武装神姫SSまとめ@wiki内検索 / 「ドキハウBirth その5」で検索した結果
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ドキハウBirth その5
東条学園の最大の特徴は、中高大・大学院の一貫教育に加え、専門学校の課程も持っている事である。 2010年以前の東条学園は中高大院の一貫教育のみを有するごく一般的なエスカレーター校であったが、『学園の冬』と呼ばれる2010年代の受験戦国時代の終焉に伴って生徒数が激減。同時期に施行された学校教育法の改正に合わせ、同様の原因で廃校・閉校の危機に追い込まれていた各種専修学校を次々と併合していった事に端を発する。 多くの私立大学も東条学園と同様に専門学校を併合していったが、併合後は専門学校の課程を大学の一部として組み込んでいった。これに対し、東条学園は専門学校は専門学校のまま、大学とは別のセクションとして扱うスタンスを取っている。 これにより東条学園は高度教育に主眼を置く大学だけでなく、即戦力を育成する事に特化した専門学校としての顔も持つことになった。 現在東条学... -
ドキハウBirth その1
かたん。かたたん。 規則正しい揺れの中。時折重なるのは、レールの継ぎ目を走り抜ける時の軽い縦の揺れ。 かたん。かたたん。 けれどそれすらも、長い譜面に起こしてみれば、規則正しいのリズムの中に。 単調すぎる旋律と、窓から差し込む柔らかな春の陽差しは、張り詰めた神経を緩ませ、眠りの中に誘うには十分すぎるもので。 かたん。かたたん。 軽く腕を組んだまま、頭の動きは電車の揺れに緩やかに連動。瞳を閉じ、小さく開いた唇からは、列車のリズムよりもさらにスローテンポな寝息が漏れている。 かたん。かたたん。 その気怠くも穏やかなリズムの中に響くのは、鼻にかかった車掌の声だ。 「次はー。とうじょうー。とうじょうー」 スピーカーから流れる声も、慣れたもの。車内に良く通りながらも、単調で穏やかなリズムを崩す気配もない。 か... -
ドキハウBirth その8
注:18禁描写ありのお話です。嫌いな方はご注意下さい。 十五センチのパートナーを肩に乗せ、少年は街を歩いている。 行くアテはあるが、そこがどこかは分からない。簡単に言えば迷っているのだが、今の少年にはそれすらも気にならなかった。 「ね、峡次さん」 肩に腰掛けた少女の声に、少年は柔らかく言葉を返す。 「んー? どした、ノリ」 通りに面したショウウィンドーをひょいと覗き込めば。そこにはバイザーを上げて微笑む、相棒の姿が映っている。 「真直堂に、戻るんですか?」 その言葉に、ショウウィンドーに映った峡次の顔が、わずかに歪む。 「……ヤなこと思い出させるなよ」 正直、あの店に兄がいた事については、未だに気持ちの整理がついていない。兄と殴り合った事は気にしていないが、あの店に再び足を踏み入れる気になるにはもう少し時間がかかりそうだった。 「よかった... -
ドキハウBirth その7 後編
交差点の向こうに走り去る少年の背中を見て、男は静かに呟いた。 「……行っちまったか。峡次のヤツ」 腫れ上がった頬をさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。全力で山ほど殴られた所為か、まだ頭にはわずかに揺れる感覚が残っていた。 「何とかなる……と思いたいですけれど。あの子も一緒ですし」 引き抜いた刃を白鞘に納めつつ、サイフォスタイプの少女は肩をすくめてみせる。 峡次がオーナーに向かって駆け出したとき、彼女は彼からしっかりと飛び離れていた。その代わり、鳥小に投げられて倒れ込んだ彼の元には、一番最初に駆け寄っていた。 「そうでないと、困るけどな」 辺りを見回しても姿が見えないから、今もきっと一緒にいるはずだ。 たぶん。 少々反応の鈍い娘だから、途中でふり落とされてなければいいけれど……と、少女は心の中で祈りを捧げた。 「……オーナー」 「俺もちょっとはしゃぎすぎた... -
ドキハウBirth その6 後編
注:18禁描写ありのお話です。嫌いな方はご注意下さい。 「そっか。アテられちゃったのね……」 俺にもたれる千喜の頬にそっと触れ、鳥小さんは静かにそう呟いた。 「ごめんなさいね。峡次クンに任せっきりにしちゃって……」 「そりゃ、構いませんけど……大丈夫なんですか? 千喜のヤツ」 今はそっちの方が心配だった。超能力の事じゃ俺には何も出来ないだろうけど、心配するくらいはしてもいいはずだ。 プシュケもノリも、俺の肩に乗って心配そうに千喜を見つめてる。 「鳥小さぁん……」 抱き付く……というより、倒れ込んできた千喜を抱き留めて、鳥小さんは俺に視線を投げてきた。 「峡次クン。お店に行く前に……ちょっと、寄り道していい?」 千喜を立ち上がらせるのに手を貸しながら。 「はぁ。俺に出来ることなら」 俺はとりあえず、首を縦に振っておいた。 マイナス... -
ドキハウBirth その4
「……なるほどねぇ」 床の上にぺたんと座る小さな姿に、娘は軽く頷いてみせた。ミニスカートであぐらを掻いて、傍目にはあまりお行儀のいい格好ではない。 「はい。だから、峡次さんは悪くないんです。わたしが混乱しちゃって……」 けれど、身長十五センチの少女がみっともないそれを咎める様子はなかった。ぴったりと閉じた太腿で裸の下半身を覆い、涙を浮かべる彼女にそんな余裕があるわけもない。 小さな少女に優しく微笑んでおいて、娘は横下方に顔を向ける。 「ノリの言ってること、嘘じゃないでしょうね」 そのいきなりの変貌に、ノリと呼ばれた小さな少女はひっと身をすくめ。 「この期に及んで嘘なんかつくかっ」 少年の声が、乱暴に言い返す。 「……ノリに無理矢理言わせてもいませんわよね?」 少年……峡次の声を封じるのは、三人目の少女の声。 半裸のフォートブラッグに薄手のハンカチを纏わせ... -
ドキハウBirth その12
