新しい未来
その後、私達は到着した消防隊に保護された。華凛は軽度の火傷。私は火傷に両足の骨折がついた。まぁ、あんな無茶をしたのだからしょうがない。私は入院、華凛は治療だけで済んだそうだ。
華凛は病院で目を覚まし、私が骨折したことと、私の髪が短くなっていることに一番目を丸くしていた。そこ以外に色々と言う所があったようだが、それはお見舞いの時に言うそうだ。せめて周りの人に迷惑にならないようにしてもらおう。
お母さんはすごく私を心配してくれた。怒られるかと思ったが、それ以上に安心され、そして誉められ、結局怒られた。無事でよかった。友達を助けるのはえらいけど、自分の体を大切にしてね、と簡単にまとめるとこうなる。
華凛の家が燃えた理由は、放火だった。悪質な放火犯は同じような事件を度々起こし、つい先日捕まったらしい。単独犯らしく、これ以上被害が広がることはないようだ。燃えてしまった華凛の家は、保険やその他諸々のおかげで、なんとか代えが効くらしい。それでも、大変だと華凛は話していた。
私の怪我の程度については、少し酷いらしく、骨がずれてしまっているらしい。医療技術が発展しているおかげで、一ヶ月あれば自宅療養できるそうだ。
榊くんは、たまたまあそこを通りかかったらしい。家が近いと言っていた。私が二階から落ちる時に私の名前を叫んだが、あれは本人が一番驚いていた。
ともあれ、あれから一週間がたったある日。華凛がお見舞いに来てくれた時のこと。それは突然やってきた。
華凛は病院で目を覚まし、私が骨折したことと、私の髪が短くなっていることに一番目を丸くしていた。そこ以外に色々と言う所があったようだが、それはお見舞いの時に言うそうだ。せめて周りの人に迷惑にならないようにしてもらおう。
お母さんはすごく私を心配してくれた。怒られるかと思ったが、それ以上に安心され、そして誉められ、結局怒られた。無事でよかった。友達を助けるのはえらいけど、自分の体を大切にしてね、と簡単にまとめるとこうなる。
華凛の家が燃えた理由は、放火だった。悪質な放火犯は同じような事件を度々起こし、つい先日捕まったらしい。単独犯らしく、これ以上被害が広がることはないようだ。燃えてしまった華凛の家は、保険やその他諸々のおかげで、なんとか代えが効くらしい。それでも、大変だと華凛は話していた。
私の怪我の程度については、少し酷いらしく、骨がずれてしまっているらしい。医療技術が発展しているおかげで、一ヶ月あれば自宅療養できるそうだ。
榊くんは、たまたまあそこを通りかかったらしい。家が近いと言っていた。私が二階から落ちる時に私の名前を叫んだが、あれは本人が一番驚いていた。
ともあれ、あれから一週間がたったある日。華凛がお見舞いに来てくれた時のこと。それは突然やってきた。
「どう? 足は」
「手術も成功したし、9月になれば自宅療養できるって」
「そう、よかった……」
「手術も成功したし、9月になれば自宅療養できるって」
「そう、よかった……」
薄く笑う華凛は、もうすっかり完治し、こうして私のお見舞いに来てくれている。
今日の華凛は、見慣れない紙袋を持っていた。とても小さく、小物が入る程度の大きさの紙袋だ。
今日の華凛は、見慣れない紙袋を持っていた。とても小さく、小物が入る程度の大きさの紙袋だ。
「華凛、その紙袋は?」
「ああ、これ? ちょっとしたサプライズプレゼント。当てたら渡してあげる」
「ああ、これ? ちょっとしたサプライズプレゼント。当てたら渡してあげる」
突然サプライズプレゼントときた。まぁ、突然でなければサプライズにならないけど。
さて、一体なんだろう。この大きさだ。あまり大きなものじゃない。華凛が私に渡すような物であり、この大きさ。まさかとは思ったが、それが正解なような気がしてきた。
さて、一体なんだろう。この大きさだ。あまり大きなものじゃない。華凛が私に渡すような物であり、この大きさ。まさかとは思ったが、それが正解なような気がしてきた。
