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弦がとぶ―圧倒する力―

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弦がとぶ―圧倒する力― ◆JvezCBil8U



風が吹く。 
轟と鳴く。
道を駆る。
地を穿つ。
空に踊る。

切り裂く大気に舞う木の葉は弾け飛び、決死の挟撃を巨躯は腕の一振りにて薙ぎ払う。
死合いを望む兵(つわもの)の妄執はつとに強く、渾身万力の痛恨撃はまたも果たせず。

これより先に、一切合財の言葉は不要(いら)ず。
ただ己が肉体を以って討ち克つのみ。
そこに在る事実を以ってして、命の炎を瞳の奥に焼き付けよ。



真っ直ぐに掘削し続ける右の剛槍。
それは跳躍した踊り手に触れる事はなく、彼であり彼女でもある者は静かにその上に降り立った。
Ta,tatatata,ta! とそのままに腕の上を助走し跳べば、真上から流星が降り注ぐ。

だから、不死の名を冠するものは左手を閃かせた。
左の白刃を宙の一点へと投擲する。打ち上げる。

流星は落ちず、踊り手は無様に体を捻る。
その脇を通りすがって、銀の閃光は遥かな青の向こうへ消えていく。

しかし、好機。
獣の視線は高みに向けられて、その左の腕には掲げられたまま武器もない。
土手っ腹のすぐ側ががらんどう。

侍は駆け抜けながら一閃を振り抜く。
されどその手に手応えはなく、転換する最中に不意に影が頭上に満ちた。
獣は空を支配して、砲弾の如き剛腕にて侍ごとに大地を抉る。

土くれの爆ぜる有様は、まるで大輪の花火のよう。
しかしその中に赤の色はなく、薄紙のように侍は風の上を走る。

飛翔。

ふわりと浮かびて木立に乗れば、空飛ぶ獣と視線がカチあう。

大上段に剣を構え――断ち割らんと。

その行為を見ると、獣の口端が吊り上がり歪んだ。
振り下ろされるその直前に、びきびきと獣の右腕が膨れ上がる。
握られた剛槍を独楽の如く振り回し、今まさに鎌鼬を繰りださんとする侍へ。

速い。
ひた速い。

防御は不能。受ければ即死。
されば、許されるは後退撤退逃げの一手に他ならず。

眼前を鉄の塊が掠めゆく。
良し、と頷いた。
円周運動は速く強いが、しかし生まれ出る隙もまた大きい。

背中が見えて、枝から駆ける。
獣の背後へ回り込むのは容易く、死角よりその心の臓を縫う。

……それを叶えようとした瞬間、気付いた。

ごき、という嫌な音がする。
天より堕ちる最中の踊り手に、剛直が叩き付けられていた。
独楽回しはこの為に。
一石にて二鳥を撃ち落とすその為に。

ロケットでも付けたように横に吹っ飛び、ギャグ漫画のように壁にめり込む。
濛々と立ち込める白煙は防火対策の漆喰の残骸か。
工場の壁としての役割は、十分果たしているだろう。
その壁の白も、じくじくと赤に染まっていく。
白煙の中は見通せず、しかし投げ出された左脚はあらぬ方向へと折れ曲がっていた。
ひしゃげ、潰れた肉の残骸からは、砕けた骨の先端が突き出し、千切れかけてさえいる。
おまけと言わんばかりに、崩れた壁の残骸が踝から先を押し潰していた。

もう二度と、両の脚で大地を踏みしめる事はない。

侍の一つ目顔が、歪む。叫ぶ。
滞空中に自由が効かぬはまさしく道理。
故に獣は、笑ったのだ。
仲間を助ける事を忘れ、自分に一撃を入れる事に専心した侍の心に。

責められる事ではないだろう。
むしろ、そこに思い至る方が難しい。
ただそれでも、獣が嗤うには十分すぎる理由だった。
侍が己の判断力を鈍らせるには、十分すぎる理由だった。

獣の嘲りは止まらない。

よくもまあ、こんな空前の機会に攻撃を仕掛けぬとは!


