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無限桃花の愉快な冒険30

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eroticman

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音楽が聞こえる。何の楽器だろうか。近づくにつれ、音が大きくなっていく。
ゆっくりと静かな曲だ。彼女が創作しているのだ。
私は大きな風穴の開いた部屋を覗く。そこに彼女はいた。
大きな黒塗りの楽器を弾いている。ソレは荒れた部屋には不釣合いなくらい美しい姿をしていた。
曲が終るまでしばしの間待つ。彼女は創作中を邪魔されるのが好きじゃない。
やがて音が止む。私は拍手しながら彼女に近づく。
「すごくいい音を出す楽器だな。なんて言うんだ?」
「ピアノだ。ソーニャの世界にはないのか」
「見聞したことはないな」
「勿体無いことだ」
彼女が椅子から降りる。あまりにも小さい体躯。ピアノに負けないくらい美しい銀髪。
私が剣を振るえば簡単に切れそうな彼女。でも私がそれをすることはない。
「全て終ったようだな」
「ああ」
彼女はゆっくりと窓まで近づいていく。荒らされて、足の踏み場が見当たらない部屋なのに
その足取りは野原を歩くかのように自然だ。
「迷っているな」
壊れた窓から外を眺めていた彼女が唐突に言う。私は心を見透かされてしまったのかと動揺してしまった。
「鎌をかけたつもりだったが図星のようだな。大方自分のやったことが正しかったのか悩んでいるのだろう」
「あなたなら特定の記憶だけぐらい消せるはずだ。こんなことをしなくてもよかったんじゃないのか?」
「裏設定流出を防ぐ。これは半分の理由でしかない」
彼女は一旦言葉を切る。私から見える窓の外はとても晴れていた。
彼女はあの窓から何を見ているのだろうか。
「もう一つの理由は調査のためだ」
「調査?」
「そうだ」
彼女がゆっくりと歩き出す。
「私の分身が言ってなかったか? あいつらは創作物としての成長がこれ以上見込めないと。
 逆に言えばあいつらは創作物の終着地点にあるとも言える」
「創作物の……終着地点」
「創作は今までも、そしてこれからも永久に続く。そこに終着地点などない。生物の進化と同じだ。
 だがあいつらは創作物の袋小路に辿り着いた。最もそこまでの過程が非常に短かったがな。
 故に洗練された終わりではない。乱雑な終わりだ」
饒舌に喋る彼女に圧倒される。私はただ観ているだけ。彼女は喋り続ける。
「そのために私の分身とお前を呼んだのだ。おかげでいろいろとデータが取れた。
 私が直接相手したほうがいいだろうが出来ないからな」
「なぜだ?」
やっとどうにか口を挟むタイミングを見つけたので発言する。
普段は喋り役なのでどうも聞き役は居心地が悪い。
「私の強さは次元が違う」
彼女はにやりと笑う。自信満々に言うが私は彼女がどれほど強いのかは知らない。
しかしこれだけ断言できるのだから相当強いようだ。
「さてと、館を改装して戻るか。まだここを目指す無限桃花はいるからな」
「……また同じような事態になったら私を呼ぶのか」
「いや、呼ばない。もうこれ以上は無意味だからな」
部屋の物から光が玉となって上っていく。この館に刻まれた幾許かの歴史が失われていく。
ふと私は疑問に思った。あいつらの魂はどこへと向かうのだろうか。
この屋敷が消えれば彼女たちがいた証明も消える。存在しなかったことにされた魂の行方。
「ハルトシュラー、一つ頼みごとがあるのだけど聞いてくれないか?」
魂があるかどうかなんてわからない。でもないよりかはきっとマシなものになるだろう。
この館にいた全ての無限桃花たちのために。



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