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ROMANCE DOWN -冒険の…?-

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ROMANCE DOWN -冒険の…?- ◆lDtTkFh3nc


寝ている間に見る「夢」は最高の娯楽であるといえる。
漫画やゲームのような非現実を、この上ない現実味を帯びて体験できるからだ。
夢を見ている間は、誰もがそれを現実と信じて疑わない。

ならば逆に考えて欲しい。
現実で漫画やゲームのような、夢のような状況に直面したら…
そこに現実味を持つことは出来るだろうか?


    ◇     ◇     ◇


「ナギちゃん…か、いい名前だな」
「そ、そうか?」
「あぁ、とても美しい女性……の名前に似ている」

コケッ、と効果音でも出そうなリアクションをとる少女。
これもとある関西出身の幼馴染の影響だろうか。
三千院ナギは、G-8にある旅館で出会った男と情報交換中だった。

「本当に美しいんだぞ。それはもう天女のように…いや、もはや天使と呼ぶべきか。
 あ、勘違いしないでくれ、美しいだけじゃない。美しいのは間違いないんだが…
賢くて強い。航海術にも長けて、金銭感覚も素晴らしいし……あ、あと美しいな」

唯一見える右目をハートにし、聞きもしない女性の美しさを延々と語るこの男はサンジと名乗った。

「…ちょっと会ってみたい気もするな。いやそんな事より、さっきの話は本当なのか?」

ちょっとした誤解も解け、お互いの身の上話をした二人だったが、なにやらいろいろとおかしなことがわかった。
サンジは、麦わら海賊団という仲間たちのところでコックを勤めているという。
「偉大なる航路」という海を航海しながら、「オールブルー」という海を探しているのだとか。
他にもいろいろな体験談を聞いたが、その全てがナギには眉唾物であり…同時にとても魅力的だった。

「まるで、漫画みたいな世界じゃないか!」

子供のように(子供ではあるが)目を輝かせ、話を聞いてくるナギに対し、サンジは少し戸惑っていた。

「漫画ってのが何かは知らないけどな…俺にしてみれば君の話のが驚きだぜ」

ナギは大金持ちである。
そういう事はわかるらしいが、サンジは高校とかパソコンを知らない。
無論、ゲームやインターネットといったナギの趣味に関わる全般の知識もない。
ついでにガン○ムも知らなければウルト○マンも知らないし、同人誌も知らなかった。

「これは…パラレルワールドだな。間違いない!」

顎に手をあてたナギのつぶやきに、サンジが首を傾げる。

「パラレルワールド?」
「そうだ、いわゆる並行世界というヤツだな。自分達が住む世界とは別に、似てはいるが違う世界があるという話だ。
 きっと私から見たらお前はパラレルワールドの住人なのだろう。ドラ○もんでは常識だぞ」

ふふん、と自慢げに語るナギのおでこに、サンジが手をあてた。

「な、何をする!熱などないぞ!!」
「いや、スマンスマン…まぁ空島の例もあるし、あんなモン見せられちゃな…信じない訳にもいかないか」

少し前に繰り広げられた悲劇を思い出し、サンジは自分が苛立ってくるのを感じていた。
気丈にもこの殺し合いに逆らったが為に、命を奪われた少女。
気高い素敵なレディだっただろうに…女性の命を無下に扱うこの殺し合いに対しての怒りが募る。

「こうしてる場合じゃねぇな…ナギちゃん、俺は君を守ると約束した。
だが他にも守らなくちゃ行けない人達がいる。君はこれからどうするつもりだい?」

サンジの問いに、ナギも改めて自分の行動方針を考えてみる。
これが本当に殺し合いだとして、なぜ自分が巻き込まれたか。心当たりがないわけじゃない。
ナギは三千院家の遺産がらみで何度も命を狙われている。
ここまで悪趣味なやり方をされた事は無いが、これがその関係である可能性は捨てきれない。
さすがにパラレルワールドまで絡んではその可能性も低いだろうが…

ともかく、自分は自宅で寝ていたはずなのだ。
そこからさらわれたとすれば、自宅にいた自分の使用人達が巻き込まれている可能性は高い。
その中にはもしかしたら、自分にとって特別な…最高の執事がいるかもしれない。

