武装神姫SSまとめ@wiki内検索 / 「土砂降り子猫Track-1」で検索した結果
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土砂降り子猫Track-1
「起きれこのバカ慎がーっ!」 「おごっ!」 突然の声と衝撃が、俺の後頭部に突き刺さった。 「…ってぇな…ジュリ!イキナリ何しやがる!」 背後を見れば、案の定ジュリが腕を組んで仁王立ちしていた。 形のいい眉をギリギリと吊り上げ、目を三角にして怒っている。 …え?怒ってる? 「……あの、ジュリ…さん?」 「黙れ!寝るときは布団で寝やがれといつもいつもいっっつも口すっぱくして言ってんだろーが!首から上は空っぽか!この種なしピーマン頭!」 ……あ。 「そうか。ビデオ見ながらそのまま寝ちまったのか…」 画面を見れば、既に何も映っていない。 真っ暗になったテレビの電源を消しながら、真っ赤な鬣の女サムライはぶつくさ言っている。 「ったく…ついこないだ倒れたばっかだっつのに…危機感てモンはねぇのかよ手前ぇ。 まぁた風邪引い... -
土砂降り子猫Track-2
いくらも経たない内に、雨が屋根を打つ音が聞こえ始めた。 「…止むかなぁ」 「…どうだろうな」 通り雨と言うには降り方が疎らだし、季節的にもまだ早い。 かと言って、傘一本で外に出るにはちと辛そうだ。 …思えば一年程前にも、こんな半端な降り方をしていたっけか。 にゃー共がウチに来た時が、ちょうどこんな日だった。 --- 外から雨音が響く中、俺は浩子サンと向かい合って座っていた。 浩子サンは困った顔で、俺は不機嫌な顔。 二人の間には小さな段ボール箱がある。 この箱が、目下30分近く続いている口論の原因だ。 「…ねぇ、い い で しょ ?」 「だ め だ」 何度繰り返したか判らない問答。 その度に箱からガサガサと音がする。 口の開いたその箱の中身を、俺は努めて見ないようにしていた。 ……俺には解る。見たら確実に負ける... -
神姫長屋の住人達。
神姫長屋の住人達。 お品書き。 おおまかすぎるあらすじ。 東京西部に居を構える木造平屋建て一軒家に住む、売れない作家と難アリ品の神姫達とその他諸々の日々。 クロスオーバー大歓迎。更新頻度は低め(マテ 住人達。 ・人間サイド ・神姫サイド 設定とか。 どうぞご自由にお使い下さい。 ・ホビーショップ『165-DIVISION』 ・本編登場オリジナル(?)神姫 本編。 ・第0話 長屋のとある日常。または家主からのご挨拶。 ・第1話 夕焼け侍。 SIDE-A SIDE-B エピローグ。 (『HOBBY LIFE,HOBBY SHOP』より、若干お名前を拝借しています。) ・第2話 土砂降り子猫。 Track-1 Track-2 ... -
土砂降り子猫Track-5
「さって、と。今さっき慎が言ったように、あの猫ちゃん達は感覚その他の機能がリンクされていたことはご理解頂けたかな?」 俺とジュリは揃って頷く。 「オーケー。で、だ。彼女達にそれぞれ全く同じ改造を施したのは何故だ?」 「…どれか一体でも不具合が出れば、まとめておかしくなるから、か。」 俺の答えに縁遠は満足げに頷く。 しかし、だとすれば質の悪い事を考える奴がいたものだ。明らかな害意が無ければ考えつく事ではないだろう。 何の必然性があってそんなことをしたのかは解らんが。 いやちょっと待て。 「そもそもなんで感覚までリンクさせる必要があるんだ? 記憶だ演算だってのならまだ理解できるが。」 そうだ。神姫はパソコン代わりにもなるそうだが、それにしたって感覚まで共有させる必要がどこにある。 「…あと解せないのは、アタシら神姫に対する怯え方... -
土砂降り子猫Track-3
「店長ですか?そういえばしばらく見てないなぁ…どしたんだろ?」 翌日。今日も空は生憎の雨模様。 傘を片手に数週間ぶりに訪れた『165-DIVISION』には、いつもの通り縁遠の姿はなく、代わりに最近顔なじみとなった店員さん二人がいるばかりだった。 「ハネっちー。店長どしたんだっけ?」 眼帯、銀髪、赤い猫目と、縁遠に負けず劣らず派手な格好の『ヨル』と名乗る店員さんは、商品の並びをチェックしている同僚に尋ねた。 「…一体何を聞いていたんだ貴様は。」 呆れた声で返すのは、『ハネ』と名乗る、目元をすっかり前髪で隠した店員さん。 真っ黒なゴスロリのヨルさんとは対照的に、真っ白なゴスロリを着ている。 「店長ならば先週出る時『友人の手伝いで当分戻らない』と言っていただろうが。 貴様の脳はスポンジか。ボブか。今度からスクエアパンツと呼んでやる。略して... -
土砂降り子猫Track-4
電車で揺られること一時間と少し。 俺が待ち合わせ場所に指定された喫茶店に入ると、白衣姿の縁遠がこちらへ手を振っていた。 席に置かれた灰皿には、結構な量の吸殻があった。 「…済まん。遅くなったな。」 「あーいいよいいよ。ここからだと結構かかるからね。」 縁遠はいつものパンクスタイルではなく、くわえタバコに白衣姿に黒ブチ眼鏡。半端に伸びた長い髪を、尻尾みたいに縛っていた。 …殆ど高校の頃そのままの姿に、少し懐かしさを覚える。 「…っつかお前卒業ついでに禁煙したんじゃなかったか?」 「…あぁコレ?頼まれごとがちょっと煮詰まったから解禁。 …さて、早速行こうか。」 ここからそう遠くないと、縁遠に連れられていった先は。 「『東杜田技研』?」 「聞いたことくらいはあるだろう?人呼んで『ちっちゃい物研』だ。」 浩子サンから聞いたことが... -
土砂降り子猫Track-6
