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類は神姫を呼ぶ part9 - (2012/02/23 (木) 01:21:52) のソース
「……そんなことが」 「はぁー、そんな神姫もいるんだねぇ。……私が言えた義理じゃないけどさー」 空いた休憩所で今までのことを話し終えた。 シオンもだいぶ落ち着いてきた。 シオンが来てから、最近なんか人に自分の境遇を話してばっかりだな。 別に嫌ではない。身の回りがガラッと変わったようなそんな感じがするだけ。 「そんなわけで、なんとかバトル恐怖症を治したくてここに来たのだけど」 「結局こうなってしまった……」 「う、うん。ごめんね」 霧静さんたちは迷惑じゃないのだろうか。普通に考えたら、自分でもこんな神姫はおかしいと少し思ってしまうわけで、まともにバトルできなかったし。 「大丈夫、気にしてないよ。銃が使えない神姫だけどアリエって今はちょっと強いんだよ。昔はまともに戦えなかったし。……それでいえば、アリエとシオンちゃんは似ているのかもね」 なんだよーそれはー、とアリエは納得がいかなそうな顔をしている。 それで、あの奇妙な大剣を使っているのか。わざわざ銃に似せた剣もアリエの為を思った武装なのかも。 優しい子だな、霧静さんは。 「とりあえずさー、私のこの『エレメンティア』が件のストラーフが使っていたのに似ていたのが問題だったんだからさ。他にもバトルさせてみてもいいんじゃない? 何回かやれば勝てるかもよー」 アリエが意見を言う。 『エレメンティア』というのはその大剣の名前だろう。 ファンタジー色の強い、物語に出てくるような名称だ。 僕としては少しカッコイイと思えてしまった。 しかし、あの大剣の状態が変わった時、イスカのに似ていたってのもあるのだけど、まだバトルをやらせてもいいのだろうか。 大丈夫なのかな? 僕はシオンを見る。 「……まだ、やれます……」 涙を拭いて、僕の目を見てくる。 ただそれがうまく出せないだけで、根性はやっぱりあるんだなと思った。 ―――― 駄目だった。 何人かとバトルを申し込ませてもらってみたけど、戦えていなかった。 犬型や砲台型、イスカと同じような悪魔型とも戦うことはできた。 でも、戦うことはできても全敗だった。 負ける度に泣いてしまうシオン。慰める僕たち。 シオンが気になっているのか――バトルの度に、僕の傍に霧静さんとアリエもいてくれる。 ここで真剣に付き合ってくれる友達が出来たのは嬉しいけど、肝心なバトルは白星を挙げられなかった。 そううまくはいかないか。簡単にできたら、宮本さんにいた頃に治っているはずなんだから。 「う~ん、このまま、やらせても勝てないだろうね。きっと」 「……ちょっと、アリエ。言い方が……」 たしなめようとする霧静さん。 「だって、事実でしょー。銃撃を当てられてもない、撃てたとしても、見当違いの所に当たってる。打撃も本気で打ち込めてないみたいだし。こりゃまじ重症だねー」 アリエの言う通り、相手と戦わせてみても、シオンはダメージを与える攻撃を一切できてない。 勝たせるにはどうしたらいいのだろうか。 いや、勝つまでも、まともに勝負ができるぐらいにならないと、どうしようもない。 ああでもない、こうでもないと、僕たちが思考錯誤している時だった。 「いやー、遅れてごめんな!!……ありゃ?」 「……えっと、この人は?」 「うるさい、おにいさんだねー」 霧静さんたちは僕に訪ねてくる。 場が読めてない淳平だ。 そういえば、淳平が遅れて来るのをすっかり忘れていた。 「マスターがご迷惑をおかけしました……それで、この方々は」 といつも通り胸ポケットにいるミスズが言う。 「うわー、羨ましいなー。こんな可愛い子と仲良くなっちゃって。このこの」 僕を淳平が肘でつついてくる。 「えっ……あの……」と霧静さんは可愛いと言われて恥ずかしそうに顔を赤らめている。 「……淳平、それ以上何も言わない方がいいよ」 「えー、なんでー?」 ミスズが冷徹な瞳で見ているから。 神姫が人間に攻撃できるようなら、絶対危ないだろうな。いつか、目で殺されるかもしれないけど。 「リミちんになんかしたら、許さへんでー!」 アリエがエセ関西弁で凄む。(なんで関西弁?) 「そんなのじゃないって。