侍が状況を思い出すと同時。
獣は空に左手を掲げ、丸太より太く鋼より強いその掌を叩き付ける。

既に覚え見たリーチを考慮。
避けることが可能と判断。
カウンターする転換点を把握。

バックステップ。
爪をぎりぎりで掠めて跳躍回避。
振り戻しを警戒しつつ、こちらからの反撃の起点とする。

それを成さんと一歩踏み込み、気付く。


振り抜かれた獣の拳に、眩く煌めく星ひとつ。


彼の手に握られるは先刻虚空へと消えた、秋水という名の希代の業物。
真っ直ぐ上昇して最高到達点まで辿り着いたものは、重力加速に従い落ちる。
従って、獣がその場を抑え続けていれば、当然の如くそれは空に掲げた手に収まる。

さてさて。
獣の爪の間合いを把握していたはずだったから、ぎりぎりで避けられた『はずだった』。

……けれど。
もし、獣のリーチが刀一振り分追加されていたとしたら?

嫌な想像を振り払うために、侍は恐る恐る目線を下に向けていく。


真っ赤だった。
それでいて、いろんな赤がそこにあった。


ぱっくりと、横一文字に腹が裂けていた。
皮一枚でなく中身ごと。


一人はずるりとただ呆然と、力なく弱々しく尻をつく。
一人は血まみれの頭で目を剥き出して、怒りとも悲しみともつかぬ顔。
一人は肉の感触に喜色を浮かべ、狩りの充足に雄叫びを。

三者三様の反応はしかし、共通理解に由来するもの。

嗚呼。
放っておけば、もう長くない。


――不意に。
崩れた壁の向こうから、か細くも強い意志を込めた声が挙がった。

そこにいたのは、少女だった。
麦わら帽を抱き締めて、息絶えた少年をせめて埋めようと背負っていた少女だった。

少女は涙を零しながら、それでも懸命に立っている。

少女は、臓物を押さえ込む侍を見る。
少女は、二度と歩けぬ踊り手を見る。
少女は、彼女の闖入に水を差され不快を露わにする獣を見据える。

そして、躊躇いなくひしゃげた十字架を構え、放った。

直撃。

ロケットランチャーの爆炎が不死なるものを浄化する。
野太い赤子のような絶叫が轟いた。

炎の森が屹立し、不死の獣がその向こうに消えていく。


黒い煙が漂うその中で、踊り手はただ呆気に取られてオレンジ色に照らされる少女を見つめる。
そしてようやく、麦わら帽に目を止めた。
目線を下げて、静かに下ろされた一人の少年の眠る姿に息を呑む。

少女は踊り手の思わず呟く名前に耳聡く、絡まる視線と僅かな会話。
二言三言のやり取りで、十二分に互いの状況を把握した。
“彼”を知っているならば簡単に想像がつく。

そして“彼”の友であったからか、その生き様に感じ入るものがあったのだろう。
少女が毅然と告げるのは、紛れもない守る決意。戦う決意。
出会った時点から、彼ら彼女らは既に友としての絆を持っていた。
それが“彼”の残した最後の秘宝。

踊り手の瞳に涙が浮かぶ。
友は逝った。だけど、その意思は自分たちの中に確かに息づいている。

安堵の吐息。
……そして、命の灯火の弱りつつあるもう一人の友を救わんがために、そちらの方に目を向ける。

その瞬間。
侍は目を見開いて、必死の形相で言葉を口に。
力なく片手で振るわれた風の刃が、少女に向かって突き進んだ。
碌な握力もない故に、すっぽ抜けた剣はざくりと踊り手のだいぶ手前に刺さって止まる。

爆発。

風と鉄がぶつかって、少女の数歩手前で花開いた。
オレンジの膜のあちら側から、手榴弾のプレゼント。

少女の肢体が、フッ飛ぶ。
直撃は防がれた。しかし無傷なはずもなく。
ごろごろ転がり泥に塗れて、ぴくりと痙攣を繰り返す。


おおぉうるろろろろろぉおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉぉおおおおぉおおおぉぉっ!

歓喜の咆哮が満ち満ちた。

橙の薄膜に黒い影が映し出される。
その身を炎に包みつつ、ずるりとそこを抜け出てきたのは言うまでもなく、狂戦士たる獣の巨躯。
剛槍ごとに右腕の半ばから先は行方が知れず、しかしだからこそより凄惨な威圧を伴って、蹂躙者は闊歩する。

あちこちに破片が付き刺さったままの少女は傷だらけ。
耳から血さえ流れている。鼓膜が潰れたのだろう。
下手をすれば三半規管さえイカれたのかもしれない。
がくがくと体を震わせて、立とうとしてもその場にすっ転ぶ。

そんな有様でも、彼女は、この場にいる四者では最も軽傷だった。
腹から見えてはいけないものが覗いている侍と、
武器であるはずのその足さえ使い物にならなくなった踊り手と、
傷つきなお覇気を昂ぶらせる獣と。

故に彼女が戦わねば、守りきれない。
そして、既に彼女を戦士と認めた不死の獣も、逃がす気などとうにない。

立った。
転んだ。
立った。
転んだ。
立った。
転んだ。
立った。
転んだ。

吐いた。
自分の吐瀉物の中に倒れ込んで、すえた臭いが少女を打ちのめす。

無駄だ。
所詮は人の身だ。
これ以上の戦闘の継続は全くもって不可能。

なのに少女は、自分にできる事を望む。
ボロボロと涙をこぼしながら、子供のように嗚咽を漏らして。

あまりにもみっともなくて無様なのに、踊り手はどうしてかそれが美しく思えて仕方なかった。

そう、そうだ。

“彼”が命を賭して守りきった少女を、生かさなければならない。
自分と同じ曖昧な存在である侍を、救わなければならない。

友とは、そういうものだったろう?

友だから助けるのではない。
助けたいと思える相手こそが、真の友なのだ。

こんなところで這いつくばって何をやっている。
足が潰れた?
それがどうした。
勝ち目が見えない?
それがどうした。

己を立ち上がらせるのは肉体などでなく友情の力だ。
使えぬ足などくれてやる。

ぎり、と歯の根を噛み締めた。

潰れた足を、壁の破片で切り落とす。
ぐちょり、ぐちょり。
筋繊維が削られる嫌な音がして、赤い水溜りに肉片が混じっていく。
使うのは切れ味などナイフに及ぶべくもない石の塊だ。
文字通り自らの体と命を削る度に、この世のものと思えない痛みが走る。
一往復の度に意識が深い闇の中に沈んでいきそうになる。

