アットウィキロゴ
俺たちは殺し屋だった。

⭐︎

(知り合いは無し、か)

地図にしてC-10。場所は会場の端の付近。
ゴズキは主催から与えられた情報を脳に落とし込み整える。

既に脱落した者も含め、三桁に届きかける参加者に彼の知り合いがいない。
死者を自我を保ったまま甦らせるなんて、数多の帝具を作った凄腕の技術者たちでも不可能な神業をやってのけた男が知己を一人も呼ばなかった。
この事実から、この催しが帝国への怨恨の線であるのを排除する。
そも。本当に怨恨の可能性を探るなら、呼ばれるべきは自分だけではなく、オネスト大臣を筆頭にいまの国の中枢を担っている・繁栄させた連中全員がターゲットになるはずだからだ。

つまり自分が呼ばれたのは、個人のプロフィールを見て、或いは本当にただ適当に選んだだけだろう。

だがその考えに至っても、彼に憤りや悲観は浮かばない。
何も変わらないからだ。

帝国で暗殺者として数多の標的を屠ってきた。
多くの子供を引き取り、同じ暗殺者にするために教育を施してきた。
帝国の脅威となり得る『娘』を本気で殺そうとした。

『全員殺して1人になるまで生き残れ』
そんなゲームと何も変わらない。
ただ、飼い犬が飼い主を変えた。それだけだ。
むしろ、生き残ればどんな願いでも叶えるという主催の言葉に信憑性が増すくらいだ。

(さて、どう動こうかね)

彼はこれからの行動方針を考える。
殺しに躊躇いは無い。彼は熟練の殺し屋だ。老若男女、果ては赤子相手でも揺らがず殺せる。
問題は殺し方だ。
先ほどの戦闘で負った怪我と疲労はさしたるものではないか、それは運が良かったからだ。
もしも相手がゴズキの爪先までもが決死の凶器であることまで考えが及んでいれば、更なる苦戦は必至だったろう。

それをあと云十人。
正面から追いかけて、戦って、仕留める。
無謀だ。あまりにも。

自分の強さに自負はあれど、自惚れてはいない。殺し屋とはそういう職業だから。

(定石通りに不意打ちだな)

選んだのは、暗殺者としては呆れるほどに正攻法な殺り方。
自分が先に見つかり、接触を求められれば取り入り隙を見て殺す。
自分が先に相手を見つけられれば気配を絶って不意で殺す。
極力、力を消費しないための消去法だ。

さて。情報も整理し終えたことだ、そろそろ動こうかねと決めたまさにその瞬間だった。
咄嗟に前方へと駆け出し、身体を捻りながら振り返る。

同時。
ゴキリ、と関節が鳴り、ゴズキの腕が伸びた。数センチなどと矮小な差ではない。文字通り、数メートルほど先の、自分がいた場所に向かってだ。

「ちぃっ、勘づかれ」

その言葉は紡がれない。
ゴズキの腕が、そこに降り立った男の顎を打ち抜いたからだ。

「ワリィな。職業柄、不意打ちと奇襲はお家芸だ。俺にソイツは効かねえよ」

もう聞く余裕もねえだろうが、と内心でひとりごちるーーーが。

「ふむ。なかなかの反応と威力」

男は、コキコキと首を鳴らし、余裕綽々に髭を弄る。
無傷。
確かに手応えがあったはずだ、とゴズキは己の目を疑った。

(おいおい。いくら牽制打とはいえ、あれだけモロに喰らえば丸一日は飯も食えなくなるんだがな)



「なるほど。お前、俺と同業者か。こりゃあいいぜ」

達磨のような面持ち。初老且つ低身長ながら鍛え上げられた筋肉の体躯。
その出立に、ゴズキは警戒心を引き上げる。
男の名は粟坂二良。人を殺し生活の糧にする呪詛師が一人。

「殺り甲斐がありそうだ」

粟坂は刃物を構えると、醜悪に歪んだ顔でゴズキを舐め回すように見つめるのに対し、ゴズキは刀を抜き殺意を削ぎ澄ます。

「名前は名乗らなくていいぜ。そいつは後で身体に聞かせてもらうからよ」
「そうかい。俺は聞かせて貰いてえな。後で確認するのが面倒だからよ」

互いの殺意が空で交差する。

彼は自由だった。

己の欲望のままに弱者を蹂躙し殺し、安全圏で金を稼ぐ。

望んだ仕事ばかり選んできた。全ては己の享楽のために。

欲と生活を兼ねて満たせるという呪詛師は、彼にとってまさに天職だった。


彼は不自由だった。

腐敗した国に飼われ、しかしそれを受け入れ手を汚してきた。

望まぬ仕事など山ほどあった。しかし受け入れてきた。全ては使える国(あるじ)のために。

鍛錬の末に身につけた力を発揮するのに、殺し屋は彼にとってまさに天職だった。


自由を愛した男。
不自由に身を預けた男。

彼らが分かりあうことは、決してない。



甲高い金属音と共に、刃物が火花を散らす。
ゴズキが振るう不壊刀とは対照的に、粟坂が操るのは「聖なるナイフ」と「苦無」。獲物のリーチの差はあるが、彼にとってはさしたる問題ではない。
小回りが効き、普段から短刀の類には扱い慣れているからというだけではない。

