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十二使徒~ 第11話

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正義の定義 ~英雄/十二使徒~ 第11話



 「……襲われた歌姫代理の様子はどうなんですか?冴島さん」
 「……ダメね、やっぱり声を奪われてたわ。敬保さん、声魂祭までの日にちは?」
 「ニ日よ。それまでに次の歌姫を見つけて、それを守り通さなくてはいけないのですが……」
 「ふぇ!たったふつかまもるていど、らくしょーですし!」


正義の定義・第十一話
       『NEXTフェイズ』


―前回のあらすじ
なんだか
ARIAを
思い出す

さぁこぎなさーいって誰かに言わせたかったけどすっかり忘れていた19時の夜。
残暑が体力を奪い日の照る日が続きますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
外国でこういう場所があるなぁっと思って今回は水上都市。
船で町中を移動ってなんか素敵よね、一度そゆとこ行ってみたいわ!
それでは以下本編…

―――…

 都市で一番大きな病院の一室、冴島は筆談にて声を奪われた女性たちから詳しい話を聞いていた。
彼女たちから出てくるのは大体似たようなこと「気を失う前に見た人影」「水の中に引き込まれる感覚」だ。
水の異形か?それにしてもまだ情報が足りない。冴島はどのようにして犯人を炙り出すかを考える。
 「さて、どうしましょうか……?」

 所変わって、歌姫代理が襲われる前に一行が居た練習ホール。最初、白石達が訪れたときはがらんどうだった
ホールはうって変わって大量の人集りが出来ていた。
 「わわわ、敬保さん!この人集りは一体なんなんですかっ!?」
 この光景を見て驚く陰伊。
 病院に被害者を送り届けた一行が練習ホールに戻ってきてみるとこんなにも人がいるんだからさあびっくり。
ただでさえ小さい建物に、溢れんばかりの人が押詰状態。よく見ると、集まっているのは女性ばかりだ。
 「はあ、またか……」
 敬保は苦笑いを浮かべる。また、ということは以前もこういう事があったのだろう。
 「またって…」
 「こいつら全員、歌姫の座を狙ってるんだよ。歌姫が襲われたら、次の歌姫を探さなくちゃいけないでしょ?
だからここでオーディションするんだけど……ここ数日、歌姫がすぐに駄目になるものだから、
みんな慣れちゃったんだろうね。歌姫がまたやられたって噂をすぐに聞きつけて、
歌姫候補になろうと我先にって、公募しなくても告知しなくても人が集まる」
 瀬鈴栖は呆れたように話した。
 「ふえ?なんでおそわれるかもしんないのに、みんなやりたがるの?」
 トエルは思っていた事を口にした。確かにそうだ、何人も被害が出ているのに進んで歌姫という役を買って出る
とはどういうことか?
 瀬鈴栖はトエルの質問に、こう答える。
 「水の妖精・歌姫はこの街の顔みたいなものだからね~…私は興味ないけど」
 自嘲気味に言ってみせる瀬鈴栖の顔は、どうも浮かないようで。その様子が顔に出ているかと思った瀬鈴栖は
すぐに首を2、3振り、顔を崩し普段の顔へと戻す。
 「オーディションかあ、いっちょ私もでてみよっかなぁ?」
 半分冗談、半分本気の白石。冴島がこの場にいれば例のごとく「遊びに来たんじゃない!」と一喝されていた
ところであったが、幸い今冴島は病院である。この機を逃す手はないと思ったのだろうか?白石はだんだん
やる気が出てきたようで、敬保に「私もオーディション受けてもいいですか?」と聞いていた。

