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ファンタジーと言えば魔法だろう 7
※1-537の続き
604 : ◆91wbDksrrE :2009/03/16(月) 21:53:37 ID:EoOt3Ke8
未知という感覚は、感情を強く揺さぶり、動かす。それは情動を持つ人間ならば、
誰一人として例外なく、だ。
「あれ?」
細波が立った心。その所以は未知。だが、未知は未だ知らぬ事故に、それを所以とする
と気付ける事も、また少ない。知らないが故の情動を、知らないが故にそれと気付かず、
心の細波は苛立ちとなって募る。
彼女が先程高崎祐太一人を残し出て来たはずの教室の前に、我知らぬ内に立っていた
のは、無意識の結果だ。だが、無意識はその名に反して、全くの無から発生し、なにがし
かの現実をもたらすことは無い。心の細波が、未知の情動に揺さぶられた心が、彼女を
この教室に向かわせた。
その情動を、もしも他人が目にする事ができたならば、彼らは残らずそれをこう呼び
称すだろう――嫉妬、と。
時には大きな原動力となり、世界を展開させる大いなる力となる事すらもある感情の
名は、だがしかし一般的に好まれてはいない。何故ならば、嫉妬という情動は、その多く
が発展の方向には向かわず、破滅の方向へと向かうからだ。
だが、彼女はその情動が嫉妬と呼ばれるものである事に気付いていない。気付く為の
切っ掛けすらも、彼女にはない。
高崎祐太と滝野美由。普通ではない二人に、普通の自分。だがしかし、それだけでは
嫉妬する必要はどこにも無い。普通である事を、苦痛に思った事は、彼女にはなかった。
才能を持った人間を羨む事はあっても、そのステージに無い自分を悔やむ気持ちを、
彼女は持った事がなかった。生まれてこの方一度も。
ある意味、それは普通とは言い難い特質なのかもしれないが、彼女にとってはそれが
普通であり、内面の問題であるが故に、それが普通ではない可能性を考えるに至る機会が、
彼女には今までなく――よって、それは彼女にとっては普通だった。どうしようもなく。
つまり、この嫉妬は、普通ではない二人へ対する焦がれや妬みではない。彼女の内面に
沿う限り、そういう事になる。つまりは――
「……なんで、教室の前に? 今から、高崎君と滝野さんが会って……それで……」
告白。
その言葉が脳裏をよぎった時、彼女は胸に小さな痛みを覚えた。
「わたしは……ここにいちゃ、邪魔に……な……る……」
――違う。邪魔になるのは違わないが、違う。
「……お似合い、だよね、二人。普通じゃない男の子と、普通じゃない女の子」
――そして、自分は普通の女の子だ。普通じゃない男の子を、ただ側で見ているだけで
満足してしまっていたほどに、普通の。
「だから、上手く……きっと上手く行って……それで……」
今までと違うのは、そこだった。
彼が……高崎祐太が女子から告白を受けるのは、何もこれが初めてではない。この二年
の間、両手で余る程に告白を受け――そして、その尽くを断ってきた。
――相手が普通の女の子だったからだ。
そう、彼女は思っていた。そして、普通でない女の子など、彼の周りにいるはずが無い、
とも。普通でない人間が、そうそういてたまるか、と。
何故そんな風に考えていたのだろうと、何故そんな風に安心していたのだろうと、彼女
は心を揺らしながら思う。
その考えが正しいという事は……つまり、普通でない人間が現れたら、その時彼は、
その人を受け入れてしまうという事なのに。
「……滝野、美由」
彼女は、彼とお似合いだと、そう叶も考えている。それはつまり、彼女が普通ではない
という点で、彼に似つかわしいという意味だ。
――ああ、そうか。
その瞬間、叶の心から曇りが消え、一色に染まった。
情動の正体が嫉妬である事に気付き、未知が一つ消え――
何故自分がここに立っているのかに気付き、未知が一つ消え――
自分が彼を好きだと思い、そして自分が普通だからと諦めていたのに気付き――
道を、一つ見出した。一つの色に染まった空を駆ける道を。
「普通じゃなくなれば、わたしでもいいのよね?」
空が一色に染まる時。それは、晴天に晴れ渡った時と、もう一つある。
闇夜が空を覆い尽くした時だ。曇っていようが雨が降っていようが、暗闇は全てを覆い
尽くし、ただ一つの色へと染め上げる。ただひたすらの、漆黒へと。
誰一人として例外なく、だ。
「あれ?」
細波が立った心。その所以は未知。だが、未知は未だ知らぬ事故に、それを所以とする
と気付ける事も、また少ない。知らないが故の情動を、知らないが故にそれと気付かず、
心の細波は苛立ちとなって募る。
彼女が先程高崎祐太一人を残し出て来たはずの教室の前に、我知らぬ内に立っていた
のは、無意識の結果だ。だが、無意識はその名に反して、全くの無から発生し、なにがし
かの現実をもたらすことは無い。心の細波が、未知の情動に揺さぶられた心が、彼女を
この教室に向かわせた。
その情動を、もしも他人が目にする事ができたならば、彼らは残らずそれをこう呼び
称すだろう――嫉妬、と。
時には大きな原動力となり、世界を展開させる大いなる力となる事すらもある感情の
名は、だがしかし一般的に好まれてはいない。何故ならば、嫉妬という情動は、その多く
が発展の方向には向かわず、破滅の方向へと向かうからだ。
だが、彼女はその情動が嫉妬と呼ばれるものである事に気付いていない。気付く為の
切っ掛けすらも、彼女にはない。
高崎祐太と滝野美由。普通ではない二人に、普通の自分。だがしかし、それだけでは
嫉妬する必要はどこにも無い。普通である事を、苦痛に思った事は、彼女にはなかった。
才能を持った人間を羨む事はあっても、そのステージに無い自分を悔やむ気持ちを、
彼女は持った事がなかった。生まれてこの方一度も。
ある意味、それは普通とは言い難い特質なのかもしれないが、彼女にとってはそれが
普通であり、内面の問題であるが故に、それが普通ではない可能性を考えるに至る機会が、
彼女には今までなく――よって、それは彼女にとっては普通だった。どうしようもなく。
つまり、この嫉妬は、普通ではない二人へ対する焦がれや妬みではない。彼女の内面に
沿う限り、そういう事になる。つまりは――
「……なんで、教室の前に? 今から、高崎君と滝野さんが会って……それで……」
告白。
その言葉が脳裏をよぎった時、彼女は胸に小さな痛みを覚えた。
「わたしは……ここにいちゃ、邪魔に……な……る……」
――違う。邪魔になるのは違わないが、違う。
「……お似合い、だよね、二人。普通じゃない男の子と、普通じゃない女の子」
――そして、自分は普通の女の子だ。普通じゃない男の子を、ただ側で見ているだけで
満足してしまっていたほどに、普通の。
「だから、上手く……きっと上手く行って……それで……」
今までと違うのは、そこだった。
