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十二使徒~ 第12話

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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第12話 1/2


―――…




―水よ、満ちて河と成し―

 …なんだ?この歌は。

―河よ、流れ海へと―

 …なんだ?この声は。

―海よ、舞いて空高く―

 おれの人生で、かつてここまで我が心の臓物を震わせたことはあっただろうか?
 かつてここまで、貪欲に音を求めたことはあっただろうか?

―空よ生命の芽を照らせ―

 自然と体が求めた先に見つけた。この歌声の持ち主。
人間の女だった。乱暴者で無骨なおれなんかとは正反対の、美しい少女だった。

 俺は暫く呆然と立ち尽くし、少女の歌を聞いていた。ばれないようにこっそりと木陰から。
だが歌が終わると、俺は自然と拍手をしてしまった。無意識の内の出来事だった。
 当然、それに気がついた少女は俺のいる木陰へと目を向ける。

 「あら?こんなところに観客がいました」
 「す、すまん。盗み聞きするつもりはなかった」
 「…河童のお客さん、よければもう一曲聴いてはいきませんか」
 「……え?」

 おれは、その女の歌声に心を奪われた。


正義の定義・第十二話
     『また、虹の下で会いましょう』



―前回のあらすじ
カラオケ
人探し
謎の二人組

水上都市・水萌にておこる怪事件。それを追う再生機関の面々。
その中でカラオケしたり瀬鈴栖を探したりしたが結局何の進展もないままであった。大丈夫か!?
もう水魂祭まで日にちがないぞ!
「ふぇ!こんかいもかれーにかいけつしてやりますし」
久々にまともなあらすじをした……それでは今回の話…

―――…

 「う~ん……ふあーぁ……あれ?」
 朝。光に照らしだされた幻想的なハウスダストが舞うホテルの一室。今正に起床したというような彼女、
白石幸は一緒に寝ていたトエルの姿がないことに気がつく。360°部屋を見回しても、トエルの姿は無く、
もう一つのベットで気持よさそうに寝息を立てている陰伊が居るのみ。"幼女は何処へ消えたか?"そんな
題の元思考する白石であったが、いかんせん起きたばかりでは頭が回らないようだった。寧ろ、二度寝する勢いである。
そんな時、彼女の顔の側面に当たる光が何かの影に遮られる。虚ろな瞳でその影の元を辿るとベランダへと
繋がっていた。ベランダの外に誰かいる。その正体を確かめるため、白石はベランダへと向かった。
ガラガラ。引き戸を引くとそこにいたのは、さんさんと輝く太陽を背に体操をしている機械幼女のトエルであったそうな。
 「トエルちゃん、こんな朝っぱらから早起きしてなにしてるべさ」
 「ふぇ。なんか、8がつになるとはやおきしてラジオたいそうしなくちゃいけないようなきがしたから」
 「……あー、夏休みになるとなんか皆行くよね、朝のラジオ体操」
 「まあ、はやおきはさんもんのとくといいますし!」
 「でも、三文なんてたいした額じゃないから寝てたほうがいいんでしょう?」
 「け、けんこうにもいいですし!」
 「機械なのに健康とか意味あるの?」
 「ふえええええええええええええっ!!」
 「あ、怒った」
 そんな朝の一コマ。たまに早起きして散歩とかするととっても気持ちいいよ。ホント。それだけだけど。


