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Wind -a breath of heart-

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Wind -a breath of heart- ◆JvezCBil8U



ユッキーのにおいがするよ。


**********


カタカタと、今にも震えそうな手をぎゅうっと握り締める。
今にもくずおれそうな脚を精一杯踏みしめ、どうにか今ここに立っている。

それを顔や仕草におくびも出すことなく、笑顔を振りまいてはノリよく立ち回り、ドツいてみせる。
精神は全く萎みきっているのに勝手に肉体がそんな事をする様は、まるで人を模したロボットを眺めている心地になる。
口を半ば開いて、エッエッと気色悪い声でも出してみればそれっぽいだろうか。
そんなことを考えても苦笑すら出てこない。

人が死んだ。
人が死んだ。
人が死んだ。
人が死んだ。

……生まれつき自分は特別な存在であり、非日常を日常とする類の存在である。
それは増長でも思い込みでもない厳然たる事実だ。
金がある。
ただそれだけのことではあるが、金持ちという人種は間違いなく一般人ではありえない。
それを否定する事は、金持ちではない人間に対しての嫌味でしかない。

金持ちだから、普通の人よりは命を狙われる理由がある。
そして、少しばかりは覚悟だってしていた。

だが、それでも――。
自分はごく普通の感性を持った、人間だ。
友人達に比べてもそれなりに常識を持っているつもりの人間なのだ。

これは恐怖だ。
目の前で人が死んで、殺し合いを強要されて。
いつ周囲から殺意に塗れた銃弾が飛んでくるかも定かでない。
命を狙われる理由がある――、その程度の状況などとは比べ物にならないデンジャーゾーン。
いや、比べる事自体が間違っているのだろう。
凶器と狂気に溢れる戦場に放り込まれる覚悟なんて、最初から持ち合わせてはいない。

命を狙われる事が怖い。
そして、命を奪わなければいけないかもしれない事がとても怖い。

今にも目の前にいる少年の背中に鉛玉をぶち込みたくてしょうがなくなる衝動に駆られる。
気を許して漫才のようにどついた途端、少年が変貌する。そして気づかぬ間に心臓にナイフを突き立てられている。
酷い妄想だ。
だが、その妄想が頭から離れなくって、すぐにでも銃に手を伸ばしたくなる。
たったひとつのいのちを、まもるために。

でも、恐怖の一員のはずの少年がいるからこそ、自分を保てる。
たった一人でもいいから自分に殺意を抱かないものがいるという、そんな事実に安堵したい。
自分を殺そうとしていない相手なら誰でもいい。
たまたま少年がそれを証明してくれているから、怯えを顔に出さずについていく理由をでっち上げた。

疑心暗鬼と藁にも縋る一心の鬩ぎ合い。
そんな思考をしてしまう自分が怖くてしょうがなくて、だからこそ空元気でも明るくいつものように振舞い続けるのだ。


結局のところ。

愛沢咲夜は一般人ではないけれど。
本当に、ごく普通の少女なのだ。

決して超人なんかじゃない、ふつうのひととおんなじからだとこころを持つ、少女なのだ。


**********


名簿は第一放送までその内実を見せる事はない。
即ち、誰がこのデスゲームに巻き込まれているのか、参加者たちには知る事ができないのだ。

いや、正確に言い直そう。
大多数の参加者たちには誰と殺しあわなければいけないのか、それを知る手段がないのだ。
逆に言うなら、手段さえあればそれを知る事は可能なのである。
それは長い間の絆によって育んだ阿吽の呼吸であったり、あるいは肉体的特性であったり、はたまた研鑽し身につけた技能であったりと様々だ。
尤も、知る事のできるのは面識のある誰かのみで、全容を知る事はできないというのが殆ど――あるいは全てであるのだが。

ここにも、その一人がいる。


あの沈黙と暗黒に満ち満ちた聖堂の中で彼ら四人の存在を知覚できたのは、気配を探るスキルを持っているからに他ならない。
グリード、と、今はそう名乗る男の中に伏臥するリン・ヤオ。
彼のその技術は人ならざる身ですらその輪郭を捉える事を可能とする。


『……おイ、グリード。あの会場に居た化け物連中には気をつけろヨ?
 ホムンクルスのお前さんですら霞むヤバい奴らが何人も巣食ってるのは事実なんダ』

思い出しただけで怖気のする、異常な気配。
例えば、圧倒的な存在感の狐の女。
例えば、鋭利な刃を思わせる創造と消滅を司る男。
例えば、いかずちと炎を使役する不滅の妖。