「私も何人か知り合いが巻き込まれている可能性がある。
 メイドのマリアやペットのタマ…それに、執事のハヤテも…」

他にも一人くらいいた気がするが、今はとりあえずいいや。

「主として、私があいつらを見捨てるわけにはいかない。もしいるなら、探してやらねばな」

「いいね、強い女性は素敵だぜ」

サンジの褒め言葉に、胸が高鳴る。

「なら決まりだ。とりあえず名簿が読めるようになるまで、仲間探しといこう。
 なに、危ないクソヤロー共は俺が残らず蹴り飛ばしてやりますよ、お嬢様」

大げさに礼をするサンジに照れつつ、ナギは自分の心臓の鼓動が速まるのを感じた。

ナギにだって恐怖はあった。だが、とある感情がそれを押し込めている。
これは、期待なのかもしれない。
日常の夜には想像もしていなかった、非日常な夜明けを迎えたのだから…

    ◇     ◇     ◇

とりあえず腹ごしらえを、というサンジの提案で二人は厨房にいた。
ロビーで旅館のパンフレットを拝借し、見取り図を入手したのだ。

さすがは一流のコック。サンジは厨房の冷蔵庫を覗き、なにやら考えている。

「ロクな食材がねぇな…ホントに宿泊施設かよ」

支給されたバックの中に入っていた食料は、どちらも質素な握り飯だった。
サンジに言わせれば
「愛情もなにもなく、力を込めて握った固いだけのシロモノ。塩加減も適当だし、こりゃホントに最後の非常食」
ということらしい。普段からいいもんを食べてる身のナギとしても、できるだけおいしいものが食べたかった。

彼は米やバター、それにワインとレモンなどを用意していく。

「待ってな、最高に上手いレモンリゾットをご馳走してやるよ」

ニッと浮かべた笑顔は、海賊とは思えない…まさしくコックの笑顔だった。


まずレモンを絞り、それからブイヨンを用意する。時間がないので固形のもので済ませた。
玉葱とニンニクをきざみ、米を洗う。米は炊く直前に洗わないといけない。
厚手の鍋でオリーブオイルを使いニンニクを炒めると、香ばしい香りが漂ってきた。
パチパチと良い音をたて、ニンニクが小麦色になったら玉葱を加える。
玉葱の甘い香りがしはじめたら、いよいよ米を投入だ。
透き通るような色になるまで待ち、白ワインを入れて更に煮詰める。
煮詰まったらブイヨンを足して、火を強めた。少し待てば米が炊ける。


米が炊けるまでの間、更に情報交換をした。
彼女の世界の話は驚きの連続で、ウソップの嘘がかわいく思えるほどだった。ルフィが聞いたら喜びそうだ。
彼女もまた、こちらの話に目をキラキラさせながら聞いている。
「偉大なる航路」「ゴールド・ロジャー」「王下七武海」……
こちらでは珍しくもない話を、夢物語を聞くように楽しんでいる。

「おっと、そろそろだな。味付けだ」

鍋に塩、胡椒、バター、たっぷりのレモン汁を加える。あとはパセリでもあれば最高だが…まぁ上出来だろう。
爽やかなレモンの香りが食欲をそそる。フンワリとした、レモンリゾットの出来上がりだ。

このメニューはサンジなりの気遣いだった。
このような状況…落ち着いているように見えるがナギとて相当参っているだろう。
加えて焼死体を見せられた後だ。肉料理なんてもってのほか。
さっぱりしていてどことなく安心できる料理。それゆえの、レモンリゾットだった。

