暗く、明かりのない竹の道を一条の灯が切り裂く。
「・・・・しかし、いくらおじい様とはいえ忘れ物くらいはするんだな」
「そりゃ記四季さんだって人間ですから」
「・・・・さむい」
都と神姫達である。
彼女達は今、記四季にいわれ釣具を探しに川まで行く途中だった。
本当なら懐中電灯なんかいらないほどに、月明かりが照っているのだがここは竹山である。空なんぞ竹のせいで見えないのだ。
「それにしても凄い数の竹だ。大自然という感じがしないかね。・・・うん、これはおじい様がここに篭る気持ちが判ろうというものだ。何かいるだけで癒される」
「風が吹くとなる竹の音が気持ちいいですしね。カラコロといい音です」
「・・・木霊・・・いっぱい」
そういいながらノワールは虚空を見つめる。何かが見えているのだろうか。
「・・・・木霊、ね。っと・・・ここか・・・・・・え?」
竹の道を抜けた時、都は我が目を疑った。
「・・・・しかし、いくらおじい様とはいえ忘れ物くらいはするんだな」
「そりゃ記四季さんだって人間ですから」
「・・・・さむい」
都と神姫達である。
彼女達は今、記四季にいわれ釣具を探しに川まで行く途中だった。
本当なら懐中電灯なんかいらないほどに、月明かりが照っているのだがここは竹山である。空なんぞ竹のせいで見えないのだ。
「それにしても凄い数の竹だ。大自然という感じがしないかね。・・・うん、これはおじい様がここに篭る気持ちが判ろうというものだ。何かいるだけで癒される」
「風が吹くとなる竹の音が気持ちいいですしね。カラコロといい音です」
「・・・木霊・・・いっぱい」
そういいながらノワールは虚空を見つめる。何かが見えているのだろうか。
「・・・・木霊、ね。っと・・・ここか・・・・・・え?」
竹の道を抜けた時、都は我が目を疑った。
そこに広がるのは宝玉を散りばめたかのような満天の星空。
宙を舞う季節はずれの蛍。
そして ――――――
「―――――や、こんばんは」
紫の目と髪を持ち、紫水晶の名を持つ人魚だった。
ホワイトファング・ハウリングソウル
第十八話
『When the end of the world and the amethyst crack.』
「・・・君は確か、ムラサキ・・・だったね? 帰ったと聞いたんだが」
その余りに幻想低な光景に都は圧倒されながらも、どうにかそれだけを口にした。
この幻想的な世界に一人佇む彼女・・・今この場所は、彼女の為に在るようだ。
「ムラサキね。・・・・話があるんだ。そこの岩に座ってもらえないかな。よかったらハウさんとノワールさんも」
アメティスタに促され、都は渋々岩に座る。
ハウとノワールも適当な小石を見つけてそこに座った。
「まず初めに・・・ボクの名前はムラサキじゃない」
「・・・ほぅ? ならキミの名前はなんなんだ?」
「まだ明かすつもりは無いよ。だから先にこの話をしよう。・・・雨の日と予言者の話だ」
そういってアメティスタは目をつむる。
まるでその時の事を思い出すように。
「・・・・・・あるところに一体の神姫がいた」
その余りに幻想低な光景に都は圧倒されながらも、どうにかそれだけを口にした。
この幻想的な世界に一人佇む彼女・・・今この場所は、彼女の為に在るようだ。
「ムラサキね。・・・・話があるんだ。そこの岩に座ってもらえないかな。よかったらハウさんとノワールさんも」
アメティスタに促され、都は渋々岩に座る。
ハウとノワールも適当な小石を見つけてそこに座った。
「まず初めに・・・ボクの名前はムラサキじゃない」
「・・・ほぅ? ならキミの名前はなんなんだ?」
「まだ明かすつもりは無いよ。だから先にこの話をしよう。・・・雨の日と予言者の話だ」
そういってアメティスタは目をつむる。
まるでその時の事を思い出すように。
「・・・・・・あるところに一体の神姫がいた」
彼女の主はごく普通の青年だった。人と少し違うところがあるとすれば将来本屋になりたいと思っていたくらいだろう。
彼はよく学びよく働いた。
昼は学び舎で学び、彼の友人達と笑いあい青春を謳歌していた。
そこで彼は彼女と出会う。
彼女はいつも教室の隅で本を読んでいた。かといって弱々しい印象ではなく、むしろ本を読む彼女の姿は凛とし、高貴な印象を彼は持った。
一見とっつきにくそうな彼女は、話してみると存外に面白い奴ですぐに彼と彼女はお互いに惹かれあった。
そうして二人は恋人同士になった。