(この小僧が身体を伸ばせるのがわかってよかったぜ)

先の奇襲の失敗から得た情報は、彼の『あべこべ』術式の更なる糧となる。
『強い攻撃は弱いダメージに。弱い攻撃は強いダメージに変換される』この術式は、粟坂本人の調整が肝となる。
術式を発動するタイミングを見誤れば、些細な攻撃で彼が痛手を負うことになるからだ。

伸縮自在の腕。人体を破壊できるほどの膂力。なるほど、まともに戦えば強者の部類だろう。だが五条悟ほどの規格外ではなく、自分でも手に負える程度の強者。
まさに粟坂にとっての「カモ」だ。

突貫する粟坂の頭部目掛けて、ゴズキの腕が勢いよく振り下ろされる。
まともに当たれば致命は必至。だからこそ、恐れない。
被弾に構わず、一足で踏み込み、ゴズキの懐に入り込む。

リーチの差による優劣はなくなった。粟坂はゴズキを切り裂かんとナイフを横に薙ぐ。

ーーー風を切る音が鳴る。
腸の部位目掛けて振るったソレは果たして、胸部を裂き鮮血が舞った。

「間一髪」
「爪まで伸びるのかよ。びっくらポンだぜ」

粟坂は己のの攻撃をズラしたモノへと視線を向ける。
爪だ。ゴズキの爪先から伸びた爪が、腕をかち上げ軌道をブレさせたのだ。

ゴズキは左手の爪を伸ばし粟坂の胸部を狙う。
彼の爪は刃物と遜色ない鋭さと強度を誇る。
人体に向ければ容赦なく貫く人間凶器。
が、しかし。粟坂に触れた途端、威力は殺されただの軽い打撃に変換される。

(打撃だけじゃなく刺突もダメか)

「ぴょっ!」

粟坂の投擲したのは三本のクナイ。
両腕を伸ばしているため防御は不可能。ならば、と瞬時に腹部を凹ませ被弾部位を減らし、二本は避け、躱せない残る一本は舌を伸ばして弾き落とす。

尚も距離を積める粟坂に対して、ゴズキは先に伸ばしていた右腕の不壊刀を地面に突き立て、それを力点として宙返り。腕を縮める作用を活かして不壊刀の突き立てられる場所へと降り立ち粟坂との距離を離す。

「腕・爪・舌...六十年生きたがよ、とんだびっくり人間がいたもんだ」
「お互い様だ。殴ろうが突こうがここまでビクともしねえ奴は初めてだぜ」

粟坂は心底愉快そうに笑みを深め、ゴズキは汗こそかかないものの敵の異質さに密かに戦慄を抱く。

(俺みてえな特殊な体質、ってわけじゃねえよな)

ゴズキは特殊な鍛錬の果てに、爪先から髪の毛まで自在な操作が出来るようになった。
生命力のタフさも常人とは比べ物にならぬほどに備えている。
そんな彼でも、極力攻撃は喰らわないように心がけている。
いくら頑強とはいえ生身には変わりない。無用な怪我を負えばその後の動きに響くからだ。
だが、粟坂は違う。
被弾は上等で、最短距離で殺しに来た。

(子供たちの報告で似たような奴がいたっけな)

プトラの墓の墓守。育てた『子供』の1人であるガイを殺し、アカメに倒されたその男は、自身が受けた傷をそのまま相手に返すという術を使っていた。

(だがそいつとも違ぇな。俺が受けた傷はナイフとクナイの擦り傷だけ。ダメージを返せるなら、とっくに俺はくたばっている)

繰り返すようだが、ゴズキの攻撃は容易く人体を破壊できる。ソレをそのまま返されれば、ゴズキ自身もタダでは済まない。

(仕掛けはわからねえが、要はあいつには打撃も斬撃も効かない。ただ、こっちから触れるだけならさしたる問題はねえーーーなら、殺りようはいくらでもあるってわけだ)

その結論に至るや否や。
ゴズキは身を翻し、粟坂から距離を取り始める。

「おっと逃げるのかよ?男が情けねえな!」
「ああ。逃してくれるなら有り難え。あんたを1人で殺すのは難しそうだからな。頭数揃えてから出直すわ」

ゴズキの言葉に、粟坂の顔から余裕の笑みが消える。
彼の術式は複数人を相手取るのに向いていない。
二人から三人程度ならなんとかなるだろう。だが、これが四人、五人と重なればどうなるかはわからない。
ましてや、徒党を組んだ相手の実力に差があるほど術式の効果範囲を調整するのが困難になる。

(いや、そもそもなんで頭数を揃えて挑む、なんて発想に至れた?)

