューゲルモード』起動!)
鎧であるノインテーターは、別の姿を持っている。それを解放した。
(さぁ、本当の勝負はここからだ……!)
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