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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第6話 C 1/3


 『グアァ!』
 「くろいりゅーをみるのはこれでにかいめですし、ふえふえ」
 ビルの屋上。月を背に戦う二つの影。
 片方は大きな龍の形をしていた。飲み込まれてしまいそうな黒。その黒の中で二つ、光る眼がギョロリともう一方の
影を睨む。もう一方の影は随分小さくて、龍の影の掌ほどの大きさしか無い。
 『死ね!!』
 「ふぇ!」
 龍の影は、鋼鉄さえも分断してしまいそうな黒く、鋭く尖った爪を携えた腕を振り下ろす。小さな影はそれをひらりと
かわす。まるで空を舞うティッシュが人の手をヒラリヒラリと避けるように、小さな影は龍の影の攻撃を避ける。避ける。
避ける。これがまたなんとも上手いもんだ。
 月が丁度真上に差し掛かり。月光がビルの屋上一帯に降り注ぐ。
 『トエル…!お前を倒さなければ私は死んでも死にきれない!!』
 そこには、大きな黒い竜と。
 「ふぇ!あのよでおれにわびつづけろー!なんてな!ふえぇぇ!」
 小さな金髪ツインテールの幼女があった。

 その光景は狂っており、どこか悲しい様相を醸し出していた。


 第六話
―「テロリストのウォーゲーム」#last―


 「機械に主観は無い。故に」


―――…

 「――、こっちよ…?」
 「待ってよ、……ちゃん、私まだ…!」
 そこは公園だった。幼い少女が二人、仲良く遊んでいる。
 (…?これはいったい…?)
 トエルには当然見覚えの無い光景。彼女のメモリー・データに、このような記録は残っていない。
 「ほうら、おいて行っちゃうよ」
 見知らぬ少女は、立ち止まる。外見は淡い限りなく白に近い黄色の髪。瞳は蒼く鮮やかな、例えるならブルーハワイ。
恐らく外人だろうか?…なんにせよ、トエルはこの少女のことを知らないし、状況判断するための情報量も乏しい。
 「手、繋いで。そうしたら離れないでいられるから」
 「もう、しかたないなぁ」
 見知らぬ少女が手を差し出す。すると辺りは白く靄がかかり始め…

―さぁ、おきて…新しいあなたの、朝がきたよ…―

―早く来て…私を…―

 (また、このこえ…ふぇ!ふぇ!ふぐあい!ふぇ!)

 「…トエルちゃん…?こ、声が…どうかしたのかなっ?」
 「ふぇ!?」
 気がつくと、トエルは一行の宿泊する宿の部屋にいた。当然だ、彼女たちはここで寝泊まりしているのだから。
 (だったら…さっきのは…?)
 珍しく物難しそうに思考するトエルを見て、笑みをこぼす陰伊。トエルの人間臭い一面を見て、おかしな親近感を彼女は持っていた。
 機関の人間は、何処か冷たい人間ばかりだ。陰伊がいつも仲良くしている白石だって、戦いが始まれば容赦のない戦人と化す。
 「…あ、そういえばきょーはタケゾーたちとあそぶやくそくしているんだった!ふぇふぇ!」
 だから、トエルが年相応の人間味溢れる行為をすることを陰伊はとても喜ばしく思った。
 「へえ、友達…かな?」
 「わたしのあたらしい、あいがんようにくどれいどもよ。ふぇ」
 「一体そういう言葉どこから仕入れてくるのかなぁ…?」

―騒動前日―

 「へぇ、トエルちゃんがねぇ…良いことでしょや」
 街中の見回りをする陰伊達。一緒になった白石に陰伊はトエルに友達ができたことを話していた。
白石も機械とはいえまだ幼いトエルの子どもらしい一面に感心しているようだった。本来子供は元気に遊ぶもの。
戦いに明け暮れている方がおかしいというもの。
 照りつける日差しが二人の肌を焦がす。本日は快晴、外で元気に遊び回るには申し分ない絶好の日和といえよう。
 陰伊は遊びに行くトエルの姿を思い出す…