 「問題ないわ。歌が上手ければ誰でも大歓迎です。こっちの紙に名前を書いてくれれば……」
 「よっしゃ!じゃあ私エントリーするべさ!」
 敬保の快諾を聞き、白石はすぐにエントリーを決めた。用紙に名前を書くと、陰伊にもエントリーさせようと
陰伊に出場を勧める。
 「ええ…わたしはいいよぉ…」なんて渋っていた陰伊も、白石に後押しされ結局エントリーすることに。
何だかんだで二人ともこういうお祭り事は好きなのだろう。
 「北条院さんはいいの?エントリーしなくて」
 ぼけっと棒立ちしていた北条院にも聞く白石。ビクッと体が震えたところを見ると、北条院の意識はいままで
何処かへ飛んでいっていたのだろうと、白石はそれを微笑ましく思った。白石は気がついていないが、
北条院の頭なんて白石と同等程度しかない。つまりアホである。
 「遠慮しますわあ、私おうたは苦手ですの」
 「ふぇ!じゃあわたしがでてやんよ」
 「え?トエルちゃんも出るの?」
 「でてやんよ!してやんよ!やんよやんよ!」
 どういう訳か、トエルもエントリーすると言い出した。正直歌はあまり期待できそうにないが……

 そんなこんなで、次の歌姫を決める、ドキドキ歌姫オーディションが開催される運びとなった。


 「…、……」
カキカキ。
 「……?どうしたの絵里座?なになに…?」
 人でごった返すホールの中から出てきた絵里座と瀬鈴栖。声の出ない絵里座はスケッチブックに文字を書いて
その心の内を伝える。書き終わったのか絵里座はスケッチブックを前に突き出す。そして書かれた言葉を瀬鈴栖は読み上げた。
 『"瀬鈴栖は、オーディションに参加しないの?"』
 瀬鈴栖は怪訝な顔する。彼女は何も言わなかった。そんな瀬鈴栖を見て、絵里座はすぐさま次の言葉を
スケッチブックに書き連ねる。
 『"私は、瀬鈴栖に歌姫をやってほしいな"』
 「……っ!やめてよ……私なんか、全然歌うまくないし…!」
 瀬鈴栖はそう言って絵里座のスケッチブックから目をそらす。しかし絵里座は諦めない。反対側に回りこんで、
瀬鈴栖の目に嫌でも入るようにスケッチブックを大きく前に突き出す。
 『"そんなことない。瀬鈴栖の歌はとっても素敵!それにあなたのお母さんは…"』
 「…!!お母さんのことは関係ないでしょ!ほっといてよ!!私は歌なんか……」

 「歌なんか大嫌いなんだからっ!!」

 「…っ!?……!…!」
 絵里座を振り切るようにどこかへと走っていく瀬鈴栖。引きとめようにも、絵里座の口から声は出ず…… 


 「さくらーさーくみーらーいこーいゆめー♪」
 キンコカンコンキンコンカンコンキーンコーンカーン
 「はーい、今の歌は海苔屋店主の蛸壺さんでしたー。続いてのエントリーは……」
 「再生機関の陰伊三さんでーす」
 いよいよ始まったオーディション。中々伯仲した争いが繰り広げられる中、とうとう陰伊の出番がやってきた。
白石等が見守る中、いざ、ステージへと上がる陰伊。大勢の人間の視線が一気に陰伊に集まる。
 「あわわ…は、初めまして、陰伊三ですっ!」
 「陰伊さん、だいじょうぶですか~?」
 「は、はいっ!」
 司会の人間が気遣う中、陰伊は呼吸を落ち着かせる。よし、いける。覚悟した陰伊は司会のに合図を送り、
準備が出来たことを伝える。それを受けた司会は曲目を発表するのだった。
 「それでは陰伊さんに歌ってもらいましょう……曲は"天城越え"」

 (あんな若い子が天城越え……)
 (つか、演歌かよ…)

 「あなーたとぉ~とげぇーたいぃぃぃ……あまぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい……ごおぉおえええぇぇ~♪」

 因みに、陰伊は終始ノリノリであった。

 「えへ!ちょっとハッスルしすぎちゃった!」
 曲が終わり、ステージを後にした陰伊は真っ先に白石達の元へと歩み寄った際の一言。ちょっとどころか熱唱
しているように見えたが……まあそれは黙っておこうと白石は思った。うっすらと彼女の額に浮かぶ汗が、
彼女の熱の篭もりっぷりを物語っている。
 そんな陰伊の意外性を垣間見た後、続いて出番がやってきたのは白石。名前を呼ばれステージに上がると
白石は自信満々といった表情を見せた。さて、彼女は一体何を歌うのか、司会から曲目が今言い渡される。