注:18禁描写ありのお話です。嫌いな方はご注意下さい。 「えー。では、工業概論テキスト23ページを……誰に読んでもらおうか」 静かな教室に響くのは、ホワイトボードを走るマーカーの音と、老教師のしわがれた声だけだ。 品質の向上こそあるものの、ホワイトボードにマーカーという定番の組み合わせは20xx年においてもいまだ健在。ひと昔前の近未来アニメで流行った黒板サイズの液晶ディスプレイも、無いわけではないが……この最大派閥の牙城を崩すまでには至っていない。 「そうだな……。武井」 「……はい」 呼ばれた少年は立ち上がると、教科書を声に出して読み始めた。彼の読む教科書もノートPCやペーパーディスプレイなどではなく、昔ながらの製本された紙タイプのもの。 『え? 千歳ちゃん、GS1.13って買ってもらったの!?』 武井少年の声だけが響く教室に、少女の大声が木霊し... -
ドキハウBirth その7 前編
俺が二人のしていたことを聞いた話に、千喜達は別段腹を立てた様子もなかった。 ベルが取りなしてくれたのもあるんだろうけど……鳥小さんはともかく、千喜は絶対に怒ると思ったんだけど。 「……やっぱり、ヒいた?」 逆に、どこか恐る恐る……といった感じで、そう聞いてきただけだった。 「……読んでるんじゃねえのか?」 特に気にしてはいなかったけど、俺の手には千喜の指先が触れている。触れ合っていれば千喜の思いとは関係無しに思考が流れ込んでくるのが、千喜の力だったはずだけど……。 「一度に使いすぎるとね……ちょっとだけ、使えなくなるの。今は読めないよ」 「そっか」 鳥小さんとプシュケと、自分自身。三人分のエッチなイメージを一気に流し込まれれば、能力だって使い切っちゃうよな。 「この力、一応ナイショなんだけど……知ったらヒく人って結構多いんだぁ。だから、イヤだったらちゃんと言って... -
ドキハウBirth その11 後編
「どうしてこんな事に……」 武井峡次は呆然とコンソールに着いたまま、呆然とそう呟いていた。 朝から大企業の研究所に来て。 そこのスタッフに会わされて。 自分の神姫の意外な魅力に気付かされた挙げ句……。 気が付いたら、自分の神姫『と』初バトルである。 「ドレスコードの指示、静香ちゃんしか出来ないしねぇ……」 で、ではない。 と、である。 「ええ。今日のメインはあくまでも、ノリコさんと静香ですから」 峡次の着くコンソールに表示されているのは、自らの神姫であるフォートブラッグのステータスではない。 犬型のハウリンタイプと、天使型のアーンヴァルタイプ。 しかも、ステータスに表示されたランクは、どちらもセカンド以上。殊にハウリンに付けられたイリュージョンの格付けは、バーチャル限定ながらファーストとほぼ同等のものだ。 「花姫への指示は私が行います。峡次さん... -
ドキハウBirth その6 前編
「わぁ……」 少年の肩の上で、小さな少女は感嘆の声を上げた。頑なに閉じていたバイザーを上げ、子供のようにはしゃいだ声を上げている。 「峡次さん、すごいです! はやーい!」 少女の目の前にあるのは、少女の何倍もの大きさのガラス窓。その向こうでは、最高時速九十五キロの風景が途切れることなく迫っては流れ消えていく。 少女たち神姫にも高機動装備はあるが、さすがにこれだけのスピードを出すことは不可能だ。 「良かったわね、ノリが嬉しそうで」 きらきらと瞳を輝かせる小さな少女に、峡次の傍らにいた娘達も穏やかな笑みを浮かべている。 「ああ。でも、千喜は良かったのか? こっち来て」 峡次が鳥小と合流して東条の駅に着いたとき、駅で待っていたのは千喜だった。巴荘のもう一人の住人が家に戻っていると知り、一度は峡次達と別行動を取る事になったのだが……。 「倉太、疲れてたし、すぐ寝ちゃった... -
ドキハウBirth その9 前編
闇の中に流れたのは、単調なトーンで刻まれた電子音だった。 和音にMIDI、MP3と順調に進化を続けてきた携帯の着信音。20xx年現在のブームは、ふた巡りを過ぎてシンプル極まりないBEEP音だ。 「もしもしぃ……」 続くのは、愛らしい少女の声。どん底のテンションは、彼女が寝起きであることを示していた。 「あ。もしもし、あたしー」 それとは対照的にテンションが高いのは、携帯のスピーカーから流れる女の声だ。少女が知るよしもないが、よほど気分のいいことでもあったらしい。 「あたしあたし詐欺はもう三十年前に絶滅しましたよ、教授……」 「今日のお昼頃にさ、二階のバトルセンターに行ってきて欲しいんだけどなー。っていうか行けー」 少女の皮肉を颯爽と無視しておいて、教授と呼ばれた女性の声は自分の用件だけを一方的に紡いでいく。 「えぇぇ。言われたレポートで三徹して、超眠いんですけど... -
ドキハウBirth その9 後編
長い長い坂を上り、その先にある門を抜け。 車が止まったのは、広い駐車場の一角だ。 「……俺はここで待ってるわ。どうせ中、禁煙なんだろ?」 そう呟いて、運転手の男はタバコに火を着けた。彼は一同をここに連れてくる事だけが目的で、それ以上のことをする気はないらしい。 「あ……うん」 助手席で途方に暮れていると、ドアが開かれるのは外側から。 「さ、降りて。十貴子ちゃん」 長身の青年のエスコートを受けて。十貴子と呼ばれた少女は動きを止めたままの相棒を胸に抱き、並ぶ校舎の奥へと進んでいく。 歩きながら目に入るのは、大ホールに会議場、体育館に講義棟。つい先日、入学試験の受験会場として使われたそこは、十貴子の記憶にもまだ新しい。 東条学園。 それが、この場所の名だ。 「少し……急ごうか」 すいと十貴子の手を取って、青年の歩みが速くなる。十貴子の歩幅に合わせてくれて... -
ドキハウBirth その10 後編