―――…


 「さて、今日は昨日ホールを襲った異形の捜索にあたります。みんな、いい?」
 「もぐもぐ」「フガフガ」「もにゅもにゅ」
 「……ちゃんと返事なさい!」
 腹が減っては戦はできぬ。御膳は急げと冴島の話を聞き流しつつ朝食をとる少女達。耳から入っては
抜けていく話の内容。真面目に聞かない少女達に檄が飛んだところで改めて冴島は話を続ける。
 「犯行に及んだ異形は水の異形である可能性が高いわ。水辺を重点的に調べます」
 「そんなこといったって冴島さん。この街殆ど水辺なんですけど」
 白石はナチュラルに思ったことを冴島にぶつける。はっとしたような表情を見せた冴島だったが、すぐに
持ち直して「特にあやしそうな所を!」と付け加えた。
 「というか、こういう時こそトエルさんのレーダー機能が活躍するときなんじゃありませんの?」
 「ふぇ?」
 北条院から不意打ちのごとく問われるトエル。
 「そーだね。トエルちゃん、なんとかならないの?」
 「ムリです!」
 えっへん。と、胸を張って言うトエル。何故そんな堂々としているのかわからなかった。
 「な、なんで…?」
 陰伊は頭にクエスチョンマークがでていてもおかしくないような顔をした。彼女は以前、トエルと行動を共にした
時にレーダー機能を目の当たりにしている。他の人間もそうだ。トエルが不可とする理由がわからなかった。
 「ふぇ、わたしのレーダーきのーは、いぎょーからでるびりょうの"まそ"をかんちして、てきのいばしょをとくていしますし」 
 「でも、みずべはまそがみずにうすめられてどうもうまくさっちできないのです!ふぇふぇ」
 「……なんだ、使えない」
 トエルの説明の後、天草が一言。当然トエルは腹を立てる。
 「なんだとお~?もういっかいいってみろこのやろう」
 「……もう一回言って欲しいとかなんなの?マゾなの?」
 「おくじょういこうか」
 例のごとく喧嘩モードに入る両者。見ていられないと仲裁に入ったのは冴島だった。
 「ちょっと、二人ともやめなさい!食事中よ!」
 「……六槻が言うなら」
 「いつかヌカにつける……!」


 「ところで……五姫。あなた…昨日あんな所にいたけど、本当に異形見なかったの?」
 昨日、ホールを襲った異形を追いかけていると、どういう訳か天草と鉢合わせることになった。
もしかしたら異形と遭遇していたかも知れないとその場で冴島が天草に尋ねたものの、「知らない」の一言。
それを怪しく思っていた冴島は再度天草にその時のことを訊いたが、やはり答えは変わらないのか。
 「知らない」
の一言であった。

 (そういえば、河童みたいなのがいたような気がするけど……それよりも……)

 ―僕らはHEAVENSCHILD―

 (あいつら…なんだったの…?)

―――…

 時間は刻々と過ぎていく。広場では既に明日の声魂祭にて使用する仕掛けなどの下準備が済んでおり、
祭のムード高まっていくのを感じる。一番大きな水辺といえばここ……とはいえ、こんな所に異形など
いるはずもないが、白石・陰伊・トエルの3人は念のためこの噴水広場を見回っていた。
 「うへえ~、なんだかこういうのみてるとワクワクしてくるべさ」
 祭の雰囲気に感化された白石。お祭り前のなんとも言えない独特の高揚感は、誰しもが子供の頃体験する
であろう事だと思う。
 白石達は現在冴島達とは二手に別れて行動している。果たして何か見つかるのだろうか?
 一行は適当に広場を見回っていると、なにやら床に文字を書き連ねる老人に遭遇する。ロープを羽織った
還暦の老人。白い髭が地面にまで伸びてこれでもかと自己主張している。黙々と文字を書き続ける老人に、
トエルは声を掛けた。
 「ふぇ?なにしてるの?」
 「なんじゃ嬢ちゃん、魔導花火を見るのは初めてかね」
 「まどーはなび?」
 老人は答える。魔導花火とは魔素の力で作った花火のことで、水の中でも消えない不思議な花火だという。
 「ここにこうしてな、魔法陣を書いちょるんじゃよ。これが魔導花火の下準備じゃ」
 「へえ、そうなんですか……」
 「なんだかたのしみだねぇ?陰伊ちゃん」
 「うん!」
 期待の反面、絶対に声魂祭を成功させなければという使命感に駆られる。その為には、悪い異形をやっつけなくては!
 「…、……!」
 「ひゃっ…あ、あなたは……」
 なんて決意を固めていると、何者かが陰伊の肩を叩く。突然肩に手を置かれビクっとする。
おそるおそる陰伊は後ろを振り向き、その正体を確かめてみる。
 「絵里座、ちゃん?」
 こくこくと頷く、声を奪われた少女。後ろにいたのは最初の歌姫・絵里座であった。
彼女から接触してきたということは何か用事があるのだろうか?絵里座は早速スケッチブックに文字を書き始める。
 『"再生機関の皆さんに、お話があります"』
 そう書かれたスケッチブックを白石らに見せる絵里座。その顔は切実な思いに満ちていた。
 「お話だって…どうする?」
 「せっかくだし、聞いてあげようよっ!私達が力になれるかも知れないし!」
 陰伊はいつもの様子で言う。そんな彼女を見て「このおひとよしめ」と聞こえない程度にトエルが呟いていた。


