働物語 ◆mtws1YvfHQ
「全く不本意な事だが仕方あるまい」
そう一人呟く。
ついでに携帯で時間を確認する。
間もなく放送が始まろうと言う時刻。
だが俺には関係ない。
既に何処が禁止エリアになるかは聞かされている。
そのついでとばかりに、わざわざこんな場所にまで足を運ばされた訳だが。
もう一度携帯を見遣る。
どうせ連絡は来ないだろう。
だが、しかし、
「…………来たか」
微かに音が聞こえた。
巡回ルート上で待つ事、もはや三十分以上。
こんな風に待っているのは暇だったのだ。
だがそれも仕方ない。
未造のため。
音へと向く。
ゆっくりとやってくるそれは人型。
だが異形。
人は決して四本足でも四本腕でもないのだから。
「日和号……いや、微刀『釵』」
「――――――人間認識」
近付いて来ていた人形の動きが一度止まり、そして、目が開く。
どうすれば良いか分かっていても、普通なる俺だから、思わず身構えてしまう。
「即刻斬殺」
四本の手を己の前で合わせるようにして一瞬。
「人形殺法【旋風】」
『どうも皆さん。時間になりましたので』
「こんな時にか……」
高速回転。
風車のように。
回転させながら迫る。
ガラクタの悉くを刻みながら。
つくづく調子を外してくる。
仕方なく小さく首を振り、指差し呟く。
「…………止まれ」
一言。
聞こえるか聞こえないか。
その程度の言葉で、
「――」
日和号は、停止した。
全ての動きを完全に止め、勢いのまま転がり止まる。
無言のままその近くまで寄る。
微かに振動はしている
だがそれだけ。
動き一つ出来はしない。
簡単な事だ。
日和号もとい微刀『釵』。
その動力源が何か。
それは、太陽でありそれを元にした発電。
即ち、太陽電池である。
流石に百年単位で劣化しないと言うのは見事と言えよう。
四季崎の、と言うより未来の技術は侮り難い。
全く、忌々しい話だが。
「即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺」
「……放送が止んだか」
何時の間にか放送は終わっていた。
大した内容ではあるまい。
どうでも良い話だ。
それよりも今は、こいつに指示を出すのが先である。
「斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺。即刻斬殺」
「黙れ」
「即こ――――――」
軋むような音を立てただけで、動かなくなった。
電気を動力源にすると言う事。
微刀『釵』などと言う大層な名前を付けていても所詮、電子機器である。
ロボットと言い換えた方が正しいか。
まあ閑話休題。
ならば。
13万1313台のスーパーコンピューターを操る事。
たかだかキリングマシーン一つを完全に制御する事。
どちらが難しいなど知れていよう。
「……普通の俺がこんな事をする羽目になろうとは」
そう悔やんでみても今更だ。
もはや賽は投げられている。
それが例え四十人殺すとしても。
黒神めだかと敵対するとしても。
俺は最早止まれない。
曲がる事すら、許されない。
投げてしまったのだから。
今更引き返そうとも思わない。
「…………未造…………俺は…………」
とぅるるるるるるる。
と。
遮るように音がした。
半ば無意識的に手を動かし、耳に当てていた。
「――待っていたぞ、萩原。
生憎『腐敗』の方は俺の手に負えそうにはなかった、とだけ言っておこう。
――止められないのも予想通りか。
つくづく貴様の想定通り、掌の上と言う訳か。
で、だ。
その「やっていただきたい仕事」とやらは『選外』の?
――急ぎか?
――ほう?
何か想定外の出来事でもあったのか?
――なるほどな。
いったいどこから漏出したのやら。
普通なる俺には皆目見当も付かないなぁ。
そちらに心当たりはあるか?
――なければないでどうとでもするだろう、貴様は?
だが一応、気を付けて置こう。
貴様の言う、『策』の実行のためにな。
気に入らぬが。
――――――ふん」
切れた連絡から耳を外す。
俺の悩みすら読んでいたようなタイミング。
悩む事すら掌の上とでも言うのか。
だとするなら気に入らん。
が、その掌の上から逃れられない。
孫悟空ではあるまいが。
「さて。早く斜道に任された仕事を果たすとしよう」
足元で動かない微刀を見据える。
ただ指差し、命ず。
「――立て」
奇妙な震えを伴いながら、立ち上がる。
俺の『言葉』がなければすぐさま襲い掛かってくるだろう。
最も、それを捻じ伏せるだけの準備はあったが。
取り越し苦労と言う奴だ。
「言葉を発する事を許す。命令を上書きする。内容を復唱せよ」
「――」
語らない。
動かない。
仕方ない。
「 上 書 き す る 」
「――上書きする」
微刀は。
僅かな間を置いて、口を開いた。
それに、微かに揺らいだ。
何を、と言われれば心だろう。
顔を顰めている俺に気付く。
機械であれば自在。
である筈なのに、一瞬であれ俺の命令を受け入れなかった。
その一事に、この微刀の内側の何かを感じる。
「――復唱せよ」
「復唱せよ」
何時ぞや未造が言っていた、機械の「痛み」や「眠さ」。
負の情報と言うべきか感情と言うべきか。
そう言う物を垣間見た気になる。
だが、気になっただけだ。
首を振り、払う。
俺に分かる筈もない。
どれだけそんな気になった所で。
俺に出来るのは「知る」事ではなく、「知らしめる」事だけなのだから。
「――不要湖より移動」
「不要湖より移動」
「行先、ランドセルランド」
「行先、ランドセルランド」
「内部巡回」
「内部巡回」
「それ以外変更なし」
「それ以外変更なし」
「即時行動」
「即時行動――即時行動。即時行動。即時行動」
繰り返し。
繰り返しながら、機械的に微刀は歩き始める。
安定している筈の四足で、揺れながら。
段々と遠ざかって行く。
気付けば口が開いている。
それを閉じ、目を背ける。
長き時を過ごせば道具に魂が宿るとか言う話を、無関係だとは思いながらも片隅に思い出しながら。
遠く、忌まわしい連中の居る場所。
皮肉な事にこのバトルロワイヤル最大の安全地帯を見て呟く。
「未造……」
答えはない。
当然の事と知っているが。
【1日目/夜/E-7不要湖】
【都城王土@めだかボックス】
[状態] 健康
[装備] 携帯電話@現実
[道具] なし
[思考]
基本:不知火の指示を聞く
1:行橋未造の安全が確認が出来れば裏切る
2:萩原子荻と協力
3:萩原子荻の元に向かう
[備考]
※「十三組の十三人」編より後からの参加です。
※首輪は付いていません。
※行橋未造が人質に取られているため不知火に協力しています。
※行橋未造が何処にいるかは分かりません。
※どこに向かうかは後の書き手にお任せします。
かくして殺人人形は動き出す。
向かう先にどれだけの人間が居るか知らず。
また、どれだけの人間を殺す事になるかも知らず。
ただ機械的に。
「――即時、行動」
【1日目/夜/E‐7不要湖】
【日和号@刀語】
[状態]損傷なし、ランドセルランドに移動
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
1:上書き。即時行動
[備考]
※不要湖からランドセルランドに移動しています
最終更新:2015年09月25日 17:49