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ともだちになるために

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ともだちになるために ◆JvezCBil8U



死神の足音が聞こえる。
もう、すぐ傍だ。
たぶんこのまま自分は助かることもない。

さながらクラレッタのスカートを直すかのように、理不尽に立ち向かった結果がこの有様だ。

ああ……、なんという惨めな末路なのだろう。
文字通り臓物をブチ撒けて、脳天ど真ん中に開いた孔から命が流れ出していく。

これじゃあ、考えて、考えて、考えることすらできはしない。

知ったことか、と、本当にその一言だけで解決できたのならどれだけこの世は芳醇だったろうか。
つい先刻までの同道者の顔を思い出そうとして――、止めた。

振り返るべきは、ここに連れ去られる前にどうして辿り着けなかったのかという後悔だけでいい。

「……兄貴、どうして」

どうしてあんな行動に出たのかと、今わの際のここに至ってすら繰り返し、問う。
結局彼の真意にすら辿り付く事は出来なかった。

今まで出合ってきた様々な人間の顔が、走馬灯として流れていく。


バカジャナイノー、とすぐ近くで誰かが呟いた気がした。






時はしばし、遡る。



太公望ちゃんがやられたみたいねぇん。
 あはん、あの子はこの場にいる仙道の中でも最弱……。
 人間ごときに負けるとは道士の面汚しよん」

最悪、極悪、凶悪、劣悪。
蝿の王の如き暴言をあまりにもあっさりと告げた後。
悠然と泰然と、妲己は己が仇敵の存在とその死を一瞬だけ心に留め、それきり放り捨てて奥底に沈める事にした。
はや思い出すことはなく、浮上する事もなし。
無論彼にはそれなりに思い入れがあったが――、それも生きている太公望に対してであって死体と話す趣味はない。
結局それを意識するのが面倒くさいと、そう思うことすら面倒くさいと切り捨てた。
これが妲己なのだから、まあ、それについてとやかく言うのは止めておこう。

“そんな事”より今は別のことを考えるほうがずっとお得でポイントセール。
放送を噛み噛み口の中で転がし、一人ごちる。


「どうやら神の陣営も一枚岩じゃないのは確かみたいだけどぉん、あまりにも見せ方があからさますぎるわぁん。
 “わらわを拉致できるくらい”の存在が、こんな簡単に手下に出し抜かれるはずはない。絶対に、ね。
 ……と、なると」

くすくすと、哀れで惨めな道化女を嘲笑いながら鼻歌を。

「いい趣味してるわねぇん、“神”はわらわと気が合いそうだわん。
 わざわざ『付け入る隙を演出して』、大多数の参加者に幻の希望を見せ付けるなんて、わらわゾクゾクしちゃうん。
 必死になって、命を賭けて、ようやく何かを伝えようとした放送の女も、全部計算通りの動きしかしてないってことよねぇん」

どこか放送の趣向に相通じるものでも感じ取ったのか、妲己は朝霧の中を闊歩しながら素直に賞賛の言葉を送る。
それが自分を踊らせんとする存在であっても構わない。
むしろ、その手口が実に好ましいからこそ受け入れる。拍手する。
それこそが己の度量の広さと言わんばかりに。
ぱちぱちぱちぱち。

「最後の最後に奪い取る為だけに希望を与えるなんて、わらわでも作るのに一苦労する状況だわん。
 気づいていようと気付いていなかろうと、人間らしい感情の持ち主ならまず心が受け入れられないでしょうねぇん」

何の為にそんな事をするのか、それを推し量るのは無粋というもの。
答えなど一つしかない。
徹底的に自分達を屈服させて、“神”とやらの指図を受け入れざるを得ない心持ちにする為だ。

楽しみだ、とペンライトのように指を振り振り。
当然分かっていてそれに乗るつもりもないが、どこかワクワクする気分も確かにある。
この自分をそんな状況に追い込む事が出来るなら、是非ともやってみせて欲しいものだ。
そしてその自信があるからこそここに妲己を招き、アピールしてみせているのだろう。
申公豹をも従わせた“神”の不敵さが非常に心地よい。
鼻っ柱をヘシ折って、ぐじゅぐじゅに踏み潰してあげたいくらいに。

「さしあたっては喜媚との合流が当面の目的かしらぁん。
 あの子の事だから遊びが高じて味方を一人か二人殺しちゃってるかもだけど、まあそのくらいは多めに見ちゃうわん。
 どうせわらわの邪魔になる連中には死んでもらうことになるんだしぃん」

現状何だかんだ言ってまだまだ戦力が足りないのは確かだが、自分の妹は確かに頼りになるはずだ。
味方と書いて手駒と読む関係こそが妲己の望むもの。
必要なのは甘い夢に誑かされる純粋(おろか)さや、利用されるのを分かっていて敢えて操り糸を託してくるような狡猾さを持つ人材である。