「うむ、これは美味しそうだな」

普段からおいしい料理を食べているナギに、ありあわせの食材でここまで言わせるのはさすがといったところか。

「皿の用意をして、っと…皿もロクなもんがねぇな。クソレストランの方が百倍マシだぜ」

しかし食器の準備に少し目を離したほんの一瞬…そこで悲劇は起こった。

「よしよし、んじゃさっそく…って、何いれてんだーーー!?」

目の前にはファ○リーピュアを鍋に注ぐ、ナギの姿があった。

「え?いや、隠し味にと思って…」

目の前の少女が浮かべる素敵な笑顔。
その笑顔の前に、女好きなサンジの怒りは揺らぎ…

「…そ、そうそう!これを加えると爽やかな香りがこう、キュキュっとね……
って違うわーーー!!!!!」

思わずノリツッコミしていた。

「これは洗剤!食べるものじゃないの!」
「な、違う!よく見ろ、これはハーブの香りの油だ!」

そういって突き出された容器には、ハーブの絵と共に「油汚れを落とす」と書かれていた。

「……そうじゃなくて、ハーブの香りの植物性洗剤だ!」
「なん…だと…?」

冷や汗を浮かべ、じっくりとファ○リーピュアの容器を見直すナギ。段々顔が強張っていく。
終いに虚閃でも放ちそうな表情を浮かべて、叫び返した。

「うぅ…そ、それくらいなんだ!ハヤテはマ○レモン入りのおかゆを残さず食べたぞ!」
「そういう問題じゃない、ていうか前にもやった事あるのか…」

語気を強めていたサンジは、そこで段々潤んできているナギの瞳に気がついた。

「……う、ぐす……すまん、私のせいでせっかくの料理が台無しだな…
昔ハヤテにも同じようにヒドイことをしていたのに…どうして私はこうなんだろう…」

女性を泣かすのは、最低の男だと心に刻んで生きてきた。
サンジの感情スイッチが、憤りから一気に後悔へと切り替わる。

「……悪かった。一生懸命手伝ってくれたんだもんな、泣かないでくれよ。作りなおしゃ済むことさ。
 それにきっと、それを食った奴は…君の心遣いが嬉しかったんだよ」

ファ○リーピュアを握ったままのナギの涙を拭い、サンジが謝罪する。
ナギも少し笑顔を浮かべ、「そ、そうか」と呟いた。

「…いい仲間がいるんだな、ナギちゃんにも」
「あぁ、自慢の執事だぞ!マリアやタマに、伊澄に咲夜…ヒナギクも」

少女の笑顔を取り戻せたことに安堵し、サンジは台所に向きなおした。
鍋の中のレモンリゾットは横に退けて、新たに作りなおすことにする。
もったいないが、さすがに食べるわけにはいかない。普段なら男共に食わせるのだが…

ふと、そこでサンジが背後の気配に気がつき振り返った。厨房の入り口に誰かがいる。
状況が状況なだけに、否応なく高まる緊張感。

「…誰だ?俺の料理の匂いに惹かれたかい…?」

サンジの質問に答えるように、ドアの影から侵入者が姿を現す。
ゴスロリファッションに身を包んだ……とてつもない美少女だった。
予想外の人間の登場に、二人とも少々面食らう。

「蜂……蜂……とんで来た……」

人指し指を口唇にあて、物憂げな表情を浮かべて呟きだす。
ちょこんとスカートを掴む仕草が妙に似合った。

「頭の用心……御用心……」

見た目通りに幼く、なのに見た目からは考えられないくらい妖艶な声。

「下駄ぬいで投げろ……投げても駄目だ……」

サンジが半歩前に出る。ナギを庇うような形で少女と相対した。

「頭の用心……御用心……」

奇妙な威圧感。
まるであの生物と出会った時のような、特殊な焦りと恐怖。
大きくもなく、鋭い爪や牙を持つわけでもない。
小さな小さな…だがこの上ない危険を隠し持つ飛翔生物。

