残り風 ◆ARe2lZhvho


殺し合い。
この場所で行われていることを一言で説明する単語を聞いたとき、私がまず思い浮かべたのは昔地元の図書館で読んだ本のことだ。
当時小学生だったにもかかわらずその本を読んでしまった理由は今となってはわからない。
その年齢に見合った本は粗方読破してしまっていて、たまには違う趣向のものを求めていたとか、大方そんな理由だろう。
小学生が見るような内容ではなかったのかもしれないが、『人が死ぬ』という点に限って言えば、ミステリーではいつものことだったしなんとも思わなかった、と思う。
司書さんに見つかったときにはもう読み終わった後で、「翼ちゃんが読むようなものじゃないんだけどね」と苦笑いしていたっけ。
掻い摘んで話すだけで友達を失っていった私の家庭事情も司書さんには話していなかったし、『そういうもの』に影響されるような子供ではないと思っていたのだろう。
思っていたのだろう。

人が人を殺さない保証などどこにもないというのに。





いーさんの運転する車に乗って辿り着いたランドセルランドという名の遊園地。
イルミネーションが煌々と輝く中私たち以外に人がいないというのはその静寂さもあいまってかなりの不気味さを醸し出している。
どうやら先程まで一緒にいた零崎さんや他にも待ち合わせている人がいるらしいが、こんなとこで待たずとも入り口にいればいいのに、と思わなくもない。
だが、わざわざ搬入車両用の出入口を探して入った理由を目撃してしまっては「場所を変えよう」なんて言うのは憚られる。
入場ゲートを越えた先に見えたのは赤黒い広がりと淵に転がっていた、何か──なんてぼかす必要もない、死体だ。
座っていた場所や身長の関係からか、真宵ちゃんがそれを目撃していなかったのがせめてもの救いだけれど。
いくら幽霊だからといって、死体に対して悪印象を抱かないかどうかは別の話だ。

「あの、羽川さん」
「どうしたのかな、真宵ちゃん」

その幽霊である真宵ちゃんはまだ現状を把握しきっていない。
私が多少の説明と周囲の会話で状況を判断したのに対し、真宵ちゃんには車の中で殺し合いのことはぼかしつつ必要最低限のことしか伝えていなかった。
戦場ヶ原さんが車を降りた後は気まずさで車内に会話はなかったし、おかげで真宵ちゃんは肝心なことは何も知らないままだ──阿良々木君が死んだことも。

「それがですね、先程からどうも調子が悪くて」
「珍しいね。てっきり幽霊はそういうものと無縁だと思っていいたんだけれど」

記憶を消失する前から真宵ちゃんは苦しそうにしていたけれど、今の方がマシに思えるのは私の気のせいではないと思う。
不調の原因が恐らくはストレスによるもので、それを強制的に取り払われたから快方に向かっているのだろうか。
それでも幽霊が体調不良というのはおかしな話だ。
迷い牛という怪異ではなくなった今、真宵ちゃんを視認する条件はわからないけれども、あの場で誰もが真宵ちゃんを認識できていたことと関係あるのかもしれない。

「こんなのは十一年ぶり、いえ、生前も結構健康でしたからそれ以上ぶりですかね。そのせいか噛みにくいです」
「それとこれとは関係ないと思うなあ……」

そもそもまだ一度も噛んでいないのに噛みにくいと言われても。
伝聞で聞いた限り、阿良々木君と話すときとは随分違うようだけれど。

「あちらの方は何を思って未成年略取に及ばれたのだと思います?」
「あからさまに噛まないの」

いくらなんでも言いすぎだ、色んな意味で。
どう考えてもいーさんは親切な部類の人間だろうに。
確かに誘拐犯は親切な人間を装って犯行に及ぶ傾向がある……って、いけない、何を考えているんだ、私は。
しかし……私たちの会話は聞こえているはずなのに一向に混ざる気配を見せないいーさんの態度が気になるのも確か。
私たちを見守る、と言うには優しくないし監視している、と言うにはきつくない。
だから、そう、ただ見ているだけとでも言えばいいのか。
真意がどこにあるのか全くわからないけれどそれを問いただせる勇気はない、当然真宵ちゃんもだ。