術式のタネに気づかず、ただ数で押せばなんとかなると考えているのなら良い。それなら餌が増えるだけだ。
だが、もしも。万が一、先ほどの術式のタネを見破った上での発言なら。
それだけで窮地に陥るのは自分だ。ならば、その万が一を考えて

「逃すわけにはいかんなぁ」

ゴズキを追いかける粟坂。
その選択に、ゴズキは内心でほくそ笑む。

(ありがとよ。乗ってくれて)

ゴズキの能力は強力ではあるが無敵ではない。伸縮自在の肉体による殺し技百景。
初見殺しの側面が強く、その技が知られれば対策もいくらでも立てられる。
ただの一対一の試合ならばそれでも問題ないだろうが、これは殺し合い。
自分の情報は極力隠しておくのに限る。
そしてソレを知った者には死を与えねばならない。

木々の合間を縫い、跳び回り。
逃げるゴズキと追う粟坂。
距離が縮まらず遠ざかることもなく。
その鬼事が5分経過したまさにその時だ。

ゴズキは身体を翻し、着地した幹を足場に粟坂へと飛び掛かる。
なんの前触れもない奇襲に、しかし粟坂は動じない。

(わかってたんだぜ。オメェが逃げるつもりなんざ更々無かったことにはな)

追跡中に粟坂は気づいていた。
ゴズキのあの伸縮自在の肉体があれば、自分を振り切るのは困難でも、距離を空けることは容易いと。
だが、肉体一つで追いかけている自分を振り切れないどころか付かず離れずの距離を保っていた。
つまり、先ほどの頭数を揃えて殺しにくるというのは嘘であり、彼はここで自分を殺すつもりであるのは明白。
ならば、あとはいつ振り返り攻撃に転じてきても構わないと備えておくだけだ。
そして、その読み通りに、ゴズキは振り返り渾身の一撃を叩き込みにきたわけだ。

(そうやってやる気を出した時点で、オマエは俺の術中の下なんだよ!)

敵を焦らせ、勝負を急がせ。全力で殺しに来た相手の攻撃を術式でいなし、反撃で仕留める。これが彼の必勝の型。数多の獲物を仕留めてきた、初見殺しにして二度は見せぬ初見必殺。

ただひとつ、誤算があるとすれば。

「ぐむっ!?」
「打撃も斬撃も効かねえーーーなら、『窒息』はどうだ?」

相手は、数だけでなく、質も備えた殺しのプロだったことだ。

距離を詰め、ゴズキが勢いを乗せて放ったのは拳でも刀でもなく、掌握。
粟坂の口と鼻を包み込み、握ったところで腕を伸ばし胴体への反撃すらも許さない。

予想外の反撃に面を喰らう粟坂だが、すぐに思考を切り替える。

(舐めんな小僧!こちとら経験値は腐るほどあるんだ!)

身体を空へと持ち上げられ、距離が空き、敵への致命の反撃は不可能だ。
だがそれがどうした。

(俺を窒息させるなら、この腕は!斬りたい放題だろうが!!)

人間を窒息死させるには数分間は必要になる。それまでの間、自分のナイフとクナイの斬撃を受ければそこから失血死に繋がるのは相手の方だ。

(勝負を焦ったなこぞーーー)
「慌てんなよ。殺るのはここからだ」

粟坂が腕を切り付けようとした瞬間、ゴズキは腕を離し、粟坂を解放する。
なぜ解放した、その問いかけをする暇もなく、その答えを思い知らされる。

ざわざわとゴズキの髪が蠢き、高速で迫ってきたからだ。

度重なる異形変化に驚愕を隠せない粟坂。それでも、地上であればかわすことはできただろう。だが、今の彼は身動きの取れない空中にいる。
必死に武器で髪を払おうとするが、間に合わず顔面を髪の毛に包まれ、手足も大の字に縛り付けられる。

「むぐっ!?」

顔面が圧迫感に襲われる。
彼の術式は、瞬間的な攻撃には耐性がある一方でじわじわと力を強められる類の攻撃には滅法弱い。
故に、蛇に飲まれた蛙が如きこの締め付けは、彼にとっては絶体絶命ーーーそれでも、冷静さは失ってはいない。

(テメエの狙いはわかってんだ。俺が焦って動くことで窒息するのを早めようとしてんだろ?)