―『おーい、トエルー、いこーぜー!』
―『ふぇ、いってくる!』―

 同年代の子供に混じって遊ぶ彼女の姿は、紛れも無い無垢な幼女であった。
戦闘のための機械ではなく、ただの一人の幼女だ。今頃は暖かい日の光の中楽しそうに子供達と戯れているで
あろうトエルの姿が陰伊の瞼の裏に写る。いつの日か、全ての子供達がそんなふうに何も考えずにただ楽しく遊べる
ような、そんな世の中が来ればいいなと陰伊は思い、今後の活動も気を引き締めて取り組もうと決意するのだ。

 見回りを始めて数十分、ぐうぅ…と、二人どちらかの腹の虫が鳴る。この食いしん坊な腹の虫はどちらのものか?
それは当人のみが知る。いや、白石の腹の虫なのだが、彼女が意味もなくとぼけるものだから陰伊は「もしかしたら私
の?」
だなんて勘違いを起こしてしまう。まぁ流石に陰伊もそこまで馬鹿じゃないのか「やっぱり幸ちゃんの腹の虫でしょ?」
と問いただした。「いや、そうだけど」と、無駄に誤魔化したと思えば今度はしれっと白状する白石。
何がしたいんだかよく分からない。放縦な自由人である。時刻は正午。丁度お昼時だ。
 白石は昼食を摂ろうと提案し、二人は定食屋などを探すことにした。二人の歩いている通りはどちらかと言えば人通りの多い、表通りと言ったところ。これならすぐに食事にありつけるだろうと楽観視していた二人だったが、なかなか良い店が見つからない。
 もう適当な場所で済ませてしまおうかと思った矢先、何者かが二人の肩を叩く。
 「ん?誰?」
 「…お前達、昼食はまだのようだな?」
 「た、武藤サン!?」
 予想外の人物に素っ頓狂な声を出す白石。二人の肩を叩いたのは第九英雄、武藤玄太であった。
 「良い店を知っている。この武藤がつれていってやろう」
 「あはは…いや~私達は…ちょっと…」
 「この俺、武藤の誘いを断るとは…カカカ…なかなか度胸があって良い。命知らずは嫌いじゃないんでな…」
 「ご一緒させていただきやす!べさ!」
 武藤が笑顔がそこまで恐ろしかったのか、白石は空気を読んで即答した。そりゃ、あんなシマウマを狙う
チーターの様な顔をされて、片やハムスター程度の度胸しか無い白石にそれを断れと言う方が酷である。

…………………………

 「さぁ、食え。麺が伸びる」
 「は、はぁ…」
 「い、いただきますっ…」
 武藤が連れてきたのは、お世辞にも綺麗とは言えない10畳程度のボロ屋で、メニューはラーメンだけなところから、
どうやらここはラーメン屋であるという事がわかった。店内は、奥で籐椅子に腰掛け莨を吹かす店主のオヤジが一人いるだけである。
 従業員の姿は見当たらない。それにしても、食事しようと言うときに莨を吹かすのはいかがなものか。ただでさえ狭いというのに。
 白石は莨の煙が不快だった。せめて換気扇回せよと思うも、換気扇は見るからに黒ずんで、油でギトギトだった。
これは酷い。白石は心の底からジョイ君したい衝動に駆られた。
 そんな白石を横目に、陰伊はラーメンの入ったどんぶりに手を掛けた。熱い。高温に熱した器が陰伊の手を阻む。
しかし、目の前で風味する香ばしい鶏ガラの匂いと、歯ごたえの良さそうな縮れ麺を前にして、
彼女に退くという選択肢は存在し得なかった。丼に再度手を掛ける。熱い。そんな事知ったことかと、
陰伊は丼に口を付け、スープを賞味する。
 …旨い。素朴な味だ、雑味が無い。完成されたスープだと陰伊は思った。鶏ガラメインかと思っていたスープは、
その実海鮮ベースであった。海鮮類が鶏ガラのコテコテ感を見事に中和している。
微妙なさじ加減を巧く見せている、正に職人の技が光る逸品であった。