 「エントリーNo.35番・白石幸さん。歌う曲は……」
 司会の曲名紹介途中で既にイントロが流れ始める。あまり聞き慣れないパイプオルガンの前奏だ。
 会場が静まる。イントロが盛り上がってきたところでいよいよ白石はその歌声を披露する。
 「未○への咆哮!!では歌ってもらいましょー」

 「たーちあがーれけだーかくまえさだめをうけたせんしよぉー!」
 「せんのかくごみにまといッー!」
 「きみよぉおおしくはばーたけええええええッ!!!」

 会場が、一つになった。
 それはもう、審査とかそういうの関係なしに。
 気がつけばHE○TSとG○NGも歌ってた。
 一体化した会場の人間は波のように唸りを上げ、どんどんボルテージを上げていく。
 「まだまだいけんだろ!?motto!motto!」白石が会場の人間を叱咤する。
会場のテンションが最高潮に達したところでS○ILL。会場は熱気と満足感に包まれた!

 「つーか、J○Mははんそくでしょーが」

 勿論、歌唱力とか関係なしに皆エクスタシーに達してしまったので審査対象からは外れることとなった。


 「あー、きもちよかったー(満足)」
 「しらいしはかんぜんにじこまんぞくですね、ふぇふぇ」
 ふー、と一仕事終えてきたかのようにステージを降りる白石。完全に自己満足であったが本人が満足している
なのでよしとしよう。
 最後はいよいよトエルの番である。トエルの喉から美声が出るとは思えない。北条院はトエルがよっぽど歌に
自信がある様子だったので、そんなに歌がうまいのか?と率直に聞いてみた。
 「ふぇ!うたがうまいとか、へたとか、わたしにはかんけいありませんし!」
 これがトエルから返ってきた答えだった。……どういう事だろう? 

 「さぁーオーデション前半の部最後を飾りますはこの小さな少女!さてさて、どんな歌声を披露してくれるのでしょうか~!」

 トエルがステージに上がる。容姿的にも最年少。お遊戯会を見守る心境で周りの人間は見ていたのだが、
彼らはもうすぐ度肝を抜かされることになる。
 トエルの歌う曲目は昔の有名なアニメ映画の主題歌だという。司会の曲名紹介が終わり、曲がかかる。
それを確認したトエルはマイクを握り締め、前方をきりっと見据える。そして第一声が、会場を駆け抜けた。

 「あの地平線 輝くのは 何処かに君を 隠しているから」

 会場が静まり返る。少女の歌声は耳に心地良く、深く刻まれた。暖かな、包みこむような柔らかな。
呆れるほど抽象的で、言葉にするのが難しかったその歌声はそこにいる人々を別世界へと連れていった。
歌の紡ぐ物語の舞台が瞼裏に浮かび上がる。草原だった。そこは無限に広がる草原。何処へ行くわけでもなく、
ただ思うがままに放浪する。いずれ見つかるかもしれない光を夢想し、私達は旅をするのだ。
旅先で出会った人々や困難や思い出。そして決して忘れぬ両親の想い。それらを胸に私は行こう。
旅の果てに人は何を見るのか?それは己のみが知るprecious(プレシャス)……