脱出しようと下手に動いて、髪が喉まで絡まり、或いは呼吸乱させて呼吸困難に陥らせて窒息させる判断なのだろう。
なるほど、それは術式の穴を突く有効打だ。ーーーそれまで、ゴズキがこの髪の毛を維持できればの話だが。

(こんな手があるならなんで最初から使わなかった?)

手足や爪だけでなく、髪まで自在に操れる。もしも際限なく使えるのなら、わざわざ逃げたふりをする必要などどこにもなく、最初から使っているだろう。ソレをしなかったのは、髪の毛ともなれば操るのにも相応の疲労や持続時間が限られているから。
そう推測した粟坂は、あえて術式を解き、抵抗もやめて呪力のみのガードに専念し、酸素を保つことにのみ集中する。

(根比べと行こうじゃねえか。どっちが先にガス欠になるか)



 ぐ い ん

粟坂の身体が傾き、髪に包まれていた視界が一気に開けた。

「は?」

思わず間の抜けた声が漏れる。

視界に映るのは、伸ばしていた髪の毛が元の長さに戻っていくゴズキ。
なんの真似だ、まさかここにきて刃を収めるつもりなのか。
そう思い、受け身を取るために背後の地面へと振り返り。

「ーーーあ?」

無い。地面などどこにもない。あるのは、底の見えない蒼い空。

刹那。
粟坂の全身から脂汗が火山のように噴き出す。



「悪いな。俺は臆病だからよ、楽させてもらうことにした」



「ーーーー小僧おおおおおォォォォォォォォ!!!」

叫び、もがく、もがく。
ゴズキの立っていた地上が見えなくなり、己の運命がこの瞬間決まったとしても。

ばたばたと。いっそみっともないくらいに。なりふり構わず。憤怒と怨嗟を超えて、涎と涙すら垂れ流し。
それでも何も変わらない。ただ、己が敗北者であることを思い知らされるように、空を掻きむしる掌は何もつかめやしない。

ーーー俺たちは自由だった。

脳裏をよぎるのは、かつての楽しい仕事の時間。我儘に自由に謳歌していたあの至福の時。

そして、五条悟という彼らの自由を奪う枷への恐怖。


いま、この時。彼はこの会場の誰よりも自由に晒されていた。
彼を縛るものはなにもないというのに。

ロクな悲鳴も。生涯現役、などと気取った言葉を残すこともなく。


『会場外への落下を確認しました。これより起爆を致します』
「イヤじゃああああああああああ!!!!!!」

彼の顔は、刻み込まれた『枷』と直面していたあの時と同じものになっていた。

『ピーッ ボンッ』

【粟坂二良@呪術廻戦 死亡】

「これで二人目か」

粟坂の落下と共に首輪の爆破を確認し、ようやく一息を吐くと、彼から奪い取ったデイバックを纏め始める。

「二人目でこれとは、まったく先が思いやられるぜ...」

一人目は、自分の『子供』たちにも引けを取らない強者の少女だった。

二人目は、結局、絶対防御の仕掛けのタネもわからなかった厄介な男だった。

「まあこれで当面の食糧は確保できたが...釣り合ってんのか?こりゃあよ」

期限は三日間。食糧も多いに越したことは無いが、それでもゴズキであればさほど摂取しなくても充分に動ける。二人殺して、その報酬がほぼ食糧というのも、またしょっぱい褒美だなと思う。それでもアカメなどであれば喜んで舌鼓を打ったのだろうが。

「っと、隙があれば浸っちまうのはよくねえわな」

情に流される者は死にやすい。
それは、この殺し合いでなくとも変わらない。
だから、彼は湧き上がる情をひた隠す。

『父』でありたいと願いを求めて戦いに臨んでいるが。
『父』であるより前に『暗殺者』であるのが、ゴズキという男なのだから。


【C-10 /深夜/1日目】
※せいなるナイフ@ドラゴンクエスト ダイの大冒険、クナイセット×20@現実は粟坂共々落ちて無くなりました。

【ゴズキ@アカメが斬る! 零】
[状態]:右腕に火傷(中程度)、右手が血に染まってる、腹部に軽傷(出血・小)
[装備]:不壊刀・倶利伽羅@アンデット・アンラック
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品×0~2、短剣@不明、さとの巻物@グランブルーファンタジー、ビデオカメラ@ジョジョの奇妙な冒険第五部 黄金の風
[思考・状況]
基本方針:優勝して、アイツらだけでもまっとうに生きられるよう願う。
0:ひとまず休むとするか
1:ろくでなしでも、願いはあんだよ。

[備考]
※参戦時期は死亡後。


022:何をなくしたかわからないのに 投下順 024:アナザースカイ・ワークナイト
時系列順
44:これがお前達に贈る最初で最後の愛 ゴズキ
225:生涯現役 粟坂二良 GAME OVER

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2026年05月18日 13:30