翌朝。 俺は、縁遠の代理だと言う女性研究員から、まだ眠っている猫どもを受け取った。 あいつは連日の睡眠不足と、プラス猫どもの手術の疲れからか、眠ったまま起きてこないのだそうだ。 話を聞く限り、縁遠は猫どもをこのまま証拠品として提出する気はないらしい。 その女性研究員も縁遠の意見には同感なようで、手渡す時に『大事にするように』と釘を刺されてしまった。 直すついでにちょっとしたオマケも付けておいた、とのことだったが…… 「なぁ慎、『オマケ』ってなんだろな?」 「…さぁな。まぁ後で起動してみりゃ判るだろ。」 しとしと降りの雨の中、俺たちは家へと帰っていった。 --- 「ただい……」 「おかえりなせぇやし!」 玄関を開けると、何故かうちの下宿神姫どもが勢揃いして頭を下げていた。 いや、お前ら任侠映画じゃないんだから。 「あ、おか... -
土砂降り子猫Track-2
いくらも経たない内に、雨が屋根を打つ音が聞こえ始めた。 「...止むかなぁ」 「...どうだろうな」 通り雨と言うには降り方が疎らだし、季節的にもまだ早い。 かと言って、傘一本で外に出るにはちと辛そうだ。 ...思えば一年程前にも、こんな半端な降り方をしていたっけか。 にゃー共がウチに来た時が、ちょうどこんな日だった。 外から雨音が響く中、俺は浩子サンと向かい合って座っていた。 浩子サンは困った顔で、俺は不機嫌な顔。 二人の間には小さな段ボール箱がある。 この箱が、目下30分近く続いている口論の原因だ。 「...ねぇ、い い で しょ ?」 「だ め だ」 何度繰り返したか判らない問答。 その度に箱からガサガサと音がする。 口の開いたその箱の中身を、俺は努めて見ないようにしていた。 ......俺には解る。見たら... -
第三話 箸とスプーンとおしゃべり子猫
第三話 「箸とスプーンとおしゃべり子猫」 「……春だなあ」 「そうですね」 「もう少しでGWも終わりだな~」 「そうですね」 「しかし朝は暇だなあ」 「……そうですね」 「こんなに暇なら明日まで手伝い延長しちゃおうかな~」 「って、なんでですか!」 僕、水野健五は箒を床に叩きつけました。 「なんだよ、別にいーだろ?」 「昨日一日って約束だったじゃないですか!」 僕は正直疲れていました。思ったよりもお店の仕事が辛かったのです。朝から掃き掃除に拭き掃除、お昼は注文を取ったりやらなんやら。 おまけに輝さんがなにかと僕に仕事をやらせたがるのです。そのせいで、昨日までのはずだった手伝いを今日もやるはめに。 「いやあでもさ、なんだかんだ助かってるぜ? うちは人手足りねえし」 「でも……」 「クレアを見てみろ。文句一つ垂... -
ACT 0-1
ウサギのナミダ ACT 0-1 □ あいつと初めて会った日のことは、いまでも覚えている。 あれは師走の寒い晩のこと。 冷たい雨がしとしとと降り続ける夜だった。 全く俺らしくない考えだが、信じている。 あれは運命の出会いだった、と。 大学の仲間と飲んだあと、アパートに戻る帰り道。 俺は一人、雨の中を歩いていた。 あまりたくさん飲んだわけでもないので、少しほろ酔いだった。 気心知れた連中との飲み会だったので、無理な酒を飲まされないのはありがたい。 いつもよりも遅い帰り、近道をすべく、繁華街の裏道を歩く。 いかがわしい店もならぶところだが、そこはそれなりに田舎だから、それほど危険を感じない。 まして冷たい雨が落ちている夜はなおさらである。 冬の雨の冷たさに、酔いに火照った身体は徐々に冷え始めている。 息が白い。 ... -
ACT 1-15
ウサギのナミダ ACT 1-15 ◆ 八重樫美緒と三人の仲間にとって、『エトランゼ』は憧れの神姫プレイヤーだった。 明るく気さくな美人で、バトルロンドも強い。 神姫も戦闘スタイルが特徴的で、華がある。 エトランゼのように、美しく強い神姫プレイヤーになりたい、というのが、四人の仲間の共通した夢だ。 エトランゼのマスターは、『ハイスピードバニー』のマスターといつも一緒にいる。 それがまたいい。 ハイスピードバニーのマスターは、クールで知的な感じの男性だった。 いつもバトルの後には自分の神姫と議論しているような、ストイックな性格。 しかも、さりげなく対戦台を譲ってくれる気配りの良さ。 彼こそは武装紳士と呼ぶにふさわしい。 その紳士が、エトランゼの隣に寄り添うように立つ。 そして二人が微笑みながら話をしている姿など、四人... -
ACT 1-1
ウサギのナミダ ACT 1-1 □ 廃墟の街に砂塵が吹き抜ける。 裏通りの路地にも、砂埃がたまっており、黒い影が高速で走り抜けると、砂煙で路地はいっぱいになる。 駆け抜ける黒い影は、少女。 愛らしい顔立ちに、バニーガールを思わせるボディカラー。さらに黒光りする、ごつい機械の両足が不釣り合いだ。 彼女は、俺の武装神姫。 廃墟の路地を、機械の両足首に装備されたランドスピナーで疾駆する。 これが彼女のメイン武装。陸上での機動性に特化した脚部パーツである。 彼女は細い路地裏を駆け抜けながら、メインストリートをうかがう。 朱色のエアバイクが一台、爆走を続けている。 「よくアレを振り回すな」 半分感心、半分あきれた口調で、俺はつぶやいた。 あのエアバイク「ファスト・オーガ」は公式装備であるが、バトルで好んで使用する神姫は... -
ACT 1-14
