無限桃花の憂鬱と不安
※作者:◆91wbDksrrE
「……むぅ」
桃花は唸っていた。鏡の前で下着姿になり、そこに写る自分の姿を見て――唸っていた。
「……小さい」
鏡の中の彼女の姿は、端的に言って――小さかった。
まず、背丈が小さい。幼い頃からの修練の繰り返しにより、膂力は同年代の女性平均を
遥かに超え、男のそれすらも飛び越えているレベルにある。しなやかな筋肉が全身を覆い、
美しいとすら言えるレベルに作りこまれたその身体は、だがしかし、小さかった。
幼き頃より修練を繰り返し、筋肉で全身を覆ったその反動か、彼女の背は同年代の女性
平均をかなり下回っていた。その癖、体重については同身長の平均を上回っている。これは
もちろん筋肉の重さ故になのだが、それでもその点が気になるのは、やはり彼女も歳頃の
女の子という事なのだろう。
そして、もう一つ、彼女が頭を悩ますものがあった。
言うまでもないだろうが、一応述べておくと――胸の大きさ、だ。
彼女の慎ましやかな胸は、ワゴンセールで売っていそうな簡素なスポーツブラに包まれて
いた。問題なのは、ブラの値段や質ではない。それが包んでいる彼女の二つの、本来ならば、
通常の女性が持つサイズであるならば、丘と例えられるはずの場所が、ほとんど平野でしか
ないという事だった。
もちろん、背丈から考えれば、その程度であっても特に問題は無い。バランスとしては
取れているとも言える。だが、それとこれとは話が別――これもまた、彼女が年相応の女の子
であるという、その証明であった。
「……むむぅ」
少し頑張ってポーズをとってみる桃花。だが、平野は平野でしかない。突然谷ができるわけも
なく、彼女は落胆のため息を漏らした。
「どうすれば……いいんだ……」
彼女の中では、二つの感覚がせめぎあっていた。歳頃の女の子としての感覚は、今のまま
では駄目だと告げていた。今のまま、ちんちくりんなままでは、女としての幸せを知らないまま、
寂しく独りで生きていく事になる、と。
もう一つの感覚は、それを否定していた。女としての幸せが何だ。お前は無限の姓を持つ
者として、寄生との戦いの中にこそ幸(さち)を見出す、そういう運命にあるのだ、と。それは、
桃花の中にある、戦士としての感覚だった。
「……むむむぅ」
桃花は唸っていた。鏡の前で下着姿になり、そこに写る自分の姿を見て――唸っていた。
「……小さい」
鏡の中の彼女の姿は、端的に言って――小さかった。
まず、背丈が小さい。幼い頃からの修練の繰り返しにより、膂力は同年代の女性平均を
遥かに超え、男のそれすらも飛び越えているレベルにある。しなやかな筋肉が全身を覆い、
美しいとすら言えるレベルに作りこまれたその身体は、だがしかし、小さかった。
幼き頃より修練を繰り返し、筋肉で全身を覆ったその反動か、彼女の背は同年代の女性
平均をかなり下回っていた。その癖、体重については同身長の平均を上回っている。これは
もちろん筋肉の重さ故になのだが、それでもその点が気になるのは、やはり彼女も歳頃の
女の子という事なのだろう。
そして、もう一つ、彼女が頭を悩ますものがあった。
言うまでもないだろうが、一応述べておくと――胸の大きさ、だ。
彼女の慎ましやかな胸は、ワゴンセールで売っていそうな簡素なスポーツブラに包まれて
いた。問題なのは、ブラの値段や質ではない。それが包んでいる彼女の二つの、本来ならば、
通常の女性が持つサイズであるならば、丘と例えられるはずの場所が、ほとんど平野でしか
ないという事だった。
もちろん、背丈から考えれば、その程度であっても特に問題は無い。バランスとしては
取れているとも言える。だが、それとこれとは話が別――これもまた、彼女が年相応の女の子
であるという、その証明であった。
「……むむぅ」
少し頑張ってポーズをとってみる桃花。だが、平野は平野でしかない。突然谷ができるわけも
なく、彼女は落胆のため息を漏らした。
「どうすれば……いいんだ……」
彼女の中では、二つの感覚がせめぎあっていた。歳頃の女の子としての感覚は、今のまま
では駄目だと告げていた。今のまま、ちんちくりんなままでは、女としての幸せを知らないまま、
寂しく独りで生きていく事になる、と。
もう一つの感覚は、それを否定していた。女としての幸せが何だ。お前は無限の姓を持つ
者として、寄生との戦いの中にこそ幸(さち)を見出す、そういう運命にあるのだ、と。それは、
桃花の中にある、戦士としての感覚だった。
「……むむむぅ」
彼女は、迷っていた。
そもそも、彼女は幼少の頃より戦う為の事ばかりを教えられて育ってきた。女としての感覚
など、ほとんど知らないと言っても過言ではない程に、ただひたすらに戦う為に、寄生という名の
宿敵を討ち滅ぼし、無限の姓に宿る連鎖を断ち切る為に。
だが、成長し、寄生に狙われている人々を助ける為に、初めて学校なる場所に通うようになり、
そこで彼女は知ってしまった。自分が歳頃の女の子だったという、今まであえて目を背けてきた、
背けさせられてきた事実を。
そうして、彼女の中に迷いが生じた。
今のままでいいのか。
このまま、戦うばかりの人生でいいのか。
「……村正」
名を呼べば、彼女の手に飛び込んでくる、黒塗りの妖刀。
村正。持つ者を狂気に導き、破滅させるという妖刀を手にし、しかし彼女は狂う事は無い。
むしろ、それを手にする事で、彼女は自らの思考が明晰になっていくように感じる。感じて、いた。
だが、今は――
「……」
――それは、重いだけだった。それに込められた想いそのままに。
父の仇。無限の一族が宿願。自らの、使命。
寄生を狩らなければいけない。その事に、疑問は無い。だが……その為に、自分は自分を
犠牲にしていいのか?