 「おいしーい!店は酷いけど味は最高だべさ」
 美味しいものを食べれば文句などすべて吹き飛ぶ。味で語る…中々男気あふれるスタンスの店だ。内装はさておき、
味は確かなものであった。
 「…お前達、あのロボットは一緒ではないのか?」
 武藤は、レンゲで黄色掛かった茶褐色のスープをすくったところでふと思い出したように言った。ロボットとはトエルのことだ。
 「なんか遊びに行ったみたいですよ~?ズルズルうまうま」
 白石は麺を豪快に啜る。汁が飛び散ってあまりマナーが良くない。
 「あの機械が…な…」
 「トエルちゃんは機械だけど…ちゃんと人らしい一面も持っていますよっ?」
 「…果たして本当にそうか?」
 「え?」
 武藤は陰伊の言葉を嘲笑うようにして言う。
 「あれは…ただのプログラムだ。人間のように振舞うよう作られた…な?」
 「そ、そんなことないです!」
 陰伊は武藤の言葉にカチンときた。彼女はトエルをそんな冷たい言葉で一蹴されてしまうのが嫌だった。
機械でもちゃんと心を持っているはずなんだ!と、陰伊は反論する。
 「トエルちゃんはちゃんと笑ったり怒ったりします!」
 「ふ…あれは人間のように振舞うため、精神をデータ化したものを随時使用しているだけだ。あれの感情ではない」
 「でも…友達を作っていました!」
 「学習機能が働いたのだろう。より人間らしい動作を行うためのな…そこにアレの意思は存在しない。
人間的な行動を理解するために一緒にいるに過ぎない」
 「それでも…いいじゃないですか!機械でも、プログラムでも…トエルちゃんは自分のために…友達を作ったんです」
 「違う。言わせてもらうがこれでも俺は元学者だ。あれのことはそこそこ理解している。そもそも根本からして、
お前の言っている事は間違っている。お前の使う電化製品…そうだな、電子レンジだの洗濯機だのはお前のため
に動いているのか?自分の為に動いているのか?…違うな、そう動くよう作られているだけだ。あのロボットも一緒だ。
あたかも人間のように見せるために"作られている"だけの…ただの兵器に過ぎん」
 「そんなこと…ないです!そんなこと…」
 (ないよね…トエルちゃん…?)


 「ラーメンうめー!もう一杯!」
 白石はどこまでもマイペースであった。


―――…

―惨劇の夜―

 「今ンとこ異常はねえみてーだな…」
 月が浮かぶ寒空の下、英雄達が集う。ビルから見下ろす街並みは至って平常を保っている。
 「た、頼みますよ英雄様…!」
 依頼主の役所の最高責任者、森喜久雄は第一英雄炎堂に念入りに聞く。炎堂は「大丈夫っすから、そこで高みの
見物していてくださいや」と喜久雄にとって心強い言葉を掛けた。喜久雄の心配はわずかに軽減されるも…敵の正体はわかっておらず。英雄達にとっても気は抜けない状況であった。
 「トエルちゃん、敵の反応はどうかしら?」
 冴島はトエルに現在の状況を聞く。トエルがネコミミmodeで探知するも、敵の反応はまだ無いようだ。
 「敵はまだ来ていないみたいね…一応警備の人間も大勢いるし大丈夫だとは思うけど、引き続き探知をお願いね」
 「ふえ、え、え、え、え、え…」
 猫耳をぴょこぴょこと動かすトエル。冴島はその姿にキュンキュンと心奪われてしまいそうになる。
 (だめだめ、今はそういう事考えてる状況じゃないでしょ…)

