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ファンタジーと言えば魔法だろう 6
※1-479の続き
537 : ◆91wbDksrrE :2009/02/19(木) 18:09:13 ID:NIkrdgac
妙な視線を背後から感じ始めたのは、昼休みが終わると同時に教室に駆け込んで
すぐの事。その正体に俺が気づいたのは、五時間目の休み時間の事だった。
「……ねえ、高崎君」
「ん、あ? ああ、芳原か。なんか用……か?」
俺の後ろの席に座る、芳原叶が話しかけてきた俺は、振り返ると同時に彼女の
視線と、それが五時間目の間ずっと俺に注がれ続けていたという事に、気づいた。
そこにあったのは、半眼。あるいは、ジト目。なんだか、今にも俺を責め始め
そうな、そんな視線が、俺を捉えていた。……俺、なんかしたっけか?
「用があるのはわたしじゃなかったんだけどね……昼休み、っていうか、四時間目
の始めから、どこ行ってたの?」
「い、いつもの所だけど?」
言葉にも心なしか怒気を感じる。普段の、世話好きで優しい芳原の面影はどこ
にも無い。何故かクラスでは微妙に距離を持って接される俺にとって、気安く
話せる数少ない女友達の一人で、たいがい俺がサボったらフォローしてくれるのは
こいつなんだが……しかし、一体何なんだ?
「昼休みね、滝野さんがうちに来たの。何かあんたに用だって」
「……滝野?」
「滝野美由ちゃん。一年の」
「ああ、あの有名人の」
「……あんたも大概でしょ」
銀髪に近い髪の色で目立つ上、性格も明るくて人懐っこく、尚且つ見た目も可憐
な小動物系で、同性異性問わずに人気があるらしいと、彼女については聞き及んで
いた。実際に見た事もあるが、確かに人気があるのもわかる気がした。
言ってみれば、わが学園における有名人の一人だ。……俺も大概、という芳原の
言葉の意味はよくわからないが。
しかし、そんな娘が……
「……何の用で、俺に?」
「こっちが聞きたいわよ! あの娘、なんか『他の人には言い辛い話がある』とか
言ってたわよ!? あんた、あの娘になんかしたんじゃないでしょうね!」
……な、なんなんだ、一体……なんで俺怒られてるんだ?
「何もしてねえよ。つか、なんでうちに来たのかわからないのに、そんな心当たり
があるわけねえだろ!」
「どうかしら……」
……なんでなんだ、ホントに。誰か教えてくれ。
芳原の視線は、半眼のジト目から、刺す様に睨み付けるそれに変わっている。
一体俺が何をしたって言うんだ!?
「とにかく、放課後ならあんたがいるって伝えてあるから、放課後、ここで
彼女待ってる事。いいわね?」
「あ、ああ……そりゃ構わないけどさ」
まあ、彼女みたいな有名人が、俺に何のようなのかというのは、確かに気になる
所ではあるし、会って話をしてみたいとも思うのは事実だ。
「変な事しようなんて思わないのよ?」
「思わねえよ!?」
ふんっ、と鼻息荒く、芳原は自分の席へと帰っていく。
まったくもって、理不尽としか言いようが無いな、おい……などと思っていた、
その時だった。
「えっ?」
その背中に、一瞬ありえないものを見て、俺は自分の目を疑った。
陽炎のようなゆらめきが、彼女の背に宿っていた――そう、見えたのだ。
「なによ?」
だが、俺の驚きの声に振り返った芳原には、既にそれは見えなかった。
「い、いや……なんでもない」
陽炎のような揺らめき……それは、色を持っていた。
黒い、どこまでも黒い、漆黒よりも尚黒い、無を想起させる、黒を。
すぐの事。その正体に俺が気づいたのは、五時間目の休み時間の事だった。
「……ねえ、高崎君」
「ん、あ? ああ、芳原か。なんか用……か?」
俺の後ろの席に座る、芳原叶が話しかけてきた俺は、振り返ると同時に彼女の
視線と、それが五時間目の間ずっと俺に注がれ続けていたという事に、気づいた。
そこにあったのは、半眼。あるいは、ジト目。なんだか、今にも俺を責め始め
そうな、そんな視線が、俺を捉えていた。……俺、なんかしたっけか?
「用があるのはわたしじゃなかったんだけどね……昼休み、っていうか、四時間目
の始めから、どこ行ってたの?」
「い、いつもの所だけど?」
言葉にも心なしか怒気を感じる。普段の、世話好きで優しい芳原の面影はどこ
にも無い。何故かクラスでは微妙に距離を持って接される俺にとって、気安く
話せる数少ない女友達の一人で、たいがい俺がサボったらフォローしてくれるのは
こいつなんだが……しかし、一体何なんだ?