確かにグリードはホムンクルスであり、再生能力や最強の盾といった力は人の域を超えている。
反面、リンの身体を素体としているが故の枠組みというものも存在する。
そしてまた、彼の核たる賢者の石とて限界はあるのだ。
こう言ってしまうと矮小に感じられるかもしれないが、ホムンクルスは人間の枠組みに納まる者でも打倒可能な存在なのである。

そう、絶対的な実力差というものは、確かに認めなくてはならない。
とはいえ――。

「知った事かよ。俺は俺のモノに手を出した奴にゃ容赦しねえ。
 どんな手を使おうとも、な」

強欲は決して、ブレる事などない。
それこそが彼の在り方なのだから。
やれやれ、とリンは嘆息し、仕方ないとばかりに話を切り替える。

『……デ。どうすル?』

リンの意識が指し示すのは、自分たちの来た道の後方。
そちらから二つの気配が自分たちを追うかのように後に続いている。

おそらくはアレが原因だろう。
タカマチとかいう女の拡声器による自己アピール。

何となく、いい女だな、とグリードの勘が働いた。
当初の予定からして病院に向かうつもりではあったが、あんな真っ直ぐな事を喚く女を見逃して失うのも惜しい。
自分の居場所を知らしめるなど自殺するようなものだ。

さて、それ故に早く病院に向かいたいのだが後ろの連中をどうすべきか。
リン曰く強い気配ではないとの事だから、交戦しても問題はないだろう。
しかしだからこそ、自分の部下を増やすいい機会かもしれない。
手足は多い方が絶対に有利だし、自分の欲望を満たす事もしてくれる。

「結局病院でぶつかる事になるだろうしな、だったらここで拾っとくぜ」

『了解。まあ、弱者を保護するのは王の務めだしナ、異論はなイ』

“二人”は特に意見がぶつかる事もなく、自分たちから出向く事に同意を重ねる。



きっと、それが最大の判断ミスだったのだろう。



**********


――幸か、不幸か。

天野雪輝という少年は、普通の少年とは既に言いがたい領域に踏み込んでしまっていた。
異常で異質で異端な存在である我妻由乃という少女と長く共に居すぎたために、いささか感性が麻痺してしまったのだろう。
あるいは麻痺などではなく変容であるのかもしれない。
変化は不可逆であり、もう元の彼に戻る事はない。

良識はあるし、人殺しへの忌避感だって残っている。
由乃とは違って一人に執着することなく友達を大切にするし、たとえ敵でも殺さないに越した事はないと考える。
だが、それだけだ。
根本的な所で彼もまた、どこかがとっくにズレてしまっているのだ。

それは彼の行動の節々に現れている。
容赦もなく、雨流みねねの眼球にダーツを突き刺したり。
躊躇いなく、春日野椿を葬ったり。

――由乃が来栖圭吾を撃った時、彼の安否より何より由乃を止められなかった事を嘆いたり。

要するに。
我妻由乃を好きになったことを自覚し、一度は彼女を受け入れた雪輝が異常でないはずがない。
たとえ一見、彼が常識人に見えたのだとしても。
実に分かりやすい事だ。

その意味では今の雪輝は愛沢咲夜と正反対だと言える。
確かに一見怯えているように見えるし、実際もその通りだ。
だがその実、それは彼の本心であって演技などではない。
あまりにも自然に怖れを表に出し、なおかつ冷静に事態を捉え、考えてしまっている。

雪輝はそのどこか冷静な頭で考える。否、再度確認する。
自分たちはこれからどうすべきか、と。

咲夜と出会った当初は、自分達がどこにいるかも分からなかった。
当たり前だ、突如森に放り込まれてそこがどこか特定するかなど、地質学や地図学、あるいは天文学と言った知識でもなければ不可能だ。

今ここに雪輝の未来日記――無差別日記があれば、未来の情報を確認するだけで場所はすぐ分かるのだろう。
だが、7thの戦場マルコと美神愛に奪われたのをせっかく取り戻したにもかかわらず、無差別日記はここにはない。
要するに雪輝の身ひとつでこの殺し合いをどうにか切り抜ければいけないのだ。