「蜂……蜂……とんで来た……」

少女の名は、スズメバチ


「な、なんなのだ、お前は!」

サンジの影から、ナギが叫ぶ。彼女なりに相手の危険性くらいは察知していた。
ス…と少女が自らのスカートを捲り上げる。

「なな…は、破廉恥だぞ!」

赤面するナギに対して、サンジは息をのみ明らかな期待のまなざしを向ける。
そんな二人の目に入ってきたのは、綺麗なふとももに描かれた二匹の蜂のタトゥー…

さらに困惑したナギがつぶやく。

「は、蜂…?」
「そう……蜂……」

少女の頬は微かに赤く染まっている。
それがたまらなく妖艶で……不気味だった。

「……スズメバチよ!!!!」

言うがはやいか、表情を激変させフワリと舞い上がる少女。
鍛え上げられた足が、ナギ目掛けて振るわれる。

「あぶねぇ!!」

とっさにサンジが突き放し、ナギは身をかわす事が出来た。
しかし少女は止まらない。一端着地し、再び舞い上がる。

嬉しそうな笑みを浮かべていた。だが、それは決して可愛らしいものではない。
背筋の凍る様な狂気を笑顔に貼り付けて…摘んだスカートをヒラヒラとなびかせる。

「う、うわ!」
「させるか!」

サンジがナギの顔面目掛けて振るわれる蹴りを自分の足で受け止める。
そのまま押し返し、彼女をナギから引き離した。
少し驚いた表情を浮かべる少女。

「兄様、強いのね」
「…お前、何が目的だ」

至近距離でにらみ合う二人。
少女が心底楽しそうに、残虐な笑みを浮かべる。

「私はスズメバチ。目的は…そうね、今はこの遊びを楽しむことかしら」

遊び、とは殺し合いのことだろう。サンジは直感的にこの少女の危険さを理解した。

「ナギちゃん、逃げろ!どこかに隠れるんだ!」

スズメバチが飛び上がり、その両足が今度はサンジを狙う。
身を低くして攻撃をかわしつつ、ナギから離れるように誘導する。

「お、お前ひとり置いていけるか!こ、このーー!!!」

ナギが手近にあった食器をスズメバチの顔面目掛けて投げつける。
しかし食器は「すりっぷ」と、嘘みたいな音をたててあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

「なっ…」
「これは…まさかスベスベの実か!?なんでこう悪魔の実がいくつも…」

未知なる能力に驚くナギと、知った能力に戸惑いを見せるサンジ。
そんな二人の状況にお構いなく、スズメバチは追撃をかける。

「不思議な実の力で私にそんな攻撃は効かないの。
 うふふ…いいわぁ二人とも、とってもいい表情ね……楽しくなっちゃう!」
「どうして反撃しないのだ、サンジ!お前は強いのだろう!?」

確かにサンジは先ほどからスズメバチの攻撃を紙一重でかわしはするものの、攻撃しようとはしなかった。
サンジは苦い顔を浮かべるばかりで答えず、二人はお互いに踊るように攻撃と回避を繰り返す。

(埒があかねぇ…とりあえず組み伏せるかなんとかして、動きを止めるっ…)

サンジはそう判断し、相手の攻撃が空振った瞬間に距離を詰める。

「キッチンで暴れんじゃね…ぇ…?」

しかし、そこでサンジの時間がピタリと止まる。

スカートを舞い上がらせたスズメバチが開く足の間で、妙ちきりんな体制のまま停止することコンマ数秒……
それはすなわち、神秘の世界との邂逅の瞬間。
眼前の光景にサンジは、漫画のように鼻血を噴出させながら仰向けに倒れた。

「さ、サンジ!?」

なんの攻撃を受けたのかわからないが、鼻血で弧を描いて倒れるサンジに駆け寄るナギ。
スズメバチは着地し、楽しそうに見下ろしていた。
サンジはなぜか幸せそうな顔を浮かべている。

「ど、どうしたのだ?きゅ、急に鼻血が…」
「お、俺は桃源郷を見た…も、桃ばかりか他のものまで…」
「う…なんだかよくわからんが、もういい…それ以上喋るな…」

詳しくはわからなかったが直感的に最低なことだろうと悟り、ナギは追求をやめた。
なにより、そんな場合ではなかったからだ。

「うぶで紳士な兄様…遊んであげたいわ」

またしてもスカートを摘み、戦闘体制に入るスズメバチ。その下には桃源郷があるわけだが…
笑顔に浮かんだ狂気が、そんな下世話な想像をかき消す。

(ヤバイ!!)

