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非統一魔法世界論

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非統一魔法世界論 ◆L62I.UGyuw



市街地から程近い森。
ゆったりとした暗色の外套を身に付けた長身の男、聞仲が微動だにせずその三つの目で手に持った名簿を睨んでいた。
名簿には彼の知る名がいくつかあったが、その中の一つが赤く染まっているのだ。

太公望は、死んだか」

長い息を吐き、聞仲は喉に支えていたものを吐き出すように呟いた。
これで、滅び行く殷の太師としての最後の務めを果たすことは、永遠に出来なくなったという訳だ。
今更それほど意味を持つことではないのかもしれないが、それでも一抹の寂しさを覚える。

陽の光は東側の山に遮られ、森の中はまだ薄暗い。

そういえば、どうやら高町亮子はまだ生きているらしい。
禁鞭を掠めて逃げた彼女を秋葉流が追い掛けて行ったのは確認している。
彼に彼女を生かしておく積極的な理由など無いはずなのだが――。

「なあ、おじさん。大丈夫なのか?」

隣で同じく名簿を眺めていた槍を持った半裸の少年、うしおの言葉に聞仲は我に返る。
彼はどうやら先程から聞仲の様子を窺っていたらしい。

「ふむ……いや……心配することはない。向こうに置いて来た私の仲間達は今のところ無事のようだ」

今まさに死なんとしていた少女のことまでは判らないが。
ともかく、考えていても仕方がない。
無事でいるのならそれに越したことはないのだから、よしとすべきだろう。

「そうじゃなくってよ。あ、いや、もちろんそれも心配だったんだけどさ。
 でもそっかァ、無事だったのかァ……。
 ……あ、えっと、それでさ、その。……おじさん、流……兄ちゃんに、メチャメチャに殴られてたじゃんか。
 それ、結構ヒドいケガなんじゃねえかって……」

言われてみれば確かに体中が痛む。
顔を軽く撫でてみると、酷く腫れていることが感触だけで判った。
本来ならばあの程度の打撃でダメージを受けるはずは無いのだが……。
なるほど、これも『公正を期すための細工』とやらの一つか。
そう聞仲は納得する。

「気にするな。私の身体はそれなりに頑丈だからな。
 この程度ならば行動に大した支障は無い。それよりも、少年」
「う……その少年っていうの、むず痒いからやめてくれねぇかな。うしおでいいよ。えっと……おじさんは……」
「聞仲だ。では――」

思考を切り替える。

「うしお。皆を救いたいのだろう? ならば、私の心配などをしている場合ではあるまい。
 今こうしている間にも、多くの命が消え逝かんとしているのだからな」

――為すべきことを為すために。


*****


ある程度の情報交換の後、キリコの助言に従い病院へ向かいたいと言い出したうしおを制し、聞仲は一旦海に出ることを提案した。
その理由は二つ。
一つは、聞仲達は病院から逃げて来たところであり、今すぐに病院へ向かっても人がいる可能性は低いということ。
そしてもう一つは、聞仲には早めに確認しておきたいことがあるということだ。
確認しておきたいこととは、おそらく誰もが疑問に思っていること。すなわち『この島は一体どういう場所なのか』だ。
聞仲の話では、海へ行けばそれが判るかもしれないのだという。

彼の提案は理に適っており、とらやひょうの居場所の心当たりも無かったため、うしおもその案をすんなりと呑んだ。

そして今、彼らは海へと続く裏路地を歩いていた。
やはり無意識に焦っているのか足早に歩くうしおの後ろを、聞仲は大股で静かに追う。

「それにしても、奇妙な建物だな」

朝の光の下で改めて聞仲は街を見回す。
ここに放り込まれたときは茫然としていて、街の様子などに気を留める余裕は無かった。
しかし今こうして冷静に眺めると、彼にとっては興味深い街並だった。
足元は綺麗に舗装されており、方形を立体的に貼り合わせたような無機質な建築物がいくつも立ち並んでいる。
道の要所には標識が立ち、交差点には規則的に明滅するランプ(うしおは信号機と呼んでいた)が下がっていた。
裏路地に入ると民家と思われる建物が並んでいたが、これにも高い建築技術が使われていることが一目で判る。
聞仲が馴染んだ殷の城下とも、金鰲島とも全く異質な街の風景。

