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逃げる事叶わぬ果て無き迷い路

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逃げる事叶わぬ果て無き迷い路 ◆L62I.UGyuw


ここはきっと闇の底だ。





水平線の下に太陽の気配が感じられる時間帯。
郊外にある閑静な住宅街。正確には閑静だったであろう住宅街。
その一角、ごく一般的な民家の居間にミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは佇んでいた。

*****

「チッ、どうなっている……」

苛々が募る。
一戸建ての家が整然と立ち並ぶ奇妙な街並。道は完璧に舗装され、砂による侵食は見られない。
ノーマンズランドの何処を探してもこんな街は見つからないだろう。
だが俺の苛立ちの原因は街の様子ではない。

どんな街にも当然あって然るべき物、武器が何処にも無いのだ。
大きな誤算だ。
街に行けば銃の一丁や二丁くらい簡単に手に入るだろうと踏んでいたのだが、その期待は完全に空振りに終わった。
それどころか武器として使えそうなもの自体がほとんど見当たらない。
辛うじてキッチンに包丁やナイフが置いてある程度だ。これではどうしようもない。
雷泥・ザ・ブレードならともかく、俺は刃物の扱いは専門外だ。

「まさかここの住人はどいつもこいつも武器無しで身を守れる化け物揃い、というわけではないだろうが……。
 武器はヤツらが予め全て回収した、ということか?」

だとしたらなんという面倒なコトを。嫌がらせのつもりか、それとも余興を盛り上げるためのささやかな仕掛けのつもりか。
どちらにせよヤツらは俺の無様な姿を見て哂っているに違いない。想像するとますます苛立ちが強くなる。

とはいえ現実に無いものは無いのだから仕方がない。
大したものは持っていないと『聴いて』判っていたから無視したが、どうせなら博物館で殺した連中から奪えるものは奪っておくべきだったか。
とにかく、多少の危険を冒してでも有用な武器を手に入れねばならない。
手持ちの武器と弾薬で以降の戦いを乗り切ることは不可能なのだから。

ではどうする?
簡単だ。誰かを襲って武器を奪う。これしかない。
出来れば獲物が単独で動いているうちに叩きたい。
武器が心許無い今、獲物に徒党を組まれると面倒だからだ。何しろ纏めて殲滅する手段が無いのだから。
そしておそらく時間が経てば経つほど生き残った者たちはより大きな集団を作っていくはずだ。
俺とは違い、互いに協力してこの場を脱出しようとする者が殆どだろうから。
例えそれが無駄な抵抗であったとしても……。

しかし、それは当然だ。
突然殺し合えと言われて唯々諾々と従う方がどうかしている。
どうかしているのだ。

解っていても、俺は方針を変えるつもりは無い。いや、変えられない。
ナイブズ専属の音楽家となったあのときから、運命と戦う道は失われたのだ。



あの希望に満ちた少年。
あの泰然とした青年。
そしてあの運命を打ち破らんと語った少女。

それぞれ、並の人間とは一線を画す者たちだった。
だが結局皆死んだ。俺が殺した。
何も変わらず。いつものように。
人間など所詮この程度のものだ。
それは『魔人』たる俺達も例外ではない。
本物の、規格外の怪物を前に奇跡など起こり得ない。
暴威は突然運命を絡め取る。

気に入らない。
初めはただ音が好きだった。ただそれだけだった。
殺し屋をやっていたのも単に殺しの才能があったからというだけだ。
珍しい生き方というわけでもない。殺しの腕を除けばごく普通のノーマンズランドの住人だろう。
それなのに、気が付けばこうなっていた。
本当に、気に入らない。

気に入らないといえばこの場所もだ。
異質。異常。そう表現するしかない。
街に辿り着くまでに右手に見えた、黒い、ただ黒い、気が遠くなるほど大量の水の塊。
その表層が絶え間無くうねり、砕ける不愉快な音が耳を叩く。
風が吹く度に幾千幾万もの植物が気が狂ったように擦れ合う。
そのくせ吹き荒ぶ砂の音も砂蟲の蠢く声すらも聴こえない。
何より耐えられないのは、湿り気を帯びた塩っぽい風。空気。
乾きが。
乾きが足りない。



何もかもがミッドバレイ・ザ・ホーンフリークの神経を削り取っていく。



何故こうなった? 一体何を間違えた?
俺はただ生き残るために現実を見据えて行動してきたはずだというのに。
化け物を倒すには化け物、これが唯一現実的な道だったはずだというのに。
それがどうだ。
結果は化け物の片割れ――ヴァッシュを暴走させかけ、チャペルもビーストも仕留め損ね、逃走にも失敗。
そして今、この馬鹿げた殺し合いに放り込まれてもがいている。
完全な失敗。最悪のさらに下だ。
だが。
それならば一体どうすれば良かったというのか。
あの時はあれがベストだった。その判断に間違いはない。

――――本当に?

本当は。
本当は、リアリストを気取って愚鈍な諦観と幼稚な逃避を正当化していただけではなかったか?
暗闇から脱け出すために、がむしゃらに足掻く者こそが本物のリアリストだったのではないか?
俺のやってきたことは、これからやろうとしていることは、単なる問題の先送りに過ぎないのではないか?
全てを捨てて逃げ出そうとして、それでどうなった?
俯かず、上を向けば……光はそこにあったのでは?