「……彼方」
知らず、桃花は行方の知れぬ妹の名を呟いていた。
彼女ならば、今の自分にどのような言葉をかけてくれるだろうか。
『お姉ちゃんは難しく考えすぎなんだよぉ』
きっと、笑ってそう言うだろう。
『戦いも女の子も、どっちも頑張ればいいじゃん!』
きっと、脳天気にそう言うだろう。
だが――
「そう、だな……そうだった、な」
――それで、いいのかもしれない。
どちらかしかできないなんて、そんな事は無いはずだ。そうと決めつけてさえしまわなければ、
どちらもできるようになる事は……できるはずだ。できないと、そう決めつけてしまわなければ。
「……私は、頑張るよ、彼方」
それは、ただ寄生と戦うだけよりも、ただ女としての幸せを追求するよりも、ずっとずっと難しい、
艱難辛苦が待ち受ける道なのかもしれない。いや、きっとそうだ。
だが、それでも……それでも、その道を歩く価値は、ある。そう、桃花は思った。
「だって……私は、無限の姓を、その連鎖から解き放つのだから」
解き放ったその先に、何も無い孤独しかないのでは、それは勝ったとは言えない。
その先に、人並みの幸せを得る事で、初めて彼女は寄生に勝利し、無限の姓を連鎖から
解き放つ事に成功したと言える――それが、彼女の考えだった。
「よし……!」
決心した彼女は村正を振りかぶった。
「っぁ!」
呼気と共に、空を切る。
これまでの自分を切る。
これからの自分を戒める鎖を、切る。
そして桃花は、再び自らの身体を、鏡に写るそれを、見た。
「……まずは、バストアップ体操からだな!」
こうして、ちんまい桃花の果てしない困難が待ち受ける旅は始まったのだった――
そもそも、彼女は幼少の頃より戦う為の事ばかりを教えられて育ってきた。女としての感覚
など、ほとんど知らないと言っても過言ではない程に、ただひたすらに戦う為に、寄生という名の
宿敵を討ち滅ぼし、無限の姓に宿る連鎖を断ち切る為に。
だが、成長し、寄生に狙われている人々を助ける為に、初めて学校なる場所に通うようになり、
そこで彼女は知ってしまった。自分が歳頃の女の子だったという、今まであえて目を背けてきた、
背けさせられてきた事実を。
そうして、彼女の中に迷いが生じた。
今のままでいいのか。
このまま、戦うばかりの人生でいいのか。
「……村正」
名を呼べば、彼女の手に飛び込んでくる、黒塗りの妖刀。
村正。持つ者を狂気に導き、破滅させるという妖刀を手にし、しかし彼女は狂う事は無い。
むしろ、それを手にする事で、彼女は自らの思考が明晰になっていくように感じる。感じて、いた。
だが、今は――
「……」
――それは、重いだけだった。それに込められた想いそのままに。
父の仇。無限の一族が宿願。自らの、使命。
寄生を狩らなければいけない。その事に、疑問は無い。だが……その為に、自分は自分を
犠牲にしていいのか?
「……彼方」
知らず、桃花は行方の知れぬ妹の名を呟いていた。
彼女ならば、今の自分にどのような言葉をかけてくれるだろうか。
『お姉ちゃんは難しく考えすぎなんだよぉ』
きっと、笑ってそう言うだろう。
『戦いも女の子も、どっちも頑張ればいいじゃん!』
きっと、脳天気にそう言うだろう。
だが――
「そう、だな……そうだった、な」
――それで、いいのかもしれない。
どちらかしかできないなんて、そんな事は無いはずだ。そうと決めつけてさえしまわなければ、
どちらもできるようになる事は……できるはずだ。できないと、そう決めつけてしまわなければ。
「……私は、頑張るよ、彼方」
それは、ただ寄生と戦うだけよりも、ただ女としての幸せを追求するよりも、ずっとずっと難しい、
艱難辛苦が待ち受ける道なのかもしれない。いや、きっとそうだ。
だが、それでも……それでも、その道を歩く価値は、ある。そう、桃花は思った。
「だって……私は、無限の姓を、その連鎖から解き放つのだから」
解き放ったその先に、何も無い孤独しかないのでは、それは勝ったとは言えない。
その先に、人並みの幸せを得る事で、初めて彼女は寄生に勝利し、無限の姓を連鎖から
解き放つ事に成功したと言える――それが、彼女の考えだった。
「よし……!」
決心した彼女は村正を振りかぶった。
「っぁ!」
呼気と共に、空を切る。
これまでの自分を切る。
これからの自分を戒める鎖を、切る。
そして桃花は、再び自らの身体を、鏡に写るそれを、見た。
「……まずは、バストアップ体操からだな!」
こうして、ちんまい桃花の果てしない困難が待ち受ける旅は始まったのだった――
続かないよ?