無論、多少の跳ねっ返りも許容しないわけではない。
これから手駒を集めていく際、当然中にはあからさまに自分を嫌悪するものも出てくるだろう。
自分のやり方が好まれるものではないのは最初から織り込み済みだ。
上手く使えば、むしろ自分に敵意を持つものの方がいい働きをしてくれる場合すらある。使い捨てる場合なら特に。

自分を誘蛾灯にして“神”に対抗しようとする人材も危険人物も誘き寄せ、優秀な人材を選別する。
そこまでの過程で参加者同士が勝手に殺し合うのは目論見通りだ。
だがその後――、せっかく掌の上に集めた戦力を下らない小競り合いで零してしまっては元も子もない。
後々を見越した場合、頭角を現して、尚且つ迎合や協調を望めない芽は潰しておいた方が明らかに効率的である。
そう、例えば激昂した聞仲の様な。

――聞仲。
死んだはずの男が、今ここにいるという。


「……そうそう、あの二人の事も考慮に入れないといけないわねぇん。
 まあ、蘇生そのものはわらわ達の時代じゃありえない事じゃないから、そんなに気にする事でもないでしょうけどぉん。
 王天ちゃんはいい例だし、復活の玉なんてモノもあるわよねぇん。
 魂魄さえ残っていれば肉体を与えてやれば済む事でしかないわん」

とは言えあの男はそれなりに賢いから、刺激しすぎなければそれなりの共闘は可能かもしれない。
聞仲はひたすらに殷に執着していた。妄執といっても過言ではなかろう。
逆を言えば、結果的に殷の利になるならば、仇敵と手を組む事すら辞さない男なのである。
厄介なのはそういう損得計算にすら頭が回らず、人の言葉を理解できないお猿さんの類だ。

そして残る一人――趙公明は色々と使えるかもしれない。
なにせ女カの存在を知っていながら、それでもなお自分の趣味の命ずるままに動く人間なのだから。
あの男なら、舞台の上で踊らされるままのこんな殺し合いを否定するか?

否。
むしろ自分から連中に協力すると言いかねない。
踊らされるのではなく、自らの意志で舞台に飛び込み踊るのが趙公明だ。
この殺し合いを優雅にする為に、という理由だけで、あの男は好き放題やることだろう。

そ・れ・に・し・て・も。と、節操ない速度で思考が切り替わる。
死者といえば。

「……解せないわねぇん。どうしてわざわざ、『名簿に死者が自動で記される』のかしらん。
 これじゃあ、死んだ人間を生きていると偽って弄ぶ事ができないわぁん」

たとえば、
『自分が人を殺したと思い込んだ人間に放送を聞かせず、その勘違いのままに殺し合いに乗せる』
ような遊び方も出来ないではないか。
そもそもの放送の意味すら薄れてしまう。
“神”がそんな手落ちをするとは思えない。

「――首輪と合わせて、色々と確かめてみたいわねぇん」

多分この名簿は、単純に放送と同時に死者の名が赤く染まるわけではないはずだ。
どういう条件で名簿の名が赤く染まるかそれは大体想像がつくが、その検証の為には実験動物が必要となる。
首輪の研究と合わせてちょうどいい木人形が欲しい。
その意味では、さっきの死に掛けの男の首輪を回収しなかったのは完全にミスだった。
もう顔も思い出せないが。

「まあ、ヒロインにはドジっ娘属性があるのもお約束よねん♪」

てへ、と舌をだして失敗失敗と嘯く妲己。
どこまで本気なのか、あるいは狂言なのか。
多分正解は、後者。
あの時は近くにまだ例の男へ襲撃を敢行した輩がいたはずだ。
後れを取る事などないだろうが、あの男はそれなりの使い手だったろうし、言葉で説得する頭もあったはず。
なのにボロボロにされたという事は、襲撃者は話を聞く余地を持ち合わせないということ。
だとしたら、そんなのを相手取っても仕方ない。

それよりも気にするべきは首輪なのだ。

「多分、制限というのもこの首輪の機能だわぁん。
 体に密着した状態ならばチカラを奪い取る事が出来る。
 あはぁん、まさしく王天ちゃんの寄生宝貝と全く同じシステムの代物よねぇん。
 ……申公豹だけでなく、王天ちゃんも“神”とやらに手を貸してるのかしらん」

もしそうなら念入りにお仕置きしなくちゃねぇんと口ずさみ、首輪について思考を巡らす。
確定というわけではないが、力を制限している要因は首輪の可能性が高い。

「まあ、とにかくこの首輪は十中八九宝貝合金で出来てるわねん。
 仙道がこの舞台……ゲーム盤の作成を手がけたのは間違いないわん。
 他にも、これなんかも宝貝技術を使って作ってるわねぇん」