『立ち向かうことは、無駄なんかじゃありませんよ。少なくとも私はそう思います』

黙れ。
唐突に、子供染みた不可解な衝動がこみ上げてきた。
目の前のソファを力任せに蹴り飛ばす。
ソファは近くにあったテレビに衝突し、派手な音を立てて諸共床に転がった。

「……もう遅い。既に、幕は上がったんだ」

今更、死んだ人間の言葉に心を揺さぶられるなど――。

それにだ。
もし仮に、このクソ溜めのような運命を打ち破れる者がいたとしても、それは俺ではあるまい。
俺は……やはりただの人殺しだ。
そんな男に最も重要な役が与えられるはずがない。

今更に、ソファを蹴った足が痛み出す。

もういい。もうどうでもいい。考えるのは止めだ。
一切合財何もかも速やかに終わらせよう。
奴らが、あの化け物共が、何を企んでいようと知ったことか。
望み通りアンコールには応えてやるさ。

その後のことなど――。



突然、穏やかなピアノの調べが何処からともなく流れ始めた。
何だ、と呟き、耳を澄ませる。
だが俺の超聴覚をもってしても音源を特定することは出来ない。
すぐ耳元で鳴っているようにも遥か遠くから流れてくるようにも聞こえる。
時刻を確認すると六時一分前。そういえば六時間毎に放送を行うと言っていたがこれがそうか。
白紙だった名簿を取り出すと、仕掛けは解らないがうっすらと文字が浮かんできている。

六時。
やはり何処から聞こえるのか判らない女の声で、放送とやらが始まった。

*****

放送を行っている女の声は明らかに初めに見た二人のものとは異なる。
奴らの仲間か。
女はすぐに本題に入らず、何か意味深なことを口走っている。

ぐずぐずと煩い女だ。
前置きなどどうでもいい。必要なことだけ簡潔に伝えればいいだろうに。
あの道化やガキと比べるとまるで人間のようだ。

やがて女の短い独演会は終わり、名簿を確認しろ、と告げられた。

女に言われるまでもなく、くっきりと文字が浮き上がった名簿を改めて眺める。
これから殺す相手の名前などどうでもいいのだが、気になることはあったからだ。

「やはり、俺だけではなかったか……」

嫌な予感というものは良く当たる。
名簿には俺が死んだはずのあの場にいた面々の名が並んでいた。
ニコラス・D・ウルフウッド、レガート・ブルーサマーズ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード
察するにあの場で纏めて拉致されたのだろう。少々、いやかなり面倒なことになりそうだ。
何故かホッパード・ザ・ガントレットとザジ・ザ・ビーストの名前が無いが――いや、ビーストに関しては本体ではないのだからむしろ当然か――

「な」

そんな疑問は一つの名を発見した瞬間にアルタイルの彼方まで吹っ飛んだ。

「な、に――――」

声が擦れる。全くの予想外。後頭部をハンマーで殴られたかのような衝撃。
いや、俺たちを纏めて捕らえた連中だ。可能性はあった。ただ無意識に考えないようにしていただけだ。

脚が震える。鳩尾の辺りが締め付けられる。頭の中がみるみる融けた重金属で満たされていく。
どん、と、背中が壁にぶつかり、傍に掛かっていた安物の絵が傾いだ。
放送は未だ続き、名簿は徐々に朱に染まっていく。だが最早脳はそれを認識していない。

その名前。
ミリオンズ・ナイブズ





ここは確かに闇の底だ。


【B-5東部/民家/1日目 朝(放送中)】

【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム】
[状態]:右足打撲
[服装]:
[装備]:イガラッパ@ONE PIECE(残弾60%)、エンフィールドNO.2(2/6)@現実
[道具]:支給品一式 真紅のベヘリット@ベルセルク、鳴海歩のピアノ曲の楽譜@スパイラル~推理の絆~、銀時の木刀@銀魂
[思考]
基本:ゲームには乗るし、無駄な抵抗はしない。しかし、人の身で運命を覆すようなヤツと出会ったら…?
0:ナイブズに対する強烈な恐怖。
1:積極的に参加者を襲って情報と武器(特に銃器)を得る。
2:強者と思しき相手には出来るだけ関わらない。特に人外の存在に軽い恐怖と嫌悪。
3:愛用のサックスが欲しい。
[備考]
※ 死亡前後からの参戦。
※ ハヤテと情報交換し、ハヤテの世界や人間関係についての知識を得ています。
※ ひよのと太公望の情報交換を盗み聞きました。
   ひよのと歩について以外のスパイラル世界の知識を多少得ています。
   殷王朝滅亡時点で太公望の知る封神計画や、それに関わる人々の情報を大まかに知っています。
※ 呼吸音や心音などから、綾崎ハヤテ、太公望、名称不明の少女(結崎ひよの)の死亡を確認しています。

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044:地獄とは神の在らざることなり(後編) ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク 096:魔人、憐れなるかな

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