だから、とりあえず北を目指す事にした。
コンパスがある以上は北の方向を間違えることはない。
後はランドマークや海岸線などに突き当たりさえすれば、大体の場所は分かるだろう。

その途中で小川にぶつかった。
地図の等高線の傾きと方角、小川の位置を照らし合わせ、ようやく自分たちが島の北西にいることを把握する。
そこから二人で話し合った結果、病院に向かう事にした。
医療品はあるに越した事はない。

……その決断をして、歩を進めた矢先だった。
拡声器のような物を使ったのか、人を呼ぶノイズ交じりの声が耳に届いたのは。

あまりにもあからさますぎるそれは、罠かもしれない。
普段の雪輝は決して勇敢ではないが馬鹿ではなく、学習能力はしっかり持っている。
以前、6th――春日野椿に騙された時のことを思い出す。

下手に信用してしまう事は、殺し合いの場では致命的な隙にもなりかねない。

慎重を期してノコノコ出て行くつもりはない。
とはいえ、知り合いがその場に来るかもしれない。
可能性を捨てるのは愚かであり、少し離れたところで様子を見よう。

それが雪輝の出した結論であり、同意した咲夜もその通りに動くはずだった。


「おうお前ら、動くなよ」


――唐突に、背後からそんな声が聞こえてくるまでは。


**********


「クク、クククハハハハハ、ハハハハハハハハ……!
 ハァハハハハハハッ! ハッハハハハハハッ!
 ハッハッハッハッハッハッハッハァァ……、ハーハハハハハハハハッ!」

「ちょ、兄ちゃん少し落ち着け。
 ウチらの居場所バレるっちゅーの。
 つーか、今の話オモロいとこあったか? ウチのツボにははまらんかったがな」

――馬鹿笑いするグリードという男と、それに茶々を入れる咲夜。
そんな二人を雪輝は少し離れて見て、嘆息する。

「……やっぱり、信じられないですよね」

自分の経験してきた非日常など、信じる人の方が珍しい。
当然か、デウスや未来日記の存在など自分だって最初は妄想だと疑っていたくらいなのだ。
秋瀬或のような異才の持ち主や、日向とその友人まおの様な日記所有者の関係者ならともかくとして、
高坂王子の様な普通の人には本物の未来日記を見せて初めて信じてもらえるのだ。
だが、これが事実なのだと理解してもらえねば――、

「信じるぜ」

「……え?」

目を見開く。
今、この男はなんと言った?

「テメエこそ信じられねぇかもしれないがな、俺もちと普通の人間じゃなくてよ。
 ……賢者の石って、知ってるか?」


それは、自分と異なる世界のお話。
グリードは言葉滑らかに己が知識を語っていく。
雪輝には錬金術師が跋扈しホムンクルスが暗躍するその世界が、あまりにも異質なものと思えたが――。

「……どう思うよ?」

「……信じます」

ニヤニヤ笑いを絶やさないグリードに、雪輝は真面目な顔でこくりと頷いた。
今まで散々非常識な出来事に遭わされ、その上に降りかかってきたこの殺し合いという厄災。
最早それらの全ては実在するという前提で動いた方がよほど安全というものだ。


隣では咲夜が胡乱な物を見る目でグリードを眺め。
――そして、一瞬だけ更に強い視線で、雪輝を横から見た。
その視線には、理解できない存在への恐怖が隠しきれていなかった。

「そうかよ……、ハハ、こいつは面白ぇなァ、ガハハハハハァ!
 イイねぇ、実に幸先がイイ!」

笑みの掘りをより深く深くして、バシバシとグリードは苦笑いする雪輝の背中を叩く。
叩きながら――、とんでもない事を口にする。


「よぅし、いい幸先だな、本当に。
 ……ふんぞり返って見下ろすカミサマの椅子をぶんどって俺のモノにするには、なぁ」

「……え?」

絶句。

「欲しいよな、何もかも。……何もかもが!
 神様の座か、最ッ高じゃねえかよ。そんな物があるなら何もかも手に入るじゃねえか。
 女も! 金も! 権力も! 部下も! 何もかも……何もかもだ!
 ガァッ……ハハハハハハハハハァ、決めたぜ!」