 「それで、お話って言うのはなんぞ?」
 『"次の歌姫についてです"』
 次の歌姫……昨日の騒動のお陰で結局今もまだ空席のままである歌姫の座。声魂祭は明日、
こちらも放ってはおけない問題だ。
 『"私は……瀬鈴栖をどうしても次の歌姫にしたいのです"』
 絵里座は己の心の中を披瀝する。何故そこまでして彼女は瀬鈴栖にこだわるのか?
 「ふぇ!でもほんにんはいやがってましたし」
 『"そんなことはありません!本当は彼女も歌が好きなのです……でも……"』
 「でも…?」
 『"彼女は、母親の事で……心から自由に歌が歌えずにいるのです"』

 絵里座の話によると、瀬鈴栖の母、李鈴は昨日レコードで知ったように水萌の歌姫で、その当時、瀬鈴栖にも
歌姫になるための指導をきつく行っていたという。歌は嫌いでなかったものの、厳しすぎる母に嫌気が差した
瀬鈴栖はある日、歌の練習をすっぽかして何処かへと逃げてしまう。そこが運命の分かれ道だった。
その日は豪雨で、水だらけの水萌は水位が上昇して極めて危険な状況になっていた。
さすがの瀬鈴栖も、その雨には参ったのか渋々家に戻るも、そこにあるはずの母の姿がない。
嫌な予感というものはすぐに当たる。彼女の母は周りの人の反対を振りきり、単身。瀬鈴栖を探しに水位が
上がり浸水する街へと向かっっていたのだ。それを知った瀬鈴栖は母を探しに行こうとした。
しかしもう遅かった。外はもはや歩ける状態ではなかったのだ。そして後日、母・李鈴は無残な姿で発見される。
瀬鈴栖は後悔した。何故あの時、自分はちゃんと練習に行かなかったのか?と。

 『"……それ以来、瀬鈴栖は自分に歌を歌う資格なんかない、歌姫になる資格なんかないって思っているみたいで"』
 「そうだったんだ……」
 絵里座の話を聞き、憐憫の情を浮かべる陰伊。この手の話には弱い彼女は、何としてでも瀬鈴栖の事を立ち直らせたいと思うのだった。
 『"でも、彼女が大好きな歌をこのままずっと歌えないのは辛すぎる…瀬鈴栖のお母さんだってきっと
瀬鈴栖には歌って欲しいと思っていると思うんです…だから…"』
 『"彼女の説得を、手伝ってくれませんか?"』
 その一言が、スケッチブックに書かれる。白石とトエルは困惑した。こればっかりは自分たちが力になれるとは
思わなかった。なにせ自分たちは瀬鈴栖の事を大して知らない。一方、陰伊は
 「勿論協力するよ!」
 即答していた。
 「ちょ、何即答してんの陰伊ちゃん!」
 「だ、だって、放っておけないんだもん!大丈夫!なんとかなるよ!」
 狼狽える白石を余所に、どこから湧いてくるのかわからない自信と共に言う陰伊。
 「……で、なにかぐたいてきなせっとくほうほうでもあるの?ふぇふぇ」
 「……想いが伝わればきっとわかってくれるよ!」
 「あー、だーめだこりゃ」