「失礼、噛みました」
「次からはもっと上手に噛んでね」
「いや、どうもあの方、阿良々木さんに似てる節があったものですから」
「阿良々木君と似てる……?」

それは私にはなかった考えだ。
そうか、そういう考え方もあるのか。
今のところ私にはいーさんと阿良々木君との共通点は見つけられないけれど、真宵ちゃんには思うところがあるのだろう。

「そういえば聞くのが遅れてしまったというか、あからさますぎて聞くに聞けなかったのですが……」
「もったいぶるなあ。答えられることならちゃんと答えるから」
「では聞きますが、どうして髪が伸びておられるのですか?」
「…………え?」

予想外の方向から来た質問に答えることはできなかった。
私が知っているのはあくまで知っていることだけで知らないことは知らないのだから。
髪が伸びる、ということは前提として短い髪型をしていたということになるけれど、私はショートヘアにした覚えはない。
なにせ、幼稚園児の頃から三つ編みで通してきていたのだし、真宵ちゃんもそれを知っているはずなんだけど……

「聞き方が少し悪かったですかね。私がの知る羽川さんは髪型をショートにしておられたのです」
「私が……?」
「はい。私が昨日お会いしたときも普通にショートヘアのコンタクトレンズにしてましたよ。いめちぇん、されたのでしょう?」
「………………」

何がどうなったら私が『いめちぇん』するようなことになるのだろう。
髪もばっさり切って眼鏡も外したとなるともはや別人だ。
……いや、そもそもの前提が食い違っているのか。
真宵ちゃんにとっての『昨日』がいつなのかにもよってくる。
さっきから質問してばかりだなあ、私。

「ねえ、変なことを聞くようだけど、正直に答えて。『今日』って何月何日?」
「『今日』ですか? 8月22日、ですが」
「私の中では『今日』は6月14日、なんだよね」

突拍子もない仮定だったのだが、どうやらそれが間違っていないらしい。
参った……さすがにスケールが大きい。
……ちらりといーさんの方を見やったが動揺らしきものは見られない。
つまり、「ここにいる人たちの時間の認識が食い違っていること」は把握済み、ということか。

「ああ、どうりで。その頃でしたら髪を伸ばされてるのも納得です」
「そこで戸惑ったりしないんだ……」
「怪異がいるんだしタイムスリップやらがあってもおかしくはないんじゃないですかね。案外身近にいるかもしれませんよ」
「いやいやまさか」
「じゃあこういうのはどうでしょう、何か──例えば怪異の仕業で記憶が操作されてしまったとか。あくまでもたとえ話ですが」
「記憶を……」

タイムスリップを持ち出されるよりも(私にとっては)説得力のある仮定だが、今そのことについて言及するのはデリケートすぎる。
真宵ちゃんの記憶がなくなる瞬間に居合わせてしまったし、私もそうされたかもしれないとなるとつい考えるのをためらってしまっていたが……
だが、もしかするとこれはいいアプローチだったかもしれない、そういう旨のことを言おうとして口を開き、

「真宵ちゃん!? しっかりして!?」

思っていたこととは違う言葉を発していた。
顔色は蒼白、繰り返される浅い呼吸、痙攣するかのように震える体、明らかに体調が悪くなっている。
さっき私は真宵ちゃんの不調の原因をストレスによるものだと決めつけていたけれども、それがその通りだったとしたなら──