「そっかなァ? あ、でも、とらも初めは聞仲さんみたいなこと言ってたっけ」

だがうしおにとってはごく当たり前の風景であるらしい。
高町らも特段気にした風ではなかったし、おそらくは自分の方が異邦人なのだろう。
そして、

「……とら、か」

話の限りでは、かなりの力を持った、しかも希少な『術』を使える妖怪仙人らしいのだが、聞仲は知らない。
それどころか、かつて大陸を荒らしまわったという白面なる者の名すら彼は耳にしたことがない。
聞いたこともない妖怪といい、見たこともない街並といい、

(ここはやはり遥か未来の国を模した島。そしてこの少年達は遥か未来の民、ということなのか?)

聞仲は視線を地に落として黙考する。
全くナンセンスだと感じるが、そうとでも考えないと今の状況は説明が付かない。
そんなことを考えている内に、潮の匂いが強くなって来た。

「お。聞仲さん、もう少しで海みたいだよ」

前を歩くうしおもそれに気付いたらしい。
しばらく歩いて裏路地を抜けると、港湾地帯特有のだだっ広い湾岸道路が南北に伸びていた。
潮風に曝されて錆び付いた看板が、港への道を指し示している。

「ふむ、そろそろいいか。ここなら広さも十分だろう」

そう言うと聞仲はうしおを呼び止め、おもむろにデイパックからピンク色の物体を取り出した。
振り向いたうしおが怪訝な顔をする。

「へ? 何だよこのクジラのオモチャ…………うわァッ!」

思わず叫ぶ。
玩具は彼の目の前でみるみるうちに巨大化し、本物の鯨と見紛うばかりのサイズになった。

「どうした。行くぞ」
「え? う、うん」

呆気に取られつつも、うしおは何とか頷いた。


*****


港に泊まった漁船に僅かな間影を落とし、ファンシーなデザインの鯨が悠々と空を泳ぐ。
眺める者によっては幼い頃に読んだ童話を思い出す光景だろう。
ただし鯨の正体が凶悪な攻城兵器であることを知らなければの話だが。

「なァ、海に出ちまったぞ?」

その空飛ぶ鯨、花狐貂の上で、うしおが訝しげに言った。
実際、港はもう随分後方に見える。

「少し待て。私の予想が的を射ているかは、きっとすぐに判る」

疑問を浮かべるうしおを制し、聞仲は花狐貂を操ってひたすら西へ進む。
凪の海上。
磨き上げられた鏡を思わせる海が、一面に朝日を浴びて煌いている。
どこまでも続くかに見える澄んだ青空と、それを映す穏やかな海面。
しかし洋上を真っ直ぐに進むと、それらは程なくして終わりを迎えた。

「な……」

うしおが絶句する。
行く手には、大理石の質感を持った、毛ほどの瑕疵も見当たらない壁が海から聳えていた。
絶壁――としか表現のしようがない。
上や横の方を観察すると、壁は内側に緩く湾曲していて、島全体をすっぽり覆っている――ように見える。
はっきりと言い切れないのは、遠くに位置する部分が透けて視認出来ないためだ。

「やはり、か。どうやら――私の考えは間違ってはいなかったようだな」

驚くうしおとは対照的に、聞仲は平然と巨大な壁を眺めている。



放送直後に確認した名簿には、趙公明の名が記されていた。
聞仲の記憶が確かならば、この男は以前確かに封神されたはずだ。
にもかかわらず、彼はこの場にいるという。
ならば他にも封神された者が復活しているのではないか?
そう考えるのは自然なことだろう。