今度は大量にモノが詰め込まれているはずなのに、全く膨らみを見せないデイパックに視線を投げかける。

「――――空間宝貝。
 このカバンの中にいくらでもモノが入るのはその恩恵。
 ひょっとしたら、この会場そのものも空間宝貝のチカラで作られたのかもぉん」

地図で見る限り、この位の閉鎖空間なら十分に作り出す事が出来そうだ。
とはいえ、普通の空間宝貝と考えると解せない点もいくつかあるのも確か。
たとえば空間宝貝の弱点である、相手が中に入り込むまでは完全に待ちに徹するしかないという前提。
それはあの見知らぬ聖堂からここに『入り込んだ』のではなく『いつの間にか飛ばされていた』事実と相反する。
故にここは普通の空間宝貝内ではない可能性が高い。
そして、弱点を克服した空間宝貝は非常に限られている。
通常空間そのものを自分の領域にする王天君の紅水陣や、蛇の形を取り自ら相手を呑み込む女カの山河社稷図。
そういった特殊な空間宝貝により、ここは作られているのかもしれない。

しかしそれでも――、自分の知る技術である事は、変わりない。
だが、首輪だけは違うのだ。

「この首輪だけはわらわ達の知る技術だけじゃあ出来ていない。
 そうよねぇん、“神”。じゃないと、さっさとわらわがこれを解除しちゃうものぉん。
 わらわ達が紂王さまを改造できる技術力を持つ事を、当然知っているはずでしょう?
 でも、あのみねねが口にしていた通り、わらわ達より未来の技術も使われている。
 つまりわらわだけじゃ迂闊に手を出せない。
 ……未来の技術とのハイブリッド技術。つまり、どっちにしろ必要なのは味方や知識、って事よねぇん」

最悪、必要な知識を持つ技術者はもうとっくに死んでいる可能性がある。
だとしたら色々自分で積極的に試していく必要があるだろう。
あらためて首輪の威力や禁止エリア進入時の性質を調べてみたい。
特に、爆発力については人体実験を行ってみたいところだ。

――例えば、聞仲などは核爆発にも耐える耐久力を持つ。
アレほど頑丈な仙人が、たかだかこの首輪一つの爆薬で生首を転がらせるとは思い難い。
しかしおそらく『今の聞仲』なら容易く首を落とせるのだろう。
課せられた制限とやらが、それを可能とする。

仮に、本当に制限が首輪の宝貝としての機能だったなら。

その場合、是非とも欲しいのはスーパー宝貝の一つ、太公望の太極図である。
あれがあれば、首輪の機能のうち少なくとも能力制限は無効化できる事だろう。
そうすればある程度の耐久力を持つものは爆発を気にせず首輪を破壊できるはずだ。
つまり、その『ある程度』を見極めさえできればいい。

もし大した事がないのであれば、人によっては『太極図を使わずともそのまま爆破して』解除してしまえるかもしれない。
流石に希望的観測が過ぎるとはいえ、頭の隅っこには置いておこう。


そんな事を考えながら、足を止める。
ようやくその建物に辿り着けば、妲己は誰に見止められることもなく、口元を三日月に歪めた。
妖艶に、淫靡に。



どういう事だ?

どういう事だ!?


混乱の極みに陥りながら、それでも少年は為すべきことを過たない。


駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。

逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。

ずきんと折れた手首が体全てを軋ませる。
じくじくと鑢をかけるような痛みが、冷静な判断力を奪っていく。

近づくは突き当たり、延びる行き先は階下か階上。

進むべきは二択。
間違えれば、それはすぐ死に繋がる。

何故なら――、と考えるまでもなく、その答えは少年のすぐ傍に。

1、2、3、4、5、6、7。

7歩を数えたその瞬間、少年はいきなり横っ飛ぶ。

ぼひゅうと水蒸気の帯を靡かせて、脇腹のすぐ傍を砲弾が通過していった。
ホンのコンマ1秒でも遅れていれば糞の詰まったソーセージをぶち撒けていた事だろう。

1/10=1。
走り始めてからの歩数を10で割ったその余りは、必ず10以下となる。
次の投擲時までの総歩数÷10の余りは何歩になるのかを指定する。
あとはその余った歩数が来るたびに、回避行動を取ればいい。

だが、それが出来るのは回避するに十分なスペースがある場合だけだ。
このまま階段に突っ込んだ場合、上と下と、どちらに向かおうと必ず一瞬だけ動きを止めて方向転換しなければならない。
その隙をあの少女が見逃すはずはない。
どちらに進むのかを先読まれれば、確実に潰される。

――二択の勝負。

だから、少年こと安藤潤也の逃走は確定した。
少年が向かった階下とは見当違いの、昇り階段に鉄クズが突き刺さる。


これでしばらくは一安心。
金剛と戦いながらもこちらの動きを完全に把握し、機を見て投擲を仕掛けてくるあの動体視力は、まさしく人間のものじゃあない。
……あの金剛なら少なくともしばらくは持ちこたえるだろう。
剛力番長とやらに自分を追わせないよう、階段の前で時間を稼いでくれるはずだ。

