『"NOTRE-DAME" MARIE DE LA LUNE vs "ZYRDARYA" LALE SAITO』
仮想バトルフィールド上空に、文字が映し出された。
そしてその文字の横に数字が現れてバトルの開始時間をカウントダウンし始める。
そしてその文字の横に数字が現れてバトルの開始時間をカウントダウンし始める。
「えっと、とりあえず、何したらいいのかな?」
私は目の前のクレードルで眠るマリーに聞いた。彼女の意識は今、筐体の中の電脳空間にいるのだけど、不思議なことに返事は現実の、クレードルの中のマリーから帰ってくる。
「まずはウォードレスを展開させてくださいませ。そうすればあとは私が美しく戦ってみせますわ」
「そっか。頑張ってね、マリー」
「はいっ」
「そっか。頑張ってね、マリー」
「はいっ」
マリーは目を閉じたままにっこりと笑った。
カウントダウンは最後の十秒を切る。電子音と一緒に数字はどんどん小さくなっていった。
開始三秒前、上空の文字は『READY』に変わる。
開始三秒前、上空の文字は『READY』に変わる。
「いきますわ、のどか様」
私は軽く頷く。そして数字はゼロを示した。
「マリー、ウォードレス展開!」
そう言うと、マリーのドレスの裾のディティールが伸びて、前面ののこぎりのような形をした二本が、自由に動くライトセーバーのように、その他は小さな砲身を現して追撃用の機関砲になった。マリーはかなり可愛いものを選んだと思っていたけど、実際に展開したものを見ると意外とかっこいいものだ。
同時に相手は右手のポーレンホーミングを放つ。ハンドガンだというのにその弾は弧を描いて一つ一つがマリーを追う。その間にラーレはマリーとの間合いを詰めた。
マリーは飛びながらポーレンホーミングの弾を避けようとした。けれども高い誘導性能を誇るその弾は進行方向を百八十度変えてなおマリーを追った。そこへ猛スピードで間合いを詰めながら剣を構えるラーレがマリーの視界に入る。
同時に相手は右手のポーレンホーミングを放つ。ハンドガンだというのにその弾は弧を描いて一つ一つがマリーを追う。その間にラーレはマリーとの間合いを詰めた。
マリーは飛びながらポーレンホーミングの弾を避けようとした。けれども高い誘導性能を誇るその弾は進行方向を百八十度変えてなおマリーを追った。そこへ猛スピードで間合いを詰めながら剣を構えるラーレがマリーの視界に入る。
「速いですわ」
関心しつつもマリーはウォードレスの機関砲をホーミングの弾へと向けて放った。そして両手で傘を持ち、ラーレの剣を受け止める構えを取った。
機関砲から発せられた弾幕は見事にポーレンホーミングを全て打ち落とし、とりあえずマリーは背後からの脅威から解放された。しかし次の瞬間、甲高い金属音と共にマリーとラーレは初めてお互いを至近距離で認識し合う。
機関砲から発せられた弾幕は見事にポーレンホーミングを全て打ち落とし、とりあえずマリーは背後からの脅威から解放された。しかし次の瞬間、甲高い金属音と共にマリーとラーレは初めてお互いを至近距離で認識し合う。
「いいドレスですね」
鍔迫り合いをしながらラーレが言う。
「ありがとうございます。あなたのその銃も面白いですわ」
マリーがそう言い返すとラーレは不敵に笑った。
†††
カトー模型店の扉が開き、男が一人、入る。
「こんにちは、カトーさん。なんか盛り上がってますね」
「やあ、時裕君。今ね、のどかちゃんが戦ってるんだよ」
「あいつが?へえ、相手は?」
「斎藤香子ちゃん」
「...うちの妹に嫌がらせですか」
「いやいや、丁度女の子同士でいいと思って」