ウサギのナミダ ACT 1-14 ■ 雨の街は、いつもとその様相を一変させていた。 あれほどに鮮やかだった風景は、色を失い、輪郭さえもぼやけている。 すべて水に濡れ、色褪せて見えた。 まるで、かつてわたしがいた場所のように、灰色の世界。 雨に追われ、人々は足早に過ぎ去っていく。 足下の神姫になど注意を払う人はいなかった。 降りしきる雨は、痛いほどにわたしを叩き、瞳からこぼれる涙さえも、洗い流されてゆく。 これは、あの空の涙なのだろうか。 空にも心があって、悲しくて辛いことがあるのだろうか。 上空を垂れ込める雲に、心を灰色に塗りつぶされて、涙をこぼすのだろうか。 今のわたしと同じように。 わたしはもう、悲しいとか辛いとか、そういう感情を通り越して、ただ、ぼうっとしていた。 瞳から流れる涙だけが止まらない... -
ACT 1-11
ウサギのナミダ ACT 1-11 ◆ 久住菜々子は大学生である。 東京にある大学からの帰り、あのゲームセンターに寄るのは、一度最寄り駅を行き過ぎなくてはならない。 また、武装神姫を常に持ち歩いているわけではない。 だから、あのゲームセンターに行くのは、週末にしていた。 だが、今日は違う。 朝からミスティを連れ、装備の入ったアタッシュケースを持って、大学に行った。 はやる気持ちを抑えて、大学の授業をみっちりと受け、講義が終わったらダッシュで駅まで。 それでもゲームセンターにたどり着いたのは、夕方も遅くなってからだった。 今日は金曜日。 繁華街は、翌日休みの気楽さで、週末の夜を楽しもうと、すでに多くの人が繰り出している。 浮ついた世間の雰囲気とは逆に、菜々子の心は緊張していた。 ゲームセンターにつくと、すぐに武... -
ACT 1-19
ウサギのナミダ ACT 1-19 □ その夜、俺は意識が妙にさえていて、眠れそうになかった。 だから俺は、PCの前に座って考える。 クレイドルの上で眠る、ティアの顔を見ながら。 どうすればティアを守ることができるのか、と。 考える。 そもそも、神姫風俗は違法だ。 神姫風俗を経営している者も、それを利用した者も、法を破っていることになる。 神姫に性的虐待を与えていることになるからだ。 これはMMS保護法に抵触することになる。 だから、神姫風俗を経営する者も利用する者も犯罪者であり、明るみに出れば罰せられる。 MMS保護法は日本独自の法律であるが、神姫が浸透している国では似たような法律が制定されている。 その元となるのがMMS国際規約だ。 これはMMSに対する世界共通の認識を定める国際法である。 たと... -
ACT 1-12
ウサギのナミダ ACT 1-12 □ 海藤がコーヒーカップをゆっくりと配り、そっと溜息をついた。 「僕がバトルロンドをやめた理由……言ったことなかったっけ?」 「ないな……君から自分のバトルの話自体、聞いたことがない」 そうか、とコーヒーを一口飲んで、また一つ溜息をつく。 海藤も以前はバトルロンドのプレイヤーだった。 実力もかなりのものであったらしい。 だが、俺が神姫を血眼になって探すようになった頃には、すでにバトルロンドをやめていた。 だが、興味がなくなったわけではないらしい。 今でも、主要な大会の映像はチェックしているようだし、バトルロンド用のパーツや改造方法なんか俺より詳しいくらいだ。 だからなおのこと、俺には海藤がバトルをやらないことが解せない。 「……あまり、格好のいい話じゃないんだ」 「……今の俺... -
ACT 1-13
ウサギのナミダ ACT 1-13 ◆ 「って、菜々子ちゃん! 大丈夫なのかよぉ……」 大型筐体に一人座り、黙々と準備をする菜々子に、大城はそわそわと話しかけた。 大城の心配ももっともだ。 このゲームセンターで最強と呼ばれる三人とスリー・オン・ワン……三対一の同時プレイで対戦するというのだから。 いくら有名なエトランゼといえど、実力者三人を同時に敵にするのは圧倒的に不利だ。 「大丈夫。絶対に負けない」 菜々子ははっきり言いきった。 ミスティは菜々子を見上げた。 「……『本身を抜く』のね?」 「そうよ。わたし、キレたから。もう徹底的にやる」 「やっとキレたの? わたしはもう先週からキレっぱなしなんだけど」 無表情に話す二人に、大城は空恐ろしいものを感じずにはいられない。 「なあ……ほんみをぬく、... -
ACT 1-16
ウサギのナミダ ACT 1-16 □ 日も暮れ、街灯が灯る頃。 雨は未だやむ様子もなく、俺はすでに洋服を着たまま風呂場からあがったのと変わらないような有様だった。 それでも俺は、ティアを捜して、あてどなく街を徘徊していた。 ゲームセンターと駅前は、大城が捜してくれている。 だから、俺は公園とアパートの周囲を幾度となく往復した。 ティアとともに行った場所を思い出しながら、すべての場所に足を向けた。 それは、ティアとともに過ごした時間を、いちいち確認する作業だった。 思い出の中のティアは、いつも不安そうな顔で、上目遣いに俺を伺う。 そして、俺のつまらない一言に一喜一憂し、ときには泣きそうになり、そしてときには、花がほころぶような笑顔を見せるのだ。 それが俺の神姫だ。代わりなんかいない。 だが、ティアは見つからなかった。 ... -
ACT 1-17
ウサギのナミダ ACT 1-17 □ その日は、あまりにもいろいろありすぎて、アパートに帰り着いたときには、すっかり疲れ切っていた。 水浸しの服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びると、あとはもう寝床にごろりと横になって、他に何をする気も無くなっていた。 体は疲れていたが、意識は妙に冴えていた。 まだ興奮しているのだろう。 今日あった出来事を反芻しようとするが、うまく頭が回らない。 結局俺は、ボーッと天井を見上げながら、ただただ寝っ転がっていた。 どのくらいそうしていただろう。 携帯電話に着信があった。メールの着信音。 ゆっくりと手を伸ばし、液晶画面を見る。 約束通り、久住さんからだった。 メールの文面は、彼女らしく、簡潔だった。 「今日は生意気なことを言って、ごめんなさい。 明日、午前11時に、JR○○駅改札前で待って... -