「もしかして、神姫?」
「ありゃ、大正解。すんなり当てられるとちょっと寂しいわね」
「ありゃ、大正解。すんなり当てられるとちょっと寂しいわね」
華凛は私に紙袋を渡してくれる。中には白い箱が入っていた。紙袋から取り出して見ると、手に僅かな重みが伝わる。
(神姫……か……)
頭をよぎるのは、もちろん小さなパートナーの姿だ。あの世界で一緒に戦ってきた大事な友達。その姿を思うと、自然と箱を開ける事が憚られた。
「開けていいわよ~」
華凛が私ではなく箱に向かって呼び掛ける。すると、箱がカタカタと揺れ始め、箱の蓋がゆっくりと上がっていった。中の神姫は既に起動しているのか。
そして、箱の蓋が完全に上がりきった時、私は言葉を失った。
そして、箱の蓋が完全に上がりきった時、私は言葉を失った。
「えっと……久しぶりなのか、初めましてなのかわからないけど……たぶん、久しぶり」
戸惑ったように笑う顔、左右でまとめている燈色の髪。ぴったりとしたボディスーツを思わせるボディペイント。
そして、私にはにかむその姿は、紛れもなくパートナーのそれそのものだった。
そして、私にはにかむその姿は、紛れもなくパートナーのそれそのものだった。
「シリア……なの……?」
「うん。ただいま、樹羽。そして……おかえり」
「うん。ただいま、樹羽。そして……おかえり」
約束が、今果たされた。
「シリアっ!」
「わっ、ちょっ、苦しいって! 人と神姫の体格差を考えて樹羽!」
「わっ、ちょっ、苦しいって! 人と神姫の体格差を考えて樹羽!」
思わず抱き締めてしまった。それほどまでに、この再会は嬉しかったのだ。しっかり数十秒抱き締め、放した。少し関節などを気にしながら、シリアは笑ってくれた。
シリアが、私の元まで帰ってきた。それはとても嬉しいのだが、どうしてシリアは私の事を覚えているのだろう。その謎は、華凛が全て話してくれた。
シリアが、私の元まで帰ってきた。それはとても嬉しいのだが、どうしてシリアは私の事を覚えているのだろう。その謎は、華凛が全て話してくれた。
「あたしさ、実はこっちでシリアに会ってるのよ。同じ状況でね」
「それって、シリアはやっぱり改造されてたってこと?」
「そ。で、あたしはシリアを施設に預けたの。そういう、マスターに捨てられたり、あるいは過度の改造で心が病んでしまった神姫を治して預かって、新しいマスターを探してくれるような施設」
「それって、シリアはやっぱり改造されてたってこと?」
「そ。で、あたしはシリアを施設に預けたの。そういう、マスターに捨てられたり、あるいは過度の改造で心が病んでしまった神姫を治して預かって、新しいマスターを探してくれるような施設」
忘れもしないあの日、7月15日。その日に、華凛は一人で改造されていたシリアに出会った。そして華凛は軽い治療をした後、施設に預けたと言う。
「あたしは、樹羽の他にシリアも救いたかった。改造されて、壊れていく神姫を見るのは、もう嫌だったから」
「華凛さん……」
「あたしはシリアを樹羽に託すことにしたの。それは結果的に樹羽を強くすることにも繋がったから。だから世界を創る時にシリアを巻き込んだのよ」
「華凛さん……」
「あたしはシリアを樹羽に託すことにしたの。それは結果的に樹羽を強くすることにも繋がったから。だから世界を創る時にシリアを巻き込んだのよ」
そして、シリアはその事を覚えていた。神姫が覚えていたのだ。あの世界は本当に存在したのだろう。
「シリアだけじゃないわ。あたしは無意識の内にあたしの助けになる人をたくさん巻き込んだ。東雲や宮下さんもその内の一人よ」
でも榊くんにあの世界の記憶はなかった。私のことを覚えていないようだった。
いや、実は覚えていたのかも知れない。私が飛び降りる時、私の名前を叫んでいたから。
いや、実は覚えていたのかも知れない。私が飛び降りる時、私の名前を叫んでいたから。
「そこら辺は、そうね……樹羽、ネトゲってする?」
「やったことないけど、華凛から少しだけ話を聞いた覚えはある」