 「ふぇ!おしまいですし!」
 歌い終わったトエルはペコリとお辞儀をしてステージを降りる。すると聞こえてきたのは沸きあがるような拍手喝采だった。


 「トトトトトトエルちゃん!?!?」
 「なにさっきのすごいの??ちょっと泣いちゃったんだけど!」
 当然、白石達から質問攻めを受けるわけで。
 「ああ、あれ?あれは……こういうことですし」
 そう言うとトエルは喉に手を当て、すぽりと何かを抜き出す。手にとって見せるそれは、小型のスピーカーの
ようなものだった。
 「……なにこれ?」
 白石はキョトンとしてそれを見る。よく見るために顔を近づけてみると、突然そのスピーカーから声が出た。
 『ふぇ!』
 「わ!トエルちゃんの声?」
 『そうですし!わたしはきかいなのでせーたいがありません。だからこのスピーカーがのどがわりで…』
 トエルは手に持つそれをいじる。するとどうだろう、トエルの声がみるみる変わっていき…
 『こんな風に、声を自在に変えることもできるのよ?』
 「うわ、これは冴島さんの声!?」
 第三英雄冴島六槻の声になる。なるほど、コレは便利だと白石達は感心した。
 「とんだコナンくんだよ」
 「あ、それ私も言おうと思っていたところですわ!」
 「バーロー!いきなり耳元で大きな声出すんじゃねえ!」
 そんな訳で、オーディション前半は波乱の展開で幕を閉じた……


―――…

 「いやぁ~、声いじってたとか、感動返して欲しいよ」
 「ふぇ!こえをいじっただけじゃありませんし!のうにちょくせつさようするトリップでんぱとかもとばしてましたし」
 「尚更感動返して欲しいしょや……」
 出番の終わった一行はオーディション会場を後にし、水萌の街を散策していた。街の中心部は陸地が多めで、
徒歩でも回れる程度に整っている為船は不要。冴島からの連絡が来るまで一行はこの美しい街を回ろうと
言い出したのは北条院だ。彼女が写真を撮りたいだけであろうことはおおよそ予想がついた。
そうは言っても滅多に旅行などできない白石らにとってこの街は魅力的すぎた。
誘惑に負けた少女たちは街へとくり出す。そこで見たものは他では滅多に見ることのできない工芸品や食べ物。
独自の文化がこの街には溢れていた。そしてそのどれもが、水を利用した、もしくは水に深く関わるものばかり
である。水上都市という特殊な状況下だからこそ、水が中心の文化が育まれているのだろう。
 気がつけば、街のシンボルである噴水が随分遼遠となってしまっていた。
 「ねえねえ、この水ようかんおいしーよ」
 「この海苔も……うまい!塩むすびに巻きたいべさ」
 「ってさっきからたべてばっかですし、ふぇふぇ」
 「ふんふ~ん……あら?あの方は……」
 上機嫌で街中の風景をカメラに収めていた北条院。あちらこちらとカメラのレンズを向けていると、
ガラスの瞳は見覚えのある少女の姿を映し出した。カメラを下ろし、その方向に目をやる北条院。
その先にはオロオロと落ち着きない様子の絵里座が途方にくれているのが見えた。
 「なんだか、困っているようですわね。ちょっと、みなさんいいかしら?」


 「それで、いったいどうしたのかなっ?」
 挙動不審だった絵里座を保護した白石達。困っている様子だったので話を聞いてみると、なんでも一緒にいた
少女・瀬鈴栖の事だとか。
 『"私は、瀬鈴栖に歌姫をやって欲しかったんです。彼女はとても歌が上手いのです。でも、彼女は歌を
歌いたがりません。さっきも、その事で喧嘩してしまって、瀬鈴栖はどこかへといってしまいました"』
 スケッチブックに事情を書き連ねる絵里座。その顔からは、友人を心配する必死な様相が見て取れる。
 「ふむ…『"私は瀬鈴栖が心配です。どうか、彼女を見つけるのを手伝ってくれませんか?"』ですって、どうします?」
 「そりゃあもちろん」
 「協力するに決まっています!」
 絵里座の頼みを、白石達は二つ返事で快諾する。二人の返事を聞き、こくんと頷く北条院、彼女も異論は無いようだ。