彼が……高崎祐太が女子から告白を受けるのは、何もこれが初めてではない。この二年
の間、両手で余る程に告白を受け――そして、その尽くを断ってきた。
――相手が普通の女の子だったからだ。
そう、彼女は思っていた。そして、普通でない女の子など、彼の周りにいるはずが無い、
とも。普通でない人間が、そうそういてたまるか、と。
何故そんな風に考えていたのだろうと、何故そんな風に安心していたのだろうと、彼女
は心を揺らしながら思う。
その考えが正しいという事は……つまり、普通でない人間が現れたら、その時彼は、
その人を受け入れてしまうという事なのに。
「……滝野、美由」
彼女は、彼とお似合いだと、そう叶も考えている。それはつまり、彼女が普通ではない
という点で、彼に似つかわしいという意味だ。
――ああ、そうか。
その瞬間、叶の心から曇りが消え、一色に染まった。
情動の正体が嫉妬である事に気付き、未知が一つ消え――
何故自分がここに立っているのかに気付き、未知が一つ消え――
自分が彼を好きだと思い、そして自分が普通だからと諦めていたのに気付き――
道を、一つ見出した。一つの色に染まった空を駆ける道を。
「普通じゃなくなれば、わたしでもいいのよね?」
空が一色に染まる時。それは、晴天に晴れ渡った時と、もう一つある。
闇夜が空を覆い尽くした時だ。曇っていようが雨が降っていようが、暗闇は全てを覆い
尽くし、ただ一つの色へと染め上げる。ただひたすらの、漆黒へと。
――――――――――――――
「……いつ来るのかは言ってなかったからなぁ」
高崎祐太はそう呟き、教室の窓の向こうに見える空を見上げた。
時刻は夕方。既に空の大部分は朱に染まり終え、薄紫の夜闇の気配を漂わせ始めている。
逢魔が刻と呼ばれるこの時刻は『澱み』が最も活性化する時刻であるという。確かに、
今まで彼が『澱み』と対峙し、そして退治してきたのは、例外なくこの時刻だった。
だが、今日の所はその気配は無さそうだった。彼自身の感覚――微弱な物だが――に
かかる気配もなく、そして彼の使い魔――のようなもの――である、彼とは比べ物に
ならない程鋭敏な感覚を持つ黒猫、リリからの知らせもない。基本的に祐太といつも一緒
にいるリリだが、流石に教室内にまでついてくるわけにはいかず、今も屋上でダラダラと
暇つぶしをしているはずだ。
「……しかし……いつ来るんだろ」
既に、一時間余を待ったが、待ち人――滝野美由は来る気配すらも無い。
部活が盛んなわけでも無いので、校庭から聞こえる声もまばらだ。皆家路に着き、校舎
からは段々人の気配自体が消えていく。
「滝野、美由か」
この一時間余で三度程考えた事を、再び彼は考え始めた。
彼女は、一体自分に何の用なのだろうか、と。
彼女はこの学校において、よく名を知られている。その特異な外見と、その特異な外見
を全く意に介しもしない自然体故に。容姿もそれなり以上のレベルであり、性格も明るい
らしいという。だから、この学校において彼女の事を知らない人間はおらず、また、彼女
の事を悪しざまに言う人間も、ほとんどいなかった。
そんな人間が、一体自分に何のようなのだろうか。
その自問の答えを彼が掴むには、切っ掛けとなる情報があまりに無さ過ぎる。故に、
数分の時間を経て、彼は四度目の思索も、これまでの三度と同じく短い時間で打ち切った。
次に考えるのは別の事だ。
先程、どうして芳原叶はあれ程までに怒っていたのであろうか、と。
こちらの自問は、この一時間の間に初めて浮かんできた問いだ。こちらもまた、答えを
掴むきっかけは無さそうな自問であったが……だがしかし、と彼は思う。
「こっち先に考えないとな……」
彼女と祐太は、一年余の付き合いになる。切っ掛けは単純なものだ。たまたま一年の
時にクラスが同じとなり、たまたま席が後ろになり、話してみたらたまたま気が合い、
それ以降貴重な友人としての付き合いが続いている。偶然がもたらした縁ではあったが、
二年次にクラスがまた一緒になったと知って、それなりに嬉しかったりもした。
何故か他の人間が自分と距離を置きたがる中――もっとも、邪険に扱われているというわけでも無いのだが――、彼女のように分け隔てなく接してくれる友人は、彼にとって
は非常にありがたかった。
彼女が怒っていた理由はさっぱりわからないが、その怒りを静めてもらわない事には、
今後の学校生活に支障が出かねない。
「……うーん」
だが、やはりその原因は皆目見当がつかない。きっかけすらも思い当たらない。それに
関しては、滝野美由の呼び出しについてと同じだ。
「別にここの所、何か迷惑かけた事はなかったはずだしなー……」
彼女に迷惑をかけた事も、この一年余何度かあったが、あそこまでの剣幕で当たられる
ようなことをした覚えは、最近に限って言えば祐太にはなかった。
「……うーん」
まだ見ぬ学校の人気者とは違い、直接学校生活の利便性に関ってくる問題だ。あっさり
思索を打ち切ってしまうことはせず、首を捻って唸り始める。
「そういえば……」
と、五時間目の休み時間において彼女と交わした会話を彼は思い出した。彼女はやたら
と、滝野美由と自分が会うという事に拘っていなかったか。
「ファン、だとか?」
ふと思いついた推論だったが、それもありえるかもしれない。二年生の間でも、あの
滝野美由と言えば『妹にしたい女子、人気ナンバーワン』『小動物的な所が可愛い女子、
人気ナンバーワン』『あの銀髪神秘的でいいんじゃね、人気ナンバーワン』などの種々の
ランキングで常にトップを取っている。
高崎祐太はそう呟き、教室の窓の向こうに見える空を見上げた。
時刻は夕方。既に空の大部分は朱に染まり終え、薄紫の夜闇の気配を漂わせ始めている。
逢魔が刻と呼ばれるこの時刻は『澱み』が最も活性化する時刻であるという。確かに、
今まで彼が『澱み』と対峙し、そして退治してきたのは、例外なくこの時刻だった。
だが、今日の所はその気配は無さそうだった。彼自身の感覚――微弱な物だが――に
かかる気配もなく、そして彼の使い魔――のようなもの――である、彼とは比べ物に
ならない程鋭敏な感覚を持つ黒猫、リリからの知らせもない。基本的に祐太といつも一緒
にいるリリだが、流石に教室内にまでついてくるわけにはいかず、今も屋上でダラダラと
暇つぶしをしているはずだ。
「……しかし……いつ来るんだろ」
既に、一時間余を待ったが、待ち人――滝野美由は来る気配すらも無い。
部活が盛んなわけでも無いので、校庭から聞こえる声もまばらだ。皆家路に着き、校舎
からは段々人の気配自体が消えていく。
「滝野、美由か」
この一時間余で三度程考えた事を、再び彼は考え始めた。
彼女は、一体自分に何の用なのだろうか、と。
彼女はこの学校において、よく名を知られている。その特異な外見と、その特異な外見
を全く意に介しもしない自然体故に。容姿もそれなり以上のレベルであり、性格も明るい