ごきゅ、と硬い感触がする。
砕けかかった骨の残骸だ。

はぁ、はぁ、はぁ、と荒い呼吸が踊り手本人の耳にやたらと響いた。
もうこれを砕けば、二度とこの足は戻ってこない。
腕が震えて、振り下ろせない。

――途端。
幽かな力ない音が、踊り手の下へ届いた。

中身が零れるのを手で抑え、侍が立ち上がろうとして失敗した音だった。
無理をしたからだろう、意識もなくうつ伏せに倒れているのが目に入る。


何かの切れる音がした。
全力で右手の石を、意思を、意志を、振り下ろす。

砕け千切れた。
自分の体だったモノが、もう自分ではないモノとして打ち捨てられていた。

切断面から温かい血が流れ出ていく。
寒い程の喪失感が、沸きたちかけていた頭を完全に冷却した。

するべき事は明確だ。
匍匐するかのように地に伏せリ、進む。
這いずり、這いずり、這いずり――“彼”の友の傍らへ。

土と血に塗れて、炎に身を焼かれながらも血反吐を吐いて辿り着き、掴む。

それは先刻、侍の手放した風の剣。
精霊の力を担い手に与える不可思議の舶来品。

その剣を失った左脚の代わりにするかのように――、

豆腐のようにぐずぐずになった切断面へと躊躇いもなく突き刺した。

奥へ、奥へ、奥へ。
肉を貫き骨にめり込み神経を断ち割り、砂に指を埋めるように剣と脚が癒合していく。

それは足と言うにはあまりにも醜すぎた。
醜く、細く、軽く、そして大雑把すぎた。
それは正に“赫足”だった。

残る右足を楔として、地面を叩き勢い付けて体を起こす。
ぐらり、と軸がブレた。

……が、倒れない。
ぶしゅう、と切断面から流れる血の勢いが、なお増した。

剣の柄が――、しっかと大地を踏みしめている。


獣と踊り手の、目と目が合った。

途端、獣の姿がブレた。

ほぼ同時に、柱が踊り手にめり込んだ。
否、柱ではなく太い尾だ。翼の加速を用いての粉砕撃。
またも踊り手は吹っ飛んだ。

歓喜の表情を獣は浮かべ、あろうことか激さえ飛ばす。
立ち上がり、楽しませて見せろと。

大の字で宙を飛ぶ踊り手の勢いが、不意に弱まった。
風が渦巻き、木の葉がその背の後ろに集まる。その場所だけは周囲の部分より確かに明るい。
光の屈折力を歪めるほどに高密度に圧縮された、空気のクッションだ。
白い空気の渦はそこだけでなく、剣本体の周りにも纏わりつき――、ガラスのように足の形状を形作る。

みるみる速度を落とし、ふわりと降り立つ踊り手。
鼻は潰れ、右手の指は木の枝のように折れ曲がり、アバラも半分近く砕けた。
それでも闘志は衰えない。
肉の足と空気の足、両の足を踏みしめ、駆ける。

あぎとを大きく開いた獣の口が、眼前に迫っていた。
その上を越えるように、跳躍。
獣の額に右の手刀を繰り出すも、相手の動きは止まることなく。
勢い任せに突っ切られ、嫌な音と共に右の腕が千切れ飛んだ。

にぃ、と、表情だけで踊り手は笑う。
それでいい。
どうせもともともう使い物にならなかった右腕だ。
なら、こうして『方向転換』する起点の役目を果たしてくれただけで十分だ。

今自分がいるのはまさしく頭上、完全な死角。
無駄な思考はこれ以上は余計に過ぎる。
今はただ、全身全霊で穿つのみ。

旋風が吹いた。

踊り手の左足に、周囲の空間全ての大気が収束していく。
竜巻とも呼べる勢いで構築された左足が伸長し、白鳥の形状を織り成した。

“爆撃白鳥――ボンバルディエ”

アラベスク、と踊り手の口が動く。


獣の残った右角が、半ばから砕け散った。

右腕の残骸が、塵と化した。

左の掌から、指が2本消え去った。

左の脛に、嘴の鋳型が刻まれた。

右足の裂傷が、抉られ赤霧を生み出した。

両の頬肉が、何処かへと失われた。

右の胸の背に、クレーターが作られた。

左の眼と耳が、完全に潰された。

翼がまるで、チーズのように穴だらけになった。


気体を圧縮して作られた白鳥は、鋼鉄製のそれの欠点である「返り」すら克服。
引導を渡す一撃を左胸に狙い澄まし――、


だが、それでもまだ足りない。


砕け散った角の先端が、獣の掌に握り込まれる。
急降下して地面に脚を着けば、鋭角ターンが成立する。

音速超過の水蒸気の帯を引きずって、投擲。

白鳥と角が正面衝突した。

凄まじい圧がその場の全てを薙ぎ払う。

炎の最後の残り香が、白く煙り虚空を満たした。
焦げる血の臭いが澱のように降り積もり、全ての生物の嗅覚はとうに機能しない。


風が吹く。
停滞した全てをリセットするかのように。

鉄と漆喰と森と土に囲まれた焼け野原が、姿を露わにされていく。

屠殺場のような血溜まりだらけのその光景の中央に。

まさしく、不死(ノスフェラトゥ)と呼ぶべきバケモノは、轟然とそこに屹立していた。
膝をついて砕けた臓器の欠片を血とともに吐く、踊り手を見下ろして。


僅かな呟きの時間が訪れる。
不死の獣は、悦びのあまりつい口を緩めるのだ。

奇しくも己の体に傷を付けるほどの足技使いと、一日の内に二度も巡り会う希有への感慨を。
そう、先に戦ったあの男の生き様と散り様を、独りごちる。


踊り手は、それを聞き届けた。

顔を、かつて己を打ち破った料理人のそれへと変える。
確かめの言葉を問う。
果たしてあの友の命を奪ったのは貴様なのかと、普段の口調からは想像できぬ程の重く静かな声で。