神姫BMA公式仕様のバトル筐体コンソール。 「いいかい? ジル」 ハーモニーグレイスの腰に専用の可動装甲を背負わせてやりながら、少年は静かにその名を呼んだ。 「はい! ……っとと」 僅かにずれた重量バランスに倒れそうになりながらも、十五センチの少女は何とかバランスを立て直す。 「大丈夫?」 「な……なんとか……。ドライバは標準ので、いいんですよね? 十貴……さん」 頭部装甲を被り、腕の補助装甲をセット。もう一度バランスを整えるために、小さくくるりと回ってみせる。 「じゃ、続けるよ」 その初々しい姿に、どこか喜びきれない思いを覚えつつ。十貴と呼ばれた彼女のマスターは説明を続ける。 「君はまだ起動して、ちょっとしか経ってないよね。だからまずは体を慣らすのと……自分の武器をどういう使い方をすればいいのかから、確かめていこう」 デフォルトの武器は三つ。 燭台型... -
ドキハウBirth その11 前編
「うめー! 米うめー!」 湯気の立つ真っ白なご飯が、勢いよく口の中に押し込まれていく。 「ノリコも食え。ネギ塩カルビ、マジうめぇぞ」 炊飯器から新たなご飯をよそいながら、少年はテーブルの上に腰掛けた十五センチの少女に向けて声を掛ける。 「あの……峡次さん?」 少女も十二分の一スケールの茶碗と箸を器用に使いつつ。 遠慮がちに、主の名を呼んでみた。 「ネギ塩カルビって、カルビ抜きでもネギ塩カルビって言うんですか……?」 テーブルの上にあるのは、ネギ塩カルビのカルビを抜いたもの。 要は、塩で味付けされたネギの丸焼きだ。 ちなみにノリコの皿にも、千六本にされたネギを軽く炒めたものが山盛りになっていたりする。箸でつまみ上げればくたりと力なく曲がるそれは、ネギというより太めの素麺に近かった。 「だったら、ネギタン塩タン抜きでもいいけど」 「はぁ……」 ネギまと... -
ドキハウBirth その3後編
注:18禁描写ありのお話です。嫌いな方はご注意下さい。 鳴ったチャイムにドアのレンズを覗き込めば、そこにいるのは見知った顔だった。 鍵を開けて、ドアを開く。 立っているのは、笑顔の美人。 「おかえりなさい! 鳥小さん」 柔らかな鳥小の笑顔に、少女も笑み。 「ベルが千喜ちゃんの部屋に来てるってメールもらったから、迎えに来たんだけど……」 「はい、鳥小」 答えたのは千喜ではなく、彼女の右肩に立つ小さな姿だ。玄関の段差のおかげで同じ高さになった目線で、ふたり穏やかに笑い合う。 「ベル。峡次クンの力にはなってあげられた?」 微笑みながらの主の問いに、小さなベルがはいと答えようとすれば。 「すごく助かったって言ってたよー。ね、プシュケ」 「ええ。ベルのサポートがなければ、あそこまで早く終わらなかったはずですわ」 それより早く言葉を紡ぐのは、千... -
ドキハウBirth その2後編
時計の長針が十二に移ると同時、短針が八を指す。 かちりというかすかな音がして。続いて響き渡るのは、朝の静けさを打ち破るベルの音だ。 リリリリリリリリ…………。 「みゅぅぅ……」 クレイドルの上。むくりと起き上がった小さな影は、恨めしそうに机の上の時計を睨め付ける。 彼女が眠るクレイドルも、同じ机の上に置いてある。もっと細かく言えば、時計のすぐ隣に。 「……うるさいですわね」 大きなあくびをしながら、聴覚センサーから入ってくる音量情報を少しばかりフィルタリング。耳障りなベルの音だけが意識の外へと追い出されるよう、調整をかける。 朝の静けさが戻ったところで、主の名を呼んだ。 「朝ですわよぉ、マスター……」 けれど、傍らのベッドで丸まっている毛布の塊からは、何のリアクションも帰ってこない。 「マスターってばぁ……」 もそもそとクレイドルの上を... -
ドキハウBirth その14
いきなりエロですすいません。 テーブルの上に広げられているのは、何冊もの教科書と参考書。その間を埋めるようにして広げられた、コピーとノート。 教科書を読んで覚える。 ノートに書いて覚える。 20xx年の日本でも、テスト勉強の方法は半世紀前とさえ大して変わらない。 「じゃ、次の問題。人工知能基本法で規定された、ヒューマノイドタイプロボットの最大サイズはいくら?」 それを証明するかのように、少年の向かいに座った少女はコピーの束を片手にそう問い掛けた。 「六百ミリ。頭頂高な」 「正解」 「……んっ」 「………んむぅ……」 少年が答え、少女が評価をすると同時、テーブルの下から小さな声と音がする。 「じゃ、次ねー。人工知能基本法第四条の全文を答えよー」 コピーの束を右手に持って、左手は床に突いたまま。両足を投げ出して座る少... -
ドキハウBirth その3前編
……system memory check......ok ……core unit check......ok ……body unit check......ok ……CSC #1 check......ok ……CSC #2 check......ok ……CSC #3 check......ok ……type FORT BRAGG......loading......ok ……operation system boot...... プラスチックの箱の中。 彼女の意識は、闇の中から浮かび上がった。 「システムの起動を確認しました」 半身を起こせば、目の前にいるのは一人の少年だ。 まだ体が命令に付いてこない。機械の少女はテーブルの上、ぎこちない動きで立ち上がり、マスターであろう彼をゆっくりと見上げる。 小さな唇が動いて、システムから送られてきた言葉... -
ドキハウBirth その16 後編
千喜の呼んだ名前を理解するまで、プシュケにはほんの少しだけ、時間が必要だった。 「……ジル?」 「ほら、お兄ちゃんとこの」 千喜には兄がいる。それは、プシュケもよく知っていた。 大して密な付き合いではないし、名字は離婚した父親の側になってもいるが……兄妹の仲がそれほど悪いものでは無いことも。 「いえ、あの、千喜………」 それはちゃんと知っているのだが……。 「大丈夫ですか?」 プシュケはあえて、そう問うた。 「何がよ」 「具体的に言えば、脳?」 「脳言うな!」 耳元から少女の怒鳴り声が聞こえてくるが、むしろそれは相手のお脳が残念なことになっていない証拠でもある。 若干、うるさくはあるが……判断力は、まだ正常な域にあるらしい。 「けれど、十貴さまの神姫はストラーフでしょう?」 プシュケの目の前にいる神姫は、シスター型神姫。多少手が入ってはいるよう... -