「昼休みね、滝野さんがうちに来たの。何かあんたに用だって」
「……滝野?」
「滝野美由ちゃん。一年の」
「ああ、あの有名人の」
「……あんたも大概でしょ」
銀髪に近い髪の色で目立つ上、性格も明るくて人懐っこく、尚且つ見た目も可憐
な小動物系で、同性異性問わずに人気があるらしいと、彼女については聞き及んで
いた。実際に見た事もあるが、確かに人気があるのもわかる気がした。
言ってみれば、わが学園における有名人の一人だ。……俺も大概、という芳原の
言葉の意味はよくわからないが。
しかし、そんな娘が……
「……何の用で、俺に?」
「こっちが聞きたいわよ! あの娘、なんか『他の人には言い辛い話がある』とか
言ってたわよ!? あんた、あの娘になんかしたんじゃないでしょうね!」
……な、なんなんだ、一体……なんで俺怒られてるんだ?
「何もしてねえよ。つか、なんでうちに来たのかわからないのに、そんな心当たり
があるわけねえだろ!」
「どうかしら……」
……なんでなんだ、ホントに。誰か教えてくれ。
芳原の視線は、半眼のジト目から、刺す様に睨み付けるそれに変わっている。
一体俺が何をしたって言うんだ!?
「とにかく、放課後ならあんたがいるって伝えてあるから、放課後、ここで
彼女待ってる事。いいわね?」
「あ、ああ……そりゃ構わないけどさ」
まあ、彼女みたいな有名人が、俺に何のようなのかというのは、確かに気になる
所ではあるし、会って話をしてみたいとも思うのは事実だ。
「変な事しようなんて思わないのよ?」
「思わねえよ!?」
ふんっ、と鼻息荒く、芳原は自分の席へと帰っていく。
まったくもって、理不尽としか言いようが無いな、おい……などと思っていた、
その時だった。
「えっ?」
その背中に、一瞬ありえないものを見て、俺は自分の目を疑った。
陽炎のようなゆらめきが、彼女の背に宿っていた――そう、見えたのだ。
「なによ?」
だが、俺の驚きの声に振り返った芳原には、既にそれは見えなかった。
「い、いや……なんでもない」
陽炎のような揺らめき……それは、色を持っていた。
黒い、どこまでも黒い、漆黒よりも尚黒い、無を想起させる、黒を。
――――――――――――
その感情を、芳原叶は持て余していた。
「まったく……何なのよ」
目の前の席に座る男は、自分がどうして怒鳴られたのかわからない為か、頭を
掻きながら首を捻っている。しかし、それも当然の話だ。何故自分が彼を怒鳴って
しまったのか……それは、彼女自身にもわかっていなかったのだから。
「……何なのよ、一体」
昼休み、あの一年生と出会ってから、心に細波が立ち続けていた。
滝野美由。彼女は、普通ではない。その外見も無論だが、性格的にも彼女は人の
目を惹いてやまない。普通なら、特異な外見――その銀にも似た色の頭髪だ――が
理由となって、性格に歪みをきたしそうなものだが、彼女にはそれが無い。
今日実際に会って、話してみて思った。彼女は真っ直ぐだ。そうあろうとせず
ともそうなのか、それともそうあろうとしてそうなったのかはわからないが。
過去においては揶揄の対象ともなったであろう髪の色を隠そうともせず、ただ、
ごくごく普通に真っ直ぐでいられるという事――それが、普通ではない。
そして、高崎祐太だ。彼は、何故か異性にモテる。それもまた、彼が普通では
無い人間だからなのだと、そう叶は考えていた。
彼は、目付きがやや悪く、服装がズボラである事を除けば、それなりに整った
容姿を持っているが、それだけでは他の学校でまで噂になる事は無いだろう。
彼もまた、真っ直ぐなのだ。信じる、という行為に疑いを持つ事が無い。だから、
何か事が起こった時に、真っ先に飛び込んでいく。流石に、噂にあるような、不良
百人を一人で伸したとか、有名高校から誘いがあったのに蹴ったとか、そういった
事実は無いようだが――本人から聞いた――、例えば不良に絡まれてる人がいれば
彼はすぐ様助けに行くだろう。勉学に問題が生じれば、すぐ様それを取り戻そうと
励み、学年で十番には入ってみせるだろう。
その“信じる力”は、有体にいって普通ではない。とても、普通とは言えない。
だからこそ、彼は異性に好意を抱かれるのだろう。そう、叶は考えていた。
女子として抱くそれではないと自覚しながらも、彼女自身、彼を好ましく思って