静かな夜の淵で、強欲の象徴は斯く告げる。
それはあの聖堂に招かれたときから内心思っていたことだ。
『神の座』が、譲ったり奪ったりできるものだというのなら。


「俺が次の神に成り代わってやる、今の神とやらを蹴落としてな」


「――――ッ!」

どうする、と雪輝は自問する。
まさか、日記所有者以外にそんな事を望む人間がいるとは。
ブラフではない、おそらく本気だ。


今回のゲームには神の後継者という褒美がない。
褒美がないとなれば、来須さんや6thの様にゲームに乗ってしまう人は少ないはず。


――甘かった。
そんな考えではどうしようもない、我道を進む行動理念の存在がいるとは思いつきもしなかった。
いや、由乃や12thの様な狂った人間が多く集められた前回のゲームを想定してしかるべきだったのだ。
まさか神の座の乗っ取りなど……、と、その『まさか』がいかに役に立たない事か。

まさしく、どうする、としか言いようがない。
それがいいことか悪いことかも判断できない。

理解できる事は唯一つ。

この男もまた、螺子がどこか外れた存在だということだ。
信頼できるかどうかも分からない、あまりにも多くの騒乱の種を秘めた存在だということだ。

そのトラブルメーカーとさえ呼べない暴風の因子は、さも当然であるかのように雪輝たちに誘いをかける。


「手前ら、俺の部下になれ」

ごくり、と、どちらかが唾を飲む音が響いた。
それが雪輝自身のものか咲夜のものか、それに注意を払えるような余力は今はない。

殺意は、ない。
だが、それ以外の何がしかの圧力が周囲に満ち、自分を押し潰そうとしているかのように纏わりついて離れない。

「悪ィ事にゃしねえさ。俺としても手足が欲しいんでよ。
 ……俺は強欲でな。俺のモノだっていうなら全力で守り通してやる。
 金だろうが物だろうが立場だろうが、部下だろうがな」

確かに、悪い話ではない。
部下とは言っているが、その実自分たちを守ってくれるのは非常に助かる。
それに縋りたい気持ちも確かに存在する。

……だが。
本当にいいのだろうか、と雪輝は自問する。
このまま流されて手駒となって、それで本当に安全なのか。
6thの時や日向の時のように利用するだけ利用されて、捨てられるのではないか。

そして何より、この男が本当に神になってしまった場合。
それが、どんな影響を及ぼすのか。
不確かな未来は全く見通せない暗闇となり、雪輝に逡巡をもたらすのだ。


――幸か、不幸か。

天野雪輝という少年は、普通の少年とは既に言いがたい領域に踏み込んでしまっていた。
異常で異質で異端な存在である我妻由乃という少女と長く共に居すぎたために、いささか感性が麻痺してしまったのだろう。
あるいは、麻痺などではなく変容であるのかもしれない。
変化は不可逆であり、もう元の彼に戻る事はない。


だから、雪輝には不安を覚えるだけの――考えるだけの余裕が存在した。
そして彼と握手を交わした少女は正逆に。


「ええで。……ウチは兄ちゃんの部下になる。
 それでほんまに……、ほんまに守ってくれるんやな?」


愛沢咲夜は躊躇いなく、その決断を口にした。
……違う。
躊躇うことすらできず、ただただ“力”に縋りたかった。
仮初の余裕など、一時すら考える間を与えてはくれなかった。

「おう」

ふてぶてしく、自信満々に笑う細い目の男。
胡散臭かったとしても、その姿が雪輝よりも遥かに頼もしく見えたのだから。
その瞳と体躯からは、確かに力の匂いを感じたのだから。


結局のところ。

愛沢咲夜は一般人ではないけれど。
本当に、ごく普通の少女なのだ。

決して超人なんかじゃない、ふつうのひととおんなじからだとこころを持つ、少女なのだ。


「あ……」

ぽかんと口を開けた雪輝の横を通り過ぎて、咲夜はグリードの側に立つ。

あちらとこちら。
あの世とこの世。
彼方と此方。
彼岸と此岸。

僅か数メートルの空間は三途の川となりて二人と一人を別つ。
どちらが彼岸でどちらが此岸なのか。
はたまた、どちらともが彼岸なのかどちらともが此岸なのか。

「愛沢さん……」


雪輝は困惑したまま、道を違えるでも同じ道に歩み入るでもなく立ち尽くす。
手を咲夜の方に伸ばそうとして、しかし口を噤んで考え込む。
それはある意味で、これまでの戦いを踏まえ雪輝が一人でも先を見据えて動ける程に成長した証なのかもしれない。