「ちょっとややこしいかもしれないんだけど、これからあたしが考えた理論を言うわ」
「やったことないけど、華凛から少しだけ話を聞いた覚えはある」
「ちょっとややこしいかもしれないんだけど、これからあたしが考えた理論を言うわ」
それは、華凛が創った世界の構造だった。
まず、華凛は世界と言う一つのゲーム板を創った。そこに、私やシリア、榊くんや宮下さんと言ったプレイヤーキャラ(PC)をたくさん作り、本人たちの意思をリンクさせた。これが世界に巻き込むと言うこと。華凛もプレイヤーとして参加し、私の成長を直接促していた。
しかし、やがてゲーム板のキャパシティが狭く、小さくなっていった。仕方なく華凛はPCをノンプレイヤーキャラ(NPC)にすることでゲーム板を留めた。つまり、ゲームで作ったキャラクターから、操作する人の意思を切り離したと言うことだ。それは、呼んだ人を元の世界に還した、と言うことになる。後に残るのは、抜け殻のような人。その世界の住人。
まず、華凛は世界と言う一つのゲーム板を創った。そこに、私やシリア、榊くんや宮下さんと言ったプレイヤーキャラ(PC)をたくさん作り、本人たちの意思をリンクさせた。これが世界に巻き込むと言うこと。華凛もプレイヤーとして参加し、私の成長を直接促していた。
しかし、やがてゲーム板のキャパシティが狭く、小さくなっていった。仕方なく華凛はPCをノンプレイヤーキャラ(NPC)にすることでゲーム板を留めた。つまり、ゲームで作ったキャラクターから、操作する人の意思を切り離したと言うことだ。それは、呼んだ人を元の世界に還した、と言うことになる。後に残るのは、抜け殻のような人。その世界の住人。
「最終的に登場キャラ全部消して、無理矢理樹羽との時間を作ったんだけどね」
「そっか……」
「そっか……」
なんとなく想像がついた。華凛の説明はわかりやすかったし、あの季節外れの雪を不思議に思わなかった周りの人の説明もつく。あれがNPCであり、特殊な立ち位置――厳密に言えば私達と関係してくる人がPCと言うわけだ。そしてどうやら途中退場を強いられた人の記憶は曖昧らしい。榊くんも私のことをおぼろ気ながらも覚えていたし。
「なんだったんだろう、あの世界」
「さあね。でも、神様があたしたちにくれた奇跡なんじゃないかしら」
「さあね。でも、神様があたしたちにくれた奇跡なんじゃないかしら」
あの世界はまさに奇跡だった。それは今でも理解できる。あの世界がなければ、華凛は助からなかったし、私も自ら死んでいたかもしれない。退院したら、近所の神社にでも行こう。神様に伝えたら、たぶん伝言ゲームのように伝わるかもしれない。
シリアがいて、華凛がいて、私がいる。
これが最高の終わり。そして始まりだ。
シリアがいて、華凛がいて、私がいる。
これが最高の終わり。そして始まりだ。
「そうだ、華凛。実はね……」
私は華凛に言おうと思っていたことを言った。お母さんにはもう話してある。お母さんは泣いて喜んでくれた。華凛はもちろんのこと、シリアも喜んでくれた。
私も退院が待ち遠しい限りだ。
私も退院が待ち遠しい限りだ。
入院生活はわりと暇だった。しかしそれも、シリアが来てくれるようになってから解消された。それまでは、毎日テレビを見て過ごしているしかなかったのだ。
「樹羽、またバトルしたいね!」
「うん、私たちなら、そこそこイケる」
「大丈夫だよ! 向こうでだって、宮下さん以外にはみんな勝ってきたんだし」
「その油断が命取りになる。やるからには全力で」
「それもそっか。あー、早くバトルしたいなー」
「うん、私たちなら、そこそこイケる」
「大丈夫だよ! 向こうでだって、宮下さん以外にはみんな勝ってきたんだし」
「その油断が命取りになる。やるからには全力で」
「それもそっか。あー、早くバトルしたいなー」
シリアは病院のベッドに備え付けてある折り畳み式の机の上でゴロゴロしている。文字通り、机の端から端までゴロゴロと転がっている。ちょっと可愛い。