やがて二人は学び屋を旅立ち、次の学び舎へと向かった。
そこでも二人は中睦まじくすごした。
彼は学びながら働き将来本屋を立てるといっていた。彼女はそれを馬鹿にしながらも、しっかりと彼を支えていた。
そして念願叶い彼は本屋を持つことになる。
彼は完成した自らの本屋を彼女に見せようと・・・彼女を呼び出した。
だがそこは見知らぬ土地、彼女は駅から動けないから彼は迎えに行った。
・・・彼はそこで車に轢かれて、死んだ。
彼はよく学びよく働いた。
昼は学び舎で学び、彼の友人達と笑いあい青春を謳歌していた。
そこで彼は彼女と出会う。
彼女はいつも教室の隅で本を読んでいた。かといって弱々しい印象ではなく、むしろ本を読む彼女の姿は凛とし、高貴な印象を彼は持った。
一見とっつきにくそうな彼女は、話してみると存外に面白い奴ですぐに彼と彼女はお互いに惹かれあった。
そうして二人は恋人同士になった。
やがて二人は学び屋を旅立ち、次の学び舎へと向かった。
そこでも二人は中睦まじくすごした。
彼は学びながら働き将来本屋を立てるといっていた。彼女はそれを馬鹿にしながらも、しっかりと彼を支えていた。
そして念願叶い彼は本屋を持つことになる。
彼は完成した自らの本屋を彼女に見せようと・・・彼女を呼び出した。
だがそこは見知らぬ土地、彼女は駅から動けないから彼は迎えに行った。
・・・彼はそこで車に轢かれて、死んだ。
「・・・・それが、どうした」
そう言った都の唇は震えていた。
誰の事を言っているのかわかったからだろう。今の話は・・・他ならぬ、彼女自身の事である。
「・・・・彼は神姫を一体所有していた。知ってるよね。・・・ハイマニューバトライク型イーダ。名前は・・・・アメティスタ」
「・・・・知っている。だがそれが・・・。まさか」
「そのまさかだ。ボクがアメティスタ・・・オーナーの名前は高崎衛。二年前に死んだ」
アメティスタがそういうと、都は震える手で煙草のパッケージを取り出す。
「君だったのか。アイツの忘れ形見・・・それで? それが何のようだ?」
都はどうしていいかわからずに冷たく当たる。
その様子を物悲しそうな顔でノワールが見ていた。
「ここから先は理解するのが難しいと思うけどついてきて。ボクにはね、予知能力がある。それはごく身近なことにしか使えないけれども。確かにあるんだ」
そういうアメティスタの瞳はまっすぐに都を見据えている。
人を謀ろうという瞳ではなかった。
「信じられないな。何か証拠を見せてくれよ」
都はそういってポケットからライターを取り出そうとする、が
「煙草は吸えないよ。ライターは神姫センターに忘れてきたから」
ポケットに入れた手が空を掴む。
「・・・・馬鹿な」
都はポケットから手を出し今度は他のポケットを探そうとする、が
「左にも入ってない。お尻のポケットにもないし・・・・胸ポケットにも無いよ」
左手を動かそうとして、やめた。
「・・・鋭い洞察力だ」
「・・・疑うんならコイントスでもしてみたら? 右に百円が入ってるでしょ?」
都はアメティスタを睨みながら無言でポケットから百円玉を取り出す。
それを親指で弾き、手の甲に乗せ左手でふたをする。もちろん都もアメティスタも、ハウもノワールもコインがどちらとは判らない。しかし
「表。次に出るのは裏。その次も裏で四回目が表だよ」
アメティスタは特にどうということもなく、そういいきった。
都は無言で左手を退ける。コインは・・・表。
これだけならば二分の一・・・だが、次はどうか。
「無駄だよ次は裏、その次も裏だ。四回目は表」
無言で弾き手の甲に乗せた。ただし今度は左手で塞がずに。
そしてコインは・・・裏だった。
都は信じられずにもう一回やってみる。しかし結果はアメティスタの予言どおり裏だった。
もはや言い様の無い恐怖に駆られた都は四回目のコインを弾く。コインは回転しながら宙を舞い・・・そのまま岩の上へと落ちる。
そして・・・
「・・・・表」
都は、コインを拾おうとはしなかった。
「・・・・信じよう。だがそれがどうした。アイツ・・・衛の神姫であるお前が、今更私に何のようだ」
都は今、言い様の無い恐怖の正体を自覚する。
それは・・・罪の告発だ。
あの日あの時、都がもし本屋までの道を知っていたなら、もし迷ってでも自力で辿り着けたなら、彼は・・・高崎衛は死ななかったのではないか。その罪の意識が、彼女の心を蝕む。
しかし