さっき友達になった霧静 璃美香さんと神姫のアリエだよ。まあ、淳平が来ないから、霧静さんたちと仲良くなったのは事実だけど」 「え、そうなのか」 淳平が来なかったから、霧静さんと話そうとしたわけだしね。 でも、僕は今はシオンのことで頭がいっぱいだよ。 「あなたがシオンね。初めまして、ミスズです」 「……初めまして……」 ミスズが床に降り立って、泣き止んだシオンに挨拶をする。 そういえばどっちも初対面だよな。僕がシオンとの会話のタネにしたことがあるくらいだし。 その本人に会えたんだ。 なんとなく、仲良くなれる気がしたからな、この二人は。 「はーい、私はアリエだよ。よろしくー」 「アリエね。よろしく」 目の前で武装神姫が三人集まった。 友達が増えていくのはいいことだな。 「あれー、どこかで見たと思ったら、キミってO大女子高の生徒でしょ。前にここでバトルしてたの見てたよー。この神姫とかがすっげぇ強かったな。あ、俺は伊野坂 淳平。この子はアーンヴァル型の神姫でミスズだからね!」 「……えっと」 「ほら、霧静さんが困ってるでしょ。やめなって」 少し興奮している淳平が見てられない。 可愛い子が好みらしいから、霧静さんの近くに淳平を寄らせないほうがいいのかも知れない。 あ~、霧静さんは人見知りをするらしいから、こっちは仲良くなれるのか心配だ。 ―――― 「シオンのはなかなか重いみたい」 缶ジュースを買って、三人で飲んでいる。 休憩所のベンチに僕が真ん中で左に霧静さん、右に淳平がいる。人は人同士で、神姫は神姫同士で交流を深めると、なぜかアリエが場を仕切った。 まあ、文句はなかったし、別にそれでいいと思ったからこうなった。 少し向こうにシオンたち三人がいる。 楽しそうに話しているのが見える。 三人寄れば姦しいっていうのかな、あれは。 ……うるさくはしてないけど。 「ふーん、戦えない武装神姫、ね。CSCのせいなのか。螢斗は破棄やリセットは許せないんだろ? だったら、このまま、バトルしないってのは駄目なのか?」 (さっきから、その考えが頭にチラつくけど、それは駄目なんだよな) 「元々、宮本さんの所から家出したのもそれが原因だけど。でも、なんとかしてやりたい。シオンはバトルをしたくない訳ではないみたいだし、嫌がってる様子もない。逆に自分からやろうと思ってる。だけど、身体が拒否する感覚があるって。神姫センターに修理にも出したこともあるらしいけど……なにもなかったってさ」 「……したいのに、できないなんて、変な話」 改めて考えると、人間の精神病みたいだなと思った。 神姫なのに人みたいに反応を起こすなんておかしいよな。 人間の思考に近く、感情があるのも大変なことだと思う。 「まぁまぁまぁ、俺たちも、なんとか協力するからさ。元気出せよ! っな! この後、ミスズともバトルさせてからまた考えてみようぜ」 「……そうだね」 肩を叩いて励ましてくれる淳平。 いけないな、僕が暗くなってた。こういう常時明るい淳平が少し羨ましくなった。 「私も……協力する。シオンちゃんがあんなに泣いて可哀想」 「ありが――」 「あんがとねー! 霧静さん!」 「えっ……その……」 なんで、淳平がお礼を言うんだ。ああ、身を乗り出すから、僕の隣から霧静さんが若干距離を離した気がする。 いまだに淳平に慣れていない霧静さんを助けてから、シオン、ミスズ、アリエを呼び戻すことにしよう。 でも、このままバトルを続けて、なんとかなるのだろうか。 ―――― 「はい、これ、ヂェリカンだよー。私の奢りだからー」 螢斗さんたちと離れて、アリエさんとミスズさんと私。 こんな風に神姫だけで集まるなんて初めてだ。 アリエさんが自分の神姫サイズのバックパックから、色んなヂェリカンを取り出した。ヂェリカンは神姫用の趣向品で、人間と同じような、種類のある飲み物だ。 お酒みたいに酩酊状態になる飲み物から、ジュースのドリンクと色々ある。 私の基本データにはそうあった。 「なんで、アリエはこんなの持ってきているの?」 ミスズさんがアリエさんに対して、疑問に思ってそう言う。 ミスズさんは、マスターの淳平さんや螢斗さんたちには丁寧だけど、神姫同士では気軽に接するみたいだ。 ……でも、私はこういうのは初めてで、いまだに緊張している。 「いやだなー、ミっちゃん。