――だが、それは愛沢咲夜にとっては不気味なものとしてしか写らなかった。

咲夜は雪輝を説得しなければと思う。
説得しなければいけないと、強く感じている。

……だが、恐怖しているのだ。天野雪輝という目の前の少年に。
殆ど同じ年だというのに、あまりにも自然にこの場に適応している少年が理解できない。
この状況で、自分たちよりも明らかに大人で頼れそうな存在に縋りつかないその態度。
なまじ自分と同じ普通の人間に見えるだけに、その異常さが肌が逆向くほど際立って気持ち悪い。
グリードも異常なのは確かだが、その異常さがあからさまなだけにかえって納得し、信頼できるのだ。


「もう一度、だ。次はねえ」

「……そんな」

沈黙を続ける雪輝に、グリードが最期通牒を突き付ける。
雪輝はひたすらに、この男が本当に信頼に足るのか、そして神になっても平気なのかと何度も自問を続けている。
答えは出るはずもなく、ただ、せっかく友となった咲夜とここで離れ離れになるのは嫌だった。

「天野雪輝。……俺の部下にしてやる。さっさと来やがれ」

――また、雪輝を信じたかったのは咲夜も同じだった。
たとえ雪輝の中の何かを恐れたとしても、短時間の付き合いとはいえ雪輝という人間そのものを嫌いになることなど出来なかった。
情に厚いからこそ、こんなところで見捨てるような真似はしたくなかったのだ。
だからこんな言葉を叫んだとしても無理はないだろう。
誰だって彼女を否定する事は出来はしまい。

「天野、ウチと一緒に来い! この人の物になるってさっさと答えちまえばいいやんか!」


そしてその言葉が直接の引き金となる。
状況をお膳立てしたのがグリードで、最初のドミノを倒したのが咲夜だった。

雪輝は、いつもと変わることなく傍観者だった。
いや、傍観者であろうとする台風の目だった。


**********



2:40

とうとうユッキーを見つけたよ! 愛の力だよね、大好きだよユッキー。
でもユッキーは怖い細目の人に脅されてるし、妙な女がユッキーをいやらしい目で見てる。
騙されないでユッキー!
私も隙を見つけたらすぐに加勢するからね!!



2:50

ユッキーがあの売女に誑かされてる!
悪いのはユッキーじゃない。
すぐになんとかしなきゃ。



**********


「ユッキーはぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁあああぁああぁぁぁぁ……っ!」


轟、という音と共に、少女の脳天に向かって一直線に鉄アレイのような塊が飛んだ。


「お前らのものなんかじゃぁぁあぁ、なァぁあァァあぁアァァァああぁぁアァァいッッッ!!!」


夜空に真っ赤な花が咲く。
トマトが潰れるように、真っ赤な水がびちょびちょと。
『咲く夜』、などとよく言ったものだ。

……あとコンマ秒ですら反応が遅れていたら、そんな絵を見ることが出来たろう。

「……あ、あ……、あぁ……」

――カタカタと少女が全身を振るわせる目の前で。
片腕に黒い炭素の“最強の盾”を展開し、強欲の名の男がキョウキに向かって立ち塞がる。

『グリードッ、三時の方角ダッ!』
「させッかよォッ!」

全身全霊で、暴威に任せて猛進するキョウキを叩き落し、殴り飛ばす。
ごすり、とキョウキが地面にめり込んだ。
それを確認しようと目線を下げかけた、その瞬間。

「……ッ!」

更なる圧倒的な存在感で、疾風よりもなお早く烈風がグリードのすぐ側を駆け抜けた。

やられた、とグリードは歯軋りする。
グリードの横にあったはずのものが、消え失せている。
――支給品を含んだデイパック

その中に入っていた、厄介なモノ。
振り向くまでもなく敵がそれを構えているだろう事を、理解。
怒りを隠す事もなく、ゆっくりと身体をそちらへ向けていく。

そこにいた一つの影は――、


「由乃――――!」


雪輝の声が響く。
そこにいるのは純粋ながら歪み切った意思を湛える一人の少女。
彼女が構えるは二丁拳銃というのも物々しい二丁機関銃。
それが牧師の掲げる十字の様に、しっかとこちらに向けてその咆哮を響かせようとしている。

「……テメェ。俺の部下に……、手を、出しやがったな?」

七大罪のうち、憤怒。
彼の司るそれではないにもかかわらず、グリードは確かに怒りを露わにしてただ吼えた。
たとえ出会って間もないとしても、彼の部下を傷つけた事を許すはずなどないと、その意思を滾らせて。