その間に自分はどうすべきか。

具体的な行動案として浮かぶのは、2つ。
金剛があの剛力番長とやらを完全に無力化するのを待つか、ここから金剛を見捨てて逃げるか。

どちらを選んでもそれなりのリスクが付き纏う。
前者はもちろん、金剛が殺されてしまっては元も子もない。
さすれば座して待つは断頭台に首を預けるのと同じ事となる。
……おそらく勝負は金剛がやや有利か、互角といったところだろう。

金剛と剛力番長、どちらが勝つか、二択。
これについて1/2を1にしようと思考の海に沈んでも、どちらもしっくりこない。
なれば出される答えは、新たな選択肢である『決着がつかない』だ。
こうなると今後の展開が全く読めない。

だから、見えない未来よりも確実にこの場から脱出する後者の選択肢を選びたくなる。
されど後者もまた確かにリスクを孕んでいるのだ。
つまり、金剛番長を敵に回す――そこまでいかずとも悪印象を持たれるというリスク。

金剛は相当な実力者だ。だから、出来る事なら敵には回さず味方につけておきたい。
スジを通す、なんてつまらない理由で自由な行動を束縛される代償を支払ってもだ。
ついさっき、仲間を集めて脱出する事を心に決めたばかりでもあることだし。

……ああ、そうだ。
ついさっきまでは、それが全くの最善だった。最善だと思っていた。

だからもし今が放送前だとしたら、多分前者を選んでいたことだろう。

だけど、放送で全てがひっくり返された。

「……どうして、兄貴の名前があるんだよ……」


何分かぶりに、ぽつりと、ようやく言葉が漏れてくる。
気がつけばもう下りる階段はほとんどなくなっていて、一階まで辿り着いていた。

名前と言えば、土方という名前が名簿に見当たることもなかった。
だが、あんな男の事など今はどうでもいい。
見覚えのある名前として蝉の死亡も告げられたが、それすら今は気にならない。

「死んだ人間が生き返るとか、あの女の言葉は本当だって言うのかよ……!」

がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし
がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし
がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし
がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし

何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。
まだ動く左の手でひたすらに頭を掻き毟り続ける。

血が出てきた。
でも止めない。
爪に肉が挟まる。
それがなんだ?

考えろ、考えろ、考えろ。

偽者、という可能性が一番高い。
だとしたら許しがたい。あるいは同姓同名か。
だがこの名簿を作ったのは“神”とやらだ。
あの連中が、わざわざそんなつまらないオチを持ってくるだろうか。

だが、本当にほんものの兄だとしたら?
自分はどうすべきなのだろう?

自分が脱出を志したのは、帰還して兄の仇を討つ為だ。
だが、兄が生きてここにいるというならば全ての前提は覆される。

兄には、生きていて欲しい。
その為ならば何でもしよう。
泥を啜り、草を食み、糞尿に塗れても兄を生かそう。

……もし兄を騙る何者かなら、殺す。
それは兄への最大の侮辱だからだ。

で、どうするんだ?

兄とともに脱出する為に、これまで通りの方針を貫徹する?
一刻も早く兄と合流する為に、さっさとあの男を見捨てるべきか。
あるいは、何が何でも兄を生かすために、敵を排除して排除して排除して、ひたすら攻勢に徹すべきか。


「俺は――」



目を開けると同時に、ごふ、と血を吐いた。

仰向けに寝転がったまま口元に吹き零れた血を拭い、静かに肩の辺りに手を持っていく。
そこにはぱっくりと口を開いた傷口から黄色い体液と赤い血とピンクの肉と白い骨が見えていて、あるべきものがごっそりと抉り取られていた。
けれど、突き刺さっていたはずの馬鹿でかい剣はとっくに抜き取られている。

地べたの自分のものだった血に触れてみれば、まだ微妙に暖かい。
……倒れていたのは数十秒ではないにしても、そう長い時間ではないはずだ。

「……強くなったじゃねえか、剛力番長」

そのまま怪我人とは思えない動きで足をカチ上げ、振り子の要領で一気に立ち上がった。
どすん、とフロア全体に金剛の再起が知らしめられる。

「だったら……余計に放ってはおけねえな」

剛力番長は、おそらく潤也を追って下に向かったはずだ。
その潤也自身も、長い時間目を離しておくわけにもいかない。
危険な匂いを感じるのはむしろ剛力番長よりあの男の方であるとすら言えるのだから。