肯定の言葉を獣が告げると同時。


踊り手は、不死の狂戦士を完全に凌駕した。


気がつけばその生身の足が、獣の胴に突き刺さっている。
ぐらり、と獣の体が揺れた。
更に深く深く踏み込み、通りすがりながらにオーバーヘッドキック。
顎を打ち上げ、獣の顔は天を見上げる。
左拳を更に腹に撃ち込んだ。
弾かれる勢いを利用し、回し蹴り。
頭突きに繋げ、更に蹴る。
蹴る! 蹴る! 蹴る!
蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!
体を沈め、脚をバネと変える。
跳躍。
しかしそれは高く跳ぶ為ではない。
体全体を使っての突撃行。
インファイトによる超高速連続攻撃を実現させる。
先刻までのヒットアンドアウェイではなく、獣に攻撃する暇も与えず倒しきる!
鎌鼬が踊る。
真空の刃が、一度の蹴りで十を超える裂傷を生む。
その一度は一度で止まず、流れるように五月雨をもたらす。
わずか数度の交錯で、軽く百を超える傷が獣に刻まれた。
回復速度をはるかに超える連撃に、さしもの獣の鉄の腹もとうとう保たず裂けていく。
――思い出す。
あの煙草を咥えた料理人の事を。
蹴りと蹴りの交換を行い、絆を深めた友達の事を!
肉体の動きがさらに加速した。
視界がまっしろに霞んでいく。
跳び上がり、“首肉”に一撃を。
続けざまに“肩肉”を破断する。
落ち様に死角に回り込み、“背肉”を叩き潰した。
止まらない。鈍い音が“鞍下肉”から響く。
股下を潜る。無警戒な真下より“胸肉”を強襲。
反動を利用した勢いにより、“もも肉”が砕ける。
イメージはより精細に正確に。
あの戦いの時を再現するならば、それの再来も必然か。
場の全てのそれを集束した大気の塊が、獣の背の向こう側に確かなヒトカタを構築していた。
それは虚ろな幻にすぎず、しかし確かな質量を以って料理人の影を成す。
散った漢の想いを背負い、涙流して有漏路発つ。
いつか旅の行き着く先にて、共に愛でよう艶花を。
“爆撃白鳥羊肉ショット 追加一人分”
踊り手と料理人による必滅の挟撃。
爆散。
不死の獣の胴体が1/3以上、ごっそりと持っていかれた。
終わらない。終わらない。
まだまだフルコースは終わらない。
踊り手と料理人は宴にてともに舞い踊る。
“肩ロース”血と汗とが青い空に跳ねる様は、まるで桜吹雪のよう。
“腰肉”斬る風は鋭く、しかし決して荒々しくはなく。
“後バラ肉”実に雅で儚い一瞬を描き出している。
“腹肉”この巡り合わせが運命の糸というならば。
“上部もも肉”手繰り寄せられた幸運にだけは感謝を。
“尾肉”残していくものへの懺悔もある。それだけが心残りだ。
“もも肉”だが、それでも信じよう。
“すね肉”この場を切り抜けさえすれば、助かる目はまだ残っているのだから。
だから、全力を以ってこの化け物を倒すことこそ自分の役目。
友よ、友よ!
すぐそちらに行く。
その時にはきっとまた、ともに歌い、杯を交わし、楽しく語り明けよう。
だから、その為にも――、
料理人が下拵えをしていた内臓肉へ、とっておきの“最高の一皿(スペシャリテ)”を。
“アラビア風(アラベスク)爆撃白鳥仔牛肉ショット 二人前”
散華せよ。










すべてのいろがしろにそまるなかで、むぎわらぼうとたぼこのけむりのふたつがみえた。












『ボンちゃんが最後の一撃を叩きこむと同時、地響きを立てて化け物の体が倒れ込んだ。
 そして、ボンちゃん本人も受け身も取らず地面に激突して、それきり何も喋る事はなかった。
 身動き一つさえ、する事はなかった。

