(転機)
更新日:2022/09/17 Sat 23:57:09
更新日:2022/09/17 Sat 23:57:09
目を覚ましたアンコが見たのは、見るも無惨な姿になったオウマがトキの姿だった。
床も壁もボロボロで、カーテンは引き裂かれ、窓は割られている。
「ここは……」
あのオウマがトキ?そう言葉を続けようとした時、桃色の少女が、アンコの顔を覗き込んだ。
「あ!アンコ!目を覚ましたんだね!」
「プラムさん……皆さん……」
真っ先に声をかけたのは、全身ズタボロで身体に切り傷があるのじゃロリ猫だった。
「やあ、さっきは凄かったのお!お主があんなに強かったとは思いもしなんだわ!」
「その怪我は……」
「にひひ、お主にしてやられた。久々に強いやつと手合わせしたわ」
のじゃロリ猫は満足げに笑った。
「オウマがトキが……」
アンコは声を絞り出した。この悲惨な状態では、三日は開店出来ないだろう。
「気にしないで……ピオーネ達が、また元に……戻すから」
「そーそー!それこそくゆりの本職だしネ~」
ピオーネとくゆりが、アンコを励ますように声をかけてきた。
「でも……」
アンコはいい淀む。俯くと、キラリと輝くあるものが目に飛び込んだ。
(ガラスの破片……)
アンコは誰にも気づかれないよう、それを握った。
「アンコ……」
近付いてきたのは、目に涙を溜めた青い少女だった。
「さっき言ったのって……その……」
アンコは考える。あれは一対なんだったのだろうかと。自分が日頃思っていた事だろうかと。否定は出来ない。実際、自分の口から出たと言う言葉は事実だ。
「そう……ですね、本心……です……」
アンコは苦しく思いながら、そう言った。
「アンコさん……」
そう呟いたのはシトロンだ。オロオロしながらこっちを見ている。
「………」
妹のマーマレードも、シトロンの隣にいた。その目元は暗く、見えなかった。きっと、姉を傷付けたアンコを許してくれないだろう。だが、その方が今のアンコには良かった。
アンコは重い口を開いた。
「私は……皆さんに酷いことを言ってしまいました……」
アンコの言葉に、ピネが何ともないように笑う。
「そんな事、たいした事じゃないさ、もう落ち着いたし」
アンコは激しく首を振った。
「いいえ、"あれ"はまだ、私の中にいます。感じるんです」
「出てこないようにしたり、出来ないの?」
ジュジィが口を挟む。アンコは俯いて、手の中の物をぎゅっと握った。
「恐らく、また出てくると思います。私が……」
アンコは一つだけの解決策を、隠したその手から取り出す。
「死なない限り」
銀色に輝くガラス片が、アンコの赤い目に銀色の光を写す。
「なっ!」
マリネッタが息を飲む音が聞こえた。
「おい、落ち着けよ!」
瓦礫を整理していたアイベリーが、こっちに来る。
「来ないで!」
アンコは叫んで拒絶した。
「ア、アンコ………?」
いつも気丈に振る舞っているフロートが、涙を流してこちらを見る。
「アンコ……」
ろくばんが悲しげにこちらを見た。その隣にいたメローナが、いつもと違う、低く落ち着いた声で言った。
「……アンコちゃん、そのガラス片を置きなさい。オーナー代理の命令よ」
「メローナさん……皆さん……」
アンコは深呼吸し、言葉を紡いだ。
「ありがとうございます。でも私は……私は……」
アンコは目をつぶる。
心の底からの、今まで隠していた事をついに伝える時がきてしまったのだ。覚悟を決め、告白した。
「私は友達を食べました……」
アンコは強くガラス片を握る。
「いつか皆さんの事も食べてしまうかもしれません」
今、もっとも恐れている事を口に出して、アンコは震えた。だが、ガラス片は落とさない。それを強く握ったまま、アンコは薄く笑った。
「だから私は………」
ガラス越しに、いつも口やかましいと思っていた、期待が重圧になっていると感じていたフロートの顔が見えた。彼女と目が合う。アンコはその目から逃れようと目を閉じた。
「………さよなら」
銀のガラスが、真っ直ぐにアンコの喉に刺さる。
ああ、これならもう何も食べなくてすむかも。
スルリとナニカがアンコの手から抜け出した気がした。きっと気のせいだろう。
喉から全身へと回る激痛に身を委ねながら、アンコは意識を手放し、この世に終わりを告げた。
「フヒヒ」
スルリと抜け出したナニカを残して。
床も壁もボロボロで、カーテンは引き裂かれ、窓は割られている。
「ここは……」
あのオウマがトキ?そう言葉を続けようとした時、桃色の少女が、アンコの顔を覗き込んだ。
「あ!アンコ!目を覚ましたんだね!」
「プラムさん……皆さん……」
真っ先に声をかけたのは、全身ズタボロで身体に切り傷があるのじゃロリ猫だった。
「やあ、さっきは凄かったのお!お主があんなに強かったとは思いもしなんだわ!」
「その怪我は……」
「にひひ、お主にしてやられた。久々に強いやつと手合わせしたわ」
のじゃロリ猫は満足げに笑った。
「オウマがトキが……」
アンコは声を絞り出した。この悲惨な状態では、三日は開店出来ないだろう。
「気にしないで……ピオーネ達が、また元に……戻すから」
「そーそー!それこそくゆりの本職だしネ~」
ピオーネとくゆりが、アンコを励ますように声をかけてきた。
「でも……」
アンコはいい淀む。俯くと、キラリと輝くあるものが目に飛び込んだ。
(ガラスの破片……)
アンコは誰にも気づかれないよう、それを握った。
「アンコ……」