―――…


 「絵里座……何しに来たの?」
 『"瀬鈴栖……まだ、お母さんの事を引きずってるの?"』
 何か具体的な策があるわけでもないまま、瀬鈴栖の元へとやってきた一行。当然瀬鈴栖は警戒している。
 「あの事は関係無いでしょ…!」
 『"関係ある。瀬鈴栖はあの事をすっと自分のせいだと自分を責めている"』
 「だってそうじゃない……!私のせいでお母さんは…うぅ…そんな私が抜け抜けと歌を歌っていいわけない…」
 『"だからこそ!歌姫になるべき!貴方のお母さんはずっと貴方に歌姫になって欲しいと思っていた!"』
 「そんな…」
 『"だから!その母の思いを汲んであげるのが……筋なんじゃないのかな?"』
 「・・・・」
 瀬鈴栖はうつむいたまま沈黙する。そうして、無言の間が少し続いた。
 「ねえ、陰伊ちゃん」
 「なに…?」
 「これ、私達居る意味ないんじゃないかなぁ…?」
 明らかに何もしていない自分たちの必要性に疑問を感じる白石達。ぶっちゃけこのまま説得できる勢いである。
そう、説得できるはずだった…。
 然し乍ら現実はそううまく行かないものである。

 「私は…」
 「お前…李鈴!?」
 「!?」
 突如割って入ってくる声。声の主に一行は驚く。それは、人ではなかった。緑の体表、頭にお皿。
俗に言う「河童」そのもの。
 「ふぇ!?いぎょうですし!」
 「こ、こんな時に!?」

 「李鈴……、なあ、李鈴なんだろ?どうなってんだよ、なんだか歌姫オーディションとか訳わかんねーもんはやってるし…」
 (こいつ……私をお母さんと勘違いしている!?でもなんで、お母さんの事を……?)

 「お前以外に歌姫はいないんだよ…なぁ、李鈴!」
 水辺から履い出てくる河童。異形の出現により、白石達に緊張が走る。
 河童は、瀬鈴栖の母親の名前を口にしていた。瀬鈴栖を瀬鈴栖の母・李鈴と勘違いしているのだ。
親子となればそのような勘違いが起きることも不思議じゃない。
 (私以外に……?)
 それが母に向けられた言葉であったとしても、瀬鈴栖の心の内は大きく揺らいだ。先程の説得もあり
瀬鈴栖は確実に心変わりしつつあったのだ。
 「なあ、李鈴…」
 「ふぇ!いぎょーはサーチアンドデストロイ!」
 と、ここで瀬鈴栖に近づく異形に蹴りを入れたトエル。何か危害を加えるようには見えなかったが
反応してしまうもんだから仕方がなかった。
 「ああもう……先走り過ぎだっての。いくよ、陰伊ちゃん!システム『白虎』解凍開始!」ベーンベンベンベン
 「う、うん……英雄『大陰』…で、出ます!」

 「まちたまえ君達!!」

 「ふえ…?」
 戦闘態勢にはいろうとする白石達を止める声。それは白石達の背後20m程の位置、敬保と共に階段から
降りてくる老人が発したものであった。
 「まさかとは思うが……又八か?」
 老人は河童を見据え、昔の記憶をたどりつつその名を口にする。
 河童・又八は「何で俺の名前を知っていやがる。俺はおまえなんか知らねえ」と質問で返した。
 何か知っている様子の老人。白石達はデバイスから手を放し、彼を見守る。
 同じく、老人を見守る敬保に、トエルは「あいつはだれなのか?」と聞く。
 「あれは私の父。この街の市長よ」
 「ふえ」

 「そうか、分からんのも無理はないな……あれから時間が経ちすぎた…」
 「おい、何を言っていやがる!?」
 「ワシを覚えとらんか?ほら。いつも一緒に遊んどった茂助じゃ」
 「茂助…?はっ!?バカ言え、あいつはまだそんなじーさんじゃなかったはずだぜ?」
 「そうじゃ。かつてはな……だが、時代は変わった。お前さんが封印されていたことなどすっかり忘れていたわい」
 そう言って、敬保の父・茂助は遠くを見て、昔を懐かしむように目を閉じた。
 「封印……?何のことだ!?それに歌姫オーディションってなんだよ!歌姫ならここに、李鈴がいるじゃねえか」