エレベーターは使えない。
剛力番長がデパートに入ってきてからすぐ、逃げ場を塞ぐ為に叩き潰してしまったからだ。

疾駆。疾走。大跳躍。
このデパートは吹き抜けの構造になっており、上の階の喫茶店に設けられたバルコニーから
一階のテラスを見下ろせる形になっている。

そこを、一息で飛び降りる。
下手に階段などを使うよりもそっちの方がよっぽど早い。

フロアの織り成す縞模様が、高速でスライドしていく。

着弾。

びりびりと建物全体が震え、砕けた床からもうもうと白煙が立ち込める。
すっくと背を伸ばして睥睨すれば、金剛の到着を待ちわびていたかのように近寄る影二つ。

「……!」

ふしだらな格好をした女と、体操服という出で立ちの少女の追いかけっこがこちらに向かって展開中。


「そこの人、助けて頂戴ん? わらわ怖ぁい女の子に追われているのぉん」

その台詞が終わるより早く金剛は己が大腿の筋肉を爆発させる。
轟、という音と共に暴風が吹き荒れ、二つの影を断ち割った。

「……! やはりまだ生きてらっしゃいましたか。
 今度こそ、引導を渡して差し上げます」

その言葉を無視。
金剛はじっと目線を剛力番長に合わせ、睨みを効かす。
放送を経ても、神に反逆を試みたあの勇気ある女性の意志を聞いても未だ、彼女は相も変わらずただ頑なに敵意を見せるだけ。
盲目である事を自ら望み、手段を目的に成り代わらせたままだ。


……ならば、その眼をこじ開ける。
昔の彼女自身を突きつける。

「女一人にテメエで培った暴力を叩き込むのが番長の仕事か? 剛力番長。
 ……違うだろうが。
 以前のお前の行動だって、結果的に迷惑をかける事になったとは言え全部住人の為にやったことだったろう!
 初心を忘れるんじゃねえ! それでも本当に、お前はあの剛力番長なのかッ!」


ぷつ、と、何かがキレた音がした。

「わ……、わた、私は……ッ!」

灼熱の憤怒を滾らせて大山が鳴動。

「私はッ! 剛力番長です! 白雪宮拳です!
 あなたなどの言う事を聞き入れなくても、誰に認められ――、」

噴火を目前としたその間際。


ぞく……。


金剛の芯に悪寒が走った。
背中に氷を入れられた――、などと、生易しいものではない。
鋭利に研ぎ澄まされたつららで心臓を一突きにされたような、この世のものとも思えない怖気。

何だ? 何なんだ?

振り向きたくとも振り向けない。
今、自分の後ろで何が起きているのか確認しようとしても、それをすれば剛力番長の暴走を許してしまう。

……いや、分かっている。
背後の女は特に何もしていない。ただじっとこちらを見ているだけに違いない。
なのにその目線がいやに自分の癇に障るのだ。

そして当の剛力番長は自分の後ろにいる女に目線を動かし、ハッと息を呑んだような――そんな気がした。

「…………、そうでしたわね。ええ。私は私です。
 “あなたのお言葉通り”その淑女さんには手を出すべきではありませんわね。
 ここは退いておきましょう」

そして余りにも唐突に、じりじりと後退。
何かを告げよう暇もなく、実に不自然な気持ち悪さと共に屋外へと、舞台袖へと剛力番長は引っ込んでいった。

それはまるで、大好きなプリンの中から生きた毒虫が這い出てきたかのような。
あるいは、自分以外誰一人いないはずの廃墟の食卓に、たった今焼きあがったばかりのほかほかのパンを見つけたような。
そんな得体の知れない不快さが拭えない。

茶番劇としか思えない一連の出来事に、金剛は剛力番長を追う事もなくその場に立ち尽くすだけだった。


その背中に対して届けられる、おぞましい猫撫で声。

「助かったわぁん。あの子を追い返すなんて、貴方、相当お強いみたいねぇん。
 くす、わらわの力になってもらえないかしら?」

ようやく振り返っての開口一番は、相手の要求を一切考慮しない訊問を。

「……俺と出会う前に剛力番長に何を吹き込んだ?」

されど目をすがめて覇気を発してみても、柳に風。暖簾に腕押し。
目の前の女は掴みどころなく、ただただ薄笑みを浮かべているだけだ。

「あん、わらわの過去が気になるのぉん?
 出会ったばかりで口説くなんてとっても大胆。
 でも御免なさいん、わらわの体は紂王さまだけのものなのん。もう死んじゃったけどねぇん」

戯言に混じって平然と言葉に出される、死という単語を耳にして思い出す。
そうだ、今はこの女よりも優先せねばならない事がある。

「お前、安藤潤也という男を見なかったか?
 俺より先にこっちに向かったはずだ」

――放送の時。
名簿に目を通してすぐ血相を変えたあの男は、どうしているのか。
どう考えてもまともな精神状態じゃあない。
何故なら、死んだはずの彼の兄がここにいると言うのだから。

