アットウィキロゴ
新漫画バトルロワイアル
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

リヴィオと偽名のテラー

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

リヴィオと偽名のテラー ◆JvezCBil8U



「……名探偵って、一つの寓話ですよねー」
「い、いきなりなんだい。遠廻しに俺が探偵として足りないものが多いって言ってるように感じるんだけど」
「まあ確かにあんたは真っ当な探偵とは言いがたいわね。
つくづく因果な商売だワサ」
「あのなあ……」
「そ、そんな事ないですって! それよりも新しい依頼が来てますよ!」
ほら、見てください。この依頼なんですけど――」
「気が乗らないな……、たまには普通の依頼を受けたいんだけどな」
「……寓話の臭いがプンプンするワサ。どっちみち受けるしかないでしょうよ、あんたの性格ならね」
「やれやれ……。仕方ないか」


かくて非日常と隣り合わせの日常は廻り行く。
凄惨な殺し合いとは全く無縁の、どこかのお話。


だが、彼らの語らう寓話は、確かにここにある。


行く先々で事件に出くわし、警察の捜査すらも先んじて犯人を突き止め、推理を披露して罪人を暴きだす。
浮気調査などもなく、人探しもせず、ただただ現実ではまず在り得ないトリックを見せびらかす為だけの舞台装置。


そんな、名探偵という名の寓話。


そしてもう一つ。
世界のどこかで行なわれる、バトルロワイアルという名の寓話。
二つの寓話は、確かに今ここで交じり合う。


***************


「――さて、どうしたものかな」



……考える事は多々あるけれど、まず状況を整理しよう。
世界的な名探偵を目指す秋瀬或として為すべきは、正しい現状把握だ。


これまでの経歴や住所氏名、人間関係等の記憶に欠落や違和感は覚えない。
記憶が改竄され、そのことすら認識できないような暗示や洗脳でもされていない限りは僕が秋瀬或であるという事は揺ぎ無いだろう。


確たる過去を持ち合わせる以上、必要なのは何故此処にいるか、だ。


先程の現実とは思えない出来事には流石に面食らった。
もし何の前知識もなければ僕とてここまで平常心でいられたかは怪しいけれど、幸い僕の交友関係がそれを防いでくれている。


先程のムルムルと名乗った少女と会話した少年こそが、その僕の友人であるからだ。
天野雪輝――未来日記所有者1stの対応から確信できる。
あの少女達こそは非現実的な存在なのだと。


雪輝君達、十二人の未来予知能力者による『神』を決める殺し合い。
未来予知という非常識が在り得るならば、その他の非常識が存在してもおかしくはないと僕は考える。
極論ではあるが、現実に今僕がここにいる以上疑う価値は皆無だ。
因果律すらも操るという存在、デウス・ウクス・マキナ。
その配下ムルムル。
彼らの意思が、非所有者とはいえ“未来日記”に関わりすぎた僕を殺し合いに巻き込んでも不思議ではない。
いずれにせよ、明確な事は1つ。


『僕は、“神”を名乗るものによって開催された殺し合いに参加させられている』


……キーワードは神、か。
僕の知る神を名乗る存在は、雪輝君経由でデウス・ウクス・マキナを知るのみ。
そして、少なくとも彼は因果を操作し、未来を誰かに知らしめる力を持っている。
陳腐な言葉で言えば、運命を操る。


つい先刻、ムルムルに首輪を爆破され死亡した少年が言っていた台詞。
『俺は何があっても歩以外には殺されへん。そう運命付けられとるんや』
これが妄言かどうなのかは知る由はないけれど、もし本当ならば“神”の陣営にはデウスと同様の力を持っている存在がいる、と考える事もできる。それがデウス本人の可能性は低くない。


――それにしては、彼女の言う『新たな神による新たなゲーム』という言葉が解せないけれど。
デウスはもういない、とムルムルは言った。
それが本当かどうか、どんな意味を持つかは現状では情報が少なすぎる為、保留しよう。


ここにいる理由は明確にした。過程や手段は問わない。問う必要はない。
どうにもならないことを考えても意味はないからね。
今は、自分がこれからどう動くかを決める時だ。