らしいという。だから、この学校において彼女の事を知らない人間はおらず、また、彼女
の事を悪しざまに言う人間も、ほとんどいなかった。
そんな人間が、一体自分に何のようなのだろうか。
その自問の答えを彼が掴むには、切っ掛けとなる情報があまりに無さ過ぎる。故に、
数分の時間を経て、彼は四度目の思索も、これまでの三度と同じく短い時間で打ち切った。
次に考えるのは別の事だ。
先程、どうして芳原叶はあれ程までに怒っていたのであろうか、と。
こちらの自問は、この一時間の間に初めて浮かんできた問いだ。こちらもまた、答えを
掴むきっかけは無さそうな自問であったが……だがしかし、と彼は思う。
「こっち先に考えないとな……」
彼女と祐太は、一年余の付き合いになる。切っ掛けは単純なものだ。たまたま一年の
時にクラスが同じとなり、たまたま席が後ろになり、話してみたらたまたま気が合い、
それ以降貴重な友人としての付き合いが続いている。偶然がもたらした縁ではあったが、
二年次にクラスがまた一緒になったと知って、それなりに嬉しかったりもした。
何故か他の人間が自分と距離を置きたがる中――もっとも、邪険に扱われているというわけでも無いのだが――、彼女のように分け隔てなく接してくれる友人は、彼にとって
は非常にありがたかった。
彼女が怒っていた理由はさっぱりわからないが、その怒りを静めてもらわない事には、
今後の学校生活に支障が出かねない。
「……うーん」
だが、やはりその原因は皆目見当がつかない。きっかけすらも思い当たらない。それに
関しては、滝野美由の呼び出しについてと同じだ。
「別にここの所、何か迷惑かけた事はなかったはずだしなー……」
彼女に迷惑をかけた事も、この一年余何度かあったが、あそこまでの剣幕で当たられる
ようなことをした覚えは、最近に限って言えば祐太にはなかった。
「……うーん」
まだ見ぬ学校の人気者とは違い、直接学校生活の利便性に関ってくる問題だ。あっさり
思索を打ち切ってしまうことはせず、首を捻って唸り始める。
「そういえば……」
と、五時間目の休み時間において彼女と交わした会話を彼は思い出した。彼女はやたら
と、滝野美由と自分が会うという事に拘っていなかったか。
「ファン、だとか?」
ふと思いついた推論だったが、それもありえるかもしれない。二年生の間でも、あの
滝野美由と言えば『妹にしたい女子、人気ナンバーワン』『小動物的な所が可愛い女子、
人気ナンバーワン』『あの銀髪神秘的でいいんじゃね、人気ナンバーワン』などの種々の
ランキングで常にトップを取っている。
「……最後の奴の意味はよくわからんが」
もしかしたら、叶も彼女のファンであり、呼び出された自分に嫉妬していたのではないのか――そんな推論に、だが彼は首を横に振る。
「あいつが、そんな嫉妬したりする奴なわけないし、な」
嫉妬という感情と、芳原叶という少女とは、彼の中では全く結びつかなかった。彼女が
そういう人間であるという事を――嫉妬という感情に縁遠い存在であるという事を、彼は
よく知っていたからだ。
「……うーん……うーん……」
ようやく掴んだ自問の答えへに至るきっかけは、だがしかし、これまでの彼女とは全く
そぐわないものであり――彼はただただ首を捻るばかりだ。
「明日、会った時に聞いた方が……早い、よな?」
そして、とうとう考える事をやめようかと思い立った、その時だった。
ガラリという、教室のドアが開く音。
「……あら、高崎君。いたのね」
音に顔を上げた祐太が見たのは、入り口に立っている芳原叶の姿だった。
「ああ、芳原か。丁度いいと、こ……ろ?」
正確に言えば――入り口に立っている"漆黒の何かを全身に帯びた芳原叶"の姿を、だ。
「……お前、それ……何だよ?」
問いはしたが、答えはもうわかっていた。微弱とは言え、それの気配を感じる力は、
彼もまた持っているのだから。
「聞いて、高崎君……私、普通じゃなくなったの」
『澱み』――それが、彼女の、芳原叶の全身を覆うように、纏わりついていた。まるで
仮面のように顔の半分を覆い、そして胸当てのように上半身を覆い、マントのように全身
を覆っている。休み時間に見たように思った黒い揺らぎ。その正体はこれだったのだと
今更ながらに気付き、祐太は歯がみした。既にそれは揺らぎどころか、確固たる実存を得てそこに在る。――漆黒の鎧として。
「普通じゃなくなれば……高崎君と一緒に、ずっと、居られる……そうでしょう?」
『澱み』が人に憑く――その可能性自体は、祐太も考えた事があった。
『澱み』とは、文字通り世界の澱んでいる場所に発生する物だから、人の心の、身体の
澱みに『澱み』が発生しても、何らおかしくないという推論だ。その推論の大元なった
のは、この手の化物を取り扱ったフィクションにおいて、化物が人に憑かないはずがない
という、ややメタな推測だったりもしたのだが――果たして、その推論は正しかった。
「……すまんが、何言ってるのかわかんねえ」
彼女の半分覗いた頬には、朱が差している。瞳は潤み、まるで愛の告白でもせんが如き様相だ。そして、実際口にしているのは――
「私、ずっと好きだったんだって、やっとわかったの。高崎君の事」
――紛う事無き、告白の台詞だ。
「……それが、お前の心の澱みか、芳原」
友人だと思っていた少女。だが、彼女は密かに恋心を抱いていて、それを自分自身で
すらそれに気付いていなかった――それが心の隙間を、心の澱みを生まないわけが無い。
嫉妬という感情に縁遠い生き方をしてきたからこそ、初めて囚われた反動は、大きい。
「私の質問……はいかイエスで答えて?」
「どっかの世界の守護者みたいな事言うなよな……」
「ふふ……ごめんね、いいえもノーも要らないの、私は」
笑みを浮かべた彼女の掌に、輝きが宿る。
「っ……おま、それ……っ!?」
漆黒の鎧が脈動し、彼女の掌に集まった輝き――魔力を更に高めていく。
本来ならば、修練によってのみ人の身で使う事が可能になる、魔法という力。それを
彼女はまったく修練無しに使おうとしていた。
「凄いでしょ? こんな力使えるようになっちゃった。これが当たったら、高崎君なんか
一発で消し飛んじゃうよ?」
楽しそうな口調とは裏腹に、その言葉は物騒極まりない。だが、それが事実であろうと
言う事は、祐太にはわかった。彼女がその掌中に集約している力は、地に属する魔力だ。
恐らくは、重さをひたすらに増す類いの術だろうと、彼は当たりをつけていた。教室内の
埃が、魔力の余波によって吸い寄せられていくのがその根拠だ。もしも喰らえば、十トン
トラックに轢かれたように、全身がバラバラになるだろう。
「『澱み』に憑かれた人間は、魔法をも使いこなすってか……」
「聞かせて、高崎君……」
もしかしたら、叶も彼女のファンであり、呼び出された自分に嫉妬していたのではないのか――そんな推論に、だが彼は首を横に振る。