「知らないわぁん? 貴方のお仲間なのぉん?」

手応えはない。
いつ崩れるかも分からない泥の橋を渡るような心持ちで、潤也について口を動かす。

「……奴は今危うくてな。放っておける状態じゃねえ。
 さっきの放送と同時に浮かび上がった名簿に、あいつの死んだはずの兄貴とやらの名前があったらしい。
 胡散臭え戯言に乗せられて変な考えに取り付かれてなきゃいいんだが」

……自分の兄を思い浮かべる。
安藤の気持ちも良く分かる、というのは言い過ぎかもしれないが、それに近い感情は確かに自分にもある。
今こそ自分と兄は敵対しているが、それも兄が家族だからこそ止めたいと思うが故の行動の結果だ。
大切だからこそ敵対することすら厭わないし……、その逆も、また然り。

「あらん、胡散臭いってどういうことかしらぁん?」

「言うまでもねえ事だろう。死んだ人間が生き返るはずが――」

「ある、わよん?」

――聞き捨てならない言葉が、差し込まれた。

「!? どういう事だ……?」

目を見開き詰め寄れば、女は嘲笑うようにチッチッチと指を振り振り。

「単純だわん、わらわ達の時代じゃあ、死人を蘇らせる方法もあるって事よん♪
 情報を集めた限り、他にも蘇生の技術を持つ人たちがいるみたいねぇん」

例えば、空想の中に住む全能の神の力とか。
例えば、真理の扉の向こうにある理とか。
例えば、友人たる鯨との再開を夢見た男の食した悪魔の実とか。

女の住む世界の様々な道具以外にも、存外生と死を弄ぶチカラは転がっている。

金剛はその真贋を見極めようとして女に手を伸ばすも、ひらりとかわされ行き場を失う。
……ただ、なんとなく理解する。
この女は掴み所がないが、こうも強気に断言する以上はそれなりの根拠があるのだろう、と。

「……剛力番長の言ってた事も、あながち嘘じゃねえって事か。
 だが、それでも蘇りなんぞを認める訳にはいかねえな」

「死んだ人間を生き返らせる。悔いを残して死んだ人も、彼らに未練を残す生者も救われるのにぃん?
 素晴らしいことだと思うけどねぇん?」

大きく、大きく息を吐く。
先刻から一々、この女の態度に吐き気を催してしょうがない。
まるで命をなんとも思っていないかのようだ。

きっと本能のレベルからしてこの女と自分は相容れない存在なのだろう。
生理的嫌悪というべきか、それくらいに何かが致命的なまでにズレてしまっているのを感じる。

怒りに身を任せてしまえば楽だが、向こうは確かに何もしていない。
己からスジを違えるのは流石に自分を許せない。
心を落ち着け、ただ愚直に毅然と相対する。

「そいつはスジが通らねぇな。命ってモンを弄んでるのと同じ事だぜ。
 死んだ人間に対しての最低限の義理すら果たしてねえ。
 仮にそんなふざけた事をエサにして人を釣る連中がいるってんなら、そいつらをぶっ潰すまでだ」

「……生きているものだけに許される傲慢ねぇん。
 死んだ人間が皆が皆満足して死んだとでも思ってるのかしらん?」

だが、一向構わず女は楽しげなまま。
それどころか遥か高みから値踏みするようにこちらに刺激を与えて反応を楽しんでいる風すら感じる。
一挙手一投足の品定めに、金剛は激情を滲ませないよう務めるので忙しい。

「何が言いてえんだ?」

「さて、それくらいは自分で考えて頂戴? わらわが教えられることなんてこのくらいしかないわぁん。
 ……生きとし生けるものは全て、永遠に生きることを望むものなのよん?」

いい加減、ふざけた態度が目に余りすぎた。

ぶゥん、と、渾身の、痛恨の、会心の一撃を以ってして、いきなり殴りかかる。

拳より出でる風は荒く猛り、しかしその速度をすら超えて風は生みの親にブチ破られた。
しかし、女はそれでも微動だにすることはない。
ぴたり。
まさしく文字通りに目の前で止まった拳を、さも当然の帰結であるかと言うように優しく優しく撫でてみせる。
こうして寸止めされることすら、きっと彼女の読んだ未来のシナリオ通り。

「……こんな事は言いたくねえが、どうにもお前は信用できねえ。
 悪ぃが、何か用があるってんならしばらく俺に同行してもらおうか。
 お前がスジの通った奴だって分かったんなら話を聞く。
 ちゃんとそれまでは身の安全も確保してやる。これで構わねぇだろ」

「酷い扱いねぇん、野蛮だわん。
 ……わらわ、束縛されるのって嫌いなのん。
 その潤也って子を探してあげるから、二手に分かれないかしらん?
 見つけて連れきたんなら、その時にわらわのお願いを聞いてほしいのぉん」

「…………」

何も答えることなく、さっさと歩きだす。
やましいところがないなら一緒に行動したって問題はないはずだ。
目のつかないところで得体の知れないことをされるより、同行して監視している方が好ましい。
それが嫌なら最初からお願いなどしなければいい。