「真宵ちゃん!?」
「だ、大丈夫です……戯言、さん……」

なくなった記憶がフラッシュバックしたのではという私の予想を裏付けるように、駆け寄ってきた──さすがに異常事態だと察したらしい──いーさんへの呼称が戻っていた。





「戯言さんはこちらが求めたとき以外口を挟まないでください」と体調が優れないながらもかなり憤慨した口調で念押した上で、私と真宵ちゃんの現状確認が始まった。
その気になれば断ることだってできただろうに、それを甘んじて受けるということはやはり私たちに負い目があるのか。
先程まで付かず離れずで私たちを見ていたのはいわゆる罪悪感によるものだったらしい。
一通りの情報共有も終えたことで私の身に何が起きていたのかも知るところとなったし。
とはいえ、私がブラック羽川になっていたことを他人の口から聞くのは堪えるものがあるなあ……
目覚めたときに着ていた装束も中々恥ずかしいものだったが、鑢さんの話を聞いた限り、それに着替える前の服装もあったはずなんだけれど。
あのときは余裕がなくて手持ちに何があったか把握するので精一杯だったけれど、今なら思い出せる──確か……あれ?
いやいや、待て待て、まだそうと決まったわけじゃない。
途中で捨てていた可能性もある、うん、きっとそうだ。

「いーさんはブラック羽川に遭ったんですよね? 覚えていないのに言うのもなんですが、その節はご迷惑をおかけしました」
「別に、こうして五体満足でいるんだし、翼ちゃんが謝ることじゃ……」
「怪異に遭ってしまった時点で迷惑をかけたのと同義です。それで、差し支えなけれえば、本当に差し支えなければ教えてほしいのですが、そのとき……どんな服装でした?」
「……………………上下とも黒の下着姿でした」
「大変ご迷惑をおかけしましたあっ!」

いやな予感が当たってしまった。
ゴールデンウィークにまさにその格好で往来を闊歩していたけれど……うわあ。
他の人に見られていない、と考えるのはいくらなんでも無理があるし……うわあ、としか感想が出てこない。
真宵ちゃんの目線も心なしか、なんて修飾する必要もないくらいに冷めている。
正直私が一番ドン引きだ。
ただ、これがきっかけになったのかぎくしゃくした空気が軽減されて多少は会話が弾むようになったのがせめてもの収穫だった。
……気まずい空気のままだったら報われなさすぎる。


【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】

戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:記憶が戻るだなんて聞いてないぞ……これもこれでまあ、悪くはないけど。
 1:玖渚を待つ。
 2:掲示板を確認しておこう。
 3:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 4:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶復活、それに伴う体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 0:まったく、戯言さんは!
 1:羽川さんと共に戯言さんの待ち人を待ちましょう。
 2:黒神めだかさんと話ができればよいのですが。
 3:羽川さんの髪が長かったのはそういう事情でしたか。
 4:戦場ヶ原さんも無事だといいんですが……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   真庭忍軍の装束@刀語、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:未確定。もちろん殺し合いに乗る気はないが……
 0:ああ……恥ずかしい。
 1:阿良々木くんが死んでいることにショック。理解はできても感情の整理はつかない。
 2:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
 3:戦場ヶ原さんは大丈夫かなあ。
 4:真宵ちゃん無理しないでね。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


「到着、ランドセルランド」


ぎこちないながらも穏やかな時間が流れ始めたランドセルランドだったが、それを許さないかのように使者が訪れる。


「内部巡回、開始」


【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド入口】

【日和号@刀語】
[状態]損傷なし
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
[備考]




これでおしまい、じゃないんだよな。
ああ、安心してくれ。
僕は何もしないよ。
これはただの取り繕いさ。
僕としたことがちょっとしくじってしまったらしい。
切り離しが不完全だったようで、一部が君のご主人様に残ってしまったみたいでね。
君が一番不安定な状態だったということにも起因するが、それでも僕のせいだということに変わりはない。
何か埋め合わせをするわけじゃあないんだけどね。
それだと干渉しすぎてしまう。
ま、自身で気付く分には構わないからヒントをあげるとしようか。

君が入っているのはあくまでも籠だ。
閉じ込めるための檻とは違って、籠の役割は一時的な容れ物でしかない。
つまり。

外側からなら簡単に取り出せるってことさ。

忠告はしてあげたんだ、ちゃんと考えておくんだぜ?
何が一番ご主人様のためになるのかを、ね。


変態、変態、また変態 時系列順 背信者(廃心者)
変態、変態、また変態 投下順 球磨川禊の非望録
球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係 戯言遣い 三魔六道
球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係 羽川翼 三魔六道
球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係 八九寺真宵 三魔六道
働物語 日和号 三魔六道

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最終更新:2015年01月06日 21:09