 伝えるべき事はもう少ない。
 どうやら僕の命が尽きる前に、この手記を記しきる事が出来そうでなによりだ。
 時間がない。もう手を動かすことさえ厳しくなってきている。
 詳細な事も書けないし、妄想さえ含んでいるかもしれないけど、とにかく簡潔にその後の事を書いておく。

 喪失感に包まれるも、悲しみが麻痺したままの僕が、倒れていたままの少女―ウィンリィと名乗った―と目を合わせた時、それは起こった。
 凄まじい咆哮が周囲に満ちたんだ。
 僕とウィンリィは顔をひきつらせ、まさかという思いで体を震わせ、その方角を向く。
 そこでは、満身創痍で全身ボロボロ――僕以上に内臓が酷い事になり、右足を完全に引きずって、両腕さえ潰されているにもかかわらず――、
 あの化け物が空に雄叫びをあげていた。

 一度あの技を見ていなければ斃れていた、という内容の化け物の哄笑が響き渡る。

 もう、僕たちに出来る事はなかった。
 僕たちに許されていたのは、諦めだけだった。
 ウィンリィは座り込んで虚ろな目を何処かへ向けている。
 ……僕も、心情的にはほとんど同じだった。それでも体だけは、戦おうと動く。
 それが剣の道を生きてきた誇りだからだ。それだけが、よすがだった。
 ずるずると這いつくばりながらも、鞄の中に手を入れてバットを握り締める。

 その時だった。
 不意に、肩に手が回されたのは。
 ウィンリィが僕の体を引っ張って、強引に工場の中へ連れ込んでいく。
 僕が何を言っても聞こうとしない。いや、もう耳が聞こえていないのか。
 麦わら帽子を僕の知らない少年の上に被せて、どんどん暗闇の中へと。

 工場の孔が破壊され、こじ開けられる音が背後でしていた。
 あの化け物の巨体では小さな穴を潜り抜ける事は出来なかったのだろう、しかし時間の問題だ。
 ウィンリィは、とある部屋の前で立ち止まる。
 力がもうまともに入らない僕をその部屋――給湯室へと押し込め、彼女はごん、がたんと何か重いものを部屋の前に置く。
 鍵をかけるように僕に言うだけ言って、そのまま脇目もかけず走り去って行った。
 給湯室のドアに備え付けられた窓から見えるその背が、僕の見た最後のウィンリィの姿だった。

 そして、化け物の目の前に突撃し――銃撃。
 揺らいだ化け物に挑発の言葉をかけると、振り回される尾をかいくぐって背後へと回り込み、再度機関銃を撃つ。
 様々な機材が邪魔となって、化け物の行動を阻害していたから出来る行動だ。
 あるいは、ボンちゃんの与えたダメージがかなりの枷となっていたのかもしれない。

 そのまま化け物の拡げた穴に飛びこんで、日の光の下へ駆けていく。

 化け物もまた、躊躇わない。
 機材やらなにやらを全て力で吹き飛ばして、しかし脚を引きずりながらウィンリィを追っていく。
 かつての豪風のような速度は見る影もなく落ちていて、しかしじりじりと距離が縮まっていった。

 走って、走って、走って、何度も転びながらウィンリィは一心不乱に駆けていく。
 膝がボロボロになり、血が止まらずにズボンまで完全に真っ赤に染まった。
 けれど、やっぱり逃げ切る事は不可能だった。
 圧倒的な力で振るわれた腕と爪が、ウィンリィをとうとう捉える。
 木に叩きつけられたその時に、ウィンリィの腰から下はもうどこかに消え去ってしまっていた。

 はぁ、はぁ、はぁ、と半分になったウィンリィの息が次第に弱まっていき、目から光が失われていく。
 けれど、それでも口元には笑いが残っていた。してやったり、と言わんばかりの悪戯めいた笑みだ。

