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私が追い求める浪漫


7 : ◆91wbDksrrE :2010/09/17(金) 00:23:10 ID:+A37DFqP

「眺めれば眺める程に、もっともっと欲しくなってたまらなくなるもの、なーんだ?」
「……何? なぞなぞ?」
「うん、あててみそ?」

 それはいつもの放課後、いつもの風景。
 私は遥の前の席。ホームルームが終わると、振り返った私はいつも
彼女に話しかける。そう、まるで何かの儀式のように、それはいつも
繰り返されてきた光景。

「いきなりそんな事言われても……」

 遥は困ったような顔をして、首を傾げている。
 その切れ長の目、ひそめられた眉、ちょっとだけ膨らんだ頬、小さく
揺れる長い黒髪、薄い桜色の、唇。
 可愛いと、素直にそう思う。
 美人だとも、思う。
 それは、何も私に限った話じゃない。
 遥は人気者だ。男女問わずの、人気者だ。男女問わず入会者多数の
ファンクラブがあるくらいの。
 女の子でも、思う。
 遥を見て可愛いと思わない人間はいない。
 綺麗だと思わない人間はいない。
 でも。
 だけど。

「……お金、とか?」
「意外と即物的な答えがっ!?」
「知ってるでしょ? わたしは意外と俗物なのよ」
「うーん、もうちょっと浪漫がある答えかなー」
「浪漫……海賊の財宝、とか?」
「結局浪漫プラスしただけで、そっち方面なのは変わらないんね……」
「ふふ。やっぱりお金は重要だと思うしね」
「でもそんな現金な遥も可愛いっ!」
「も、もう……小夜ちゃんったら」

 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、遥は笑う。
 そこに、なぞなぞの答えはあった。

「答えは……好きな人の笑顔です!」
「あは。浪漫ある答えね、確かに」

 でも。
 だけど。
 愛しいと。
 そう思うのは、私だけ、なのではないだろうか。


「小夜ちゃんって、意外とロマンチストよね」
「意外とは余計よー。私はさ、ほら、浪漫を追い求めてるんだから!」

 浪漫。
 それは追い求める物。
 それは――往々にして、追い求めるだけで、終わる物。
 いつの頃から、私はこの浪漫を追い求めるようになったのか。
 答えは決まってる。出会った、その瞬間からだ。
 その瞳に、その笑顔に、吸い込まれるように釘付けになった、その瞬間からだ。
 女の子同士なのにという常識は、想いをとどめる障壁にはならなかった。
 想いを遂げる障壁には、なったけれども。

「……でも、大好きな人の笑顔って……小夜ちゃん?」
「なぁに?」
「好きな人でもできた?」

 何かが心に刺さる。

「あはは! なわけないじゃん!」

 痛い。遥の言葉が。
 違う。好きな人なんて、最初から、そして多分最後まで、あなたしかいない。
 私が見れば見る程に、もっともっと欲しくなるのは、あなたの笑顔だけ。
 それなのに。

「だいたい、私に釣り合うような男がいないし!」
「そうね。小夜ちゃん、背が高くて、モデルさんみたいだから……うちの学校には、
 あまりいそうにないわね」
「でしょでしょ? うちの男子共なんて、いがぐり坊主卒業したばっかり、みたい
 なのばっかりで全然イケてないしー!」

 痛い。自分の笑顔が。
 偽りの、浮かべようとしなければ浮かばない笑顔が、痛い。
 こんな笑顔を、遥に見せなければならない、心が――

「でも……運命の人は、意外と身近にいるもの、というのがパターンよね」
「確かに! 私の運命の人は、もしかすると目の前にいるのかも!」

 身近にいる。
 私の運命の人は、目の前にいる。
 でも、その運命の人は、笑ってこう言うのだ。

「小夜ちゃん、それだとわたしが運命の人だって事になっちゃうわよ?」
「おう、確かに」
「もう、小夜ちゃんったら」

 笑いあう私たち。
 一つの笑顔は本物。
 私が、ずっと見ていたい笑顔。
 私が、もっともっと欲しい、手に入れてしまいたい、笑顔。
 一つの笑顔は偽物。
 私が、痛みと共に浮かべる笑顔。
 私が、本当は見せたくない、捨て去ってしまいたい、笑顔。


「おーい、お前ら、用も無いのに教室に残ってるなよー」
「はい、わかりました」
「はいはーい」

 教師のそんな声を合図に、私達は席を立つ。

「じゃあ、帰りましょう?」
「そだね、帰ろっか」

 いつものように。
 いつもの風景、そのままに。
 楽しい会話は終わり、その代わりに痛みは終わり、残るのは、寂しさ。

「じゃあ、また明日」
「んじゃ、また明日」

 明日も。
 明後日も。
 ずっと、この風景は、この光景は続いていくのだろう。
 それは、私の思い求める浪漫が、私の手の中に入る事が無いという事。
 でも……それでもいい。
 それでも、私は――

「ねえ、遥」
「なに、小夜ちゃん?」
「私たち、ずっと……一緒、だよね?」
「? 変な小夜ちゃん」

 遥は笑う。
 私が追い求める浪漫そのままに。

「そんなの、決まってるじゃない」

 ――一緒にいられる間は、一緒にいられれば、それでいい。
 一緒にいられる間は、何も言わなければ、何も伝えなければ、一緒にいられるのだから。

「そ、そだよね! ごめんね、変な事聞いちゃって!」
「いいわよ、別に」

 そして、私たちは手を振り合って、互いの帰路につく。

「……遥」

 遠くなっていく背中。
 寂しい。
 寂しくて、たまらない。

「……頑張ろ!」

 小さく自分の頬を叩いて、私も帰り道を歩き始めた。
 この寂しさは、永遠の物じゃない。明日になれば、癒される。また遥に会える。
一緒にいられる。だから……耐えられる。
 ……そう……耐えられる。耐えて見せる。
 振り返れば、もう遥の背中は見えなくなっていた。
 いつの日か、こうして見えなくなり、そのままずっと会えなくなる、そんな日が
来るのだろう。でも、それまでは……それまでの間は――せめて――

「ずっと、一緒だよ……遥」


 終わり

ここまで投下です。



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