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GEARS 最終話後編.5話

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irisjoker

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だれでも歓迎! 編集
時は統合歴330年12月31日。まだ守屋一刀が異界で義兄(当時はまだ予定)と共闘していた頃まで遡る。
当たり前だが、そんな事が公表される筈も無く、何の根拠も無い手前勝手な憶測ばかりが飛び交っていた。
薄暗い格納庫の中では、完全に整備されたアイリス・ジョーカーの装甲から哀愁の漂う輝きが放たれている。
統合歴330年度になってから9ヶ月。この間、八坂高校のアイリス・ジョーカーは一度も試合を行っていない。
イベントがある度、有り得ない損傷を負って戻ってくるアイリス・ジョーカーの整備に泣かされる事も無い。

霧坂茜華は2年生になりレギュラーメンバー入り、専属ギアは高機動型スポーツギア、スカーレット。
あらゆる意味で最強だった加賀屋望から受け継がれた機体だ。
他のレギュラーは既に専属機を任されており、昨年の文化祭で行われたシミュレーターマシンを使ったバトルロイヤルで
霧坂には、あの加賀屋の猛追から完全に逃げ切ったという実績がある。
逃げ切った直後に加賀屋諸共、守屋から斬られ、内田から撃たれ、仲良く撃墜しているのはご愛嬌。
何はともあれ、周囲の状況が見えなくなるまで加賀屋を攻めに専心させたという事は、ある意味で途轍も無い実績と言える。
だから、彼女がスカーレットの次期専属パイロットに選ばれるのは、当然と言えば当然の事だった。

霧坂茜華は2年生になり、加賀屋望からスカーレットを受け継いだ。
小野寺織は3年生になり、加賀屋望から部長の立場を受け継いだ。
では、加賀屋望は? 八坂高校は3年制高校なので4年生にはならない。
加賀屋望は成績優秀。体育を除く全教科トップ。但し、夏に限り、体育もトップ。
要は優等生なのだ。面白くない話だが、彼が留年する事はありえない事なのである。
3年生の次は卒業。八坂高校には、もう加賀屋望という生徒は在籍していない。

だから、スポーツギア部のメンバーは守屋一刀も、加賀屋望もいない八坂高校に何と無く退屈な物を感じていた。


~補完しなきゃいけないと思いつつ、すっかり忘れていたわけじゃないけど、いい機会なので語っちゃおう系のお話~


黙っていても時は進む。待ちに待っていたわけでも無いが、気が付けば年末。
州大会も無事に終わり、後は来年の全国大会で前年度の消化不良な雪辱を晴らし、憂いも無く卒業という予定だ。
この私、小野寺織は他校の友人――宋銭高校スポーツギア部部長、矢神玲と2人で、年越し祭に訪れていた。

今代の八坂州で最強の選手と言えば、八坂高校の小野寺。宋銭高校の矢神と言われる程。
実際の戦績は、非公式戦で1982戦857勝1056敗69分。公式戦で2戦0勝2敗。残念ながら力及ばずと言う奴だ。
彼と公式戦で対戦するのは今年が初めて。それもこれも、守屋が復帰しないのが悪い……とは言えんが、奴が原因で、彼が退屈していたのは事実だ。
其処で、彼に立塞がる壁役でもやってやろうと、一肌脱いだら、この様である。

それはさて置き、新年を迎えるまで後数時間。年越しに相応しい装いをして異性と二人で祭に出かける。
そんな今の状況を客観視すると何処から如何見ても立派な逢引である。だと言うのにも関わらず、浮ついた気になれないのは如何いう事か。

私と彼の関係は良好と言って良い。共に技を磨き、聖誕祭のみならず多くの行事を二人きりで過ごして来た。
誕生日を祝った事もある。祝ってもらった事もある。だが、私と彼の関係はあくまでも友人――そう友人なのである。
行事ごとは勿論の事、日常生活でも大抵は二人きりだというにも関わらずだ。

腹の立つ事に何処から如何見ても逢引にしか見えないのに、逢引に見られた事は、ただの一度も無い。
迷子の小学生の道案内をしている親切な矢神玲。小学生の妹を連れ立ち遊んであげている親切な矢神玲。
態々、懇切丁寧に説明する必要があるだろうから、注釈を入れるが小学生と評されているのが私だ。
私は高3だ。8月で18になった。小学生などと評される謂れなど、決して、何処にも、無い、筈、だ。

確かに身長は高校三年生の平均身長以下で、体重もそれ相応。胸は……煩い。黙れ。死ね。
霧坂に半分とまでは言わないが、三分の一くらい分けて貰いたいくらいだ。正直、アレは反則だと思う。