例えば――空間宝貝『十絶陣』の使い手、『十天君』はどうだろうか。

十天君は、何故か生きていた王天君を除いて全滅したはずだった。正確には聞仲自身が全滅するように仕向けたのだが。
だから、今の今まで『その可能性』を真面目に考えていなかったのだ。

だが彼らが存在するならば話は変わる。
つまり、今いるこの空間は彼らの宝貝によって創られた亜空間である可能性が出てくる。

ところで、空間宝貝には共通して一つ大きな弱点がある。
その弱点とは、無限大の体積を持つ空間を創ることは出来ないということだ。
つまり、もしこの場が空間宝貝によって創られたものならば、島の外の空間が何処までも広がっているということは有り得ない。
聞仲はそこに目を付けたのだ。

果たして彼の読み通り、島の外には『果て』があった。



「これ……何だか分かんのか?」

うしおが訊く。
聞仲は答えない。
代わりに短く下がっていろと言うと、前に進み出て手に持った長大な鞭を無造作に振るった。
鞭は風を切り無数の軌道を描いて激しく壁を打つ。
常人を容易に絶命せしめるその一撃は、しかし壁に傷一つ付けることも叶わなかった。

「フン……壁そのものはまやかしではないようだな。そして、カラクリの一端は見えたぞ。
 このような真似が出来る者は私の知る限り――」

金光聖母だけだ。

金光聖母――十天君の紅一点にして、姚天君と並び他の十天君と一線を画す実力者。
彼女の持つ空間宝貝『金光陣』の力で光を操れば、島を囲む壁が存在しないかのように見せかけることも容易だ。
そして、ここが金光陣の中だというのなら、この島の何処かに金光聖母が存在するのが道理。
何とか彼女の居場所を突き止めて倒すことが出来れば――。

「なぁ……聞仲さん、一人で納得してねえでよ……」

黙って隣で成り行きを見守っていたうしおが不満げな声を上げた。
目を遣ると、頬を膨らせた彼が歳相応の表情でこちらを睨んでいる。

「む、すまないな。だが、確認はもう終わった。陸に戻りがてら説明するとしようか」

そう言って、聞仲は花狐貂の進路を反転させた。
そして彼の推論を掻い摘んでうしおに話す。
説明を一通り聞いた後、

「ふうん……そっか。よし。じゃあその金光聖母って人を何とかすれば、みんなを助けられるんだな?」

にかっと白い歯を見せるように笑って、うしおは意気込んだ。
そんな彼の姿勢を好ましく思いながらも、聞仲はそう簡単には行くまいと続ける。

「まずはこの邪魔な首輪を外さねばならん。
 残念だがこれがある限り、我々は『神』の掌の上だ。
 金光聖母を捜すのは首輪を外した後でも良い。
 それに――おそらくは他の協力者もいるはずだ。
 金光聖母の力だけでこの島の全てを維持することは不可能だからな」

推測するに、金光陣を基本とした多重空間――それがこの島の正体だと聞仲は睨む。

実のところ、状況は相変わらず最悪だ。
首輪の外し方も判らない。金光聖母の居場所も判らない。
いや、そもそもこの亜空間は未来における未知の技術によって創られたもので、実は金光聖母は全く関係無いという可能性も皆無ではない。

だがそれでも、当ても無く島を彷徨うよりは遥かにマシだ。
為すべきことは見えた。
あとはそれが成せるかだが――。

「どうした?」

ふと気付くと、うしおが何やら眉を寄せて悩んでいる。

「なあ、もしかしたら、だけどよ」
「何だ?」
「もしかしたら、金光聖母ってヒトも、あいつらに脅されてるんじゃ……」
「あの、放送を行った女のようにか?」
「……うん」
「かもしれんな。そうであるならば好都合だ。
 だがもしそうでないならば――」

――私が殺す。
冷然と言い放ち、聞仲はニセ禁鞭を握り締めた。
そんな彼を見ていたうしおは絞り出すように食い下がる。

「……そいつは、ダメだよ。殺すのァいけねえって。良くねぇよ……」
「だが、金光聖母は甘い相手ではないぞ。少なくとも、手加減をしても勝てるなどとは考えぬ方が良い」

僅かに沈黙が流れる。潮風が二人の間を通り抜けていった。
うしおが、古傷を抉られたような悲痛な表情で実感の籠った言葉を吐く。

「……俺ァ頭悪ィから聞仲さんの話、全部ァ分かんなかったけどよ。
 でもその人は聞仲さんの仲間なんだろ? それなら、ちゃんと話せばきっと分かってくれるよ。
 だってさ……仲間同士で憎み合うなんてよ……悲しすぎるだろォ……」

そう言って、まるで我が事であるかのように哀しみを湛えた瞳で真っ直ぐに訴える。
聞仲にとっては話にならぬほど青臭い、そしてだからこそ今の彼にはとても眩しい正論。
流はこの正論に、そしてこの瞳に耐え切れなかったのだろうと改めて思う。

「フッ……話せば分かる、か」

ほんの少し前の聞仲なら、そんなことはつまらぬ夢想だと一蹴しただろう。
何しろ彼こそ、あらゆる説得を拒絶し、仙人界を絶対的な暴力で蹂躙した張本人なのだから。
それこそ、仲間であったはずの十天君すらも利用して、だ。
そんな自分が今更言葉で物事を解決しようなどとは図々しいにも程がある。

だが――と、彼は省察する。

殷のためと称して心を閉ざし、全ての対話を拒否して邁進したその結果はどうだった?
王天君や妲己、そしてその背後に潜む巨大な存在を喜ばせただけに終わったのではなかったか?
結局、護りたかったものは全て掌から零れ落ちてしまったのではなかったか?

過去をやり直すことは出来ない。後悔しても現実は覆らない。

だが。
だが、それでも。

例えば、十天君を力ずくで従わせようとせず、粘り強く説得していれば、完全な孤立は避けられたのかもしれない。
例えば、太公望や普賢真人の言に耳を傾けていれば、最悪の結果は免れたのかもしれない。
少なくとも――飛虎だけは失わずに済んだのかもしれない。
そう思うと、どうしても悔やまずにはいられないのだ。

だから――結果がどうであれ、この場で再び同じ過ちを繰り返したくはない。

短い記憶の旅から戻り、聞仲もまたうしおを真っ直ぐに見据えて応える。

「そう、だな。少し短絡的だった。一国の太師が力任せではいかんな。
 出来る限り説得してみるとしよう」

うしおの表情がぱっと晴れる。

「よし。約束だぜ、聞仲さん」

そう念を押して、うしおは花狐貂の進行方向を向いた。

いつの間にか、港はすぐそこにまで迫っていた。



【C-1/港/1日目 朝】

蒼月潮@うしおととら】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:上半身裸
[装備]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[道具]:支給品一式×2 不明支給品×1
[思考]
基本: 誰も殺さず、殺させずに殺し合いをぶち壊し、主催を倒して麻子の仇を討つ。
1:病院に向かい、ブラックジャックと会う。
2:病院にブラックジャックがいなかったら一旦神社に戻る。
3:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:とらやひょうと合流したい。
7:金光聖母を探す。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後~32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
 とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※ブラックジャックの簡単な情報を得ました。
※悲しみを怒りで抑え込んでいる傾向があります。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。
※聞仲と情報交換しました。

【聞仲@封神演義】
[状態]:疲労(中)、右肋骨2本骨折、全身に打撲痕
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:うしおを手助けしていく
1:流を自分が倒す。
2:エドの術に興味。
3:首輪を外す手掛かりを探す。
4:金光聖母を探して可能ならば説得する。
5:何をしたいか目標はないが、何かを成せるようになりたい。
6:流に強い共感。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※うしおと情報交換しました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。


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