ドキハウBirth その13 前編
注:このお話には、特定のキャラクター(神姫SSwiki内の他作品の登場人物ではありません)のイメージを大きく誇張・歪曲した表現が使われています。主に二次創作の苦手なかたはご注意下さいませ。 また、本編読了後に特定のキャラクターのイメージが大きく変わってしまう可能性があります。途中でその危険性を感じ、またそれを望まない場合は、速やかに更新履歴・もしくは作品別直リンク・バックスペース等で他ページへの移動をしていただくようお願いいたします。 眼前に広がるのは深い森。 風が吹けばざわざわという葉擦れの音が響き渡り、空を仰げばそこでは白い雲がゆっくりと流れていく。 吹き寄せた風が孕むのは、濃い緑と土の匂い。 「で……ですね。峡次さん」 その森を見下ろす丘の上。赤い旗の結わえられたポールを立てながら、少女はぽつりと呟いた。 「……なんだ、ノリ」 ... -
ドキハウBirth その13 後編
注:このお話には、特定のキャラクター(神姫SSwiki内の他作品の登場人物ではありません)のイメージを大きく誇張・歪曲した表現が使われています。主に二次創作の苦手なかたはご注意下さいませ。 また、本編読了後に特定のキャラクターのイメージが大きく変わってしまう可能性があります。途中でその危険性を感じ、またそれを望まない場合は、速やかに更新履歴・もしくは作品別直リンク・バックスペース等で他ページへの移動をしていただくようお願いいたします。 最初に報告を上げたのは、通信士兼レーダー手のD2だった。 「敵本隊、動きました! 来ます!」 ノリコもバイザーに映るレーダーを最大まで拡大する。激突する右翼と左翼のちょうど中間あたり、砲撃射程のはるか外に、動く大きな機影が見えた。 「ノリ、チャージ完了だ!」 「はいっ!」 フルレンジのレーダーで照準は合わせら... -
ドキハウBirth その16 前編
トイズ・メッセンジャー本社、スタッフルームを兼ねた二階のオフィス。ノックも挨拶もなく入ってきたのは、淡い色の髪を短く切り揃えた少女だった。 「……ただいま……」 続く少年は、先の少女のような途切れ気味の物言いで帰還の挨拶をしてみせる。 「案外早かったのですね」 「おかえりなさい、峡次さん!」 迎える声は、接客用のソファーとテーブルから、一つずつ。 「百式、新入りは使い物になりそうですか?」 「さあ? そこまでは分からないけど」 百式と呼ばれた少女はオフィスの隅の冷蔵庫からスポーツドリンクを二本取り出しながら、ソファーからの声を軽く流してみせる。 「相変わらず愛想悪いコですね。ミドリみたいにスーパープリティーじゃないのですから、ちょっとは愛想良くしないと男にモテないですよ?」 空になったリユースペットボトルを専用と書かれたカゴの中に放り投げ。自身のロッカーから薄... -
ドキハウBirth その10 前編
闇の中。 霧の中。 途切れ途切れに灯る街灯の下に立つは、コートをまとった小柄な影。 朝霧の中、ずっとその場に立っていたのだろうか。コートの表面はうっすらと湿りを帯び始めているが……それでも彼は、その場から動こうとはしない。 やがて照度センサーで働く街灯が輝きを失い、入れ替わるようにして淡いオレンジの波が広がっていく。 辺りが穏やかな温もりに満たされる頃、コートの少年に掛けられたのは、男の声だ。 薄手のカーディガンに、淡い色のチノパン。重いコートとは対照的な、春の朝に相応しい軽装である。左手に提げられた小さなアタッシュケースだけが、唯一異彩を放っているが……陽光の中に沈む暗いコートほどではない。 「……十貴君」 驚きか、呆れか。もしくはその両方を含んだ声が、朝の光の中、少年の名を紡ぎ出す。 「……倉太さん」 コートの少年は疲れたように顔を上げ、男の名前を... -
ドキハウBirth その2前編
柔らかな湯気の立つキッチンに響いたのは、似つかわしくない鞘走りの音だった。 「……参ります」 ちゃき、と刃を冷たく鳴らし。作り付けの調理台の上、白い影が疾走する。小さいながらも人型のそれは、左右の手にその身ほどもある長い刃を一振りずつ掴み、最初から全速力。 レースのあしらわれた衣装をなびかせ、ふた振りの長刀を構え走るその姿は、さながら地を駆ける飛鳥の如く。 だが、いかに身長十五センチの身とはいえ、巴荘の調理場は全力疾走するには手狭に過ぎる。相手の姿を捉え、最速に達したときには既に次の段階へ。加速を剣速に置き換えるべく、足の動きを疾走から斬撃の準備形へと切り替えている。 まな板の上で強く踏み込み。 スカートの裾が、進む方向にひるがえった。 「……斬」 小さく呟くその刹那。大きく広げられた白刃の翼は、二条の銀光に姿を変える。 「……終わりました、鳥小」 そう... -
ドキドキハウリン その5
「ん……?」 カチカチと鳴るキーボードの音で、ボクは目を覚ました。 「どうしたの? ジル。なんか調べ物……?」 ボクの部屋のもう一人の住人が何かしているのだろうか。軽く身じろぎして、布団の中から顔を出す。 「んぅ……」 白み始めた窓の外。時計を見れば、まだ六時。 今日は日曜だから、わざわざこんな時間から起きることないのに。 「ん? あたしじゃないぜ……?」 ベッドサイドにあるベッド……それも変な表現だけど、ボクの神姫はいつもそこで寝ているのだから、仕方ない……から、ジルも眠い目をこすりながら起き出してくる。 キーボードの犯人はジルじゃない。もちろん、ボクでもない。 じゃあ、誰が……? 明かりの灯るディスプレイの方を見れば、そこにあるすらりとした背中は……。 「……静姉」 隣の家の住人、戸田静香だった。 魔女っ子神姫ドキドキハウリン その5... -