追い込んだとスズメバチが確信し、サンジも焦りを覚えたその時…

「え…?まさか!?」

そこで突然、ナギとサンジの姿が見えなくなったのである。
忽然と姿を消した二人に混乱するスズメバチ。
周囲を見渡すも、この厨房には隠れるような場所は無い。
出入り口も彼女が使ったもの一つだけ。換気扇などが開けられた様子は無い。

いなくなるはずが無いのに…と、混乱が増す。
軽く舌打ちすると、彼女は唯一の出口から素早く厨房を飛び出した。

「な、なんとかごまかせたようだぞ」

先ほど姿を消した場所から寸分たがわぬ位置に、ナギとサンジが姿を現した。
二人はどこかに逃げたのではなく、ナギの「スケスケの実」の能力で姿を消していたのである。
「スケスケの実」の能力は本人のみならず、触れているものまで透明に出来る。
それによって絶体絶命のピンチを脱したのであった。

「悪い…助かったぜ」

バツが悪そうにサンジが答える。

「倒れた理由は、き、聞かないでおくが…なぜ反撃しないんだ?あれでは絶対に勝てないぞ?」
「俺は…女は蹴らねぇ。そう叩きこまれて育ったし、俺の中の騎士道精神が許さない。
 これだけは…死んでも出来ないんだ」

サンジの発言に、ナギは黙る。
彼が適当に言ったのではなく、真剣だというのが表情から伝わってきたからだ。

「…まぁ戦うのは無理だが、ある人のおかげで1つ学んだ。こういう時は逃げるが勝ちさ」

サンジはそう告げながら立ち上がった。
幸い相手はこちらを見失っている。この場は撤退が賢い判断だろう。

「ダメだ!」

しかし、予想外の発言によってそれは妨げられる。

「あんな危険なヤツ、野放しにしていたらどうなるか…誰を襲うかわからないぞ!
 もしお前や私の仲間たちが襲われたらどうする?」

押し黙るサンジ。自分の仲間はまぁ大半が問題ないだろうが…
それでもナミさんやウソップ、それにナギの仲間などに関しては保障出来ない。

だが、それでも今は逃げるべきだと思った。
自分が戦えないのもそうだが、掴み所のない相手への警戒…そして何よりナギだ。

先ほどは確かに彼女の「能力」に助けられた。それは認める。
しかし、あくまで彼女は戦闘の素人。いくら特殊な力があってもそうそう戦えるものではない。
だが、今の彼女の目…キラキラと輝くその目には、やる気が満ち溢れている。
それが逆に危険な上に…彼女を止めるのを難しくさせていた。

「仕方ねぇ…なんとか方法を考えるか」

    ◇     ◇     ◇

旅館の暗い廊下で、サンジとスズメバチが攻防を繰り返していた。
いや、正確には一方が「攻」を繰り返し、もう一方が「防」を繰り返している。
無論、守りに徹するのがサンジだ。
これは彼のポリシーのみならず、ある作戦の為でもあった。

  『いいかい、奴はおそらく君と同じ悪魔の実の能力者。弱点は水ってことになる』

うふふふふ、兄様、せっかく帰ってきてくれたんですもの。もっと積極的になって!」

すれすれで攻撃をかわした…つもりが、頬に痛みが走る。
いつの間にか、彼女の靴には一本ずつ針がセットされていた。

(クソ、ますます戦いにくくなりやがったか…ナギちゃんの準備は…?)

  『それなら、風呂に落とすのはどうだ?ここには大きな浴場があったはずだぞ!』

一方、旅館一階の大浴場ではナギが下準備を進めていた。

作戦は単純明快。スズメバチを大浴場におびき出し、隙を突いて浴槽に突き落とす。
囮役はもちろんサンジが務め、姿を消したナギが突き落とす担当だ。
問題は、いかにして彼女をここに導き、浴槽に落とすか。

能力を理解していたという事は、弱点も理解しているだろう。
水場には近づきたがらないはずであるが、もちろんその為の策は練った。


ナギは、正直ワクワクしていた。
よく自分の非力が憎いと思っていた。少年漫画の主人公のように強くなりたかった。
嘘みたいな冒険の中で、かっこいい活躍がしたかったのだ。
その夢が今、叶う。自分は特別な力を身につけ悪に立ち向かうのだ!

これが私の、冒険の夜明け……!!