 その事に化け物は気付かない。
 勝利に酔いしれ、天高く凱歌を謡っている。

 けれどどちらの耳も完全に潰れていて、誰にもその声は聞き咎められることはなかった。

 だから、それに気付いたのはもう、事が起こってからだったんだ。

 ウィンリィが小さく誰かの名前を呟いたと同時。
 ずる、と化け物の視界がズレた。

 疑問に思う化け物は、傾いでいく視界の中に、首から上を失った自分の体を発見する。

 ウィンリィの首から上も、胴体と泣き別れしている。

 そこはF-7、禁止エリアと呼ばれる場所だった。
 時刻は9時。

 とうとう今度こそ、完全に化け物は沈黙した。

 その場にあったのは一人の少女と化け物の、首なし死体。
 静かに日に照らされて、森の中は何ひとつ動く事はなかった。

 こうして――怪物退治は終わりを告げた。
 ボンちゃんと、ウィンリィ。二人がその命に代えて成し遂げた。

 そして最初に致命傷を負ったはずの僕が、こうしてどうしてか長らえている。
 けれど、やっぱりもう時間のようだ。

 せめて二人の事を残しておきたくて、僕はこうして筆を取った。
 これを誰かが読んでいるなら、どうか彼らの事を覚えておいてほしいと僕は願う。

 それでは、これで筆を置こう。
 確かな二人の生き様を記して僕も逝く。




 ……ああ、一連のそれが本当に起こった事だったら、まだ救われたのに。

 僕にはもう、どちらが実際の出来事なのか見極められる判断力がない。
 こんな、悪夢としか思えない現象を書き記すのはやめておこうと何度も思った。
 だけど幻と片付けるには余りにも現実味がありすぎる。
 2つの記憶が混ざり合って混乱して、妄想と現実の区別がつかなくなっている。
 これから書いていく出来事と、これまで書いてきた出来事のどちらが正しいのかは、これを読む人に任せたい。


 ――そう、あれはボンちゃんが倒れた直後の事だった。
 山の頂上、神社の上を鷹のような何かが飛んで行くのを、その場にいる誰もが見つめていた。

 そしてまさしくその瞬間だ、世界が切り変わったのは。

 いきなり霧が湧いてきて、このあたり一帯を包み込んだ。
 おそらく、ボンちゃんと二人で確認した湖からの霧だったんだろう。
 目の前の化け物が歓びを露わにするかのように、この世のものとは思えない声で吼える。

 白一色に森と工場の中が満たされると、まるで日蝕が起こったかのように急激に暗くなり、周囲が冷え始めた。

 すると。
 濃霧の向こう側に、化け物の呼び声に応えたようにいくつもいくつもの異形の影が■れた。

 巨大な蛇のようなもの、ナ■クジのようなもの、蝶のよ■なもの、人のような馬のような■の、
 竜■よう■もの、一つ目■狼と人■■うなもの、形容■■ないもの、その他たく■■の怪物に取り囲■■■いた。
 さっきまで戦っていた化け物は、それらを指揮するかのように■■■■■■

 僕とウ■■リィは圧倒されて、そのおぞま■さに後ずさる。
 今■■■じた事のな■■怖が僕に満■た。
 それしか心の■■残っ■■■ず、ただひ■■らに逃げ■事を■んだ。

 ■■ンリィと手を取■■■■■■、工場の中■■■込む。
 ……■こから先の流れ■先刻書き記し■■■■同じ■。
 ウィン■■■■■給湯室に僕を■■■れると、一人奴らに向か■■■った。
 僕も■おうとした■■ど、もう■■■リィの力に■う事も出来■、されるがまま■■じ込められてしまった。
 銃声が連続し■■■、けた■ましい■■と金属■が響く。
 そして、嫌になるほどの静寂が満ちた。

 ……いや、■寂のようで、実はそうじゃな■■■。
 ぴ■■■ちゃと舌鼓を打つ■■■、子供■水たまりで跳ね■■うな音がしていた。
 その音が■■■■■■■ないから、僕は■くがくと脚を震わせ■■■■立ち■がって、壁に寄り掛■■。
 ■■してドアの窓までにじり■■、その光景をガラス越しに見た。
 見てしまった。

