第二章
2038/2/17
04:35
同基地 私室
“『特技兵』”
04:35
同基地 私室
“『特技兵』”
「テーンッ、ハッ!(気をつけ!)」
あれから作戦評価報告書やデブリーフィングに忙殺され、私が寮の自室にたどり着いたのは軽く日をまたいで、そろそろ朝日も登ろうかという時間……にもかかわらず、私の『小さな部下』のうち数体は机の上に直立不動の姿勢でこちらに視線をよこしていた。
「まだ起きてたの?」
「ええ、まだお褒めの言葉をいただいておりません」
「ええ、まだお褒めの言葉をいただいておりません」
気だるく尋ねた私に、ダガーワンチャーリーことC分隊の指揮官を勤めるベックウィズがいたずらっ子のような笑顔を浮かべながら答える。
「褒めろって言いたいのかしら?」
「ええ、私の分隊が間違いなく一番戦功であります」
「ええ、私の分隊が間違いなく一番戦功であります」
いけしゃあしゃあと言い切ったベックウィズを一日分の苛立ちを込めてひと睨みすると、彼女はやっと口を閉じた。 心底おかしそうに笑いをこらえてはいたが。
「申し訳ありません、中尉。 ベック、いい加減にしなさい」
隣にいたA分隊の分隊長。 ウェストモーランドがあまりに態度の悪いベックを注意する。
「そうね、ベック。 あのまま死んでもおかしくなかったわ」
「死なないわよ」
「死なないわよ」
B分隊の分隊長。 エイブラムスがモーラに続いて苦言を呈したが、ベックは途端真面目な顔になって答える。
「あのクソッタレな戦場で何度死んでも、バックアップがある。 ですよね、中尉」
彼女の言うクソッタレな戦場……民需用のホビーである彼女たち、武装神姫の戦闘およびフィールド生成システムをDARPA(国防高等研究計画局)が軍需用に改良した最新鋭戦術・戦略シュミレーター『テキサス』の事だ。
サーバーから提供される15エーカー四方の立方体内に想定されるあらゆる条件……地形や気候だけではなく砂や埃による装備の劣化や、一体一体の体調といった概念までも再現するそれは『第二の現実』といっても過言ではなく、ウェストポイント(陸軍士官学校)でも試験的にこのシステムを利用した演習が行われているし、現在の士官教育を一変させるとまで言われている……のだが……
サーバーから提供される15エーカー四方の立方体内に想定されるあらゆる条件……地形や気候だけではなく砂や埃による装備の劣化や、一体一体の体調といった概念までも再現するそれは『第二の現実』といっても過言ではなく、ウェストポイント(陸軍士官学校)でも試験的にこのシステムを利用した演習が行われているし、現在の士官教育を一変させるとまで言われている……のだが……
「それでも、その瞬間までそこでにいた人格は消滅するのよ、ベック?」
バーチャルな死の概念。
それをシステムではデータの消去という形で表す。
彼女たちはある種本能的にそれを恐れ……結果、よりリアリティのある戦闘状況が再現される、というわけだ。
それでも、軍用である彼女たちは民需用では強固なプロテクトがかけられている情報記憶分野のバックアップが可能となっている。 早い話が演習終了時に演習開始前の状態で生き返る。 といえばわかりやすいだろうか?
それをシステムではデータの消去という形で表す。
彼女たちはある種本能的にそれを恐れ……結果、よりリアリティのある戦闘状況が再現される、というわけだ。
それでも、軍用である彼女たちは民需用では強固なプロテクトがかけられている情報記憶分野のバックアップが可能となっている。 早い話が演習終了時に演習開始前の状態で生き返る。 といえばわかりやすいだろうか?
「一時的な記憶喪失なんか怖くないでしょう? とかく、お褒めの言葉がいただけないようでしたら私はこれで失礼させていただきます」
ベックはかかとを合わせて敬礼すると、すばやく割り当てられたクレイドルへ潜り込み、スリープモードへと移行した。
「……中尉、そろそろお休みになられないとお体に触ります」
少々、あっけにとられていたが、モーラが心配そうに見上げているのに気づき彼女の頭を指先でなぜてやる。
「ベックは悪い奴ではありません。 ですが……」
「戦友を失ったと聞いてるわ。ヒネているというより拗ねてるのよ」
「戦友を失ったと聞いてるわ。ヒネているというより拗ねてるのよ」
モーラが言葉を詰まらせたあとをエイラスが引き継ぎ、同じ顔をした二体の視線がクレイドルで眠る同胞に注がれる……彼女の名はベックウィズ。 消えかけた特技兵の階級章を付けた、部隊唯一の実戦経験者。