「紳士な兄様!そろそろ鬼ごっこは終わりにして、窒息プレイのお時間よ!」

先ほどまでとは別人のように、瞳孔の開いた目で獲物を追うスズメバチ。
仕込み針によっていたるところに小さな傷がつけられるが、サンジはかろうじて攻撃を回避、距離を絶妙に保つ。
近づきすぎてはやられる。離れすぎれば見失う。
階段を駆け登っても一度停止し、姿が見えるのを待った。

真っ暗な階段から、徐々に徐々に姿を現すスズメバチ…
目が、鼻が、口が…少しずつ見えてくるその全てが、狂気を彩る。

「兄様、あまり逃げ回るようなら…遊び相手を変えてもいいのよ?」

痺れをきらしたか、スズメバチが告げる。
それはつまり、ナギを狙うという宣言だった。

「させるかよ…ここで俺が相手してやる」

覚悟を決め、サンジも身構えた。
お互いにグッと地面を踏みしめると、スズメバチは高く舞い上がり、サンジは右足を振り上げて停止する。

ひゅっ…と風が吹き、スズメバチの針が肩に突き刺さる。一瞬苦悶の表情を浮かべるサンジ。
一方スズメバチは追撃の為か、すぐに針を引き抜き着地の態勢に入る。

それを待っていたかのように、サンジが掲げた足を振り下ろした。
狙いはスズメバチではなく…その着地点の床!

がしゃぁぁぁぁん!!!

木製の床が蹴り抜かれ、地面にぽっかり穴があく。
着地するはずだった地面を失い、蜂は一階へと落下していった。
一階の、大浴場へと…

「くっ…」

落下の途中、スズメバチは舌打ちする。
下は浴場、水の宝庫だ。
自分が食べた「スベスベの実」の注意書きにはこうも書いてあった。
「これを食したものは、海に嫌われ永遠にカナヅチになる」と。
『海』には『水の張られた場所』全てが含まれる。

だが、真下は浴槽ではない。タイル張りの床だった。
伊達に空中戦を得意としているわけじゃない。普通に着地をして、さっさと離れればいいだけの話だ。
いつも通りに着地をしようと試みて、足が地面についた…しかし

つるんっ
「きゃう!?」

スズメバチは足を滑らし、バランスを失った。

(そんなっ!こんな普通の着地を失敗なんて…)

それもそのはず、この大浴場の床にはナギの手で一面にファ○リーピュアが撒き散らされていたのである。
タイルの上に大量の洗剤。これで滑らないハズがなかった。。

「やあああああああ!!」

なにもない空間から叫び声が聞こえる。
バランスを保とうと必死になっていたスズメバチの腹目掛けて、透明状態のナギが突進していた。

「落ちろ、蚊トンボォォォォ!!!」

やった、うまくいったぞ!           ハァ…驚いちゃった…

私だってやれば出来るんだ!          小さな姉様ね…かわいい…

サンジめ、驚いてるかな?           嬉しそうな顔してる…

ハヤテにも絶対自慢してやるんだ!       私の弱点、知ってるのね?

マリアも、みんなびっくりするぞ!       でも、ご愁傷様…

このまま浴槽に落とせば…           集中して…上下を認識

し、死んだりしないよな            少しだけ加速をつける

まぁ、なんとかなるだろ…ん?         自ら半回転、これでいい

なんでコイツのヒザがここに?         姉様の顔を挟んであげる

うわ、なんだ、どうなってる?         さらに加速して半回転…

あ、あ、体が…浮いてる…!?         お風呂には一緒に入りましょう、姉様?



『ばっしゃーん!!!』



激しい水音と共に、29kgの軽い体が水中に投げ込まれた。

「ナギちゃん!!!」

二階から、事の顛末を見ていたサンジの叫び声が響く。

スズメバチは突き落とされる瞬間、自ら体を回転させる事で天地を逆転させたのだ。
それによりヒザでナギの頭を挟み、プロレス技のフランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばしたのである。
完全に油断し、透明化を解除したのがナギの失敗だった。

ナギは彼女のふとももの間で水中に沈み、動けなくなっている。
スズメバチもヒザから下は水に浸かっているので力が抜けているようだが、ナギは全身だ。とても抵抗できそうにない。