 「では早速、行動開始だべさ!」


―――…


―なんだ…これは…?―

 「それでは、歌姫オーディション後半の部を開始します!それでは最初のエントリー…」

―歌姫オーディションだと……?ふざけるな……―

 「ちょ、なんなんですかあなた!?」

―歌姫は、アイツしかありえねえんだよ……!―

 「何を……!?ひっ!だ、誰かたす」

―アイツ以外の歌姫なんて…認めねぇ!―


―――…

 「にしたってどうしようか?そもそも私たちは今日此処に来たばっかりだし……」
 「ふえ、おおいそがしですし。ここはわたしにまかせておけ」
 『―イヌミミmode―』
 瀬鈴栖を探そうにも土地勘のがない部外者の白石達。どうしようかと思案する前に声を上げたのはトエルだ。
何か手があるのか?一行はトエルに任せてみることにしたのだが、突然犬耳を生やしたのは少し理解が
追いつかなかった。「…それ、何の意味があるの?」と陰伊がトエルに問いかけたところ、次のような答えが返ってきた。
 「イヌミミmodeはニオイをくわしくぶんせき・かいせきするモードですし」
 いわゆる警察犬の要領で瀬鈴栖を見つけ出そうというのである。トエルは絵里座に何か瀬鈴栖の匂いの
ついたものはないかと聞く。すると絵里座は一枚のハンカチを取り出した。
 「これは……瀬鈴栖さんの?」
 陰伊が絵里座に聞くと、彼女はこくこくと頷いた。彼女の私物なら匂いも残っていることだろう、さっそくトエルは
匂いの解析を始める。
 「くんくんくん……ふえぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
 「え、いきなりなんだべさ」
 ピンと犬耳をおったてて激しい反応を見せるトエル。何事か。
 「こっちですし」
 「いきなり冷静にならないで」


 トエルの鼻を頼りに右往左往。水上都市水萌をひた歩く一行。川を下り、野を掻き分け、たどり着いた先は
町外れの湖畔。ザバーンと漣が崖に打ちつけられる音だけが鳴り響く少し寂しい場所であった。
 「ぜー、ぜぇー、ほ、本当にこっちであっているのかしら?」
 長い時間歩き続けたため、そろそろ疲れてきた北条院はトエルにまだかと聞く。トエル曰く、「このちかくにいる」
というのだが……
 ここで白石が何かを発見する。小屋だ。湖畔に建つ唯一の建造物。もしかしたらそこに瀬鈴栖は
いるかもしれないと考えた白石は、皆に小屋の存在を知らせ、あそこへ行ってみようと促す。
 「おじゃましまーす…」
 「瀬鈴栖さん、いらっしゃいませんの~…?」
 白石の見つけた小屋に入ってみることにした一行は、小屋に近づき、鍵がかかっていないのを確認すると
そっとドアノブを捻り、中に侵入した。
 そこは外装通りのおんぼろ陋屋。狭く、白石ら五人全員が入ると狭苦しくてしょうがなくなるくらいの広さ。
 足を踏み入れたトエルはまず室内を見回した。室内は薄暗いが、トエルの暗視機能搭載のハイテクアイなら問題なし。
目を凝らすと見えてきたものは、棚いっぱいに敷き詰められている何か。これはなんだろう?と思い、
手にとってみる。それはレコード盤だった。
 「ふぇ!レコード……しぶい!」
 「レコード?なにそれ」
 「ふぇふぇ。これだからわかいもんは。いいですか?このレコードというのは……」
 白石の質問にトエルが答えた。とても古い、音源記憶媒体。150年以上も前に造られ、今現存する記憶媒体の
原型になったと言われている。トエルは実際にどのようなものか見せるためここにあるはずのあるものを探した。

 「あったあった。えっと……もうレコードはもうはいってるみたいですね」
 トエルの前にあるものは、言わずと知れた蓄音機。しかし、今の世代の人間はこれを知らないようで、
白石達は物珍しそうに蓄音機を見ていた。木で出来た四角い箱、ラッパのような金管が端に取り付けられており
回転部には黒い円盤が収まっている。型から見て初期~中期型の物と見て間違いない。
 少女たちが興味深そうに見つめる中、黒いレコードは静かに回りだした。すかさずトエルは蓄音機の針を掛ける。