ACT 1-10
ウサギのナミダ ACT 1-10 □ 今の状況に置いて、俺に打つべき手はなかった。 噂の否定と拡大阻止などは、一介の大学生には手に余る代物だ。 何かヒントになることはないかと、一度ネットの掲示板なども覗いてみたが、すぐにやめた。 ゲーセンの連中よりも面白半分な書き込みが大半を占めていて、当事者の俺はとても読む気にはならなかった。 もし俺がネット上で否定的な発言をしても、すぐにログは流れてしまうだろうし、「本人降臨」とか言われて、火に油を注いで面白がらせるだけだろう。 ネットだけではなく、ペーパーメディアの情報も入れるのをやめた。 隔週刊誌の「バトルロンド・ダイジェスト」は毎号楽しみに購読していたが、それすらも手に取るのをやめた。 その雑誌には、様々な武装神姫達が誌面を彩っているが、そんな神姫達が妬ましく思えてしまう。 その近... -
ACT 1-18
ウサギのナミダ ACT 1-18 ご注意: この物語には、ツガル戦術論の若干のネタバレが含まれます。 こちらをお読みになる前に、ツガル戦術論をお読みになることをオススメいたします。 ■ 「わたしのこと、知っているのね」 『レッド・ホット・クリスマス』のシルヴィアさんは、わたしにそう言う。 わたしは素直に答える 「はい……わたしのマスターから聞いたことがあります。ツガル・タイプではとても有名な神姫だと」 「有名ね……」 シルヴィアさんがそっぽを向いた。 ミスティが吹き出した。 「そりゃ有名よね。いろんな意味で」 まわりの神姫も笑い出した。 シルヴィアさんは、ばつが悪い顔をしながらも、まんざらでもない様子。 よくわからない。 ミスティが笑いながら、わたしの肩を叩いた。 「どうし... -
ウサギのナミダ
ウサギのナミダ 泣き虫な神姫とちょっと無愛想なマスターの、絆の物語。 著:トミすけ ○勝手な文章の改変はしないでください。大変迷惑です。 ○バトルロンドのバーチャルバトルの設定を『Mighty Magic』よりお借りしております。 ○一部、武装神姫の性能などを独自解釈している部分があります。ご了承下さい。 ○コラボ歓迎です。この作品のキャラクターや設定は無理のない限り、自由にお使いいただいてかまいません。 登場人物紹介 (本編のネタバレを含みますのでご注意下さい) ストーリー ACT0は過去編、ACT1は現在編となっています。 それぞれのACTごとの順番で、時系列順に追うことが出来ます。 お読みになる際には、下記リストの順番でお読みいただければ幸いです。 ACT 1-1 ACT 0-1 AC... -
ポニーお子様劇場・その4
SHINKI/NEAR TO YOU 良い子のポニーお子様劇場・その4 『セントウノヒ』(前編) >>>>> そこはまるで廃墟のようだった。 乾いた土がむき出しになった街道の両脇を、木造りの古びた家々が並んでいる。アメリカ西部開拓時代をテーマにした映画にでも登場しそうな古ぼけた宿場町。 打ち捨てられまさにゴーストタウンと化した街並みの間を、これまた映画のワンシーンよろしくダンブルウィード(西部劇によく出てくる、あのコロコロ転がるヤツだ)が風に吹かれ勢いよく転がっていった。 突如街に轟音が響く。 それと同時に、銃弾の雨に降られ穴だらけとなった廃屋から白い影が飛び出した。 蒼いポニーテールをなびかせ、白い装甲を身にまとった少女――武装神姫のゼリスだ。 「ゼリスッ、大丈夫かっ!?」 銃弾に吹き飛ぶ廃屋の木片... -
ねここの飼い方 ~ネメシスの憂鬱・ファイルⅥ~
「………………どう?」 「現状では、特に何も」 開始から数分が経過したものの、現在の所これといった変化は感じられない。それでも言うならば長袖を着ている感じから半袖を着ている感じになった、という程度だろうか。 「……そういえば聞き忘れていましたが、そもそも何の感度チェックをするのですか?」 「色々……です」 「はぁ……」 ポーカーフェイスのまま、坦々と続ける彼女。色々とだけ言われても困るのだが…… 「(しかし、暇だな……)」 暇潰しに触手をうねうねと動かしてみるが、別に大して面白みがあるわけでもなく、この空間だけ時間の経過が猛烈に遅くなってしまったのではないかと思いさえしてしまう。 ……しかし、本当にグロテスクな。さっきより湿り気を帯びてないか、コレ。なんとなしに指先で再度突付いてみる。 「……、っ!?」 ネメシスの憂鬱 ~ファイルⅥ~ 「どう... -
第四話:諸刃姫
第四話:諸刃姫 そいつの場所を突き止めるのは簡単だった。公開情報の中にはバトルロンドのどのブースを使っているのかが記載されてあったため、俺の肩にしがみつく蒼貴と共に迷うこともなく人混みの中をかき分けながら、そこへ向かえた。 紫貴には石火のオーナーにアーンヴァルを引き渡す様に言ってあるため、一応は安全ではある。 何か追っ手が来てもトライクで逃げられるだろう。 後はそいつを捕まえるだけだが、どうにも気がかりなことが一つある。 「それにしてもオーナー。イリーガルはあれ程までに異常なのでしょうか?」 「一概には言えんが、あれも異常すぎではあってもイリーガルの一種だろう。それも違法改造の類のな」 あのアーンヴァルのイリーガルはどういうものであるかだ。そもそもイリーガルとはアークの前例である通り、規定以上の違法パーツを使うことにより素体そのものを強化すること... -
