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ややえちゃんはお化けだぞ! 第3話
「――で、どうだったんだ?」
返事の代わりに返ってきたのは、深いため息と携帯電話を閉じる音だった。
ふと訪れた静寂に一瞬最悪の結末を予感させたが、それは全く別の意味で的中すること
となる。
ふと訪れた静寂に一瞬最悪の結末を予感させたが、それは全く別の意味で的中すること
となる。
「ハナちゃん、今日も学校に来てないんだって……」
「それは一体どこのどいつだ」
「私の友達でね、すっごい可愛いの」
「それは一体どこのどいつだ」
「私の友達でね、すっごい可愛いの」
限界を超えていた怒りゲージは悲しみゾーンを通り過ぎ、すでに哀れみフェイズへと
シフトしていた。
携帯を胸にあてたまま不安そうに目を伏せる夜々重を見ていると、なんだか自分のこと
よりもこいつの頭のほうが心配になってきてしまう。
シフトしていた。
携帯を胸にあてたまま不安そうに目を伏せる夜々重を見ていると、なんだか自分のこと
よりもこいつの頭のほうが心配になってきてしまう。
「いいか、夜々重。お前があんなに怖がっていた先生のことだ、色々とヤイヤイ言われて
動揺しているのは分かる。しかし俺はハナちゃんとかいう奴のことは知らないし、きっと
ハナちゃんも俺のことは知らないはずだ、そうだろう?」
「……ええと、ハナちゃんに会いたいってこと?」
「いやつまりな、それはどうでもいいことなんだよ。どうでもいい、わかるか?」
「あんまり学校来ないのよね」
動揺しているのは分かる。しかし俺はハナちゃんとかいう奴のことは知らないし、きっと
ハナちゃんも俺のことは知らないはずだ、そうだろう?」
「……ええと、ハナちゃんに会いたいってこと?」
「いやつまりな、それはどうでもいいことなんだよ。どうでもいい、わかるか?」
「あんまり学校来ないのよね」
会話のキャッチボールとは良く言ったもので、例えば夜々重をこれに当てはめると、
投げたボールをキャッチできないのは当たり前、転がっていったボールを追いかけて
彼方まで走り去り、あげく戻って投げ返してきたのは全く別の石ころか何かなのだ。
犬の姿でもしていれば、その個性に免じて抱きしめてやりたいほどである。
投げたボールをキャッチできないのは当たり前、転がっていったボールを追いかけて
彼方まで走り去り、あげく戻って投げ返してきたのは全く別の石ころか何かなのだ。
犬の姿でもしていれば、その個性に免じて抱きしめてやりたいほどである。
「……困ったもんだな」
「本当にね」
「本当にね」
卍 卍 卍
それから俺はたっぷり1時間ほどかけて、心理カウンセラーのように丁寧に言葉を選び、
根気よく接していくことで、奇跡的に必要な情報を聞き出すことができた。
根気よく接していくことで、奇跡的に必要な情報を聞き出すことができた。
まず結論から言うと「蘇生は可能」である。
本来人を死に至らしめるための呪いではあるが、今回のような事故の場合に限り、解除
申請書を所持することで魂と肉体を接合することができるらしい。
本来人を死に至らしめるための呪いではあるが、今回のような事故の場合に限り、解除
申請書を所持することで魂と肉体を接合することができるらしい。
さて、その間必要な死体の保存方法に関してだが、ここで出てくるのが謎の人物「すごく
可愛いハナちゃん」である。
なんでも彼女は大変な死体愛好家で、人間ならほぼ完全な状態のまま2日間ほどの保存
処置をできるらしい。感心できない趣味ではあるが、この期におよんでは誠に助かる。
可愛いハナちゃん」である。
なんでも彼女は大変な死体愛好家で、人間ならほぼ完全な状態のまま2日間ほどの保存
処置をできるらしい。感心できない趣味ではあるが、この期におよんでは誠に助かる。
「……あ、もしもしハナちゃん? うん、元気元気、超元気!」
問題になるのはただ一点、解呪申請書の取得手段だ。
これには閻魔一族との相談が必要になるのだが、ある程度予想通りというか、多忙な
ことも相まって、通常の手続きなら1~2年ほどの期間が必要になる。
これには閻魔一族との相談が必要になるのだが、ある程度予想通りというか、多忙な