 「~♪~♪」

 くぐもったような音。だが柔和な心地良い音が室内をモノクロに変える。シックな雰囲気が場を包み込んだ。
そして金管から流れる女性の声。美しい歌声が、蓄音機のフィルタを通して歌われた当時の時代を想起させる。
 「ふぇ、これがレコードですし。ろまんだねぇ、ろまんだよお」
 浪漫といえば何でもいいと思っている幼女であった。
 そうしてレコードの回転が終わる。しかしどういう訳か、歌が止むことはない。
 「あれ、まだ音がなってるけど……?」
 「これって、外から聞こえてるんじゃないかな?誰かが歌ってる…?」
 「…!…っ!」
 その瞬間、絵里座は小屋を飛び出す。不意の出来事に白石達は慌てて絵里座を追いかけ、小屋を後にした。
絵里座の足はそんなに早くなかったせいもあり見失うことはなく、彼女を追っかけ一行は海岸沿いまでやって来た。
広い海岸という訳ではなく、あくまで小さな、秘密のスポットなんて言葉が適切な場所だった。
 海を見つめ一人、誰に見せるわけでも誰に聴かせるわけでもなく歌う、少女が居る。瀬鈴栖だ。
そんな瀬鈴栖の背に寄る絵里座。彼女の気配に気がついたのか、瀬鈴栖は歌うのをやめる。
 「……なんできたの」
 瀬鈴栖は一言、絵里座に尋ねる。
 「…………」
 絵里座は答えない。声が出る出ない関係なく。
 「ふぇ!みつけましたし」
 「!?…あなた方は……」
 瀬鈴栖の前にひょっこりと顔を出すトエル。瀬鈴栖は後ろを振り向いてみる。そこには俯く絵里座と、白石達の
姿。
 絵里座はスケッチブックを取り出し、何かを書こうとした。しかし瀬鈴栖は、まるで何を書くのか知っている
かのように、「私は嫌だからね」と釘をさす。
 「……あの、瀬鈴栖さん」
 「……なんですか?」
 「話は……、絵里座さんから聞きました。あなた、あんなに歌が上手なのに…何で歌姫には……」
 「あなた方には関係ないです。放っておいてください」
 見かねた白石は、瀬鈴栖から事情を聞き出そうとするも、彼女は全く相手にはしてくれない。
話はそれだけですか?と過ぎ去ろうとする瀬鈴栖。そんな彼女の耳を貫く一言を、トエルは放った。

 「さっきそこのこやできいたレコードにしゅうろくされていたうたごえ……あなたのこえとにていました」

 「…!」
 足を止める瀬鈴栖。図星なのだろうか?
 「そういえば…そんな気もしますわね」
 「何か関係があるのかなぁ?」
 そのやりとりを聞いた絵里座は急いでペンを走らせる。スケッチブックに書かれる事実。それは瀬鈴栖に深く関わる事だった。

 『"あのレコードに入っていたのは瀬鈴栖のお母さんの歌声です。瀬鈴栖のお母さんは、この街の歌姫だったのです!"』

 「なんだって……?」
 「…っ!やめなさいよ!」
 パシン。絵里座に近寄り瀬鈴栖はスケッチブックを叩き落とした。その反動で後ろへと尻込みしてしまう絵里座。
 「歌姫の娘……だったらどうして…?」
 「…嫌いだからよ。歌も、歌姫も」
 瀬鈴栖は白石の問に、呟くように答える。
 「じゃあ、なんでさっきうたってたんですし。ふぇふぇ」
 「別になんだっていいでしょ……私は、絶対に歌姫なんかにはならないんだから……」
 「……、…」