ACT 0-5
ウサギのナミダ ACT 0-5 ■ 神姫も、夢を見る。 スリープモードで、クレイドルで充電とデータのバックアップを行っているとき。 それは神姫にとって「睡眠」にあたる。 マスターによれば、睡眠中に脳が蓄積された情報を整理し、その時に漏れでた情報を認識すると、夢になる、のだそうだ。 だから、データのバックアップ中に、わたしたちが認識するものも、やはり夢なのだ。 わたしは、夢を見る。 いつも同じ夢、恐い夢。 わたしの前には男の人。 顔は影になっていてよくわからないけれど、目だけが異様な輝きを放って、笑っている。 彼は、わたしに手を伸ばす。 わたしは身をすくめる。これから、自分の身に起こる出来事を予想しながらも、あらがうことはできない。 「や……っ」 男の人がわたしを掴み、顔の高さまで持ち上げる。 ... -
ACT 0-3
ウサギのナミダ ACT 0-3 □ その日の土曜日、俺は拾った神姫をつれて、海藤の家へ向かった。 海藤は、高校時代からの友人だ。 武装神姫を仲間内で一番に始めたのが彼だった。 俺の仲間内はみんな、海藤の影響で神姫を始めている 海藤が連れている神姫がうらやましくて、俺も神姫を持ちたいと思うようになった。 それほど、彼と彼の神姫の関係は良好だったし、その神姫は魅力的だった。 いまでも仲間内で一番神姫に詳しい。 だから、今回のことも、彼を頼ることにしたのだった。 電車に揺られること30分ほど。 いかにもベッドタウンの駅、というところで私鉄を降りる。 海藤の家までは歩き慣れた道だった。意識もせずに角を曲がり、住宅街の町並みを歩く。 俺は程なく目的の家の前に立った。インターホンのボタンを押す。 古びているが、普通の一軒家... -
ACT 0-6
ウサギのナミダ ACT 0-6 ■ 「着けてみた感じは、どうだ?」 意外と悪くない。 自分の脚を全く別のモノに交換したにも関わらず、思ったほど違和感は感じない。 「いい……と思います」 むしろ、昨日まで練習で履いていた、ローラーブレードの方が違和感があった。 脚にはめた、その先の車輪は自分の一部ではない感じだった。 でも、新たにマスターが用意してくれた、この脚部パーツは、つま先から車輪まで、文字通り身体の一部であるように思える。 マスターが作ってくれた、オリジナルの脚部パーツを、今日初めて装着した。 わたしの脚は、太ももの接続部を境に、ごつい機械の脚に変貌していた。 足首の部分には、前後に車輪がついている。 後輪の方が大きくて、後ろに張り出していた。 足首の中には超電動モーターが入っており、車輪によ... -
主な登場神姫
登場神姫集 アカツキ タイプ:天使型MMS・アーンヴァル トランシェ2→新天使型MMS・アーンヴァルMk-Ⅱ 優一が所有する武装神姫で「トランシェ2」と呼ばれるアーンヴァルの上位機種で、ストラーフbisと並んで総合性能は最新鋭の神姫と比べても何ら遜色のない仕上がりとなっている。 性格はまじめで、しっかり者だが、時折天然ボケにもなる。 オーナーである優一には淡い思いを寄せているが、当の本人が気付いていないので少々空回り気味。 大好物は焼きそばで、酢醤油よりはソースの方が好き。 バトルにおいてはほぼ全てのレンジに対応しているが、特に機動力にものを言わせた中~遠距離戦を最も得意とする。電光石火の早業と華麗な空中戦から、「エアリアル・ホワイトエッジ(天空の白き刃)」と呼ばれる。 第十九話でトランザムを使用し、素体が修復不能のダメージを負ったため、完全新規設計の「Mk-Ⅱ」と... -
ACT 1-32
ウサギのナミダ ACT 1-32 □ 塔の上から降りてきた神姫。 俺はその神姫を見て、唖然として、言葉が出なかった。 周りにいるギャラリーも、一様に驚いたような、呆れたような顔をしている。 「……しゅめっ、たー……?」 言うな、大城。 俺は認めたくなかった。 世にも気色の悪いこの神姫が、あの愛らしいアイドルタイプの神姫、シュメッターリング・タイプがベースだなどと。 それを認めてしまったら、世にいる数多くのシュメッターリングのファンに申し訳が立たないような気がする。 シュメッターリング・タイプは、人気のある蝶型の武装神姫だ。 人気の秘密は、バトルでの性能よりもむしろ、その可愛らしさにある。 開発メーカーが「リトルリリィ」という販促用アイドルグループを結成し、人気を博しているほどだ。 シュメッターリングは神... -
ACT 1-9
ウサギのナミダ ACT 1-9 ◆ ミスティは神姫サイズのソファに座って、テレビを見る振りをしながら、自分のマスターを観察している。 久住菜々子はベッドの上で、うつ伏せになって、枕に顔を埋めている。 今は微動だにしていないが、ときどき思い出したようにじたばたする。 ここ三日ほど、ずっとこんな調子だ。 ミスティは自らのマスターが深く悩んでいるにも関わらず、我関せず、という態度を貫いていた。 菜々子が悩んでいる理由はよくわかっている。 先週末、親しくしている神姫プレイヤーの遠野貴樹と、その神姫ティアに、あるスキャンダルが持ち上がった。 それは、ティアが売春をしていた決定的な証拠が公に明らかになってしまったのだ。 行きつけのゲームセンターで、他の常連達から噂を聞き、その雑誌も見た。 正直、女性であれば、いや良識ある武装紳士であ... -
ACT 1-3