 「彼女は死んだ。そこにいるのは彼女の娘だ」

 とじていた瞳を見開き、まっすぐと又八を見つめる茂助。嘘偽りないというその眼を、又八は受け入れるわけには行かなかった。
 「……嘘だろ…!?なぁ!李鈴が死んだなんて……うそだよなあ!なあ?李鈴!」
 「う…!」
 言葉の出ない瀬鈴栖。そう、母は自らの過ちのせいで死んでしまった。再び喚起する自責の念。
足が震える。母の死は理解しているはずだった。しかし面と向かって死の事実と向き合う事の重圧が
こんなにも苦しいものとは。そしてそれは又八も同じであった。
 「そんな……うそだうそだ!アイツ以外の歌姫なんか認めない!うわあああああ!!」
 「っ!待つんじゃ又八!街の人間を襲ったのは貴様か!?貴様が何をするつもりじゃ!」
 「だったらなんだ!俺はアイツ以外の歌姫なんざ認めねえ!絶対に認めねえぞ!ぜってえな!」 
 そう吐きすてて、又八は水路に飛び込む。水しぶきが上がる様をぼうっと見ていた瀬鈴栖。
彼女の心は確実に傾きかけていた。しかし改めて母の死を突きつけられると、瀬鈴栖はどう仕様も無い後悔に
飲まれるのだ。結果、自分を責め、自分に罰を与えることでもしないと気が気でない。そうでもしないと、
自分が許せないのだ。今までも彼女はそうしてきた。好きな歌を拒絶した。こんな自分が好き勝手歌って
いいはずがない。一生苦しむがいい。それが自分の罰だと考える瀬鈴栖。彼女が許されることはないのだろうか?

―「絶対に歌姫になった所、あなたにみせるからね…」―

 (そう約束しただろ…!李鈴…!!)


 「…どうやら、アイツがはんにんとみてまちがいないみたいですし」
 「今奴を野放しにしては危険じゃ!再生機関の皆様、よろしくお願いします!」
 「そうさね。とりあえず私は冴島さんと連絡取ってアイツを追いかけるから、トエルちゃんと陰伊ちゃんは
市長さんから詳しく話を聞いておいて!それじゃ…システム『白虎』解凍開始!」ベーンベンベンベン
 武装展開をし、少女には似つかない獲物を手にする白石。水の上にゆっくりと降り立つと、
ホバリングで滑るように水の上を移動し、又八を追いかけていく。まるでアメンボのようなその動き。
ほどなくしてやっぱりアメンボのように白石は小さくなっていき、そして消えていった。
 「……くっ!」
 「…あ、おまえどこに」
 そのドタバタの最中、瀬鈴栖はその場に居ても立っても居られなくなり、逃げ出すようにその場から離れる。
それに気がついたトエルは追いかけようとするが、彼女の行く手を一本の腕が阻んだ。
 「……、……!」
 「わたしにまかせて?ふぇ?」
 その手は絵里座のものであった。絵里座はスケッチブックに文字を書く間も省き、口の動きでトエルにそれを伝える。
 トエルが頷き理解したことを察すると、絵里座は瀬鈴栖を追いかけて街中へと消えていった。
 せっかくの説得も一頓挫してしまい、一気に様々な事がわかったものだから陰伊は半ば混乱気味であった。
ふと、絵里座達の姿が見えないことに気がつくと、トエルは彼女が尋ねる前に「えりざたちのことですか?
レーダーでついせきしてますからだいじょうぶですし」と質問を先読みして答えるのだった。