「あいつが、そんな嫉妬したりする奴なわけないし、な」
嫉妬という感情と、芳原叶という少女とは、彼の中では全く結びつかなかった。彼女が
そういう人間であるという事を――嫉妬という感情に縁遠い存在であるという事を、彼は
よく知っていたからだ。
「……うーん……うーん……」
ようやく掴んだ自問の答えへに至るきっかけは、だがしかし、これまでの彼女とは全く
そぐわないものであり――彼はただただ首を捻るばかりだ。
「明日、会った時に聞いた方が……早い、よな?」
そして、とうとう考える事をやめようかと思い立った、その時だった。
ガラリという、教室のドアが開く音。
「……あら、高崎君。いたのね」
音に顔を上げた祐太が見たのは、入り口に立っている芳原叶の姿だった。
「ああ、芳原か。丁度いいと、こ……ろ?」
正確に言えば――入り口に立っている"漆黒の何かを全身に帯びた芳原叶"の姿を、だ。
「……お前、それ……何だよ?」
問いはしたが、答えはもうわかっていた。微弱とは言え、それの気配を感じる力は、
彼もまた持っているのだから。
「聞いて、高崎君……私、普通じゃなくなったの」
『澱み』――それが、彼女の、芳原叶の全身を覆うように、纏わりついていた。まるで
仮面のように顔の半分を覆い、そして胸当てのように上半身を覆い、マントのように全身
を覆っている。休み時間に見たように思った黒い揺らぎ。その正体はこれだったのだと
今更ながらに気付き、祐太は歯がみした。既にそれは揺らぎどころか、確固たる実存を得てそこに在る。――漆黒の鎧として。
「普通じゃなくなれば……高崎君と一緒に、ずっと、居られる……そうでしょう?」
『澱み』が人に憑く――その可能性自体は、祐太も考えた事があった。
『澱み』とは、文字通り世界の澱んでいる場所に発生する物だから、人の心の、身体の
澱みに『澱み』が発生しても、何らおかしくないという推論だ。その推論の大元なった
のは、この手の化物を取り扱ったフィクションにおいて、化物が人に憑かないはずがない
という、ややメタな推測だったりもしたのだが――果たして、その推論は正しかった。
「……すまんが、何言ってるのかわかんねえ」
彼女の半分覗いた頬には、朱が差している。瞳は潤み、まるで愛の告白でもせんが如き様相だ。そして、実際口にしているのは――
「私、ずっと好きだったんだって、やっとわかったの。高崎君の事」
――紛う事無き、告白の台詞だ。
「……それが、お前の心の澱みか、芳原」
友人だと思っていた少女。だが、彼女は密かに恋心を抱いていて、それを自分自身で
すらそれに気付いていなかった――それが心の隙間を、心の澱みを生まないわけが無い。
嫉妬という感情に縁遠い生き方をしてきたからこそ、初めて囚われた反動は、大きい。
「私の質問……はいかイエスで答えて?」
「どっかの世界の守護者みたいな事言うなよな……」
「ふふ……ごめんね、いいえもノーも要らないの、私は」
笑みを浮かべた彼女の掌に、輝きが宿る。
「っ……おま、それ……っ!?」
漆黒の鎧が脈動し、彼女の掌に集まった輝き――魔力を更に高めていく。
本来ならば、修練によってのみ人の身で使う事が可能になる、魔法という力。それを
彼女はまったく修練無しに使おうとしていた。
「凄いでしょ? こんな力使えるようになっちゃった。これが当たったら、高崎君なんか
一発で消し飛んじゃうよ?」
楽しそうな口調とは裏腹に、その言葉は物騒極まりない。だが、それが事実であろうと
言う事は、祐太にはわかった。彼女がその掌中に集約している力は、地に属する魔力だ。
恐らくは、重さをひたすらに増す類いの術だろうと、彼は当たりをつけていた。教室内の
埃が、魔力の余波によって吸い寄せられていくのがその根拠だ。もしも喰らえば、十トン
トラックに轢かれたように、全身がバラバラになるだろう。
「『澱み』に憑かれた人間は、魔法をも使いこなすってか……」
「聞かせて、高崎君……」
彼の呟きなど意に介する事もなく、彼女は彼に尋ねた。
「私のこと、好き? 普通じゃなくなった私のこと……好きになってくれた?」
答えなければ……あるいは、否定したならば、その時はあの掌中に集めた力を、彼女は
揮ってくるだろう。はいかイエスで答えろという言葉は、紛う事無き彼女の本気。
彼は自らの足元に意識を向け、イメージを創り上げながら、答えた。
「……そりゃあ、好きだよ。一年前からずっと好きだ」
誤魔化す事無く、今彼が持っている、本当の気持ちを。
「友達として、な」
一瞬歓喜の花を咲かせた彼女の表情が、すぐに落胆に歪む。そして、その歪みはすぐに
別の形へと……諦観と、憎しみの笑みへと、その姿を変えていった。
「そう……やっぱり、私より滝野さんの方がいいんだ……やっぱりそうなんだ。あは、
あはは……そうよね、やっぱりそうなるわよね……あはははははははははははははは」
その笑い声に狂気を感じた瞬間、
「じゃあ、死んで」
祐太はその場を跳び退いた。
炸裂音と共に、一瞬前まで彼がいた場所にあった椅子と机が粉々になる。その光景を
視界の隅で確認しながら、彼は魔力によって強化された脚力で、叶との距離を取った。
「あら、外れちゃった……残念」
「……すげえ威力だな、おい」
見れば、椅子と机を粉砕するだけでは飽き足らなかったのか、彼女の拳はリノリウムの
床を突き破り、その下のコンクリートを破砕して、肘の辺りまで突き立っていた。
今まで対峙した、どんな『澱み』との戦いでも、ここまでの破壊力にお目にかかった
事はなく、思わず素直な感嘆の声を漏らしてしまう祐太。
「やだ、褒めないでよ……これから、この力が貴方を穿つんだから、ね?」
そう言って笑う彼女の頬は、まるで何日も絶食したかのように、扱け始めていた。
「……やめろ、芳原。そんな風に力を使い続けてたら、お前の身体がもたない」
魔法とは、面倒な力だ。使えば使う程、身体の中に内在するエネルギーを消費する。
その結果としての痛みや苦しみは、精神力で抑えられるが、エネルギーそのものを補う
事は、精神力ではできない。そしてその消費の割合は、身体能力の強化や事象の操作より
も、無からの創造の方が大きい。例えば今叶が使っているような、重力場をその手に発生
させるような使い方だ。
祐太ですら、無からの創造――己の拳に炎をまとわせるのは、『澱み』を一撃する
その一瞬だけなのに、今叶がしているような、ずっと力を発生させ続けるような使い方を
していては身体がもたなくなって当然。
だが、そんな言葉に彼女はその顔に浮かべた笑みを深くする。
「あら、忠告? それは友人としての? だったら聞けないわね。恋人としてのなら、
聞いてあげてもいいんだけど。それに……」
彼女の身体がゆらりと揺れるようにして近づいてくる。その動作があまりにゆったりと
していた為、距離を詰められたのだと認識した時には、彼女は祐太の目の前にいた。
認識よりも先に身体の方が反応し、咄嗟に回避行動をとる。