『グリード……、この女、普通じゃなイ! 体はともかく、精神が狂ってるにも程があル!』

そして咲夜は今度こそ、耐えられない。
今まさに自分を襲った少女に、不安を滲ませつつ叱責する口調で駆け寄っていく少年に。
不安と苛立ちの裏に、自分たちに向けるのとは比べ物にならない信頼と、隠しようのない好意を少女に寄せる雪輝に。

自分の命を狙った少女に対して、そんな接し方をする天野雪輝という少年が、あまりにも自分と乖離していると感じたが故に。

我妻由乃を平然と受け入れる彼を見た瞬間、咲夜の抱いていた怯えはあっさりと一度目のピークを迎えたのだ。
感情は決壊し、聖堂で人の死を見せ付けられた時から堪えてきたたくさんのものが一気に溢れて止まらない。


「あああ……あぁぁぁああああああぁあぁああああああぁあぁぁぁぁぁっ!
 嘘やっ! 嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘や嘘やぁぁぁぁぁぁっ!
 ウチ死にとうない、死にとうないぃぃぃ!
 わぁぁぁあああぁ、わぁあああああああああああぁあ……っ!
 嫌や嫌や嫌や嫌やぁっ、ウチも皆も死んでまう、なんでっ、なんでぇえぇっ!
 たずっ、助けてぇ……、巻田ッ! 国枝ッ! さっさと来るんや、なにしてるんやあっ!」

少女の嘆きが望んだ者に届くことはなく。

「……部下は守るって言ったろうがよ……」


パニックを起こす少女に呆れたような目を向けながらも、賢者の石の顕現は一人確かにそう呟いた。


【D-3東部/森林/一日目/黎明(2:50)】

グリード(リン・ヤオ)@鋼の錬金術師】
 [状態]:健康、グリードの意識
 [服装]:
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考] 
  基本:自分の所有物を守る為、この殺し合いを潰す。神に成り代わる。
  1:自分の部下(咲夜)を狙った由乃を許さない。
  2:雪輝が部下にならず、由乃を庇うなら容赦しない。
  3:病院に向かいたい。
  4:目の前の少女の気配に威圧されている(リンの意識)。
 [備考]
  ※原作22巻以降からの参戦です。
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※咲夜を自分の部下だと認識しました。
  ※異世界の存在を認識しました。

【愛沢咲夜@ハヤテのごとく!】
 [状態]:健康
 [装備]:違法改造エアガン@スパイラル~推理の絆~、鉛弾20発、ハリセン
 [道具]:支給品一式
 [思考]
  基本:人を殺す気はない……が?
  1:由乃を受け入れた雪輝に恐怖(パニック)。
  2:グリードに守ってもらう。
  3:由乃に直接的な恐怖。
 [備考]
  ※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
  ※異世界の存在は疑っています。
  ※グリードの部下になることを承諾しました。
  ※一見明るく見えても、多大なストレスと恐怖を感じています。
   そのため疑心暗鬼に陥りやすくなっています。

※グリードの足元に降魔杵@封神演義が落ちています。


**********



2:50

ユッキーがあの売女に誑かされてる!
悪いのはユッキーじゃない。
なんとかしなきゃ。



3:00

媚びてくるあの女を始末したらユッキーに怒られちゃった。
しかも、ユッキーと私に細い目の男が襲い掛かってきたよ。
ゴメンねユッキー、でも絶対由乃が守るから!
それと、怒ってるユッキーもかっこよかったよ。



3:10

ユッキーが男の攻撃でピンチ!
庇ったけど間に合わないよ、嘘でしょユッキー!!!!!
すぐにユッキーの仇を取ったけど、結局相打ちになっちゃった……。



グリードに2nd『我妻由乃』は殺される。

DEAD END

**********


言いたいことが、たくさんあった。
何はともあれ咲夜に攻撃を加えたことはしっかり注意しないといけない。
それに、7thとの戦いが終わった後にしようと思っていたとはいえ、父親との事だって相談したかった。

だけど現実は無情にも、目の前の出来事に対処しろと執拗に迫ってくる。

「ユッキー」

聞きなれた声と共に、ぱしり、と雪輝の手に携帯電話が渡る。
由乃は両手それぞれに機関銃を構えているからだろう、日記によるサポートは自分に任せたということだ。

……そして、その文面を見て絶句する。

雪輝には咲夜を狙ったこと以外で由乃を責めるつもりはない。
あの場で乱入してくれなければ、自分が流されて間違った答えを言ってしまったかもしれないのだ。
だから、その事に関してはむしろ感謝しているとさえ言えるかもしれない。
――たとえディスプレイに浮かんだ文字が、未来の希望を何もかも断ち切るものだとしても。


DEAD ENDフラグ――奇跡を起こさぬ限り回避不能の死を示す文面が、そこにはあった。
由乃が咲夜に攻撃したからこそ、グリードを激昂させた。
……そして、DEAD ENDフラグまでの予知が示すのはこの場にいる全員の死亡、まさしく全滅だ。

勿論、自分に渡す前に由乃はしっかりそれを見ている。

だけどそれにもかかわらず、由乃は本当に嬉しそうに。
……いや、真実嬉しいのに間違いない。
とにかく、自分と会えた事がそれだけ幸せなのだと、満面の笑みでこう告げるのだ。

「想いは、遠く離れてても届くんだよ。そして想いを無くさない限り、また会えるの」

届けたい、貴方に。伝えたい、この想い。
そう、風に乗せて。


こんな殺し合いの場に招かれてさえ、再た会えた事が想いの強さを示すのならば。
今度もまた、互いに手を取り合って絶対に生き延びよう。

それがあの塔で奈落に落ちかけた時、彼女を選んだ自分の選択だと、雪輝は強く強く心の中で頷いた。
未来は変えられると、この文面通りになるとは限らないと、自分は知っているのだから。
それを二人で成し遂げてきたのだから。

【D-3東部/森林/一日目/黎明(2:50)】

【我妻由乃@未来日記】
 [状態]:健康
 [服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
 [装備]:ダブルファング(残弾100%・100%、100%・100%)@トライガン・マキシマム
 [道具]:支給品一式×2、ダブルファングのマガジン×8(全て残弾100%)、不明支給品×1(グリードは確認済み)
 [思考]
  基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
  0:雪輝を自分のもの扱いした二人を許さない。特に愛沢咲夜を敵視。
  1:ユッキーをサポート。目の前の邪魔者二人を排除し、ユッキーをこの場から生還させる。
  2:この場を切り抜けた後ユッキーの未来日記に連絡し、現在の持ち主と接触。なんとしても取り返す。
  3:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
  4:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
  5:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
  6:ミズシロと安西の伝言相手に会ったら、状況によっては伝えてやってもよい。
 [備考]
  ※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
  ※ 電話の相手として鳴海歩の声を「ミズシロ・ヤイバ」、安藤兄の声を「安西」として認識しています。


【天野雪輝@未来日記】
 [状態]:健康
 [装備]:雪輝日記@未来日記
 [道具]:支給品一式、不明支給品1~2
 [思考]
  基本:ムルムルに事の真相を聞きだす。
  0:由乃と早めに出会えて少しだけ安心。
  1:由乃の制御。
  2:DEAD ENDフラグを覆し、この場をどうにか生き延びる。
  3:咲夜やグリードを死なせたくない。
  4:拡声器を使った高町亮子が気になる。病院に向かいたい。
 [備考]
  ※咲夜から彼女の人間関係について情報を得ました。
  ※グリードから彼の人間関係や、錬金術に関する情報を得ました。
  ※「雪輝日記」が使用可能になりましたが、能力自体に他の制限が掛かっている可能性があります。
  ※原作7巻32話「少年少女革命」で由乃の手を掴んだ直後、7thとの対決前より参戦。
  ※異世界の存在を認めました。

  ※未来日記の内容は行動によって変えることが可能です。
   唯一絶対の未来を示すものではありません。


【ダブルファング@トライガン・マキシマム】
リヴィオ・ザ・ダブルファングの用いる二丁揃って一つの短機関銃。
しかも一丁が二つの銃を前後両方に発射できるように組み合わせた物であるため、実質四丁の銃を使用できるに等しい。
使い手の力量次第では片方を左右方向、片方を前後方向に向けることで四方全てを同時に射撃可能であるため死角が存在しない。
気配察知や直観力に長けた者が使うならば非常に強力な武装となる。
今回支給されたマガジンは八つと多めに感じる数だが、四つの銃口それぞれに個別にセットすることを考えると実質予備マガジンは二つである。


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