ウサギのナミダ ACT 1-3 □ 乾いた風が吹き抜けて、廃墟に砂塵が舞う。 その風をけちらし、砂塵をさらに巻き上げて、一台のトライクが猛然と走り抜ける。 静寂は破られ、メインストリートに一筋、砂のシュプールが描かれる。 無人の道を走り抜けるのは、イーダ・タイプの神姫・ミスティだ。 大城の聞いた噂は正しかったらしい。 確かにミスティは武装もイーダのものだった。 ミスティがただのイーダではないのは、その脚の装備にある。 通常のイーダ・タイプなら、脚はほぼノーマルで、トライク形態の時には、後輪を挟むように折り畳まれている。 しかし、ミスティの脚はばかでかい脚部パーツに換装されていた。 誰が見ても、ストラーフ・タイプの脚部強化パーツ「サバーカ」だった。 もちろん、そんな巨大な脚部を機体後部に収めることはできず、後方に伸ばしている。... -
ACT 0-4
ウサギのナミダ ACT 0-4 ■ 朝。 わたしが目覚めると聞こえてきたのは、すぐ右手にあるパソコンのキーボードを叩く音だった。 キーを叩く人は遠野貴樹。 きのう、わたしのマスターになった人。 「お……おはようございます……」 「おはよう」 おずおずと声をかけたわたしに、あっさりと、そしてどこかそっけなく返事が来た。 シーツ代わりのハンカチを引き寄せ、マスターになった人の顔を見つめる。 端整な顔立ち、だと思う。 細いフレームの眼鏡をかけ、理知的な印象だ。 それが口調とも相まって、少し冷たい印象を受けるけれど。 どんな人なのだろうか。 コーヒーカップを口元に運ぶ横顔。 いままで、わたしが会ったお客さんたちとも違う印象。 真面目そうで、理知的な瞳は、いつもまっすぐにわたしを見る。 彼の指の動きが止まる... -
ACT 1-7
ウサギのナミダ ACT 1-7 □ 翌日の日曜日、俺はやはり迷いながらも、ゲーセンに向かった。 井山と会って話をするためだ。 奴に会って話をしないことには、状況は何も進展しない。 ティアは渡せないが、雑誌にティアのあんな画像を載せることはやめさせなくてはならなかった。 井山と連絡を取ろうと思ったが、奴とは昨日のゲーセンで会ったのが初対面だった。 結局、俺はゲームセンターに行かなくては、井山と話も出来ないことに気が付いた。 念のため、ティアはおいてきた。 正直、ティアの落ち込みようは心配だった。一緒にいてやりたい。 だが、連れていって、またティアが傷つく姿を見るのも嫌だったし、井山に無理矢理奪い取られないとも限らない。 店の連中が来ていたら、それこそ無理矢理に奪われるだろう。 だから、俺一人で来ることにした。 ... -
ACT 1-6
ウサギのナミダ ACT 1-6 □ 翌週末。 俺は気が進まないながらも、いつものゲームセンターへと足を運んだ。 井山とかいう変態野郎がいるかと思うと行く気がそがれるのだが、先週の騒ぎの後で行かないのでは、こちらに後ろ暗いことがあるように思われてしまう。 ティアの恐がりようを思うと、さらに気が引けるのだが、それでも俺はやはり、いつも通りに行くべきだと思ったのだ。 そんなことを考えていたら、いつも行く時間より、一時間ほど遅くなってしまった。 俺はティアを連れて、ゲームセンターへと向かった。 いつものように、店内に入り、武装神姫のコーナーに足を向ける。 ……気のせいだろうか。 ざわついていた店内の空気が変化したように思えた。 バトルロンドコーナー特有の喧噪がなりを潜め、いきなり空気が重くなったような感じだ。 よく見れば、コ... -
ACT 1-8
ウサギのナミダ ACT 1-8 □ 「……落ち着いたかよ?」 ほれ、と言って、缶コーヒーを俺の方に差し出す大城。 今日は大城に迷惑をかけっぱなしだ。 路地裏で泣き叫んでいた俺を、何とかなだめすかして、近くの公園のベンチまで連れてきて、座らせてくれた。 ゲーセンで暴れようとした俺を止めたのも大城だし、今もこうしてコーヒーを買ってきてくれた。 「……すまん。今日は、迷惑をかけた……」 自分の声か、と一瞬疑うようなガラガラ声。 「まったくだぜ」 苦笑しながら、缶コーヒーのプルタブをあける。 そういえば、喉がカラカラだ。 俺も大城にならって、缶コーヒーをあけた。 独特の甘苦い味が喉を通り過ぎると、不思議と心が落ち着いた。 俺はやっと、大城をまともに見ることが出来た。 革ジャンに、ジャラジャラつけ... -
ACT 0-2
ウサギのナミダ ACT 0-2 ■ バッテリーがフル充電になり、わたしは覚醒を促される。 ゆっくりと開く瞳。 目覚めたわたしは、眩しさに目を細めた。 ……ここはどこだろう? お店にいたときは、こんな眩しさを感じたことはなかった。 やがて瞳が光量を調節し、周りが認識できるようになってくる。 眩しく感じたのは、白い壁だった。 白い壁、白い部屋。 実際の明るさはそれほどでもないけれど、薄暗いお店しかしらないわたしにとっては、とても明るい部屋だった。 やわらかな光に満たされていた。 わたしはクレイドルの上に寝かされていた。 まだ真新しいことが肌触りでわかる。 わたしの上には、白く清潔な布が一枚かけられている。 白無地のように見えるが、同じ色の糸でシンプルな模様が入っている。 男性用のハンカチのようだ... -
ACT 1-25