ドキドキハウリン その9後編
閃光弾の輝きを左手で遮りながら、エストはどこか満足そうに呟いていた。 「師匠」 光の中から聞こえるのは、狼にも似た勇ましい咆吼。 「何だ?」 「いよいよ本番ですね」 攻撃はない。 あるはずがないと、分かっていた。 故に、エストはこうして待っている。待っていられる。 「まあ、そういう事だな」 師匠もそれが分かっているのか、悠然と構えたまま。 「さて。お手並み拝見と行きますか」 「ようやっと吾輩の出番であるな!」 閃光が収まっていく中。エストはカードホルダーから二枚目のカードを引き抜き、構えた剣に滑らせる。 変身したココはマイクスタンドに小型砲を連結させ、長杖と化したロッドを構えて叫ぶ。 「ドキドキハウリン、Rising!」 -AD-VENT!- それと同時。 虚空から現われた蝙蝠型のメカが、エストの背中に翼となって接続さ... -
ドキドキハウリン その1
ヒュゥン……。 軽やかな作動音と共に、私の意識は覚醒した。 機体各所の動作チェックの終了を受けて、ゆっくりと視覚素子を起動させる。 目の前にあるのは、人間の顔。 性別は女性。まだ少女と呼んだ方がいいのか、幼さの抜け切らないあどけない表情で、こちらをにこにこと見つめている。 「おはよう。気分はいかが?」 「あなたは……マスターですか?」 いきなりの問いに少女は面食らったのか、軽く目を見開いた。 「あの……」 けれど、マスターの認証は私達神姫にとって一番大事なこと。マスターを定めなければ、私はどう振る舞えばいいのかさえ分からないのだから。 「ふふ、せっかちなコね?」 艶やかな長い黒髪を揺らし、少女はくすりと笑う。 「……申し訳ありません。慣れていないもので」 「いいわ。考えたら、あたしも初めてだもの」 少女の手が私の方へ... -
魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン
魔女っ子神姫 ドキドキ☆ハウリン あらすじ この物語は、魔法世界ドキドキ☆ワールドから不思議な杖を受け取った鋼の少女が、 全世界を愛と幸せで満たすために全世界に散らばる百人の魔女っ子神姫を相手に壮大な マジカルバトルを繰り広げる…… ……ような話では全然なくて、ワガママなマスターに引きずり回される普通の神姫の普通のおはなしです。 なんか全体的にエロとゆーかセクハラ発言多めですが、世界を愛と幸せで満たす一環ということでご容赦下さい。 あと、>エロあり のページは18禁シーンがありますので、18歳未満のマスターさんは見ないでくださいね。 コラボも歓迎です。 特に制限などありませんので、入り用でしたらご自由にお使い下さい。 殺されては困りますが、がっつりエロもどんとこい……というか、むしろ見たiうわなにをするやめあqwせdrftgyぶ... -
ドキドキハウリン その3
魔女っ子神姫ドキドキハウリン その3 だらしなくベッドに寝ころんだ静香の顔は、今までに見たことがないほど険しい物だった。 「うー……」 目の前のノートが真っ白なのだ。 もちろん学校の宿題などではなかった。 傍らに私の写真が何枚か置いてある所を見ると、どうやら新しい衣装のアイデアを考えているらしい。 「思いつかない……」 静香が悩むなんて、珍しい。 眉間には見たこともないほど深いしわが寄っている。 これが、いわゆるスランプというやつだろうか。 (そうだ) 私はふと、前にネットで見た情報を思いだした。 感情がトゲトゲしくなったときに、落ち着くための方法を、だ。きっと悩んでいる静香にも効果があるだろう。 「あの……静香」 おずおずと静香の傍らに腰を下ろし、そのままころりと寝ころんだ。 「んー?」 澱んだ瞳で、こちらをぼんやりと見遣... -
ドキドキハウリン その21前編
それは、秋葉原の事件があった日の、帰りのこと。 「ごめんなさい」 のんびりと揺れる車の中、静姉はボク達にぺこりと頭を下げた。 「ご迷惑をお掛けしました」 静姉の肩の上で、ココも頭を下げている。 「仲直り、したみたいだね」 「はい。十貴にも心配掛けました」 ココの表情に今までのような陰りはない。肩の力の抜けた笑みに、ボクもようやくひと安心。 「全部話したみたいだね。静香」 そう言うジルはボク達のいる後部座席には座っていなかった。助手席の背もたれの上、ヘッドレストにもたれ掛かるよう、こっち向きに座ってる。急ブレーキを掛けたら危ないよっていつも言うんだけど、彼女がそれを聞き入れる様子は未だにない。 ま、今日はゆっくり走ってるから大丈夫だろうけど。 「ええ」 「そっか……」 ジルの言葉に、静姉も穏やかに笑ってる。 「……ホント、心配したんだからね?」... -
ドキドキハウリン その13
ふわふわと、石鹸の泡が舞っている。 「静香は、こうなることが分かってたんですか?」 「何のこと?」 私の頭にシャンプーの泡を乗せながら、静香は優しく問い返す。 「ファンホアンの事です」 今だから言うが、大型装備の使い勝手は想像を絶するものだった。ジェニーやねここは、一体どれだけの努力をして使いこなせるようになったのか……。 少なくとも、私が一朝一夕で使えるようなもので無いことだけは確かだった。 「ココは、自分で理解しないと納得しないでしょ?」 静香はくすくすと笑いながら、私の頭を泡で包んでいく。擦り合わされる指先の感触が気持ち良くて、私はそっと瞳を閉じた。 「……はい」 断じて、泡が目に入ると痛いからじゃない。 「ほらココ、腕出しな」 目を閉じていると、右手をそっと取り上げられる感触が来た。 言われるがままに腕の力を抜けば、神姫サイズに切り取られた... -
ドキドキハウリン その9前編