僕が現状に対して知っている情報を纏める。


•“神”のゲームの運営者には少なくともムルムル、シンコウヒョウという名の二人が存在する。
 この内、言動からムルムルは“神”そのものでない可能性が高い。
 シンコウヒョウという男に関しては不明。
•このゲームには天野雪輝君が参加している。その他日記所有者の参加は不明。
•参加者の内、アサコ、ヒズミという名前の少女と少年は死亡している。
•ヒズミ、という少年は少なくともアユムという名の人間の関係者である。
 現時点では、アユムが参加者であるかどうかは不明。
•最後の一人になるまで殺し合いが続行される。
•6時間ごとに誰が死亡したかが放送される。進入禁止エリアにも言及される。
•首輪が爆発する条件は、現状判明しているもので3つ。
 進入禁止エリアに進入、運営者の任意、24時間以内に死亡者が存在しない時。
•最初の放送終了後、参加者の名簿が確認できるようになる。



「……成程」


24時間の時間制限を設け、進入禁止エリアで次第に会場を狭め、遭遇率を上昇させる。
あらためて殺し合いを推奨しているのが理解できた。
そしてまた、24時間の時間制限からは一つの思惑が読み取れる。


――運営者達にとってこのゲームは、参加者が全滅したとしても取り返しのつくものである。


「参ったね」


そして取り返しがつくという事は、僕たちの命に何ら価値を見ていないということだ。
首輪の爆破が彼らの任意な以上僕たちの命は彼らの指先一つであり、迂闊な反逆や言動は即座に死に繋がると見ていい。
ゲームであるからには駒である僕たちの動きは何らかの手段で監視されているだろうことは予想がつくのだから。


……もっとも、運営者達の目的次第――例えば、娯楽――では、反逆行為であっても見逃される可能性はあるが、それは置いておこう。
目的が分からない以上肝心なのは、彼らが僕たちをいつでも殺せるという事実なのだ。
こうした状況を念頭に置いて、僕は如何に行動すべきか。
それを考えるに当たって一つ、僕にはアドバンテージが存在する。


「……雪輝君、か」


僕に協力してくれる可能性の高い人物が、少なくとも一人はいる。
特に6時間後の名簿確認までは有利な条件だろう。
彼の性格からして、僕を問答無用に襲ってくる可能性は低い。
たとえ殺し合いに乗っていたとしても、だ。


さしあたっては彼との合流を第一に考えて動くべきだろう。
あるいは彼でなくても、誰か信頼できる同行者が欲しい。
生き残れるのが一人であるとしても、多人数で動くのは内部崩壊のリスクを考えても十分にメリットが存在する。
戦闘能力に関しては決して高くはない僕にとっては無難な選択肢と言える。
……集団行動の問題点となるだろう終盤にどう動くべきかが問題になるけれど。


普通に考えれば、因果を操る“神”に反逆するのは無駄死にだ。
特に、この首輪に命を握られている状態では。


……だが、僕は知っている。
未来は、因果は変えることができるのだ。


予知能力を持つ日記所有者達にも綻びは存在する。
ならば、“神”であっても無欠の存在だと断定するには早計だ。
そもそもが、雪輝君たちは神を目指している存在。
人が神になれるならば、何処かに付け入る場所はあるかもしれない。


何にせよ、今は情報が足りない。
だが、殺し合いに乗るかどうかと聞かれたら、少なくとも現段階ではNOだ。
そして最終的にどう動くにせよ、今は生き延びることを最優先しなければいけないだろう。
その為にも信頼できる協力者を見つけるに越した事はない。



具体的なプランを作りあげていく。


生存を優先するならば篭城するのが効率がいい。
地形を把握し、罠などを仕掛けられればそれだけ有利に事を進められる。


ありがたい事に、僕の今いるこの場所はその意味では恵まれている方だろう。
生活感のないリノリウムの床に消毒液の臭い。
当たり前だが、病院だ。
地図に載っている関係上、ランドマークとしては申し分ない。
また、各種医薬品も揃っており、一見篭城には最適なように見える。


「一見、ね」


……目立つという事は人も集まるということだ。
特に病院は怪我人がいれば最優先で運び込みたい場所だ。
つまりゲームに乗った人間にとっては、怪我人を襲うのにもってこいの場所でしかない。


「ここは危険すぎる」


痛み止めや抗生物質、麻酔や手術道具、包帯。
そうした役立ちそうなものをいくつか持ち出すに止め、ここからは早急に離脱する。
元々、人探しをするのだから篭城するつもりはそれほどない。
進入禁止エリアに指定されてしまえば、せっかく罠などを作っても無意味になる可能性もある。


