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**戦うことを忘れた武装神姫 その25
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H市の中心駅から程近い路地裏のとあるショットバー。
久遠は猫子のエルガを傍らに座らせ、ちびちびと酒を呑んでいた。
カウンターと2組のテーブル席しかないこの店の今宵の客は・・・久遠たちだけ。マスターのCDコレクションのジャズが静かな店内を支配する。
エルガはこの店自慢の鳥のから揚げをおいしそうに食している。
「・・・今宵はエルガさんと二人きりですか。」
顔なじみとなっているマスターが聞いてきた。 今日はたまたま、3人ともそれぞれにメンテナンスや泊りの予定が入り、久遠のところにはエルガしかいなかった。
「そうなの! 今夜はにゃーさんと二人っきりなの!」
「おやおや、ずいぶんとうれしそうですね。」
「だってだって、にゃーさんの愛情を独り占めできるんだよ?!」
「やめれって、こっ恥ずかしい。」
「ははは、久遠さんも大変ですね、こんなにもかわいいお嬢さん方に囲まれては。」
グラスを磨きつつ、相変わらずのマスターの調子にうっかり流されてしまいそうになるも、久遠は本来の目的を済ませるべく、マスターに切り出した。
「ところでマスター。『ゼリス』という神姫の事件に関して教えてもらえませんか。」
「・・・。」
マスターのグラスを拭く手が止まった。
「どこでその話を知ったんだい?」
「・・・実はですね。ウチのリゼに、いわゆるクラリネットタイプの声帯が搭載されていまして。」
先だっての一件の際に、通常の神姫では考えられないほどの声量を放った事、そして普段からのあまりに美しい歌声。気にしてはいたのだが、今回のCTaの全般メンテナンス時に調査をしてもらい、その事実が発覚した。
「リゼはストラーフでも初期のロットですから、部品混入による偶然のものだとは思うんですけどね。それで、クラリネットタイプとはどんなものかを調べていたら、『ゼリス』という名が挙がってきたんです。」
「にゃにゃ?」
そういいながら、久遠はエルガの頭をそっとなでた。
「にゃーさん、ゼリスさんのこと?」
「そう。神姫の歴史に詳しいマスターなら何か知っているかと思ってね。」
「マスターさん、にゃーからもお願いするの。 にゃーたちの・・・えっと、にゃーたちの、ママのこと・・・。」
「・・・そうか。」
ため息混じりに呟くように言ったマスターはグラスを棚に収めると、
「君は、あの話をどう思うかな。」
と久遠にたずねた。
「どこもかしこも『悲哀のヒロイン』という扱いですが、自分にはそうは思えないんです。 こうしてエルガたちを連れた日常を過ごしていると、他人事とは思えない気がしてきまして。。。」
その先の言葉が出ない久遠。 するとマスターは外の看板のスイッチを落とし、ドアにClosedのプレートを下げて戻ってきた。
「話せば長くなるからな。」
そういうと、棚の奥から、おそらく30年以上は経っているであろうスコッチを持ち出し久遠とエルガの前にグラスを並べた。
「まずは・・・昔話から話そうか。」
・ ・ ・
当時、大学院を卒業したての若手技術者だった彼 -今のバーのマスター- は、高倍率を見事(運良く?)勝ち抜き、ある研究所へ配属となった。
彼の受け持った仕事、それは神姫のMMS本体と装備のリンクに関する技術研究、すなわち武装神姫の最初期の研究だった。
・・・神姫の開発。 未知ともいえる分野の開拓。
充実した日々の中、彼は一人の女性と出会った。彼女は、神姫の持つ「心」について、いずれ科学的に解明してみたい・・・と熱く語った。 彼もまた自らの研究を通し神姫の「心」については少なからず関心を抱いていたこともあり、以来時折情報のやりとりを行っていた。
しかし。しばらくの後、ぱったりと連絡はなくなった。さらに数年が経ったころ、あの事件が大きく報じられることになった。
「それが、君たちも知っている『ゼリス』の事件だったんだ。」
久遠の前に置かれたグラスで、氷が小さくカランと鳴った。
「実を言うと、ゼリスの一件については僕も詳しくは知らないんだ。というより、知る必要がなくなったというべきかな。」
そういうと、マスターは手にしたグラスをあおり、話を続けた。
「『心を解明したい』と言っていた人物こそが、今の峡国神姫研究所所長、その人なんだ。 そう、ゼリスのマスターだった方だ。 あの事件には僕も相当ショックを受けてね。げっそり沈んでいたら、ふらっと手紙が舞い込んできたんだ。たった便箋一枚の手紙だったけれど僕には大きな意味をもった手紙だったよ。」
- 神姫には、神姫としての、
ツクリモノではない、確かな「心」がある -
そんな「彼女」たちに対して自らが行っている研究は、果たして意味を持つものなのであろうか・・・。 心がある以上、神姫と装備を100%リンクさせることは不可能・・・ いや、それ以前に神姫の心を踏みにじるような研究をしてきたのではないか?