 『通信が入っています!通信が入っています!』

 「ふぇ!?」
 思い空気が流れる中、それを吹き飛ばすようにして鳴る機械音声。音の源はトエルのようである。
 「ふぇ~、もしもし~?」
 『ちょっとあなた達!今何処にいるの!』
 「ひうっ」
 スピーカーから聞こえてくる冴島の声。白石達の体が強ばる。
 『緊急事態よ!ホールの人達が何者かに襲われたわ!すぐに帰ってきて頂戴!!』
 「なんですって……?」
 「すぐにいきましょー。ふぇふぇ」
 「瀬鈴栖さん…」
 急いで練習ホールへと戻る一行。そんな中、陰伊は瀬鈴栖のことが気がかりだった…。

―――…

 「一体……どうなってる……?」
 彼は、変わり果てた街の様子に驚きを隠せなかった。見渡せど見渡せど、自分の知る風景は見えない。
水の中を移動していても、前より動きにくくなった事をその身で実感していた。
 「歌姫オーディションなんてわけわかんねえもんもやってるし、一体何だってんだ…!?」
 彼は、自分の置かれている状況をイマイチ把握できていない。それもそのはず、彼は永い間眠っていたのだから。
 「……発見。貴方は、悪い異形?」
  そんな彼に話しかける、暑そうな英国風のフリフリした服を着た長髪の少女。その手に握られているのは、紅い小箱。
 「なんだ、てめぇは……?」

 「第七"使徒"……天草五姫。今日は気分がいいから、貴方で遊ぶことにするわ。変身…装着!」

 言い放った直後、紅い小箱からは肉の蔓が伸び、少女の肉体と繋がる。その小さな体を肉の蔓が覆い隠し
それが解けると現れたのは赤い鎧に身を纏った天草五姫その人であった。
 「なんだこいつ…!?」
 「無用。心配しなくていい、すぐに終わる」
 一歩一歩、威圧感のある足取りで彼に近づく天草。やらなきゃ殺られる。彼……河童の又八は危機感を顕に
していた。いきなり現れたこいつは何だ…?頭が付いていかない又八はとりあえず応戦すべく、己の魔素を
込めた水弾を飛ばす。
 「なんだかわからねぇが、こいつをくらえ!!」
 5、6発の水弾が、天草めがけて一直線に飛んでいく。天草はそれを確認するも、さして動じず、歩を進める。
水弾がみるみる距離を縮める。ここでようやく天草は足を止め、腕のボタンを一度。カチリと押した。
 『"Crush Load"』
 拳を前に突き出す天草。するとものすごいGの衝撃波が放たれ、前方に迫り来る水弾は一つ残らず破裂した。
 「!?」
 「…つまんない。これだけ?」
 破面から覗かせる虚ろな瞳。こいつは狂っている。又八は少なくともそう感じた。又八は決して先程の攻撃に
手を抜いたつもりはない。であるにもかかわらず全く怯まず、そもそも先の攻撃など意にも介していない様子だ。
人外のものである自分が、僅かながら恐怖を感じる。その位の相手なのだろう。
 「くっ……!」
 「終焉。もうおしまい。さよなら」
 威圧感に足が動かず、とうとう目の前まで天草の接近を許してしまった又八。ゆっくりと足を振り上げる天草の
動きがスローモーションになって見えた。血がざわめく。見開き両眼は天草の顔を捉える。もうダメか、又八は
死を覚悟した。

 「ちょーっとまった!!」
 「!?」
 青い何かが、ものすごい勢いで天草に激突する。早すぎて曖昧だったそれの輪郭は数秒経たずにハッキリと
見えるようになった。男だ。男が天草に蹴りを入れていた。青いスーツを着た、流れるようなウェーブの髪をした
男であった。
 「…!何事?あなたは何!?」


 「僕はスサノオ。"HEAVENSCHILD"の一人さ」


 「ヘヴンズチャイルド…?なに、そういう設定?」
 突然現れたスサノオという男。急な相手にも、天草は取り乱さない。
 「中二病じゃない!僕たちは両親に異形と人間を持つ選ばれし新人類。僕達の理想の世界を創り…
全ての生態系の頂点に立つ統率者だ」
 「…失笑。訳がわからない。驕慢な者はまず己の領分を知れ」
 「ふん。さすがは再生機関の人間だ。この崇高な考えが理解出来ないとは」