制服の胸を掠め、再び教室の床を粉砕する、叶の拳。
「……多分、私がどうにかなるより、高崎君がバラバラになっちゃう方が、早いよ?」
扱けた頬に、しかし笑みは変わらず、彼女はめり込んだ床から腕を引き抜いた。
「……お前にヤンデレの素質があったとは、思いもしなかったな」
「手に入らないなら壊しちゃえ。当然の話じゃない? ホントは、滝野さんの方を
バラバラにしてあげようかと思ったんだけど、今後滝野さんじゃなくても、私じゃない、 誰か違う人と、高崎君が付き合っちゃうかもしれないって思ったら………………選択肢
は一つよね? うん、やっぱり当然の話ね」
「そういうのを病んでるって言うんだよっ!」
祐太が跳ぶ。今度は、逃げる為にではなく、攻撃する為に。
こういった場合、物語の通例に則って考えれば、普段『澱み』に対してしているような
攻撃をすれば、宿主である叶ごと殺してしまいかねない。そして、普通の人間にならば
効くはずの攻撃は、彼女がまとった『澱み』の鎧によって弾かれる事になるだろう。
では、どうすればいいか。
魔力で高めた脚力でフェイントを交えて跳ぶ。途中自分に向けて振われた叶の拳を
紙一重でかわし、背後へと回り込む。叶の動きを見る限り、彼女の身体能力自体は多少
『澱み』の力で強化されているのかもしれなかったが、身体の捌き方などはごく普通の
少女と変わる所は無い。祐太が付けこもうとしたのは、そこだった。
「私のこと、好き? 普通じゃなくなった私のこと……好きになってくれた?」
答えなければ……あるいは、否定したならば、その時はあの掌中に集めた力を、彼女は
揮ってくるだろう。はいかイエスで答えろという言葉は、紛う事無き彼女の本気。
彼は自らの足元に意識を向け、イメージを創り上げながら、答えた。
「……そりゃあ、好きだよ。一年前からずっと好きだ」
誤魔化す事無く、今彼が持っている、本当の気持ちを。
「友達として、な」
一瞬歓喜の花を咲かせた彼女の表情が、すぐに落胆に歪む。そして、その歪みはすぐに
別の形へと……諦観と、憎しみの笑みへと、その姿を変えていった。
「そう……やっぱり、私より滝野さんの方がいいんだ……やっぱりそうなんだ。あは、
あはは……そうよね、やっぱりそうなるわよね……あはははははははははははははは」
その笑い声に狂気を感じた瞬間、
「じゃあ、死んで」
祐太はその場を跳び退いた。
炸裂音と共に、一瞬前まで彼がいた場所にあった椅子と机が粉々になる。その光景を
視界の隅で確認しながら、彼は魔力によって強化された脚力で、叶との距離を取った。
「あら、外れちゃった……残念」
「……すげえ威力だな、おい」
見れば、椅子と机を粉砕するだけでは飽き足らなかったのか、彼女の拳はリノリウムの
床を突き破り、その下のコンクリートを破砕して、肘の辺りまで突き立っていた。
今まで対峙した、どんな『澱み』との戦いでも、ここまでの破壊力にお目にかかった
事はなく、思わず素直な感嘆の声を漏らしてしまう祐太。
「やだ、褒めないでよ……これから、この力が貴方を穿つんだから、ね?」
そう言って笑う彼女の頬は、まるで何日も絶食したかのように、扱け始めていた。
「……やめろ、芳原。そんな風に力を使い続けてたら、お前の身体がもたない」
魔法とは、面倒な力だ。使えば使う程、身体の中に内在するエネルギーを消費する。
その結果としての痛みや苦しみは、精神力で抑えられるが、エネルギーそのものを補う
事は、精神力ではできない。そしてその消費の割合は、身体能力の強化や事象の操作より
も、無からの創造の方が大きい。例えば今叶が使っているような、重力場をその手に発生
させるような使い方だ。
祐太ですら、無からの創造――己の拳に炎をまとわせるのは、『澱み』を一撃する
その一瞬だけなのに、今叶がしているような、ずっと力を発生させ続けるような使い方を
していては身体がもたなくなって当然。
だが、そんな言葉に彼女はその顔に浮かべた笑みを深くする。
「あら、忠告? それは友人としての? だったら聞けないわね。恋人としてのなら、
聞いてあげてもいいんだけど。それに……」
彼女の身体がゆらりと揺れるようにして近づいてくる。その動作があまりにゆったりと
していた為、距離を詰められたのだと認識した時には、彼女は祐太の目の前にいた。
認識よりも先に身体の方が反応し、咄嗟に回避行動をとる。
制服の胸を掠め、再び教室の床を粉砕する、叶の拳。
「……多分、私がどうにかなるより、高崎君がバラバラになっちゃう方が、早いよ?」
扱けた頬に、しかし笑みは変わらず、彼女はめり込んだ床から腕を引き抜いた。
「……お前にヤンデレの素質があったとは、思いもしなかったな」
「手に入らないなら壊しちゃえ。当然の話じゃない? ホントは、滝野さんの方を
バラバラにしてあげようかと思ったんだけど、今後滝野さんじゃなくても、私じゃない、 誰か違う人と、高崎君が付き合っちゃうかもしれないって思ったら………………選択肢
は一つよね? うん、やっぱり当然の話ね」
「そういうのを病んでるって言うんだよっ!」
祐太が跳ぶ。今度は、逃げる為にではなく、攻撃する為に。
こういった場合、物語の通例に則って考えれば、普段『澱み』に対してしているような
攻撃をすれば、宿主である叶ごと殺してしまいかねない。そして、普通の人間にならば
効くはずの攻撃は、彼女がまとった『澱み』の鎧によって弾かれる事になるだろう。
では、どうすればいいか。
魔力で高めた脚力でフェイントを交えて跳ぶ。途中自分に向けて振われた叶の拳を
紙一重でかわし、背後へと回り込む。叶の動きを見る限り、彼女の身体能力自体は多少
『澱み』の力で強化されているのかもしれなかったが、身体の捌き方などはごく普通の
少女と変わる所は無い。祐太が付けこもうとしたのは、そこだった。
「……ぐっ」
『澱み』の鎧に覆われていない部分……上半身が胸当てのように覆われているからこそ
露になっていた場所――首だ。
そこを狙い、祐太は腕を絡みつかせる。
「すまん、芳原っ!」
スリーパーホールドと言われるその技は、一般に誤解されているような首を絞めて
息をさせなくさせる為の技ではない。顎の下の部分、頚動脈を絞める事で、脳に酸素を
送る事ができなくさせ、気絶させる為の技だ。
かつて、魔法と同じく先生から習った体術。専門家には遠く及ばない技量しかない、
未熟な体術ではあったが、魔力による強化と、相手がそういった技術に全くの無知である
という条件が揃えば……
「通じる、はず……っ!」
「……うぅ……ぐぅぅ!」
背後から絞め上げられる状況に、叶は対処ができないはず。
宿主の意識を失わせれば、まとわりついている『澱み』も離れるはず。
この二つの推測は、だが、その二つ目を確認できないまま、一つ目の段階で破綻した。
「ぐぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