ウサギのナミダ ACT 1-25 ◆ 高村がCSCをセットし、目覚めたその日からすでに、雪華の目標はバトルロンドで頂点に立つことだった。 高村自身もバトルロンドに参戦するつもりでいた。 しかも相当本気でやるつもりでいたから、有名な神姫ショップにフルチューンを依頼し、素体ではほぼ最高レベルのパフォーマンスが出せるアーンヴァルを手にした。 素体が神姫の性格に影響したのか、CSCの組み合わせの問題なのかはわからない。 目覚めた雪華は誇り高く、バトルに勝利することを一番とした。 ただし、卑怯な振る舞いはしない。あくまで正々堂々、実力で勝つ。それが雪華の誇りであった。 しかし、それは茨の道だ。どんな神姫でも不得手な相手はいる。卑怯な戦い方をする奴もいる。真っ向勝負で勝とうというのは、なかなか難しい。 それでも、雪華は卑怯な真似は一切しなかった。... -
ACT 1-33
ウサギのナミダ ACT 1-33 ■ わたしは周囲の明るさに刺激されて、目を覚ます。 地面に手をついて、身体を起こす。 手には柔らかな感触。 草だ。 そして小さな花。 辺りを見回す。 驚いた。 そこは一面、色とりどりの草花で埋め尽くされていた。 近くには青い水をたたえた湖。 周りは濃い緑の木立に囲まれている。 さらにずっと向こうには、薄墨を流したような色で、山々が連なっている。 美しい風景。 こんなに光溢れた風景は初めて見る。 なぜなら、お店を出たのはこれが初めてだったから。 ……初めて? なにかが引っかかったけど、些細なこと。 わたしは立ち上がり、自分の格好を見る。 バニーガールのような姿。 いつもと変わりない。 わたしが辺りを見回すと、すぐ近くに、白い小さなテーブルと椅子がおいてある... -
ACT 1-23
ウサギのナミダ ACT 1-23 □ 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 「なぜだ? 今俺たちがバトルしたって……ろくなことにはならないぞ」 「だって、こんなチャンスは滅多にないじゃないですか……秋葉原のチャンピオンと戦うなんて」 そういうおまえは、なんで今にも泣き出しそうな顔してるんだ? なんでそんなに必死そうなんだよ。 「お願いします、マスター……お願いします……」 何度も俺に頭を下げて頼み込むティア。 ティアが相手とのバトルを望むなんて、滅多にないことだ。 だからこそ、理由が分からない。 なんでそんなに雪華と戦いたがる? 東東京地区代表という肩書きが、ティアにとってそんなに魅力的だとは思えないのだが。 「……走れるのか?」 「はい」 結局、折れるのは俺の方だった。 肩を... -
『マッドサイエンキャット』-1/3
『マッドサイエンキャット』-1/3 ※ 念のための注意書き ※ 第二章でも同じ注意書きをしましたが、インダストリアル・エデン社製神姫をご存知ない方はおりますまい。 ◆――――◆ バトルをするわけでも、他に用事があるわけでもなく、私はオンラインの茶室を借りることがあった。 月に一度か二度、お金はかからない。 静穏な雰囲気を壊さない程度の和風にしつらえられた四畳半で、ただ時間の過ぎるままにまかせる。 ちゃぶ台を部屋の隅によせて、部屋の中心に仰向けに寝転がって、小窓から、あるいは壁を伝って聞こえてくる自然の音に耳を澄ませる。 竹林を撫でるように流れる風に揺れる音。 絶え間なく水が溢れる池では時々、魚が跳ねた。 私の知る限りここは、最も贅沢に時間を使うことのできる場所だった。 勿論、ここはディジタル信号によって作られた場所であり、本物の自然とは真逆... -
ACT 1-24
ウサギのナミダ ACT 1-24 ◆ 雪華の持つ武器は唯一、その黄金の錫杖だった。 彼女の背丈よりも長いその錫杖は、様々な武器の集合体だ。 錫杖の頭はビームガンであり、その柄に伸びるのは二本の剣である。 他にも様々なパーツが組み合わされている。 この錫杖を様々に組み替えて、状況に応じた武器にカスタマイズし、対応する。 この錫杖こそが、雪華のオールラウンダー・スタイルを支えている。 □ 戦闘は雪華の射撃で開幕した。 錫杖の頭をはずし、ビームガンを握る。間髪入れず、断続的な斉射がティアを襲う。 ティアはそれをかわす。 フィギュアスケートのような小刻みなステップでかわしきる。 視線は雪華に固定したまま。 まるで舞うような回避。 舞手にリズムを送る楽士は、拍子を早めていく。 ビームガンの射出音と着弾音は... -
ACT 1-5
ウサギのナミダ ACT 1-5 □ 週末、俺はティアとともにゲーセンの入り口をくぐる。 まっすぐに武装神姫のバトルロンドの筐体のあるコーナーに向かう。 バトルロンドのコーナーは今日も盛況だ。 大型の観戦用ディスプレイには、白熱の戦いを中継している。 「あっ、遠野くん!」 「来た来た」 壁際にいてディスプレイを見上げていた二人が、俺を見つけて手を振った。 久住菜々子さんと、大城大介。 俺も軽く手を挙げて、二人に歩み寄る。 「やあ。今日はどんな感じ?」 「絶好調~」 にっこりと笑って、久住さんは右手でVサインを作る。 「三強の二人相手に一勝ずつ」 「それは確かに絶好調だ」 このゲーセンでは、独自にバトルロンドのランキングバトルが定期的に行われている。 武装神姫の公式リーグにも三つのラ... -
ACT 1-28
ウサギのナミダ ACT 1-28 ■ マスターは家に帰るまで、ずっと無言だった。 胸ポケットの中で、やっと落ち着いたわたしは、マスターの顔を見上げる。 マスターはいつも真剣な表情の人なのだけれど、なにかいつも以上に脇目も振らない様子だった。 すでに夕闇が迫っている。 足早に帰宅を急ぐ。 マスターが何をそんなに急いでいるのか、このときのわたしにはまだ分かってはいなかった。 家に着いて、マスターがまずしたことは、わたしをクレイドルに座らせることだった。 わたしは素直にクレイドルに座った。 わたしは少し沈んだ思いで、マスターの指示を待つ。 今日のわたしを、マスターはどんな風に思っただろうか。 雪華さんとの試合の後、なし崩しに騒ぎになってしまって、マスターとお話する時間もなかった。 あの時、わたしは感情の高ぶるまま... -