「懺悔をしに来た。もうボク一人の胸に留めておくのはいやだし・・・それに、早くしないと機会そのものが失われかねないから」
都の心配をよそに、アメティスタはそう呟いた。
「・・・・なに?」
アメティスタは放心する都を無視し、話を続ける。
「初めに言って置こう」
そういうとアメティスタは目を瞑り、胸に手を当ててこういった。
「キミの恋人・・・ボクのマスター、高崎衛を殺したのはボクだ」
「―――――――――――!」
その言葉を聞いた瞬間、都は思わす立ち上がっていた。
「――――それは、どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。ボクは高崎衛を・・・衛にぃを殺した」
今、都の頭の中は混乱していた。
無理も無い。いきなり死んだ恋人の神姫が現れ、自分の主は自分で殺したと言い出したのだ。混乱しない方がどうにかしている。
「・・・・不可能だ。神姫には人間を攻撃できないようにプロテクトが施されている」
「そう、アシモフコード。神姫に限らず、全ての人型ロボットに搭載されているロボット三原則だ。解除することは不可能といわれてる・・・・・でもさ、初めから壊れちゃってたら? ボクは初めから故障する事により、人間を攻撃する許可を作り出した・・・とかどうかな?」
「・・・だがお前は、壊れているように見えない。ただの・・・普通の神姫だ」
「外側はそうかもしれない。でも中身・・・CSCは? ボク達の心臓、銀の円筒、魂なき人形に魂を容れる大事な器・・・そこが壊れていたら? それは絶対に判らない。それこそ外してみない限り」
・・・だが、神姫はCSCを外せば死ぬ。
全ての記憶は無くなりそれまでに得た知識や経験、その全てが失われてしまう。
「・・・お前が壊れているとかどうでもいい。何が目的だ・・!」
混乱した頭に難しいことを言われ、都はイラついていた。
「真実を貴女に話したい。あの日ボクが予言したのは・・・衛にぃが死ぬ未来じゃない。都さん、キミが死ぬ未来だ」
「どういうことだ・・・・」
「その未来を視てしまったボクは・・・ボクは未来の事を衛にぃに話した。そしたらその瞬間未来が変わったんだ。どうなったと思う?」
「・・・黙れ」
アメティスタのその言葉で、都は全てを理解した。して、しまった。
「雨の日、衛にぃがあなたに向かって走っていく」
「・・・黙れといっている」
「その途中、衛にぃは車に轢かれて」
「黙れ!!」
肩で息をしながら都は怒鳴る。
その目には涙さえ浮かべて。
その気迫に、ハウとノワールは言葉をかけられない。
「・・・それを話した後、衛にぃはボクに言った。『都を、守ってくれてありがとう』って」
「・・・黙れ・・・黙れよ・・・!」
「ボクは衛にぃの性格をよく知っていた。これを話せば衛にぃがどうするか・・・判っていたはずなんだ。だから・・・」
「頼む・・・・黙ってくれ・・・・頼む・・・・」
「衛にぃは、ボクが殺した」
「――――――――――ッ!!」
その瞬間、都はアメティスタを思いっきり岩に押し付けた。
アメティスタのフレームが軋み、嫌な音を立てる。
「マスター!?」
「・・・・・・・マイスター!!」
ハウとノワールが声をあげる。
都は・・・右手に石を持っていた。
「・・・なに? 衛は・・・私の身代わりになったって言うの・・・? アンタの予言を聞いて・・・・?」
月明かりに照らされた都の顔は・・・泣いていた。
「・・・そうだね、ボクがそう差し向けた。・・・そういっても差し支えないかな」
「どうして!!」
都は叫ぶ。
今の都は普段の彼女ではない。・・・高崎衛が死んだときの、二年前の彼女だ。
「どうして・・・私が死ななかったの・・・!?」
「ボクがそれを妨害したから」
アメティスタは続ける。
「ボクは二つの未来を視た。それは変わる未来と変わらない未来。・・・それ以上の未来は、見えなかったよ」
「どちらかが死ぬしかなかったとでも・・・言うつもりかしら・・・・?」
「その通りだ。ボクは・・・口を滑らせて衛にぃに話してしまった。本当なら黙っているべきだったんだ。そうすれば・・・ボクは、今ここにいなかった。こんな、罪悪感に苛まれる必要も無かった・・・!」
アメティスタは叫んだ。
都がそうであるように、アメティスタもまた苦悩していたのだ。・・・己が主が死ぬと、理解してしまったあの日から。
ぽつりと、アメティスタの頬に水滴が当たる。
それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。
「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」
都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。
「駄目だ! マスター!!」
「マイスター!!」
都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。
大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから
「――――――――――――――!」
そう言った都の唇は震えていた。
誰の事を言っているのかわかったからだろう。今の話は・・・他ならぬ、彼女自身の事である。
「・・・・彼は神姫を一体所有していた。知ってるよね。・・・ハイマニューバトライク型イーダ。名前は・・・・アメティスタ」
「・・・・知っている。だがそれが・・・。まさか」
「そのまさかだ。ボクがアメティスタ・・・オーナーの名前は高崎衛。二年前に死んだ」
アメティスタがそういうと、都は震える手で煙草のパッケージを取り出す。
「君だったのか。アイツの忘れ形見・・・それで? それが何のようだ?」
都はどうしていいかわからずに冷たく当たる。
その様子を物悲しそうな顔でノワールが見ていた。
「ここから先は理解するのが難しいと思うけどついてきて。ボクにはね、予知能力がある。それはごく身近なことにしか使えないけれども。確かにあるんだ」
そういうアメティスタの瞳はまっすぐに都を見据えている。
人を謀ろうという瞳ではなかった。
「信じられないな。何か証拠を見せてくれよ」
都はそういってポケットからライターを取り出そうとする、が
「煙草は吸えないよ。ライターは神姫センターに忘れてきたから」
ポケットに入れた手が空を掴む。
「・・・・馬鹿な」
都はポケットから手を出し今度は他のポケットを探そうとする、が
「左にも入ってない。お尻のポケットにもないし・・・・胸ポケットにも無いよ」
左手を動かそうとして、やめた。
「・・・鋭い洞察力だ」
「・・・疑うんならコイントスでもしてみたら? 右に百円が入ってるでしょ?」
都はアメティスタを睨みながら無言でポケットから百円玉を取り出す。
それを親指で弾き、手の甲に乗せ左手でふたをする。もちろん都もアメティスタも、ハウもノワールもコインがどちらとは判らない。しかし
「表。次に出るのは裏。その次も裏で四回目が表だよ」
アメティスタは特にどうということもなく、そういいきった。
都は無言で左手を退ける。コインは・・・表。
これだけならば二分の一・・・だが、次はどうか。
「無駄だよ次は裏、その次も裏だ。四回目は表」
無言で弾き手の甲に乗せた。ただし今度は左手で塞がずに。
そしてコインは・・・裏だった。
都は信じられずにもう一回やってみる。しかし結果はアメティスタの予言どおり裏だった。
もはや言い様の無い恐怖に駆られた都は四回目のコインを弾く。コインは回転しながら宙を舞い・・・そのまま岩の上へと落ちる。
そして・・・
「・・・・表」
都は、コインを拾おうとはしなかった。
「・・・・信じよう。だがそれがどうした。アイツ・・・衛の神姫であるお前が、今更私に何のようだ」
都は今、言い様の無い恐怖の正体を自覚する。
それは・・・罪の告発だ。
あの日あの時、都がもし本屋までの道を知っていたなら、もし迷ってでも自力で辿り着けたなら、彼は・・・高崎衛は死ななかったのではないか。その罪の意識が、彼女の心を蝕む。
しかし
「懺悔をしに来た。もうボク一人の胸に留めておくのはいやだし・・・それに、早くしないと機会そのものが失われかねないから」
都の心配をよそに、アメティスタはそう呟いた。
「・・・・なに?」
アメティスタは放心する都を無視し、話を続ける。
「初めに言って置こう」
そういうとアメティスタは目を瞑り、胸に手を当ててこういった。
「キミの恋人・・・ボクのマスター、高崎衛を殺したのはボクだ」
「―――――――――――!」
その言葉を聞いた瞬間、都は思わす立ち上がっていた。
「――――それは、どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。ボクは高崎衛を・・・衛にぃを殺した」
今、都の頭の中は混乱していた。