ことも相まって、通常の手続きなら1~2年ほどの期間が必要になる。
「でね、急で悪いんだけど、一つお願い頼まれてくれたりする?」
死体の保存期間が2日ならば、全てはその間に済ませねばならない。
俺はゾンビになりたいわけではないのだ。
俺はゾンビになりたいわけではないのだ。
「やってくれるって!」
「でかしたぞ、それじゃあ次にこれを見るんだ」
「でかしたぞ、それじゃあ次にこれを見るんだ」
派手な文字が踊るチラシを夜々重の顔に押し付ける。やはりこれに頼るしかない。
「幽霊カップル限定……ラブラブ地獄巡りツアー? ……ってまさか!」
「身体で責任取れとか言ってるわけじゃないぞ。いいか、ここを良く見ろ」
「身体で責任取れとか言ってるわけじゃないぞ。いいか、ここを良く見ろ」
ここまで夜々重と接してきた俺はいくつかのコツを掴んでおり、先にボケを殺しておく
ことで、割合普通の反応を得られることに気づいていた。
ことで、割合普通の反応を得られることに気づいていた。
「ええっと、閻魔大帝ご子息殿下の宮殿……そっか!」
「ああ、親族というからには息子も入るんだろう、いや入れてもらうんだ」
「……でもこれって、あと1時間で出発になってるけど」
「行くんだ、今すぐに。断られて諦められるような状況じゃない。場所はわかるか?」
「う、うん!」
「ああ、親族というからには息子も入るんだろう、いや入れてもらうんだ」
「……でもこれって、あと1時間で出発になってるけど」
「行くんだ、今すぐに。断られて諦められるような状況じゃない。場所はわかるか?」
「う、うん!」
空は既に薄紫に染まり始め、夜明けを待つ鳥たちの影が飛び交っていた。
不安と焦りが生み出す動揺を、深呼吸と一緒に飲み込む。
役に立つか分からないが、念のために財布をポケットへとねじ込み、ドアノブに手を
掛ける。と、それを止めるかのように夜々重が俺の手を掴んだ。
役に立つか分からないが、念のために財布をポケットへとねじ込み、ドアノブに手を
掛ける。と、それを止めるかのように夜々重が俺の手を掴んだ。
「飛べるよ」
「お前は飛べるんだろうが、俺は――」
「お前は飛べるんだろうが、俺は――」
開かれた窓から流れ込んでくる風の冷たさが、忘れかけていた事実を呼び覚ます。
そう、俺も幽霊なのだ。
そう、俺も幽霊なのだ。
「いや、そうかもしれないが、ついさっきまで人間だったんだ、そんなこと言われても」
「ほら、行こう! ハナちゃんにはここの場所伝えておくから」
「バカ離せ! ちょっと待――」
「ほら、行こう! ハナちゃんにはここの場所伝えておくから」
「バカ離せ! ちょっと待――」
卍 卍 卍
俺はこの町で生まれ、16年という時間をこの町で過ごしてきた。
1時間に2本ほどしかバスが来ないような田舎町で、本一冊買いに行くのも予定を立て
なければならないほど不便な場所だ。
1時間に2本ほどしかバスが来ないような田舎町で、本一冊買いに行くのも予定を立て
なければならないほど不便な場所だ。
それでも、目を閉じても歩けそうな広い道やいつも点滅している街灯。子供だった頃は
怖かった裏の森も、勝手に入ってくる隣の猫だって、全てが安心できる見慣れた景色だった。
それを今、見下ろしている。
怖かった裏の森も、勝手に入ってくる隣の猫だって、全てが安心できる見慣れた景色だった。
それを今、見下ろしている。
朝焼けのピンクに彩られた自宅の屋根や通学路は、まるで初めて訪れた別世界のようで、
頭の中に構築されていた近所の家並みも、その間を流れる川も、思いのほか斜めだったり
曲がりくねったりしていることを、初めて知った。
頭の中に構築されていた近所の家並みも、その間を流れる川も、思いのほか斜めだったり
曲がりくねったりしていることを、初めて知った。
「ね? 幽霊っていうのもそんなに悪いものじゃないでしょ」
俺はウソをつくのが嫌いだった。
かといって「ああ、そうだな」なんてロマンチックに浸る状況でもない。
かといって「ああ、そうだな」なんてロマンチックに浸る状況でもない。
――だからその問いかけには答えず、ただ手を引かれながら、ぼんやり遠く離れていく
自分の町を、心に強く焼き付けていた。
自分の町を、心に強く焼き付けていた。