「えーっと……頼まれものはコレで、後は……」 そう呟きながら男がカウンターに置いたのは、長方形の小さな箱と、小洒落たデザインのガラス瓶だった。蛍光灯の光を受けてきらきらと輝くのは、瓶の中にたゆたう金色の液体だ。 「ココちゃんが使ってるの、このオイルだったよね。確か」 ラベルにも凝った意匠が施されていて、一見すれば最高級のオリーブオイルか蜂蜜酒か、といった所だが……。 そんな物をホビーショップで扱うはずがない。 れっきとした、神姫用の消耗品だった。 「ええ。ハームレスの純正オイル、この辺りじゃエルゴにしか置いてないんですよねー」 金色の機械油のラベルを見遣り、少女は柔らかく微笑む。 オイルに払った金額は、消耗品の棚に並べられている神姫用純正機械油に比べて随分と多かったが……それでも満足そうな表情を崩さないあたり、その対価に十分な価値を見いだしているらしい。 「ま... -
ドキドキハウリン その10
軽い音と共に自動ドアが開く。 「いらっしゃいませー」 来店者の娘を迎えたのは、いつもの店長の野太い声ではなく、柔らかな女性の声だった。 かといってレジにいる胸像の落ち着いた声でもない。まだ年若い、少女といって差し支えない声。 「あら、貴女……」 その姿に来店者が示した感情は、驚きのひと文字だった。 「鈴乃さんは会ったこと無かったかしら? 戸田静香さん。時々だけど、お店を手伝って貰ってるのよ」 「そうなんですの、ジェニーさん」 胸像……ジェニーの言葉に、少女のエプロンに付けられた名札を確かめれば、なるほど『アルバイト』とある。 だが、鈴乃に思わずそう呟かせたのは、このホビーショップにバイトが居た事ではない。 「どうかしましたか?」 娘の態度に首を傾げつつ。カウンターから出て来た静香の耳元に、鈴乃は小さな声で囁いた。 「ふふ。この間は、小さな彼女と四人でお... -
ドキドキハウリン その15
「無茶苦茶なコンセプトだな。私が言うのも何だが……正気とは思えんぞ?」 「店長にもそう言われました」 「だが、そこまで否定されてもやる気なんだろう?」 「そっちのほうが面白そうですから」 「……気に入った。調達してやろうじゃないか。連絡先は日暮の所で構わんか?」 「あ。携帯の番号でもいいですか?」 店の奥から静香と店長が出て来たのは、私とロッテの話がひと段落した時だった。 「終わったんですか? 静香」 「ええ。晶さんのおかげで、目処がつきそう」 店と言っても、いつものエルゴじゃない。静香と一緒に出て来た店長も、エルゴの日暮店長じゃなくて、こど……。 「……ココ。それ以上言ったら、マイスターの膝が飛びますの」 「神姫に対しても容赦無しですか」 人のモノローグ読まないでくださいロッテ。 「いくら私でも、そこまで情け無用じゃないぞ?」 うわ聞こえてた... -
ドキドキハウリン その17
32インチワイドのモニターに映し出されているのは、随分と横に膨れた少年の顔。2036年現在では中型の部類に入る液晶ディスプレイを一杯に占領したそれは、お世辞にも見栄えが良いとは言えなかった。 「ガブリエルの調整がてらに繋いでみりゃ、随分と情けないザマじゃねえか。ゲン?」 スピーカーを兼ねた液晶パネルがビリビリと揺れ。少年の奇妙に甲高い声を、5.1chサラウンドも裸足で逃げ出すほどの高音質で再生する。 「すいません、大紀サン」 科学技術の無駄遣いとしか言いようのない滑稽な光景だったが、そんな事を思う余裕も自信もなく、ゲンと呼ばれた少年はディスプレイに向かって頭を下げるだけだ。 「今日はメンバーが足りなかったんスよ。サードの連中ばっかで、仕方なく数揃えたんですが……やっぱサード程度じゃダメッスね」 通信相手の名は、鶴畑大紀。 このビル……ひいては神姫バトルミュージアムの... -
ドキドキハウリン その6
「ココ……」 閉ざされた意識の中に、声が響き渡る。 「ココ……」 涼やかな、優しい声だ。 「……誰?」 闇の中、私の声が小さく響く。 答えるように浮き上がったのは、白い細身の体と、それとは対照的な大きな翼。 アーンヴァルに似ていると、何となく思った。 「私はプリンセス・ブルーム。魔法世界ドキドキ☆ワールドを治める者です……」 大きな翼が揺れるたび、小さな白い羽根がひらひらと闇を舞う。 「……何でそんな人が」 輝く白い羽根に照らされて、花の姫君を名乗った神姫は物憂げな顔を見せる。 「時間がないのです。貴女に、この力を託したい……」 「力?」 思わず言葉を反芻すれば。 腕の中に生まれたのは、細く長い輝き。 「これは……」 腕先ほどの長さのある、短めの杖だ。 そっと掴めば、驚くほどに軽い。 「このドキドキ☆ロッドで、貴女は魔法を使える姿... -
ドキドキハウリン その11
「静香。本当に、これでいいんですか?」 与えられた短めのベストを羽織りながら、私は静香に問い掛けた。 「約束でしょ? せめてそれくらいはいいじゃない」 さっきまで私の着ていたダッフルコートとセーターをトートバッグに片付けて、静香は苦笑する。 「いえ、それはいいんですが……」 ベスト着用は、私の戦闘に集中したいという意見に静香が出した妥協案だった。いつものような格好をしない代わり、せめてこれくらいは着て欲しいのだという。 それは問題ないのだが、私が言いたかったのはベストのことではなかった。 「ライトセイバーだけ、ですか」 私に与えられた装備は、アーンヴァル用のライトセイバーが一本きり。 他には火器はおろか、ナイフ一本もない。 「いくらあたしでも、そんな昨日の今日で新兵器の調達なんか出来ないわよ」 いくら静香が神姫の武装を持っていないと言っても、私の基本セッ... -
ドキドキハウリン その4
アーケードを、風が駆け抜けていく。 冬の風は冷たいけれど、寒さを寒さと感じない私の体にはあまり関係がない。感じるのは、左右に分かれ流れていく景色の快さと、風のぶつかる心地良さだけ。 「ねえ、ココ」 静香の言葉と共に、変わっていく風景の速さが鈍り、風も勢いを弱めた。 風の源。 自転車の速度を、緩めたらしい。 「何ですか? 静香」 カゴの中、トートバッグの指定席から振り向けば。静香の視線は正面ではなく、やや外れたところに向けられていた。 「あれ見て、あれ」 あるのは、神姫を扱うバトルセンターだ。 家の近所と言うこともあって、静香もよく対戦に寄る行きつけの店だけれど。今日はあそこには用がなかったはず……。 「分かんないかなぁ。あれよ、あれ!」 「……はぁ」 あれと言われても……。 次の大会の予定表に、新しく発売されたオプションのポスター。昨日通った... -