とはいえ、ランドマークとしての有用性を考えるとこの場をそのまま捨て置くのも勿体ない。
雪輝君にだけ分かるメッセージを残しておけば、何らかの役に立つかもしれない。


メモを開き、必要事項を書いた後に病院のロビーの掲示板に貼り付ける。



『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』



「このメッセージが分かるのは、雪輝君……あるいは、日記の関係者だけだろうね」


未来日記所有者4th、来須圭悟。
だが彼は既に死亡している。よって、彼の所に向かうというのは在り得ない筈の事だ。
そして、彼の職業は『警察官』。
つまりこの4thの示すのは彼本人ではなく――、


『警察署』


会場の西に位置するこの場所は、今僕のいる病院とも比較的近い。
病院に入用が出来た時でも慌てる事無く行き来できるだろう。


……日記所有者の内、僕と面識があるのは雪輝君、我妻さん、雨流みねね
10th関係者の日野日向やその友人達、西島刑事なども未来日記の存在は知っている。
これらのうち、誰が参加させられているのかは6時間後まで分からない。
雪輝君だけかもしれないし、あるいは全員かもしれない。誰も参加していない可能性もある。
雪輝君以外は様々な意味で警戒すべきだが、しかし全く情報のない相手よりは交渉しやすいはず。


彼らとの交流も考えて、僕はこの警察署を拠点に会場北西部に分布する市街地を調べるつもりだ。
目ぼしい場所に同様のメモを残しておけば合流確率は少しでも上がるだろう。
今は深夜である事を考えると、郊外よりも街灯があるために比較的視界の良好な市街地が動きやすいのも理由にある。


軽く深呼吸。
白い蛍光灯の明かりに背を向け、硝子の両開き戸に手をかける。


「……さて、」


……今度はコイントスなどではない。
右か左か、それだけを決める単純なゲームではない。


だが、ゲームはゲームなのだ。


「ゲームを始めようか!」


僕は僕の命をチップに、“神”と渡り合う。


「勝てるか勝てないかは、僕が決める」


***************


――あの人のようになりたい。
……いや、違う。


あの人のようになろう。
そう決めた。


たとえ始まりがヤケクソで、外道の産物でしかない技と体だとしても。
血ヘドを吐いて、友であり兄弟であるあいつと共に練り上げてきた力は、きっと裏切ることはない。


この力で僕は何かを守りたい。
ああ、そうだとも。
あの人の所まで、僕は駆け上ろう。


***************


風が、吹いていた。
いつも耳の奥で聞こえる、風の――音。


風が吹くのは、何でだろうなあ……。


まあ、分かりきったことだわな。
何でもできるからだ。
オレは何でも簡単にできる。周りの連中が努力して超える壁を、あっさりと。
だから本気を出しちゃあいけねぇ。
何もかも、何もかもがカンタンすぎて面白みもねぇ。


ああ……、ったく。
そんなつまんねー奴を信頼しきってよぉ、間抜けにも程があらァなあ。
見物だったよなァ、俺が裏切ったと知った時の顔はよォ。


……なあ、あんたらよぉ。オレをここに招いたフザけた野郎ども。
オレに何を望む?
……あの甘ちゃんのガキまで呼び寄せて、何をさせようってんだ?


……なんてな。
オレは何でもできるからな、分かっちまうのさ。
どう足掻いてもそれしかできないし、オレ自身がそうしたがってるってのはな。


悪人だよなァ、裏切り者だよなァ。
こんな外道が楽しくてしょうがねえ最ッ低の野郎だよなァ!
ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!



ああくそ。
風が、冷てぇなあ……。



風が……。


***************


「……って訳でな、オレは蒼月潮ってヤツを探してるんだ」



夜の風が吹き抜ける街の中、少年を背に置いて俺は一人の男と向かい合っている。
見覚えのない建造物が立ち並び、滅多に見ることのない木々さえもがこの場所には幾つも立ち並ぶ。
電灯は煌々と闇を霞ませ、空の星を薄くする。


――この場所は潤いに満ちている。
それは湿度に関してだけでなく、物資という面に関してもだ。
身も蓋もないことを言えば、ここには砂漠の臭いがしない。
あの灼熱の大地を全く感じない。