そんなシリアを見ながら、私は華凛の話を思い出していた。その中に一つ、ちょっと意味深なセリフがあったのに気付いた。
そんなシリアを見ながら、私は華凛の話を思い出していた。その中に一つ、ちょっと意味深なセリフがあったのに気付いた。
「ねぇシリア。華凛、前に神姫を持ってたんじゃないかな」
「? どういうこと?」
「華凛が言ってた、『壊れていく神姫を見るのは、もう嫌だったから』って。あれ、もしかして自分の神姫のことじゃないかな?」
「? どういうこと?」
「華凛が言ってた、『壊れていく神姫を見るのは、もう嫌だったから』って。あれ、もしかして自分の神姫のことじゃないかな?」
我ながらかなり突飛な考えだ。別に自分の神姫じゃなくてもいいはずだ。他人が神姫を改造してしまい、それを止めることができなかった。それを自分のせいだと思い込んでいる。こっちの方がまだわかる。
仮に華凛が昔神姫を持っていたとして、あの華凛が自分で改造するだろうか? そっちの方が有り得ない。
だが、神姫に対する知識と熱意。それらを持っているのに、自分の神姫を持っていない。金銭的問題、なのだろうか?
仮に華凛が昔神姫を持っていたとして、あの華凛が自分で改造するだろうか? そっちの方が有り得ない。
だが、神姫に対する知識と熱意。それらを持っているのに、自分の神姫を持っていない。金銭的問題、なのだろうか?
「んー、どうだろ。私はあんまり華凛さんと話す機会がなかったし」
「そうなの?」
「だって、気付いたら施設の中だったしさ。華凛さんとは、向こうで初めて会ったんだよ」
「そうなの?」
「だって、気付いたら施設の中だったしさ。華凛さんとは、向こうで初めて会ったんだよ」
それならしょうがないが、なぜ華凛はシリアを施設に送ったのだろう。
治療は出来たはずだ。シリアは向こうの柏木さんに直してもらっている。なのになぜ、華凛はシリアのマスターにならなかったのだろう。華凛は困っている人を放ってはおけない。それは私で既に立証済みだ。そんな華凛が、マスターに改造されてしまった神姫を放っておくだろうか?
何かあったか、はたまた家庭の事情か。華凛のお母さんには会ったが、とてもおおらかな人だった。あの人が華凛に神姫を禁止するとは思えない。
治療は出来たはずだ。シリアは向こうの柏木さんに直してもらっている。なのになぜ、華凛はシリアのマスターにならなかったのだろう。華凛は困っている人を放ってはおけない。それは私で既に立証済みだ。そんな華凛が、マスターに改造されてしまった神姫を放っておくだろうか?
何かあったか、はたまた家庭の事情か。華凛のお母さんには会ったが、とてもおおらかな人だった。あの人が華凛に神姫を禁止するとは思えない。
「今度、華凛さんが来たときに聞いてみたら?」
「……できれば華凛が自分から話してくれるのを待ちたい」
「……できれば華凛が自分から話してくれるのを待ちたい」
考えている内にこれは私が軽々と踏み込んではいけない話のような気がした。華凛が自分から話してくれるまで待つのが一番だろう。まだ話していないと言うことは、話したくないと言うことだ。
「退院したら、柏木さんのところに行こう。まだこっちだと神姫カードを作ってない」
「そうだね。だったらさ、丘のフィールドをおもいっきり飛んでみようよ!」
「いいかもしれない」
「そうだね。だったらさ、丘のフィールドをおもいっきり飛んでみようよ!」
「いいかもしれない」
私たちはそんな会話をしながら入院生活を送った。私の足も回復していって、リハビリを続ければ、早くて9月の中頃には大体動くのに支障はなくなるらしい。ちゃんと続けて、また動けるようになりたい。車椅子は楽だけど、これはこれで動かすのが少し大変なのだ。電動が主流とされているが、患者が多いためか、私のは昔ながらの車椅子だ。私は嫌いじゃない。ちゃんと整備はされているから、動かすのに問題はない。
そして、9月がやって来た。