「あら、小さな姉様…もしかしてあなたも『実』を食べたのかしら?うふふ、お仲間ね」

余裕たっぷりで笑うスズメバチ。
サンジはすぐに2階から飛び降りた。

つるんっ

「ぬがっ!?」

ファ○リーピュアに足をとられてコケる。
しかし、そんなことはものともせずにすぐ立ち上がった。今はレディの大ピンチ。
ここで立たねば、自分の中の騎士道精神が…

グラァ

「な…?」

だが、意思に反してサンジは倒れる。今度はファ○リーピュアのせいではない。
全身が痺れたように動かなかった。

「うふふ、やっと効いてきたのね。ありあわせで作ったから、随分効くのが遅くなっちゃった」

ハァハァと息を荒くし、スズメバチが動けないサンジを嬉しそうに見ている。

(毒…か…しまった…)

悪魔の実の能力者であることに気を取られすぎて失念していた。
思えばスズメバチの名前で、針を武器に使うのである。最初に毒を警戒すべきだったのだ。

「私が大事に調合した毒を針につけたの…この旅館の周りにいろいろ毒草が生えていたわ。
 紳士な兄様に使ったのは麻痺毒だから死なないの、安心して」

スズメバチの下では、ナギが苦悶の表情を浮かべていた。
最初こそ彼女のスカートの中身に驚いて顔を真っ赤にしていたが、次第にそんな余裕もなくなっていた。
もがこうにも、水の中では力が入らない。

甘かった。ナギは後悔していた。
ただ泳げなくなるだけだと思っていた。それなら今までと変わらない、と。
だがこれはそんな生やさしいものじゃない。水に力を、命を吸われているような感覚だった。
必死で止めていたが、少しずつ息が漏れていく…

(苦しい…苦しい…怖い…怖い!!死んでしまう…誰か…だれか!!)

おかしい、なぜこんなことになった?とナギは思う。
無敵の力を手に入れたはずなのに…私は、漫画のように強くなったはずなのに…

怖い…死ぬのは怖い!
死ぬなんて聞いてない!こんな、こんなことって…

徐々に、意識が遠のいてゆく…

ナギは勘違いしている。
まるで漫画のような状況に陥り、自分もまた漫画のような力を得た。
そこで彼女は自分を…「漫画やゲームの主人公」と重ねてしまった。重ねすぎてしまった。

漫画のキャラクターは、死んだ後も元気に雑誌の表紙を飾るし、読み返せば元気に生きている。
だが、現実の死がもたらすのは「無」に他ならない。

そういう意味で、彼女には「死」に対する現実感が不足していた。

「ガハッ!」

大きく息を吐き、意識を失ったナギ。
すかさずスズメバチが彼女を浴槽から抱えあげる。

「ねぇ、怖かった?苦しかった…?
 じわじわ『死』に近づいていく小さな姉様、とっても素敵な表情だった……うふふふふ……」

うっとりとした顔で意識のないナギを抱きとめる。

「私、あなたのこと好きになっちゃったわ」

告白と共に両手でナギの頬を挟み、触れ合いそうな距離でじっと見つめる。

「もっともっと遊んであげる…だから、死んではダメよ」

そう言うと、ナギを背負って出口に向かった。

「ま…て…クソ…」

毒によって体がほとんど動かないサンジが必死ですがる。

「ごめんなさい、紳士な兄様。私、この子と遊ぶ事にしたの。遊び終わったら、また会いに来てあげるわ」

それだけ言い残すと、彼女は大浴場、そして旅館を飛び出していった。
その背に夢見る少女を乗せて…

「クソッタレ……!!」

大浴場に響くのは、残されたサンジの悲痛な声のみ…



「ハァ…かわいい姉様。意地っ張りで怖がりで…強くて、弱い。とっても楽しく遊べそう。
 やる事はいっぱいあるけど、今はあなたと遊んであげる。ゆーっくり、たっぷり…ね」

そんなことを呟きながらスズメバチは息をきらせて夜を駆ける。

どこか素敵な遊び場はないかしら。道具も要るわ。毒を調合しなきゃ。
ここに生えてるものだけじゃ強力なものは作れないかも知れないけど、遊ぶのには十分。

どうやって遊んであげようかしら。すぐ痛くしちゃうのはつまらないわ。
苦しくして、怖くして、じっくりじわじわ………追い詰めたい。
「死めくくり」は、なんとでもなるもの。

