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ややえちゃんはお化けだぞ! 第3話

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eroticman

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ややえちゃんはお化けだぞ! 第3話




「――で、どうだったんだ?」

 返事の代わりに返ってきたのは、深いため息と携帯電話を閉じる音だった。
 ふと訪れた静寂に一瞬最悪の結末を予感させたが、それは全く別の意味で的中すること
となる。

「ハナちゃん、今日も学校に来てないんだって……」
「それは一体どこのどいつだ」
「私の友達でね、すっごい可愛いの」

 限界を超えていた怒りゲージは悲しみゾーンを通り過ぎ、すでに哀れみフェイズへと
シフトしていた。
 携帯を胸にあてたまま不安そうに目を伏せる夜々重を見ていると、なんだか自分のこと
よりもこいつの頭のほうが心配になってきてしまう。

「いいか、夜々重。お前があんなに怖がっていた先生のことだ、色々とヤイヤイ言われて
動揺しているのは分かる。しかし俺はハナちゃんとかいう奴のことは知らないし、きっと
ハナちゃんも俺のことは知らないはずだ、そうだろう?」
「……ええと、ハナちゃんに会いたいってこと?」
「いやつまりな、それはどうでもいいことなんだよ。どうでもいい、わかるか?」
「あんまり学校来ないのよね」

 会話のキャッチボールとは良く言ったもので、例えば夜々重をこれに当てはめると、
投げたボールをキャッチできないのは当たり前、転がっていったボールを追いかけて
彼方まで走り去り、あげく戻って投げ返してきたのは全く別の石ころか何かなのだ。
 犬の姿でもしていれば、その個性に免じて抱きしめてやりたいほどである。

「……困ったもんだな」
「本当にね」


卍 卍 卍


 それから俺はたっぷり1時間ほどかけて、心理カウンセラーのように丁寧に言葉を選び、
根気よく接していくことで、奇跡的に必要な情報を聞き出すことができた。

 まず結論から言うと「蘇生は可能」である。
 本来人を死に至らしめるための呪いではあるが、今回のような事故の場合に限り、解除
申請書を所持することで魂と肉体を接合することができるらしい。

 さて、その間必要な死体の保存方法に関してだが、ここで出てくるのが謎の人物「すごく
可愛いハナちゃん」である。
 なんでも彼女は大変な死体愛好家で、人間ならほぼ完全な状態のまま2日間ほどの保存
処置をできるらしい。感心できない趣味ではあるが、この期におよんでは誠に助かる。

「……あ、もしもしハナちゃん? うん、元気元気、超元気!」

 問題になるのはただ一点、解呪申請書の取得手段だ。
 これには閻魔一族との相談が必要になるのだが、ある程度予想通りというか、多忙な
ことも相まって、通常の手続きなら1~2年ほどの期間が必要になる。

「でね、急で悪いんだけど、一つお願い頼まれてくれたりする?」

 死体の保存期間が2日ならば、全てはその間に済ませねばならない。
 俺はゾンビになりたいわけではないのだ。

「やってくれるって!」
「でかしたぞ、それじゃあ次にこれを見るんだ」

 派手な文字が踊るチラシを夜々重の顔に押し付ける。やはりこれに頼るしかない。

「幽霊カップル限定……ラブラブ地獄巡りツアー? ……ってまさか!」
「身体で責任取れとか言ってるわけじゃないぞ。いいか、ここを良く見ろ」

 ここまで夜々重と接してきた俺はいくつかのコツを掴んでおり、先にボケを殺しておく
ことで、割合普通の反応を得られることに気づいていた。

「ええっと、閻魔大帝ご子息殿下の宮殿……そっか!」
「ああ、親族というからには息子も入るんだろう、いや入れてもらうんだ」
「……でもこれって、あと1時間で出発になってるけど」
「行くんだ、今すぐに。断られて諦められるような状況じゃない。場所はわかるか?」
「う、うん!」

 空は既に薄紫に染まり始め、夜明けを待つ鳥たちの影が飛び交っていた。

 不安と焦りが生み出す動揺を、深呼吸と一緒に飲み込む。
 役に立つか分からないが、念のために財布をポケットへとねじ込み、ドアノブに手を
掛ける。と、それを止めるかのように夜々重が俺の手を掴んだ。

「飛べるよ」
「お前は飛べるんだろうが、俺は――」

 開かれた窓から流れ込んでくる風の冷たさが、忘れかけていた事実を呼び覚ます。
 そう、俺も幽霊なのだ。

「いや、そうかもしれないが、ついさっきまで人間だったんだ、そんなこと言われても」
「ほら、行こう! ハナちゃんにはここの場所伝えておくから」
「バカ離せ! ちょっと待――」


卍 卍 卍


 俺はこの町で生まれ、16年という時間をこの町で過ごしてきた。
 1時間に2本ほどしかバスが来ないような田舎町で、本一冊買いに行くのも予定を立て
なければならないほど不便な場所だ。

 それでも、目を閉じても歩けそうな広い道やいつも点滅している街灯。子供だった頃は
怖かった裏の森も、勝手に入ってくる隣の猫だって、全てが安心できる見慣れた景色だった。
 それを今、見下ろしている。

 朝焼けのピンクに彩られた自宅の屋根や通学路は、まるで初めて訪れた別世界のようで、
頭の中に構築されていた近所の家並みも、その間を流れる川も、思いのほか斜めだったり
曲がりくねったりしていることを、初めて知った。

「ね? 幽霊っていうのもそんなに悪いものじゃないでしょ」

 俺はウソをつくのが嫌いだった。
 かといって「ああ、そうだな」なんてロマンチックに浸る状況でもない。

 ――だからその問いかけには答えず、ただ手を引かれながら、ぼんやり遠く離れていく
自分の町を、心に強く焼き付けていた。


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