 「いやぁ、このまま何事もなく終わってくれればいいんだけどなぁ~」
 第五英雄青島は、そんな甘いことを考えていた。
 「そうだね…それが一番なんだけど…」
 「現実は、厳しいものだべさ…!」
 陰伊も白石も、青島の言葉には同意であったが、そんな事には絶対にならないんだろうなと溜息を吐いた。
 「…はぁ、それなら俺達はここにいないですよ…青島先輩」
 呆れたように言う第十英雄、裳杖。一同そんな事は分かっているつもりだが、やはり少しは期待してしまうと言うもの。
 「…来たな…」
 ふと、武藤が呟く。それに少し遅れてトエルが声を上げる。
 「ふえぇぇぇぇぇ!いぎょーはんのー!いぎょーはんのー!いぎょーたすうしゅつげん!ふぇ!」
 「何!?突然過ぎやしねぇか!?」
 あまりに急な知らせに浮き足立つ一同。そこで冴島は一喝を入れ、全員を落ち着かせる。
 「皆、ここは慎重に行きましょう。奇襲役の青島くんは武藤さんと…」
 「冴島さん、武藤玄太なら『フハハ!さぁ俺を、この武藤を愉しませてみろ!』とかいって行ってしまいましたが」
 そんな裳杖の報告に頭を抱える冴島。何故ウチの組織はこうも纏まりが無いのか。いい加減嫌になってくる冴島であった。
 「…じゃあ、青島くんは裳杖くんと前線に出て。私と白石さんはビル周辺の警護にあたるわよ」
 「了解」
 「了解!行こうぜ裳杖!」
 「了解だべさ」
 指示に従い、前線へと赴く青島と裳杖。
 「システムダウンロード…『青龍』…!」
 「システム『大裳』…展開!」
 デバイスを放り投げ、空中で発光するデバイスの光が二人を包み込む。武装展開…それぞれの得物を手にした二人は、ビルの屋上から飛び降りる。
随分高いビルであったが地につく直前、ホバリングを使用。二人はうまく着地したようだ。
 「あの…私はっ…?」
 「陰伊さんは陣くんと一緒に中間地点を守って。前線を突破した異形を討伐して」
 「了解!」
 「ふふ…わかったよ…いこうか…陰伊さん」
 「は、はい…!」
 懐からデバイスを取り出す陰伊と陣。掌を押し付け、宙へ放り投げる。二人のデバイスは手形認証式だ。
手形認証した人間しか武装展開出来ない仕組みになっている。
 「システムオープン!『勾陣』!」
 「英雄『大陰』…で、出ます!」
 武装展開し、赤青二本の槍を携える陣。双剣を構える陰伊。二人の英雄は無言でお互いの顔を見合わせ、頷く。
 『"ワイヤー"』
 『"ワイヤー"』
 陰伊と陣はワイヤーをビルの手摺に巻きつけ、ゆっくりと降下して行く。その様子を見届けると、冴島は次なる指示を出した。
 「炎堂君はビル周辺を警戒してください」
 「へっ、年上に命令するたァ、随分偉そうなこって」
 「無駄口叩かない」
 「あ~へいへい…わかりましたよーっと…システム『騰蛇』起動!」
 こうも冴島に仕切られては年長の立場がない炎堂は、しょぼくれながらデバイスにカードキーを差し込む。
炎堂のデバイスは初期型で、カードキー認証式だ。英雄武装システムは一から十二まであるのは以前説明したが、
それらのデバイスの番号は製造順で決まっている。英雄達の番号もデバイスの番号に準じており、
決して加入順で決まっている訳でははないことを付け加えておこう。それでも、炎堂は最古参の英雄なのだが。
 「ふぅ…さ~て…いっちょ行くかぁッ!」 『"ジェット"』
 武装展開した炎堂の主要武器は銃剣銃。加えて彼は空を飛ぶ事のできるブーストユニットという武装を擁している。
 最初の英雄武装システムだけあって、特別製なのだ。
 炎堂は背中のブーストを起動する。ユニットは火を吹き、炎堂の体は宙に浮かぶ。目下に広がる街並み。
炎堂は適度にあたりを見回し、地形と状況を把握するとユニットのエンジンを強め、燕の如く急降下していく。
 体に受ける風が気持ちいい。炎堂を止めるものなど誰もいない。
 「…じゃあ、私達もいきましょうか、白石さん。トエルちゃんはビル内部で依頼人を護衛していてください」
 「ふぇ!まっかせといて!」
 「じゃあ…いきます!」
 「開放します!デバイス名・『六合』!!」
 「システム『白虎』…解凍開始!」ベーンベンベンベンベーン
 冴島はカードキーを差し込み、白石は三味線をかき鳴らした後、デバイスを放り投げる。
 「!?…白石さんのその音って、三味線だったの?」
 「そうだべさ」
 「…どっから出したの、それ」
 「細かいことは気にしなーい」
 …どこから三味線を出したのかはここではひとまず置いといて、白石のデバイスは音声認識を搭載している。
別に手形認証も可能なのだが、せっかくある機能を使わないのは損だということで白石は音声認識を使用しているのだ。
 「行くわよ!トエルちゃん…また後でね」
 「いい子にしているべさ~」
 ビルの階段を使い、下へと降りていく冴島と白石。
 英雄達はそれぞれの戦場へと赴き、最後に残ったのはトエル一人、いや一機か。
 機械の体は夜の寒気にあてられ、表面は随分冷たくなっていた。血の通わぬ体。機械であるから当然の事。
彼女の凍るような瞳は街に向いていて、ただ静止して戦場を見つめている。…彼女は今、何を考え何を思っているのか?