「のどかに香子ちゃんは倒せないでしょう。だって彼女は」
「それが結構頑張ってるんだよ、のどかちゃん」
「まだ香子ちゃんが手加減してるんじゃないですか?」
「そうだね...まだ"チューリップ"を使ってないところを見ると...」
「この店のオリジナルウェポンをあそこまで使いこなせるのは彼女だけですよ」
「うれしいことだねえ」
「ああ、哀れかな我が妹よ」
「君は本当にのどかちゃんのことが好きなんだな」
「そりゃあもう。アーニャの次に」
「やあ、時裕君。今ね、のどかちゃんが戦ってるんだよ」
「あいつが?へえ、相手は?」
「斎藤香子ちゃん」
「...うちの妹に嫌がらせですか」
「いやいや、丁度女の子同士でいいと思って」
「のどかに香子ちゃんは倒せないでしょう。だって彼女は」
「それが結構頑張ってるんだよ、のどかちゃん」
「まだ香子ちゃんが手加減してるんじゃないですか?」
「そうだね...まだ"チューリップ"を使ってないところを見ると...」
「この店のオリジナルウェポンをあそこまで使いこなせるのは彼女だけですよ」
「うれしいことだねえ」
「ああ、哀れかな我が妹よ」
「君は本当にのどかちゃんのことが好きなんだな」
「そりゃあもう。アーニャの次に」
二人の男は再び視線を筐体に戻す。
†††
数回、斬りあった後、ラーレはうしろに退いて、広めの間合いをとった。そしてまたポーレンホーミングを打つと、今度は腰から先にチューリップを模した飾りをつけた棒を取り出す。マリーは打撃系、もしくは投擲系の武装だと思って、傘をソードモードからライフルモードに構え直した。先のような急速接近で瞬時に懐まで迫らせないようにするためだ。
ポーレンホーミングから放たれた高誘導弾は例のごとくマリーのドレスに打ち落とされる。恐らくラーレはポーレンホーミングを決定力のある装備ではなく、間合いを取ったり、対戦相手を自分の思う場所に誘導するための補助的な装備であると考えているだろう。
手に持った棒を、ラーレは器用に片手でクルクルと回す。ジルダリアのスレンダーな体型も味方して、その姿はバトン競技のトッププロのようだ。
ポーレンホーミングから放たれた高誘導弾は例のごとくマリーのドレスに打ち落とされる。恐らくラーレはポーレンホーミングを決定力のある装備ではなく、間合いを取ったり、対戦相手を自分の思う場所に誘導するための補助的な装備であると考えているだろう。
手に持った棒を、ラーレは器用に片手でクルクルと回す。ジルダリアのスレンダーな体型も味方して、その姿はバトン競技のトッププロのようだ。
「今日が初めてのバトルのあなたに、こんな仕打ちはひどいかもしれませんが...マスターの記録を更新するために、全力で勝たせていただきます」
「光栄ですわ」
「光栄ですわ」
そう言ってラーレは回すのを止めた。そしてユピテルが雷を放つように、その棒をマリーに向かって投げた。
「ジャベリンですわね」
マリーは当然のようにそれを避けようとしたが、その前に飛んでいる棒の先のチューリップが開き、そこからさらに何かが発せられる。霧のようなそれは僅かにマリーの足に付着した。
乾いた音をたてて棒は着地した。その様子を見届けてラーレはまた手に剣を握る。
乾いた音をたてて棒は着地した。その様子を見届けてラーレはまた手に剣を握る。
「さっきのは一体なんなんですの?」
「すぐにわかります」
「すぐにわかります」
二体の神姫は再び剣による近接格闘戦を始めた。マリーは傘で攻撃しつつも、ドレスで細かく間合いを取り、ラーレも主となる攻撃は剣であるものの、ポーレンホーミングを巧く使い見事に隙を埋める。単純な斬り合いのように見えるが、実際は双方が一瞬の隙を伺い合う頭脳戦であった。