「・・・そんなわけでね。僕も武装神姫の計画が軌道に乗るころには、あの研究所を辞して、今の職に就く道へと進んだんだ。 ま、この後の話は本当の昔話に過ぎないから割愛するけどね。 みんなにいろいろ言われるけど、神姫をいまだに持たない理由もそこなんだよ。」
自らの手元のグラスにスコッチを注ぎ一口あおり、マスターは久遠とエルガを見つめた。 かかっていたCDが終わり、しばしの静寂- 。
・・・>[[続く・・・>戦うことを忘れた武装神姫-26]]>・・・
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**戦うことを忘れた武装神姫 その25
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H市の中心駅から程近い路地裏のとあるショットバー。
久遠は猫子のエルガを傍らに座らせ、ちびちびと酒を呑んでいた。
カウンターと2組のテーブル席しかないこの店の今宵の客は・・・久遠たちだけ。マスターのCDコレクションのジャズが静かな店内を支配する。
エルガはこの店自慢の鳥のから揚げをおいしそうに食している。
「・・・今宵はエルガさんと二人きりですか。」
顔なじみとなっているマスターが聞いてきた。 今日はたまたま、3人ともそれぞれにメンテナンスや泊りの予定が入り、久遠のところにはエルガしかいなかった。
「そうなの! 今夜はにゃーさんと二人っきりなの!」
「おやおや、ずいぶんとうれしそうですね。」
「だってだって、にゃーさんの愛情を独り占めできるんだよ?!」
「やめれって、こっ恥ずかしい。」
「ははは、久遠さんも大変ですね、こんなにもかわいいお嬢さん方に囲まれては。」
グラスを磨きつつ、相変わらずのマスターの調子にうっかり流されてしまいそうになるも、久遠は本来の目的を済ませるべく、マスターに切り出した。
「ところでマスター。『ゼリス』という神姫の事件に関して教えてもらえませんか。」
「・・・。」
マスターのグラスを拭く手が止まった。
「どこでその話を知ったんだい?」
「・・・実はですね。ウチのリゼに、武装神姫用ではない声帯が搭載されていまして。」
先だっての一件の際に、通常の神姫では考えられないほどの声量を放った事、そして普段からのあまりに美しい歌声。気にしてはいたのだが、今回のCTaの全般メンテナンス時に調査をしてもらい、その事実が発覚した。
「リゼはストラーフでも初期のロットですから、部品混入による偶然のものだとはおもうんですが・・・。それで、その声帯のことを調べているうちに、クラリネットタイプに行き着き、『ゼリス』という名も挙がってきたんです。」
「にゃにゃ?」
そういいながら、久遠はエルガの頭をそっとなでた。
「にゃーさん、ゼリスさんのこと?」
「そう。神姫の歴史に詳しいマスターなら何か知っているかと思ってね。」
「マスターさん、にゃーからもお願いするの。 にゃーたちの・・・えっと、にゃーたちの、ママのこと・・・。」
「・・・そうか。」
ため息混じりに呟くように言ったマスターはグラスを棚に収めると、
「君は、あの話をどう思うかな。」
と久遠にたずねた。
「どこもかしこも『悲哀のヒロイン』という扱いですが、自分にはそうは思えないんです。 こうしてエルガたちを連れた日常を過ごしていると、他人事とは思えない気がしてきまして。。。」
その先の言葉が出ない久遠。 するとマスターは外の看板のスイッチを落とし、ドアにClosedのプレートを下げて戻ってきた。
「話せば長くなるからな。」
そういうと、棚の奥からシンプルなラベルしかないバーボンを持ち出し、久遠とエルガの前にグラスを並べた。
「まずは・・・昔話から話そうか。」
・ ・ ・
当時、大学院を卒業したての若手技術者だった彼 -今のバーのマスター- は、高倍率を見事(運良く?)勝ち抜き、ある研究所へ配属となった。
彼の受け持った仕事、それは神姫のMMS本体と装備のリンクに関する技術研究、すなわち武装神姫の最初期の研究だった。
・・・神姫の開発。 未知ともいえる分野の開拓。
充実した日々の中、彼は一人の女性と出会った。彼女は、神姫の持つ「心」について、いずれ科学的に解明してみたい・・・と熱く語った。 彼もまた自らの研究を通し神姫の「心」については少なからず関心を抱いていたこともあり、以来時折情報のやりとりを行っていた。
しかし。しばらくの後、ぱったりと連絡はなくなった。さらに数年が経ったころ、あの事件が大きく報じられることになった。
「それが、君たちも知っている『ゼリス』の事件だったんだ。」
久遠の前に置かれたグラスで、氷が小さくカランと鳴った。
「実を言うと、ゼリスの一件については僕も詳しくは知らないんだ。というより、知る必要がなくなったというべきかな。」
そういうと、マスターは手にしたグラスをあおり、話を続けた。
「『心を解明したい』と言っていた人物こそが、今の峡国神姫研究所所長、その人なんだ。 そう、ゼリスのマスターだった方だ。 あの事件には僕も相当ショックを受けてね。げっそり沈んでいたら、ふらっと手紙が舞い込んできたんだ。たった便箋一枚の手紙だったけれど僕には大きな意味をもった手紙だったよ。」
- 神姫には、神姫としての、
ツクリモノではない、確かな「心」がある -
そんな「彼女」たちに対して自らが行っている研究は、果たして意味を持つものなのであろうか・・・。 心がある以上、神姫と装備を100%リンクさせることは不可能・・・ いや、それ以前に神姫の心を踏みにじるような研究をしてきたのではないか?
「・・・そんなわけでね。僕も武装神姫の計画が軌道に乗るころには、あの研究所を辞して、今の職に就く道へと進んだんだ。 ま、この後の話は本当の昔話に過ぎないから割愛するけどね。 みんなにいろいろ言われるけど、神姫をいまだに持たない理由もそこなんだよ。」
自らの手元のグラスにバーボンを注ぎ一口あおり、マスターは久遠とエルガを見つめた。 かかっていたCDが終わり、しばしの静寂- 。
・・・>[[続く・・・>戦うことを忘れた武装神姫-26]]>・・・
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