―――…

 「ふふふ…陰伊さんと一緒に…出撃できるなんて…うれしいなぁ…」
 「?…陣くんどうしたの…かな?」
 「ん…なんでも…ない…」
 陣と陰伊はビルから適度に離れた地点までやってきていた。敵の数は不明。いつ何時襲いかかってくるかも分からない。
 たくさんの人間の気配はあった。だが、驚くべきはその静寂。緊迫した状況なのだろう、緊張がそこら中から伝わってくる。
 ドクンドクンと、心音が怖いくらい良く聞こえた。寒空に晒され、体温との温度差により手が湿った。
武器を落とさないように、陰伊はより一層握る手の力を強め、前へと進んだ。
 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
 「?…悲鳴!?」
 「こっち…かなぁ?」
 静寂を破るように耳に入ってきた男性の悲鳴。陰伊は先を行く陣に続いた。嫌な予感を胸に抱えて…

 「がは…」
 『俺達の邪魔を…するなぁ!!』
 『悪くおもわないでよね…!!』
 「…なんて事…!!」
 二人が駆けつけた先に広がっていたのは、血と肉片で彩られた…惨状であった。異臭が陰伊の鼻につく。
こんなことをした者は他の誰でもない、目の前に居る、腕を紅く染めた黒い異形。
 陰伊は己の未熟さを恥じた。なぜもっと早く駆けつけられなかったのか、まだ救えた命もあっただろうに…と。
そんな自責の念は怒りとなって異形達に向く。
 「あなた達…こんな酷い事を…!」
 『やらなきゃ殺られる…!お前も…殺す!!』
 二人に気がついた黒い異形は、目を合わせるやいなや猪突猛進、突っ込んできた。二足歩行の獣型。
走り方がやけに人に近いものであった。
 「あまいなぁ…君、異形にしては…戦い慣れ…してなさそう…だね…」
 『ぐぅッ!!』
 陰伊に襲いかかる一体の異形。そうはさせないと間に陣が割って入る。そんな陣をなぎ払おうと
異形は闇夜に光り、人の肉体など意図も簡単に引き裂けそうな爪の生えた大きな腕を振り下ろすが、
その爪撃は陣の赤い槍により受けとめられる。
 「ありがと…陣くん」
 「仲間を守るのは…英雄として…当然なんでしょ…?」
 『じゃまだぁぁ…』
 「ふーん、君、人の言葉が…わかるんだ…?」
 『当たり前だ…!!』
 「じゃあ…これは…わかるよね…『油断大敵』」
 『"ライトニング""スピア"』
 「!?」
 電流を帯びた青い槍が異形の肩を貫く。吹き出す血が、陣の顔にかかった…陰伊はその瞬間、陣の口元がニィ…と
ゆがんだように見えたような…そんな気がした。
 『ぐあぁぁぁぁッッ!!』
 『ッ!…よくも!!』
 肩を刺された異形を見て、激昂したもう一体の異形が突進してくる。
 「もう一匹いたか…」
 「じ、陣くん…私は大丈夫、そっち…お願い!!」
 そう告げた陰伊は向かってくる異形を迎え撃つべく、コードをデバイスに入力する。
 『"ライトニング""セイバー"』『"ブレイブ""セイバー"』
 片方の刃は風圧の刃を纏い、もう片方の刃は電流を帯びる一振り。御丁寧に真正面から突進してくる異形に陰伊は
タイミングを合わせるようにして…刃を振り下ろす。
 「あなたに恨みはありませんが…倒させていただきます!」
 『が…!?』
 電流を纏った刃が異形の肩から脇腹にかけて、斜めに切り刻む。陰伊の冷静かつ正確な一撃が異形を捉えたのだ。
陰伊は容赦なく第二撃を繰り出す。異形に背を向けるようにして空圧の刃を、第一撃で与えた切り傷の丁度ど真ん中に突き刺す。
 『!!……、・・・・・、・ ・ 』
 異形はそのまま絶命した。陰伊に迷いは無かった。人を殺した異形、さすがの陰伊も許せなかったのか?それとも
それ以上に人々を救えなかった自分が許せなかったのかは不明だが。