「なっ……!?」
叫びと共に、彼女の全身から力が放出される。
一瞬のタイムラグに、祐太は咄嗟の判断で彼女の首を諦め、身を固め――
「ぐはっ!?」
その姿勢のまま、教室の壁まで吹飛ばされ、打ち付けられた。
崩れ落ち、立ち上がろうとして気付く。打ち付けられた背から、全身に痺れにも似た
痛みが広がり、身体が上手く動かない事に。
「……はぁ……はぁ……なるほど、ね……私が気を失えば、この力を引き剥がせる……
大方、そんな風に考えたんでしょうけど……でも、無駄よ」
全身から魔力を放出する事で、無理矢理祐太の身体を吹飛ばしたのだろう。その代償と
して、最早眼窩まで窪ませ、肌を土気色にしながら、それでも叶は笑みを浮かべていた。
顔の半面を覆う漆黒の仮面と同じく、もう半面もまた仮面であるかのように。
「私が気を失っちゃえば……あとはもう、この子が好き勝手にするだけ……私の中の、
全ての力を使って、ね。私も死んじゃうだろうけど、高崎君も死ぬわ。でもね」
凄絶ささえ漂わせながら、ゆっくりと、ゆっくりと彼女は歩みを進める。
祐太は、膝をついて立ち上がれないまま、顔を上げて彼女の歩む様を見た。
「でも、それじゃ駄目。高崎君は、私の手で殺すの。じゃないと駄目」
「……なんでだよ、芳原」
「何故と問われれば、答えは一つかしら。……わがまま、よ」
殺す。
殺される。
『澱み』との……異形の化物との対峙においては意識する事のなかった言葉が、そんな
言葉とは全く縁も所縁も無かったはずのクラスメイトの口から紡がれる。
ギリッと握った祐太の拳には、微かに光が宿る。反撃の光。だが……殺の一文字をもたらす光。それを揮えば、体術において長じている自分は、彼女を倒す事はできるだろう。
だが、同時に彼女を殺してしまう事にも、なる。そうなってしまうだろう。
判断は妥当なものと言える。
彼は、負ける事は無い。
彼女を、殺す覚悟があれば。
「さあ、私に殺される覚悟は出来た?」
「そんな覚悟……できるわけねえだろ……」
痛みは残ったままだ。だが、立たなければならない。だから、彼は立った。
立って為すべき事は一つ。ただ一つだ。
「……俺がしなきゃいけねえ覚悟は……お前を元に戻すという覚悟だけだ!」
吠える声と共に、彼の腕に宿りつつあった魔力の光が、その瞳に移ったかのように、
彼の瞳に輝きが宿った。
どうすればそれが叶うか、彼は知らない。
だが、何をしてでも、芳原叶から『澱み』を引き剥がし、彼女を元の明るく気さくな
普通の少女に戻すという覚悟を、彼は心に決めた。
「……もう、元には、戻れないわ……だから――」
冷たく言い放つ叶の声にも、その覚悟は揺るがない。
『澱み』の鎧に覆われていない部分……上半身が胸当てのように覆われているからこそ
露になっていた場所――首だ。
そこを狙い、祐太は腕を絡みつかせる。
「すまん、芳原っ!」
スリーパーホールドと言われるその技は、一般に誤解されているような首を絞めて
息をさせなくさせる為の技ではない。顎の下の部分、頚動脈を絞める事で、脳に酸素を
送る事ができなくさせ、気絶させる為の技だ。
かつて、魔法と同じく先生から習った体術。専門家には遠く及ばない技量しかない、
未熟な体術ではあったが、魔力による強化と、相手がそういった技術に全くの無知である
という条件が揃えば……
「通じる、はず……っ!」
「……うぅ……ぐぅぅ!」
背後から絞め上げられる状況に、叶は対処ができないはず。
宿主の意識を失わせれば、まとわりついている『澱み』も離れるはず。
この二つの推測は、だが、その二つ目を確認できないまま、一つ目の段階で破綻した。
「ぐぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
「なっ……!?」
叫びと共に、彼女の全身から力が放出される。
一瞬のタイムラグに、祐太は咄嗟の判断で彼女の首を諦め、身を固め――
「ぐはっ!?」
その姿勢のまま、教室の壁まで吹飛ばされ、打ち付けられた。
崩れ落ち、立ち上がろうとして気付く。打ち付けられた背から、全身に痺れにも似た
痛みが広がり、身体が上手く動かない事に。
「……はぁ……はぁ……なるほど、ね……私が気を失えば、この力を引き剥がせる……
大方、そんな風に考えたんでしょうけど……でも、無駄よ」
全身から魔力を放出する事で、無理矢理祐太の身体を吹飛ばしたのだろう。その代償と
して、最早眼窩まで窪ませ、肌を土気色にしながら、それでも叶は笑みを浮かべていた。
顔の半面を覆う漆黒の仮面と同じく、もう半面もまた仮面であるかのように。
「私が気を失っちゃえば……あとはもう、この子が好き勝手にするだけ……私の中の、
全ての力を使って、ね。私も死んじゃうだろうけど、高崎君も死ぬわ。でもね」
凄絶ささえ漂わせながら、ゆっくりと、ゆっくりと彼女は歩みを進める。
祐太は、膝をついて立ち上がれないまま、顔を上げて彼女の歩む様を見た。
「でも、それじゃ駄目。高崎君は、私の手で殺すの。じゃないと駄目」
「……なんでだよ、芳原」
「何故と問われれば、答えは一つかしら。……わがまま、よ」
殺す。
殺される。
『澱み』との……異形の化物との対峙においては意識する事のなかった言葉が、そんな
言葉とは全く縁も所縁も無かったはずのクラスメイトの口から紡がれる。
ギリッと握った祐太の拳には、微かに光が宿る。反撃の光。だが……殺の一文字をもたらす光。それを揮えば、体術において長じている自分は、彼女を倒す事はできるだろう。
だが、同時に彼女を殺してしまう事にも、なる。そうなってしまうだろう。
判断は妥当なものと言える。
彼は、負ける事は無い。
彼女を、殺す覚悟があれば。
「さあ、私に殺される覚悟は出来た?」
「そんな覚悟……できるわけねえだろ……」
痛みは残ったままだ。だが、立たなければならない。だから、彼は立った。
立って為すべき事は一つ。ただ一つだ。
「……俺がしなきゃいけねえ覚悟は……お前を元に戻すという覚悟だけだ!」
吠える声と共に、彼の腕に宿りつつあった魔力の光が、その瞳に移ったかのように、
彼の瞳に輝きが宿った。
どうすればそれが叶うか、彼は知らない。
だが、何をしてでも、芳原叶から『澱み』を引き剥がし、彼女を元の明るく気さくな
普通の少女に戻すという覚悟を、彼は心に決めた。
「……もう、元には、戻れないわ……だから――」
冷たく言い放つ叶の声にも、その覚悟は揺るがない。
「――死んでちょうだいっ!」
振り下ろされる、叶の拳。
回避動作を取ろうとして、祐太はそれが間に合うか微妙だという事に気付く。先の衝撃
によって受けたダメージの為だ。だが、それでも彼は諦めず、その拳を輝く瞳で見据え、
何とか活路を見出そうとした。覚悟した以上、諦めることはできない。自分が諦めると
いう事は、それはつまり、自分だけではなく、叶をも死なせてしまうという事だから。