分かっているのかいないのか、女はへらへらと表情を崩さず静かに後ろについてくる。

……どうしてか。
この女が特に何かをしているところを見たわけでもないというのに、結局。
スジが通らないと分かっていながらも、心の奥底から涌き出る汚泥を隠しきることは出来なかった――――。



意外とそれには時間がかからなかった。
僅か数分。
下る階段を乗り換えて、エスカレーターにて階下へ辿りつけばそれで仕舞い。
安藤潤也は、地下にいた。

「見つけたぜ、潤也。
 ……どうやら逃げ出しちゃあいなかったみてーだな。
 少し見直したぜ」

――生鮮食品などが本来は並べられていたであろう地階。
いわゆるデパ地下と呼ばれるエリアの、エスカレーターの真正面。
そこで潤也はあたかもその空間の主であるかのように、ぼうっと座して待っていた。

「――無事だったのか、金ご、う……?」

此方に振り向きの第一声は、当然の事ながら背後の女に対してのもの。
道すがらに妲己と名乗ったふざけた格好の女は、いつの間にやらその手にいくつもの服を抱えてどれを着ようかなどと暢気なことをほざいていた。

「……その女は誰だ?」

不信感をあからさま過ぎるほど見せ付けて、潤也はニヤニヤ笑いの狐を睨みつける。
「わらわはジャンプ史上究極にして至高のヒロイン、妲己ちゃんよん。
 よろしくねぇん、潤也ちゃん」

それに何を思ったのか。
挨拶に答えることなく、潤也はただただ最初から用意していたであろう台詞を繰り出した。

「まあいい。それより金剛、あの女がどうにかなったんなら、すぐにでも向かいたいところがあるんだ」

なに、と金剛は小さく息を呑む。
潤也の態度は、どう見てもこれまでの彼とは全く異質な雰囲気を纏っていて、金剛すら僅かに怯ませる意思が漲っていた。

――潤也曰く。
以前と同じく兄の名前を持つ人物の所在について地図上の各施設を調べたところ、旅館にその名前が該当したらしい。
死人であるはずの潤也の兄の存在は眉唾物であるが、名簿にはマシン番長の名も記されている。
もしそれが金剛の思うとおりの人物であるなら、妲己や剛力番長の言葉の信憑性を完全に零と断定することは出来ない。

潤也は告げる。
あの連中なら、死人を生き返らせる事が出来てもおかしくないだろう、と。
そうでないとしても兄を騙る人間を野放しにし、一秒たりとも生かしておきたくない。
制裁せねば、と、そう断言した。

……やはり、この男は危うい。
その確信を深めながらも、金剛はいつの間にか、彼のどこかに共感するものを感じていた。

口では物騒なことを言っていながらも、本心ではむしろ兄に生きていて欲しいと願っているようにさえ見える。
その感情が兄と敵対する自分にいつしか重なって見えていたのだろう。

たとえ、その決意がどれ程強固であろうとも。
やっぱり人殺しなんてしたくないという気持ちは、きっと潤也だって持っているはずなのだ。

「――本物か偽者かは置いといても、一刻も早く兄貴を見つけなきゃ。
 その為にも、俺は旅館に向かわなきゃならない」

とはいえそれでも、彼のギラギラとした目つきは金剛を不安にさせて止むことはない。
妲己と、潤也。
こんなのを二人も同道させることになるとは、自分はよほど運がないのだろう。
……いい加減自分も少し疲れてきた。
潤也の急く気持ちは確かに伝わってくるが、いつも全力疾走ではすぐにガタが来る。

「……考えは分からねえでもねえが、その前にそろそろメシを済ませといた方がいい。
 剛力番長は退いたが次にいつ敵が襲ってくるとも限らねえ。
 体力補給はこまめにやっておかないと体がもたねえぜ」

結局は、その当の剛力番長の説得も出来なかった。
どこに向かったか見当もつかない以上、見知らぬ誰かが被害を蒙っていなければいいのだが。

とりあえずの休息の提案に、しかし潤也はそれも予期していたといわんばかりにデイパックを逆さにする。
全部が全部、シナリオ通り。

「ああ、それは俺も考えてた。
 けど、このカバンの中の食料はいざという時にとっておくべきだと思う。
 だからとりあえずこのデパ地下で適当にカロリーの高そうな食いもんを集めといたんだ。
 おかげで菓子系ばっかりだけど、そこは我慢してくれ」

どさどさどさ、と、いくつかの洋菓子が零れ落ちてくる。
種類はどれも違っていて、確かに糖分補給には十分そうだ。
「ふぅん、スイーツがいっぱいねぇん。これは少しだけ楽しめそうだわん」