他の惑星、というありえないはずの言葉が頭をよぎる。
砂の星を抜け出る事など、それこそ夢物語だったはずだから。


……もしここが砂漠に墜ちたシップの何処かであるとするならば、これ程の設備を整えるにはどれ程のプラントを稼動させればならないのか、俺には分からない。
だが、一つ明確なことがある。
この様な同属の無駄遣いを、あの男は決して許さないだろう。
ミリオンズ・ナイヴズがここにいるかどうかは知らないが、もし居たのならば――、


そこまで考え、頭を振る。
数え切れないほどのプラントと融合し、地球からの救いの船を今まさに撃ち落さんとする怪物は少なくとも今空に見えないんだ。
俺達の故郷を巡る攻防戦はきっと今もまだ続いているはずだ。
だからこそ、俺ははやく戻らなくちゃいけない。
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルがあの人の戦友――ヴァッシュ・ザ・スタンピードに辿り着く事を抑え、そして倒すのが俺の役目なんだから。


……けど、この理不尽な殺し合いも捨て置く訳にはいかない。
こんな少年までも巻き込まれている以上、俺のやる事は一つだ。
被った帽子に手を沿え、深く吐息する。


ジャスミン、そして君と共にいる子供たち。
あの教会の仲間たち。


……謝らせてほしい。少し、遅れる。
だけど、必ず僕は君達を守るために帰るから。


呟きを飲み込みんだ時、傍らにいる少年が声をかけてくる。


「リヴィオさん。何かに思いを馳せるのは結構ですけど、今は目の前の事に集中しましょう」
「……王子」


……やれやれ。
ミカエルの眼のダブルファングが子供にたしなめられてちゃ世話ないな。
そんな自分に苦笑する。


何はともあれ、これからどうするか、だ。



話は少し、遡る。



突然こんな場所に連れて来られた俺が最初にとった行動は、とりあえず誰かを探す事だった。
腐っても俺はGUNG-HO-GUNSの一員だ、臨戦態勢も忘れない。
荷物を確認し、いつもの得物を取り出そうとしたのだが――、そこでつまずいた。
あのおかしな連中が言っていた通り武器になるものは入っていたが、手に馴染んだダブルファングは入っていない。
――仕方無しにスーツケースをぶら下げ、街をひた走る。


そして一番最初にこの場所――病院の前で出会った少年が、高坂王子だった。
俺を見ても襲い掛かりも逃げもする様子のなかったことからとりあえず話しかけてみれば、こんな異常事態にも関わらず極めて冷静に状況を分析し、現状を打開しようとしている。
肝が据わってるぜ、全く。


この少年と軽く情報交換し、それぞれの知人がこの殺し合いに参加しているのか、そういった人物と出会わなかったかを話し合った。
……どちらもここに来て最初の出会いだった為結果は無しの礫だったが、ムルムルという少女に食って掛かっていた少年が王子の知り合いであり、天野雪輝という名前である事は分かった。
名簿が読めるようになるまでは、確実に参加している彼を探し、保護するのが最もいいように思える。


そして情報交換を終えた俺は、あの孤児院の皆とそう年の変わらないこの少年を放っておく気にはなれなかった。
だから俺は王子に、同行しないかと誘おうとしていたのだが――、


「よっ」


それを遮る声があった。


「しばらく観察させてもらったが、安全そうだから出てきたぜ。
 オレは杜綱悟ってんだ、よろしくな」


そう言いながら気安い笑みを浮かべ、暗がりから歩み出て来た影の主。
屈強そうな体ながら顔付きは穏やかだった。不自然なくらいに。




――そして、今に至るって訳だ。


「……うしおのヤツは最初に殺された麻子って子と幼馴染でな……、さっさと探してやらなきゃななんねぇんだ。
 いつまでもクヨクヨしてはいねえだろうけど、立ち直るまでがヤベぇからな」
「成程な……」


言い終わり、息を吐く杜綱。
……あの少女が死んだ時の絶叫が、潮という少年の声だったらしい。


他にも、『とら』という潮のパートナーについても、これまで辿ってきた経緯を含め、熱を込めて杜綱は話す。
『白面の者』との戦いの歴史を。
……俄かには信じがたい話ばかりだが、あの魔人どもの狂気に触れ続けたせいか、俺はそんな事があってもおかしくはないと思ってしまう。


「……で、だ。やっぱり心当たりはないんだな?」
「……ああ。生憎ながら俺もこの王子も、俺達同士が初めての出会いでね。
 これから出会ったら助けることを約束するくらいしかできないんだが……」


