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幕間ショートショート「誇る名前」
ケラケラと響く甲高い、耳障りな哄笑。
ビルディングの原型を留めぬ瓦礫の上、一羽のセイレーンが焦点定まらぬ視線のままに高らかに哂っている。
殺してやった。殺してやった。身の程知らずの旧式を。アタシに逆らおうなんてするからだ。
設置した爆薬。ルール無視の量と破壊力。ビルの中に誘き寄せて一発だ。
音が響いた。笑いが止まる。
瓦礫が崩れ、その赤い神姫がゆっくりと身体を引き起こす。
「・・・どうしたの? 何が楽しい? 笑えよ、このファッキンバード」
セイレーンは口の端を醜く上げた笑顔のまま、凍り付いて目を見張った。
そんな馬鹿な。
「悪いけどね、こんな傷なんかコレっぽっちも痛くない」
左腕が吹き飛び、各部から紫電が舞い散っている。緑色の髪は焼け縮れ、自慢の背中のユニットは、既に基部からごっそり無い。
「・・・なんで、なんで?」
笑いを消す事さえ出来ないまま、セイレーンは首を振りながら後ずさる。
これまで『これ』で勝ってきた。相手を無茶苦茶にぶっ壊し、何もせずに勝ってきた。
何でお前は立ち上がる? 一度も正面から戦った事など無いセイレーンは、既に腰が引けていた。
赤い装甲についた破片を手で払い、口に混じった砂を吐く。
耳の奥でザァザァ音が鳴ってやがる。どっかイカれたか? どうでも良い。
「アンタがどれだけ汚い手を使おうが。何度この身体を打ち倒そうが。アタシの心を折る事は出来ないと覚えておけ」
真紅の瞳を一度伏せ、彼女はぽつりと呟いた。
「・・・あの子の涙を笑ったな?」
ボロボロになった自分の神姫を胸に抱き、泣く少女の嗚咽。
「・・・あの子の心を哂ったな? その耳障りな金切り声でっ!」
掻き消す様に響き渡った、聞きたくもないキーニング。
それを耳を奥に張り付けて、少女は震える唇で、何とか一命を取りとめた、自分のパートナーにキスをしていた。
「ひぃっ・・・」
気迫に押され、引きつった笑顔のまま、瞳に涙さえ溜めて慄くセイレーン。
「罪状認否なんざ必要無い。忘れたかセイレーン。『アタシ達が何なのか』を」
残ったのはブレード一本。だが、それで十分。それに込められた思いで十分。
「死を運ぶ羽根か。あぁ、ご大層じゃないか! だけど、アタシらが運んでいるのは。それよりもっともっと重くてデカイ」
瓦礫の破片が粉雪のように舞っている。振り上げたブレードに光が宿った。
「アタシはホンモノじゃぁない。『こんな風』にしか出来やしない。だけどな・・・それでもアタシは、アタシ自身が誇りだ」
戦いしか出来ぬ自分を恨む事さえあった。だけど。
「・・・あの子の涙を背負えるんだから」
雪降る夜。赤い衣。白袋を背負いし聖者あり。
「子供らが、夢を見る限り」
その角笛は祝福を。トナカイの影は雪原に。きらきら輝くステンドと、暖炉の光を目印に。
「誰かが、この鈴の音を待つ限り」
軽やかなジングルベルを聞こう。袋に詰まった誰かの笑顔。靴下にゆだねた大切な夢。
「ツガルタイプに。負けは、無い」
・・・たとえ戦う事しか出来なくても。誰かの心を運ぶ為。
誇る名こそは、サンタクロース。
了。
[[2036の風]]
幕間ショートショート「誇る名前」
・・・。
ケラケラと響く甲高い、耳障りな哄笑。
ビルディングの原型を留めぬ瓦礫の上、一羽のセイレーンが焦点定まらぬ視線のままに高らかに哂っている。
殺してやった。殺してやった。身の程知らずの旧式を。アタシに逆らおうなんてするからだ。
設置した爆薬。ルール無視の量と破壊力。ビルの中に誘き寄せて一発だ。
音が響いた。笑いが止まる。
瓦礫が崩れ、その赤い神姫がゆっくりと身体を引き起こす。
「・・・どうしたの? 何が楽しい? 笑えよ、このファッキンバード」
セイレーンは口の端を醜く上げた笑顔のまま、凍り付いて目を見張った。
そんな馬鹿な。
「悪いけどね、こんな傷なんかコレっぽっちも痛くない」
左腕が吹き飛び、各部から紫電が舞い散っている。緑色の髪は焼け縮れ、自慢の背中のユニットは、既に基部からごっそり無い。
「・・・なんで、なんで?」
笑いを消す事さえ出来ないまま、セイレーンは首を振りながら後ずさる。
これまで『これ』で勝ってきた。相手を無茶苦茶にぶっ壊し、何もせずに勝ってきた。
何でお前は立ち上がる? 一度も正面から戦った事など無いセイレーンは、既に腰が引けていた。
赤い装甲についた破片を手で払い、口に混じった砂を吐く。
耳の奥でザァザァ音が鳴ってやがる。どっかイカれたか? どうでも良い。
「アンタがどれだけ汚い手を使おうが。何度この身体を打ち倒そうが。アタシの心を折る事は出来ないと覚えておけ」
真紅の瞳を一度伏せ、彼女はぽつりと呟いた。
「・・・あの子の涙を笑ったな?」
ボロボロになった自分の神姫を胸に抱き、泣く少女の嗚咽。
「・・・あの子の心を哂ったな? その耳障りな金切り声でっ!」
掻き消す様に響き渡った、聞きたくもないキーニング。
それを耳を奥に張り付けて、少女は震える唇で、何とか一命を取りとめた、自分のパートナーにキスをしていた。
「ひぃっ・・・」
気迫に押され、引きつった笑顔のまま、瞳に涙さえ溜めて慄くセイレーン。
「罪状認否なんざ必要無い。忘れたかセイレーン。『アタシ達が何なのか』を」
残ったのはブレード一本。だが、それで十分。それに込められた思いで十分。
「死を運ぶ羽根か。あぁ、ご大層じゃないか! だけど、アタシらが運んでいるのは。それよりもっともっと重くてデカイ」
瓦礫の破片が粉雪のように舞っている。振り上げたブレードに光が宿った。
「アタシはホンモノじゃぁない。『こんな風』にしか出来やしない。だけどな・・・それでもアタシは、アタシ自身が誇りだ」
戦いしか出来ぬ自分を恨む事さえあった。だけど。
「・・・あの子の涙を背負えるんだから」
雪降る夜。赤い衣。白袋を背負いし聖者あり。
「子供らが、夢を見る限り」
その角笛は祝福を。トナカイの影は雪原に。きらきら輝くステンドと、暖炉の光を目印に。
「誰かが、この鈴の音を待つ限り」
軽やかなジングルベルを聞こう。袋に詰まった誰かの笑顔。靴下にゆだねた大切な夢。
「ツガルタイプに。負けは、無い」
・・・たとえ戦う事しか出来なくても。誰かの心を運ぶ為。
誇る名こそは、サンタクロース。
了。
[[2036の風]]
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