「……あんたの分は想定してなかった。
 まあいいや、さっさと自分の分を取ってくれよ。
 兄貴を名乗る奴はすぐにでも旅館から離れちまうかもしれない。
 ちんたら時間をかけて食ってる暇はないんだ」

不機嫌そうに潤也は妲己を一瞥したのち、顎で不動のままの金剛に意思表示。

「……金剛? 甘いものは嫌いか?」

「そんな事はねえさ。そのプリンをもらっとくぜ」

本当に時間が惜しいのだろう。
やれる事は全てやっておいたから、あとはここを発つだけとでも言いたげだ。
金剛がプリンを手に取った直後、潤也は床に並べた菓子の一つをまるで飲み物であるかのように掻き込み、咀嚼。
ウーロン茶で流し込むというパティシエに一番失礼な食べ方をして、息つく暇なくさっさと立ち上がった。

「さあ、早く行こうぜ」

「……いい加減余裕がなさすぎだぜ、潤也。なんか汗まみれじゃねえか。
 ちょっと待ってろ」

金剛の巨体には、こんな小さなプリンはそれこそひと呑みだ。
だからこそ時間はさほどかからないだろうが、それでも折角の好物くらいは味わいたい。
見れば、妲己はとうに自分の分を確保してトロけるような顔でそれを堪能している。

仕方ない、と諦める。
こんな事で不和を招いても無意味だ、ここは潤也の望み通りにしておこう。
それにもし妲己の言うとおり死者が蘇っているのだとしたら、潤也の兄はこの男のストッパーになってくれるかもしれない。

ぱくりと口腔に放り込む。
甘ぁいカラメルと卵の芳醇なハーモニーを舌の上で楽しみながら、内心潤也に感謝する。
まさかこんな殺伐とした場所でプリンを楽しめるとは思わなかった。
どうにも不信感ばかりが募る一方ではあるものの、これだけは素直に礼を言っておくことにしよう。

ありがとう、と呟こうとしたその瞬間、転がしていたプリンが気管に入り込んだ。

「……かはっ!?」

ごほごほごほ、と一気に咳き込む。
らしくない。全く以ってらしくない。

……いきなり訳の分からない状況に置かれて、殺し合いを強制されて。
存外、結構緊張していたのかもしれない。自分でも意外に思ってしまう。

「ぐっ……!」

こちらを今か今かと待ちながらさっきから掌に握ったままのウーロン茶を弄ぶ潤也。
そちらを向いて、慌てて手を伸ばし要求する。

「み、水……。それをよこせ。
 それも一台や二台ではない……、全部だ!」

何をやってるんだ金剛、と苦笑する潤也が差し出すペットボトルを掴もうとして、気付く。
手が。
腕が。
肩が。
首が。腰が。腿が。臑が。足が。


何一つ、動かない。

この息苦しさは、プリンが喉に詰まったからなんかじゃあない。

ああ、そうだ。
予感はきっと、すぐ近くの女に感じた印象はきっと、間違っていなかったのだろう。


「ざァんねん♪ わらわに同行を指図しなければ手駒として生かしておいたのにぃん。
 下手に統率力があって我が強かったのが災いしたわねぇん」

1/10=1。
金剛がどの菓子を選ぶかなど、潤也には最初から周知の事。
さっさと目の前で自分の分を食事してみせたのは、この菓子類が金剛に安全だという印象を植え付けるため。

プリンの中に、生きた毒虫のその汁が仕込まれていた。
たぶん、その程度の事なのだろう。


「潤也ちゃんから話を聞いた時はまだ、利用されてくれる余地があるかもって考えてあげたのよぉん?
 なのに、せっかくのチャンスをフイにしちゃうなんて、わらわ悲しいん。
 それだけ強いなら色々便利だったでしょうに、わらわのお願いすら聞く耳持たないんだものぉん」


その程度の事で、自分は――――、


意識が薄れていく。
けれど完全に消えることなく、崖っぷちに必死でぶら下がった状態で固定されたかのように、
ある一線の手前で貼り付けにされている。

――いっその事、完全に意識を失ってしまえれば楽だったのに。


「あはん、わらわ命令するのは好きだけど、されるのは大嫌いぃん。
 貴方みたいなのに同行されたら、色々動きにくくなっちゃうわん。あと貴方、わらわより目立ちすぎぃん。
 覚えておく事ねぇん、押し付けがましい男ってのはモテないのよん」

ああ、もし二手に分かれる事に同意していたのなら。
今となっては詮無いことで、その一言で金剛の命運は断ち切られた。


妲己と潤也とが、ドライアイスのような目で見下ろしている。
視線はもう人間に向けるそれではなく、養鶏場から出荷されるブロイラーを見るのと同じものだった。


「さぁて、あんまり簡単に壊れないでねぇん、木人形ちゃん?
 貴方の尊い犠牲が首輪を解除する一助になるんだけどん、
 その前に耐久力のテストをしとかないと参考にならないんだから、分かったぁん?」



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