ドキドキハウリン その19前編
秋葉原の事件から、一週間が過ぎた。 相変わらずの静香の部屋。いつもと違うのは、机の上に置かれた小さな段ボール箱の存在だ。 「さすが晶さん。ウチとじゃ精度が全然違うわね」 中に入っていた簡潔なマニュアルを眺めながら、静香は感嘆のため息を吐いている。 「……静香」 私も『それ』を取りだして、小さくため息。もちろんそれは、静香の感嘆とは質の違うものだ。 「これを、私に内緒でやろうとしてたんですか?」 コンセプトも、使い方も、今回はちゃんと静香から説明を受けていた。静香の作った試作品を使っての稼動テストも、既に終わっている。 それを重ねるたびに、ため息の量が増えるのは……ある意味、仕方ないと言いたいわけで。 「そうよ。悪い?」 いやそんなあっさり言われても。 「嫌がらせにも程がありますよ」 「嫌がらせだから当たり前でしょ」 「……あぅぅ」 私に対する今ま... -
ドキドキハウリン その18
目の前に広がる世界の全てが、灰色に見えていた。 果てしなく伸びていく灰色のアスファルト。 視界の左右を覆う灰色のビル。 歩く人間達の姿は皆一様の灰色で。 見上げた空でさえ、灰色だ。 灰色。 灰色。 灰色。 全て灰色の街。 朝通ったばかりの道のはずなのに。世界がこんなに灰色だなんて、思いもしなかった。 灰色の中。 灰色の喧騒を抜け、灰色の路地を歩き、また灰色の大通りへ。 この街では神姫の一人歩きなど珍しくもないのだろう。灰色の人間達は、私の存在など見えていないかのように無言で歩いているだけだ。 やがて、灰色の交差点へ。 歩みを止める。 目の前のビルにあるのは見たこともない看板。 灰色の信号に提がる灰色のプレートには、聞いたこともない地名が書き込まれている。 迷った。 ……迷った? 迷ったって……。 迷うなんて、... -
ドキドキハウリン その8
「ひぁ、出る、出るぅっ!」 放たれた十貴の精が、抱き合って果てる私達の黒い体を穢し、濁った白に染め上げていく。 「ふふっ。いっぱい出たね、十貴……」 十貴の背中を抱いたまま、静香がにっこりと微笑んだ気がした……。 魔女っ子神姫ドキドキハウリン その8 「静香ぁ……」 ベッドの上にぺたんと座り込んだまま。私はこぼれ落ちる涙を拭えずにいた。 手のひらを握れば、ぐぢゅ、という粘着質な音と共に、白濁した液体が指の中で潰れるのが分かる。 目元に腕を上げてみれば、絡み付いた粘液がどろりと滴り落ち、粘っこい糸を曳いていた。 「ひっく……ひどい、です……」 悲しさに涙を拭おうにも、涙よりも酷い汚れを顔中に塗り広げるだけでしかない。 もっとも、その顔もとっくに同じ濁液で汚されていたのだけれど。 「ココ……」 ベッドの上にいた静香が、そっと手を伸ばしてくれる... -
ドキドキハウリン その16
「ココ。真直堂はどうだった?」 次の目的地にむけて歩きながら、静香は私にそう聞いてきた。 「びっくりしましたけど……面白かったです」 静香がデザインした服を、まさか私と同じ神姫が量産しているとは思わなかった。最初はびっくりしたものの、ひと通りの紹介が終わった後は、おやつの時間に呼ばれたり、仕事の様子を見せてもらったり、楽しい時間を過ごすことが出来た。 機会があれば、また行ってみたい、とも思う。 「そう。なら良かったわ」 私の話を聞いて、静香はにこにこと笑っている。 それからパーツショップらしき店を二軒ほど巡って、最後に辿り着いたのは神姫センターだった。 七階建ての大きなビルは、中が全て神姫関連の施設になっているらしい。同じセンターでもよく行く駅前のセンターとは規模が違う。 「神姫バトルミュージアム・秋葉原店?」 どうやら同じ秋葉原のセンターでも、公式の秋葉... -
ドキドキハウリン その7
ほかほかと、柔らかい湯気が立ち上る。 「ふぅ。いいお湯だったぁ……」 階段を上りながら牛乳パックのストローに口を付け、軽くひとくち。 ……無駄な抵抗と言わば言え。身長148cmのボクからすれば、お風呂上がりの牛乳とおやつ代わりの煮干しは欠かせない習慣なんだ。 「ん?」 ふと、部屋の中から声がする。 「おかしいな……」 テレビは消して行ったし、ジルは装備の手入れをしていたはず。あの子は一旦集中すると外の音が聞こえなくなるから、いちいちテレビをつけたりはしないはずなんだけど……。 ま、いいか。 「ただいまー」 ドアを開けて、映っている映像を見て。 ボクは、口にしていた牛乳を吹き出した。 魔女っ子神姫ドキドキハウリン その7 「何だよ十貴、汚いなぁ」 「な、な、な、何見てるんだよっ!」 テレビに映っているのは、絡み合う神姫達の痴態……要す... -
ドキドキハウリン その14
整備の行き届いた自転車は、止まるときでもさしたるブレーキの音も立てなかった。 静香は私のさっきの態度に怒っているのだろうか。普段ならひと言あるのに無言のまま、自転車のカゴからトートバッグを引き抜いた。バッグを肩に引っかけて自転車をガレージに押し込み、さっさと玄関へと。 「はい、静香」 バッグのサイドポケットから私が取りだしておいた家の鍵をひょいと受け取り、玄関を開ける。 「ただいまー」 今日はお父様もお母様も仕事で不在。 静香は、誰もいない家の中に声を掛けて……。 「おかえりー」 いつも通りに私が「おかえり」と言うより先に、部屋の奥から別の声が返ってきた。 「……静香。靴があります」 「だね」 脱ぎ散らかされている靴は、ビジネス向けらしいローヒール。静香のものでもお母様のものでもない。そもそもこの家に靴を脱ぎっぱなしにするような人はいない……静香の靴は私... -