無理も無い。いきなり死んだ恋人の神姫が現れ、自分の主は自分で殺したと言い出したのだ。混乱しない方がどうにかしている。
「・・・・不可能だ。神姫には人間を攻撃できないようにプロテクトが施されている」
「そう、アシモフコード。神姫に限らず、全ての人型ロボットに搭載されているロボット三原則だ。解除することは不可能といわれてる・・・・・でもさ、初めから壊れちゃってたら? ボクは初めから故障する事により、人間を攻撃する許可を作り出した・・・とかどうかな?」
「・・・だがお前は、壊れているように見えない。ただの・・・普通の神姫だ」
「外側はそうかもしれない。でも中身・・・CSCは? ボク達の心臓、銀の円筒、魂なき人形に魂を容れる大事な器・・・そこが壊れていたら? それは絶対に判らない。それこそ外してみない限り」
・・・だが、神姫はCSCを外せば死ぬ。
全ての記憶は無くなりそれまでに得た知識や経験、その全てが失われてしまう。
「・・・お前が壊れているとかどうでもいい。何が目的だ・・!」
混乱した頭に難しいことを言われ、都はイラついていた。
「真実を貴女に話したい。あの日ボクが予言したのは・・・衛にぃが死ぬ未来じゃない。都さん、キミが死ぬ未来だ」
「どういうことだ・・・・」
「その未来を視てしまったボクは・・・ボクは未来の事を衛にぃに話した。そしたらその瞬間未来が変わったんだ。どうなったと思う?」
「・・・黙れ」
アメティスタのその言葉で、都は全てを理解した。して、しまった。
「雨の日、衛にぃがあなたに向かって走っていく」
「・・・黙れといっている」
「その途中、衛にぃは車に轢かれて」
「黙れ!!」
肩で息をしながら都は怒鳴る。
その目には涙さえ浮かべて。
その気迫に、ハウとノワールは言葉をかけられない。
「・・・それを話した後、衛にぃはボクに言った。『都を、守ってくれてありがとう』って」
「・・・黙れ・・・黙れよ・・・!」
「ボクは衛にぃの性格をよく知っていた。これを話せば衛にぃがどうするか・・・判っていたはずなんだ。だから・・・」
「頼む・・・・黙ってくれ・・・・頼む・・・・」
「衛にぃは、ボクが殺した」
「――――――――――ッ!!」
その瞬間、都はアメティスタを思いっきり岩に押し付けた。
アメティスタのフレームが軋み、嫌な音を立てる。
「マスター!?」
「・・・・・・・マイスター!!」
ハウとノワールが声をあげる。
都は・・・右手に石を持っていた。
「・・・なに? 衛は・・・私の身代わりになったって言うの・・・? アンタの予言を聞いて・・・・?」
月明かりに照らされた都の顔は・・・泣いていた。
「・・・そうだね、ボクがそう差し向けた。・・・そういっても差し支えないかな」
「どうして!!」
都は叫ぶ。
今の都は普段の彼女ではない。・・・高崎衛が死んだときの、二年前の彼女だ。
「どうして・・・私が死ななかったの・・・!?」
「ボクがそれを妨害したから」
アメティスタは続ける。
「ボクは二つの未来を視た。それは変わる未来と変わらない未来。・・・それ以上の未来は、見えなかったよ」
「どちらかが死ぬしかなかったとでも・・・言うつもりかしら・・・・?」
「その通りだ。ボクは・・・口を滑らせて衛にぃに話してしまった。本当なら黙っているべきだったんだ。そうすれば・・・ボクは、今ここにいなかった。こんな、罪悪感に苛まれる必要も無かった・・・!」
アメティスタは叫んだ。
都がそうであるように、アメティスタもまた苦悩していたのだ。・・・己が主が死ぬと、理解してしまったあの日から。
ぽつりと、アメティスタの頬に水滴が当たる。
それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。
「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」
都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。
「駄目だ! マスター!!」
「マイスター!!」
都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。
大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから
「――――――――――――――!」
勢いよく、振り下ろされた。