 「それで、えっと…茂助さん、ですか?」
 「いかにも」
 「先程の異形について、詳しく知りたいのですが……」
 「あやつは、ワシが幼少時の頃に現れた河童の異形でな、そりゃ悪さもする、ひどく乱暴者の異形だった…」
 茂助は静かに語りだした。
 この一連の事件の首謀者と思われる異形・河童の又八について。
 「当時、荒くれ者だった又八は、毎日のように各地を好き勝手暴れておったようじゃな」
 「この街に来たばかりの時も、そりゃあ暴れん坊じゃったわい。……彼女と会うまではな」
 「……それが、瀬鈴栖さんのお母さんですか?」
 陰伊の問に「そうじゃ」と答える茂助。彼の顔には皺が幾つもあった。
話の当時、茂助は20才程度であったという。相当昔のことのようだ。
 「当時、まだ……10才程度だった彼女・瀬鈴栖の母・李鈴はその頃から歌の才能の片鱗を見せておってな…
その歌声の噂がどういう訳か又八の耳に入った」


……………。

 「あら?こんなところに観客がいました」
 「す、すまん。盗み聞きするつもりはなかった」
 「…河童のお客さん、よければもう一曲聴いてはいきませんか」
 「……え?」
 「どうなされたのです?」
 「俺は異形で暴れ者だ。そんな俺の為に、一曲歌ってくれるのかい?」
 「勿論。貴方がどんな人でも、どんな異形でも。私の歌を静かに聞いてくれるなら、私のお客さんに変わりはないわ」
 「そうかい……ハハ!そう…だなぁ!」
 「うふふ。変なかっぱさん。それではそんな貴方のための一曲…『河童と水精の輪舞曲』…」

……………。


 「その声に聞き惚れたんじゃろうな、又八はすっかりおとなしくなって…自然と街のものと打ち解けるようになった」
 「それから八年近くの時が流れ……李鈴も美しく聡明な女性に育った。勿論歌声の方も素晴らしい成長を遂げ
とうとう歌姫候補にも登り詰めたんじゃ」
 「しかしな、彼女はずば抜けていた。ずば抜けすぎていたんじゃ……必然的に次期歌姫は李鈴に決まった
ものの、他の歌姫になりたい者はそれをよく思わなくての。嫌がらせもうけたんじゃ。
そんな李鈴を又八が黙って見ている訳がなくての……」


……………。

 「あはは、あの女いい気味だわ。ヒヨッコのくせにでしゃばって…」
 「…おい、お前か?李鈴を泣かすのは」
 「はあ?だれよあん……た…!?」
 「ゆるさん!」

……………。

 「人に危害を加えた又八は、自治体から追われる身となった。丁度その頃、この辺りでも異形討伐の流れが
大きくなってきての、李鈴は……あやつを人の目に付かぬよう封印することに決めたのじゃ」
 「ワシは、封印の手伝いをしたのでその時のことはよく覚えとる。李鈴が又八を呼び出し、絨毯で隠した魔法陣
の上に又八を立たせる。そういえば、李鈴は又八を封印する前にこんな事を言っておったな……」

……………。

 「ねえ、又八さん」
 「おお!どうした?こんなとこに呼び出して?」
 「私…もうすぐで歌姫になるよ。絶対に歌姫になった所、あなたにみせるからね」
 「なんだってんだ急に…?」
 「……ゴメンなさい」

……………。

 「…彼女は最後まで又八に歌姫になった自分を見せられなかったのが心残りだったようじゃの。しかし
追われている身、一刻を争っていたんじゃ。仕方あるまいて。こうして奴は封印された。
事のほとぼりが冷めた頃に封印をといてやるつもりだったが……その後ワシも市長になって忙しくなっての、
その上李鈴も死んでしまった。暫くたった後では、封印した棺の場所も思い出せなくてな…」
 「そう、だったんですか……」
 「しかし何故封印が今になって……いや、今は目の前にある問題を片付けよう。なにせ声魂祭は明日じゃ」

 茂助の話を聞き、事の全容を理解した陰伊達。これは悲しい出来事が重なり、引き起こされてしまった事件…
なのかも知れない。陰伊は尚更、何とかしなければという想いを強くする。まだ間に合う、きっと皆が幸せになる
道があると信じて。
 しばらくして、トエルを通し白石から又八を見失ったという知らせを受ける。陰伊達も加わり、捜索を続けたが
又八が見つかることはなく、その日は終わり……そして。

 歌姫不在のまま、声魂祭当日がやってきた。





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