ドキドキハウリン その24
ぱしゃりと水の音がして、部屋に湯気がふわり浮く。 静香の机の上でお湯を湛えたそれは、洗面器だ。 「えーっと」 机の上に頬杖を突いたまま、静香は私の話にため息をひとつ。 「要するに、あなたの意志を受けた獣王が、姫のスイッチを入れちゃった……と?」 体の汚れをたっぷりのお湯で洗い流しながら、私は首を縦に振った。 「たぶん……」 静香がお風呂の支度で一階へ降りた時だろう。 マスィーンズのAIは、私達神姫のシステムと繋がっている。本来は戦闘時の意思疎通や処理系のフォローに使われるそれが、どうやら違うほうに気を利かせてしまったらしい。 「なるほどねぇ……獣王の、ねぇ」 頬杖を突いたままの静香は、ニヤニヤ笑いながら私の入浴風景を眺めているだけ。 「何ですか……」 体を流す所を見られるのは、気にならないけど。 その意味深な笑いは、気になって仕方がない。 「べ... -
ドキドキハウリン その23
柔らかな頬に顔を寄せ、私は主の名を呼んだ。 「ねえ、静香」 「……なぁに?」 戻ってきた返事は、半分だけ上の空。 精密作業の真っ最中だから、それはある意味仕方ない。けど、静香があまり考えられないこんな時だから……出来る質問もあるわけで。 「花姫、起動させないんですか?」 私の質問は想定の範囲内だったんだろう。静香の作業する手は、止まる気配も見せなかった。 花姫が戻ってきて、既に半月近くが過ぎている。コーティングはとうの昔に乾いているし、部屋だってちゃんと片付けた。収納の奥に押し込んであった花姫の本来の装備も、ビス一本に至るまで手入れ済だ。 なのに、花姫は起動用ケースに入ったまま、机の隅に飾ってあるだけだ。 「……ココは、どう思う?」 「私……ですか」 正直、静香の気持ちも分からないではない。姿形は同じでも、今度起動した花姫は、静香の知っている花姫じゃない... -
HOBBY LIFE,HOBBY SHOP
メニュー あらすじ 商店街のホビーショップエルゴは店長のシュミでやたらと神姫関連に特化した道楽店舗。 そんな経営感覚の気の毒な店長の裏の顔は、神姫関連犯罪をブッ潰す正義の味方 (自称)であったり。 色んなイミでやる時はやるオタ店長とその神姫、さらにはダークヒーロー気取りの姉達や アレな知り合い、そして素敵なお客様方と織り成す人間模様。 とりあえず、燃えとか萌えとかエロとか何よりネタにまみれた日々を貴方にお届け! たぶんな! 登場人物紹介 登場人物ホビーショップエルゴ D-フォース 神姫犯罪者 その他登場人物 本編 話数 タイトル 備考 第1話 ヤツの名はG(前半) ヤツの名はG(後半) 第2話 血は浮世の流れよりも濃く 魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン4話 武装神姫のリン一章 8話とリンク 第3話 彼女の好きな人 武装神姫のリン二章 第10話、番外編「勇者... -
ドキドキハウリン その19後編
宇宙に流れる赤い羽衣を、晶は満足そうに見つめている。 「あの布が、マイスターの……?」 「有無」 それこそが、晶の創り上げた静香の秘密兵器。 「布のしなかやさと鋼の強度を持つフレキシブルフレームが欲しいなど、相当な無茶を言われたがな……」 静香が思い描いたのは、自由自在に動く強固な薄布。それを羽衣のようにまとい、戦う、ココの姿。 そのイメージの実現に、静香の実力は今一歩及ばなかった。静香以上に鋼と布を使いこなす晶だからこそ形に出来た、二つのマテリアルの完璧な融合物。 「でも、それを何とかするのがマイスターですの!」 ロッテの言葉に、晶は悠然と頷いてみせる。 「引き受けた以上、形にしてみせるのが……私の務めだからな」 しかし、完璧な姿で生み出された鋼鉄の羽衣も、静香のイメージの三分の一しか形に出来ていないという。 「見せてみろ、戸田静香。私の作品さえ構想の一... -
ドキドキハウリン その22後編
「お邪魔しま……あれ?」 月明かりに照らされた静姉の部屋に、ボクは目を疑った。 「こないだまで、グシャグシャだったのに……」 ボクが最後に静姉の部屋に入ったのは、ウチで脱衣対戦をやろうとしてバーチャル筐体を取りに来た時だ。その時は、工作中の資材や服なんかで足の踏み場もなかったはずなのに。 今日の静姉の部屋は、窓には緩やかなレースのカーテンが架かり、フローリングには柔らかい色のラグが敷かれている。もちろん資材の山なんかどこにもない。 要するに、普通の女の子の部屋になっていた。 「だって、姫が起きたとき、部屋が汚かったら恥ずかしいでしょ?」 その声に振り向けば。 「なぁに? 夜這い?」 ベッドに腰掛けているのは、悪戯っぽく微笑む静姉とジルだった。 「い、いや……」 静姉の格好はいつも通り、恥ずかしさの欠片も見せない下着姿。二人で話でもしていたのか、膝の上には... -
ドキドキハウリン その20
「さて、と……。これで、よしっと」 精密作業用の接眼レンズから瞳を離し、静香は軽く肩を叩く。 整えられた工具群と片付いた部屋は、当然ながら静香の部屋じゃない。さすが工業高生というべきか、十貴の部屋には静香の部屋以上の工作機器が揃えられていた。 ちょっとしたショップ並み……もちろん、エルゴやALChemistはもっと良い機材を使っているらしい……のその機材を使い、静香は花姫の修理を行っていたわけだけれど。 「終わったんですか?」 静香の答えを聞かなくても分かる。 工作台の上に横たわった花姫の体は新品同様。壊された外装も、完全に修復されていた。 「ええ、ひととおりね。メモリはやっぱりリセットされてたけど……他は全て問題なし」 記憶に関しては覚悟していたことだ。それでも、花姫の面影を残した子が帰ってきた事だけでも喜ぼうと、みんなで決めていた。 「コーティングの乾燥待... - @wiki全体から「ドキハウBirth その5」で調べる