しかしそれがしばらく続いたあと、マリーは異変に気づいた。足の動きがだんだんと鈍くなっていったのだ。sそれもさっきの霧のようなものが付着したあたりから。
しかしそれがしばらく続いたあと、マリーは異変に気づいた。足の動きがだんだんと鈍くなっていったのだ。sそれもさっきの霧のようなものが付着したあたりから。
「これは...?」
「効いてきたようですね。あの杖――トライアンフは麻痺性の液体を高圧噴射するものです。こっちのフレグランスキラーと違ってあの杖は遅効性。ゆっくりと、気づかないうちに機能を停止させるのです」
「効いてきたようですね。あの杖――トライアンフは麻痺性の液体を高圧噴射するものです。こっちのフレグランスキラーと違ってあの杖は遅効性。ゆっくりと、気づかないうちに機能を停止させるのです」
ラーレが説明する間も、非常に遅いスピードで、しかし確実にマリーの足は動きを遅くしていった。
『マリー!大丈夫!?』
「大丈夫ですから、のどか様は今と同じ指令を続けてください」
『左だよっ、マリー!』
「大丈夫ですから、のどか様は今と同じ指令を続けてください」
『左だよっ、マリー!』
気がつかないうちに、気づけない間にラーレが放った最後のポーレンホーミングの弾がすぐそこまでマリーに迫る。咄嗟にドレスの機関砲を向けたが、間に合わなかった。七発中の二発がマリーに直撃し、マリーの体が飛ぶ。胸元の赤いリボン状のディティールが煤けた。
「んっ...」
初めてマリーが苦痛の声を上げた。
『ねえ、もう止めようよ!もう少し強い装備にしてからまたやればいいからっ!』
「それは...ダメですわ...」
『マリー...』
「わたくしは人形型武装神姫。この姿で勝てるようにならなければ意味がないのですわ!」
「それは...ダメですわ...」
『マリー...』
「わたくしは人形型武装神姫。この姿で勝てるようにならなければ意味がないのですわ!」
マリーは再び立ち上がった。足はすでにただ体重を支えるだけの棒となっていたがなんとかバランスをとって傘を構える。
「...次が最後ですね」
ラーレが言う。彼女もまた剣を構えた。
その数秒後、ラーレが風を斬る。
その数秒後、ラーレが風を斬る。
――ほんの刹那の後、ラーレの剣の切っ先はマリーの首筋に迫っていた。
†††
「えっ?神姫バトルを始めてからずっと無敗だった!?」
香子ちゃんは静かに頷いて、彼女の肌理細やかで白い頬がうっすらと桃色に染まる。私はそんな仰天事実に開いた口が塞がらなかった。
「カトーさんの勧めで始めたんですけど...」
「そう。一戦目からずっと負けなし、四十七戦連勝。この店のオリジナルウェポン"チューリップ"を使いこなす戦い方は毒を持つ可憐な花そのもの。いつしか『プリンセス・オブ・ワイトドリーム』の通り名で呼ばれるようになった俺たちのアイドルだ!」
「そう。一戦目からずっと負けなし、四十七戦連勝。この店のオリジナルウェポン"チューリップ"を使いこなす戦い方は毒を持つ可憐な花そのもの。いつしか『プリンセス・オブ・ワイトドリーム』の通り名で呼ばれるようになった俺たちのアイドルだ!」
私と香子ちゃんはその声の主のほうへ顔を向けた。いや、私はその声が誰のものかわかっていたのだけれど、あまりのバカっぷりに向きたくなくても向いてしまったのだ。まわりで同調してる男の子たちもちょっとアレな感じだけど、こんなバカなことを堂々と言えるのはお兄ちゃんだけだろう。
「いつからいたの?」
「お前が負けそうになってたころから」
「お前が負けそうになってたころから」
お兄ちゃんの肩に乗ったアーニャがお辞儀をした。
「あ、あの...のどかさんと時裕さんってお知り合いなんですか?」
香子ちゃんは私とお兄ちゃんの顔を交互に見て言う。その様子が少しおどおどとしていて、私は不思議に思った。
「うん、知り合い、兄妹。ていうか、香子ちゃんがお兄ちゃんの名前知ってるほうがびっくりだよ」
「そりゃお前、俺は香子ちゃんファンクラブ(ナイツ・オブ・ワイトドリーム)の会員ナンバー一番だからな。当然だろ」
「よかった...」
「そりゃお前、俺は香子ちゃんファンクラブ(ナイツ・オブ・ワイトドリーム)の会員ナンバー一番だからな。当然だろ」
「よかった...」
『よかった』...?えーと、この何気ない彼女の言葉からとてつもなく危険な香りがする。
それだけはダメな気がする。なんというか、香子ちゃんの将来的に。
とりあえずお兄ちゃんのほうに警告しておこう。
それだけはダメな気がする。なんというか、香子ちゃんの将来的に。
とりあえずお兄ちゃんのほうに警告しておこう。
「ダメだよっ!妹と同級生の娘に手を出すなんて、大人として!」
私はお兄ちゃんの耳元で小さく言った。お兄ちゃんは何のことだ、という顔をしたのでそれ以上は何も言わなかった。
「しかし、俺は悲しいぞ、妹よ。そんな我らのアイドルをあんなふうに倒してしまうなんて。お前は香子ちゃんが可哀想だと思わんのか」
「いえ、負けは負けですし、私も調子に乗ってたんです。それにマリーさんはとっても強かったです」
「いえ、負けは負けですし、私も調子に乗ってたんです。それにマリーさんはとっても強かったです」
香子ちゃんの制服のポケットからラーレが顔を出してそう言った。
†††
――確かにラーレの剣の切っ先はマリーの喉に迫ろうとしていた。
しかしそれはあくまで迫ろうとしていたのである。
数ミリ手元を動かせば切っ先は間違いなく突き刺さる位置ではあったが、ラーレはそれ以上動けなかった。彼女の腹にはマリーの傘の先がピッタリと、一ミリの隙間もなく触れて、さらに両脇を、二本のクワガタの角のようなウォードレスの武装が挟み込んでいたからだった。
数ミリ手元を動かせば切っ先は間違いなく突き刺さる位置ではあったが、ラーレはそれ以上動けなかった。彼女の腹にはマリーの傘の先がピッタリと、一ミリの隙間もなく触れて、さらに両脇を、二本のクワガタの角のようなウォードレスの武装が挟み込んでいたからだった。
「少し、手元がブレましたわね」
マリーが言った。
†††
「人形は少しも狂いのない精密な造りであって初めて、価値があるのですわ」
マリーが私の頭の上をふわふわと浮きながら得意気にそう答えた。
「うむ、素晴らしい。それでこそ人形型武装神姫ノートルダムだな」
「細かい設定と調整はみんなお兄ちゃんでしょ」
「だから素晴らしいって言ったんだ」
「細かい設定と調整はみんなお兄ちゃんでしょ」
「だから素晴らしいって言ったんだ」
私は深くため息を吐いた。お兄ちゃんの無駄に自信満々な言葉に呆れたのもあるけれど、それをキラキラと輝く目で見つめる香子ちゃんにもちょっと呆れたからだ。
「さて、のどかちゃん、マリーちゃん。どうだった初めてのバトル、しかも勝利の味は?」
カトーさんが私たちにそう尋ねた。
私はマリーの顔を覗く。彼女もまた私のほうに顔を向けた。
私はマリーの顔を覗く。彼女もまた私のほうに顔を向けた。
「楽しかったですわ」
「そうだね、楽しかった」
「そうだね、楽しかった」
それはよかった、とカトーさんは笑った。
「香子ちゃん、今度またバトルしようね」
「ええ。次は負けませんよ」
「ええ。次は負けませんよ」