そこまで口にしたところで、杜綱がニィッと笑い、こちらの言葉を遮ってくる。


「ま、しゃーないわな。こっちも無理言ってるのは分かってんだ。
 じゃあな、お前たちも気をつけろよ」


それだけを告げ、杜綱は背を向けた。
ゆっくりと闇へ向かって歩き始める。


「……え?」


ひらひらと手を振り、少しずつ遠ざかる杜綱。


「お、おい。一緒に行動しないのか? 少なくとも一人よりは安全だ」


背中にかけた声に振り返ることもなく、杜綱は気楽な声を返す。
自分の実力に自信のある者しか出せない声色だ。


「お前らもうしおを探してくれんだろ? だったらカタマって動くよりもバラバラの方が効率がいいだろ。
 ま、アレだ。安心しろ」


歩みを止めず、言葉を区切る。


「逃げるさ、ヤバくなったらな」


それだけを告げて、来たときと同じ様に杜綱は暗がりの中へ溶けていき――、



「ストップ。そこで止まってもらいましょうか」



――俺の背後から飛んできた声に、縫い止められた。


「王子……?」


どうした、と問おうと顔を向けたが、王子は横目でこちらを一瞥しただけで数十メートル先の杜綱から視線を逸らさない。
不敵な笑みを湛えながら、子供と思えないあまりにも堂々とした存在感で場を支配する。
杜綱は動かない。
影の中に立ったまま、ぴくりとも。


「杜綱さん。貴方の行動は不自然な点だらけだ。
 まず第一に――、」 


その背に向かい、王子はランタンでなく、言葉で闇を照らし出し始めた。


「貴方は僕達と出会った――、いえ、姿を現したとき。
 僕達を観察して、安全だと判断したから出てきたと言いましたね。
 ……いや、それそのものは不自然ではありません。
 ですが、その後の貴方はなぜ『わざわざ僕達に潮君の情報を訪ねた』のですか?
 ――僕達の会話を少しでも聞いていたのなら、僕達がこれまで誰とも出会わなかった事などすぐ分かるのに。
 どちらか一方が嘘を吐いていれば別ですけどね」


無言。
――沈黙が場を支配した。


「簡単です。僕達に接触する以上、何か口実が欲しかったからです。
 互いの人間関係を教えるのはコミュニケーションの第一歩ですから。
 ですが、貴方は『僕たちが潮君の事など知らないことを分かっていながら、敢えて話しかけることをした』。
 この視点から語れば、奇妙な点が幾つも出てきます。
 ……例えば、僕はつい今、ヤバかったら逃げるという貴方の言質を取りました。
 これはおそらく本当でしょう。
 接触の前に僕達を観察するくらい慎重なら、引き際は弁えているのも当然ですからね。
 ……そう、貴方は慎重な人間だ。とてもね」


淡々と、只の事実確認として王子は文を紡いでいく。
そこに追及するような意気はなく、穏やかさと不敵さを同居させながらブレる事はない。


「――だから、おかしいんです。
 ……何故あなたは、わざわざこんなリスクを侵したんですか?
 僕たちの前に姿を現す、なんてリスクを。
 情報がないのが分かりきっているのに」
「……人探しと言っていただろ、王子。
 確かに誰かを探すなら、人手が多い方がいいしな」


不穏に満ちきった空気を理解しながら、しかし俺の口はそれを否定しようとする。
……確かに、杜綱を信用していたわけではないし、実際に警戒もしていた。
だが、協力くらいはできないかと思っていたんだが、な。


「集合場所や連絡方法も決めずに、ですか?
 それはあり得ないでしょう。杜綱さん、貴方の慎重な性格なら、ね。
 ……そそくさと立ち去りすぎなんですよ。
 まるで僕達に潮君の事を話すためだけに現れたみたいです。
 そして、この推測はおそらく間違っていない。
 貴方は潮君の事を話す為だけに僕達の目の前に姿を見せたんです。
 勿論彼を探す為などではない。
 ……潮君という善良な少年の人となりを話し、その近くにいる自分もまた信頼に値すると思わせる為に、ね」


……希望的観測は希望的観測に過ぎない、ってか。
やれやれ、だ。
俺もあの人の戦友に大分染められてきていたのかもしれない。
できる限り人を疑いたくはない、そんな事を思うなんてな。