 そこではウィンリィが■され、嬲ら■■いた。僕は目の前■■■■■■■■■■を見て、■■■と■かできな■■た。
 ■を流して■■されるウ■■■ィは、強■■■を剥ぎ■■■■押し■さ■■■
 そ■■■て命ま■奪わ■■■■■く、■だの慰み■■■■■辱が、何も出来■■僕■無力■■■■
 ■在進行■でそれは■■■■■る。

 こんな■■書くの■■■■■■■■■■緑色の■■■■■■■■■
 ■■こじ開け■■■孔へ■■■■血■■■■■■■■■■■白■粘液■■■■■■
 ■■■■産卵■■■■■■■■■■■■■■■だ。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■茸のよ■な肉の■■■■■■■■■■■何百も■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■イボ■■いた■■■■■■■■■■■イソギ■■ャク■■■■■■■■
 ■■■ビク■と■■■浮き■■太い血管■■■■絡み■■て■■■■■■■触手■■■■■
 ■■■■■■■肉の■■■■■■■■■器官■■■■■■■赤ん坊■■■■■
 ■■■■犯■■■■■掻き回■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■臭■汚泥■■■■■■■■■■
 ■■■■■恍惚の■■■■■■■■■■■■■■滴って■■■■■脳髄■■■■■■
 ■■捕まっ■■僕もあんな■■■■■■■■■女に生まれ■■■■■■■■■■■■■
 逃げら■■■■このバットで■■■■■■■限度が■■■■■■■■無理■■■■
 ■■■■■■■■■■玩具に■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■自決しか■■■

 覚悟は決ま■■。奴ら■■こに入って■る前にこの命■終わ■■■う。

 ■の前に、こ■だけは書■■おか■いと■■■■■
 ■■を読ん■人は志■妙と坂■■■、■田■■■いう人■伝え■■■■■■■■
 妙■ゃ■■■特に■■■■■■■僕■先に■■■■■■■■■■ごめ■■■い、さよ■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■生きて■■■■

 あ
 窓の外に




 目




 』



【Mr.2 ボン・クレー@ONE PIECE 死亡】

【ゾッド@ベルセルク 消息不明】
【柳生九兵衛@銀魂 消息不明】
【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師 消息不明】


※工場東部の外壁は破壊されており、その付近の内外問わずに大量の血痕や肉片、粘液がこびりついています。
 また、Mr.2 ボン・クレーとモンキー・D・ルフィの死体は破壊された穴の外部に存在します。
※シルフェの剣@ベルセルクは、Mr.2 ボン・クレーの死体の左足に突き刺さったままになっています。
 また、デイパック(支給品一式、スズメバチの靴@魔王JUVENILE REMIX、コインケース@トライガン・マキシマム)もその側に転がっています。
※シルフェのフード@ベルセルク、ブラックジャックのコート@ブラックジャックは、工場内に九兵衛やウィンリィの服とともにズタズタに切り裂かれて散らばっています。
 修復は不可能です。
ゾッドの所有物(穿心角@うしおととら、秋水(血塗れで切れ味喪失)@ONE PIECE、支給品一式、手榴弾x2@現実、未確認支給品×1)が工場外の東部周辺のどこかに散乱しています。
※工場内の生産ライン付近に、デイパック(支給品一式×2、工具一式、金属クズ、不明支給品×1)と
 ひしゃげたパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、が転がっています。 どちらも血や体液に塗れています。
※番天印@封神演義、乾坤圏@封神演義、パニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマムに手が触れられた様子はありません。
※工場内の給湯室に、デイパック(支給品一式、柳生九兵衛の手記)と改造トゲバット@金剛番長が転がっています。どちらも血や体液に塗れています。
 また、柳生九兵衛の手記には、簡単な彼女のプロフィールや人間関係、ここにきて得た情報、湖の霧について、一連の出来事の概略などが記されています。


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069:Night And Daylight ウィンリィ・ロックベル GAME OVER?
103:F.O.E."Nosferatu" ゾッド GAME OVER?
103:F.O.E."Nosferatu" Mr.2 ボン・クレー GAME OVER
103:F.O.E."Nosferatu" 柳生九兵衛 GAME OVER?




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