近付いてきたのは、目に涙を溜めた青い少女だった。
「さっき言ったのって……その……」
アンコは考える。あれは一対なんだったのだろうかと。自分が日頃思っていた事だろうかと。否定は出来ない。実際、自分の口から出たと言う言葉は事実だ。
「そう……ですね、本心……です……」
アンコは苦しく思いながら、そう言った。
「アンコさん……」
そう呟いたのはシトロンだ。オロオロしながらこっちを見ている。
「………」
妹のマーマレードも、シトロンの隣にいた。その目元は暗く、見えなかった。きっと、姉を傷付けたアンコを許してくれないだろう。だが、その方が今のアンコには良かった。
アンコは重い口を開いた。
「私は……皆さんに酷いことを言ってしまいました……」
アンコの言葉に、ピネが何ともないように笑う。
「そんな事、たいした事じゃないさ、もう落ち着いたし」
アンコは激しく首を振った。
「いいえ、"あれ"はまだ、私の中にいます。感じるんです」
「出てこないようにしたり、出来ないの?」
ジュジィが口を挟む。アンコは俯いて、手の中の物をぎゅっと握った。
「恐らく、また出てくると思います。私が……」
アンコは一つだけの解決策を、隠したその手から取り出す。
「死なない限り」
銀色に輝くガラス片が、アンコの赤い目に銀色の光を写す。
「なっ!」
マリネッタが息を飲む音が聞こえた。
「おい、落ち着けよ!」
瓦礫を整理していたアイベリーが、こっちに来る。
「来ないで!」
アンコは叫んで拒絶した。
「ア、アンコ………?」
いつも気丈に振る舞っているフロートが、涙を流してこちらを見る。
「アンコ……」
ろくばんが悲しげにこちらを見た。その隣にいたメローナが、いつもと違う、低く落ち着いた声で言った。
「……アンコちゃん、そのガラス片を置きなさい。オーナー代理の命令よ」
「メローナさん……皆さん……」
アンコは深呼吸し、言葉を紡いだ。
「ありがとうございます。でも私は……私は……」
アンコは目をつぶる。
心の底からの、今まで隠していた事をついに伝える時がきてしまったのだ。覚悟を決め、告白した。
「私は友達を食べました……」
アンコは強くガラス片を握る。
「いつか皆さんの事も食べてしまうかもしれません」
今、もっとも恐れている事を口に出して、アンコは震えた。だが、ガラス片は落とさない。それを強く握ったまま、アンコは薄く笑った。
「だから私は………」
ガラス越しに、いつも口やかましいと思っていた、期待が重圧になっていると感じていたフロートの顔が見えた。彼女と目が合う。アンコはその目から逃れようと目を閉じた。
「………さよなら」
銀のガラスが、真っ直ぐにアンコの喉に刺さる。
ああ、これならもう何も食べなくてすむかも。
スルリとナニカがアンコの手から抜け出した気がした。きっと気のせいだろう。
喉から全身へと回る激痛に身を委ねながら、アンコは意識を手放し、この世に終わりを告げた。
「フヒヒ」
スルリと抜け出したナニカを残して。
アンコの投げ出された身体……遺体を囲み、皆で泣いていた。
「アンコさん、そんな……」
シトロンが身体を震わせる。
「……バカ野郎」
アイベリーが涙を流しながら呟いた。
「……ぅぅ……ぐす……うわぁぁぁん!」
フロートが堪えきれなくなって、大声で泣きじゃくっていた。
「そ、そうやマリネッタ、死んだ人を甦らせる方法とか無いん?」
フルーチェが本屋の主に聞く。マリネッタは苦々しい顔をする。
「……私は……知らないわ……でも私の友人に、知ってる人がいるかも……」
「その人は、どこに?」
一抹の希望を胸に、メローナが聞いた。
「オウマがトキに……いる」
「??!!!」
答えたのは、マリネッタではなく、ピオーネだった。
「その人なら、ピオーネも知ってる……」
ピオーネは訳知り顔で続ける。
「ピオーネは……オウマがトキの……全体を……把握する事が……出来る……」
大切なお友達の、お猿さんに貰った能力だ。
「その人は今……本のスペースに……いる……」
ピオーネの言葉に、淡雪とジュジィが顔を見合わせる。
「それなら……」
「可能性が出てきたかもね」
「いいじゃん!行こうぜ!その人の所へ!」
アイベリーが元気を取り戻して叫んだ。
「でも……アンコの遺体も……見ておかないと……万が一の……為……」
ピオーネが、楽観的な姉を引き止める。
「それに……もし今お客さんが来たら……」
辺りに静寂が訪れる。それもそうだ。店がこんなボロボロの状態では、オウマがトキは……いや、普通のお店だって開店出来ない。
「じゃあ、私が小鳥ちゃんを見ているよ」
静寂を破って進み出たのはピネだった。ワンテンポ遅れて、フルーチェも進み出る。
「ならうちも!あんた、アンコにセクハラしようったってそうはいかんからな!なんてな!」
その二人に元気付けられたのか、皆が口々に自分のやれる事を口に出し始めた。
「くゆりはここの修復をするヨ~!他の蟲達にも手伝って貰う~!」
「じゃあ私、お手伝いする……」
「あ、じゃあボクも~!」
くゆりの言葉に、ろくばんとジュジィが反応する。
「わ、私も……!それに、お客さんが来たら、対応しないと……」
「じゃあボクも残るよ。シトロンはボクがいないと駄目なんだから」
シトロンの言葉に、彼女の傍に寄り添うと進言するマーマレードがいた。
「あ、私も私も~!一回スイーツ作ってみたかったんだよね~!」
「イヌヌワン!」
(不安だ!!!)
厨房は任せろと言うプラムの言葉に、その場にいた全員が一つの言葉で纏まった。
「それじゃあのじゃロリ猫は……って」
フロートはこんな時にもっとも役に立つ用心棒を探した。
「いない?!?!」
フロートの驚愕の叫び声がボロボロのオウマがトキに反響した。
「こんな時にあいつどこへ……!」
ぷんすか怒る妹を暖かい瞳で見つめ、メローナが皆に号令をかける。
「……取り合えず、猫ちゃんの事は置いておいて、早く、その人の所へ!皆は、各自しっかりね」
「はい!!!!」
頼もしい声が、メローナの耳に返ってくるのだった。
「アンコさん、そんな……」
シトロンが身体を震わせる。
「……バカ野郎」
アイベリーが涙を流しながら呟いた。
「……ぅぅ……ぐす……うわぁぁぁん!」
フロートが堪えきれなくなって、大声で泣きじゃくっていた。
「そ、そうやマリネッタ、死んだ人を甦らせる方法とか無いん?」
フルーチェが本屋の主に聞く。マリネッタは苦々しい顔をする。
「……私は……知らないわ……でも私の友人に、知ってる人がいるかも……」
「その人は、どこに?」
一抹の希望を胸に、メローナが聞いた。
「オウマがトキに……いる」
「??!!!」
答えたのは、マリネッタではなく、ピオーネだった。
「その人なら、ピオーネも知ってる……」
ピオーネは訳知り顔で続ける。
「ピオーネは……オウマがトキの……全体を……把握する事が……出来る……」
大切なお友達の、お猿さんに貰った能力だ。
「その人は今……本のスペースに……いる……」
ピオーネの言葉に、淡雪とジュジィが顔を見合わせる。
「それなら……」
「可能性が出てきたかもね」
「いいじゃん!行こうぜ!その人の所へ!」
アイベリーが元気を取り戻して叫んだ。
「でも……アンコの遺体も……見ておかないと……万が一の……為……」
ピオーネが、楽観的な姉を引き止める。
「それに……もし今お客さんが来たら……」
辺りに静寂が訪れる。それもそうだ。店がこんなボロボロの状態では、オウマがトキは……いや、普通のお店だって開店出来ない。
「じゃあ、私が小鳥ちゃんを見ているよ」
静寂を破って進み出たのはピネだった。ワンテンポ遅れて、フルーチェも進み出る。
「ならうちも!あんた、アンコにセクハラしようったってそうはいかんからな!なんてな!」
その二人に元気付けられたのか、皆が口々に自分のやれる事を口に出し始めた。
「くゆりはここの修復をするヨ~!他の蟲達にも手伝って貰う~!」
「じゃあ私、お手伝いする……」
「あ、じゃあボクも~!」
くゆりの言葉に、ろくばんとジュジィが反応する。
「わ、私も……!それに、お客さんが来たら、対応しないと……」
「じゃあボクも残るよ。シトロンはボクがいないと駄目なんだから」
シトロンの言葉に、彼女の傍に寄り添うと進言するマーマレードがいた。
「あ、私も私も~!一回スイーツ作ってみたかったんだよね~!」
「イヌヌワン!」
(不安だ!!!)
厨房は任せろと言うプラムの言葉に、その場にいた全員が一つの言葉で纏まった。
「それじゃあのじゃロリ猫は……って」
フロートはこんな時にもっとも役に立つ用心棒を探した。
「いない?!?!」
フロートの驚愕の叫び声がボロボロのオウマがトキに反響した。
「こんな時にあいつどこへ……!」
ぷんすか怒る妹を暖かい瞳で見つめ、メローナが皆に号令をかける。
「……取り合えず、猫ちゃんの事は置いておいて、早く、その人の所へ!皆は、各自しっかりね」
「はい!!!!」
頼もしい声が、メローナの耳に返ってくるのだった。
「あら、ピオーネ、マリネッタに淡雪も。どうしたの?」
緑の豊かな髪を蓄えた、少し気だるげな様子の少女が、やって来た友達を見上げていた。
「実は……えっと……」
口下手なピオーネはどう伝えようか考え始めた。
このまま待っていると相当の時間が立ってしまうかつ緊急事態な為、メローナが口を挟む。
「詳しい話は私からさせて貰うわ、実は……」
メローナの話を聞いたヤスカタはふんふんと頷いた。
「成る程……アナザーの出現に、アンコが……………それくらいなら、出来ない事はないわ」
「本当?!」
声をあげたのはフロートだ。目に涙を溜めて、ヤスカタを見ている。
「本当に、アンコは生き返るの?!」
掴みかかる勢いで聞き出そうとするフロートを、ヤスカタは諌めた。
「……ちょっと落ち着いて。復活は可能よ。でも、リスクも高い……」
ヤスカタは服のポケットから小石のような物を取り出した。
「まずはこれを見て」
何色もの綺麗な石が、ヤスカタの小さな手に転がっていた。
「宝石……?」
淡雪の問いに、ヤスカタは頷いた。
「そう、これは『戻りの宝石』
オウマがトキに戻ってくるのに必要……次はこっち」
ヤスカタが青リンゴ型の鞄から、小さな靴を取り出した。
「黄泉渡りの靴……この世とあの世を渡る事が出来る靴。これを履けば、あの世をさ迷っているアンコの魂と出会える筈……」
「!!!」
皆が顔を見合わせる。希望がまた湧いてきた。
「靴は一足……だから行けるのは一人よ。アンコの心をこの世に引き戻せる自信のある人が履くべきね」
ヤスカタは皆の顔を見つめながら付け加えた。
「しかも、条件付きなのよ。この靴を履いて黄泉の世界に行ったら、決して振り向いては行けない……振り向いたら、意識があの世に囚われてしまう……そうなってしまったら、死んだのと同じ状況になるわ」
ヤスカタは深呼吸してから言った。
「それでもこの靴を履く自信がある人は……?」
皆はまた顔を見合わせた。本屋がシーンと静まり返る。
「皆、私に行かせて!」
進み出た少女に、皆驚いた。
「フロートの姉貴?!」
アイベリーの言葉に、進み出たフロートが頷く。
「私、あの子の事何も気づいてあげられなかった。苦しんでた時も、暴れた時も、さっきだって……だから、次こそは私が助けてあげたい。そう思ったの!」
そのフロートの眼差しに、ヤスカタは頷いた。
「……あなたの覚悟、伝わったわ。それじゃあこの靴を履いて……」
フロートは履いていた靴を脱ぎ、ヤスカタの差し出す黄泉渡りの靴を履いた。
爪先部分をトントンと地面に合わせていると、末っ子の心配そうな顔が目に入った。
「フロートお姉ちゃん……」
「大丈夫よ、アンコを連れて戻ってくるわ」
ピオーネを安心させるように微笑むと、今度はメローナが肩に手を置いた。
「フロートちゃん、アンコちゃんを頼むわよ…!」
「ええ」
フロートが頷いた瞬間、ヤスカタの鋭い言葉が飛んできた。振り向くと、ヤスカタの手のひらから光が出ていて、大きな光のトンネルのような物が目の前にあった。
「……領域を展開したわ。このトンネルの先は黄泉の国よ。気をつけて」
「分かったわ。じゃあ、行ってきます……!」
光のトンネルへと進んでいくフロート。それを見たアイベリーが呟いた。
「気を付けろよ、フロートの姉貴……」
緑の豊かな髪を蓄えた、少し気だるげな様子の少女が、やって来た友達を見上げていた。
「実は……えっと……」
口下手なピオーネはどう伝えようか考え始めた。
このまま待っていると相当の時間が立ってしまうかつ緊急事態な為、メローナが口を挟む。
「詳しい話は私からさせて貰うわ、実は……」
メローナの話を聞いたヤスカタはふんふんと頷いた。
「成る程……アナザーの出現に、アンコが……………それくらいなら、出来ない事はないわ」
「本当?!」
声をあげたのはフロートだ。目に涙を溜めて、ヤスカタを見ている。
「本当に、アンコは生き返るの?!」
掴みかかる勢いで聞き出そうとするフロートを、ヤスカタは諌めた。
「……ちょっと落ち着いて。復活は可能よ。でも、リスクも高い……」
ヤスカタは服のポケットから小石のような物を取り出した。
「まずはこれを見て」
何色もの綺麗な石が、ヤスカタの小さな手に転がっていた。
「宝石……?」
淡雪の問いに、ヤスカタは頷いた。
「そう、これは『戻りの宝石』
オウマがトキに戻ってくるのに必要……次はこっち」
ヤスカタが青リンゴ型の鞄から、小さな靴を取り出した。
「黄泉渡りの靴……この世とあの世を渡る事が出来る靴。これを履けば、あの世をさ迷っているアンコの魂と出会える筈……」
「!!!」
皆が顔を見合わせる。希望がまた湧いてきた。
「靴は一足……だから行けるのは一人よ。アンコの心をこの世に引き戻せる自信のある人が履くべきね」
ヤスカタは皆の顔を見つめながら付け加えた。
「しかも、条件付きなのよ。この靴を履いて黄泉の世界に行ったら、決して振り向いては行けない……振り向いたら、意識があの世に囚われてしまう……そうなってしまったら、死んだのと同じ状況になるわ」
ヤスカタは深呼吸してから言った。
「それでもこの靴を履く自信がある人は……?」
皆はまた顔を見合わせた。本屋がシーンと静まり返る。
「皆、私に行かせて!」
進み出た少女に、皆驚いた。
「フロートの姉貴?!」
アイベリーの言葉に、進み出たフロートが頷く。
「私、あの子の事何も気づいてあげられなかった。苦しんでた時も、暴れた時も、さっきだって……だから、次こそは私が助けてあげたい。そう思ったの!」
そのフロートの眼差しに、ヤスカタは頷いた。
「……あなたの覚悟、伝わったわ。それじゃあこの靴を履いて……」
フロートは履いていた靴を脱ぎ、ヤスカタの差し出す黄泉渡りの靴を履いた。
爪先部分をトントンと地面に合わせていると、末っ子の心配そうな顔が目に入った。
「フロートお姉ちゃん……」
「大丈夫よ、アンコを連れて戻ってくるわ」
ピオーネを安心させるように微笑むと、今度はメローナが肩に手を置いた。
「フロートちゃん、アンコちゃんを頼むわよ…!」
「ええ」
フロートが頷いた瞬間、ヤスカタの鋭い言葉が飛んできた。振り向くと、ヤスカタの手のひらから光が出ていて、大きな光のトンネルのような物が目の前にあった。
「……領域を展開したわ。このトンネルの先は黄泉の国よ。気をつけて」
「分かったわ。じゃあ、行ってきます……!」
光のトンネルへと進んでいくフロート。それを見たアイベリーが呟いた。
「気を付けろよ、フロートの姉貴……」
人間の世界。青空町のとある電柱の上。
「と言う事があったのよ」
いつの間にかオウマがトキから抜け出し、どこかの電柱の天辺に腰かけていたマリネッタが、手に持った水晶に語りかけると、中から声が聞こえてきた。だがマリネッタと話しているのは、水晶玉ではない。
「成る程……オウマがトキの損害は?」
「三日くらい営業出来ないかも。でも皆無事よ。フロートがアンコを助ける為に黄泉の世界に行ってしまったけれど。少なくともピオーネは無事」
「あの子が無事なら……しかし、姉がいなくなるのはこまりますねぇ…いくらでも替えのきく"パティシエごとき"はともかく」
「……そう。補充でもする?妹を」
電話相手の言葉に少しだけ黙ってから、マリネッタは言う。
マリネッタが座っている電柱の前を、青い髪をポニーテールにした女の子が走り抜けていったのだ。気が強そうで、フロートの代わりになりそうだ。
マリネッタはその子がピオーネと笑いあってる様子を想像して、舌舐めずりする。
「なんとなく良さそうな人間がいるわよ」
「フロートさんが失敗しましたら。取り合えず、あなたは現状維持に努めて下さい。手伝ってくれますよね?」
気の無さそうな返事に、マリネッタは鼻を鳴らした。
「了解、猿夢」
水晶玉の輝きが消えた。
「と言う事があったのよ」
いつの間にかオウマがトキから抜け出し、どこかの電柱の天辺に腰かけていたマリネッタが、手に持った水晶に語りかけると、中から声が聞こえてきた。だがマリネッタと話しているのは、水晶玉ではない。
「成る程……オウマがトキの損害は?」
「三日くらい営業出来ないかも。でも皆無事よ。フロートがアンコを助ける為に黄泉の世界に行ってしまったけれど。少なくともピオーネは無事」
「あの子が無事なら……しかし、姉がいなくなるのはこまりますねぇ…いくらでも替えのきく"パティシエごとき"はともかく」
「……そう。補充でもする?妹を」
電話相手の言葉に少しだけ黙ってから、マリネッタは言う。
マリネッタが座っている電柱の前を、青い髪をポニーテールにした女の子が走り抜けていったのだ。気が強そうで、フロートの代わりになりそうだ。
マリネッタはその子がピオーネと笑いあってる様子を想像して、舌舐めずりする。
「なんとなく良さそうな人間がいるわよ」
「フロートさんが失敗しましたら。取り合えず、あなたは現状維持に努めて下さい。手伝ってくれますよね?」
気の無さそうな返事に、マリネッタは鼻を鳴らした。
「了解、猿夢」
水晶玉の輝きが消えた。
「よっと」
のじゃロリ猫は青空町のある空き地へとやって来ていた。
目の前には黒くボヤけた影がある。影には頭に一対、背中に一対の翼が生えていた。
「おぬし、やはり逃げておったか」
のじゃロリ猫の声に、影が動く。こちらを向いたのだと、のじゃロリ猫は思った。
「なんでいんの?」
アンコに似ているが、少し低い声が、不満を露にする。
のじゃロリ猫は軽く笑った。
「いやぁ、おぬしの事が気になったのでなぁ、気配を追ってきたわ」
「アタシはアンコじゃないけどね」
「わしはおぬしに用があるのじゃ」
影は黙ってのじゃロリ猫を眺めてから、笑うような音を立てた。
「おぬし、人を食べても罪悪感無さそうじゃな?」
「あるわけ無いじゃん。ただの食料に」
影は吐き捨てるように言う。アンコの身体を乗っ取っていた時とは違い、その声色は酷く冷ややかなものだった。
「アタシは出された飯を食べただけ。それなのにあの女はアタシをココロの奥底に閉じ込めたのよ」
影の身体が短くなり、伸びた。
アナザーアンコの能力である"プレデター"だとのじゃロリ猫は感知する。そして思った。先程オウマがトキに現れたアナザーは、アンコの影響を少なからず受けていたのだと。今対峙しているこれが、本当のこいつの性格なのだと。
影は想いの大きさと同じくらい、声を張り上げた。
「アタシは!アタシは自由に生きるんだ!この想いは誰にも止めさせない!もう追わせない!あんたを殺して、アタシはこの場所から逃げる!自由になるんだ!」
影が、いや、アナザーアンコが、細い影の状態になったプレデターを、地面に叩き付けた。
土埃が舞い、のじゃロリ猫の視界を奪う。
四枚の翼がはためき、鋭い爪の生えた脚でのじゃロリ猫の肩を掴んだ。
「話を聞けよ…」
のじゃロリ猫はそう呟くと、アナザーアンコの攻撃に身を委ねた。
アナザーは脚に力を込め、空高くへのじゃロリ猫を飛ばした。
空を飛ぶのじゃロリ猫の身体が、急に止まった。それと同時に、アナザーアンコが息を詰まらせるような音を立てた。
「ガッ?!」
アナザーアンコの首に、赤い布が巻き付いていたのだ。
「よっと!」
のじゃロリ猫が身を捻り、怯んだアナザーアンコに向けて全速力で突っ込んだ。
勢いのまま、アナザーアンコに馬乗りになる。
「離せよ!」
「ん~嫌じゃ♥️」
のじゃロリ猫は見上げるアナザーを見て、ニヤリとした。
「ざけんな!」
アナザーが足をバタバタさせて腕を振り回した。
「でもなぁ」
アナザーの身体で蠢いていた細く黒い筋を掴んだ。プレデターが、唸り声を上げながら消えた。
「おぬし、ちょっとわしと話さんか?」
「アタシを見ない奴らの話しなんか聞かない!」
アナザーは子供が我が儘を言って喚くような口調だった。
「アタシだってあの子のように喫茶店で働いてみたかったのに。声をかけても気味悪がられるし、ラビリンスでは襲われるし、思った事を言っても嫌な顔されるし……」
気が付くと、黒い影の顔に当たる部分から、白い光が漏れていた。
「もしお前が、お前としてあの喫茶にいる事だけが望みなら、わしにしてやれることはある」
涙のような光の筋は、影の顔を塗らし、まるで炭を落とすかのように、影からアンコに似た顔が浮かび上がった。
影は、目を閉じて言った。
「アタシを人を食べるわ」
「それがどうした?わしも食うぞ」 影は目を開けた。翼や胸が明るくなっていた。
「アタシはオウマがトキをボロボロにしたわ」
「直すところを責任をもって手伝えばいい」
影は顔を反らした。だとしてもどうせ……
「……皆あの子しか見ないわよ…」
「それはないんじゃないかのぉ」
のじゃロリ猫は馬乗りになったまま頭を掻いた。
「アンコしか見なかったのは、おぬしがアンコの身体を乗っ取っていたからじゃ。今は違うじゃろ?おぬしはアンコに似た、ただの女の子じゃ」
アナザーは手のひらを見た。確かに、女の子の身体になっていた。
「立ってみ?」
いつの間にかどいていたのじゃロリ猫が、手を指し伸ばしてきた。
アナザーは恐る恐る、その手を取る。
「お~いマリネッタ!おるんじゃろおぬし!」
アナザーにニヤッと笑って見せてから、辺りを見渡し、声を張り上げる。
「あら、気が付いてたの」
マリネッタはそう言いながらも、特に驚いた様子は無かった。
「はじめまして、えっと名前は……まあいいわ。私はマリネッタ。あなたは……ちょっと変ね」
マリネッタが魔法なのか、どこからか大きな姿見を取り出し、アナザーに見せた。
アナザーの身はアンコに似つつも、少し違っていた。髪はボサボサ、身体もいびつに歪んでおり、そして、所々黒い影が残って、アナザーの身体の中を渦巻いている。
「皆の輪に入るなら、先ず身体を整えないとね」
「名前も考えねばならんのぉ」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
アナザーは目を見張り、二人を困惑げに見つめた。
「アタシ、頼んでないんだけど?なんでそんなにするわけ?」
二人は顔を見合わせ、声をハモらせた。
「きまぐれの暇潰し♥️」
この言葉、アンコなら顔をしかめるだろう。だが、もう彼女はアンコではなかった。
「なにそれ、変なの」
少女は口ではそう言いながらも、嬉しそうに笑った。
のじゃロリ猫は青空町のある空き地へとやって来ていた。
目の前には黒くボヤけた影がある。影には頭に一対、背中に一対の翼が生えていた。
「おぬし、やはり逃げておったか」
のじゃロリ猫の声に、影が動く。こちらを向いたのだと、のじゃロリ猫は思った。
「なんでいんの?」
アンコに似ているが、少し低い声が、不満を露にする。
のじゃロリ猫は軽く笑った。
「いやぁ、おぬしの事が気になったのでなぁ、気配を追ってきたわ」
「アタシはアンコじゃないけどね」
「わしはおぬしに用があるのじゃ」
影は黙ってのじゃロリ猫を眺めてから、笑うような音を立てた。
「おぬし、人を食べても罪悪感無さそうじゃな?」
「あるわけ無いじゃん。ただの食料に」
影は吐き捨てるように言う。アンコの身体を乗っ取っていた時とは違い、その声色は酷く冷ややかなものだった。
「アタシは出された飯を食べただけ。それなのにあの女はアタシをココロの奥底に閉じ込めたのよ」
影の身体が短くなり、伸びた。
アナザーアンコの能力である"プレデター"だとのじゃロリ猫は感知する。そして思った。先程オウマがトキに現れたアナザーは、アンコの影響を少なからず受けていたのだと。今対峙しているこれが、本当のこいつの性格なのだと。
影は想いの大きさと同じくらい、声を張り上げた。
「アタシは!アタシは自由に生きるんだ!この想いは誰にも止めさせない!もう追わせない!あんたを殺して、アタシはこの場所から逃げる!自由になるんだ!」
影が、いや、アナザーアンコが、細い影の状態になったプレデターを、地面に叩き付けた。
土埃が舞い、のじゃロリ猫の視界を奪う。
四枚の翼がはためき、鋭い爪の生えた脚でのじゃロリ猫の肩を掴んだ。
「話を聞けよ…」
のじゃロリ猫はそう呟くと、アナザーアンコの攻撃に身を委ねた。
アナザーは脚に力を込め、空高くへのじゃロリ猫を飛ばした。
空を飛ぶのじゃロリ猫の身体が、急に止まった。それと同時に、アナザーアンコが息を詰まらせるような音を立てた。
「ガッ?!」
アナザーアンコの首に、赤い布が巻き付いていたのだ。
「よっと!」
のじゃロリ猫が身を捻り、怯んだアナザーアンコに向けて全速力で突っ込んだ。
勢いのまま、アナザーアンコに馬乗りになる。
「離せよ!」
「ん~嫌じゃ♥️」
のじゃロリ猫は見上げるアナザーを見て、ニヤリとした。
「ざけんな!」
アナザーが足をバタバタさせて腕を振り回した。
「でもなぁ」
アナザーの身体で蠢いていた細く黒い筋を掴んだ。プレデターが、唸り声を上げながら消えた。
「おぬし、ちょっとわしと話さんか?」
「アタシを見ない奴らの話しなんか聞かない!」
アナザーは子供が我が儘を言って喚くような口調だった。
「アタシだってあの子のように喫茶店で働いてみたかったのに。声をかけても気味悪がられるし、ラビリンスでは襲われるし、思った事を言っても嫌な顔されるし……」
気が付くと、黒い影の顔に当たる部分から、白い光が漏れていた。
「もしお前が、お前としてあの喫茶にいる事だけが望みなら、わしにしてやれることはある」
涙のような光の筋は、影の顔を塗らし、まるで炭を落とすかのように、影からアンコに似た顔が浮かび上がった。
影は、目を閉じて言った。
「アタシを人を食べるわ」
「それがどうした?わしも食うぞ」 影は目を開けた。翼や胸が明るくなっていた。
「アタシはオウマがトキをボロボロにしたわ」
「直すところを責任をもって手伝えばいい」
影は顔を反らした。だとしてもどうせ……
「……皆あの子しか見ないわよ…」
「それはないんじゃないかのぉ」
のじゃロリ猫は馬乗りになったまま頭を掻いた。
「アンコしか見なかったのは、おぬしがアンコの身体を乗っ取っていたからじゃ。今は違うじゃろ?おぬしはアンコに似た、ただの女の子じゃ」
アナザーは手のひらを見た。確かに、女の子の身体になっていた。
「立ってみ?」
いつの間にかどいていたのじゃロリ猫が、手を指し伸ばしてきた。
アナザーは恐る恐る、その手を取る。
「お~いマリネッタ!おるんじゃろおぬし!」
アナザーにニヤッと笑って見せてから、辺りを見渡し、声を張り上げる。
「あら、気が付いてたの」
マリネッタはそう言いながらも、特に驚いた様子は無かった。
「はじめまして、えっと名前は……まあいいわ。私はマリネッタ。あなたは……ちょっと変ね」
マリネッタが魔法なのか、どこからか大きな姿見を取り出し、アナザーに見せた。
アナザーの身はアンコに似つつも、少し違っていた。髪はボサボサ、身体もいびつに歪んでおり、そして、所々黒い影が残って、アナザーの身体の中を渦巻いている。
「皆の輪に入るなら、先ず身体を整えないとね」
「名前も考えねばならんのぉ」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
アナザーは目を見張り、二人を困惑げに見つめた。
「アタシ、頼んでないんだけど?なんでそんなにするわけ?」
二人は顔を見合わせ、声をハモらせた。
「きまぐれの暇潰し♥️」
この言葉、アンコなら顔をしかめるだろう。だが、もう彼女はアンコではなかった。
「なにそれ、変なの」
少女は口ではそう言いながらも、嬉しそうに笑った。
「どこまで歩くのかしら?」
フロートは足を動かし続けながら呟いた。独り言だった。
「何も見えないし……」
視界は黒く塗り潰されている。
もう数時間は歩いた気がする。
「あら、何か明るくなったわね」
フロートは明るい方へ向けて走った。
黒一色だった景色が、突然いろ鮮やかな野原に変わる。フロートは目を瞑った。ずっと真っ黒だったから、目が痛い。目をしばたたかせ、ゆっくりと歩いた。
「あ……」
大きな木の根本に、座り込む影が見えた。あれはまさしく……。
「アンコ!」
フロートはアンコの元へ駆け寄る。アンコは暗い顔を上げた。自分の元へ駆け寄ってくる水色の少女を眺めている。
「随分探したのよ」
アンコは信じられないような顔で立ち上がった。
「どうして……?」
絞り出された声は、か細く掠れている。
「どうしてこんなとこまで来るの……?私みたいな、酷いやつなんかの為に……」
自嘲気味に呟くアンコに、フロートは考える前に手を出した。
ビタン!と言う音が穏やかな野原に響く。
「……?!?!」
何故ビンタされたのか分からず、目を白黒にさせるアンコに、フロートは言った。
「アンコ、あんたねぇ……」
フロートはアンコの両肩を両手で掴んで叫ぶように伝える。自分の想いを。
「私はあんたが好き!皆もあんたが好きなの!だから迎えに来たのよ!」
「フロートさん……」
アンコはかつていた友達と、その末路を思い出して、目を伏せる……。
「でも……」
そんな時、アンコでもフロートでもない、幼い声が野原に降ってきた。
「ナーシャ……ナーシャ……」
その声に、アンコはバッと反応する。
「そ、その声はナツメグ?そこにいるの?何にも見えないよ……!」
ナツメグはそれには何も答えず、こう語りかけた。
「生き返って、私達の為に」
ナツメグの言葉に、アンコは目を丸くする。
「あの喫茶店には、あなたが必要。あなただからこそ、必要なの」
「でも、私はあなた達を……」
「後悔しているなら、私達の分まで生きて……私達を糧にして、生きて。生きて、生き抜いて。そして死んだら、絶対姿を見せるから」
アンコはその言葉を噛み締め、やがて頷いた。
「……分かった。私、生きるよ」
野原のどこかに向けて笑いかける。その顔は、とても晴れやかなものだった。涙がボロボロとこぼれている以外は。
「どんなに不自由でも、孤独でも、生きて見せるよ……!それが私にとっての、贖罪になるなら……!」
アンコは目元の涙をぬぐい、迎えに来てくれた大切な人の名前を呼ぶ。
「フロートさん!」
「ええ」
二人の声が野原に響く。フロートの胸ポケットに入っていた宝石が輝いた。
「戻ろう!オウマがトキに!」
フロートは足を動かし続けながら呟いた。独り言だった。
「何も見えないし……」
視界は黒く塗り潰されている。
もう数時間は歩いた気がする。
「あら、何か明るくなったわね」
フロートは明るい方へ向けて走った。
黒一色だった景色が、突然いろ鮮やかな野原に変わる。フロートは目を瞑った。ずっと真っ黒だったから、目が痛い。目をしばたたかせ、ゆっくりと歩いた。
「あ……」
大きな木の根本に、座り込む影が見えた。あれはまさしく……。
「アンコ!」
フロートはアンコの元へ駆け寄る。アンコは暗い顔を上げた。自分の元へ駆け寄ってくる水色の少女を眺めている。
「随分探したのよ」
アンコは信じられないような顔で立ち上がった。
「どうして……?」
絞り出された声は、か細く掠れている。
「どうしてこんなとこまで来るの……?私みたいな、酷いやつなんかの為に……」
自嘲気味に呟くアンコに、フロートは考える前に手を出した。
ビタン!と言う音が穏やかな野原に響く。
「……?!?!」
何故ビンタされたのか分からず、目を白黒にさせるアンコに、フロートは言った。
「アンコ、あんたねぇ……」
フロートはアンコの両肩を両手で掴んで叫ぶように伝える。自分の想いを。
「私はあんたが好き!皆もあんたが好きなの!だから迎えに来たのよ!」
「フロートさん……」
アンコはかつていた友達と、その末路を思い出して、目を伏せる……。
「でも……」
そんな時、アンコでもフロートでもない、幼い声が野原に降ってきた。
「ナーシャ……ナーシャ……」
その声に、アンコはバッと反応する。
「そ、その声はナツメグ?そこにいるの?何にも見えないよ……!」
ナツメグはそれには何も答えず、こう語りかけた。
「生き返って、私達の為に」
ナツメグの言葉に、アンコは目を丸くする。
「あの喫茶店には、あなたが必要。あなただからこそ、必要なの」
「でも、私はあなた達を……」
「後悔しているなら、私達の分まで生きて……私達を糧にして、生きて。生きて、生き抜いて。そして死んだら、絶対姿を見せるから」
アンコはその言葉を噛み締め、やがて頷いた。
「……分かった。私、生きるよ」
野原のどこかに向けて笑いかける。その顔は、とても晴れやかなものだった。涙がボロボロとこぼれている以外は。
「どんなに不自由でも、孤独でも、生きて見せるよ……!それが私にとっての、贖罪になるなら……!」
アンコは目元の涙をぬぐい、迎えに来てくれた大切な人の名前を呼ぶ。
「フロートさん!」
「ええ」
二人の声が野原に響く。フロートの胸ポケットに入っていた宝石が輝いた。
「戻ろう!オウマがトキに!」