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
覚悟し、諦めないという形で、彼は自分自身を信じぬく。
実際には、もうどうにもならない、そんな状況がそこにはあった。
彼は全身にダメージを負い、満足に動く事すらできない。これ以上戦う事は、難しいと
言わざるを得ず、それどころか、叶の振うこの一撃すらも、避けられるかどうかは怪しい
ものだった。
だが、それでも彼は信じた。
それは単なる思い込みだったかもしれないが、それでも彼は信じた。
自分が彼女を助けられると。その上で、自分も生きられると。殺す事も、殺される事も
無く、またいつものような叶との他愛も無い話ができる日々が、戻ってくると。
それは、信じる力。
信じる力とは、魔法の源となる力であり、信じる力によって行使される魔法とは、面倒
で使い勝手の悪い、だが、奇跡の力である。
故に、自分自身を疑わず、信じ抜いた彼に、世界は奇跡という名の支援を行なった。
小さな奇跡――
「させないっ!」
――"彼女"が辛うじて間に合うという、そんな奇跡を。
声と共に、黒尽くめの小さな影が間に割って入ってくるのを、祐太は見た。祐太に振り
おろされる直前だった叶の拳を、その影は手に持った武器――短刀で受け止め、重力の塊と化した拳を受けきり、そして弾き飛ばした。
「き……君は……っ」
短刀は、黒く輝く光を放っていた。見覚えのある、だが見覚えの無いその光は、間違い
なく魔法によって宿った光だ。
そして、その短刀を持つ影は、有体に言って――黒子だった。
「く、黒子?」
「ぐさっ……は、話は後です、先輩!」
黒子は何やら精神的ダメージを負ったようだったが、崩れそうになる身体を持ち直し、
体勢を整え直した叶の方を見ながら、祐太に告げた。
「結界張ったんで、もう芳原先輩ぶん殴っちゃって大丈夫です!」
「……け、結界? 殴って大丈夫って……どういう事だよ、おい?」
突然の乱入者。その乱入によって、恐らくは助かったのだという事は理解できたが、
口にする言葉には理解が追いついていかない。
「説明は後で。早くしないと芳原先輩がもちません!」
理解が追いつかないのならば、ひとまずうっちゃるのは彼の流儀だ。ましてや、黒子が
言う通り、状況は切迫している。相変わらず叶はその手に魔力を宿し続けている。この
ままでは、確かに命に関る程消耗してしまうだろう。
だが、突然の乱入者を信じていいものかどうかという迷いを心に浮かべる直前に、
その迷いの種は砕かれた。
「祐太、この人の言う通りにしたら大丈夫にゃ!」
「リリ……!」
聞きなれた声に教室の入り口に目をやれば、見慣れた黒猫の姿がそこにあった。何故か
背にパンダのぬいぐるみなど背負っていたが、その事を問う必要も余裕も今は無い。
ただわかるのは、ならば、迷う事は何も無いという事だ。
「わかった……」
実際に、理解している事はほとんどないに等しかったが、応えとしてはそう答え、彼は
自らの目の前に己の掌をかざした。
「……」
痛む身体とは裏腹に、心は研ぎ澄まされている。それは覚悟故か、それとも――
己の手に宿る光が、炎の形を取る。
「……芳原」
呼びかける声に、答えはない。
振り下ろされる、叶の拳。
回避動作を取ろうとして、祐太はそれが間に合うか微妙だという事に気付く。先の衝撃
によって受けたダメージの為だ。だが、それでも彼は諦めず、その拳を輝く瞳で見据え、
何とか活路を見出そうとした。覚悟した以上、諦めることはできない。自分が諦めると
いう事は、それはつまり、自分だけではなく、叶をも死なせてしまうという事だから。
「おぉぉぉぉぉぉっ!」
覚悟し、諦めないという形で、彼は自分自身を信じぬく。
実際には、もうどうにもならない、そんな状況がそこにはあった。
彼は全身にダメージを負い、満足に動く事すらできない。これ以上戦う事は、難しいと
言わざるを得ず、それどころか、叶の振うこの一撃すらも、避けられるかどうかは怪しい
ものだった。
だが、それでも彼は信じた。
それは単なる思い込みだったかもしれないが、それでも彼は信じた。
自分が彼女を助けられると。その上で、自分も生きられると。殺す事も、殺される事も
無く、またいつものような叶との他愛も無い話ができる日々が、戻ってくると。
それは、信じる力。
信じる力とは、魔法の源となる力であり、信じる力によって行使される魔法とは、面倒
で使い勝手の悪い、だが、奇跡の力である。
故に、自分自身を疑わず、信じ抜いた彼に、世界は奇跡という名の支援を行なった。
小さな奇跡――
「させないっ!」
――"彼女"が辛うじて間に合うという、そんな奇跡を。
声と共に、黒尽くめの小さな影が間に割って入ってくるのを、祐太は見た。祐太に振り
おろされる直前だった叶の拳を、その影は手に持った武器――短刀で受け止め、重力の塊と化した拳を受けきり、そして弾き飛ばした。
「き……君は……っ」
短刀は、黒く輝く光を放っていた。見覚えのある、だが見覚えの無いその光は、間違い
なく魔法によって宿った光だ。
そして、その短刀を持つ影は、有体に言って――黒子だった。
「く、黒子?」
「ぐさっ……は、話は後です、先輩!」
黒子は何やら精神的ダメージを負ったようだったが、崩れそうになる身体を持ち直し、
体勢を整え直した叶の方を見ながら、祐太に告げた。
「結界張ったんで、もう芳原先輩ぶん殴っちゃって大丈夫です!」
「……け、結界? 殴って大丈夫って……どういう事だよ、おい?」
突然の乱入者。その乱入によって、恐らくは助かったのだという事は理解できたが、
口にする言葉には理解が追いついていかない。
「説明は後で。早くしないと芳原先輩がもちません!」
理解が追いつかないのならば、ひとまずうっちゃるのは彼の流儀だ。ましてや、黒子が
言う通り、状況は切迫している。相変わらず叶はその手に魔力を宿し続けている。この
ままでは、確かに命に関る程消耗してしまうだろう。
だが、突然の乱入者を信じていいものかどうかという迷いを心に浮かべる直前に、
その迷いの種は砕かれた。
「祐太、この人の言う通りにしたら大丈夫にゃ!」
「リリ……!」
聞きなれた声に教室の入り口に目をやれば、見慣れた黒猫の姿がそこにあった。何故か
背にパンダのぬいぐるみなど背負っていたが、その事を問う必要も余裕も今は無い。
ただわかるのは、ならば、迷う事は何も無いという事だ。
「わかった……」
実際に、理解している事はほとんどないに等しかったが、応えとしてはそう答え、彼は
自らの目の前に己の掌をかざした。
「……」
痛む身体とは裏腹に、心は研ぎ澄まされている。それは覚悟故か、それとも――
己の手に宿る光が、炎の形を取る。
「……芳原」
呼びかける声に、答えはない。
見やれば、仮面のように顔の半面に張り付いていた笑みは、既になく、代わりにある
のは黒い、黒い憎悪。歪んだ望みそのままに、彼の命を奪えたはずの一撃を妨げられた