いた。でなければ、一年の折に同じクラスとなって一年余を、友人として過ごす事
は難しかっただろう。
だが、それはあくまで友人としての好意だ。そのはずだった。
実際、彼に告白をしようという女子の仲立ちをしたことは、何度もあった。彼が
それを受けたことは、一度も無かったけれど、別にどうと思う事もなかった。喜ぶ
事もなければ、ねたましく思う事も、また。
「……何なのよ、ホントに」
だが、今回は違う。滝野美由という一年生は、違うとは言っていたが、恐らく
祐太へと告白したくて上級生の教室に来たのだろう。他に『他人にはできない話』
というのは、彼女には想像がつかなかった。
そう思ってから、彼女の心には、細波が立ち続けている。その細波は、先程
当人相手に感情をぶちまけても尚静まることは無かった。何故と問うても、何と
問うても、答えが満足に出せない自らの心は揺れ続け、細波は徐々にその大きさを
増して行き、大きくなった波は、済んでいた水面(みなも)を覆い、水の中まで
照らしていた陽の光を遮り、影を落とす。
『澱み』と言う名の影が、今まさに彼女の中に生まれようとしていた――
「まったく……何なのよ」
目の前の席に座る男は、自分がどうして怒鳴られたのかわからない為か、頭を
掻きながら首を捻っている。しかし、それも当然の話だ。何故自分が彼を怒鳴って
しまったのか……それは、彼女自身にもわかっていなかったのだから。
「……何なのよ、一体」
昼休み、あの一年生と出会ってから、心に細波が立ち続けていた。
滝野美由。彼女は、普通ではない。その外見も無論だが、性格的にも彼女は人の
目を惹いてやまない。普通なら、特異な外見――その銀にも似た色の頭髪だ――が
理由となって、性格に歪みをきたしそうなものだが、彼女にはそれが無い。
今日実際に会って、話してみて思った。彼女は真っ直ぐだ。そうあろうとせず
ともそうなのか、それともそうあろうとしてそうなったのかはわからないが。
過去においては揶揄の対象ともなったであろう髪の色を隠そうともせず、ただ、
ごくごく普通に真っ直ぐでいられるという事――それが、普通ではない。
そして、高崎祐太だ。彼は、何故か異性にモテる。それもまた、彼が普通では
無い人間だからなのだと、そう叶は考えていた。
彼は、目付きがやや悪く、服装がズボラである事を除けば、それなりに整った
容姿を持っているが、それだけでは他の学校でまで噂になる事は無いだろう。
彼もまた、真っ直ぐなのだ。信じる、という行為に疑いを持つ事が無い。だから、
何か事が起こった時に、真っ先に飛び込んでいく。流石に、噂にあるような、不良
百人を一人で伸したとか、有名高校から誘いがあったのに蹴ったとか、そういった
事実は無いようだが――本人から聞いた――、例えば不良に絡まれてる人がいれば
彼はすぐ様助けに行くだろう。勉学に問題が生じれば、すぐ様それを取り戻そうと
励み、学年で十番には入ってみせるだろう。
その“信じる力”は、有体にいって普通ではない。とても、普通とは言えない。
だからこそ、彼は異性に好意を抱かれるのだろう。そう、叶は考えていた。
女子として抱くそれではないと自覚しながらも、彼女自身、彼を好ましく思って
いた。でなければ、一年の折に同じクラスとなって一年余を、友人として過ごす事
は難しかっただろう。
だが、それはあくまで友人としての好意だ。そのはずだった。
実際、彼に告白をしようという女子の仲立ちをしたことは、何度もあった。彼が
それを受けたことは、一度も無かったけれど、別にどうと思う事もなかった。喜ぶ
事もなければ、ねたましく思う事も、また。
「……何なのよ、ホントに」
だが、今回は違う。滝野美由という一年生は、違うとは言っていたが、恐らく
祐太へと告白したくて上級生の教室に来たのだろう。他に『他人にはできない話』
というのは、彼女には想像がつかなかった。
そう思ってから、彼女の心には、細波が立ち続けている。その細波は、先程
当人相手に感情をぶちまけても尚静まることは無かった。何故と問うても、何と
問うても、答えが満足に出せない自らの心は揺れ続け、細波は徐々にその大きさを
増して行き、大きくなった波は、済んでいた水面(みなも)を覆い、水の中まで
照らしていた陽の光を遮り、影を落とす。
『澱み』と言う名の影が、今まさに彼女の中に生まれようとしていた――
〈続く〉
※続きは、1-604