「あぁ…とっても楽しみ…」


夢を…夢をみていた。
自分は不思議な力を持った海賊となり、船と仲間を集めて財宝を探していた。
麦わら帽子を被り、楽しそうに船首に跨っている。
お姉さんのようなしっかり者の航海士…一般人で生意気な狙撃手…喋るペットに、ナンパなコック。
そして最強の執事、もとい剣豪を目指す、1人の少年と共に…
それはそれは楽しく、現実感のある夢をみていた。

目覚めた彼女を待ち受けるのは、現実の夜明けか、日没か…

「ハヤテ……」

彼女の執事はここにはいない。



【G-7/森/1日目 黎明】
【スズメバチ@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:疲労(中)、実の力で美しくなっている。 下半身びしょぬれ
[装備]:縫い針を仕込んだ靴(毒なし)
[道具]:支給品一式
[思考・備考]
基本:皆殺し。帰って仕事を続け、優しい兄様と遊んであげる。
0:うふふふふ…
1:小さな姉様(ナギ)と遊ぶ。
2:姉様と十分遊んだら、他の遊び相手を探してみる。
3:旅館に残した紳士な兄様(サンジ)とも遊びたい。
4:興味の無い相手は、遊ばないですぐ殺す。

※ スカートはギリギリで見えません、履いてるか履いてないかは…ご想像に(ry
※ 針は現地調達です。毒は浴槽に入ったことで洗い落とされてしまいました。


【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大)全身びしょぬれ 気絶中
[装備]:なし
[道具]:
[思考・備考]
基本:ハヤテ達やサンジと協力して脱出
0:ハヤテ…
1:漫画の主人公のように、この状況を乗り越える。
2:サンジと一緒にお互いの仲間探し。

 ※ サンジからワンピース世界についてかなり詳しく聞きました。


かぽーーーーん


旅館内の大浴場で、1人の男が湯に浸かっていた。

「クソ…俺のせいで…」

先ほど不覚を取った、サンジその人である。
だが、別にただ呑気に風呂に浸かっているわけではない。
苛立った表情が、それをよくものがたっていた。

彼は毒で麻痺した状態で、こんな看板に気がついたのである。

『ここはムルムル温泉じゃ!効能は美容と疲労回復!
 疲労以外にも小さな怪我や軽い毒なら、15分ほど浸かっとればなおるぞ』

這うように動く事しか出来なかったサンジは、藁にもすがる思いでこの温泉に浸かった。
眉唾ものだったが、どうやら効いているらしい。少しずつ体の一部が動くようになってきた。

「ナギちゃん、待ってろよ…」

サンジはこの事態の原因が、逃げを選ばなかった自分にあると責任を感じていた。
このままではナギが危ない。体が動くようになれば、すぐにも助けに行くつもりだった。

「守るって…約束したからな」

大浴場の床に転がる空っぽのファ○リーピュアを見つめて、サンジが拳を握り締めた。


【G-8/旅館内 大浴場『ムルムル温泉』/1日目 黎明】
【サンジ@ONE PIECE】
[状態]:疲労(中) 左肩に小さな刺し傷(回復中) 毒による麻痺(回復中) 入浴中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、ノートパソコン@現実 旅館のパンフレット 不明支給品1〜2
[思考・備考]
基本:仲間や女性を守り、脱出する
0:ナギちゃん、待ってろ…
1:スズメバチを追いかけ、ナギを助ける。
2:その後は彼女を守りながら、一緒にお互いの仲間探し。
3;どうしてスケスケの実やスベスベの実があったんだ…?

※ ナギからパラレルワールド仮説を聞きました。半信半疑です。
※ 「ハヤテのごとく」関係の情報を得ました。
   参加者ではハヤテ、咲夜、伊澄について詳しく聞いています。
※ 毒は15分ほど浸かっていれば完璧に治ります。途中であがるとどうなるかはわかりません。


【ムルムル温泉】
G-8に存在する旅館の一階にある大浴場。源泉かけ流しの混浴天然温泉。
効果は美容と回復で、疲労の回復を早める他、小さな傷や軽い毒なら15分ほどで回復する。
ただし、この会場に来る前の怪我や病気、あるいは大怪我や強力な毒も治せない。
飲んでもおいしく効果的らしいが、ファ○リーピュアが入っている可能性があるので注意。

※G-8旅館一階の大浴場の床が、ファ○リーピュアで大変滑りやすくなっています。

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