ことで、その顔は醜く歪んでいた。だがしかし、それは彼女が本来持っている表情では
無いはずだと、それは彼女が本来持っている望みでは無いはずだと、そう祐太は自らの
心を叱咤する。
拳に宿る力に、既に殺の一文字は無い。
今あるのは、救の一文字のみ――そう、信じる。
「芳原ぁっ!」
身体は重い。だが、心は軽い。その心の軽さが、身体の重さをかきけし、彼の足を軽くする。
叫びと共に踏み込んだ一歩……いや、一跳びで、祐太は一気に叶の懐にもぐりこんだ。
その速さに、彼女の反応はついてこず――
「えっ?」
――彼女が驚きを得るのと、自らの腹部にめり込んだ彼の拳を知覚するのと、どちらが
早かったかは、彼女自身にもわからなかっただろう。あるいは、それは全くの同時だった
のかもしれない。
彼の拳は、彼女の身に纏っていた漆黒の鎧を穿ち、砕き、燃やし――だが、同じように
穿たれ、砕かれ、燃やされてしまう運命にあったはずの彼女の身体には、紙一重で届いて
おらず、何一つとして傷をつける事はなかった。
結界。その言葉の意味を、祐太は理解する。
漆黒の『澱み』の鎧は、他の『澱み』がそうであるように、燃えた灰のように、塵となって
消えた。後には、呆然とした表情で立ち尽くす叶が残されるのみ。
「……芳原、無事か?」
祐太の言葉に、しかし、彼女からの返事はなかった。
『澱み』は滅した。
だが、その『澱み』が彼女に与えた影響ががそれで消えてなくなるわけもなく――
「……あ……ふ……」
――小さく漏らした声を合図に、糸が切れたように、叶の身体は崩れ落ちた。
「芳原っ!」
彼女の身体を抱きとめた祐太は、その軽さに寒気を覚える。もしかして、彼女は……と
いう、最悪の想像が心をよぎるが――
「大丈夫です」
――その想像は、幸いにも即座に否定された。
「レンレン!」
背後で、戦いの決着を見守っていた黒子が、教室の入り口の方に声を飛ばす。
「レンレンって言うな……わかってるよ」
その声に、リリの背中に背負われていたパンダのぬいぐるみが答える。
「……パンダのぬいぐるみが、喋った?」
「黒猫が喋るんだから、パンダが喋ったっていいだろ」
「世話をかけるにゃー」
「まったくだよ……やれやれ」
背負ったまま、リリがこちらにやってきて、パンダのぬいぐるみが叶の側に降り立つ。
「んじゃ、治療するね……面倒だけど」
「大丈夫……なんだよな?」
「……大丈夫だって言ってんだろ……ん」
パンダのぬいぐるみが叶の身体に手をかざすと、白い清浄な光がそこに宿る。
「安心してください、先輩。僕も何度か治してもらった事ありますけど、レンレンの
腕は確かですから!」
「……あ、えっと……」
祐太の傍らに、黒子がやってきた。
余裕の出て来た今ならばわかる。その声色、そして小さな体躯で、黒子が女――それも
自分とさして変わらぬ年齢の、少女であるという事が。
そして、その言葉の中にある、先輩という言葉に、ある一つの予想が浮かぶ。
「もしかして、だけど……」
「はい。お待たせしてしまってごめんなさい! まさか、こんな形でお会いする事になる
とは思わなかったですけど……」
予想を口にする前に、彼女は頷く。
「初めまして、高崎先輩。僕……滝野美由って言います!」
そんな挨拶と共に取られた頭巾の下から現れたのは、銀色の髪と、その髪の持ち主で
ある少女の、人懐っこい笑顔だった――
のは黒い、黒い憎悪。歪んだ望みそのままに、彼の命を奪えたはずの一撃を妨げられた
ことで、その顔は醜く歪んでいた。だがしかし、それは彼女が本来持っている表情では
無いはずだと、それは彼女が本来持っている望みでは無いはずだと、そう祐太は自らの
心を叱咤する。
拳に宿る力に、既に殺の一文字は無い。
今あるのは、救の一文字のみ――そう、信じる。
「芳原ぁっ!」
身体は重い。だが、心は軽い。その心の軽さが、身体の重さをかきけし、彼の足を軽くする。
叫びと共に踏み込んだ一歩……いや、一跳びで、祐太は一気に叶の懐にもぐりこんだ。
その速さに、彼女の反応はついてこず――
「えっ?」
――彼女が驚きを得るのと、自らの腹部にめり込んだ彼の拳を知覚するのと、どちらが
早かったかは、彼女自身にもわからなかっただろう。あるいは、それは全くの同時だった
のかもしれない。
彼の拳は、彼女の身に纏っていた漆黒の鎧を穿ち、砕き、燃やし――だが、同じように
穿たれ、砕かれ、燃やされてしまう運命にあったはずの彼女の身体には、紙一重で届いて
おらず、何一つとして傷をつける事はなかった。
結界。その言葉の意味を、祐太は理解する。
漆黒の『澱み』の鎧は、他の『澱み』がそうであるように、燃えた灰のように、塵となって
消えた。後には、呆然とした表情で立ち尽くす叶が残されるのみ。
「……芳原、無事か?」
祐太の言葉に、しかし、彼女からの返事はなかった。
『澱み』は滅した。
だが、その『澱み』が彼女に与えた影響ががそれで消えてなくなるわけもなく――
「……あ……ふ……」
――小さく漏らした声を合図に、糸が切れたように、叶の身体は崩れ落ちた。
「芳原っ!」
彼女の身体を抱きとめた祐太は、その軽さに寒気を覚える。もしかして、彼女は……と
いう、最悪の想像が心をよぎるが――
「大丈夫です」
――その想像は、幸いにも即座に否定された。
「レンレン!」
背後で、戦いの決着を見守っていた黒子が、教室の入り口の方に声を飛ばす。
「レンレンって言うな……わかってるよ」
その声に、リリの背中に背負われていたパンダのぬいぐるみが答える。
「……パンダのぬいぐるみが、喋った?」
「黒猫が喋るんだから、パンダが喋ったっていいだろ」
「世話をかけるにゃー」
「まったくだよ……やれやれ」
背負ったまま、リリがこちらにやってきて、パンダのぬいぐるみが叶の側に降り立つ。
「んじゃ、治療するね……面倒だけど」
「大丈夫……なんだよな?」
「……大丈夫だって言ってんだろ……ん」
パンダのぬいぐるみが叶の身体に手をかざすと、白い清浄な光がそこに宿る。
「安心してください、先輩。僕も何度か治してもらった事ありますけど、レンレンの
腕は確かですから!」
「……あ、えっと……」
祐太の傍らに、黒子がやってきた。
余裕の出て来た今ならばわかる。その声色、そして小さな体躯で、黒子が女――それも
自分とさして変わらぬ年齢の、少女であるという事が。
そして、その言葉の中にある、先輩という言葉に、ある一つの予想が浮かぶ。
「もしかして、だけど……」
「はい。お待たせしてしまってごめんなさい! まさか、こんな形でお会いする事になる
とは思わなかったですけど……」
予想を口にする前に、彼女は頷く。
「初めまして、高崎先輩。僕……滝野美由って言います!」
そんな挨拶と共に取られた頭巾の下から現れたのは、銀色の髪と、その髪の持ち主で
ある少女の、人懐っこい笑顔だった――
〈続く〉
※続きは、1-615