 「何だか知らねえが、今のうちに逃げよう……」
 天草の興味は今スサノオに向いている。この機を逃す手はないと又八はこっそりと、その場を離脱した。

 「再生機関なんてどうでも良い。私は組織とか嫌いだし。集まらないと何かできないのは、弱い人間」
 「…キミは、天草五姫、だったかな?」
 「…貴方は何で再生機関とか、私の名前とか知っているの?ストーキングでもしてるの?」
 「そっちこそ、あの方の周りをうろちょろするのは……困るなぁ」
 「……何のこと?」
 「僕達の周りを嗅ぎまわってるみたいだけど、計画の邪魔はさせないよ?いくらキミが、あの方に一目おかれていたとしても」
 「さっきからごちゃごちゃうるさい。もういい、後は半殺しにしたあとに聞く」
 業を煮やした天草は、戦闘態勢を取る。
 「ふ……全く短気だな、キミは」
 「キザ気取りのキャラは80%ヘタレ」
 「ヘタレじゃない!おい、クシナダ!行くぞ!」
 「はいはい」
 スサノオの呼び声に呼応するように現れる少女。小柄で華奢な少女に見えるが…
 「特別に見せてあげよう……僕の力をねッッ!!変身!」『"Fusion Load"』
 「あれは…?」
 少女の胸の中心が光る。光の中に天草が見たものは、意外なものだった。
 天草は鎧に包まれた腕をぎゅっと握りる。何か、ものすごい力の流れを天草は感じ取っていた。
 高まる交戦意識。揺さぶる闘争本能。両者の間に火花が散る。のだが、そんな火花を消し去ってしまう声が
天草の背より聞こえてきた。

 「ふぇ!こっちですし!」
 「異形が逃げたのはこっちね!」

 トエル達の声だ。それを聞いたスサノオは、分が悪いと感じたのかはたまた気分を損ねたのか、
どちらかはわからないが急に戦闘態勢を解いた。
 「ふ、邪魔が入りそうだね。ひとまずここは、退散させてもらおう」
 「さよならですよー!」
 そう言って、二人は突然吹き出した黒い煙の中に消えていく。天草は深追いせず、二人が消えた方向を
黙って見つめていた。


 「…こっちで……あれ!?おまえ!あまくさ!」
 オーディション会場を襲った異形を追いかけていたトエル達。向かった先にいた者は異形ではなく、天草であった。
 「天草ちゃん?なんで?あ、もしかして異形と戦ってたりした?」
 「天草さんだろ、白泉」
 「心が痛い!」
 白石にひどい態度をとる傍ら、天草は先程の二人……特に、少女の方の事が気に掛かっていた。


 (あれは……あの小さい女の胸に付いていたのは……フュージョンデバイス…?)



―――…

 「まったく、下手な真似はするなって、主様も言っていたですよ?」
 「ふ、面白いおもちゃが、目の前で壊れるのは勿体無いだろう?」
 「あの河童?」
 「そうそう。さぁ、どう楽しませてくれるのかな…?フフフ…!」



―――…

 河童、又八は先程の訳のわからない連中から逃げ、今は人気のない場所に潜伏していた。
 「ひーひー、全くえらい目にあった。何なんだ一体」
 そう言い、又八は乾いた頭の皿に水を垂らす。又八にはわからないことが多すぎた。
 「どうなっていやがる……これもアイツのせいか?ああ、直接アイツに合わねえとな」


 「歌姫オーディションなんてどういう風の吹き回しだよ。この街の歌姫はお前一人だろ……李鈴…」


                                               続く





―次回予告。
母の期待に応えられなかった娘。
歌姫の美声に恋焦がれた妖魔。
幻影に縛られた少女と、幻影を追い続ける異形。
二つを結びつけるものとは一体?
時空を超えた想いは一つとなって、美しい歌を奏でるだろう。
そう、この虹のかかる噴水の下で。
次回・正義の定義第十二話
     『また、虹の下で会いましょう』




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