敵であったとしても戦い終わって互いにヂェリカンを一杯飲む。それで私たちはもう友じゃん」 「……一緒にヂェリカンを飲んだら友達ということですか?」 「YES!」 「だからって、このヂェリカンをたくさん持っている理由にはならないのだけど。そもそも、なによこれ。『ゲルリン☆ヂェリー』って」 ミスズさんがそれを手に持つ。 ゼリーでできている人間のような、そんな感じ……いや、そうとしか言えないキャラクターのデフォルメイラストが前面にされている。 「ネタで持ってきたんだー。友達がいたら、飲ませようと思って」 「……ひどくない。それ」 アリエさんが、あははっと笑う。 アリエさんは明るいし友達が多そうだ。 私とは大違いだ。バトルに銃武装が使えないっていうハンデがあるのにすごく強いし。 「ほれ、シーちゃんも、これ」 とアリエさんが一つのヂェリカンを渡してくる。 『イチゴ・オレ ヂェリー』と書かれてある。 「ピンク同士、似合いそうだよー」 「……すいません、頂きます」 手渡されて、蓋を開けてみて飲んでみる。 「あ、おいしい」 「だしょー。それ結構お気に入りなんだ。人間の飲むイチゴ牛乳と似せているんだよ。でも、こっちの方が美味いんだよねー」 甘みがあって、ほんのりとイチゴの味がする。 神姫に合うように、調整されているんだろうな。ヂェリカンは初めて飲んだけど、確かにおいしいと思った。 「神姫ショップにこんなのがあった記憶はないのだけど……」 「あー、こういうのは、リミちんの伯父さんが経営している神姫ショップに売ってるんだ。独自に取り寄せててさー。ちなみに、わたしの武装も伯父さんが作ってくれたんだよー。伯父さん、リミちんに甘いから」 「だからって、こういうの買うのはオーナーの霧静さんなんだから。迷惑かけない方が……」 「大丈夫、大丈夫。ちょびーと、貰っただけ」 「……もしかして、無断?」 「もち!」 「だめでしょ!!……ああ、飲んじゃった、お金払わないと。でも、払えるのはマスターだしなー、ああ、どうしよう」 「……ふふ」 なんとなく、可笑しくて笑ってしまった。 この場がなんとなく楽しく思えた。バトルはうまくできなかったけど、この子たちと友達になれたのは素直に嬉しいと思える。 「この際だ! あんた、これ飲みなさい!」 「うわー! やめてってば! ……うッゴク…………マズッ! ガク」 さっきの「ゲルリン☆ヂェリー」を飲ませているミスズさんと、飲まされているアリエさんとがいつのまにか展開されている。 それで、パタリとアリエさんが倒れてしまった。 あれはそんなに不味いのだろうか。 「それ、ちょっと飲んでみたいんですけど、いいですか?」 「やめておきなさい、死ぬわよ」 「マズマズー」 せっかく持ってきてくれたのだし、もったいない。それにイラストもなんか可愛く思えてきた。 「ッゴク……あ、……私、これ、結構好きです」 ドロッとしてはいるけど、飲めるゼリーみたいな。それでいて柑橘系の味がして、しつこいようで、なんでかあっさりしている不思議な飲み物。 私としては、大好きな部類に入りそう。 「ホ、ホント!? シオンが言うなら……どれどれ……ッゴク…………マズッ!……キュ~」 パタリとミスズさんも直立から倒れてしまった。 あれ? なんで、こんなにおいしいのにみんな倒れるのだろうか。不思議だ。 とにかく、このままにしておけない。 螢斗さんたちに、知らせにいかないと。 ―――― 「あ、螢斗さん。大変です、二人が」 なんでか、ミスズとアリエが倒れていた。 傍らには『ゲルリン☆ヂェリー』と書かれたヂェリカン。それから、なにかドロッとしたのがこぼれ出ている。 何があったんだろうか。これを飲んで倒れだしたよな、二人とも。 うめき声でどちらも寝言のように「マズマズー」と言っていた。本当に何があったんだよ。 シオンに聞いても「……おいしいと思うのですけど」と不思議そうに言う。 「うぉー!! ミスズゥーー!!」 「あっ! これって伯父さんの所の。アリエってば、まったく、もう」 結局、この後二人が強制スリープモードから帰ってこず、バトルもせず、その場はお開きとなってしまった。 淳平は何のために来たんだろうか、わからなくなっちゃったな……。 ---- [[前へ>類は神姫を呼ぶ part8]] [[次へ>類は神姫を呼ぶ part10]] ----