「……貴方の口から出た潮君に関する情報は、殆ど全てが彼との思い出です。
 いかに彼が素晴らしい人間かを説き、どれだけ心配しているかを感情を込めて語る。
 おそらく、全部本当の事ですよね? まるでコンプレックスを抱えているみたいでしたが……。
 ああ、返答は要りません。真偽は正直どうでもいいんですよね。
 肝心なのは、慎重な貴方が何故そんな事を語るのかということです。
 ……そんな物は人探しには何ら役にも立たないというのにね。
 むしろ潮君の人となりを話すことで、彼の弱みに付け込む可能性すら与えてしまうというのに。 
 そして、実の所彼の外見的特徴はあまり教えていただいていない。
 ……僕達が彼を探すかどうかなど、どうでもいいのでしょう?
 あるいは、僕達に探して欲しくもあり、しかしその逆でもあるか……。
 話が逸れましたか」


……呼気と吸気を整える。
たとえ杜綱がどんな対応を取ろうと、動きをついていかせる為に。


「結論を言いましょう。
 貴方は僕達を信頼させ、油断を誘う為にここにいる」


歩いて数十歩先に背を見せる杜綱が、ぴくりと全身を僅かに震わせた。


「後々の為の布石か、それとも今ここで僕たちが後ろを見せた瞬間に背中を撃つか。
 いずれにせよ、貴方は僕達を始末するつもりでしょう。
 ……それを許せるほど、僕は悠長ではないのでね」


「証拠は?」


王子が話し始めてから初めて、杜綱が言葉を口にした。
声色に感情はなく、背を向けたままの為に表情も読めない。


「証拠はあるのかよ?」


「そう、ですね……」


王子が口の端を僅かに上げて、ふ、一息を吐き出す。


「貴方が偽杜綱さんだから、でしょうか?」


同時。



「え?」



目の前に蛇の体がある。
風を斬りながら、風すら砕きながら、幾百の像を残してブレる。
俺の体を打ち据えた。
ごき、ぼりゅ、ぐちゅ、と肉と骨がひしゃげる音がした。


「が……!」



杜綱は、動いていない。
数十メートルも先にいながら、銃を向けてもいない。
こちらを向いてすらいない。


けれど、たったの一撃で俺を地面に這い蹲らせた。
動きへの備えなど全く無意味に、俺は捻じ伏せられていた。


そのままうねる蛇は止まらない。
俺を先に潰したのは、見たままに俺が戦闘に長けているから。
次に打ち据える対象は只一つ。


――しまった、とでも言いたげな顔で、あまりにも無力に立ち尽くす少年がいる。


「――王子!」



……体が軋む。
内臓がかき回されるような気持ち悪さと、コンクリート塊に上から潰されたような重さによる痛みが混ざり合う。
意識が切り刻まれ、理性が判断を歪ませる。


だが、それがどうした。


――俺は、決めたんだ。
あの人のように生きると。
……ニコ兄。
泣き虫リヴィオにだって、きっとやれるよな。


なあ、ラズロ。
お前に押し付けなくたって、俺はやっていけるさ。


どんな生き方だってできるって、それを二人に見せてやる。



「お、あああぁぁあぁああああぁぁああぁぁあああぁぁあぁあぁぁ……っ!」


意識や理性を超えたところにある闘争本能任せに、肉体を行使する。
そう、この肉体はミカエルの眼の極地。到達点。
いかなる傷も再生させ、いかなる攻撃も覚え凌ぐ。
そして、いかなる敵も粉砕する。


手に握るのは一見長いスーツケース。
だが、これはそんなものではない。
これこそ怨敵の使う悪魔の武装。
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの杭打機に他ならない。


何故、こんなものが俺の元にあったのかは分からない。
俺の体を穿った武器を使う事に躊躇いもある。
……だけど。


頭上の感触を確かめる。大丈夫、ここに一撃も食らってはいない。
預かった大切な帽子の感触は確かにある。


――ここに来る直前、これを渡してくれた少年と、目の前の少年が重なった。


縦横無尽に跳ね回る蛇の姿を、初めて捉える。
……異常な長さの鞭が、まるで生きているかのように跳ね回っていた。
少年に迫る鞭を見据え、杭打つ先を狙い済ます。


守ろう。守りたい物を護っていこう。


撃った。
踊る鞭の先に杭が重なり、双方が弾き飛ばされる。


***************


「逃げたか……」



――危なかった。もし偽杜綱がこれ以上交戦をするつもりだったら、僕が命を落としていた可能性もある。
あんな事を彼に言っておいてなんだけど、僕も少し慎重さを欠いていたかもしれない。