 『俺は!負けられない!大切なものを守るためにも!うらあ!しゃあ!』
 「しつこいね…君…英雄に…敵う訳ないのに…」
 肩を貫かれても尚、陣に向かってくる異形。でたらめに腕を振り回すも、腕に重りが付いているかのように、
その攻撃は遅く、陣にとっては簡単に見切れる速さであった。距離をどんどん詰めてくる異形。陣の背中が壁につき、
逃げ場がなくなったところで、陣はコードをデバイスに入力した。
 『"ジョグレス""ランス""スピア"』
 「ちょっとした…冥土の土産に…いいものを見せてあげるよ…」
 『何をする気だ…?』
 陣は二つの槍を空に投げた。するとそれらは重なり…まばゆい光を発して…一つの槍となった。
 エメラルドのように透き通る柄と先程より倍以上にも大きくなった槍刃部。空高く浮かぶそれを陣は飛び上がり、
その手に収める。そしてすかさず彼はコードを入力する。
 『"リミット""ジャベリン"』
 「君は…運が良い…」

 「即死だから…これ」

 陣は嵩にかかるような口調で呟く。
 閃光が走ったように、歪み無い直線を描く陣の槍は、一秒と経たないで異形の頭に到達する。赤く発光した槍は
半径5mを巻き込むようにして、浅いクレーターを作る。そのクレーターの中心に立つ陣。異形の首は…消失していた。

 「やったね…陰伊さん…」
 「うん…」
 生臭い、人間の死臭だけがその場に充満している。陰伊は虚しくなった。目に映るのは赤いモノばかり。ヒトだったモノばかり。
 先程まで胸にこみ上げていた、心の臓に渦巻いてどうしようもなかった怒りは、嘘のように泯滅し、
ただただ喪失感だけが陰伊の心に残っていた。
 雲に隠れていた、月が顔を出す。月光が惨状を照らし出す。
 「…?」
 月に照らされた死体と肉片と血があるだけの路地…陰伊はふと、違和を覚える。何かが…足りない。
そこにあるはずのものが…ないのだ。陰伊はよく目を凝らし、辺りを見回す。すると、どんどん自分の体が
冷たくなっているのがわかった。顔が青冷めていくのがわかった。だってそこには…


 人間の死体しか、無かったのだから。


 「え…?な、なんで…?」
 陰伊は錯乱していた。殺したはずの異形は何処を探しても見当たらなく、人の死体しか見つけられなかった為である。
 陰伊は異形が倒れているはずだった場所に目線を移す。おかしな事に、そこには何か別のモノがあった。
 「…そんなわけない、そんなわけ…」
 陰伊の心音は更に早くなる。先程まで静かだった街は、いつの間にかそこら中から叫び声が聞こえてくる
阿鼻叫喚の戦場と化しているにも関わらず、陰伊の耳には自分の心音しか聞こえていなかった。
 「…嘘…そ、そんな…!?」

 そこにあったのは、腹部を深く刺され動かなくなっている子供の死体であった。自分が刻んだ傷、自分が開けた穴。
それらが認めたくない陰伊に現実を突きつける。

 今まで斬っていたのは…人間?