ACT 1-29
ウサギのナミダ ACT 1-29 □ 結論から言うと、雪華とティアのバトルは、伝説になった。 別に、俺や高村、ティアと雪華がそう望んだわけではない。 これはある意味、雑誌記者の三枝さんの、俺に対する報復と見ている。 あのバトルから数日後、「バトルロンド・ダイジェスト」の記者である、三枝めぐみさんから、直接俺に電話があった。 どこから俺の電話番号を入手したのだろう? そう尋ねると、 「情報源に対する守秘義務があるので、答えられないわん♪」 と、はぐらかされた。 三枝さんという女性は、終始こんな風にふざけたような口調で話す。 三枝さんの用件は、先日の、ティアと雪華のバトルを記事にさせて欲しい、ということだった。 「その件は、最初に断ったはずですが」 「だから、直談判するために、電話したのよぅ」 ... -
ACT 1-34
ウサギのナミダ ACT 1-34 ■ 「……不器用な人、かな」 わたしの答えに、三人とも、「え~?」と不満の声を上げた。 「不器用なマスターじゃ、メンテナンスも満足にしてもらえないんじゃない?」 「あ、そうじゃなくて……手先は器用なの」 一四番さんの言葉に、わたしは説明する。 「手先じゃなくて……こう、気持ちとか、感情を外に出すのが苦手な人なの。 でも、本当は、とても優しくて……」 わたしは内心驚いている。 自分の説明がなぜかやたらと具体的だったから。 「いつも仏頂面だったり、怖い顔だったりするけど、笑顔が素敵で。 好きな女の子の前では、照れ屋さんで。 口に出しては言わないけど、わたしのことを一番に考えてくれていて。 わたしをいつもまっすぐに見てくれる……」 三人とも、わたしの言... -
ACT 1-20
ウサギのナミダ ACT 1-20 ◆ 月曜日の夜、九時閉店少し前に現れた客は、息を切らして店に入ってきた。 端正であろう顔には疲労が濃く、目は赤く充血している。 徹夜明けであろうか。 夜通し楽しくフザケていたわけではないようだ。 その証拠に、疲れ切ったその顔の、両の瞳だけが、意志の光を強く放っている。 もちろん、今彼の置かれた状況を考えれば、楽しくフザケる気分ではないわけだが。 右手には痛々しい包帯。デイバッグを担いでいる。 シャツの胸ポケットからは、うさ耳の神姫が顔をのぞかせていた。 息を整えている、その青年に声をかける。 「いらっしゃい……遠野くん、だったかな?」 「はあ、はあ……店長……ご相談が、あります」 「……自分の中の整理はついたのかい?」 「……はい!」 迷いのない返事だった。 すべてを決... -
ACT 0-7
ウサギのナミダ ACT 0-7 ■ アクセスポッドが開いた。 わたしは怯えながら振り向き、見上げる。 マスターの顔は相変わらずの無表情。 だけど、小さく溜息をついた。 瞳に浮かぶのは失望。 わたしは恐怖する。 今日という今日こそ、愛想を尽かされたに違いない。 今の試合で、わたしはついに十連敗という、二桁の不名誉な大台に乗ってしまった。 いつ叱られるのだろう、お仕置きされるのだろうと、思うだけで震えが止まらない。 わたしは差し出されたマスターの手の甲に乗る。 身体の震えは止めようもなく、マスターには伝わってしまっているだろう。 バトルロンドで勝てない武装神姫なんて、パーツ取りのための素体くらいしか使い道がないんじゃないだろうか。 マスターのシャツの胸ポケットに潜り込むとすぐに、 「あのな、ティア……」 「ご... -
ACT 1-4
ウサギのナミダ ACT 1-4 □ 「えっ!? それじゃあ、あの時、最初から副腕の破壊を狙っていたの?」 「ああ、最初の一撃で、傷ついたのが分かっていたからね」 俺の言葉に、腕を組んで考え込む久住さん。 ここは駅前のミスタードーナッツ。 先ほどバトルした、イーダ・タイプのミスティのオーナーである久住菜々子さんと、差し向かいで話をしている。 話の内容は、先ほどのバトルの内容。さしずめ将棋の感想戦といったところだ。 「でも、それだけで破壊されるほどヤワじゃないと思うんだけど……いくら、イーダのエアロチャクラムの腕が華奢でも」 「その前に、随分振り回して、ビルの壁とかも削っていたよね。それで負荷がかかっていることは考慮に入れてた」 「てことはまさか……路地でバトルが展開したのもわざと?」 「まあ、そうかな……ティアが得意なフィールド... -
ACT 1-30
ウサギのナミダ ACT 1-30 □ ティアと共に、歩き慣れたこの道を歩くのは、実は初めてだと気がついた。 はじめの時はティアの電源は切っていた。 その後の時には、ティアは一人アパートに残って自主練していた。 「まあ、それでお前が家出したのは、苦い思い出だが……」 「言わないでくださいっ」 ティアは俺の胸ポケットに顔を埋めて恐縮する。 俺は苦笑しながら、ゆっくりと歩いていく。 手には、いつものようにドーナッツの箱。 今日は海藤の家に向かっている。 ゲームセンターに出入りできなくなった俺は、いい機会だととらえることにして、お世話になったところに挨拶まわりに行くことにした。 海藤の家に来るのは、前回からそれほど経っていなかったが、随分前のような気がする。 その短い間に、あまりにも多くのことがあり過ぎたの... - @wiki全体から「土砂降り子猫Track-1」で調べる