だが、あそこまで彼が攻撃的だとは想定外だった。
いや、攻撃的――というより、情緒不安定の印象を受ける。
それならばそれで説得次第で彼をこちらに引き込めるかもしれないと思ったのだけど、目論見が甘かったようだ。
……僕は、彼を慎重で理性的な人間と評した。
ならば、協力関係のメリットとデメリットを推し量り、互いに支障のない範囲で共闘を検討するくらいはすると考えたのだ。
現実にはそこまで話を持っていくことすらできなかったのだけれど、彼は基本的に理性的な人間なのは間違いない。
が、何らかの原因で狂気に取り憑かれているようだ。慎重さと行動のちぐはぐさはそれの表れだろう。
そこが人間の厄介な点であり、また魅力でもある。


……いや、それは今は関係ない。
彼のおかげで永らえたのだから、それに謝意を示さなければならない。


「リヴィオさん、大丈夫ですか?」
「……ああ、心配するな。もう動ける」
「……え?」


返答は予想外だった。
――何故、あんな攻撃を受けてもう動ける?


「俺の体は特別でね、再生速度が普通の人間とは比べ物にならないの、さ……。ぐ……」


成程、確かに傷の治りが早いみたいだ。
――非常識ばかりで驚かされるが、こんな状況でいちいち見入っていても仕方がない。
順応しないといけないな。
それに、


「完治している訳じゃないでしょう、無理はしない方がいいと思いますよ」
「……すまない。いつもより遥かに体の治りが遅いんだ、っ……」


『ただし少しでも公正さをきす為に細工をさせてもらっておる。
身体の動きが鈍いと感じているものはおらんか? 力が使えないと思っているものは?』


――そういう事か。


「何はともあれ、早めにここを離れよう。じっとしてる訳にもいかないだろ?」
「確かに、その通りですね」


今は早急にここを離れなければいけないだろう。
……杜綱と名乗っていた男が戻ってきたら、まず良い結果にはなるまい。
何故あの男が撤退したのか、その理由も分からない以上非常に不気味だ。
あの武器ならば僕達を殺すことなど造作もなかったろうに。
考えられるのは……


「使用に際して、何らかのリスクを追っている……?」
「ん? 何のことだ?」
「いえ……」


言葉を濁す。不確かなことを言っても仕方ない。
……だが、どうやらリヴィオさんには何を考えているのか通じたようだ。


「……そうだな、考えても仕方ないさ。
 おまえはむしろ考えすぎだぜ」
「これでも僕には世界的な探偵になるって夢があるんですよ」


苦笑交じりに答えれば、彼は人好きのする笑みを見せてゆっくり立ち上がった。


「王子……、お前って輝いてるぜ」
「それは本物の高坂君に言ってあげるべきですね、喜びますよきっと」


苦笑が続く。
ほんの少し呆けたリヴィオさんを再度、じっくりと見る。
……彼ならば信用に足るだろう。


「――偽名ですよ。偽杜綱さんと同じでね。
 生憎ながら、僕は出会ってすぐの人を信用できる性格ではないんです」
「偽名ね……。そう言えば、杜綱に対してさっき……」
「開始して6時間は、名簿を読めない。
 要するに、6時間は参加者が偽名を名乗っても参加者にその人物がいるか確認する術がないんですよ。
 ……慎重な彼の事ですからね、それに気付かないはずはないと思ってカマをかけたんです」
「……まあ、こんな殺し合いにいきなり連れて来られたら無理もないが……」


頷きつつ、しかし腑に落ちないように彼は僅かに口をもごもごと動かしている。


「それにしては……、いや……」
「――貴方を騙したことは謝罪します。
 ですが、僕は先ほどの貴方の行動で貴方が信用できる人間だと判断しました。
 あらためて自己紹介ですね」


……雪輝君以外の、僕の協力者。
戦闘にも長けるとなれば礼を尽くしておくに越した事はない。
心底丁寧に一語一句を発していく。


「――秋瀬或。探偵です」


考える事は山ほどある。
『神』についての事だけでなく、この会場や、参加者の人選。
あるいは殺し合いの意義や、もっと身近なところでは何故この明らかに外国人であるリヴィオと話ができるか、など。