「難しい顔して、どうしたんだ? 型抜きでもやりたいのか?」

何と無く腹が立ったので、殴り易い位置にある彼の水月に打撃を叩き込んで黙らせる。
そもそも、だ。私の肩の位置よりも、彼の水月のある位置の方が若干上という時点で、相当な身長差がある事は誰の眼にも明らか。
平均身長よりも若干。多少、低い私と、平均身長よりも高い彼が並べば、兄妹に見えても仕方が無いと言えば、仕方が無いかも知れない。
つまり、私が小学生に見えると言うのは、所謂、眼の錯覚。錯覚なのだ。誠に遺憾だが、彼の背が高いのが良くない。私は何も悪く無い。

そもそもだ。身長が高い方が良いなどと言うが、彼は高過ぎだ。
正直、歩きながら喋る時などは、真上を向きながら喋っているようなもので、長話になると首が辛くて適わない。
矢神玲の身長など百六十程度に縮んでしまえば良いのだ。縮んでも百六十か……全くもってふざけた身長だ。

「えーと……学業祈願、学業祈願っとー……」

何が気に食わないかと言うと……いや、別に気に食わないわけでは無いんだ。
「ちょっと祭場に行くんだが、一緒に来ないか?」と誘われた事に浮かれて、めかし込んでみたものの蓋を開けてみれば何の事は無い。
この男は、ただ単に学業祈願の御守が欲しいから此処に来ただけなのだ。
何故、祭に来たのかと言えば、御守が欲しいと思った日に丁度、祭をやっていたから。それ以上でも、それ以下でも無い。
私を誘ったのは、ただ傍にいたから。多分。まあ、うん。何だかな。気に食わないわけじゃないが釈然としないわけだ。

別に逢引とか浮ついた理由で年越しの祭に来たわけでは無い。矢神玲、彼の学業祈願のお守りを買うために来た。ただそれだけだ。
今日が年末で、後数時間で新年。まあ、彼にとってみれば、だから何なのかという話になる。少なくとも去年の年越しは、そうだった。
後数ヶ月で卒業。私も八坂州に留まる理由も無くなる。順当に考えれば砕牙州に戻る事になり、来年からは歩む道も別々になる。

――気に入らない。

「おー、あったあった」

ついでに言えば、彼の呑気な調子も今は腹立たしい。まあ、そうだな。友人でしか無いのだからな。
どうでも良いが、何故、彼が学業祈願の御守を欲しているのかと言うと、プロスポーツギアの選手になるためのライセンス取得。
その筆記試験対策。この男は事もあろうに、足りない学力を御守で補おうとしているのだ。全く持って馬鹿な話だ。

「折角だし、織も持ってけよ」

何故か矢神が私の目の前に御守を向けている。

「健康……祈願?」

「最近、一緒にいても心此処にあらずって感じだったろ? だから、ほれ」

そう言って、彼は私の手を取り、御守を握らせた。何と無く、このまま手を離したくない。
そして、誰が一番馬鹿なのかと言われたら、間違いなく私だ。この愚鈍な男よりもだ。
黙っていても時は進む。卒業まで後三ヶ月。もう時間も無いのに私と、彼の関係は友人。
毎日一緒にいるのにだ。一緒でない時もあるが……そんな生活が始まって、もう一年と半年くらいになるのだろうか。

「すまん。変に気を使わせたな。私は大丈夫だ。問題は、無い」

切欠は多分忘れた。気が付いた時には恋に落ちていた。
最初の内は何でも無かった。隣に居るのが当たり前だったからだ。でも、最近は駄目だ。取るべき行動が、正しい言動が、何も分からない。
想いは膨らむばかり、時は進むばかり、焦りは募るばかり。暗愚な自分の頭が嫌になる。

「そうか? だったら良いんだけどな。何かあったら力になるからさ、すぐに言えよ?」

当たり前の様に側にいるのに、好いているのに、会話が弾まない。言葉が出てこない。

「何かあると織はすぐにダンマリだからなぁ。少しは俺を頼れよな」

原因は全て私だ。どの様な言葉を紡げば彼に好かれるのかが分からない。
恋愛小説の登場人物の様な共感を与える言葉が、好意を抱かれるに相応しい言葉が分からない。
最近、まともに彼と会話が出来ていない気がする。

「ん……ああ」

お慕いしていますの一言でも言えば、言えれば、言えない。そんな一言で道が開ける筈が無い。
私が紡ごうと思い浮かぶ言葉のどれもこれもが間違っているのは分かるのに、正しい言葉が分からない。


「きつい……な」

「きついって、やっぱり、ムリしていたんじゃねぇか!」

「あ……いや、そうじゃないんだ」

ふと出た言葉が彼に誤解を与えてしまった。怒っているような心配しているような声と表情。違うんだ。

「きついのは身体じゃないんだ」

「何か心配事か?」

しゃがみ込んだ彼と視線が重なる。何を言えば良い。何を。どの言葉が相応しいのか、正解なのかが分からない。
間違った言葉を紡いで彼が離れてしまうかも知れない。でも、何も言わないまま離れ離れになって関係が終わるのも嫌だ。
私が言うべき言葉は一体、何なんだ? どうすれば道が開ける? 考えろ。小野寺織。正答を引き出せ……!

「何かあったのか?」

彼は神妙そうな顔付きで、私の頬を撫で、指が目元に触れる。まるで涙を拭う様に。

「泣きたくなる程、嫌な事でもあったのか?」

「泣く……?」

ああ、私は泣いていたのか。言いたい言葉も分からず、惚れた男の前で泣き顔を晒すとは何たる無様。最悪だ。

「分からない。何を言えば良いのか……どう言えば、君に伝わるのかが分からない」

事実上の敗北宣言。女々しい事この上無い。いや、女だが。

「俺は織じゃねぇから何がきついのか、辛いのか言ってくれなきゃ分からん。
だけどな、泣く程、震える程、困ってるんだろ? 体裁なんて考えなくて良い。取り繕った言葉じゃなくて良い。
思ったことを端から口にして吐き出してみろって。何も難しい事じゃないだろ? それとも、俺じゃ力になれないか?」

――君じゃ無ければ意味が無いから困っているんだ!! と言えれば、どんなに楽な事か……言うのか?
まあ、そうだ。これだけ想っているのだから、黙っていても、私の気持ちに気付けなどと言うのは傲慢だ。
私達は人間だから、人間は言葉で通じる生き物だから、言わなければ何も始まりはしない。分かっている。
だが、理路整然としていない滅茶苦茶な気持ちを口にして、伝えたい気持ちが伝わらなかったらどうする!?

畜生――どうすれば、どうすれば良い? 適当な事を口にしてはぐらかすか? 泣き顔を晒しておいてどうやってはぐらかす?
考えろ――他の連中は、どうしたと言っていた?

霧坂は?

「いやー、失敗でしたよ。言葉が上手く纏まらずに告っている途中で逆ギレしちゃって……」

気持ちはよく分かる。キレはしないが泣いている真っ最中だ。

歳方は?

「あの野郎。付き合う前に押し倒してきやがった。で、ヤられてる最中に告られて……まあ、今は大切にしてくれてるから良いんだけどさ」

私もそうするか? 馬鹿か。此処は野外だぞ。後、阿部は後日蹴り倒す。

内田は?

「えー? 好きです! 付き合って下さい! ってストレートに」

これだ!!

「って、言えるかああああああああ!!」

「お、織……? ほ、本当に大丈夫か?」

「え……? あ、いや。そのなんだ? これは違うんだ! そうじゃなくて、私の言いたい事は!」

最悪だ。何を叫んでいるんだ、私は!? 何処まで醜態を晒せば良い!?
心配されているだけで無く、彼と私の心まで乖離していっている気がする……どうすれば良い?

「わ、分かった。兎に角、落ち着け。一体、どうした? 最近、様子が変だったが今日は輪をかけて変だぞ」

「変にもなる……」

言葉が続けられない。言うのか? 言って良いのか? 言ったら引き返せなくなるぞ。私の願った結末を得られるとは限らんのだぞ? それでも言えるのか?

「織は遠慮もせずに、意味不明なくらいに一方的に結論から言ってくる方が、らしくて良いと思うぞ?」

私らしいか……私らしさとはどんな物だったかも分からない。分からないが……

「私は君が好きだ。君の傍から離れたくない」

言ってしまった。この男の口車に乗って何の飾りげも、可愛げも無い、短い恋慕の言葉を――
言い訳の言葉なら山程出て来るのに、伝えるべき想いは言葉になって出て来てくれない。
たったの一言、二言では――

「悪いな」

ほら――な。彼の口から出て来る謝罪の言葉。寧ろ、謝罪すべきは私だと言うのに。私が悪いのに余計に涙が溢れそうになって――

「俺から言うべきだったよな。織、俺もお前の事が好きだ」

「え……?」

今、この男、何と言った? 俺もお前の事が好きだ? お前……と言うのは、私の事以外の誰がいるのだという話になるわけで……つまり、それは。

「ほ、本気で言っているのか、君は!?」

「当然だ」

彼は躊躇いも無く、力強く私に頷いて笑いかけてくれた。
嬉しい――嬉しいなんてものじゃない。言葉では表現が出来ない程の――

「伊達や酔狂で、小学生みたいな女を好きになったりするかよ」

――あ? 今、何と言った?

「矢神玲――君と交際する前に色々と、はっきりさせなければならない事がある。
始めに言っておくが、この私に惚れた弱みなどという言葉が通用すると思わない事だ」

何故かよく分からんが、あんな簡単な言葉で想いを届ける事が出来た。彼の想いを知る事が出来た。
望んでいた未来への道には大きな壁が立ち塞がると思っていた。でも、それは壁などでは無い。
ただ未知に対する恐れが、私の眼を曇らせていただけ。この私、小野寺織を阻める壁など存在しない。
まあ、それはどうでも良い。一応、相思相愛らしいからな。
取り合えず、人を小学生扱いしてくれた傲慢不遜な男を叩き潰すところから始めよう。
この男に言いたい事が山程ある。この男にやらねばならない事だってそうだ。

「あ、あのー織さーん? 何か、全身からドSオーラが出てるのは一体、どういう了見でせうか?」

「私を小学生扱いした事が一点。今まで君に嫌われないようにと私を必死にさせた事が一点。ついでに君の残念過ぎる学力が一点。
取り合えずだ。色々と安心したので、一回死んでくれ。泣きながら想いを伝えたというのに簡単に返答した上に小学生扱い……か、万死に値するな」

「理不尽過ぎるだろ!?」

「男だろ。それくらいの度量は見せてもらいたいものだな。君は私の恋人で、いずれは夫となる男なのだからな」

「あー、クソ! こんなんになるんだったら、適当にはぐらかして、しおらしくさせておくんだったぜ!!」

「はぐらかす? 君如きの頭で私をはぐらかせるわけが無かろう。身の程を弁えてくれ」

「もうヤダ。何なんだ、このドS小学生。いきなり元に戻りすぎだろ!?」

こんな物で済ませて堪るものか。今の今まで、この私がどれだけ心身を磨耗したと思っているのだ。
それに私は「いずれは夫となる男」と言ったのにも関わらず、この男は何事も無かったかの様に流した。
その上、懲りずに小学生呼ばわりとは……罪科二つ追加だな。
これから、どうやってこの男を愛してやろうかと思ったら……ああ、楽しいな。実に愉快極まる。

「これから色々と覚悟を決めてもらわなければならんわけだが、まずはアレだな?」

私が親指を向けた先には長方形の賽銭箱。罪の数だけ金銭をご先祖に託し、祓う浄罪の儀を行い、魂を清め新年を迎えるというわけだ。
罪といっても殺人だとか、そういう重たい罪の事では無い。それは裁判所で適切な人間に裁いてもらえば良い。
此処で言う罪というのは、私を小学生扱いした事、私に心労を与えた事、学業が残念過ぎる事。私の夫発言を流した事。
万死に値するが人間社会の法では罪にはならず、罰する事も出来ない。なので彼はご先祖の前で贖罪し、自らを罰しなければならない。

「万死に値する。よって、硬貨一万枚だな」

「勿体ねぇ!! つーか、硬貨を一万枚も持ち歩くわけねぇだろ!?」

「冗談に決まっているだろ。実に馬鹿だな、君は」

「お・ま・え・なぁぁぁぁ!! その口の悪さを懺悔して来い!! 今すぐにだ!!」

「この私が此処まで自分を曝け出すのは、君が相手の時だけだ。言わば親愛の証だ。胸を張って良いぞ」

「張れるか!! つーか、お前、本当に俺の事好きなのかよ!?」

彼の絶叫と共に新年の訪れを知らせる鐘の音が鳴り響いた。嗚呼、楽しいな。実に楽しい。

「矢神玲。私は君を愛している」

思った通り、彼は絶句して顔を紅くした。愉快極まると言うものだ。

「しかし、新年早々にこんな事を言わせるとは思った以上にアレな男だな?」

「ぐ、偶然だろ!?」

「ほう? 今年最初の言葉が愛の言葉だった事を必然では無く、偶然と? 言わせたのは君なのにか?
その様な物言いをされると私は実に悲しい。もう一度、私を泣かせたいとは、君は嗜虐趣向の持ち主か?」

「それは俺の台詞だ。何処のサド姫様だ、お前は!?」

「砕牙出身八坂高校三年スポーツギア部部長の小野寺織姫様だが何か?」

子供の屁理屈の様な回答に彼は頭を掻き毟りながら、ウガーッ!!と吼えた。
まともに張り合おうとするからそうなるのだ。愛い奴め。いやはや、新年早々愉快極まる。

「まあ、今年も一年宜しく頼む。これからは恋人としてな」

腕を絡ませ玲に引っ付き、指を絡ませると彼の掌は汗でじっとりと濡れていた。
何だ、君も照れているんじゃないか。全く持って愉快愉快。

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