 「嫌…いやあっぁっぁぁぁああああああああ!!!」
 乱痴気に、半狂乱に陰伊は叫び散らした。
 人を殺した。子供を殺した。
 「なんでなんでなんで…どうして…うぅ…うえぇぇ…」
 拒絶のあまり、陰伊は嘔吐する。胃から胃液が全部出てしまうような勢いで、内臓が裏返って飛び出しそうな苦痛が
陰伊を襲う。拒んでも覆らぬ現実。そこにある事実。そのすべてが陰伊の心を折った。
 「私は…私は…人を…ヒトを…!!!」
 「…これはどういう…あ…、陰伊さん何処に…」
 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ…ああああああああああ!!!」
 陰伊は逃げ出した。現実から逃げ出した。

 到底受け入れることなど出来ない"人の死"から。

―――…

 「くくく…ハァーハッハッ!!!」
 『こいつ…なんなんだよ…』
 「良いねぇ…命のやり取りその極限状態が、この武藤の血をたぎらせる。さあ行くぞ異形共、この俺、武藤が行くぞ
貴様等の本気、見せてみろ…」
 武藤は一人、4~5体の異形に囲まれていた。そんな劣勢であるにも関わらず武藤が怯むことはない。
 この男の奥に潜む弥立つような狂気。常人ならば畏怖の念を抱かずにはいられないだろう。
 ギラつく眼はさながら獣。圧倒的な力量が異形達を蹂躙する。限りなく自然体に近い武藤は、さもそれが自然の摂理
であるかのように異形達を屠っていく。威圧され、怯んでいるのは異形の方であった。
 『う、うわあああぁぁぁぁ!!』
 「そうだそうだ。どんどんかかって来い。何も考えるな、ただ本能に従え!はは!」
 また一体、異形が武藤に突撃する。異形達は、この男に勝てる気がしなかった。自分達が勝利した絵を、
どうしてもイメージすることが出来なかったのだ。
 「そうだ…もっと戦え!戦いだけが俺の無聊を慰めてくれる…!」
 武藤は歓喜に震え、生を謳歌する。
 その姿、英雄にあらず。ただ狂気にまみれた、鬼人がいた。

―――…

 「…そこまでよ!」

 「此処から先は、この第三英雄冴島六槻と…」
 「第十一英雄、白石幸が通さない!!」
 冴島達の守るエリアに現れた異形と人間の子供。今回の騒動に関係しているのは不明であったが、何かかしら
繋がりはあると、冴島は見ていた。ともあれ喜久雄の居るビルに向かっているようだったので通すわけには行かない。
 「悪いけど…異形が現れたっていう報告も上がってきてるし…ゆっくりやってあげる時間はないの」
 『"ゲール""ガトリング"』
 「命まで取りはしない…足を狙って、身動きを取れなくします!!」
 冴島がガトリングで威嚇射撃をする。これで帰ってくれれば一番良いのだが…相手が子供であればなおさらである。
 「隠れても無駄よ…!」
 「大人しく捕まるべさ~!!」
 子供達はコンクリートのフェンスに身を隠すが、冴島達にはバレバレであった。おそらく戦いには慣れていない素人
…そもそも子供が戦い慣れしていたらそれはそれで恐ろしいものだが。
 「異界に存在する強者よ…今一度我にその力を貸し与え賜え!」
 「召喚!!現れろ!汝が名は"悪世巣 寄生"!!」
 追い詰められ、後がなくなった子供達の一人…銀の角が一本生えた異形の少女が何らかの魔術を発動させた。
強い光。ゴーグルがなければ眼を一時的にやられていただろうことが予想できる。
 これも彼らの力なのだろうか?突如として宙に現れたのは火狐の化物。
 「我の名は悪世巣。寄生四天王の一人…」
 火狐は、そう名乗った。炎燃え盛る尻尾に、鋭い牙を覗かせる大きな口。厳かな風貌の化物だ。
 「な、何だべ!?」
 「悪世巣寄生・野狐とは我のことよ…愚かな人の子よ」
 (上級種…かしら?)
 そんな恐ろしい狐の化物を見ても、冴島は納め顔を崩さない。数多の戦場を駆け抜けてきた経験からくる落ち着き。
冷静さ。それが冴島の厚い信頼を置かれる所以であった。
 「また変なのが出てきたわね…白石さん、場の状況を見極めつつ応戦して!」
 「あいあいさー!!」『"ブレイブ""クロウ"』
 「ククク…お前達が何者かは知らぬが…その体、なかなか使えそうだ…寄生させてもらおうッ!」

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