だが、今すべきはそうではない。
彼と手を取り、探偵として、僕はこの殺し合いの謎に挑んでいこう。
その為に僕は手を差し出した。


「僕と共に、“神”とのゲームに臨んでいただけますか?」


手が取られ、互いにしっかりと握り合う。


「ああ、こちらこそ、だ。或」



【C-02南部/市街地/1日目 深夜】


【秋瀬或@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、各種医療品、不明支給品×2
[思考]
基本:生存を優先。『神』について情報収集及び思索。(脱出か優勝狙いかは情報次第)
 1:雪輝の捜索及び合流。また、雪輝以外の日記所有者と接触。合流するかどうかは状況次第。
 2:探偵として、この殺し合いについて考える。
 3:リヴィオに同行しつつ、放送ごとに警察署へ向かう。
 4:偽杜綱を警戒。
 5:アユム、蒼月潮、とら、リヴィオの知人といった名前を聞いた面々に留意。
[備考]
 ※参戦時期は原作7巻終了時以降のどこかです。
 ※病院のロビーの掲示板に、『――放送の度、僕は4thの所へ向かう。秋瀬 或』というメモが張られています。
 ※リヴィオの関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。



リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]:左肋骨三本骨折(治癒中・完治まで約4時間)
[装備]:エレンディラの杭打機(29/30)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:ウルフウッドの様に、誰かを護る。生き延びてナイヴズによるノーマンズランド滅亡を防ぐ。
 1:或と共に、知人の捜索及び合流。
 2:誰かを守る。
 3:偽杜綱を警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作11巻終了時直後です。
 ※現状ではヴァッシュやウルフウッド等の知人を認知していません。
 ※或の関係者、蒼月潮の関係者についての情報をある程度知りました。


【エレンディラの杭打機@トライガン・マキシマム】
エレンディラ・ザ・クリムゾンネイルの使うスーツケース型の杭打機。
今回用意された杭の数は30本。

***************

「……くそ」


――ちくしょう、ドジったな。
まさかこんな鞭が、予想以上にオレの力を持っていきやがるたぁな。
たった一発でこんなに食うとは燃費悪ィにも程があらぁ……。


まあ、試し撃ちと思えばこんなもんだよなァ。
オレになら使いこなせるさ、そういうもんだからな。


……くそったれ。
あの帽子のヤツ、リヴィオっつったか。
まるで……、まるで、あいつのような顔しやがって……。


全く、何やってんだかなァ。
さっさとあいつらを殺してくればよかったのに、オレはよぉ……。
何でわざわざあいつらの前に出て行ったんだ?


…………。
ああ、そうか。
オレは裏切り者だからなァ、どこのどいつだろうと裏切るって事をうしおに見せ付けてやるのさ。
顔見知りになっておいて、後で思いっきり裏切ってやるつもりだったのによ。


いいさ。とりあえずは、ふんぞり返った連中を喜ばせてやらぁ……。
オレぁ、最低の裏切り者なんだからよ……。



――ああ。
風が、強くなってきやがった。



【D-03西部/森/1日目 深夜】


秋葉流@うしおととら】
[状態]:疲労(小)、法力消費(小)
[装備]:禁鞭@封神演義
[道具]:支給品一式、不明支給品×1
[思考]
基本:満足する戦いが出来るまで、殺し続ける。潮に自分の汚い姿を見せ付ける。
 1:うしお及びとらの捜索。
 2:他人を裏切りながら厄介そうな相手の排除。手間取ったならすぐに逃走。
 3:6時間後までは杜綱悟を名乗る。
 4:高坂王子、リヴィオを警戒。
[備考]
 ※参戦時期は原作で白面の者の配下になった後、死亡以前のどこかです。
 ※蒼月潮の絶叫を確認しています。その他の知人については認知していません。
 ※或の名前を高坂王子だと思っています。
 ※或の関係者、リヴィオの関係者についての情報をある程度知りました。


【禁鞭@封神演義】
離れた敵を打ち据える事に特化した、聞仲の持つシンプルながら強力なスーパー宝貝。
本来ならば数km先の敵も打ち砕く代物だが、制限の為射程がおよそ100m程度になり、威力も低下している。
その分使用者への負担も減少している。


時系列順で読む



投下順で読む



GAME START 秋瀬或 068:指し手二人
GAME START 秋葉流 058:それは信頼か…それとも信用か…
GAME START リヴィオ・ザ・ダブルファング 068:指し手二人




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー